【祭強】偽りの先導者
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/02 23:33



■オープニング本文

 人は皆、平和や平穏を望みながらも、その意思とは関係なく争いに巻き込まれる。大きな流れが、国同士の対立が、主義主張の違いが、人々を『戦い』に駆りたてる事も少なくない。
 それは天儀も例外ではなく、アヤカシという存在が何度も戦いを起こしてきた。その脅威が去った今、誰もが平和を噛み締めるように毎日を過ごしている。
 しかし……平和で静かな時だからこそ、蠢く『闇』には目が届かない。暗躍する影が力を増し、社会の表側に出現しようとしていた。
『開拓者こそ、全ての元凶なのだ! 奴等はアヤカシと結託し、世界を…人々を支配する事しか考えていない!』
『思い出せ! 貴公らが失ったものを! 刻まれた悲しみを! そして…怒りと憎悪を!』
『犠牲になった命を無駄にしないためにも、戦うのだ! 開拓者…いや、人類の敵と!』
 巨大な建築物の内側…薄暗い室内に響く、雄叫びにも似た演説。祭壇らしき場所には3人の人物が立っているが、全員が黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っているため、顔は全く見えない。男なのか女なのか、若いのか老人なのかも不明である。
 黒服の3人に応えるように、集まった大勢の一般人が歓声を上げた。その全員が、3人と同じように黒いローブを着ている。
 数ヶ月前…黒服達はどこからともなく現れ、『開拓者は敵だ』という主張を始めた。その時は耳を貸す者など居なかったが、時間の経過と共に同志が増加。今では、100人近い集団と化していた。
 この空間には、種族も国籍も性別も年代も関係ない。全員に共通しているのは…『開拓者に対する』敵意。怒りと憎しみ、悲しみと怨みが渦巻き、徐々に膨れ上がっている。
『これは聖戦なのだ! 開拓者を討ち滅ぼした時、世界は真の平和を手にする!』
『同志達よ、闘志を研ぎ澄ませ! 個人の力は小さくとも、我等が1つになれば大きな力となる!』
『次に会う時は、世界が平和になっていると信じている! その時まで…暫しの別れだ、同志達よ!』
 窓が割れんばかりの大歓声。黒服の3人が拳を突き上げると、周囲から拍手が鳴り響いた。その音に送られるように、3人が控室に帰っていく。拍手と歓声は暫く続き、祭壇の部屋から全員が引き上げたのは、それから数十分後の事だった。
 建物の内部に人が居ない事を確認し、3人はフードを脱ぐ。と同時に、瘴気が溢れ出した。
『これで、準備は整った。人間が勝つか、開拓者が勝つか…見物だな』
『勝敗に興味は無いがな。餌があれば、それで良い』
『願わくば、憎しみと混乱を振り撒いて欲しいものだな』
 言葉と共に、歪んだ笑みを浮かべる3人。
 いや…正確には『人』ではない。瘴気から生まれ、人々を餌とし、破壊と混乱を望む者…黒服達の正体は、アヤカシの残党なのだ。
 奴等は嘘の演説で人々を混乱させ、精神的動揺を誘った。アヤカシの襲撃に巻き込まれた者、大戦で誰かを亡くした者、故郷を失った者……様々な心の傷を刺激し、精神を揺り動かす。
 怒りや悲しみを煽り、そのまま催眠術をかけて正常思考を奪い去った。一般人達に自覚症状は無く、言動も普段と変わらない。ただ、開拓者に対する怒りが燃え上がり、敵だと思い込んでいる。
『『『あとは、待っていれば良い。人間達が暴れ回る、その時を』』』
 闇から生まれたアヤカシ達が、闇の中に消えていく。室内に残ったのは、少量の瘴気だけ。このままでは、最悪の事態に陥ってしまう。
