慰霊と鎮魂
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/17 21:08



■オープニング本文

 師走。
 一年の終わりを迎える、区切りの月。
 来月には新しい年が始まり、人々の生活と歴史は続いていく。
(でも――その前に…)
 冷たい微風を浴びながら、若い女性は静かに髪を掻き上げた。悲しげな瞳が見詰めるのは、更地に建つ冷たい墓石。家族や友人、知り合い等…色んな人々が静かに眠っている。
 長きに渡る、アヤカシと人々の争い…その爪跡は深く、被害者や死者は数えきれないくらいに多い。中には、集落ごと住人が全て犠牲になった事例すらある。
 墓石が並ぶこの地も、消えた集落の1つ。アヤカシの襲撃を受け、全てが更地と化した。家も、人々も、美しい景色も、今は彼女の記憶にしか残っていない。
 いや……正確には『彼女達』である。
「サクヤ…」
 不意に自身の名前を呼ばれ、彼女は後ろを振り向いた。そこに立っていたのは、同年代の男性。サクヤとは幼馴染で、共に集落の生き残りでもある。
 アヤカシが襲って来た日、2人は行商で武天に行っていた。幸か不幸か、お陰で被害は免れたが…その代償は、あまりにも大きい。帰る故郷も家も、友達も家族も、全てを失ったのだから。
「こんなトコに居たら、風邪ひくよ? 暗くなる前に帰ろうよ」
 軽く苦笑いを浮かべながら、男性が声を掛ける。彼の瞳を見詰めながら、サクヤはゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、カズヤ……私ね、みんなをシッカリ弔いたいの。『あの時』は、そんな余裕無かったから…」
「弔い…か」
 呟きながら、カズマは視線を破壊しに移した。脳裏に蘇る、数か月前の『忘れたくても忘れられない記憶』。カズヤとサクヤが行商から戻った時、更地には血の海が広がっていた。命を失い、物言わぬ姿と成り果てた住人達と共に。
 夢だと思いたかったが、鼻を突く血生臭い匂いは紛れもなく現実だった。あの光景も、サクヤの悲鳴と涙も、胸を引き裂くような悲しみも、嫌というくらい記憶に残っている。
「このままじゃ、ママやパパ達が安心して眠れない気がするの……お葬式とか、してないし」
 更地になった村と住人達の躯を目の当りにし、2人は正気を保つのが精一杯だった。野晒しの死体を全て埋葬し、墓石を建てたが…それ以上の事は何もしていない。食べ物や花を供える事も、線香を焚く事も、墓参りをする事も。
 心のどこかで、2人は認めたくなかったのかもしれない。故郷を失った事を…住人達の死を……。
 その悲しみを乗り越え、サクヤは前に踏み出そうとしている。勇気を出した彼女に、反対する理由は微塵も無い。カズマは静かに手を伸ばし、サクヤの頭を優しく撫でた。
「サクヤがそうしたいなら、僕は全力で協力するよ。親父達には……親孝行の1つも出来なかったし…」
「だったらさ…『最初で最後の親孝行』、する?」
「それって、どういう……」
 カズマの言葉が終わるよりも早く、サクヤは唇を重ねた。物心ついた頃から、2人は互いの好意に気付いていた。想い合っていたが…今まで話を切り出す勇気が出なかったのだ。
 そんな2人の気持ちを知ってか知らずか、両親が口癖のように言っていた言葉がある。『サクヤとカズマが結婚してくれたら、それ以上の幸せはない』と。
 孝行すべき親は居なくなってしまったが…2人の結婚は、最大の親孝行であり、最高の供養になるだろう。


■参加者一覧
明王院 浄炎(ib0347
45歳・男・泰
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
