小さな悪魔達
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/17 21:42



■オープニング本文

 晴天の空に舞う、黄色い粉末。これが大事件を起こすなど、誰が想像出来ただろうか?
「へっくし!!」
「ハックショッ!!」
 泰国東端の村に響く、クシャミとセキの大合唱。風に乗って飛んできた花粉が、住民達に悪影響を与えているのだ。
 クシャミや目の痒み、鼻炎が主な症状だが、侮ってはいけない。症状が悪化すると頭痛や喉の腫れを引き起こすし、最悪の場合は…命を落とす事すらあるのだ。
「今年は…花粉が…ヘッブシッ!」
 男性の盛大なクシャミで、周囲の空気が揺れる。
 ような気がした。
 首から下げた手拭いで鼻を拭き、洗濯桶に投げ入れる。
 原因は花粉なのだが……そこには、大自然とは異なる『力』が干渉していた。
 村から数キロ離れた森の中、周囲よりも異常な量の花粉を飛ばしている杉が数本。その周囲から黒い霧のようなモノが立ち昇り、幹に顔のようなモノが浮かぶ。
 アヤカシである。
 泰国の商人は旅泰と呼ばれ、天儀本島各地で行商しているのは周知の事だろう。もし、彼等の体内に花粉が吸収され、そのまま天儀各地に散らばったら……。
 アヤカシに侵食された花粉は植物と受粉し、成長する。それを繰り返せば、天儀全体にアヤカシの力を持った樹木が蔓延してしまうだろう。
 それ以前に、花粉で理不尽に苦しんでいる人たちを見捨てるワケにはいかない。たまたま朱春に来ていた開拓者達は、この事態に対応すべく動き始めた。


■参加者一覧
リンカ・ティニーブルー(ib0345
25歳・女・弓
国乃木 めい(ib0352
80歳・女・巫
ロゼオ・シンフォニー(ib4067
17歳・男・魔
田中俊介(ib9374
16歳・男・シ
土州 虎彦(ib9387
21歳・男・志


■リプレイ本文

●討伐の始まり
 柔らかい陽光の元、天を舞う物が3つ。白い雲に、桃色の桜花。そして…黄色い花粉。
「初めまして、ロゼオです。皆さん、宜しくお願いします!」
 花粉発生源の森の前。元気良く挨拶をしているのは、ロゼオ・シンフォニー(ib4067)。何をするにも、最初の挨拶は大切である。
「あらあら、元気な挨拶ですね。こちらこそ、よろしくお願いしますね?」
 優しく微笑みながら、国乃木 めい (ib0352)が挨拶を返す。その様子は、孫と祖母のようで微笑ましい。
「それにしても…広い森だなぁ。僕達だけで大丈夫かな…」
 不安そうな表情で、目の前の森を眺める、田中俊介(ib9374)。大型飛行船2台程度の範囲は、並ではない。初の依頼ともなれば、不安になるのは尚更だろう。
「男の子が、そんな弱音吐いちゃ駄目よ? 少しは虎彦さんを見習いなさい」
 リンカ・ティニーブルー(ib0345)が、言葉と共に俊介の額を『ツン』とつつく。彼女のような容姿端麗な美女にこんな事をされたら、どんな男でもドキドキするに違いない。
「いや……自分も緊張してますよー。初仕事同士、頑張りましょうねー」
 眠そうな顔をしつつも、俊介に向かって手を差し出す、土州 虎彦(ib9387)。緊張とは無縁そうな雰囲気だが、内心では初陣に緊張しているようだ。初仕事同士、2人は固い握手を交わす。
「そろそろ行きましょうか? まずは…あたいとめいさん、虎彦さんでアヤカシを探さないと」
 弓を片手に、リンカが全員を見渡した。討伐対象を探し出す事が、今回の依頼の第一歩である。
「擬態した木には、墨で印を付けていきましょう。足りなければ、細い布を枝に巻きましょうか」
 討伐対象が多い以上、めいの提案は有効だろう。討ち漏らしては、元も子もない。リンカも同じ考えだったのか、リボン状の布を取り出した。
「探索は手伝えそうにないし、僕は敵の伐採に回るよ」
 苦笑いを浮かべる俊介。開拓者として経験の浅い彼では、探索を行うのは難しいだろう。
「頑張りましょうね! っと、その前に……」
 元気良く拳を握ったロゼオは、何かを思い出したように懐から布を取り出す。それで口と鼻を覆い、花粉に対して備えた。
「さて、初仕事だけどどうなるか…ま、周りの足を引っ張らないよう、ぼちぼち行きますかー」
 震える右手を左手で押さえ、虎彦は視線を森に向ける。5人は足並みを揃え、アヤカシの待つ森の中へと進んで行った。

