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■オープニング本文 「あ〜…こりゃ駄目だなぁ」 ツルハシを片手に、筋骨隆々の青年が苦笑いを浮かべている。視線の先にあるのは、身の丈よりも大きな岩。しかも、1つや2つではない。 アヤカシとの終戦を機に、天儀では開拓や復興が進んでいた。家屋の修復や建て替え、農地や畜産地の拡張、道路や水路の整備等、作業は数多い。 中でも、土地の開墾は急務である。人が住む家も、家畜や作物を育てる場所も、土地が無ければ作れない。そのため、山や林を切り拓き、なだらかな斜面を崩して平地にしているのだが…。 その最中、土の中から岩が顔を出した。砕こうにもツルハシでは歯が立たず、火薬でも傷1つ付かない。掘り起こそうにも大き過ぎるし、重くてビクともしない。 「大将、こっちもお手上げですぜ。手も足も出せやしません」 青年同様、筋肉質の作業員達が溜息混じりに言葉を漏らす。彼等は開墾を任された土木作業員だが、岩の出現で作業は停止。掘る場所をズラしても違う岩が行く手を阻み、途方に暮れていた。 このままでは作業が進まず、復旧が遅れてしまう。作業員達は全員で話し合った結果、ギルドに頭を下げた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ● アヤカシの脅威が激減し、復興に向かって歩き始めた世界。平穏な日常が徐々に戻りつつあるが、各地には大戦の傷痕が深々と残っている。荒野と化した町、失われた命、心に刻まれた傷の数々…それらを振り払うように、人々は復興や再生に励んでいた。 だが…開墾作業を邪魔するように、カラフルで頑丈な岩が出現。瘴気を浴びて変質したらしく、筋骨隆々な青年がツルハシを振り下ろしても傷1つ付かない。困り果てた作業員達は、ギルドに助けを求めた。 その希望に応えた開拓者は、5人。作業員用の詰所で全員が合流すると、依頼主に連れられて開墾現場に移動した。 「ここが問題の現場です。大変だとは思いますが…お願いできますか?」 「任せといて! あたいの大筒で、岩なんてブッ壊しちゃうよ!」 作業員の言葉に、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が満面の笑みを返す。視界にある『邪魔な岩』は、赤、青、桃、緑、黄の5種類。身長100cmに満たないルゥミより遥かに大きいが、彼女には岩を破壊する自信があるようだ。 そんなルゥミとは対照的に、ケイウス=アルカーム(ib7387)は苦笑いを浮かべながら岩肌を軽く叩いた。 「瘴気で変質かぁ…これは、なかなか手強そうだね」 手から伝わる感触は、岩とは思えないくらいに硬い。開拓者とはいえ、これを破壊する威力を引き出せるか…一抹の不安が心に影を落とした。 「だが、修練の成果を見るには丁度良い。可能な限り砕くとしよう」 岩を目の前に、集中力を研ぎ澄ませる羅喉丸(ia0347)。彼は開拓者になって以来、日々の鍛練を欠かした事が無い。『千理の道も一歩から』…全ては自身の武力を磨き、弱き者の力となるために。 『人々の力になりたい』という気持ちは、ここに居る全員が同じである。ケイウスが依頼人に避難を促すと、開拓者達は兵装を握り直して岩に歩み寄った。 現場にある岩は、赤と青と桃色が2個ずつ、緑と黄色が1個ずつの計8個。それぞれ極微量の瘴気を放っていて、赤、青、桃、緑、黄の順に反応が薄くなっている。恐らく、硬度も赤が一番高く、黄色は最も柔らかいのだろう。 「まずは、小手調べだね。岩を粉砕するのに必要な破壊力を調べつつ、見えている8個を処理しようか」 周囲を見渡しながら、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が仲間達に声を掛ける。