一・攫・千・金
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/14 19:43



■オープニング本文

「物言わぬ俺の戦友よ、力を貸してくれ……でぃやぁぁぁ!!」
 薄暗い坑道の中をランプの光が淡く照らし、固い金属音が周囲に響く。裂帛の気合と共にツルハシを振り下ろした男性は、奥歯を噛み締めながら更に力を加えた。だが、岩肌に刺さったツルハシの深さは変わらない。
「くっ…駄目、なのか」
 両手を離し、地面に腰を下ろす男性。ウェーブのかかったセミロングの赤い髪が、汗で顔に張り付く。
「随分と、良い格好だな」
 別の通路から姿を現したのは、前髪にメッシュの入った男性。その右手には、鉄製の杭と金槌が握られている。彼の姿を見た瞬間、赤髪の男性は猛烈に不機嫌そうな表情を浮かべた。
「……余計なお世話だ。これがな」
 そっぽを向いた赤髪男性の様子を見て、メッシュの男性は軽く笑みを浮かべながら手を差し出す。赤髪の男性はそれを払い除け、自力で立ち上がった。
「ここに来たという事は…貴様の方も『外れ』か?」
「……ああ」
 杭と金槌を地面に置き、メッシュの男性は岩壁に背中を預けた。
「岩盤が固過ぎて、杭が通らん。周囲からは、金の出そうな痕跡すら無いな」
 俯き加減で、悔しそうに言葉を吐く。彼らの仕事は、鉱山に眠るお宝を掘り出す事。つまりは、鉱夫。今日は新しく見付かった鉱脈を探索に来たのだが…結果は見ての通りである。
「ふん…相変わらず、賭けに弱い男だな、貴様は」
 岩に腰を下ろしながら、不敵な笑みを浮かべる赤髪男性。メッシュ男性が失敗したのが、心底嬉しいのだろう。
「ここに居たのか。調子はどうだい?」
 更に、通路の奥から黒いテンガロンハットを被った銀髪の男性が姿を現す。鉱夫にしては、奇抜過ぎる服装である。
「好調なら、こんな所で油を売ったりしないさ」
「確かにな。レッドヘアも不調かい?」
 メッシュ男性の言葉に、苦笑いを浮かべる銀髪男性。そのまま赤髪男性に声を掛けるが、彼は不快感を露にした。
「人をテキトウな名で呼ぶな…そう言う貴様も、随分と暇そうだな?」
 赤髪男性のツッコミに、銀髪の男性は肩をすくめ、掌を上に向けて肩の辺りまで上げる。
「こいつは手痛い指摘だな。OK、絶不調コンビ。ここは1つ、ギルドに依頼してみる…ってのはどうだい?」
 指を銃のような形にし、撃つようなジェスチャーを見せる銀髪男性。本気なのか冗談なのか、激しくツッコミを入れたくなる。
「ふっ…分の悪い賭けになりそうだな。面白い」
 メッシュ男性が不敵な笑みを浮かべる。言葉の内容から察するに、賭けに没頭して破産するタイプかもしれない。
 興味無さそうに立ち上がる赤髪男性。ツルハシの柄を握ると、力任せにそれを引き抜いた。
「勝手にしろ…それと、俺とこの男を一緒にするな」


■参加者一覧
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
ヴィクトリア(ia9070
42歳・女・サ
猪 雷梅(ib5411
25歳・女・砲
向井・操(ib8606
19歳・女・サ
キルクル ジンジャー(ib9044
10歳・男・騎


