酔っ払いにはご用心
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/25 20:19



■オープニング本文

 視界を桃色に染める桜の木々に、天を舞う桜花。柔らかい日差しの中、そよぐ風が春の匂いを運んで来る。
 雪解けの春。命芽吹く春。出会いと別れの季節、春。そして……。
「ギルドの皆! 今日もゴクロー…様ですっ!」
 酔っ払いが一番多い季節でもある。
 酒瓶片手に、真っ赤な顔で武天ギルドを訪れたのは、同ギルドの陣代。此隅でギルド長代理を務める者である。春の陽気で気が緩んだのか、花見を楽しんで来たのだろう。
「今日の酒は、格別だったよ! ふぁぁぁ…仮眠室、空いてるかぃ?」
 陣代の質問に、ギルド職員は苦笑いを浮かべながら頷く。フラフラとした足付きで、陣代は奥へと消えて行った。
 が、酔っ払った者が迷わず目的地に着けるワケがない。陣代も御多分に漏れず、仮眠室を通り過ぎて千鳥足のままウロウロしている。どこをどう通ったのか、相棒の飼育部屋まで迷い込んでいた。
「おぅ、お前等! タマには飲んで騒いでみるかぁ〜!?」
 お猪口に酒を注ぎ、龍に向かって差し出した。警戒するように匂いを嗅いでいたが、ゆっくりと舌を伸ばして酒を舐める。その味が気に入ったのか、お猪口が空になるまで舐め取った。
「お、イイ飲みっぷりだなぁ。お前も飲めっ!」
 同様に、迅鷹や霊騎にも酒を差し出す。数分後…酒瓶が空になる頃には、飼育部屋の相棒達も完全な酔っ払いと化していた。
「どうだ、酒はうめェだろ!」
 上機嫌が陣代。その表情が凍り付くのに、そう長い時間は必要なかった。
 龍の咆哮と、羽ばたき。そのまま壁に体当たりし、飼育小屋に大きな穴を開けた。そこを通って、相棒達が次々に町に逃げて行く。本来なら、こんな事は絶対に無いのだが、人間同様、酔って判断能力が無くなっているようだ。
 その光景を、呆然と見詰める陣代。酔いが一瞬で覚め、冷や汗が全身から噴き出している。物音に気付いて、ギルドの職員達が駆け付ける。状況を確認した彼等は、相棒捕獲のために開拓者を集めた。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
エラト(ib5623
17歳・女・吟
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
雨傘 伝質郎(ib7543
28歳・男・吟
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文

●前代未聞の珍事件
「おおお! おーちゃん! 何か朋友さんがいっぱい暴れてるよ!?」
 興奮気味に腕をブンブン振る、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。朋友の珍しい姿を見たのだから、興奮する気持ちも分かるが。
『確かに…これは騒がしいですね』
 彼女の相棒、羽妖精のオルトリンデが眉をひそめる。普段は無表情が多いが、こうして不快感を露ににすのは珍しいかもしれない。
「朋友達も酔うほどに飲んだということは、お酒を美味しいと感じたのでしょうか…ヴァルさんは飲んだらダメですよ…?」
 柊沢 霞澄(ia0067)の疑問が尤もである。朋友の好みは分からないが、自身の相棒、管狐のヴァルコイネンに軽く釘を刺した。
『むう、あれはあれで美味いのだがな』
 残念そうに頭を下げるヴァルコイネン。どうやら、飲んだ経験があるようだ。
「しかし…笑い事のようで、実のところ笑えない状況だ。私は笑うがな。ハハッ、こんなこともあるさ」
 言葉と共に、からす(ia6525)は不敵な笑みを浮かべる。歳のわりに、随分と落ち着いた少女である。
「はっはー。俺も同感だぜ。天儀の宴ってのは賑やかだな? まぁ、とっとと酔っぱらい共を引っ張って来ようや」
 声を上げて豪快に笑うのは、アルバルク(ib6635)。依頼でなければ、彼は朋友達と一緒に飲んでいたかもしれない。
「前にも似たような事があったような…これ以上、大事になる前に何とかしないと」
 目の前の光景を眺めながら、過去の依頼を思い出す、愛染 有人(ib8593)。銃を握る小さな手に、グッと力が入る。