闇雲に全力で岩を攻撃したら、先に練力が尽きる可能性が高い。効率的に破壊するには、硬度を確認しておく事も大切である。 「りょ〜かい♪ 思い切りいくよー! インフィニットミラー!」 フランヴェルの言った事を理解したの分からないが、リィムナ・ピサレット(ib5201)は元気良く返事をして奥義を発動。彼女の両脇に鏡のようなモノが出現し、ほんの数秒でリィムナと同じ姿に変わった。 これは、自身に似た式を作り出すスキル。『鏡の中の世界に居る自分』や『平行世界から来た自分』などという、ややこしい存在ではない。リィムナが3人に増えた事で、『幼い少女が大好き』なフランヴェルが嬉しそうに微笑んでいるが…見なかった事にしよう。 リィムナ達は軽く視線を合わせると、ブ厚い呪本を強く握った。練力が精霊に干渉し、白い燐光となって具現化。それが呪本の角に集まっていく。 「必殺! シャァァァイニングゥゥ…本のカドォォォーッ!」 叫びながら、3人のリィムナが赤い岩に向かって本を振り下ろした。本が岩肌に触れた瞬間、燐光が瘴気と反応して蒼白い炎と化す。それが岩の内部を駆け抜け、一瞬で赤岩を粉砕。巨大な岩が砂のように粉々になり、蒼炎だけが静かに燃え残った。 「そーれ、どっかーん!」 ルゥミの楽しそうな声と共に、彼女の身長よりも大きな円錐型の火縄銃から、紙吹雪と光の粒が撃ち出される。 『パンッ』という軽い炸裂音とは裏腹に、放たれた弾丸は衝撃波を伴って直進。砲撃と衝撃が赤岩に大きな風穴を穿ち、そこから亀裂が広がって岩を粉々に砕いた。 「リィムナもルゥミも、凄い破壊力だね。俺は手始めに…黄色い岩にチャレンジしてみようかな」 少女2人の攻撃力に感心しつつ、ケイウスは黄色い岩に狙いを定める。細長い指で竪琴の弦を弾き、激しい狂想曲を奏でて精霊に干渉。荒れ狂う力が近隣に広がり、黄色の岩を小石サイズに粉砕した。 ほんの数秒間、ケイウスの動きが止まる。ここまで上手く砕けるとは思っていなかったのか、ポカ〜ンとした表情で放心しているようだ。時間と共に粉砕した実感が湧いてくると、嬉しそうにガッツポーズを決めた。 「よーし、この調子で次だね!」 岩の破壊に成功し、ノリノリなケイウス。次いで緑の破壊には成功したが、桃には攻撃が通じない。若干ガッカリしつつも、ケイウスは仲間達に助けを求めた。 彼の代わりに、羅喉丸とフランヴェルが桃色の岩と向き合う。2人の兵装は、刀剣。岩を砕くには不向きかもしれないが…熟練の開拓者に、一般人の常識は通用しない。 羅喉丸の持つ黒い刀身の剣が宙を奔り、フランヴェルの身長と同じくらいの野太刀が一閃。互いの眼前にあった桃色の岩は、拳くらいの大きさに斬り砕かれた。 「ふむ…何かを産み出すために力を振るうというのも、楽しいものだな」 粉々になった岩を眺め、ほんの少しだけ笑顔を浮かべる羅喉丸。今までの依頼では、アヤカシを倒す『破壊目的の剣撃』だったが、今日は岩を破壊した先に『復興』という未来が待っている。戦闘以外の事に力や人員を回せる事が、彼には嬉しかった。 残った2個の青岩には、リィムナの殴打とルゥミの砲撃が炸裂。少女達の攻撃が青岩を軽々と粉砕し、8個あった岩は全て姿を消した。これで、依頼自体は完了だが…。 「意外と簡単に砕けちゃったね〜。まだ岩が残ってるかもしれないし、開墾のお手伝いをしよっか♪」 リィムナに、帰る気は毛頭無い。開墾現場は意外に広く、まだ未着手の場所もある。万が一にも岩が残っていたら、また作業が止まってしまう。 だから、今この場で全ての岩を破壊しようと思っているのだ。 「ボクは賛成だよ。土を耕すのは好きだからね♪ 道具を貸して貰えるなら、何の問題も無いさ♪」 フランヴェルは外見に似合わず、体力が高い。地方貴族出身の彼女が農耕好きなのは意外だが、開墾を手伝ってくれたら作業が一気に進みそうである。 当然、このまま帰還しようと思っている開拓者は1人も居ない。