思い出を『掘り起こせ』
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/29 22:04



■オープニング本文

「失礼。ギルドとかいう『何でも屋』は、ここで良いのかね?」
 高価な身なりに、高慢な態度。脂の乗り過ぎた体型の中年男性がギルドの入り口をくぐる。不遜な態度に若干の怒りを覚えながらも、ギルド職員は彼を椅子へ促した。
「ありがとう。自己紹介は…必要ないだろう?」
 言いながら、偉そうに体を椅子に預ける。実際、彼は泰国でも指折りの富豪である。恐らく、泰国でこの男の名前と顔を知らない者は居ないだろう。
 男性は懐から煙管を取り出すと、刻みタバコを詰めて火を付けた。
「ふ〜…来月、私は同窓会があるのだよ。寺子屋を卒業してから、約40年振りに同窓生と会う事になる」
 大きくタバコを吸い、煙を吐き出す。同窓会とギルドがどう繋がるのか、サッパリである。
「その同窓生というのが、馬鹿が多くてな。『友情と青春の思い出』とか青臭い事を言って、金庫に物品を入れて埋めたのだよ。私は反対したがね」
 言葉とは裏腹に、男性の表情は優しい。恐らく、昔の事を思い出して懐かしくなっているのだろう。
「で、だ。今更になってそれを掘り出す話が出てな。しかも、当時学級長をしていた私が代表して掘り起こせと言うのだよ」
 それも束の間。男性は不愉快そうに表情を歪めながら、灰皿に灰を落とした。
「傘下の土建業者に任せても良いのだが……40年も前の事で、正確な場所が分からん。そんな事が奴等に知れたら、私の面目が立たんのだよ」
 言葉と共に溜息を吐く。ここで何故メンツや体裁が係わってくるのか謎である。権力者の思考は、一般人には理解し難いのかもしれない。
「そこで、依頼に来たワケだ。極秘裏に、人目に付かんように、金庫を掘り起こして欲しい……それを楽しみにしている者も居るから、な」
 照れ臭そうに顔を背ける男性。悪態を吐きながらも、彼が同窓生の提案を断らなかったのは、旧友を喜ばせたいからなのだろう。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
篠月 遥(ib6303
17歳・男・サ
篠月 藍香(ib6304
14歳・女・志
鏡珠 鈴芭(ib8135
12歳・女・シ
破鏡 水影(ib8136
24歳・男・魔
斎宮 桜(ib8406
10歳・女・泰


■リプレイ本文

●思い出捜索隊
 人の気配が無い森の中、今は使われていない林道を歩く者が8人。鋤や鍬を持っているため、農耕集団にも見える。
「俺、寺子屋とか行った事ねえけど、そういう思い出って何かイイよなー」
 空を見上げながら、ルオウ(ia2445)が思いを馳せる。もしかしたら、故郷を思い出しているのかもしれない。
「初めての依頼になりますので、皆さんの御手を煩わせる事もありますでしょうが…よろしくお願いします」
 歩きながら挨拶を述べる、篠月 遥(ib6303)。緊張しているのか、笑顔が若干引きつっている。
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
 滝月 玲(ia1409)は、言葉と共に笑みを送る。それに安心したのか、遥の表情が若干和らいだ。
「大切な思い出の詰まった金庫…見つけられるよう協力して頑張りましょう…」
 呟くような、柊沢 霞澄(ia0067)の小さな声。だが、その声には強い意志が篭っている。
「大事なものなんだもん、ちゃんと見つけなきゃ!」
 言いながら、小さな手を握る斎宮 桜(ib8406)。外見的特長も相まって、その姿は桜色の毛並の猫のようだ。
「遥なら大丈夫。一生懸命に頑張るキミも、素敵だよ」
 遥に優しい視線を向けながら、篠月 藍香(ib6304)がフォローを入れる。当人には全く自覚が無いようだが、どう聞いても惚気にしか聞こえない。