『もう既に、大事だと思いますの…』
 彼の相棒、羽妖精の颯の的確なツッコミ。確かに、状況は惨事と言っても差し支えないだろう。
 熾弦(ib7860)の周囲を、相棒の羽妖精、風花がフワフワと舞う。桜と朋友達を交互に見比べながら、そっと口を開いた。
『お酒にお花見、楽しそう……熾弦、お仕事終わったら、私達も行こ?』
「考えておきますが、今はお仕事が最優先です。良いですね?」
 小さな子供に聞かせるように、穏やかな口調と表情で語りかける熾弦。その言葉に納得したのか、風花は頷いて彼女の肩に座った。
「早く事態を収拾しないと、被害が拡大しそうですね……皆様、作戦通りにいきましょう」
 大き目の皮袋を両手に、エラト(ib5623)がギルドから姿を現す。今の処、大きな被害は出ていないが、それも時間の問題かもしれない。
『うた、霊騎さんと鬼ごっこするの初めて!』
 菊池 志郎(ia5584)の相棒、羽妖精の天詩が、楽しそうに周囲を飛び回る。どうやら、若干何かを勘違いしているようだ。
「もう…遊びではありませんよ。鬼ごっことは…まあ、似たようなものですが」
 注意しようとした志郎だったが、言いかけた言葉を飲み込む。説明して混乱させるよりは、今の状態が良いと思ったのだろう。
「僕は眠らせる手段が無いので、サポートに回り……あれ? 伝質郎さんは?」
 決意を口にしていた御調 昴(ib5479)だったが、メンバーが一人足りない事に気が付いた。周囲を見渡すが、やはりどこにも居ない。
 当の本人がドコに行ったのかと言うと……。

●酔っ払いと20匹の朋友
「無理に追いかけりゃァ怪我人がでますぜい。酒で呼ぶのが一番だァ」
 桜並木の中、一人で酒盛りもしているのは、雨傘 伝質郎(ib7543)。樽から酒を酌んで盃に注ぎ、それを満足そうに飲み干した。
「こいつァ、いけねェ。ほれ、おめェも呑……勧めるまでもねェってやつだった」
 伝質郎は自身の相棒、駿龍の質流れに盃を差し出す。だが、相棒は既に違う樽から酒を拝借していた。
 彼等は、決して依頼をサボっているワケではない。酒の匂いで、朋友達を誘き出そうと考えているのだ。
 伝質郎の作戦を理解した9人は、依頼を解決するために行動を開始した。アルバルクは相棒の駿龍、サザーに乗り、空に舞い上がる。意識を目に集め、周囲を見渡した。
「お〜い、西の方に固まってるぞ。俺は偵察してるから、後はアンタ達に任せたぜ?」
 仲間達に状況を説明し、アルバルクは桜並木の方向に飛んで行く。エラトは集中力を研ぎ澄ませ、周囲の音に耳を傾ける。
「確かに…西の方が騒がしいですね。奏、絶対に朋友を傷付けたら駄目ですよ?」
 朋友達の居場所を把握したエラトは、自身の相棒、鷲獅鳥の奏に厳しく言い付ける。それが通じたのか、奏は頭を縦に振った。
「早速、行ってみましょう。うた、しっかり掴まっているんですよ?」
 志郎の言葉に、天詩は彼の懐に潜り込んで上着を強く握る。それを確認してから加速し、町中の物に注意しながら駆けて行った。
「1つ聞きたいんだが、町民の避難及び緊急的な外出禁止令は出したのか?」
 言葉と共に、からすが鋭い視線をギルド職員に向ける。少々怯えながらも、職員はコクコクと何度も首を振った。
 直後。開拓者達の目の前を、酔った霊騎が駆け抜ける。からすは相棒の霊騎、深影の背に飛び乗ると、後を追うように駆け出した。
「からすさん!? 風花、行きますよ!」
 熾弦の言葉に、風花は小さな手をグッと握る。そのまま、からすを追って2人は走り出した。
「僕は西の方に回りますね。出来るだけ、人気の無い場所や行き止まりに誘導します!」
 言いながら、相棒の鷲獅鳥、ケイトの背に跨る昴。5人は軽く顔を見合わせ、町の中へ散って行った。
 エラトは奏の背に乗り、昴と一緒に舞い上がる。2匹の鷲獅鳥を見付けると、広場の方に誘導した。昴が上から網を被せると、エラトがまどろみを誘う曲を奏でる。網の中で眠りに落ちた2匹を引き上げ、ギルドへ運んだ。
 移動中、酔って眠っている迅鷹を見付けた有人は、颯と一緒に朋友に語り掛ける。2人の説得が効いたのか、迅鷹は小さな鳴き声を上げてギルドの方向に飛んで行った。
「酔っ払った時の行動って、みんな大差ないですね…」
『でも、今回は絡み酒じゃないだけ、まだマシだと思いますの…』
