高き山に舞う翼
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/29 22:48



■オープニング本文

「ん〜………」
 ある日の昼下がり。武天のギルドで、筆を咥えながら考え事をする女性職員が一人。卓上に両肘を付き、組んだ手の甲に顎を乗せながら、一枚の紙と睨めっこをしている。
「何してんだ、お前?」
「きゃわ!?」
 突然後ろから声を掛けられ、女性は悲鳴にも似た声を上げた。彼女以上に、声を掛けた男性職員の方が驚いているが。
「お……驚かすなよ、お前!」
「ごっ、ごめんなさい! ちょっと、考え事をしていたので…」
 深々と頭を下げて謝罪する女性。その態度に、男性は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「ったく……で、一体何を考えてたんだ?」
「実は……」
 男性の問いに、彼女は卓上の紙を差し出した。
「これは…相棒の管理表か? 迅鷹の数が少ないみたいだけど」
 開拓者と行動を共にする相棒は、ギルドで飼育される事が多い。開拓者が氏族から貸与や譲渡、購入する場合もあるが、いずれの場合も最終許可はギルドが下している。故に、ギルドでは相棒の数を把握しているのだ。
「そうなんですよぉ……鷹匠さんのトコで調教してる数も少ないみたいで……どうしたら良いかと思いまして」
 捕らえられた野生種や、雛から育てられた迅鷹は、鷹匠の元に送られる。そこで調教を受けて、相棒として一人前になるのだ。
 だが、今の頭数では少々心許ない。将来的に、相棒として戦える迅鷹が足りなくなる可能性もある。あくまでも『もしかしたら』という、憶測ではあるが。
「なら、依頼でも出したらどうだ? 南部の山奥に、野生の迅鷹が棲んでるみたいだし」
 沈黙。
 数秒後、女性は『ポン』と手を叩き、依頼書の作成に取り掛かった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
此花 咲(ia9853
16歳・女・志
破軍(ib8103
19歳・男・サ
ルカ・ジョルジェット(ib8687
23歳・男・砲


■リプレイ本文

●翼を求めて
 人々が生活している場所から離れると、人工的な音は消えて大自然の鼓動が全身に伝わってくる。人里離れた山奥なら、尚更である。今、彼らが歩いている場所には、人工的な音は何一つ無い。
「迅鷹の捕獲、か…変わった仕事だが、こういう機会に接するのも悪くないかもな」
 周囲を見渡しながら、破軍(ib8103)は軽く笑みを浮かべる。彼がこんな表情をするのは珍しい。それだけ、迅鷹に興味があるのだろう。
「内容の珍しさはともかく、一度依頼を受けた以上、期待には応えなければな」
 依頼を達成するために、万全の準備をして来た羅喉丸(ia0347)。その行動は、義に厚い彼らしい。
「要は…迅鷹をコッソリ自分等で回収してきて、水増しを図ろうって寸法ですよね? ギルド職員も悪よのぅ♪」
 穏やかではない言葉と共に、ニヤリと笑うペケ(ia5365)。その表情は『典型的な悪代官』にしか見えない。
「シニョリーナ、ペケ。意外と冗談が好きみたいだね〜」
 ペケの冗談に気付き、ルカ・ジョルジェット(ib8687)も同じようにニヤリと笑う。依頼中でなければ、二人の寸劇が見れたかもしれない。
「うちにも迅鷹が居るけど、まさに絆が力となる相棒だ。未来の開拓者達にもこの感覚は味わって貰いたいし、頑張らなきゃなっ!」
 拳を力強く握って熱弁する、滝月 玲(ia1409)。それだけ、自身の相棒と深い信頼関係にあるのだろう。
「だが…奴らは素早いからな。全員で協力しないと、捕獲するのは難しそうだ」
 そう言って、焔 龍牙(ia0904)は地図と現在位置を見比べる。そこに記されているのは、迅鷹の出没予想位置。彼の情報収集の賜物である。
「素早いだけじゃなくて、獰猛だからなー……捕まえるのは苦労しそうだ」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)は、遠くを見ながら口を開く。恐らく、迅鷹との記憶を思い出しているのだろう。