事情を説明して了解を得るため、5人は一旦詰所に戻って行った。 ● 「車にゃん吉・ルゥミの、おまけこーなー!」 意味不明な事を口走りながら、手押し車で石を運ぶルゥミ。手押し車は、別名『猫車』とも呼ばれている。ルゥミは『猫=にゃんこ』という事で、にゃんこ車と呼んでいるようだ。 色々とツッコみたいのを我慢しながら、開墾を進める開拓者達。本格的な整地作業は土木作業員が行うため、5人の仕事は根を掘り出し、石や余分な土を運び、邪魔な岩を破壊する事。依頼主に借りた地図で作業区域を確認し、手分けして作業に当たっている。 順調に作業が進むかと思ったが…5人が予想した通り、現場内には『邪魔な岩』が残っていた。切り株が絡まっていたり、土に埋まっていたり、木の陰に隠れていたりと状況は様々だが、見逃すワケにはいかない。 作業効率を考え、スキルを使わずに破壊出来る物は発見と同時に破壊。硬い岩は掘り起こして放置し、後で纏めて砕く作戦である。 土地の開拓と岩の破砕を繰り返す中、リィムナが丘の斜面を崩すと、その下から青い岩が顔を出した。それも、5個まとめて。 彼女の実力なら青岩も破壊できるが、奥義は消耗が激しいため複数攻撃には向いていない。一先ず岩を完全に掘り出し、リィムナは軽く溜息を吐いた。 「いっぱい出てきたね〜。フランさん頑張ってー♪」 「フッ…任せてくれ、仔猫ちゃん。岩如き、黄金の牙が粉砕してくれる!」 リィムナに声を掛けられ、フランヴェルは嬉々としてツルハシを投げ放つ。青岩と対峙して兵装を構えると、巨大な刀身に練力を集めた。 「秘剣、轟嵐刃ーッ!」 裂帛の気合と共に、練力が無数の刃と化して周囲を奔る。黄金色の光が空中に軌跡を描き、嵐の如く荒れ狂って青岩を寸断。宣言通り、5個の青岩は粉々に砕け散った。 ● 作業開始から数時間、開墾予定地は5人の協力で平地になりつつあった。不要な樹木は伐採し、切り株や石は掘り起こして運び出し、土の量も調節。残る作業は…岩の破壊だけである。 「これが、岩の出てきた位置だ。かなり広範囲だが、全員で手分けすれば全て破壊出来ると思う」 地図を指差しながら、状況を説明する羅喉丸。図面を見る限り、現場全域にイヤガラセの如く岩が点在している。黄色と緑は全て砕けたが、青と桃色が若干残っている上、赤は10個近くある。 手分けして各個撃破する事に、異論は出ない。ケイウスは仲間達を援護するため、軽快なリズムの楽曲を奏でた。 「強烈な一撃、期待してるよ!」 演奏が精霊を呼び起こし、志体と反応して身体能力を増幅。仲間達が岩を破壊し易いよう、攻撃に特化して強化している。 「ありがと、ケイウスさん♪ 岩相手に本気になり過ぎかもしれないけどねっ!」 礼を言いつつも、イタズラっ子のような笑みを浮かべるリィムナ。彼女の若干イヂワルな指摘に、ケイウスは大きく咳払いしてから口を開いた。 「いやいや。天儀には『嵐龍は兎を狩るにも全力を尽くす』ってコトワザがあってだな…」 「そんな諺は初耳だが…全力を賭す事に異論は無い。俺も全身全霊で相手をしよう…!」 羅喉丸はケイウスの言い訳をキレイに受け流し、精神を研ぎ澄ませる。 『獅子搏兎』。獅子は兎を狩るにも全力を尽くす…という意味の言葉だが、ケイウスが言いたかったのはコレの事だろう。彼の言葉を使うなら『嵐龍搏兎』と言ったところか。 その意味に何となく気付いた羅喉丸は、練力と気力の流れを一気に活性化。全身からオーラが噴き出し、衝撃波が周囲を駆け巡った。 「咆えろ麒麟よ! 限界を超えた我が一撃にて…微塵に砕け散れ、赤岩よ!」 裂帛の気合と共に、羅喉丸は地面を蹴って走る。黒刀に全身全霊を込め、鋭く振り下ろした。練力と気力が渾然一体となった斬撃は、オーラを纏って赤岩を両断。麒麟の咆哮のような轟音が周囲に響き、岩が拳大に砕かれた。 間髪入れず、羅喉丸は剣を走らせる。肉体が限界以上の力を発揮できる時間は少ない。