|
■オープニング本文 「諸君、寺子屋にようこそ。これから、一緒に勉学に励もう!」 教壇に立ち、門下生達に演説する講師。ここに集まっているのは、今年入塾した子供達ばかりである。全員が不安と期待を胸に、目を輝かせている。 「まずは……自己紹介から始めようか!」 講師の言葉に、門下生達が楽しそうにザワザワと騒ぎ始めた。 直後、そのざわめきは不安に変わる。大地を振るわせる、不穏な震動。それが、徐々に寺子屋に近付いて来る。 「きゃ〜〜〜〜〜!!」 室内に響く、少女の叫び声。その視線の先では、熊の群れが寺子屋の庭に雪崩れ込んでいた。 「みんな、落ち着け! ここを動くんじゃないぞ!? 絶対に窓は開けるな!」 そう叫んで、講師は廊下を走る。入り口や窓を素早く閉め、侵入を防ぐように机や椅子を積み上げた。 作業を終えて戻った時、新入生の子供達は泣きながら彼に飛びついて来た。 「センセ〜〜〜!!」 「僕達、食べられちゃうの!?」 恐怖は一瞬で子供達を飲み込み、心を塗り潰す。仮に成人だとしても、この状況で平静を保つのは至難の業だろう。 幸か不幸か、熊達は周囲の菜園や飼育小屋の動物に狙いを定めたため、人的被害は出ていない。満腹になったのか、寺子屋の周囲で眠り始める熊達。だが…奴等が空腹で目を覚ましたら、子供達や講師が被害に遭う可能性が高いだろう。寝ている隙に逃げようにも、囲まれた今の状況では危険の方が多い。 風の噂で寺子屋の状況を聞いた開拓者達は、講師や子供達を救うために駆け出した。 |
■参加者一覧
山羊座(ib6903)
23歳・男・騎
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
双子座(ib9048)
25歳・男・砲
蟹座(ib9116)
23歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●星座の行軍 「少年達が熊に襲われ、生命の危機に瀕している、か。フフ…我にふさわしい活躍の場であるな!」 ギルドで依頼書に目を通しながら、興奮気味に声を上げる双子座(ib9048)。周囲の視線が集中しているが、そんなものは完全に無視している。 「子供たちが!? たーいへんって…このメンバーで大丈夫かなぁ…」 同行する仲間達を見渡しながら、魚座(ib7012)は不安そうな表情を浮かべた。能力的に問題があるのか、性格的に問題があるのかは定かではないが、他のメンバーがそれを知ったら『お前には言われたくない』とツッコまれそうである。 「ケッ…餓鬼がどーしたってェ? 俺ぁ関係ねーよっ! ったく、双子座の奴、変な気ぃ起こしやがって…」 しゃがみながら、不機嫌そうに愚痴を零す蟹座(ib9116)。上司である双子座の命令で強制参加させられたため、彼自身は不服で仕方ないのだ。 「そのくらいにしておけ、蟹座。双子座に聞かれたら、後で面倒だ」 言いながら、山羊座(ib6903)は苦笑いを浮かべる。上司に逆らったらどうなるか、身に染みているのだろう。当の双子座は、こちらの言葉が全く届いていない様子だが。 「さぁ…行くぞ、皆の者! 我がカッコ良く活躍するためにな!」 仲間達に視線を向け、檄を飛ばす。本音がボロボロと漏れまくりだが、そこはツッコんだら負けである。 「へいへい……俺達は露払いをさせて頂きますですよ」 気怠そうに立ち上がり、後頭部を掻く蟹座。口調が無駄に丁寧なのは、彼なりのイヤミだろう。 双子座はそれを気にせず、ギルドから出て行く。