「絵梨乃さん、迅鷹に詳しいんですか? 私は捕獲とか初めてなので、ちょっとワクワクなのです」
 対照的に、楽しそうな雰囲気を出しているのは、此花 咲(ia9853)。彼女の質問に、絵梨乃は苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「詳しいって言うか…家の迅鷹と芋羊羹を賭けて喧嘩してるだけだよ」
「ハハハ♪ 迅鷹と喧嘩か〜、随分とフレンドリーな関係だね〜」
 彼女に言葉に、ルカは楽しそうに笑い声を上げる。彼以外は顔に出していないが、他のメンバーの緊張感も若干和らいでいるに違いない。
「過激な愛情表現ですね。私には真似出来ないのですよ」
 感心したような声を上げる咲。心動かされる点が若干ズレているような感じもするが、気にしたら負けである。
 先導していた龍牙が足を止めた瞬間、頭上から甲高い鳴き声が響いてきた。全員がその方向、つまりは上空に視線を向ける。青い空を背景に、天を舞う影が複数。
「あれって…迅鷹ですかね? 普通の鳥なら、ちょっとガッカリですが」
 鳥の影を目で追いながら、複雑な表情を浮かべるペケ。迅鷹は特殊な外見をしているが、飛んでいる影だけでは判別するのが難しい。
「それは捕まえてみないと分かりませんね。早速、罠を仕掛けてみましょう」
「あぁ。万屋の店員や、鷹匠に教わった事が役に立ちそうだ」
 龍牙と羅喉丸の言葉に、全員が荷物を下ろした。中身は、迅鷹の餌や捕獲用の網。今日の依頼のために、自分達で準備してきた物である。
「俺や絵梨乃さんは迅鷹に慣れてるけど、捕獲するとなれば話は別。餅は餅屋っていうからね」
 言いながら、手際良く準備を進める玲。飼っているだけの事はあり、迅鷹に関しては一日の長があるようだ。
「本職と同じことを一朝一夕で出来るとは思わん。だが、何も知らないよりは遥かにマシだ」
 破軍の言うように、鷹匠達の教えが参考になったのは間違いない。それを巧く活かせるかは、彼ら開拓者次第なのだが。

●襲い来る翼
「餌がイッパイですね〜。私のは、良く分からない謎の肉ですが…」
 数十分後、周囲に設置された罠を見渡しながら、ペケが声を上げる。広く平らな場所に点在する大量の生肉に、巧妙に隠された罠の数々。それは、素人とは思えないデキである。
「牛肉より、生餌の方が良いかもしれないな……ウサギでも探してみるか」
 一人呟き、羅喉丸は茂みの中に姿を消して行く。依頼達成のために、妥協を許さないのだろう。
「シニョーレ龍牙、それは何をしてるのかな〜?」
「荒縄に重りを付けて、投げ易くしてるんです。ついでだから、トリモチで粘着力をアップさせようかと」
 ルカの質問に、龍牙は荒縄を見せる。そのまま、用意したトリモチを木製のヘラで掬い、縄に塗り付けた。万が一にも衣服に付着したら、大惨事になりそうである。
「野鳥、逃げるどころか増えているのですよ。皆様方、準備は良いですか?」
 上空の様子を観察していた咲が、開拓者達に問い掛ける。鳥達に逃げる様子は無いようだし、そろそろ頃合いだろう。
「こっちは問題無い。いつでも大丈夫だ」
 破軍の返答に反論する者は居ない。全員、準備が完了しているようだ。
「じゃぁ、隠れて罠に掛かるのを待つとしようか」
 絵梨乃の提案に、全員が茂みの中に姿を隠す。ウサギを捕まえて戻って来た羅喉丸も、その様子から状況を察知して隠れる。
「人間の知恵が勝つか、野鳥の勘が勝つか、勝負ですね」
 不敵な笑みを浮かべながら、生肉に繋がった縄を動かす玲。餌を動かして注意を引き、鳥達を誘導する作戦なのだ。数分後、1匹の鳥が下降して餌に喰い付く。それが引き金になったように、次々に鳥が群がってきた。それは、餌が数分で無くなりそうな激しいイキオイである。
 鳥達が完全に油断している隙を狙い、ペケは竹竿でトリモチを押し付けた。直後、羅喉丸は驚異的速度で茂みの中から駆け出す。赤く染まった体で、一気に網を投げ放った。そのタイミングに合わせ、玲も赤く染まった体で網を投げる。2人の網が空中で重なり、鳥達に覆い被さった。