「藍ちゃんと遥にぃはやっぱり仲いいねぇ〜。こういうの、何て言うんだっけ…あぁ、そうだ! 『らぶらぶ』!!」
 小首を傾げていた鏡珠 鈴芭(ib8135)が、ポンと手を叩く。彼女の言葉に、遥と藍香が若干恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「40年前の絆のためにも、依頼を成功させねばなりませんね」
 破鏡 水影(ib8136)は、柔らかい笑みを浮かべながら決意を口にする。その言葉と笑顔の裏には『何か』ありそうだが。
「な〜んか、水影お兄ちゃんらしくないなぁ…本音は?」
 桜の言葉に、水影は視線を合わせながら黒い笑みを浮かべた。
「報酬が高いとの事ですから、僕の借金返済のために役立ってもらいますよ。ふふふ…」
 含みのある、怪しい笑い声。まるで、典型的な悪人のような表情である。
「なら、ご主人様の借金返済のためにも、成功させなくっちゃ!」
 主の黒い部分を見ても、鈴芭の気持ちは変わらない。それだけ慕っているのか、日常的に黒い部分を見せているのかは定かではないが。
「報酬といえば…内容のわりには、かなりの額ですよね。流石は、お金持ち」
 遥の言う通り、今回の報酬は高い。恐らく、依頼人が大金を払ってでも金庫を見付けたいのだろう。
「なんだかんだで、友の笑顔を見たい優しい方なのでしょうね」
 ほのぼのと笑う藍香。依頼人が聞いたら、照れながら怒りそうである。
「日差し、強くなってきたな…霞澄、大丈夫か?」
 自身のローブで日差しを遮りながら、霞澄の体調を気遣うルオウ。友人としての付き合いが長いため、互いの事を理解し合っているのだろう。
「ありがとうございます…大丈夫、です…」
 嬉しそうに微笑む霞澄。ルオウの気遣いが、余程嬉しかったようだ。
「あ、寺子屋が見えてきましたよ!」
 指差しながら叫ぶ玲に、全員が視線を向ける。ボロボロになり、人々に忘れ去られた寺子屋。森の中に隠れるように、寂しげにたたずんでいた。

●掘って掘って掘った先に
 寺子屋に着き、荷物を下ろす一同。霞澄は天を仰いで目を閉じ、意識を集中させた。その瞼の裏に、周囲の天気が早送りで流れる。
「あの…5時間後くらいに、雨が降るみたいです…」
「なら、急いで掘りましょう! 万が一、誰かが来たら追い払いますね!」
 霞澄の言葉に、鈴芭はブンブンと腕を回しながら寺子屋裏の森に駆け出した。聴覚を研ぎ澄ませながら、地面を適当に掘り返す。
「さて…まずは、この辺りから始めてみましょうか」
 遥は大石に狙いを定めると、刀を全力で振り下ろした。衝撃波で地面がめくれ上がり、石が弾け飛ぶ。戦闘用のスキルも、こういう場合は便利である。
「う〜ん、ここかなぁ? 木の根っこだぁ…」
 拳を地面に叩きつけ、振動や地表の変化を確認する桜。違和感があった箇所を掘ってみたが、出てきた木の根を見てガックリと肩を落とした。
 手当たり次第に鍬で掘り進めていたルオウだったが、周囲を見渡して大きな溜息を吐く。
「はぁ〜…流石にこりゃ無理だ〜」
 範囲の広さを改めて実感したのか、目星を付けるために一度寺子屋へと戻って行く。
「掘った穴は、埋めておきますね? 日々農作業で鍛えてますから」
 同行者に許可を取りながら、掘った穴を埋め直していく藍香。『極秘裏に』という条件が付いている以上、埋め立て作業も重要である。
「森に物を埋めるなら、心理的に『外から見通しの良い所』は避けるだろうな…」
 森の中を歩きながら、玲は木が密になっている箇所に重点を置いた。森の端は除外し、人目に付かない所を優先的に調べていく。
「当時目印になるくらいの木で、子供達数名が集まって穴を掘れる場所…そうなると、樹齢は50年以上は必要だな」
 木の高さ、幹の周径、根回りから条件に合う物を探し出し、丸印を書いた紙を朱苦無で刺す。怪しい木に目星を付け、後から掘るつもりなのだろう。瞬間的に加速しながら、森を縦横無尽に駆け巡る。
