講師は君達だ!
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/19 19:32



■オープニング本文

「講師? 開拓者の皆様を、教壇に立たせるおつもりですか?」
 依頼人から仕事内容を聞き、ギルド職員の克騎は確認の意味も込めて問い掛けた。
 彼が対応しているのは、スーツ姿の老紳士。小柄で物腰が柔らかく、どこか『田舎のお爺ちゃん』といった雰囲気の男性である。克騎の言葉に、老紳士は優しく微笑んで見せた。
「そう堅苦しく考えないで下さい。私共は教育の一環として、開拓者さんの話を聞かせて欲しいのですよ」
「教育、ですか?」
「申し遅れました。私、塾の学長を務めております」
 老紳士が言うには、彼が務める私塾では朋友について学ぶ教科があるらしい。龍や鷲獅鳥、迅鷹といった朋友の生態を勉強し、育成や調教の基礎を習得。卒業生の大半は、調教師や飼育員の道に進んでいる。
 『畜産学科の朋友版』とも言えるが……朋友は牛や豚とは違い、必ずしも幼体が入手できるワケではない。開拓者の相棒として育てる事が優先されるため、学科用に回されるのは、ごく僅か。種族によっては、本物に触れる機会が無いまま卒業する事もある。
 そんな状況を変えるため、学長は開拓者への依頼を決意したのだ。幼体を育てる事が出来なくても、本物の朋友を見れるのは良い経験になる。それに、開拓者から話が聞ければ『朋友と絆を深めるコツ』が分かるかもしれない。
 優秀な塾生が育てば、朋友関係の業種に有能な人材が増える。状況を理解した克騎は、依頼書に筆を走らせた。


■参加者一覧
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文


 清々しく晴れた空の下、晩秋の涼しい風が大地を撫でていく。天気は快晴でも、この時期の屋外は若干肌寒い。こんな日は家に籠り、猫と一緒にコタツで丸くなりたい気分である。
 が…たとえ外が寒くても、子供は風の子。とある寺子屋の校庭に、生徒全員が集合していた。彼らはココで、朋友の生態や調教に関する勉強をしている。その一環として、今日は開拓者から相棒に関する話を聞く事になっているのだ。
 全員の期待が高まる中、依頼主の学長に連れられて開拓者達が登場。その姿を見るや否や、どよめきが起こった。色んな意味で。
 真っ先に目を引いたのは、銀髪でボブカットの少女。小柄で、どう考えても自分達と同年代にしか見えない。実際、彼女は10歳だが。親近感が湧くのと同時に、驚きを隠せないようだ。
 ザワついていた生徒達だったが、ほんの数秒で静かになっていく。その視線の先には、2人の開拓者が居た。
 1人は、流れるような黒髪の青年。端正な顔立ちに、透き通るような白い肌、黒を基調としたゴシック調の服装…その姿は気品に溢れ、彫像のように美しい。彼の姿に見惚れ、女子生徒達から感動の溜め息が漏れた。
 もう1人は、桃色の長髪を揺らしながら歩く女性。整った容貌や長い手足が魅力的だが、豊か過ぎる胸が男子生徒の視線を釘付けにしている。思春期の青少年には、刺激が強過ぎたかもしれない。
 眉目秀麗、容姿端麗な2人に、全生徒が言葉を失っている。誰もが夢見心地な気分に浸っているが……その時間は、長く続かなかった。
 視界に映る、銀色の人影。2mを超える長身に加え、鋼鉄のような硬質の体躯は、圧倒的な存在感を放っている。皇帝のような貫禄を備えた姿は、正に威風堂々。周囲の空気が、静かに張り詰めていった。
 開拓者達にはステージ横で待機して貰い、まずは学長が簡単な説明と挨拶を済ませる。1組目の講師がステージに上ると、生徒達から拍手が送られた。


「やっほー! あたいは砲術士のルゥミだよ! こっちは羽妖精の大剣豪! あたいは大ちゃんって呼んでるよ♪」