 更に、龍牙、絵梨乃、破軍、ルカが4方向から取り囲み、簡易的な檻のように組み合わせた荒縄を投げ放つ。その縄が被さるより早く、3つの影が網を破って上空に飛び上がった。網と荒縄の中で暴れる鳥達。その中で、1羽だけは一心不乱に餌を食べている。
「ダメ元だったんだが…物好きな迅鷹も居たもんだな」
「トリモチも網も縄も無視して、黙々と食べてますねぇ」
 驚愕の表情を浮かべる絵梨乃とペケ。その視線の先に居るのは、4枚の翼を持った鴉の迅鷹。生肉には見向きもせず、絵梨乃が冗談で置いた芋羊羹に喰い付いている。絵梨乃の言葉通り『物好き』としか言い様が無い。
「だが、網に掛かっているのは普通の野鳥ばかりだな」
 網の中で暴れる鳥を見ながら、冷静に言葉を告げる破軍。捕獲出来た鳥は何羽か居るが、迅鷹の特徴である『2対4枚の翼』や『飾りの宝石』を持っているのは、鴉の1羽だけである。
「どうやら、本命は空に逃げた奴らみたいですね」
 龍牙の言葉に、全員が天を仰ぐ。その視線が3つの影を捉えた瞬間、鳥達が急降下してきた。4枚の羽が空を切り、鋭い爪が迫る。
 羅喉丸は気の流れを制御しながら大地を踏み締めると、隼の爪撃を柔軟な動きでかわす。が、爪が頬を掠り、薄っすらと血が流れた。
 鳶の爪撃に対し、絵梨乃は瞬間的に動体視力を上げる。更に反射神経を増幅させ、フラフラと酔ったような動きでそれを回避した。
 鷲の標的は、ペケとルカ。その先端が2人に届くより早く、咲は鷲の間に割って入った。攻撃を受け流す様に盾で防御し、迅鷹に怪我が無いように注意を払う。3羽の迅鷹は翼を広げ、再び天高く昇って行った。
「むむうっ、流石に鋭い攻撃なのです…」
 迅鷹の攻撃に、苦笑いを浮かべる咲。アヤカシの攻撃なら、武器で受け止めたり払い落とせるが、相手が迅鷹で捕獲が目的となると勝手が違う。
「ありがとう、シニョリーナ咲」
「お陰で助かり…きゃっ!」
 突然の事に戸惑いながらも、笑顔で礼を述べるルカとペケ。直後にペケの褌が緩み、短い悲鳴を上げながらしゃがみ込んだ。反応が遅れたら、違う意味で『大惨事』になっていただろう。
「相手は本気で攻撃してくるのに、こっちは全力を出せないのは厳しいな」
 そんな大騒動を尻目に、羅喉丸は苦笑いを浮かべながら迅鷹達を見上げる。頬の血を拭い、予備の網に手を伸ばした。
「ふん…ちょこまか動きやがって。少々強引にいくが、可能な限り怪我はさせるなよ!」
 全員に向かって叫び、破軍は雄叫びを上げる。その声に引かれたのか、迅鷹達はゆっくりと降下してきた。
「玲さん、俺が隙を作りますから、そこを狙って下さい」
「焔龍と炎帝の連携ですね? 了解です!」
 顔を見合わせ、軽く笑みを浮かべる2人。大きく翼を広げた鷲の迅鷹に向かって、龍牙は魔槍砲を撃ち放った。行動を阻害し、上空への逃げ道を防ぐような砲撃。自身を掠めるような弾丸に、鷲は怒りの声を上げながら龍牙に突撃した。
 そこを狙い、玲は横から走りこむ。トリモチを塗った盾を構え、鷲に体ごとブチ当たった。鷲が怪我をしないよう、抱き締めるように地面を転がる。トリモチで動きが鈍っている隙に、玲は縄と皮袋を取り出した。
「観念するんだね。悪いけど、縛らせて貰うよ?」
 両腕の筋肉を隆起させ、縄で迅鷹の翼と足を縛って頭に皮袋を被せる。身動きを封じられ、鷲はようやく大人しくなった。玲と龍牙は再び顔を見合わせ『グッ』と親指を立てる。
 その一瞬の隙を突くように、鳶の迅鷹が玲に向かって急降下した。
「さぁ…頼んだよ、シルヴィア〜!」
 ルカは愛銃の名を呼びながら、素早く照準を合わせる。意識を集中させた銃撃が、嘴のと翼を掠めた。その威嚇射撃に驚いた鳶は、速度を落としながら旋回した。
 丁度、その先には羅喉丸が入る。彼は鳶に向かって網を投げ、絡まっている間に体を押さえ付けた。荒縄を手繰り寄せ、網ごと体を縛り上げる。
「裏でこんな苦労があったとは…鷹匠達には、頭が下がる思いだな」
 鷹匠達に敬意を払う羅喉丸。その腕の中では、縛られた鳶が諦めずに暴れている。
 残るは、隼の迅鷹。標的になった絵梨乃は、先程と同様に不規則な動きで回避を繰り返していた。
(アイツと毎日のように死闘を繰り広げてるボクには、迅鷹の動きなんて止まって見える……はずだ!)