「鈴芭〜、桜さん。疲れた時には甘い物、ですよ。僕が作った物なので味の保証はありませんが…休憩時にでもどうぞ♪」
 黙々と作業を続ける2人に、水影が饅頭を差し出した。鈴芭と桜は礼を述べながらそれを受け取ると、腰を下ろして笑顔で頬張る。
「どんな時でも少女への気遣いを忘れないとは…流石は『ろりますたぁ』ですね」
 偶然、その光景を目にした藍香が、ほのぼのと笑いながら茶化す。その言葉に、水影は頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「言っておきますが、僕はロリコンでも何でもないですから…勘違いしないで下さいね?」
「ご主人様、酷いです! 私との事は、遊びだったんですか!?」
 水影の言葉を遮るように、鈴芭が叫ぶ。それは彼女なりの冗談であり、周囲もそれを理解しているが、みんな大盛り上がりである。
 そんな盛り上がりを他所に、ルオウは寺子屋の周囲を散策していた。
「やっぱ、思い出の品ってのは、思い出の場所に程近いトコに埋めておきたいんじゃないか……ってな」
 呟きながら、寺子屋周辺の木に目星を付け、鍬を全力で振り下ろす。
「肉体労働は苦手なんですよねぇ…ということで、ダウジングで探してみましょうか!」
 水影は首飾りを外し、手に持って振り子のように軽く回した。動きが止まってから、ゆっくりと歩き始める。それが大きく揺れた時、下に何か埋まっている可能性が高いらしいが…成功するかは『神のみぞ知る』といったところだろう。
 1m程の鉄の棒を地面に刺し、地中の手応えを探る霞澄。場所を変えながら作業を続け、既に何度刺したか分からない。本日何度目かの『硬い手応え』。もう1本の棒を違う角度から刺し、埋まっている物の大きさを確かめる。更に、もう1本。それは、木の根にしては硬過ぎるし、石にしては大き過ぎる。
「この手応えは……」
「霞澄お姉ちゃん…もしかして、見付けたの!?」
 近くを掘っていた桜の耳に、彼女の呟きが届いた。霞澄は視線を合わせると、自信無さそうに静かに頷く。
 桜は地面を蹴り、仲間の元へ駆け出した。全員で協力し、金庫を掘り出す作戦なのだろう。早駆を持つ鈴芭も伝令を手伝い、ほんの数分で全員が霞澄の元に集まった。その場所は、玲が紙を刺した近くである。
「ぃよしっ! ここか〜…早速行くぜー!」
「僕も手伝います。皆さんは下がって居て下さい!」
 全員を下がらせ、ルオウと玲が鋤を握る。練力で筋肉を増幅させると、土を一気に掘り始めた。その勢いは尋常ではない程に早い。
「ここ掘れわんわんっ…なんてね! ああでも、ご主人様に仕える犬…良いかも。うふふ…狐だって犬科だもんね〜。ああ、ご主人様〜!」
 2人の様子を眺めながら、恍惚の表情を浮かべる鈴芭。どうやら、妄想し過ぎて完全に『あっちの世界』に行ってしまったようだ。
 掘り始めてから10分もしないうちに、鋤の先端が何かにぶつかって周囲に硬い音が響く。
「何か…変な音したよね? 今、硬い音したよね!?」
 興奮気味に同意を求める桜。ルオウと玲は周囲の土を掘り出し、鋤を放り投げて手で土を掻き出した。徐々に、金属の箱らしき物が姿を現す。2人は土と金庫の間に強引に手を突っ込み、力任せに引き上げた。
 周囲から歓声が上がる。40年の時を超え、地中から金庫が掘り出された。土塗れの金庫を見ながら、笑顔でハイタッチを交わす8人。身長の低い桜は、跳び上がって手の位置を無理に合わせているが。
「これで、依頼主の方もその友達も喜ぶでしょうね」
 微笑みながら、胸を撫で下ろす遥。初めての依頼で成功を収めたのだから、安心するのも当然である。
「雨が降る前に…穴を埋めて戻りましょうか…」
 霞澄は、森の中を見渡しながら口を開いた。無数に空いた穴に、盛り上げられた土。このまま帰ったら、色んな意味で大問題だろう。
「そうですね…水の滴る遥を見たかったけど」
 残念そうに俯く藍香。許婚が雨に濡れた姿にも興味があるようだ。