 最年少の少女、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)の明るく元気な挨拶に、会場の空気が一瞬で和む。隣に立っている相棒、羽妖精の大剣豪を紹介すると、笑顔で手を振った。
 大剣豪という無骨な名前とは裏腹に、見た目は幼い少女。緑の頭髪をロンブツインテールに結び、身長はルゥミと大差ない。これは、ルゥミの身長が1mに満たない上、大剣豪が比較的長身だからである。
『みんな、宜しくね! ルゥミ、今日は誰を殴ればいいんだい?』
「殴らなくていいんだよ♪ あたい達の話をすればいいんだ♪」
 開口一番から物騒な発言をする大剣豪に、ルゥミが笑顔で言葉を返す。その返答に納得したのか、大剣豪は静かに頷いて親指をグッと立てた。
「あたいと大ちゃんはね、とある依頼で出会ったんだ。大ちゃんとその仲間の羽妖精ちゃん達に、あたいが歌と踊りを教えたんだよ!」
 忘れもしない、2人が『運命の出会い』をした記憶。あの時の事は、今でも鮮明に思い出せる。ルゥミと大剣豪は視線を合わせると、嬉しそうに微笑んだ。
 互いの顔を見ていると、自然と足が動き出す。クルクルと踊り、即興で歌い、当時の状況を再現。1分にも満たない歌と踊りだったが、会場から拍手が送られた。
「あ! 実は最近、あたいも妖精になったんだ!」
 突然過ぎる暴露に、大剣豪も生徒達も頭上に『?』が浮かんでいる。ルゥミは不敵な笑みを浮かべると、全身の練力を一気に解放した。
「ルゥミちゃん最強モード!」
 元気な叫びと共に、練力が背中から噴出して白い翼を形作る。更に、溢れる練力が周囲に舞い、雪の結晶のようにキラキラと輝いた。
 白翼を背負ったルゥミは、羽妖精に良く似ている。幻想的な姿に、生徒達から歓声が上がった。
「妖精の超パワーで悪い奴をやっつけるよ! ちょっと、隙が増えちゃうけどね♪」
 微笑みながらも、ペロッと舌を出すルゥミ。言葉通り攻撃面では最強の性能を誇るが、防御能力は著しく下がってしまう。使い所が難しい、両刃の剣なのだ。
『大丈夫! ルゥミはボクが守るさ!』
 力強く叫び、大剣豪が剣を抜き放つ。その瞳に迷いは無く、固い決意が宿っている。主従という関係を超え、ルゥミが大切だからこそ、彼女を全力で守りたいのだろう。
「頼りにしてるよ、大ちゃん♪」
 大剣豪の気持ちを知り、ルゥミは満面の笑みを浮かべながら抱き付いた。腕を素早く回し、甘えるように頬をすり寄せている。
『ああルゥミルゥミ! 可愛い可愛い! もう離れない!ずっと一緒さ♪』
 その仕草に感情が高まったのか、大剣豪は彼女をお姫様抱っこして空に舞い上がった。喜びを全身で表現するように、空中を縦横無尽に駆け回っている。
「あたいも大ちゃんとずっと一緒にいる〜♪」
 言いながら、ルゥミは大剣豪に顔を近付けた。互いの唇が触れ合い、大空でのキス。完全に『アッチの世界』に行った2人は、そのまま空の彼方へと消えていった。


 それから数分待ったが…ルゥミ達が帰ってくる気配は全く無い。依頼主と開拓者達が話し合った結果、彼女の講演は終わりにして次に進む事になった。
 2番手は、黒髪の青年、Kyrie(ib5916)。相棒の土偶ゴーレム、†Za≠ZiE†(ザジ)を連れてステージに上がると、女子生徒達が色めき立った。
「皆さん、こんにちは。陰陽師のKyrieです。こっちは相棒の土偶ゴーレム、ザジです。どうぞ宜しく」
 丁寧に挨拶し、礼儀正しく一礼するKyrie。ザジもそれに倣って頭を下げると、生徒達から拍手が送られた。静かになるのを待ってから、Kyrieがゆっくりと口を開く。
「からくりに間違われる事もありますが、ザジは土偶ゴーレムです」
 説明しながら、隣に立つ相棒を手で示した。ザジの外見は、道化服を着た細身の青年に似ている。皮膚が陶器のように無機質なため、人間じゃないのは一目瞭然だが…見た目でからくりと区別するのは難しいだろう。
「顔は精巧に作られてはいますが…からくりと違い、表情を変えることが出来ません」
