晩餐会の罠
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/01 13:22



■オープニング本文

 ある日の午後…安州のギルドに、豪華な馬車が停まった。金ピカでゴテゴテしたデザインは、豪華というよりも下品と表現した方が合っているかもしれないが…。
 その馬車から降りてきたのは、銀髪でオールバックの男性。目付きは刃物のように鋭く、青い瞳は氷のように冷たい。白いスーツに身を包んだ姿は、独特の威圧感を放っている。
 彼の名は、ギル・クラウザー。商人として成功した人物だが…常に悪い噂が絶えない男でもある。嘘か真か分からないが、裏社会にも顔が利くらしい。
 ギルは警備の者を数人連れ、ギルドに入室。無造作に椅子に座ると、静かに口を開いた。
「今度の晩餐会、余興で開拓者の武闘を見せてくれ」
 予想外過ぎる一言に、職員達の思考が一瞬止まる。それが気に入らなかったのか、ギルは空いている椅子を蹴り飛ばした。
「聞こえなかったのか…? それとも、頭が悪過ぎて理解出来ないか?」
 ドスの利いた、低い声…不機嫌なのは間違いないが、詳しい事情を聞かないワケにはいかない。恐る恐る、職員はギルに説明を求めた。
「チッ…! 今度、俺の屋敷で晩餐会がある。商売仲間やら、得意先を集めて、な。その席で、開拓者同士の戦いを見せて欲しいんだよ。そういうのが好きな連中が多いからな」
 金持ちや富豪と呼ばれる者達は、特殊な嗜好を持っている事が多い。物の収集や、食事への拘り。
 そして…珍しい物への興味。
 開拓者達を雇い、目の前で戦わせるのは、彼らにとって最高の娯楽だろう。誰でも出来る事ではないし、自慢にもなる。
 とは言え…今回の依頼は、簡単に言えば『見世物になれ』という事である。それを快諾する開拓者が、果たして居るだろうか?
  ギルド職員が疑問を口にした瞬間、ギルは歪んだ笑みを浮かべた。
「そうか……だったら、晩餐会の目玉は『使用人と野獣の決闘』に変更だな」
「ギル様、お待ち下さい!」
「それだけは…それだけは、ご勘弁を!」
 ギルの言葉に、警備の者達が取り乱す。その様子は、どう見ても尋常ではない。茫然とする職員に向かって、警備の1人がそっと言葉を掛けてきた。
「彼らの家族や恋人は、使用人として働かされているんです。奴隷、と言った方が正しいかもしれませんが…」
 どんな野獣を準備する気か分からないが…一般人が戦ったら、無事で済むワケがない。ここで断ったら、代わりに使用人達が犠牲になってしまう。
 彼らを助けるには、この依頼を受けるしかない…ここまで、ギルは計算していたのだろう。
「当日まで待つ。時間になったら、開拓者達を派遣してくれ。無論、金は出す」
 用件を全て伝えたギルは、報酬金を置いてギルドから出て行った。


■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
サエ サフラワーユ(ib9923
15歳・女・陰
スフィル(ic0198
12歳・女・シ
焔翔(ic1236
14歳・男・砂
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文


 その夜、ギル・クラウザーの屋敷では晩餐会が開かれていた。『悪徳商人』として名高い男が主催なのだから…当然、普通の食事会ではない。招待客の誰もが、歪んだ笑みを浮かべている。
 会場の中央にあるのは、決闘用のリング。周囲は高い壁に囲まれ、その上に観戦席が並んでいる。どう考えても晩餐会とは無縁のモノだが…招待客は、これを目当てに来ていた。
 リング内に対戦者が現れると、誰もが食事を投げ出して観戦席に移動。会場内の熱気が、一気に高まっていく。
 歓声と拍手が雨のように降り注ぐ中、決闘の場に現れたのは、4人の開拓者。依頼人の『晩餐会で開拓者同士の武闘を見せて欲しい』という望みを叶えるため、この屋敷に来たのだ。
 とは言っても…『本当の狙い』は別にあるのだが。