■リプレイ本文

●金を求めて
 依頼で指定された場所にやって来た開拓者達。快晴の空の下、先に来た鉱夫の3人がそこで待っていた。
「鉱夫の方々ですか? 初めまして、ギルドの依頼で来ました」
 滝月 玲(ia1409)が、言葉と共に頭を下げて丁寧な挨拶をする。それを見た銀髪の男性は、テンガロンハットを脱いで頭を下げた。
「ようこそ、開拓者の皆様。依頼を受けて頂き、光栄だ」
「そんな大袈裟な。あたい達は、一山当てに来ただけさねぇ」
 照れるように笑みを浮かべる、ヴィクトリア(ia9070)。男性の行動は良く言えば大袈裟だが、悪く言えばキザにしか見えない。
「一攫千金、良い言葉だな……それに、分の悪い賭けは、私も嫌いではない」
 一人呟き、向井・操(ib8606)は軽く笑みを浮かべた。その呟きが聞こえたのか、メッシュの男性も微笑む。
「フッ…機会があれば、お前とはトランプで勝負してみたいものだな」
 顔を見合わせて、笑顔を交わす2人。分の悪い賭け、つまりは大穴狙い。そんな2人が勝負をしたら、長い夜になりそうだ。
「一攫千金…二攫で二千金じゃないですかっ!! で、では10攫では………10千金!?」
 妄想しながら、1人で盛り上がるペケ(ia5365)。千の10倍が『万』という事に気付かない辺り、少々残念である。
「ちっと聞きたいんだがよ、鉱脈の中でコイツを撃っても問題ねぇか? 岩盤を銃撃で壊せるか、試してみたいんだが」
 不敵な笑みを浮かべながら、猪 雷梅(ib5411)は身の丈以上もある魔槍砲を親指で指差した。
「随分と豪快だな、こいつは。この辺りの頑丈な岩盤なら、問題無いだろう。銃撃でも焙烙玉でも、好きにすれば良い」
 雷梅の提案に、ぶっきらぼうな言葉を返す赤髪男性。このサイズの銃が使えるなら、採掘作業も多少は楽になるだろう。
「なら、豪快にやっちゃうのです! 早速、採掘場所に案内して欲しいのです」
 キルクル ジンジャー(ib9044)は、小さな手を握りながら元気に叫ぶ。そのまま腕をブンブンと回し、ヤル気満々である。
「OK、豪快ボーイ。みんなも、俺に付いて来てくれ。採掘道具も、向こうに置いてあるからな」
 テンガロンハットを被り直し、先導するように歩く銀髪男性。鉱夫と開拓者達は、その後を追うように歩き始めた。

●ド派手な採掘?
 歩く事数分、9人は岩山の奥に来ていた。ゴツゴツした岩肌の中に、ぽっかりと空いた大きな穴。その近くには、古びた小屋が1軒。
「ここが採掘現場さ。道具は小屋の中に入ってるから、好きに使って良いぜ?」
「ありがとうございます。掘り易い場所とか、コツとかあります?」
 立ち止まって説明する銀髪男性に、玲が問い掛ける。その後ろで、赤髪男性が鼻で笑った。
「素人に岩盤の見極めが出来たら、俺達は苦労しない。勘と運に任せて、好きなように掘るんだな」
 言い方には若干トゲがあるが、専門用語で説明されるよりは分かり易い。一応、彼なりに気を遣ったのかもしれない。
「運なら、微妙に自信があります! 寸志では終わらせないですよ!」
 両の拳を軽く握り、気合を入れるペケ。その目には『お金』の文字が浮かんでいるように見える。
 人知れず小屋に入っていたメッシュ男性は、棒のような物を持ってきて操に差し出した。
「…使ってみるか? お前なら、使いこなせるかもしれん」
「杭か…不器用な私には、小細工が必要無い道具の方が合っているかもしれんな」
 口元に笑みを浮かべながら、操は杭を受け取る。似た者同士、何か通じるものがあったのだろう。
「貴金属は好きですし、ちょっとワクワクするのです♪ みなさん、行きましょう!」
「ちょっと待って下さい。まずは坑道内に焙烙玉を設置して、外に避難してから魔槍で射撃してみるのはどうでしょう?」
 ツルハシ片手に突入しようとしたキルクルを、玲は腕で制して全員に提案を述べる。珍しい発想かもしれないが、実現不可能な内容ではない。むしろ、効率という点では優れているだろう。
「良いんじゃないかねぇ。掘り易くなるなら、あたいは大歓迎さねぇ。頼んだよ、雷梅」
 笑顔を浮かべながら、ヴィクトリアは雷梅の肩を叩く。雷梅は口元を綻ばせながら、魔槍砲を地面に突き立てた。
「任しときな! 岩盤だろうが焙烙玉だろうが、撃ち抜いてやるぜ!」
 言いながら、雷梅は豪快に笑う。身の丈以上の魔槍砲を持って移動したのに、これだけの元気があるのは流石である。
「なら、まずは焙烙玉の設置ですね。あの小屋の中にあったりします?」
 ペケの問いに、メッシュの男性は腕を組んで少々考え込む。
「確か…10個前後置いてあったはずだ。扱いには十分注意してくれ」
「子供が火遊びをすると、寝小便をするらしいが…な」
 不敵な笑みを浮かべながら、赤髪男性が茶化すように言葉を吐く。その視線は、最年少のキルクルに向けられていた。
「わ…私はそんなに子供じゃないのです! オジサン、失礼です!」
 頬を膨らませながら、抗議の声を上げるキルクル。その言葉に赤髪男性は苦笑いを浮かべているが、他のメンバーは大笑いである。
(キルクル殿は実に可愛らし――いや、私は仕事中に何を考えているのだ!?)
 ただ1人、操だけは熱い視線を向けているが。数秒で正気に戻ったのか、ブンブンと首を左右に振る。
「ほらほら、おしゃべりは後さ。早いトコ準備して、採掘しよかねぇ」
 手を叩きながら、ヴィクトリアが全員を促す。9人は顔を見合わせて小屋の中に入り、必要な物を運び出した。
 開拓者達は焙烙玉を坑道内に設置し、外に出て避難する。ちなみに、鉱夫達は小屋の中に退避済みである。雷梅は魔槍砲を構えると、照準を坑道の中に合わせた。
「よっしゃあ行くぜ!! 点火ァ!!」
 吼えるような叫びと共に、引き金を引く。
 銃声と爆音。地面を揺らす衝撃と共に、土煙が派手に舞い上がった。