 幸か不幸か、アヤカシの様子を外から覗いていた少年が2人。最後の希望は、彼らに託された。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
エラト(ib5623
17歳・女・吟
クード・グラス(ic0974
30歳・男・砲
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文


「わしが開拓者、鏖殺大公テラドゥカスである!」
 町中に響く、重厚で低い声。住人達が視線を向けると、無骨で金属質な躯体のからくり…鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)が堂々と歩いていた。まるで、自身の存在を主張するように。
 彼と共に、エラト(ib5623)とクード・グラス(ic0974)も歩を進めている。真正面を向いたテラドゥカスとは違い、2人は周囲を注意深く見渡しているが。
「あ〜! かいたくしゃさんだぁ〜!」
 嬉しそうに声を上げ、笑顔で駆け寄って来る子供達。中には10代後半くらいの者や、それ以上の年代も交ざっている。成人の大半が尊敬の視線を向ける中、開拓者達は十数人に取り囲まれた。
 国や人種を問わず、開拓者は一般人から人気や支持が高い。人以上の力を持ち、アヤカシから人を護り、人々の希望となる存在…その姿勢に、誰もが惹かれていた。
 なのだが…この日だけは、町の様子が違っていた。
「お前等…開拓者か?」
 開拓者達の正面。大通りの奥から近付いてくる、黒いローブの人々。正確な数は分からないが、十人前後くらいの集団である。フードを目深に被って顔を隠しているが、全身から溢れる殺気は微塵も隠していない。
 その異様とも言える雰囲気に、戸惑って怯える一般人達。エラトが周囲の人々を下がらせると、テラドゥカスはローブ集団の前に立ち塞がった。
「いかにも! わしが開拓者、鏖殺大公テラドゥカスである! 貴様達は何者だ!?」
 天地を揺るがす、力強い咆哮。並の人間なら、これだけで萎縮し戦意を失うだろう。
「開拓者…」
「カイタクシャ…!」
「世界のユガミ!」
 呟くように、何度も同じ言葉を繰り返す。そこに、人間としての感情や意志は無い。
 開拓者達がこの町に来たのは、目の前の暴徒を鎮圧するためなのだ。彼等はアヤカシに操られ、開拓者を『敵』だと思い込んでいる。催眠状態にあるため、それを全く疑っていない。言うならば…『自意識の無い操り人形』である。
『倒せ。倒せ…倒せ!』
 叫びながら、角材や刀剣を手にするローブ集団。何の前触れも無く出現した暴徒達に、一般人から驚きと悲鳴が上がった。パニックになりそうな人々に、エラトが避難を指示する。と同時に、クードは巨大な爆連銃を構えた。
「吠えてねえで、かかって来いよ。今から、ぼてくりまわすからな!」
 挑発するような言葉と、静かな怒りを秘めた表情。彼の銃口は、黒ローブの暴徒達を捉えている。これが脅しではない事は、クードの青眼が無言で物語っていた。
 彼の言葉に刺激されたのか、暴徒達が一斉に突進してくる。避難する人々を守るように、テラドゥカスは両腕を広げた。エラトは暴徒達から目を逸らし、手で目元を隠す。
 次の瞬間、銃声と共に閃光が視界を白く塗り潰した。それは、クードが放った閃光弾。弾丸と練力が反応して強烈な光を生み出し、視界を奪う。殺傷能力は無いが、相手の動きを止めて撹乱するには充分である。
 クードは素早く火薬を装填し、練力を込めて即座に発砲。強烈な空圧が暴徒2人を直撃し、バランスを崩して倒れた。その余波で、他の暴徒達も次々に転倒していく。
 クードが初手で閃光の目潰しをするのは、事前に仲間達に伝えていた。だから、エラトは一時的に視線を逸らしたのだ。暴徒達が転倒している間に、彼女はリュートに手を伸ばす。