 Kyrieの説明通り、顔の造形は細かい所まで再現されているが、表情は変わらないし瞬きもしていない。
「気になる方は、近くに寄ってご覧ください。触って頂いても構いませんよ?」
 微笑みながら、Kyrieが接触を促す。ザジはステージから飛び降りると、生徒達が触り易いように身を屈めた。
 土偶ゴーレムを触る機会なんて、滅多に無い。たちまち、ザジは生徒達に囲まれた。初めて触れる土偶の感触に、周囲から感動の声が上がっている。
「表情が変えられないからといって、土偶に感情がない訳ではありません。見た目では分かり難いですが、ザジは実に感情豊かなのですよ」
 Kyrieの言葉に同意するように、ザジが大きく何度も頷いた。周りに居る生徒達が『首、取れるんじゃないか?』と心配になる程に、何度も。
「今は意思の疎通が出来ますが…出会ったばかりの頃は苦労しました。何しろ、ザジは滅多に喋りませんから」
 当時の事を思い出し、Kyrieは少しだけ苦笑いを浮かべた。森の奥…朽ち果てた廃墟で、2人は出会った。何故Kyrieはそんな場所に行ったのか、理由はハッキリと説明出来ない。強いて言うなら……『何かに導かれたから』である。
「交流のきっかけになったのは、音楽ですね。私は長い間、吟遊詩人として活動していましたので、試しに私の演奏に合わせてザジを踊らせたのですよ。そしたら…」
 一旦言葉を切り、相棒に視線を向けるKyrie。その表情は、柔らかく微笑んでいた。
「実に見事な舞を見せてくれました。ひとつ…披露致しましょう。良いですね、ザジ?」
 言いながら、Kyrieはアコーディオンを取り出す。ザジは生徒達に一礼してステージ上に戻り、シンバルを両手に持った。
 視線を合わせてタイミングを図り、Kyrieがアコーディオンを鳴らす。元吟遊詩人という事もあり、彼の演奏は『見事』の一言。その曲に合わせて、ザジはシンバルを響かせながらリズミカルに舞い踊った。
 演奏の途中でKyrieが楽器から片手を離し、宙を掻くように指を動かすと、ザジは操り人形のようにカクカクと踊って見せる。2人の息の合ったパフォーマンスに感動し、生徒達は手拍子を送った。
 最後に、Kyrieはザジにお辞儀するよう指示。が…指示内容が分からなかったのか、ザジは小首を傾げている。Kyrieは視線とジェスチャーで気持ちを伝えようとしているが、相棒には少々難しかったようだ。
 焦りが募り、混乱してオロオロするザジ。そのままKyrieに駆け寄り、彼の頭を挟むようにシンバルを打ち鳴らした。どうやら…混乱が頂点に達し、取り乱してしまったらしい。
 更にオロオロする相棒の頭を、Kyrieが優しく撫でる。ザジの背を軽く押して並び立つと、最初と同じように笑顔で一礼した。
 Kyrieを心配しながらも、拍手を送る生徒達。Kyrieは頭を上げると、笑顔のまま横に倒れ込んだ。恐らく、シンバルの一撃で気絶したのだろう。
 崩れ落ちるKyrieの体を、『銀色の光』が素早く受け止めた。その正体は、高速移動した鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)。力強い両腕が、Kyrieの体を支えている。
 幸いにも、彼が意識を失っていたのは、ほんの一瞬。目覚めたKyrieはテラドゥカスに礼を述べ、ザジと一緒にステージを下りた。


 今ステージに居るのは、三人目の講師テラドゥカス。その威圧感は、1人になっても全く変わらない。
「皆、楽にするが良い。わしは鏖殺大公テラドゥカ…」
『おっす! あたしは羽妖精のビリティスだぜ! ビリィって呼んでくれや! こっちはあたし専用駆鎧のテラドゥカスだ。今日はこいつの事を話すぜ♪』
 テラドゥカスの言葉を遮ったのは、相棒の羽妖精、ビリティス。大剣豪と違って身長は30cmほどしかないが、ボブカットの金髪を揺らしながら、元気良く飛び回っている。
「人の話を途中で遮るな! わしは駆鎧ではない!」
『な? こいつ喋るんだぜ! すげえ駆鎧だろ♪』
