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■オープニング本文 「お役人様、これ以上の年貢納入は無理です!」 「俺達ぁ、米なんざ滅多に喰えねぇ! 飢え死にしろってのか!?」 農民の集団が奉行所に押し寄せる。彼等を落ち着かせようと門番が声を掛けるが、そんな声は耳に届かない。今にも、門を破壊しそうな勢いである。 彼等が抗議の声を上げているのには、理由があった。武天の外れにあるこの町は、お世辞にも裕福とは言えない。その日を食べるのでギリギリの者が多い。にもかかわらず、町奉行は年貢の税率を上げると言うのだ。 「奉行所は俺達を人間だと思ってないのか!? 大人しく言う事聞く家畜じゃねぇんだぞ!」 結果、町民は怒り心頭。自分達の生活を守るため、立ち上がったのだ。 とは言え、地方の奉行所が腐敗して暴走するのは極めて稀な事である。中央の監視が届き難かったのか、町奉行が相当な野心家だったのか…その両方なのかは、定かでは無い。 「静まらんか、愚民共が!」 周囲に響く怒声。直後、奉行所の門が開かれた。その奥から、上席の役人と大勢の同心達が姿を現す。 「貴様等農民風情が、奉行所に楯突くとは言語道断! ここに居る者全て、即刻取り押さえろ!」 役人の号令に従い、同心達が一気に駆け出す。蜘蛛の子を散らすように、農民達は四方八方に逃げ出した。その様子を眺めながら、役人は下卑た笑みを浮かべる。 数時間後。奉行所の牢屋は、農民達で溢れかえっていた。奉行所が暴走して機能していない今、町民達は中央に頼るしかない。陳情書を持った町民が既に神楽の都に向かっているが、使者が来る頃には事態が悪化しているかもしれない。 運が良いのか悪いのか、偶然にも町には開拓者が来ていた。藁にもすがる思いで、町民達は開拓者に助けを求めた。 |
■参加者一覧
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
瑠枷(ia8559)
15歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
桧(ib9177)
15歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●密偵 奉行所内を忙しそうに歩く、役人や同心達。所内の警備や資料の整理等、やるべき事が色々とあるのだろう。 小柄な同心が物置らしき部屋に入った直後、まるで何かに操られたように動きが止まった。 「命が惜しいなら…少々静かにしていて下さいね?」 暗がりの中から響く、ライ・ネック(ib5781)の声。ほのかな明かりの中、彼女の影が伸びて同心の体に絡み付いている。 状況が飲み込めず、混乱する同心。そんな彼に、ライは当身を打って意識を刈り取った。気絶した隙に猿轡を噛ませ、手早く衣服を剥ぐ。手足を荒縄で縛ると、その服を纏って物置を出た。 周囲と同じ格好をした事で、疑われる事無く内部偵察を進めていくライ。彼女の頭上では、もう一人が偵察を行っていた。 奉行所の天井裏を、滝月 玲(ia1409)が静かに移動する。時折、天井の隙間から下を覗いて、部屋の間取りや警備の偵察を忘れない。人の姿が無い事を確認し、天井の板を外して室内に降り立った。 山済みされている、たくさんの書類。それをテキトウに取って目を通し、周囲を探索していく。黒い箱を開けて書面を確かめると、軽く笑みを浮かべた。 「ふふ、細工箱など見抜けぬ素人じゃないのだよ」 玲が見付けたのは、贈賄の証文である。動かぬ証拠を懐に仕舞い、床を蹴って天井裏に戻った。暗がりの中を、屋敷の外に向かって移動して行く。十数分後、玲とライは人目に付かない庭の隅で合流した。 「内部構造に同心達の配置、調査完了です。詳しい事は、コレに書きました」 「こっちも、間取りと対象の部屋は割り出せました。あとは…」 互いの情報を共有し、2人で奉行所内部の見取り図や、警備の状態を紙に書いていく。玲はそれを油紙に包み、素早く庭の木に登った。軽く咳をし、鶯の鳴き真似をする。木の上から周囲を見渡すと、紙を奉行所の外に向かって投げ放った。 ●開戦 「ななっ! そんな酷い事されたなりかっ!? ここに書いて欲しいのだっ!」 驚愕の声を上げながら、手帳を差し出す平野 譲治(ia5226)。潜入捜査をしていない6人は、町で情報収集の真っ最中なのだ。 「みんな! 玲とライからの情報、来たよ!」 玲の投げた紙を受け取ったリィムナ・ピサレット(ib5201)が、仲間達の元に駆け寄る。油紙の中身を広げると、6人の視線が紙に集中した。 「へぇ…大したモンだな。分かり易い見取り図だぜ」 内容を確認しながら、感心の声を上げる瑠枷(ia8559)。侵入を担当する彼にとっては、詳細な見取り図があるのは有難い。 「でも、これを覚えるのは大変だよな……まぁ、テキトウでも良いか」 言いながら、羽喰 琥珀(ib3263)は無邪気な笑みを浮かべた。その様子は、歳相応の少年の表情である。 「良し、機は熟したな。早速、悪人共の巣に行くとしようか」 ラグナ・グラウシード(ib8459)は口元に笑みを浮かべながら、視線を奉行所に向けた。目指すその場所は、歩いて5分もかからないだろう。 だが……敷地内に入るには、大きな問題が1つ。 「何だ、貴様等は。ここは、薄汚い一般人が来て良い所ではないぞ!」 門の両脇に立つ、2人の男性。奉行所ともなれば、門番が常駐しているのは当然である。しかも、明らかに友好的ではない。 「待って下さい。私達は、この町を助けるために行動しています。貴方達も、役人には不満があるのでしょう? 農民の皆様を解放するために、協力して下さい」 門番に向かって、必死に訴える桧(ib9177)。恐らく、無用な争いをしたくないのだろう。そんな彼女の気持ちを嘲笑うように、門番達は声を上げて笑い始めた。 「何で笑うんだよ!? 俺達は本気だぞ!」 地面を踏み、耳と尻尾を逆立てて怒りを露にする琥珀。他の5人は表情には出していないが、気持ちは同じだろう。 「笑わせるな、ガキ共が! 女子供に何が出来る!」 こちらを馬鹿にするような、高圧的な態度。権力を傘にした者の、典型的な反応である。 「どうしても…通しては頂けませんか?」 「しつこいガキ共だな…痛い目に遭いたいか!?」 残念そうな表情の桧を、威圧するように怒声を浴びせる門番達。リィムナはその1人に近付き、ニッコリと笑顔を浮かべた。 「女子供を馬鹿にするな! 悪い奴は、全員ブチのめしてやるんだから!」 その表情が一転。怒りの声と共に、門番の脛を杖で叩いた。一切の手加減無しで。あまりの激痛に、脛を押さえて跳び上がる門番。その隙を狙い、琥珀は軸足を払って倒した。 もう一人の門番が動くより早く、瑠枷は腹部に、ラグナは首裏に当身を叩き込み、その意識を奪う。荒縄を取り出し、無様に地面を転がる2人を縛り上げていく。 「ガキに手も足も出ないなんて、大人ってのは口だけみたいだな」 意地悪な笑みを浮かべながら、門番に皮肉を吐く瑠枷。つい数分前とは、立場が完全に逆転している。 「っと、そだっ! 皆、ご飯作るといいのだっ! 牢の皆を迎えるのだっ♪」 物陰や家の窓から様子を伺っている町民に向かって、譲治が笑顔で叫ぶ。その声に、周囲から歓声が湧き上がった。 ラグナは大剣を構えると、斜めに振り下ろす。切先が、門ごと裏側の閂を斬り裂いた。瑠枷、琥珀、リィムナが門を蹴ると、鈍い音と共に内側に開いていく。 「その節穴な眼で見ているが良い…私達に『何が出来るか』を、な」 身動きとれない門番に、言葉を吐き捨てるラグナ。そのまま、6人は門の奥へと進んで行った。 ●囮作戦 「たのもーっ!」 譲治の叫びに、場内の視線が集まった。突然現れた部外者達に、同心達は大混乱である。 「血も涙も無え悪党共っ! 権力傘にやりたい放題、罪の無ぇ農民達を食いもんにする悪行三昧、断じて許せねぇ! 手前ぇら纏めて成敗してやるから、覚悟しなっ!」 「人を人とも思わぬ悪逆非道、そして裏で私腹を肥やす暴虐の輩どもよ! 民たちの悲痛な叫びに応え、天誅を下さん! さあ…かかってこい臆病者どもめ!」 芝居がかった口調で大見得を切る琥珀に、周囲の注意を引くように叫ぶラグナ。2人共、ノリノリな上に似合い過ぎている。 