朱宇子(ib9060
18歳・女・巫
ジョハル(ib9784
25歳・男・砂


■リプレイ本文


 肌寒い空の下、野道をゆっくりと進む荷車が3台。運んでいるのは、採掘したばかりで整形すらしていない御影石。荷車が壊れない程度の重さに切断されているが、その大きさは『岩』と表現した方が正しいくらいに巨大である。
 荷車が進む先に、集落や家屋は一切無い。あるのは……アヤカシの爪跡と、大量の墓標のみ。アヤカシの襲撃で村1つが更地と化し、大勢の住人が命を失った。その時に生き残った2人が、今回の依頼主であり墓を建てた当人でもある。
「あ、開拓者さん…ですよね? 今日は依頼を受けて頂いて、ありがとうございます」
 開拓者の到着を待っていたサクヤが、言葉と共に深々と頭を下げた。彼女と、その隣に居るカズマが依頼したのは、故人の供養と墓の建て替え。それを受けた開拓者達6人は、石材を運んで来たのだ。
「礼には及びませんよ。弔う事で前に進む力を得られるなら…私にも、何かお手伝いさせて下さい」
 言いながら、サクヤの手を握る朱宇子(ib9060)。彼女は『戦さの民』とも呼ばれる種族、修羅だが、穏やかで優しい性格をしている。優しく微笑む一方で、アヤカシの被害に遭った者達に対する悲しみが、胸を締め付けていた。
「そういう事だ。故人を弔うため、俺達も出来る限りの事を成す。そのために来たのだからな」
 朱宇子に同意しつつ、明王院 浄炎(ib0347)は荷物を下ろしている。彼は2mを超える長身で筋肉質な体躯をしているが、裁縫や小物細工も苦手ではない。石を加工するため、ノミやハンマーといった専門工具も用意している。
「そう言って貰えると助かります。正直、僕達だけじゃ手が足りなかったんで…」
 浄炎と朱宇子の言葉に、安堵の表情を浮べるカズマ。心のどこかで、開拓者達を巻きこんでしまった事を気にしていたようだ。
 和やかに会話する依頼主達を眺め、リィムナ・ピサレット(ib5201)は荷車に座って両脚をプラプラと振った。
(供養って、本当は『生きている人が気持ちに区切りをつけて前に進む為』にやるんだけどね…)
 心の中で思いつつも、敢えて口には出さない。場の空気を読み、サクヤ達の気持ちを尊重しているのだろう。10歳の少女とは思えない、大人な対応である。
 リィムナ同様、依頼主から若干離れた位置に居る者が、もう1人。
(生き残れた者には未来があるけれど…『前を向け』とは簡単には言えないな…)
 アヤカシのせいで、サクヤとカズマは全てを失った。同じような境遇を味わったジョハル(ib9784)は、その辛さを知っている。そして…『失ったものの大きさに耐えられない人も居る』という事も。
 慰めを言いたくても、伝えたい想いが言葉にならない。もどかしそうに表情を歪めるジョハルの肩を、ウルグ・シュバルツ(ib5700)がそっと叩いた。
「そんな顔するな。今は感傷に浸ってる場合じゃない。お前も、俺も…な」
 銀眼の奥に焼き付いた、過去の光景……ウルグが依頼で関わった村も、アヤカシに滅ぼされた。深い悲しみの経験が、ジョハルの感傷を気付かせたのかもしれない。
 仲間の言葉で気が楽になったのか、ジョハルは少しだけ微笑んで見せた。
「何はともあれ、慰霊碑の建立が行えねば事が進まん。早速、作業に取り掛かるとしよう」
 準備を終えた浄炎が、作業の開始を促す。戦闘や探索といった仕事ではないが、今日の作業内容は決して少なくない。朝日が昇って3時間程度しか経っていないが、ノンビリしていたらあっという間に日が暮れてしまう。
「お墓の建て替えも、ですよね。こ…これだけ数が多いと、作るのも交換するのも大変そうです…」