 軽く声を荒げるテラドゥカスだったが、ビリティスには通じない。満面の笑みを浮かべ、彼の頭をポンポンと叩いた。
「いい加減にせぬかああぁぁ!」
 反省しない相棒に、テラドゥカスの雷が落ちる。咆哮のような怒声に、周囲の空気がビリビリと振動した。怒られた当人は、キャーキャー言いながら笑っているが。
「帰りに饅頭を買っていこうかと思ったが……止めにしておくか」
 呟くように、言葉を漏らすテラドゥカス。それを聞いたビリティスの表情が、瞬く間に変わった。
『わわっ! そいつぁねえぜ! テラドゥカスの旦那は世界一男前のからくりだぜ♪ みんな、駆鎧と間違うなよ? 失礼だからな♪』
 さっきまでの馬鹿にしたような態度はどこへやら。最高の笑顔で、テラドゥカスを褒め称えるビリティス。彼女が一番失礼な事を言っていたのだが…ツッコんだら負けかもしれない。
 ビリティスのペースに巻き込まれ、振り回されるテラドゥカス。普段の厳格な様子からは、想像も出来ない姿である。2人のやりとりに緊張が解れたのか、生徒達から笑い声が零れた。
「この様に、羽妖精というのは悪戯好きが多い。幼子と同じく、菓子や単純な遊び…更には『構ってくれる事』を好む故、巧くコントロールするがよいぞ」
『何だよそれ! まあ…否定はしねーけどよ』
 テラドゥカスの説明を聞き、 ビリティスは若干不満そうに頬を膨らまている。まるでイジケた子供のようだが…それでもテラドゥカスの肩に座っているのは、気に入っている証拠だろう。
「時には、突拍子もない考えに付き合ってやるのもよかろう。無視していたら、悪戯がエスカレートする可能性があるからな…」
 言いながら、相棒を横目で覗き見る。2人の視線が合った瞬間、ビリティスは少しだけ笑顔を浮かべた。
『おう! よく付き合ってもらってるぜ♪』
 否定しないで元気良く肯定したという事は…彼女は普段から、トンでもないお願いをしているのだろう。ビリティスはテラドゥカスの道具袋から角のようなパーツを取り出し、急いで彼の頭部に飛び乗った。
『テラドゥカス、ゴー!』
 嬉しそうに叫び、テラドゥカスに角を装着して強く握る。これを操縦桿に見立てて、彼を操るつもりなのだろう。相棒の考えが分かったのか、テラドゥカスは両手を大きく広げた。
「応っ!」
 特徴的な低音の濁声は、駆鎧の起動音に似ているかもしれない。生徒達から拍手と歓声が送られると、気を良くしたビリティスは更に角をガチャガチャと動かした。
『必中! 鉄壁! 必殺の…テラドゥカス・ストラァイイイイック』
 相棒の叫びに合わせ、テラドゥカスがポーズを決める。練力を開放して技のキレを増し、高速移動からステージを蹴って飛翔。空中で回転しながら、蹴撃を放った。
 脚が宙を斬り裂き、風を巻き起こす。風圧が風の刃となって空中を奔り、数メートル先の木を揺らした。
 予想外の迫力に、誰もが感動して『お〜!』という声を漏らしている。無論、安全面には細心の注意を払ったため、怪我をした者は居ない。
『ノリノリじゃねえか♪ だからテラドゥカス好きだぜ♪』
「これも調教のうちだ。大体、羽妖精1人を御せぬ者が世界を手に入れられると思うか?」
 サラッと世界征服を宣言したテラドゥカスだったが、ビリティスは微塵も気にしていない。生徒達にバレないように頭から降り、彼の頬に軽くキスをした。
 相棒の不意討ちに、テラドゥカスは満更でもない表情を浮べている。駆鎧の真似を終えた2人は一礼し、生徒の拍手に送られながらステージを後にした。


 残る講師は、御陰 桜(ib0271)ただ1人。下りて来るテラドゥカス達に注目が集まっているうちに、彼女は闘鬼犬の桃と、忍犬の雪夜に小声で耳打ちした。
「合図をするまで、桃は落ち着かない素振りでいてちょうだい」
 主の意外な提案に、小首を傾げる桃。演技をする事でどんな効果があるのか、全く予想もつかないようだ。
『それに何の意味が有るのでしょうか?』
「イイからイイから♪」