 苦笑いを浮かべる、有人と颯。過去に受けた依頼でも、似たような事があったのだろう。
 ほぼ同時刻。アルバルクは伝質郎と合流していた。
「お、楽しそうな事してるなぁ」
 サザーの背から降り、気さくに話し掛けるアルバルク。伝質郎は口元に笑みを浮かべると、盃を差し出した。
「アルバルク様も、一緒にどうです? 桜を独占、ってヤツでさぁ」
 風で桜の花が舞い、花びらが酒の中に落ちる。春にしか味わえない、季節の風物詩というヤツだろう。
「花見で一杯、てワケか。悪くないな」
 不敵な笑みを浮かべながら、盃を受け取って腰を下ろすアルバルク。こうして、2人と2匹の酒盛りが始まった。
 その匂いと喧騒に惹かれたのか、駿龍と甲龍が2匹ずつ姿を現す。4匹の朋友が樽酒に口を付けた瞬間、質流れとサザーが甲龍2匹を押さえ付けた。その隙に、伝質郎達が縄で駿龍2匹を縛り上げる。完全に拘束した後、相棒が押さえ付けている甲龍にも縄を掛けた。
 4匹の龍が拘束された頃、町の西部に移動したメンバーは悪戦苦闘していた。駿龍に鷲獅鳥、迅鷹に霊騎が2匹ずつ、計8匹がそこに集まっていたからである。
「ここは、一網打尽にしましょう。幸い、朋友さん達の好物はギルドから調達出来ましたし」
 エラトは広場に降りると、皮袋から餌を取り出した。それを地面に並べ、再び上空に飛ぶ。入れ替わるように、周囲の朋友達が広場に殺到した。
「ヴァルさん、宜しくお願いします…」
『うむ、近づき過ぎないよう気をつけてな?』
 朋友に気付かれないよう、霞澄達がそっと距離を詰める。ヴァルコイネンは影分身して霞澄から縄を受け取ると、両端を持って鷲獅鳥に飛び掛かった。そのまま1匹の鷲獅鳥をグルグル巻きにし、縛り上げる。
「荒事にはしたくないからね、頼むよ」
『颯にお任せですの!』
 有人の言葉に従い、颯が元気良く飛び立つ。鷲獅鳥に向かって輝く砂を投げ付けると、その瞳が徐々に閉じ、眠りの底に落ちて行った。眠った鷲獅鳥を、有人が素早く縄で縛る。
 突然の事態に驚いたのか、霊騎が2匹、広場から逃げるように駆け出した。
「逃がしてあげないんだから!! でっかいはんぺん!!」
 軽く体を丸め、大の字に広げるプレシア。ほぼ同時に、霊騎達の進路に巨大な白い壁が出現して進路を塞ぐ。その隙を狙い、志郎と霞澄が網を投げた。絡まって動きが止まった処に、ヴァルコイネンと天詩が縄を巻き付ける。
 次々に捕まる仲間達を目の当りにし、残った朋友4匹が一斉に空に飛び立つ。とは言え、ヨロヨロと浮いている程度なのだが。
「ボクのおーらでがお〜!! おーちゃん、後はお願い!!」
 プレシアの叫びと共に、巨大な龍の式が空中に出現した。突然の出来事に、空中で戸惑う朋友達。更に、有人の空砲が大気を振動させ、朋友達の混乱を増加させた。
『了解しました、マスター。彼の者に安らかなる眠りを…』
 オルトリンデ光る砂を生み出し、2匹の駿龍に向かって投げ放つ。それが眠りを誘い、龍達は地面に落下した。高度が低かったのと下が芝生だったのが幸いし、朋友に怪我は無い。
 広場に残ったのは、迅鷹が2匹。その進路を塞ぐように、昴とケイトが周囲を飛び回った。昴に注意が向いている間に、エラトの歌声が周囲に響く。ゆったりとした曲が眠気を誘い、迅鷹を眠りの底に落とした。
 芝生に落ちた朋友に、霞が駆け寄って縄を掛ける。
『霞澄、後ろだ!』
 彼女の耳に響く、ヴァルコイネンの声。咄嗟に振り向いた時、物陰から1匹の迅鷹が低空飛行で迫っていた。彼女を攻撃しようとしているワケではないが、運悪く進路上に重なってしまったのだろう。
 次の瞬間、一陣の風が吹く。加速した志郎が、朋友と霞澄の間に割って入ったのだ。素早く網を投げると、虚を突かれた迅鷹の動きが止まる。次いで、天詩が黒い布で朋友の頭部を覆うと、怯えたように大人しくなって地面に降りた。
『あはは、捕まえたー♪』
 嬉しそうに笑顔を浮かべ、志郎と一緒に朋友を縄で縛り上げる天詩。2人の信頼関係があってこそ出来る、見事な連携である。
「ありがとうございます、志郎さん。陰に隠れた朋友に、気付けませんでした……」
 天詩とは対照的に、霞澄の表情は暗い。不意打ちに気付けなかったのが、相当ショックなのだろう。そんな彼女の肩を、志郎がそっと叩く。
「大した事はしていませんよ。さぁ、次に行きましょうか?」