後を追うように、他の3人も続いて外に出た。魚座は山羊座の腕を軽く引き、前を行く2人に聞こえないように小声で話し掛ける。 「もしかして双子座……依頼の目的を忘れてない?」 「いつもの事だ。今更、気にする事でも無いだろ?」 山羊座の言葉に、妙に納得した魚座。そのまま、4人は寺子屋に続く道を駆けていった。 ●侵入と討伐 太陽が天高く昇る頃、開拓者達は寺子屋の様子が見える距離まで来ていた。眼前に広がっているのは、庭で大勢の熊が寝ている、という現実離れした光景。情報は聞いていたが、流石に目の当りにすると驚きを隠せないようだ。 「とにかく 寺子屋の子達の安全を…山羊座にーさん、イザって時はお願いして良いかな?」 「あぁ…子供達の事は、お前に任せて良いんだな?」 魚座が重々しく頷くと、4人は顔を見合わせて静かに頷く。寝ている熊を起こさないよう、魚座は静かに寺子屋に近付いた。入口を力任せにブチ破って侵入し、石壁を召喚して出入りを防ぐ。 それを確認し、残り3人は静かに熊に近付いた。兵装を構え、対象を射程距離内に収める。 双子座は熊の眉間に銃を突き付け、引き金を引いた。周囲に、乾いた銃声が響く。熊が暴れるより早く、照準を心臓に向けて2発目。その銃撃で、熊は力尽きて地に伏した。 だが、銃声が周囲に響いたため、残り9匹が目を覚ます。 「神聖なる学び舎で惰眠を貪り、純真無垢な子供達を恐怖の底に陥れるとは、言語道断! 天に代わって、我らが裁きを下してくれよう!」 熊達に向かって口上を叫ぶ双子座。彼の希望通りカッコ良い活躍ではあるが……物陰に移動しながらでは、若干決まらない。 「人助けに興味はねぇが、双子座様の命令とあらば走って現場に到着! ってか?」 「ぅおおおおおおおおお!!!」 蟹座と山羊座が注意を引くように、大声を上げながら兵装を振り回す。蟹座の斧が熊を豪快に両断し、大地を濡らす。山羊座は槍の柄で熊を牽制し、大きく踏み込んで眉間に穂先を突き立てた。 「オラオラオラオラァ! 惨殺タイムの始まりだぁ〜♪」 熊の返り血で頬を濡らしながら、嬉々として斧を振るう蟹座。刃が熊の前足や胴を切り裂き、血が雨のように降り注いだ。 「まるで悪人のセリフだな。子供達が怖がらねば良いのだが……」 後方から援護射撃しつつ、双子座は寺子屋に視線を向ける。熊が一方的に攻撃されている光景は、小さな子供達には刺激が強過ぎるかもしれない。 それを考慮して内部に侵入した魚座は、外に居る3人とは違う意味で大活躍していた。 「オヂサン達が来たから、もう大丈夫だよーーーっ! ほら、危ないから窓から離れてね?」 優しい笑みを浮かべながら、子供達を壁際に移動させる。講師もそれを手伝い、室内に居た全員が窓から離れた。助けが来た事で安心したのか、泣いている子供は1人も居ない。彼らに気付かれないよう、魚座はコッソリと講師に耳打ちした。 「今ちびちゃん達が外を見ると、トラウマになるかも知れませんから…」 苦笑いを浮かべながらも、納得したように頷く講師。彼に子供達の面倒を任せると、魚座は窓際に移動した。タイミングが良いのか悪いのか、空いた窓に向かって熊が1匹突撃して来る。魚座は素早く杖を構えると、先端から電撃が奔った。驚愕と歓声が上がる中、雷光が熊を射抜く。 追撃するように、山羊座が一気に距離を詰める。熊を飛び越え、自身の背中で子供達の視界から熊を覆い隠し、眉間を狙って槍を突き出した。その一撃で熊の体が崩れ落ち、地面が僅かに揺れる。 行動不能になった熊は、これで7匹。