未来へ向けた咆哮
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 2人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/28 18:18



■オープニング本文

 人の想いや言葉は、時として予想外の力を発揮する。仲間の声援が背中を押したり、恋愛感情が行動の原動力になったり、守りたい者のために強さを得たり。
 それは目に見えず、触れる事も出来ないが、感じる事は出来る。頭で、心で、魂で…言葉と想いを繋げ、他人との絆も繋がっていく。
 そして、強い想いを込めた言葉は時間や空間すら超えて広がる。過去の偉人達の言葉が今も受け継がれ、助けを求める言葉が国や人種に関係なく伝わる点から考えても、それは間違いないだろう。
「だから、想いを込めて叫ぶイベントを起こしたい…と?」
 朱藩のギルドで、克騎は依頼人の青年に問い掛ける。それに応えるように、青年は大きく頷いた。
「はいっ! 熱い想いに、年齢も性別も開拓者も関係ありませんっ! むしろ、平和になった今だからこそっ! 開拓者の皆さんも一般のイベントに参加するべきではありませんか!?」
 暑苦しいくらいに、熱い主張。大声とツバが連携して襲い掛かり、克騎に降り注いでいる。質問した事を若干後悔しつつ、克騎は苦笑いを浮かべながらハンカチを取り出した。
 青年がギルドに来たのは、大声コンテストを成功させるため。開拓者が参加してくれればイベントが盛り上がるし、万が一の時には警備を担当して貰える。ある意味、一石二鳥だろう。
「共に、熱い想いを叫びましょうっ! 平和な世界に感謝し、大切な人に気持ちを伝えるためにっ! 年齢も性別も関係ありませんっ! 熱い魂さえあれば、誰でも主役になれますっ!」
 熱さを増す、青年の叫び。その言葉を聞いているだけで、火傷してしまいそうだ。克騎は氷水で喉を潤すと、青年には熱々のお茶を淹れて依頼書作成を始めた。