●大捜索
「この辺りも、アヤカシの反応があった場所ね…めいさん、虎彦さん、後はお願いね?」
 リンカの言葉に、めいが意識を集中させる。その体が微かな光を放つと、周囲に結界が張られた。
「……この先の木、あれもアヤカシですね」
 アヤカシの瘴気を探り出し、めいが前方を指さす。その方向には、1本だけ長さの違う木が立っていた。
「じゃぁ、印を付けてくるよ。筆記用具、借りても良いかな?」
 彼女から筆記用具を借り、茂みを掻き分けて行く俊介。目立つように、幹にデカデカと印を書き込んだ。
「擬態したアヤカシ、か。自分の技が少しは足しになる…かなー? 上手くいったら、しめたものだけどなー」
 頭を軽く掻き、虎彦は意識を周囲に広げるように集中させる。拡散した感覚がアヤカシの存在を察知すると、リンカからリボンを借りて駆け出した。
 リンカの鏡弦でアヤカシの大まかな位置を探索し、その場所まで移動。めいと虎彦が更に詳細な位置を探り、目印を付ける。
 彼らはそれを繰り返し、森全体を探索する作戦なのだ。
 探索技能を持たないロゼオと俊介は、目印を付ける手伝いをしている。
「石をぶつけたら、動いたりしないかな? ちょっと実験!」
 ロゼオが元気良く手を振り上げると、掌に小石が2個生まれた。それを、木を痛めないように軽く前方に投げる。1個は木の幹に当たったが、もう1個は『木が僅かに動いて』外れてしまった。
「あらあら、見分けられちゃったわね。こんな方法があったなんて、盲点だわ」
 口元を抑えながら、めいは軽く笑みを浮かべる。アヤカシのマヌケな行動に、思わず笑ってしまったのだろう。それは、めい以外のメンバーも同じだが。
 お馬鹿なアヤカシに目印を付け、5人は更に奥に進んで行く。森を隅々まで調べ尽くした頃、太陽は真南から若干西に傾いていた。
「これで、一通り反応のあった場所は回ったかなー? そろそろ、伐採を始めようかー」
 不敵な笑みを浮かべながら、虎彦は手斧の柄を握る。調査が終わり、依頼はようやく半分終わったトコロだろう。
「なら、今度は俺の出番だな。早速、倒させて貰うよ!」
 刀を握り直し、瞬間的に加速する俊介。目印を付けた木を見付けると、銀色の閃光が走った。刀身が木を横に両断し、派手な音を伴って倒れる。その斬り口から、黒い霧が立ち上って空気に溶けていった。
「あたい、力仕事は得意じゃないんだけどなぁ……」
 苦笑いを浮かべながら、リンカは手斧を構える。そのまま木の幹に刃を入れ、若干ぎこちない動きながらも、擬態した木を斬り倒した。瘴気が空気に溶け、黒い滴が切り株を汚す。
「ロゼオさん、宜しかったら、私の斧を使いますか?」
「良いんですか!? 是非お願いします! めい様、ありがとう♪」
 めいの提案に、満面の笑みで応えるロゼオ。手斧を受け取ると、嬉しそうに振り回しながら木に叩き込んだ。
「今思ったんだけどさー…印を付けた木って、何本だっけー?」
 伐採した木からリボンを外しながら、疑問を口にする虎彦。午前中は索敵に集中していたため、木の本数を数える余裕が無かったのかもしれない。
「僕、覚えてます! 全部で50本でしたよ! 残り、46本……45本になったみたいだよ」
 ロゼオが自慢げに語る中、森の奥から地響きが聞こえてきた。恐らく、俊介が木を斬り倒したのだろう。それを察知し、ロゼオは数を訂正した。
「45本…気が遠くなりそうね。でも、この程度なら花嫁修業に比べたら大した事無いわ!」
 複雑な表情を浮かべたリンカだったが、軽く拳を握って気合いを入れ直す。彼女がどんな花嫁修業をしたのか、興味深いところである。