限られた時間で効率的に岩を破壊するため、羅喉丸は最適な順番を計算して剣を振るっているのだ。 彼の勢いに感化されたのか、フランヴェルは赤岩を蹴って天高く跳躍。空中で野太刀を振り上げ、練力を放出して加速しながら落下していく。 「受けよ…流星斬・雷霆重力落とし!」 振り下ろした切先が、雲耀の速さ…稲妻と同等の速度で岩肌に迫る。衝撃が大気を震わせ、斬撃が地面を斬り裂き、赤岩を完全に粉砕。カケラ1つ残さず、全てを無に還した。 「岩は一つも残さないよ! あたいの超弾幕、受けてみろー!」 言うが早いか、ルゥミは練力を一気に解放して身体能力を強化。その圧倒的な練力が背中から噴き出し、白い翼を形作っている。白翼が雪の結晶に似た幻影を舞わせる中、ルゥミは銃撃を放った。 弾丸が白い光と雪の結晶を伴い、周囲に降り注ぐ。言葉通りの超弾幕は、まるで雪の妖精が吹雪を巻き起こしているようにも見える。圧倒的な『白』が赤岩を次々に撃ち砕き、巨大な岩を消滅させた。 『3人のリィムナ』も、輝く呪本を手に暴れ回っている。強烈な殴打が赤岩を直撃し、瘴気ごと粉々に砕いていく。彼女が通った後に残るのは、瘴気を浄化する蒼炎のみ。 数分もしないうちに、開墾現場から全ての岩が消え去った。と同時に、練力と気力を使い果たした羅喉丸は気を失って転倒。開拓者達から、歓喜と驚愕の声が上がった。 ● 開墾を全て終えた開拓者達は、詰所へと戻って来ていた。依頼主に状況を説明すると、作業員達は大喜び。ある者は丁寧に何度も頭を下げ、違う者は現場を確かめるために走り去った。 どの依頼でも、一般人の喜ぶ姿を見るのは悪くない。この表情は、金では買えない代物だろう。 誰もが大喜びする中、羅喉丸は部屋の隅で壁に背を預けていた。それに気付いたケイウスは、彼にそっと歩み寄る。 「お〜い、大丈夫? 気分とか悪くない?」 心配そうに問い掛けるケイウスに、羅喉丸が無言で頷く。さっき羅喉丸が気絶した直後、ケイウスは慌てて介抱した。気付けにジャスミンの香水を嗅がせたのだが…それが体調に悪影響を与えていないか、気になっていたのだろう。 結果として、羅喉丸は数秒で目を覚ました。疲労は残っているが、体調的には特に問題無い。彼自身、倒れてしまった事よりも、岩を全て排除できた事を喜んでいた。 「喜んでるトコ悪いんだけど……お風呂貸して貰えると嬉しいな♪ 泥と汗でベトベトだし〜」 苦笑い混じりに、リィムナが申し訳なさそうに言葉を掛ける。開墾や岩の破壊で、開拓者達は土や岩粉をたっぷり浴びていた。力作業が多かったため、全身が派手に汚れている。 リィムナのお願いを聞き、作業員達の動きが一瞬止まった。互いに顔を見合わせ、無言で視線を送り合っていたが、1人が重々しく口を開く。 「申し訳ありませんが…この現場に風呂は無いんですよ。作業員は男だけですから、仕事の後は川に入る程度でして…」 詰所に風呂を作ると、手間と時間は倍近くかかる。泊まりの仕事は滅多にないし、作業員達は風呂に拘らなかったのだ。 予想外の展開に、ガックリと肩を落とすリィムナ。相当残念だったのか、見ているのが気の毒になるくらい落ち込んでいる。 そんな彼女の頭を、フランヴェルが優しく撫でた。 「なら、ボクと風呂屋にでも行こうか。あ、ルゥミも一緒にどうだい? フフッ…みんな念入りに洗ってあげるよ♪」 物凄く優しい口調で誘いの言葉を口にしているが、その表情は怪しさ大爆発の笑顔。何かを企んでいるのは一目瞭然だが…純粋な少女達は、その事に気付いていない。リィムナもルゥミも、無邪気な笑顔を返した。 「みんなで洗いっこだね♪ 早く行こうよ〜!」 そう言って、ルゥミは楽しそうに手を引く。そのまま、女性陣3人は詰所を後にした。 残ったケイウスと羅喉丸は、依頼主達に挨拶してギルドに帰還。岩が無くなった事で復興作業は一気に進み、予定より早く人が住める土地に変わった。 |