(いつか、人々から排斥される日が来ると予想していました。ただ…)
 一般人から敵意を向けられるの事は覚悟していたが、これはアヤカシによって歪められた意志。そして、暴徒達の行動が混乱と破壊を広げる事は、目に見えている。
 だから…。
「周囲への迷惑は見過ごせませんので鎮圧します」
 エラトは、リュートを奏でた。安らぎをもたらす、子守唄のような静かな曲を。エラトの演奏が、暴徒達を眠りの底に落としていく。
 動けなくなった者達は、クードとテラドゥカスが素早く捕縛。無力化した者達を同心に任せ、エラト達3人は次の場所へ移動を始めた。その背に、一般人達の感謝と応援の声を受けながら。


 遠くでクードの閃光を確認し、羅喉丸(ia0347)は少しだけ苦笑いを浮かべた。
「始まったみたいだな…皆さん、通路の規制は予定通りにお願いします」
 言いながら、同心達に向かって深々と頭を下げる。彼は暴徒以外の住人が巻き込まれるのを防ぐため、大通りに繋がる道の封鎖を提案。町と住人を守るため、多数の同心に作戦の説明をしていた。
 彼の考えを理解し、同心達が次々に町中へ散っていく。それを見届けてから、羅喉丸は地面を蹴って跳躍。塀や壁を蹴って屋根に上り、小走りに移動を始めた。
 黒ローブ達が開拓者を狙うなら、存在を見せ付ければ必ず狙ってくる。彼がワザワザ屋根に上ったのは、自身を囮にするためなのだ。
「居たぞ、開拓者だ!」
「屋根の上だ! 叩き落とせ!」
 数分もしないうちに、羅喉丸を見付けた暴徒達が騒ぎ始める。ある者は履物を脱いで投げ、違う者は石を拾って投げ放った。
 原始的な投擲攻撃を払い落としながら、羅喉丸は屋根から跳び下りる。地面に着地し、両の拳を強く握った。
「開拓者として、俺は負けられない。あの『小さな英雄』の期待に応えるためにも…な」
 静かな、誰にも聞こえないような決意表明。暴徒の存在を教えてくれた少年達のためにも…罪の無い一般人達を守るためにも、彼は負けられない。当然、操られている暴徒も救うつもりである。
 そんな羅喉丸の気持ちを知らず、遠慮なく襲い掛かる黒ローブ達。羅喉丸は手加減しながら拳撃を叩き込み、彼等の意識を彼方へ吹き飛ばした。


 暴徒達の相手をする4人とは違い、リィムナ・ピサレット(ib5201)は変装してアヤカシを追っていた。彼女の外見は『小柄な少女』だが、開拓者として多数の活躍を残している。暴徒達に顔が知られている可能性が高いため、万が一に備えて変装しているのだ。
 更に、アヤカシに正体がバレないようスキルを使っていない。代わりに、瘴気の流れを感知する片眼鏡を使い、周囲を見渡している。暴徒を鎮圧するには、元凶を叩くのが一番手っ取り早いと考えているのだろう。
 とは言え、暴れ回る黒ローブ達を放置する気は微塵も無い。捜索の前に『一仕事』をするため、リィムナは暴徒の1人を路地裏に引き込んだ。
「ごめん、ちょっと貸してね♪」
 相手が言葉を発するより先に、打撃を与えて意識を刈り取る。黒いローブを拝借し、目覚めた時に暴れないよう手足を縛って拘束。ローブを羽織り、暴徒達の前に飛び出した。
「開拓者はどこだー!」
 叫びながら、町中を駆け回る。これなら開拓者だとバレずに動き回れるし、暴徒達の見張りも出来る。瘴気の反応を探し、リィムナは走り出した。


「今のは攻撃のつもりか? 蚊が刺した程にも効かぬぞ!」
 テラドゥカスは暴徒数人の攻撃を正面から受け止め、挑発的な言葉を口にする。数分前から、彼は防御を固めて攻撃を喰らい続けていた。四方から殴られようが、全力で攻撃されようがビクともしない。そのタフさに、暴徒の体力が尽きかけていた。
「そんなザマでは、悪逆非道のわし1人倒せぬわ! もっと足を踏ん張り、腰を入れんか!」