戸惑っていた同心達だったが、開拓者達を『敵』として認識したのか、敵意を向けながら周囲取り囲んだ。 「手荒な真似をするのは気が進みませんが…仕方ありません」 言葉と共に、残念そうな表情を浮かべる桧。彼女が槍の柄で地面を叩くと、それが合図になったように開拓者達は4方に突撃した。 兵装を使わず、拳撃を腹部に叩き込むラグナ。同心の斬撃を紙一重で回避し、手刀で手首を打って攻撃手段を削いでいく。 琥珀は背負った刀を素早く抜き、同心の刀を両断。驚愕している隙を突き、斬撃を叩き込んだ。無論、刃を返して手加減を忘れない。 槍を持った同心が、桧に向かって突きを放つ。彼女はそれを受け止め、派手な動きで敵を圧倒していく。2人の槍捌きに、数人の同心が巻き込まれているのは言うまでもない。 雷が奔り、同心を撃つ。譲治の召喚した式が放った雷撃である。力を加減しているため命に別状は無いが、発火を誘発する程の威力で放っていたら、致命傷になっていたかもしれない。 大暴れする4人に、次々に地に伏していく同心達。その活躍に、奉行所の奥から増援が続々と湧き出て来る。 だが、それは彼等の思惑通り。譲治達4人が派手に暴れ、同心達の注意を引き付ける。その隙に瑠枷とリィムナが侵入し、玲とライと協力して奉行達を捕まえる作戦なのだ。 「これしきの数で、民の怒りを止められると思うな!」 「良心が痛んでる奴は武器捨てて降参しなっ。しねーなら、ぶっ倒すっ!」 ラグナと琥珀の様子を見ていると、作戦を忘れて暴れているようにも見えるが。とは言え、2人共手加減は忘れていないし、重傷者は1人も出ていない。 桧の槍撃が、同心の槍を弾き飛ばす。ようやく技量の差を理解したのか、同心は俯きながら膝を付いた。 「これだけの技量がありながら、役人の悪行に目を瞑るなんて…残念です」 悲痛な表情で呟く桧。そんな彼女を尻目に、戦意を失った同心数人が門に向かって駆け出した。 「そっちは行き止まりなりっ! 逃がしてやらないぜよっ!」 譲治が叫ぶと同時に、門を塞ぐように黒い壁が出現した。逃走経路を断たれ、地面に座りこむ同心達。だが、まだ戦意を失っていない者も居る。囮の役目は、もう少々続きそうだ。 ●捕獲 同心達が慌しく外に出て行く中、混乱に乗じて侵入した瑠枷とリィムナは廊下を走っていた。 「それにしても、奉行所ってのは広いな。迷子になりそうだぜ」 苦笑いを浮かべる瑠枷。邪魔をする同心が居ないのが、せめてもの救いである。 「地図によると…悪い奴は、あの奥だよ!」 見取り図を見ながら、リィムナが叫ぶ。角を曲がった先には、同心が一人。廊下に膝を付き、室内に向かって頭を下げていた。 「申し上げます! 奉行所内に不審な者共が、ぐわっ!」 問答無用で、2人は同心を蹴飛ばす。そのまま、障子戸を開け放った。中に居たのは、初老の男性が4人。その立派な服装は、明らかに上席の者である。 「何の真似だ、小僧共! ここは子供の遊び場では無いぞ!」 「ゴチャゴチャうるさ〜い! 悪い奴等は、大人しく捕まれば良いんだよ!」 逆上する役人に向かって、怒りの表情で呪文を唱えるリィムナ。彼女の声が激しい眠りを誘い、ほんの数秒で役人の1人が畳に倒れ込んだ。 「この面妖な術は…まさか、貴様等は志体を持つ者か!?」 「お奉行様、お逃げ下さい!」 上座に居た奉行が部屋の奥へ移動すると、それを守るように2人の役人が立ち塞がる。 「邪魔すんなよ! 忍法・役人返しーー!」 叫びと共に瑠枷が大きく踏み込むと、役人の乗った畳が反転。バランスを崩し、無様に転んだ。 自身を守る者が居なくなり、奉行は舌打ちしながら奥の襖を開ける。その奥には、小柄な同心が1人。助けを求めようと奉行が手を伸ばした瞬間、同心は彼を突き飛ばした。 「貴方達の行くべき場所は、牢屋です。ここは通しませんよ?」 言いながら、バサッと衣服を脱ぎ捨てる。その下から姿を現したのは、忍装束に身を包んだライだった。 「上に立つ者のやる事じゃあないな…腐ったリンゴは、駆除するのみ!」 次いで、下座側の襖が開き、玲が姿を現す。 逃げ道を全て塞がれた奉行は、顔を真っ赤にしながら畳に拳を振り下ろした。 「ぬぅ……小癪な者共が! 