 心で思っている事とは裏腹に、絵梨乃の体には斬り傷が刻まれていく。直撃は避けているものの、爪や嘴が彼女の体を掠めているのだ。
 タイミングを見計らい、絵梨乃は右足を踏み込む。突撃してくる隼の勢いを利用し、手刀を首の辺りに打ち込んだ。その一撃で、隼の体が草むらの上に落ちる。尚も飛び立とうとする迅鷹を、咲は優しく抱き上げた。
「ごめんなさい、大人しくして下さいなっ!」
 彼女の悲痛な叫びが届いたのか、隼が腕の中で大人しくうずくまる。念のために縄で体を縛り、鳥達との戦いは決着を迎えた。

●新たな翼を胸に
「隼に鴉に鷲に鳶か〜。随分とバラエティに富んでるね〜」
 捕まえた迅鷹を眺めながら、ルカは軽く笑みを浮かべる。ちなみに、鴉も翼や足を縛っったが、まだ芋羊羹に夢中である。
「フクロウやミミズクが居ないのは残念ですね…まぁ、あれは夜行性ですし、仕方ないですが」
 フクロウ好きな龍牙としては、少々期待していたのだろう。極稀に、日中活動するフクロウも居るが。
「コイツ等、怪我はしてないだろうな? 一応、調べてみてくれ」
 自身が相手をした隼に、心配そうな視線を向ける絵梨乃。4羽の迅鷹に、全員の視線が集まった。
「こっちは大丈夫みたいです。元気に餌を食べてるのですよ」
 咲の言葉通り、隼は彼女の差し出した生肉に喰い付いている。
「こっちもです。少々打身になってますが、痛みは無いみたいです」
「トリモチでベタベタしてる事を除けば、問題無しですよー」
 鷲の体に赤いアザのようなものが出来ているが、触っても特に反応が無い。恐らく、玲の捕獲方法が良かったのだろう。ペケの言うように、ベタベタの方が大変そうだ。
「もう大丈夫だから……ゆっくりお休み」
 子供を眠らせるように、優しく鷲に語り掛ける玲。ようやく安心したのか、鷲は甘えるような声を出して彼に体を預けた。トリモチで、軽く大変な事になっているが。
「こいつ等は、これから調教されるのか。手間を考えれば、迅鷹が高いのもしょうがないな」
 優しい表情で、羅喉丸は鳶の頭を撫でる。未だに暴れている鳶を調教するのは、骨が折れそうだ。
「お前……良い目をしているな」
 隼の目を見詰めながら、一人呟く破軍。そのまま、ゆっくりと手を伸ばした。
「今は手持ちは無いが…必ずお前を貰い受けに来るぞ、待っていろよ」
 優しく微笑みながら、そっと頭を撫でる。彼のこんな様子は、非常に珍しい事かもしれない。
「目的は無事に達成出来たし、網に掛かった野鳥は逃がしてやらないとな」
 羅喉丸の視線の先、網の中で身動きとれずにいる野鳥達。このままにして帰ったら、極悪非道である。
「これも全部迅鷹だったら、依頼大成功だったでしょうねぇー」
 網の中に居る野鳥は、約10羽。ペケの言うように全て迅鷹だったら、鷹匠達も大忙し間違い無い。
「その分、捕まえるのが大変ですよ。今日くらいの数が丁度良いと思います」
「ミーとしては、我慢とか集中が必要な捕獲作戦はコリゴリだよ〜」
 苦笑いを浮かべる龍牙とルカ。今日以上の数で攻められたら、手加減し続けるのは難しい。ルカも、我慢の限界だっただろう。
 迅鷹が逃げないように縄でしっかり結ぶと、8人は協力して野鳥の網を外した。野鳥が空に飛び上がり、網に絡まったままの鳥は丁寧に外していく。ほんの数分で、全ての野鳥が空に飛んで行った。
「さて…あとはギルドに帰還すれば終わりだな。『家に帰るまでが依頼』というヤツか」
 不敵な笑みを浮かべながら、縄や網を片付ける絵梨乃。全員で協力して罠を撤収し、荷物や迅鷹を分担して帰路に着く。
「こんな事をして、何を言うかと思うかもしれないですけど……これから、私達の力になって欲しいのですよ」
 そっと隼の頭を撫でながら語り掛ける咲。その横顔は、夕日に照らされて紅く染まっていた。