●掘り進む者達
 坑道の入り口から、止め処無く吹き出す土煙。舞い上がった土砂や埃が落ち着くまで、数分の時間を要した。
「ここまで派手に爆発するとは……少々、焙烙玉が多過ぎたか?」
 苦笑いを浮かべながら、操は坑道の入り口を眺める。その腕は、キルクルを守るようにしっかりと抱き締めている。
「いくら硬ぇ硬ぇっつっても、こんだけ爆発すりゃヒビぐれぇ入んだろ」
 対照的に、不敵な笑みを浮かべる雷梅。万が一、この爆発でも無傷な岩盤があったら、お手上げだろう。
「ケホケホっ…操さん、ありがとうございますです。とりあえず、中に入ってみましょうか?」
 キルクルが咳をしながら礼を述べると、操は腕を放した。彼を先頭に、6人は坑道の中へと入って行く。
 ヴィクトリアと雷梅がランタンに火を点けると、全員で周囲を見渡した。
「へぇ〜…イイ感じに崩れてるさねぇ。これは、掘り甲斐がありそうさよ!」
 埃を吸わないよう、ヴェールで口元を覆うヴィクトリア。彼女の言うように、爆風で岩肌は崩れ、ヒビが縦横に走っている。この状態なら、かなり掘り易いだろう。
「スキルを覚えたり色々と物入りでね。ここは、一発掘り当てようじゃないかっ!」
 ツルハシを握る玲の手にも、力が入る。採掘道具を手に、6人は勘に任せて思うままの方向に歩き始めた。
「さてさてぇ、どちらに向かいますかねー?」
 周囲を見渡しながら、木の棒を地面に立てるペケ。その手を離すと、棒は南南東の方向に倒れた。
「この岩の奥に、私の幸せが待っているですねー。っと、その前に……」
 ツルハシを置き、ペケは手で印を結ぶ。直後、発生した炎が眼前の岩を焦がした。更に、ペケは体中の気の流れを操作して水を生み出し、岩を急激に冷やす。急激な温度変化は、物体を脆くする。それが金属でも岩盤でも変わりはない。岩肌の亀裂が広がり、ボロボロと崩れ始めた。その隙間から、金色の輝きが覗いている。
「よし、大成功♪ 掘る前にみんなのお手伝……声を掛けられる状況じゃないですねぇ」
 仲間を手伝おうとしたペケだったが、他のメンバーは既に採掘を進めていた。その様子は真剣そのもので、眼前の岩に全ての意識を集中しているように見える。
「ちっ、硬ぇ岩盤だな。もう1発、ブッ放してやるぜぇ!」
「我は金を掘る杭――向井・操、推して参る…!」
 猛烈な炸裂音と、強烈な金属音が周囲に響き渡った。雷梅の砲撃と、操の杭打が重なったのだ。耳が痛くなるような轟音が大気を震わせ、岩盤が崩れ落ちる。
「よし、あとは…ひたすら掘り進む!」
 雷梅はツルハシを振り上げ、岩肌に向かって全力で振り下ろした。硬い岩盤が崩れたせいか、豆腐でも崩すように順調に掘り進んで行く。
 操はノミを取り出し、岩を少しずつ砕く。岩肌が崩れると、金の塊が剥がれ落ちた。
「ふむ…時には繊細な作業も必要だな」
 満足そうな表情を浮かべる操。再び杭を手に取り、岩盤に突き刺した。
「さあ、張り切っていこうさねぇ!」
 裂帛の気合と共に、ヴィクトリアは斧を振り回す。柄を両手で握ると、渾身の力を込めて叩き付けた。岩盤が砕け、亀裂が走る。そこをランタンで照らし、金の煌きを確認していく。
「この煌き…脈がありそうさねぇ。叩き割ってみるさよ!」
 亀裂に沿って、更に斧を振り下ろす。岩の間から漏れる煌きが、一層強くなったように見えた。
「えっと…あっちから来て、こっちに進んで…ここは岩盤が固い、と」
 皆が岩盤と格闘している最中、キルクルはゴザを敷いて休憩していた。持参したおやつを頬張りながら、手帳に地図を記入していく。休憩時間を利用し、後から掘る者のために地図を作成しているのだ。
「これで良し、と。地道にがっつんがっつん掘るのです!」
 手帳を置き、再び掘り進めるキルクル。ノミとツルハシを使い分けて掘り、金色を含んだ岩塊は一箇所に集めていく。後で運び易くするための工夫だろう。
「やれやれ…岩の違いが分かったら、もう少し効率的に掘れた…かな?」
 岩壁を見ながら、玲は苦笑いを浮かべる。周囲を見渡しても、金が含まれていそうな箇所や掘り易い場所の見分けが付かない。仕方なく、発勁しながらツルハシで壁を崩していたのだ。玲は軽く溜息を吐くと、ツルハシを放り投げた。
「たまには、力任せにいきますか。ワンツーパンチ!」
 岩が薄そうな処を狙い、篭手に包まれた拳で殴りかかる。ツルハシよりも効率的且つ迅速に岩盤を砕く様子は、鉱夫達が見たら愕然としそうである。
 開拓者達の激しい採掘は、日が傾く頃まで続いた。