 登場早々、からくりの鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)は太い角材をヘシ折り、怪力をアピール。残骸を焔翔(ic1236)の足元目掛けて投げつけた。
「おい、小僧。じっとしておれば、すぐ楽にしてやるぞ?」
 角材を指差しながら、挑発的な言葉を吐くテラドゥカス。鋼の鎧を着こんだような巨体が鈍い光を放ち、カイゼル髭を彷彿とさせる顔面パーツで威厳が増している。
 彼の言葉を正面から受け止めながら、焔翔は不敵に笑った。
「んな脅しが俺に効くと思ってんのか? 返り討ちにしてやるぜ!」
 自分よりも1m近く身長の高いテラドゥカスと対峙しても、怯える様子は微塵も無い。銀色の瞳に闘志を燃やしながら、修羅の少年は兵装を構えた。右手に魔槍砲、左手には『荒縄で作った網』という、独特の戦闘態勢で。
 火花を散らす2人の十数メートル隣では、既に激しい斬り合いが始まっていた。
 床や壁を蹴って派手に跳び回り、鋭い斬撃を繰り出すシノビ少女…野乃原・那美(ia5377)。衣服の黒や頭髪の茶色が宙に線を描き、両手の忍刀が滑るように空中を奔っている。
 彼女の斬撃をギリギリで避け、短銃で牽制の銃撃を放っているのは、純白の礼服を纏った人物。黒いマスカレードで顔を隠しているが、動く度に金色の長髪が揺れている。
「ジェーンには悪いけど、ある程度は本気で行かせて貰うのだ♪」
 斬撃を繰り出しながら、那美は笑っていた。依頼人達の『見世物』になっているという状況は気に入らないが…開拓者と刃を交えるのは楽しい。こんな機会は滅多にないし、半分以上は本気で戦っているようだ。
「遠慮もいりませんよ、野乃原様。私も、全力でお相手させて頂きます…!」
 言うが早いか、ジェーン・ドゥ(ib7955)は那美の斬撃に合わせて大きく踏み込む。超至近距離で肉厚の刀を振り下ろすと、那美は双刀を交差させてそれを受け止めた。
 固い金属音と銃声が木霊する中、テラドゥカスの重々しい拳撃が焔翔に迫る。焔翔は地面を蹴って跳躍し、攻撃を回避。間髪入れず、左手の網を投げ放った。それが大きく広がり、テラドゥカスの全身に絡み付く。
「ノロマなブリキめ、くたばるのはお前だぜ!」
 落下しながら、焔翔は魔槍砲を振り下ろした。命中と同時に、テラドゥカスが膝から崩れ落ちる。それでも焔翔は攻撃を止めず、息を吐かせぬイキオイで殴打の雨を降らせた。
 網に絡まり、殴打を喰らいながらも、テラドゥカスは防御を固めている。焔翔の動きを凝視してタイミングを計り、素早く後方に跳び退いて攻撃を回避。素早く網を外し、リングの隅へ投げ捨てた。
「その様な殴打、まるで効かぬわ!」
 裂帛の気合と共に、テラドゥカスの全身からオーラが湯気のように立ち昇る。体の気の流れを操作し、攻撃に転じるつもりなのだろう。
 それより一瞬早く、焔翔が懐に飛び込む。魔槍砲の練力を穂先に集中し、頭部を狙って突き出した。鋭い一撃がテラドゥカスの額に命中し、ヘルムが外れて吹き飛ぶ。焔翔は一旦距離を空け、ニヤリと笑った。
「禿げ頭が丸見えだぜ? 眩しいな、おっさん!」
 言いながら、頭部を指差す焔翔。その挑発は予想以上に効果的だったのか、テラドゥカスの赤い瞳が強く光った。
「おのれ小僧…もう殺す…!」
 圧倒的な殺意を放ちながら、巨体が走る。開拓者4人の迫力は、観客席の視線を捉えて離さない。誰もが、リングに釘付けになっている。
(どうやら、作戦の第一段階は成功ですね。お三方…救出はお願いします)
 激しい剣戟を繰り返しながらも、ジェーンは別行動中の仲間達に祈りを送った。


 リングが異様な熱気に包まれていた頃、3人の開拓者が屋敷の裏口から侵入していた。対決している4人は、全員の注意を引くための囮。その間に使用人を救出するのが、今回の『本当の目的』である。
 使用人とは名ばかりに、ギルは過酷な労働を強制している。その扱いは奴隷に近い。彼らを助け、ギルに天誅を下す……ある意味、一石二鳥の作戦だろう。
「ったく…無駄に広い屋敷ね。さっさと終わりにしたいんだけど」
 不快感を露にしながら、室内を見渡す川那辺 由愛(ia0068)。道楽で開拓者同士を戦わせている事に、嫌気が差しているのだろう。黒い髪の奥で、真紅の瞳が鋭い光を放っている。