儂を誰だと」 「誰であろうと、悪人である事に違いはありません」 奉行の言葉を遮るように、ライが口を開く。影を伸ばして絡み付かせると、体の自由を完全に奪った。 「そういう事。リィムナちゃん、よろしくね?」 荒縄を手に、玲はリィムナに視線を向ける。彼女が呪文を唱えると、奉行は眠りの底に落ちていった。逃げられないよう、玲達は役人を素早く縛り上げる。その状態で引き摺るように連れ出し、囮をしている仲間の元へ駆け出した。 ●降伏勧告 「まだ抵抗する気か。君主は歪んでいるが、貴様等の忠義には敬意を表する」 軽く笑みを浮かべながら、同心の斬撃を避けるラグナ。徐々に数は減ってきているが、抵抗を止めない者も多い。 「ですが……出来れば抵抗しないで欲しいですね。無駄に怪我をさせたくありません」 桧が槍の柄で突きを放つと、直撃を受けた同心が崩れ落ちる。 直後、奥の襖が勢い良く開き、ライ達4人が姿を現した。拘束された奉行達も一緒である。 「おらおら! てめえらの親分はもうふん縛ってやったんだ、神妙にしやがれ!」 降伏を促すように叫ぶ瑠枷。突き付けられた現実に、同心達の間に動揺が走る。 「自分で物作りしねえ奴は、すぐ金儲けに走りやがる…民が流した汗と涙の分きっちりと償って貰おうかっ!」 名奉行気取りで、玲は床を踏んで『ドンッ』と鳴らした。心の支えを失った同心達は、次々に崩れ落ちていく。 「牢屋の鍵も見付けたよっ! 早く牢屋の人達を助けに行かなきゃ!」 「本当なりか!? なら、全力前進っ! 今すぐ助けに行くなりよーっ!」 リィムナと譲治は顔を見合わせると、一目散に牢屋に向かって走り出した。他の6人は、同心達の腕を荒縄で縛っていく。 「牢が空くなら、コイツ等は牢に入って貰おうぜ? 一応、共犯だしな」 琥珀の提案に、他のメンバーが静かに頷いた。同心の腕を取って立たせると、地下に向かって歩かせる。 「貴方達の罪は、奉行や役人の悪事を暴けなかった事です。牢の中で反省して頂きますよ?」 静かな口調で、同心達を諭すライ。放心状態の彼等に、その言葉が届いているかは定かでは無いが。 ●一件落着? 牢から開放された農民達が、喜びの声を上げながら奉行所から駆け出す。一仕事終えた開拓者達は、お白州の座敷に放置されたままの奉行達に視線を向けた。 「さて…コイツ等にもお仕置きが必要だな」 「ここからは、お仕置きタイムだね♪」 瑠枷とリィムナは、不敵な笑みを浮かべながら奉行達に歩み寄る。端から見たら、どっちが悪人が分からない状況である。 「荒縄と猿轡の準備は出来ています。いつでも大丈夫ですよ」 布製の猿轡と荒縄を取り出すライ。3人共、お仕置きする気満々なようだ。 が、彼女達と奉行の間に、桧が素早く割って入った。 「ちょっと待って下さい! 力のある者が力の弱い者を好きにする…それでは、彼等のやっている事と同じではないですか!?」 彼女の叫びに、言葉を失う一同。相手は悪人とは言え、仕置きの内容次第ではギルドの信用に係わる。まして、食糧難の町で食べ物を粗末に扱うような事があれば、住人の反感は計り知れないだろう。 「お前の言う事も分かるが、コイツ等には罰が必要だ。違うか?」 言いながら、刺すような視線を向けるラグナ。良くも悪くも、融通の利かない彼らしい言葉である。 「だとしても……それは中央に任せた方が良いんじゃないかな? 悪人を裁くのは、俺達の仕事じゃないしね」 軽く苦笑いを浮かべる玲。どちらの言い分も分かるが、今回はお仕置きしない方が無難かもしれない。 「お仕置きは後回しにして、食事にするのはどうなり? 奉行所の食料も使って、みんなに振舞うなりよっ!」 奉行所の食料庫には、年貢米等が大量に置いてある。それを全て開放したら、町民達も喜ぶだろう。 「飯か…そっちの方が楽しそうだな!」 譲治の提案に、琥珀がニッコリと微笑む。玲と桧も同意し、4人は食料庫と台所に向かって行った。 残った4人は、顔を見合わせて軽く頷く。瑠枷とライは役人達の縄を更にキツく締め、猿轡を噛ませた。リィムナは同心達の顔にイタズラ書きをし、ラグナは『天に代わりて不義を討つ』と書かれた半紙を貼り付ける。 この程度なら、誰も咎める事は無いだろう。 |