●金と笑顔と宴会
「お疲れ様、エブリバディ。結果はどうだい?」
 坑道から出て来た開拓者達を、鉱夫達が出迎える。開拓者の6人は、採掘した金や岩を入れたカゴを地面に置き、成果を見せた。
「こんなカンジです。10千金くらいにはなりましたかね!?」
 興奮気味に問い掛けるペケ。その目には、さっきよりもハッキリと『お金』の文字が浮かんでいる。
「ほぅ…素人にしては上出来だな、これが」
 6人の採掘量を眺めながら、素直に賞賛の言葉を述べる赤髪男性。それ程までに、彼等の採掘量は多いようだ。
「大きな塊じゃなくても良いですよね? 少しでも多く金を得るのですっ!」
 バケツに水を貯め、砕石を乗せたザルを沈める玲。砂金の要領で、金以外の不純物を洗い流していく。
「少々時間を貰えるか? 金の量や質を見て、報酬額を決めたいのでな」
 メッシュ男性の言葉通り、鉱夫達の品定めが始まった。金の1粒、岩の1欠片に至るまで、細かく目を通していく。邪魔をしないよう、開拓者達は金の傍を離れて様子を見守る。
「こういう時間って、ドキドキしますね! 高く引き取って貰えたら嬉しいのです」
 体育座りで膝に肘を乗せ、両手でアゴを支えるキルクル。鑑定結果が気になるのか、目がキラキラと輝いている。
(私は、金よりもキルクル殿の方が……)
 そんな彼に、操は熱い視線を送る。普段は若干鋭い表情をしているが、今の彼女は、まるで恋する乙女のような顔だ。
「待たせてすまない。これをギルドに渡してくれ。報酬を受け取れるよう、手配してある」
 品定めを終え、封筒を差し出すメッシュ男性。代表して雷梅がそれを受け取り、無くさないよう懐にしまった。
「一攫千金か、寸志か、結果は帰ってからのお楽しみにして……一仕事終わったし、皆で騒ごうさねぇ!」
 上機嫌な様子で、ヴィクトリアはペケと操の首に腕を回した。依頼が終わったのだから、大騒ぎしたくなるのも無理はないが。
「いいねぇ! おまえ達も一緒に飲もうぜ? 人数は多い方が楽しいしな!」
 けらけらと笑いながら、雷梅は鉱夫達を誘う。その言葉に、3人は軽く笑みを浮かべた。
「OK、美人のお誘いなら、喜んでお受け致しましょう」
 こうして、急遽宴会が開かれる事になった。ハメを外し過ぎて、キルクル以外は二日酔いになりそうで少々心配である。