■参加者一覧
/ リィムナ・ピサレット(ib5201) / 雁久良 霧依(ib9706


■リプレイ本文


「開拓者様のお陰で、アヤカシは消えました! ですが…亡くなってしまった人達の事、時々で良いので……思い出して下さい」
 10代後半と思われる少女の叫びに、会場が湧き立つ。歓声と拍手が雨のように降り注ぎ、周囲の熱気が一気に高まった。
 平和な世界を祝して開催された、大声コンテスト。参加資格は無く、一般常識の範疇であれば自由に叫んで構わない。優劣を競わず、各自の想いを伝えるための場所である。
 その先陣を切った少女は、周囲のプレッシャーに負けずに自身の想いを叫んだ。彼女の勢いに続くように、参加者達がステージに上がっていく。
「俺は…生きる! 生きて、お前と添い遂げてみせる!!」
 公衆の面前で、熱過ぎる愛の叫びを上げたり。
「いつの日か、私は必ず新しい国を造ってみせる! あらゆる人種、歴史、主義を受け入れる広さと、強者が弱者を虐げない矜持を持つ国家を!」
 涼しい顔で壮大な野望を語ったり。
「聞こえるかい、相棒。どちらかの命が尽きても…この天儀が存在し続ける限り、僕達は永遠に相棒だ」
 大切な者へ言葉を贈ったり。
 叫ぶ内容は違うが、誰もが想いを込めている。中には肉体美を見せ付けて去る者や、暴走し過ぎて色んな意味で『アウト』な内容を叫んで強制退場を喰らった者も居るが。
 それでも、観客達から笑顔が消える事は無い。共に喜び、生きている事に感謝し、平穏な時間を楽しんでいる。
 一般人参加者が全員叫び終わると、周囲の歓声が更に大きくなった。このコンテストには特別に、開拓者が2名参加する事になっている。登場のタイミングは一般人の後…つまり、今から開拓者の出番なのだ。
 会場の期待が高まる中、1人の女性がステージに上がる。ビキニ水着のような露出の高い衣装に、白いマント。手足は細くて長く、肌は雪のように白いが…周囲の視線は、豊か過ぎる胸に集中している。
 『見られている』事に気付きながらも、彼女は黒い長髪を掻き上げて妖艶な笑みを浮かべた。
「んふふ♪ 次は私の番ね、よろしく〜♪」
 挨拶しながら胸を強調し、小指で自身の唇をなぞる。その仕草に、会場の男性陣は異常な程に熱狂。登場して数秒で、雁久良 霧依(ib9706)は観客のハートを鷲掴みにしたようだ。
「実は私、ある殿方からプロポーズされてるの♪ 大学卒業したら、旦那様の家に入る予定よ♪」
 突然の暴露。予想外の一言に、周囲から驚きと祝福の声が入り乱れている。容姿端麗でスタイル抜群な霧依なら、求婚されても不思議ではないが。
 ちなみに、『ある殿方』とは春華王だったりする。それをバラしたら大騒ぎになると思ったのか、霧依は春華王の事を秘密にして言葉を続けた。
「でも、開拓者を辞める気は無いし、伝承や祭祀の研究も続けていくわ♪」
 大胆な外見に反して、彼女は各地の伝承や伝統文化の調査が趣味。開拓者としても数々の功績を残しているし、彼女のような人物を『才色兼備』というのだろう。
「家庭も仕事も趣味も学問も、全部頑張るわよ!」
 力強く宣言し、グッと拳を握る霧依。欲張りにも聞こえるが、彼女なら情熱を燃やして円満な家庭を築きそうな気がする。開拓者兼花嫁を祝福するように、周囲から盛大な拍手が送られた。
 祝福を全身で浴びながら、霧依は握っていた拳をゆっくりと開く。そのまま、手を自身の下腹部に当てた。
「まぁ…赤ちゃんが出来たら最優先だけど、ね♪」
 大胆発言をしながら、不敵に微笑む。まだ子供は居ないが、彼女が新しい命を授かる日は、そう遠くないかもしれない。祝福と共に、一般人から冷やかしの言葉と口笛が飛び交っている。
 発言を全て終えたのか、霧依は周囲に笑顔を返して一礼。身を翻し、ステージを下りていった。
 と、思ったのも束の間。下りる直前で彼女の動きが一瞬止まり、方向転換。足早に、ステージ中央まで戻った。
「それと、大学寮で同室のリィムナちゃん?」
 どうやら、まだ叫んでいない事があるらしい。今までは自分の将来について語っていたが、今度は特定の人物に伝えたい想いがあるのだろう。
「おねしょや悪戯したら、私のトコにいらっしゃい! 授業中でも卒業後でも成人後でも、たっぷりお尻を叩いてお仕置きしてあげるわ♪」
 その一言で、会場の混乱は瞬時に最高潮に達した。自分の耳を疑う者、理解が追い付かない者、『お仕置き』という言葉に過剰反応している者など、リアクションは様々。数秒前とは全く違う内容に、誰もが戸惑っている。
 そんな人々を完全に置き去りにして、霧依は言葉を続けた。
「勿論…その後は、いっぱい抱っこしてあげるわよ♪ 夕べみたいにね〜♪」
 どうやら、昨日も『お仕置き』があったらしい。原因は何なのか、どんなお仕置きをしたのか若干気になるが…聞いたら負けである。
「リィムナちゃん以外にも、お仕置きされたい子は大歓迎よ♪ あ、可愛い女の子限定だけど♪」
 微笑む霧依に、黄色い声援と野太いヤジが押し寄せる。お仕置きされたい者は、意外にも多いようだ。最後の最後に会場を混乱の渦に叩き込み、霧依は颯爽とステージを後にした。
(霧依さんてば…っ! ううっ、恥ずかしいっ!)
 霧依にトンでもない暴露をされたリィムナ・ピサレット(ib5201)は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。可能なら、このまま逃げ出したい気分だが…次は自分の出番。期待してくれている人達のためにも、帰るワケにはいかない。
 大きく深呼吸して気を取り直し、リィムナは元気良くステージに飛び乗った。
「最強最萌の美少女天才開拓者のリィムナちゃんでーす♪」
 登場と同時に、観客達は拍手喝采。『最萌』やら『美少女』やら『天才』やらツッコミ処満載の自己紹介だが、そんな事を気にしている者は1人も居ない。10歳の可愛らしい少女に、無数の声援が送られている。
 芸術や武術の才が認められ、歴史に名を残している偉人は少なくない。それは開拓者も例外ではなく、一定以上の技量を持つ者の名は国全体に知れ渡っている。世界有数の開拓者に上り詰めたリィムナも、勇名を馳せていた。
「こんな事とか!」
 挨拶代わりと言わんばかりに、自身とソックリな式を2体作り出すリィムナ。身長や表情、紫の長髪や青い瞳まで、完全に同じである。使用者の肉体と魂に凄まじい負担を掛けるが…彼女はそれを微塵も顔に出していない。
「こんな事も出来るけど…」
 次いで、式を含めた3人の姿が変わる。1人はパンダに、もう1人は猫又に、最後の1人がもふらに。姿が変わっても身長は変わらないため、大きさは120cm弱。動物にしては若干大きいが、見ている側としては可愛らしい。
 その姿で軽くステップを踏み、リィムナは術を解除。元の少女に戻り、式も消えて1人になった。
「あたしは、もっともっと強くなるよ♪」
 叫びながら、拳を天高く突き上げる。彼女は指折りの実力者だが、その立場に甘んじていない。飽くなきまでの向上心…どこまでも強くなろうとする意志。このまま彼女が経験を積めば、いつか歴史に名の残すかもしれない。
 小柄だが、存在感の大きい少女…その力強い宣言に、観客達は声援と拍手を送っている。
「そして…無名祭祀書に仄めかす様に記述されてる『この世界の外の次元』を探検し、多元宇宙の真理に至るんだ♪」
 開拓者の使う兵装には、不気味な雰囲気を漂わせる書物がある。『無名祭祀書』と呼ばれる、革張りの分厚い本…その内容は、冒涜的な儀式や秘密の宗派、失われた言語や古代の神々に関する記述まで多岐に渡る。
 難解で禍々しい内容を理解するのは至難の業だが、リィムナはコレを読破。記述の真偽は分からないが、彼女は無名祭祀書を信じ、更なる高みを目指している。
 が…『外の次元』やら『多元宇宙』やら、聞き慣れない言葉に一般人達は困惑中。応援の声が止み、頭の上に『?』が浮かんで見える。専門的知識が無い者に、リィムナの言葉は難しかったのかもしれない。
 周囲の雰囲気を感じ取ったのか、リィムナは軽く咳払いをして口を開いた。
「まあ…その前に…」
 数秒の沈黙。
 全員の視線が、彼女に集まる。無数の注目を浴びながら、リィムナは迷っていた。『この言葉』を言って良いのか、止めるべきなのか。
 意を決し、彼女は大きく息を吸い込んだ。
「絶対おねしょ治すぞーっ!」
 顔を真っ赤にして叫んだ言葉が、周囲に響き渡る。一呼吸置いて、観客から本日一番の拍手喝采が起きた。当然、笑い声も半分近く含まれている。
 数秒前までの真面目は雰囲気は完全に消え去り、最大の決意を口にしたリィムナ。彼女を称える拍手は暫く鳴り続け、大声コンテストは笑顔で幕を閉じた。