●探索と伐採の果てに
 森周辺の地面が、微かに揺れる。リンカとロゼオが協力して切った巨木が、大地を揺らしたのだ。青い空に向かって、黒い瘴気が昇っていく。
「これで、49本目ね。なかなか手こずらせてくれたけど、あと1本…!」
 終わりが見えて安心したのか、リンカの表情が和らいだ。そのまま視線を巡らせ、最後の1本を探すように首を振る。
「なら、これが最後だねー! やれやれ…ようやく、全部終わる…かなー?」
 大きく息を吐き、手斧を構える虎彦。それを振り下ろすと、木が派手に動いて刃を避けた。
 全員が驚愕する中、ロゼオの石礫がアヤカシに殺到して動きを阻害する。その隙を狙い、虎彦とリンカは両側から斧の挟み撃ちを仕掛けた。全力で打ち込んだ刃が、左右から幹を分断する。土埃と共に倒れた木から瘴気が抜け出し、空気に溶けて消えた。
「お疲れ様でしたね。移動中、アヤカシの気配は感じませんでしたから、全て倒せたハズです」
 めいの言葉に、全員が胸を撫で下ろす。彼女は伐採中、ずっと結界を張ってアヤカシの気配を探索していたのだ。ここまで念を入れたのだから、討ち漏らしは無いだろう。
「はぁ〜…ようやく終わったか。まだ残ってたら、ちょっとキツかったな」
 ほぼ1日中歩き回ったのだから、俊介が弱音を吐くのも無理は無い。敵に戦闘能力が無かったのが、唯一の救いかもしれない。
「あー。兄さん連れて来なくて良かった…火炎で丸焦げにされちゃうトコだった」
 地面に腰を下ろしながら、一人呟くロゼオ。彼にとっては何気ない一言なのだが、周囲は驚愕の表情を浮かべている。皆を驚かせるには、充分過ぎる発言だったようだ。
「丸焦げって……あなたのお兄さん、何者なのよ」
 複雑な思いが、リンカの頭を通り過ぎる。火を吐く兄……それは、彼女の理解を遥かに超えていた。
「あ、いや。実の兄じゃなくて……僕、相棒の炎龍を『兄さん』て呼んでるんですよ」
 両手をブンブン振りながら、ロゼオは自分の言葉を否定する。若干言い辛そうに語った言葉に、全員から笑みが零れた。
「なるほどねー。確かに、炎龍なら森ごと全部燃やしそうだなー」
 笑いながら、状況を想像する虎彦。炎龍も大変だが、鬼火玉が居ても大惨事になりそうである。
「お話は後にして、報告に参りましょうか? 花粉の中に居るのは、良い気分ではありませんし」
 アヤカシを倒したとは言え、この季節は花粉の飛散が多い。医の道を進んでいるめいは、花粉による鼻炎等の症状を警戒しているのだろう。彼女の言葉に促されるように岐路に着く開拓者達だったが……途中で出たクシャミの原因が、花粉では無いと願いたい。