 桃の質問に、桜は不敵な笑みを返す。行動の理由は分からないが、主の言う事なら間違いは無い。彼女を信じ、桃は静かに頷いた。
 桜は相棒達の頭を優しく撫で、ゆっくりとステージへと向かう。2匹は彼女を追い駆け、全員でステージに上がった。
「あたしが御陰 桜で、こっちは雪夜と桃よ。ヨロシクね♪」
 魅惑的な笑みと共に、桜はスキルを発動。色仕掛けの一種で、相手が自分に対して好意的になる術である。そんな事をしなくても、男子生徒の大半は彼女の虜になっているのだが。
 桜に紹介され、『あん』と鳴きながら頭を下げる桃。雪夜は『わん』と鳴き、尻尾をパタパタと振っている。可愛らしい仕草に、あちこちから黄色い声が飛び交った。
「わんこを飼ったコトのあるヒトってどのくらいいるかしら? 挙手をお願い♪」
 桜の質問に答えるように、次々と手が挙がる。その人数は、全体の7割程度。身近な動物だけあって、一般人も触れ合う機会が多いようだ。
「忍犬もわんこだから、戦闘の訓練以外は気を付けなきゃいけないコトは一緒ね」
 闘鬼犬や忍犬の特徴を説明しつつ、普通の犬と同じ点を上げていく桜。話の内容や話術は、開拓者4人の中で一番『講師』らしいかもしれない。
 もっとも……露出が多い衣服を着ているため、外見的には『先生』らしくないが。
 講義を続けながら、会場全体を見渡す桜。その耳に、生徒達の私語が聞こえてきた。実際にはコソコソ話程度の小声なのだが、聴覚を強化した彼女には筒抜けである。
「そこのキミ達! わんこに食べさせちゃダメなモノってわかる?」
 言いながら、男女数人を指差した。突然の指名に、驚いて体をビクッと震わせる生徒達。イキナリ過ぎて頭が真っ白になっているのか、アタフタして言葉が出ないようだ。
 流石に可哀想になってきたのか、桜は軽く溜息を吐きながら口を開いた。
「もう…ちゃんと話を聞いてなきゃ、ダ・メ・よ?」
 優しく注意しながらも、柔らかく微笑む。指名された生徒達が申し訳なさそうに頭を下げると、桜は講義を再開。忍犬の説明をしながら、相棒達に歩み寄った。
「相棒として役立つのもあるけど、可愛いしモフモフなのもイイところよね♪」
 魅力を語りつつ、手を伸ばして相棒をモフモフと撫でる。頭を撫でられた雪夜は、尻尾がモゲそうなイキオイでブンブンと振って喜んでいる。
 一方の桃は、お腹をモフモフされてデレデレ状態。甘えるような鳴き声を漏らした。
 恐らく、男子生徒の中には、忍犬達を羨ましいと思っている者が多いだろう。
「最後に実演っと。最初は、雪夜」
『あんっ!』
 一通り魅力を説明した桜は、相棒に声を掛けて鞠を放り投げた。
 次の瞬間、雪夜は苦無を咥えて跳躍。黒白の体毛が宙に軌跡を描き、切先が鞠を両断。空中で一回転し、華麗に着地を決めた。
「次は桃ね?」
 生徒達の歓声を浴びながら、桜が言葉と右手で合図を送る。桃は『御意』と心の中で返事し、全身に黒いオーラを纏った。
 桜が鞠を投げると、桃は素早く下に回り込んで鼻先で弾く。更に、跳躍して空中で鞠を跳ね上げ、着地と跳躍を繰り返して高さを上げた。三度目の跳躍と同時に、相棒用の刀を抜刀。銀色の剣閃が宙を奔り、鞠を2つに斬り裂いた。
 と同時に、桃の姿が一瞬歪み、2匹に分身。両断した鞠をキャッチし、そのまま着地した。桃が鞠をステージに置くと、分身していた姿が1匹に戻る。あまりにも鮮やかな動きに、生徒達は言葉もなく見入っていた。
「見た目だけじゃ、忍犬も闘鬼犬も区別出来ないってのも利点よね♪」
 全てを終えた桜は、微笑みながらウィンクを飛ばす。それがスイッチになったように、周囲から盛大な拍手が湧き上がった。桜は相棒達を抱き上げ、丁寧に頭を下げる。ステージを下りようとした瞬間、学長と仲間達が上がってきた。
 並び立つ、3組の開拓者と相棒達。今日の講演は、生徒達にとって貴重な時間になったようだ。今回の経験がどう生かされるか分からないが、講師の開拓者達が生徒の助けになったのは間違いないだろう。