「藍香…それは、私達2人だけの時に…ね?」
 遥は藍香の頬に手を添え、甘い言葉と共に見詰め合う。完全に『2人だけの世界』に行ってしまったようだ。残った6人で手早く穴を埋めると、使った道具を纏めて全員で帰路に着く。重い金庫は、ルオウと玲の担当である。

●雨天の再会
「うわぁ……良く見ると、泥だらけだったんですね、俺達」
 苦笑いを浮かべながら、手拭いで体を拭く玲。
 帰宅途中で雨に降られ、8人はズブ濡れになってしまった。ギルドに着いた時、見兼ねた職員が手拭いを大量に差し出してくれたのである。
「あの……ルオウさん…鼻に、泥が…」
 霞澄はそっと手を伸ばし、ルオウの鼻に付いた泥を拭く。顔を真っ赤にしながらも、ルオウは軽く礼を述べた。
 開拓者達が身支度を整える中、けたたましく入り口が開く。
「金庫が見付かったというのは本当か!?」
 姿を現したのは、依頼人の男性。ギルドからの連絡を受けてから急いで来たのだろう。息を切らし、肩を激しく上下させている。
「オッサン、早かったな。探してるのは、これだろ?」
 床に置かれた金庫をペチペチと叩くルオウ。雨が丁度良く土を洗い流し、綺麗になっている。
「おぉ! これだ! 良く見付け出したな! 礼言うぞ!」
 興奮気味に言葉を告げ、懐かしそうに金庫を撫でる依頼人。その表情は、ほんの少しだけ優しい。
「オジサマが昔の事を思い出して下さっていたら、もっと早く発見出来たんですけどねぇ」
 誰にも聞こえないように、鈴芭が1人呟く。金庫探しに出発する直前、彼女は依頼人に情報収集をしていた。上目遣いや甘えるような声等を駆使したが、結局当時の事は何も思い出して貰えなかったのだ。
「友を喜ばせたい…その気持ち、分かります。私も、喜ばせたい相手が居ますから、ね」
 言葉と共に、遥は視線をゆっくりと藍香に向ける。それに気付いた藍香は、見詰め合いながら微笑んだ。
「何年経っても、思い出とはかけがえの無いものですね…今度、僕達も思い出の品などを埋めてみましょうか?」
「本当ですか!? 私も、ご主人様との思い出を埋めてみたいです♪」
 水影の提案に、満面の笑みを浮かべながら抱き付く鈴芭。その様子を見た依頼人が、驚愕の表情を浮かべた。
「ご…ご主人様、だと?」
 困惑気味に言葉を搾り出す。自分の想像を超えた事態に、理解が追い付かないのだろう。
「水影お兄ちゃんと鈴ちゃんはね、『らぶらぶ』なんだよっ!」
「愛情の形は、人それぞれなのですよ。大切な人が、そう教えてくれました」
 それを煽るように、桜と藍香が情報を吹き込む。完全に、確信犯である。
「桜さん、依頼人を混乱させては駄目ですよ。藍香さんも、誤解を招く発言は控えて下さい」
 溜息混じりに、苦笑いを浮かべる水影。だが、そんな発言は火に油を注ぐようなモノである。
「いや、誤解されるような行動を取る水影殿にも非があると思いますよ?」
「そうだよね? 『ろりますたぁ』だし」
 時にはイジワルしたくなるのも人の性。遥と藍香もノリノリで加勢し、完全に混沌状態である。
 戸惑っている依頼人の肩を、霞澄が優しく撫でた。
「えっと…あまり、気にしないで下さい。個性的な方達ですが…悪い人ではないので…」
 混乱しながらも、頷く依頼人。まだ、頭の整理がついていないようだ。
「それよりさ、金庫の中身って何入ってんだ? どんなの埋めたか気になるなー」
「桜も…ちょっと見てみたいです!」
 ルオウと桜が、依頼人に期待のマナザシを向ける。少年少女の純真無垢な視線を受けても、依頼人は動じない。
「馬鹿を言うな。これは、皆で開ける予定なんでな」
 さっきまでの動揺っぷりはドコへ消えたのか、職員の手を借りて金庫を小さい荷車に乗せた。
「童心に帰るのも良いものです、楽しい同窓会にしてくださいね学級長さん」
「ふん……私は帰る。お前達と違って、暇ではないのでな」
 玲の言葉に、照れ臭そうに顔を背ける依頼人。開拓者達は軽く笑顔を浮かべながら、その背中を見送った。