 敵を叱咤激励し、体力の消耗を誘うテラドゥカス。自身は一切攻撃をせず、ただ殴られ続ける作戦…彼の狙い通り、体力を消耗し過ぎて暴徒達が次々に倒れていく。テラドゥカスは彼等を軽々と持ち上げ、同心達に引き渡した。
 少々離れた位置では、クードが無力化した暴徒を拘束している。エラトも彼を手伝おうとした瞬間、大通りの奥から更に黒ローブ達が集まって来た。
『開拓者共が、無駄な抵抗をしてくれる』
『だが、お陰で人間共の感情が高まっている』
『奴等を倒し、さっさと食事の時間にしようか』
 聴覚を研ぎ澄ませたエラトの耳に、不快な声が響く。それは、人間の声帯では絶対に出せないような音。それが何なのか、彼女は即座に理解した。音の方向から察するに、声の主は集団の更に後方に居る。
「アヤカシが近くに居ます。多分…この集団の奥に」
 暴徒達に聞こえないよう、仲間達に小声で呟くエラト。それを聞いたテラドゥカスは、胸を張って大きく息を吸った。
「わしが鏖殺大公テラドゥカス、開拓者である!」
 今までよりも声量の大きい、堂々たる名乗り。その声は大気を震わせ、町の隅々まで響き渡った。獣の雄叫びにも似た大声は、暴徒達の注意を引いている。
 そして、もう1つ…。
(今の咆哮…テラドゥカス殿の合図だな。アヤカシは、あっちか)
 テラドゥカスの声を聞きつけ、羅喉丸はその方向に走り出した。テラドゥカスは町に着いてから何度か名乗りを上げているが、さっきの内容だけは言葉の並びが若干違う。それが、彼の考えた『アヤカシ発見』の合図。別行動をしていた仲間達が、一ヶ所に集まろうとしていた。
 エラトはリュートを掻き鳴らし、突撃してくる暴徒達に深い眠りを与えていく。それを突破した者は、テラドゥカスが壁となって阻止。暴徒達の後方には、3人の黒ローブが居る。その3人に向かって、クードは空気の塊を叩き付けた。
 一般人なら、どう足掻いても抵抗できない衝撃。その空圧に、黒ローブ達は耐えている。改めて、開拓者達は相手がアヤカシなのを確認した。
 クードが実弾を装填した瞬間、瘴気の嵐が吹き荒れる。黒い風が視界を遮り、瞬間的にアヤカシの姿を覆い隠した。恐らく、これを目隠しにして逃げるつもりなのだろう。
 だが、一手遅かった。
「人々の心の傷を利用するアヤカシ…ここで消えて貰うよっ!」
 紫色の風が、リィムナの元気な声を連れて来る。最高位に位置する怨霊系式神を再構築し、呪いの力を抽出して増幅。膨大な練力で時間の流れすら歪ませ、一瞬の間に連続で呪力を叩き込んだ。
 電光石火という表現すら生温い、超高速にして破壊的な攻撃。瞬殺というのは、今のような状況を言うのだろう。リィムナの攻撃で、2体のアヤカシが瘴気に還った。
(勝負は一度…この一瞬に懸ける!)
 アヤカシの後方から高速で接近しながら、羅喉丸は両の拳に精霊力を集める。瘴気とも呪力とも違う玄(くろ)い気を纏わせ、拳を天地対極から打ち放った。命中と同時に、玄い気がアヤカシの体内に侵入。内部から全身を破壊し、瘴気に還していく。
「悪夢はいつか覚めるものだ。御前たちには消えてもらおうか…!」
 力強い声に応えるように、アヤカシの体が四散。瘴気が空気に溶けるように消えていき、人心を操っていたアヤカシは完全に消滅した。


 5人の活躍で、町の建造物への被害はゼロ。暴れていた者も、無関係な一般人にも被害は無く、全ては丸く収まった。
 アヤカシを倒した開拓者達は、同心達と共に屯所へ来ていた。暴徒達の移送を手伝い、彼等の状況を確認するためである。元凶のアヤカシが消滅した事で、暴徒達は正気を取り戻していた。
「心に傷を負ってるなら、互いに辛かった事を話し合ってみたら? みんなで支え合えば、傷も癒せると思うよ♪」