自分達の不利を感じたのか、残った3匹は山に向かって走り出した。 「お前ら、逃がすなんて詰んねぇ真似すんなよ!? ウラァッ!! 熊公皆殺しじゃーーーっ!!」 全員に檄を飛ばしながら、蟹座は斧を片手に張り切って追いかける。 が、石が足に引っ掛かったのか、盛大に転んで顔面を強打した。 呆れたように溜息を吐く双子座。銃口を上空に向け、熊を追い払うように撃ち放つ。対照的に、声を出して笑っている魚座は、電撃の連射で熊を威嚇した。 庭から熊が居なくなり、校舎から歓声が上がる。山羊座は蟹座に歩み寄り、軽く笑みを浮かべながら手を差し出した。 「お前という奴は……まぁ、無駄な殺生をするよりはマシだな。ほら、立てるか?」 蟹座はその手を握って立ち上がると、真っ赤になった鼻を痛そうに撫でる。 「むむ…魔槍砲を携帯しておれば、もっと派手に活躍出来たであろうに…」 依頼は成功したが、悔しそうに唸り声を上げる双子座。自身の活躍に、若干不満が残ったようだ。 ●突然の調理実習 魚座に連れられ、子供達が庭に飛び出して来た。笑顔で礼を述べながら、開拓者達を取り囲む。子供の無垢な表情に釣られたのか、山羊座達にも笑みが零れた。 「少年達よ、危ない所であったな。危険が迫れば我々か…か…なんだっけ?」 正義の味方の如く、雄弁に語っていた双子座だったが、突然言葉に詰まる。言いたい事を察知したのか、蟹座が後ろからコッソリと声を掛けた。 「開拓者、だろ。双子座様よぉ」 「そう! 『開拓者』が必ず助けに行くので安心するが良い!」 開拓者に成り立てで、咄嗟に言葉が出てこなかったのだろう。だが、子供達から歓声が上がる。尊敬や憧れとは違う『楽しいオジサン』を見ているような表情ではあるが…。 盛り上がる子供達を余所に、山羊座は熊の死体を物陰に移動していた。子供達に対して、彼なりに気を遣っているのだろう。そんな彼の背後から、魚座が近付いて来た。 「ねぇねぇ…山羊にーさん♪」 満面の笑みに、甘えるような声。彼の意志が通じたのか、山羊座は小剣を握った。 「分かってる。熊を捌いて欲しいんだろ? 任せておけ」 言葉と共に、小剣が空を切る。熊が次々に捌かれて肉塊と化し、山のように積まれた。7匹分の肉は、相当な量である。 山羊座は返り血を拭うと、講師に頼んで給仕室に移動した。そこで鍋と材料を調達し、再び庭に出る。青空の元、子供達と一緒に熊鍋の調理が始まった。 「熊鍋なんて、久しぶりだな。みんな、包丁には気を付けろよ?」 山羊座の指導の元、子供達が鍋の野菜を切る。魚座と双子座がそれを手伝い、数分後には食欲をそそる匂いが周囲に充満した。ちなみに、蟹座は寺子屋の裏でサボっていたりする。 「クマさん……かわいそう…」 鍋を見詰めながら、1人の少女が呟く。怖い想いをさせられたとは言え、こうして調理されてしまうと可哀想になってきたのだろう。そんな少女の前に膝を付き、魚座は優しく頭を撫でた。 「君は優しいね…でも、無駄なく美味しく頂く事が『命を大事にする』って事なんだよ?」 泣き出しそうな顔をしながらも、少女は小さく頷く。食育や命の勉強をするぬは、若干早かったかもしれない。 「堅苦しいコトはどうでも良いじゃねぇか。さっさと喰おうぜ! 言っておくが、俺は食い物にはうるさいからな?」 匂いを嗅ぎ付けたのか、自称美食家の蟹座が姿を現した。開拓者と講師が協力して配膳し、子供達全員に行き渡ったのを確認してから手を合わせる。『いただきます』の声が青空に吸い込まれていき、蟹座の歓喜の叫びが周囲に響き渡った。 |