 荒野に並んだ墓を眺めながら、朱宇子は思わず苦笑いを浮かべた。正確な数は分からないが、これから全て建て替えなければならない。考えただけでも、気が遠くなるような作業である。
 墓標と石材を交互に見比べながら、明王院 未楡(ib0349)は軽く首を傾げた。
「墓石と慰霊碑…どんな形にしましょうか。大きさも含めて、何個か試作してみたいですね」
 依頼人の希望で、墓標の他にも慰霊碑を建てる事が決定している。形状や装飾は未定だが、どうせ作るなら立派な物にしたいし、サクヤ達の意見も聞きたい。そうなると…試作が必須になる。
「あ、試し斬りならストーンウォール使おうよ。準備した御影石、無駄にできないでしょ?」
 言うが早いか、リィムナは荷車から飛び降りて地面に手を付いた。その状態で呪文を唱えると、大地から石の壁が出現。厚さは20cm程度だが、幅と高さは5m近くある。これだけ巨大な石なら、試作加工には充分だろう。
「1つ提案なんだが…今ある墓石を、慰霊碑の一部として使うことはできないだろうか。例えば…基礎や土台に」
 ウルグの提案に、全員の視線が彼に集まった。基礎や土台は表に出る部分が少ないため、多少形が悪くても問題は無い。反面、強度的な問題を考えると、形が揃っている石材を使った方が良い気もするが…。
 数秒の沈黙。開拓者では判断が難しいと思ったのか、浄炎はゆっくりと口を開いた。
「不可能ではないと思うが……どうだろうか? あなた方の意見を聞かせて頂きたい」
 言葉と共に、視線を依頼主2人に向ける。急に意見を求められ、サクヤ達は驚きを隠せず驚愕の表情を浮べている。それでも互いに声を掛け合い、1つの結論を出した。
「俺達は構いませんけど…あの石で良いんですか? 土台にするなら、もっと頑丈な石材の方が…」
 語尾が若干小声になっているが、カズマの疑問は開拓者達と同じである。ウルグは何故、今ある墓石を再利用したいのか……問い質す前に、彼が口を開いた。
「ここの墓は2人で作ったんだろ? 故人に縁のある者が作ったなら、慰霊碑と共に在って欲しいと思ってな」
 常に仏頂面のウルグだが、他人の痛みが分かるし、気持ちを汲む事が出来る男である。立派な墓を作るのも大切だが、一番重要なのは『鎮魂と慰霊』。サクヤとカズマが作った墓石を再利用すれば、住人達も安心して眠れるに違いない。
「そういう事なら、あたしは賛成! あと、お墓は家族単位で作った方が良くない? 1人に1つずだと、小さい子は淋しいと思うし…」
 賛成しつつ、自分の意見も付け加えるリィムナ。墓石は現在、犠牲になった住人の数だけ建っている。それが悪いとは言わないが…やはり家族は一緒の方が好ましい。
「でしたら…お墓を掃除した時に名前を控えて、家族毎に纏めておきますね」
 力仕事が不得手な朱宇子は、仲間達が石材加工をしている間に墓の手入れをするつもりだった。事前に依頼人から話を聞き、故人の情報も多少は集めている。名前から家族を纏めるなら、彼女が適任だろう。
 これで、開拓者達がすべき事は決まった。6人は静かに頷くと、依頼人を巻き込んで作業を開始した。


 リィムナが呪本に練力を込めると、カマイタチのような式が出現。それが空中を素早く奔り、石壁を一撃で両断した。
 次いで、未楡の薙刀が斬り裂き、形を整えていく。兵装を振り回す度に、彼女の黒い長髪が大きく揺れた。
 程良い大きさに整形したら、浄炎の出番である。ハンマーとノミで少しずつ石を削り、墓石に仕上げていく。試作品を何個か依頼人に見せて形が決まると、3人は御影石の加工に取りかかった。
 ウルグ、朱宇子、ジョハルの3人は、今ある墓に黙祷を捧げ、一つ一つ綺麗に拭いている。朱宇子が表面の名前を確認している間に、ウルグとジョハルは彼女が準備した花と供物を供え、静かに祈りを捧げた。