「なら、手早く済ませようか。由愛、探索を頼めるかい?」
 そう提案するナジュム(ic0198)の耳が、ピクピクと動いた。耳と言っても、ネズミのように尖っていて小さい。小柄な体と金色の頭髪も相まって、まるで砂漠に棲むネズミのようだ。
 ナジュムの言葉に、由愛は溜息混じりの返事を返す。符を取り出して小さな羽虫のような式を生み出すと、それを通路の奥に飛ばした。
 彼女達の目的地は、使用人が居る部屋。事前に屋敷の見取り図を入手しているため、だいたいの場所は分かっている。そこに由愛の式による偵察と、ナジュムの超越聴覚が加われば、屋敷内をスムーズに進めるだろう。
 通路に見張りや警備が居ない事を確認し、由愛とナジュムは移動を再開。2人を追うように、サエ サフラワーユ(ib9923)は体勢を低くして歩き始めた。
(神様…どーか、使用人さんたちを救助するまで見つかりませんよーに…)
 歩きながら、サエが心の中で神様に祈る。残念ながら、それは神様に届かなかったらしく…サエは何も無い所でつまづいた。そのまま、近くにあった壺と一緒に盛大に転倒。衝撃で壺が割れ、大きな音が周囲に広がった。
「何だ、今の音は!」
 由愛が叱咤するより早く、音を聞き付けた警備員達が集まって来る。開拓者達は身を隠そうとしたが、一手遅かった。数秒もしないうちに、通路の前後を防がれてしまった。
「お前達! こんな所で何をしている!!」
 集まった警備員は、約15人。その中の1人が、吠えるように叫ぶ。高圧的な怒鳴り声に、サエは思わずビクッと身を震わせた。
「あ、あの…っ、すみませんっ! 使用人さんたちを助けにきましたっ!」
 怖がってオロオロしながらも、言葉を絞りだす。サエの発言に、警備員達は驚きの表情を浮べた。今までにも不法侵入者は何人か居たが、金品目的の泥棒ばかり。使用人の身を案じ、危険を冒して救助に来る者が居るとは想像もしなかったようだ。
「この祭だから、屑のような輩に媚び諂うよりも、もっと前を向いて生きてみないか?」
「僕達に協力してくれるなら、罪は不問…或いは、軽減される可能性がある」
 警備員の様子を見ていた由愛とナジュムが、助けを願い出る。この場に居る全員を倒すのは簡単だが、協力者は1人でも多い方が良い。第一、悪いのは雇い主のギルであり、警備員達に罪はない。
 開拓者の提案に、混乱が波紋のように広がっていく。彼らを信じて協力するべきか、雇い主のギルに従うべきか、悩んでいるようだ。
 中には……一切迷わず答えを出した者も数人居るが。
「お前等、馬鹿か? 不法侵入した不審者の言う事が、信じられるワケねぇだろ!」
「牢屋で反省しろ…ゆっくりと、な」
 木刀を手に、敵意を剥き出しにする男性達。開拓者の言葉が信じられないのか、ギルに対して忠誠を誓っているのか…彼らが敵対する理由は分からない。ハッキリしているのは、『彼らに協力する気がない』という事だけである。
 敵対する警備員達に向かって、由愛は符を持ったまま手をかざした。と同時に、男性の体が膝から崩れ落ちて転倒。床を転がりながら、大量の血を吐き出した。
「命拾いしたわね、貴方達。人間の屑だったら虫吐いて死んでたわよ?」
 その様子を眺めながら、冷たく言い放つ由愛。彼女は符を使って、高位の怨霊式神を召喚。姿も音も無い式神が呪いの力を送り込み、敵対する警備員の体内にダメージを与えたのだ。
 もちろん、力加減は忘れていない。出血は派手だがダメージ自体は小さく、命に関わったり、後遺症が残るような負傷ではない。その証拠に、出血は既に止まっていた。
 それでも、サエは心配そうに男性達を見詰めている。大きな茶色の瞳に涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだ。
「もう一度、聞くよ。僕達に協力してくれないか? 使用人の避難も手伝って貰えると助かる」
 ナジュムの2度目の質問に、警備員達が静かに頷く。これからの作戦内容や、吐血した者が無事な事を伝え、開拓者達は使用人が居る部屋へと移動。警備員達は手分けして、行動を開始した。


 リングで決闘が始まってから、約1時間。4人の攻防は、まだ続いていた。