 暴れていた者達に、優しく微笑み掛けるリィムナ。今回の事件は、アヤカシが『人の心の傷』を利用した事で起きた。互いに支え合う事で傷を乗り越えられたら、同じような事件を防ぐ事が出来る。リィムナの提案に、元暴徒達は嬉しそうに微笑んだ。
 そんな彼等とは対照的に、エラトの表情は険しい。怪我人が居ない事を確認し、彼女がゆっくりと口を開いた。
「少々、質問させて下さい。暴れた記憶は残ってますか?」
 予想外の質問に、元暴徒達は言葉に詰まる。実際、彼等の記憶状況は様々。ハッキリと覚えている者も居れば、記憶が抜け落ちている者もいた。アヤカシの催眠を受けたのだから、仕方の無い事かもしれないが。
「あなた方は自分達や大切な何かを守る為、開拓者なしでも天災やアヤカシと戦えるから、己が責任を負うと決めて私達と戦う選択をしたんですよね?」
 問い詰めるような、厳しい口調。暴徒達が自分の意志で襲って来たのか、それとも操られて暴徒と化したのか、彼女はそれが気になっていた。
「それは俺も聞きてぇ。答えろ。開拓者を抹殺後、どんな手で平和を得るつもりだった?」
 エラトに続き、クードも質問を口にする。そのまま室内の椅子にドカッと腰を下ろし、爆連銃を構えた。
「暴れた時の記憶がない、操られてただけで自分は悪くない、とか言うなら……思い出すか、訂正するまで空撃砲で転ばす」
 氷のように冷たく、刃物のように鋭い言葉。まるで脅しのようなセリフだが、仲間達も同心達も、止めようとしない。
 クードはお世辞にも口が良いとは言えないが、弱者を苛めるような男ではない…その事を、誰もが知っていた。
「今回の件、アヤカシの責任にして忘れるつもりだろ? で、ほとぼり冷めて困った事が起こったら、また開拓者に依頼するんだろ? 憎悪と暴力をぶつけて、殺そうとした相手に」
 吐き捨てるような、怒りを込めた言葉。操られていたとは言え、暴徒達が武器を手に襲ってきたのは事実。どんな理由があれ、その罪が消えるワケではない。
 『都合良く事実を忘れ、当然のように開拓者に頼ろうとするのではないか』。そう考えた時……クードは黙って納得出来る程、お人好しではなかった。
 彼の剣幕に圧倒されたのか、暴徒達は誰も言葉を発する事が出来ない。その状況にイラつくのを隠せず、クードは大きく溜息を吐いた。
「てめえらは知らねぇだろうな…俺以外の、こいつら開拓者と役人達の苦労を」
 言いながら、横目で仲間達をチラッと見る。影の苦労を話すのが良い事かは分からないが…それでも、話さずにはいられなかった。自分ではなく、仲間達の苦労を。
「流血を防ぐために手加減して、町への被害を最小限に抑えて、色んなとこに根回しとか相談して…苦労し続けたの、知らねえだろ。知らねえよな、想像しないから」
 仲間達は、暴徒を救うために細心の注意を払った。本気で殺しに来る相手を助け、殺意を全身で受け止め、重傷を負わせないように手加減もした。町を破壊されないよう、自分達を囮にした事もある。
「謝れ。」
 短く、分かり易く、力強い一言。クードの言葉は、静かな室内では妙に大きく聞こえた。
「迷惑をかけた周囲の住民や役人と、俺以外の開拓者に」
 自分の事は、どうでも良い。暴徒達の行動を許す気は微塵も無いが、せめて一言…仲間達に向けて謝罪の言葉を言わせたかった。
 数秒の沈黙。クードが視線を巡らせると、暴徒の1人が泣き崩れた。
「ご…ごめんなさい! ごめんなさい。ごめんな…さ……」
 嗚咽と涙が入り混じる、土下座の謝罪。それに続くように、暴徒達は次々に頭を下げる。
「迷惑かけて…本当に申し訳ありません…!」
「開拓者さん達は、敵なんかじゃありません…私達が愚かでした…!」
 嘘偽りの無い謝罪の言葉を聞いた開拓者達は、事後処理を手伝うため、町へと戻って行った。