 加工と清掃は並行して進み、整形の終わった御影石は順次運ばれている。その表面に故人の名前が刻まれると、古い墓石と新しい墓石を交換。古い物は墓地の中央付近に集められ、次の工程を待っていた。
 文字を刻む加工は全員が手分けして当たったが、失敗したら1から作り直すしかない。自然と、作業は慎重になっている。誰もが苦戦する中、浄炎の動きは丁寧且つ滑らか。故人に対して安寧の祈りを込め、一文字ずつ丁寧に彫られている。
 とは言え、常人以上の身体能力を備えている開拓者でも、建て替えは重労働。寒空という事もあり、普段よりも余計に疲労を感じていた。
「み…皆さん、お疲れ様です。あの、少し休憩しませんか? 私、お茶と軽食を準備したんですけど…」
 朱宇子が仲間達に声を掛けたのは、正午を少し過ぎた頃だった。作業の合間に沸かしたお湯を使い、お茶を注ぐ。軽食は漬物とおにぎりという簡素な品だが、昼時に出して貰えたのは有難い。
「緑茶の良い匂いがするね…ありがとう、朱宇子。1つ貰えるかい?」
 微笑みながら礼を言い、ジョハルがお茶とおにぎりを手に取る。彼に続くように仲間達も手を伸ばし、作業を中断してランチタイムが始まった。
 焚き火を囲んで仲間達と食べる食事は、身も心も温まる。サクヤとカズマから村の思い出を聞いたり、明王院夫妻から結婚のアドバイスを送ったり、余ったおにぎりの争奪戦が勃発したり…休憩時間は、和やかな雰囲気のまま過ぎていった。
 約一時間後、8人は作業を再開。墓石の建て替えが終わると、浄炎、リィムナ、サクヤ、カズマの4人は、慰霊碑に関しての作戦会議を始めた。大きさや形をどうするか、残った石材で作れるのか、話を詰めていく。
 その間に、未楡は古い墓石の仕分けを進めていた。サクヤ達が使った石は、大きさも形もバラバラ。中には風化が始まり、ボロボロになっている物もある。そういう石は細かく砕き、土台に敷き詰めて再利用するしかない。
 ジョハル達3人は新しい墓石を見回り、刻んだ文字に間違いがないかを確認している。異常が無い事が分かると、彼らも次の作業に移った。
 殺風景な更地に墓が建っている光景は、どう考えても寂しく映る。周囲を少しでも綺麗にするため、ウルグとジョハルは花の種や球根を準備していた。
 園芸用の小さなスコップ片手に、墓石の周りにタネを植える3人。建て替えに比べて地味な作業だが、これも大事な仕事である。
「綺麗な花が咲くと良いですね。何の花を植えてるんですか?」
 近くで作業をしていた未楡が、ジョハル達を覗き込む。彼らがどんな花を準備したのか、多少興味があるのだろう。
「蓮華草に露草、彼岸花と水仙だよ。カズマとサクヤが訪れた時に危なくないよう、背が高くならない花を選んでみたんだ」
「俺は、向日葵だ。『ある村』では、象徴の一つになっていたからな…」
 彼らが選んだ花には、自分なりの考えや、想い入れがある。この花が咲けば、開拓者達の代わりに墓地を見守ってくれるだろう。緑が芽吹き、綺麗に咲くよう願いを込め、朱宇子は植えた地面をポンポンと叩いた。


 午後の作業が始まってから、約3時間。遂に、予定していた全ての工程が完了した。慰霊碑の形状が決まるまでは難航したが…たくさんの文字を刻むため、立方体を重ねる事で合意。御影石を1m程度の立方体に整形し、それを3段に積み上げた。
 表面には、故人全員の名前と弔いの言葉、今日の日付と製作者の名前が刻まれている。当然、開拓者6人の名前も。
 一息吐くヒマも無く、慰霊碑に黙祷を捧げる8人。リィムナとジョハルは持参した線香に火を点け、花を供えた。