 そう言って、優しく微笑む志郎。釣られたように霞澄もそっと微笑み、広場を後にした。
「ケイト、もうひと頑張り……って、悪いと思ってるんだから凄まないでー!? 」
 相棒の頭を撫でながら、怯えた声を上げる昴。実際、ケイトは凄んでいないのだが。大きく息を吐く姿は『やれやれ』と言いたそうである。
 ここまで捕まえた朋友の数は、16匹。残り4匹は、町の東側に集中していた。そこに居るのは、霊騎が2匹に迅鷹と鷲獅鳥が1匹ずつ。
「どうどう、落ち着いて」
 深影に騎乗して併走しながら、逃げた霊騎を宥めるからす。だが、こちらの言葉を聞く様子は無く、止まる素振りは微塵も見せない。その態度に業を煮やしたのか、からすは朋友の背に飛び移り、強引に落ち着かせた。
『そんなに暴れたら駄目! イイコだから、大人しくして。ね?』
 魅力的な投げキッスと共に言葉を掛ける風花だったが、迅鷹は止まらない。仕方なく輝く砂を投げ付け、眠らせて大人しくさせた。熾弦は縄を取り出し、眠った朋友を縛る。
「これで何体目かな……数を間違えたら大変だけど、今は目の前の事に集中しないと…!」
 気合を入れ直し、熾弦は愛の詩を奏でた。素朴ながらも情熱的な曲が鷲獅鳥の心に響いたのか、彼女に懐くように頬を寄せて来た。
「よし、いい子だ」
 からすと深影が、2匹目の霊騎に語り掛ける。様子を見る限り、説得が成功したようだ。大人しくなった2匹の霊騎を引き連れ、からすはギルドの方向に進んで行った。

●最後の後始末
 捕えた朋友を連れ、ギルドに戻って来た開拓者達。20匹全て捕まえた事を知ると、全員の顔に笑みが零れた。
「全て捕獲できたか。皆、お疲れ様だったな。深影もな」
 からすが全員に労いの言葉を掛ける。深影には水を与え、首から頭にかけて優しく撫でた。
「それにしても…凄い状況ですね。お掃除した方が良さそうです」
 軽く苦笑いを浮かべながら、周囲を見渡す霞澄。酔っ払った朋友達のせいで、町中は相当に荒れていた。
『うむ、及ばずながら、私も手を貸そう』
 霞澄の考えに賛同し、ヴァルコイネンは彼女の肩に飛び乗る。
「これだけの騒ぎだったのに、怪我人が出なかったのは不幸中の幸いですね」
『朋友さん達も無事で良かったね♪』
 志郎と天詩の言う通り、町人も朋友達も怪我を負っていない。それは、彼等10人と相棒達の活躍あっての事だろう。
「よぉ〜し、終わったね〜! って、朋友さん達、ものすごくお酒くちゃいの〜!!」
 元気良く体を伸ばしたプレシアが、顔を歪めながら鼻を摘む。酔いの程度は違うが、飲酒したのだから酒臭いのは仕方ない。
「朋友さん以外にも、お酒臭い方が2名居ますけどね…」
 エラトは苦笑いを浮かべながら、視線をギルドの壁際に移す。彼女が言っているのは、誘き出し作戦をしていた2人の事だ。
「ちょっとばかし飲み過ぎやしたね……アルバルク様、大丈夫ですかぃ?」
 真っ赤な顔で苦笑しながら、伝質郎は壁に寄り掛かっているアルバルクに声を掛ける。
「あぁ…? 酒飲んで酔っ払ったんだから、俺ぁ正常だろ? なぁ、サザー?」
 意味不明な事を口走りながら、相棒の頭を撫でるアルバルク。酔いつぶれた彼をここまで運んだのは、サザーである。
 その様子に、全員が軽く溜息を吐いた。
『マスター、あんな大人になっては駄目ですよ?』
 プレシアに向かって、オルトリンデが念を押す。酒臭いのが気になる彼女なら、大丈夫な気はするが。
「伝質郎君。責任持って、彼を介抱して下さいね? 私達は、町の掃除をしますから」
 笑顔で話す熾弦だが、目が笑っていないため、怖い事この上ない。伝質郎の酔いも、一気に醒めそうである。
『それが終わったら、風花とお花見だからね!』
 甘えるような声で熾弦に話し掛ける風花。熾弦は言葉を返す代わりに、頭をそっと撫でた。
『お花見……ねぇねぇ、颯達も行きませんか?』
「駄目ですよ。町の掃除が先です。良いですね?」
 有人の肩に座り、小さな子供のようにオネダリする颯。有人は厳しい言葉を返したが『駄目』とは言っていない。恐らく、掃除の後で花見に連れて行く気なのだろう。
「では、手分けして作業を始めましょうか。日が暮れる前に、終わしてしまいましょう」
 昴の言葉に全員が頷き、ギルド職員から掃除用具を受け取る。そのまま、8人は町に散らばって行った。その背中を見守るケイトと奏の瞳は、少し寂しそうに見えた。