 浄炎は自前の酒を開け、慰霊碑に捧げている。そのまま墓石の方へと移動し、死者の冥福を祈りながら全ての墓に捧げて回った。
 辺りに線香に匂いが広がり始めた頃、リィムナはこの地の葬儀に従い、経を読み始めた。それに合わせて、朱宇子が穏やかに舞い踊る。2人共、『故人が安らかに眠れるように』と、願いを込めながら。
 慰霊と鎮魂のラストを飾るのは、巨大な篝火。炎の明かりで道を照らし、死者の魂を送る事になっている。大量の薪を重ねて火を灯すと、赤々とした炎が天高く燃え上がった。
 作業も慰霊も終わり、胸を撫で下ろすサクヤとカズマ。そんな2人に視線を向けながら、未楡は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「最後は、お二人の出番ですね〜。正式は婚姻の儀は別に行うとしても、今は『これ』にお召し替え下さい」
 そう言って差し出したのは、大紋と白無垢。どちらも、天儀の代表的な礼装である。
「え…?」
 意味が分からず、疑問の声を上げる2人。追い打ちを掛けるように、浄炎は密かに調理していた食材を運んできた。
「簡素ではあるが…婚礼の料理なら、妻と共に調えた。亡き両親に『晴れ姿』を見せれるよう、段取りは済んでいる」
「え……!?」
 サクヤとカズマの混乱が、更に加速。状況を飲み込めないのか、目が点になっている。
「あの…もしかして、迷惑でしたか?」
 2人の異常に気付き、不安そうな表情を浮べる未楡。反射的に、サクヤ達は首をブンブンと横に振った。
「ちょっと、ビックリしただけですよ。依頼したのは、慰霊関係だけですから」
「本当は後でコッソリ式を挙げるつもりだったんですケド…皆さんのご厚意に甘えさせて貰いますね」
 ようやく状況が飲み込めたのか、しっかりと言葉を返す2人。予想外のサプライズに、思考が一時的に停止していたようだ。
 理解が追い付いた今、カズマ達は嬉しそうに微笑んでいる。未楡から衣装を受け取ると、彼女が用意した2つの天幕に入って着替えを始めた。
 数分後…天幕から出て来た2人は、新郎新婦に相応しい姿になっていた。最後の仕上げに、未楡はサクヤの髪を梳いて纏め、顔に白粉を塗って化粧を施している。
 新婦の準備が整うまでの時間を使い、ジョハルはカズマに声を掛けた。
「失ったものを思う時、隣に誰かが居てくれるのは心強いよ。どうか…君たちのこれからに、幸せが降るように」
 言葉と共に手渡したのは、安雲で作られている特殊な御守り。それを受け取った時、カズマは気付いてしまった。ジョハルの両目が、光を失っている事に。彼が常人と変わらない動きが出来るのは、聴覚や触覚、音や気配で物事を捉えているからだろう。
 サクヤの支度が終わると、開拓者に見守られながら式が始まった。本格的な婚儀は行えないが、三々九度の杯くらいは出来る。墓前で式をするのは不謹慎かもしれないが…今日くらいは許されるだろう。
「2人共、おめでとう! 結婚祝いに『コレ』を贈るよ♪ 5分間だけの幻影だから急いでね?」
 リィムナは祝福の言葉を述べ、息を大きく吸った。自身の精霊力を高め、歌声に乗せて周囲に響かせる。直後、周りの風景が大きく歪み、全く別の光景が見えてきた。
「この景色は…!」
 思わず、カズマが驚きの声を上げる。視界に広がったのは、村で夜祭りが行われた時の出来事。リィムナが周囲20m圏内の『精霊の記憶』を呼び起こし、幻影として再現しているのだ。
「パパ…ママ……!」
 アヤカシに襲われる前の村には、サクヤの両親の姿もある。もちろん、カズマの両親も。
 幻影ではあるが、両親に見守られながら式を進める2人。リィムナの歌が終わり、幻影が霧のように消えると、夜空に一筋の流星が流れた。