 那美とジェーンは攻守が何度も入れ替わり、火花が何度も散っている。時折、切先が頬や腕を掠めて血飛沫が舞った。その度に、観客席から歓声が上がっている。
(やはり、白は血が映えますね。今しばらく、観客の目を引いておけそうです)
 会場の熱気を下げないため、ジェーンは出血する事も計算して衣装を選んでいた。その狙い通り、彼女のスーツには無数の赤い模様が描かれている。
 純粋に戦闘を楽しんでいる那美は、無意識のうちに本気で刀を握っていた。血飛沫の奥で輝く、赤い瞳……那美はジェーンの死角に滑り込み、両手に力を込めた。
 直後。脳裏に由愛の声が響く。出発前に彼女が伝えた、『何時もの調子で切り刻んだら駄目』という声が。
(斬り刻んだら駄目なのだ…相手は同じ開拓者だし)
 斬撃を中断し、素早く跳び退く那美。その動きに疑問を感じながらも、ジェーンは牽制の銃撃を放った。
 放たれた銃弾と同じ速度で、テラドゥカスが焔翔に突撃。拳撃と蹴撃を連続で叩き込むと、焔翔の体が大きく吹き飛んで壁に叩き付けられた。
 正確には、そう見えるように2人で演出しているのだが。テラドゥカスは攻撃を寸止めし、マトモに当てていない。一方の焔翔は、自分から後方に跳んでダメージを受けた『フリ』をした。
 苦悶の表情を浮べ、地面に倒れ込む焔翔。テラドゥカスはゆっくりと歩み寄り、彼の頭を踏みつけた。無論、観客にバレないように手加減しながら。
「このまま踏み砕いてくれるわ!」
 完全に悪役になりきり、追い詰める演技をするテラドゥカス。焔翔は攻撃を耐えながら、何かを喋るように口を動かした。
「ん? 命乞いか?」
 それに気付いたテラドゥカスは、身を屈めて顔を近付ける。焔翔は素早く跳ね起きて相手の頭部を両脚で挟むと、バック宙の要領で回転。白い巨体が空中で円を描き、テラドゥカスは頭部から地面に落ちた。
 激しい肉弾戦に、観客達も湧き立つ。その興奮に水を差すように、室内に青い狼煙が上がった。突然の事に、観客席から驚きの声が次々に上がっている。
 対照的に、リングの開拓者は軽く笑みを浮かべた。この狼煙は、救出に向かった3人からの合図。青は、使用人の救助が完了した事を意味している。
「焔翔、跳べ! 狙った獲物、逃すでないぞ!」
「応よ! 俺らの後に悪は残さねえ! 残らずこの場で召し捕るぞ!」
 テラドゥカスは素早く立ち上がり、部屋の隅に投げていた網を焔翔に投げ返す。それを受け取り、焔翔はテラドゥカスの体を蹴って客席に飛び込んだ。
 ほぼ同時に、ジェーンは鞭を取り出してリングの手すりに巻き付ける。それを利用して壁を駆け上がり、観客席に降り立った。
「ここからは、特別サービスです。我々の技の数々、至近距離でお見せしましょう」
 そう言って、刀を鞘ごと構える。観客達の混乱を加速させるように、由愛は巨大な白壁を召喚。それが出入り口を封鎖し、室内の全員を閉じ込めた。
 ようやく、招待客達は開拓者の作戦に気付いたようだ。悲鳴や怒号が飛び交い、自暴自棄になって暴れ始める者も居る。
「抵抗するのは自由だけど…どうせなら、死ぬ気で抵抗してくれないかな? かな?」
 ニッコリと笑いながら、刀を構える那美。本当は問答無用で斬りたいが、死者を出すワケにはいかない。抵抗する者の攻撃を軽々と避け、忍刀の柄で殴って意識を刈り取った。
 焔翔は網を投げ、招待客を纏めて捕縛。テラドゥカスは拳撃で壁を破壊して客席に昇り、それを手伝っている。
 突然拘束され、野良犬のように騒ぎ散らす観客達。由愛は舌打ちしながら合口を抜き、捕縛された者に向けて振り下ろした。切先が肌を掠め、床に突き刺さる。
「喧しいわね。殺されないだけ有り難いと思いなさいよ」
 刃物に勝るとも劣らない、鋭い視線。彼女の迫力に圧倒され、周囲の者達は言葉を失った。
「ギル! これはどういう事だ!?」
「俺が知るか! 開拓者の奴等…裏切りやがったな!!」
 招待客の怒声に、怒声を返すギル。彼自身、この結末は想定外だったようだ。ギルを含め、晩餐会の参加者は『叩けば埃が出る』ような輩ばかり。捕まったら、刑罰は免れない。
「心外だね。味方になった覚えは無いよ?」
 ギルの言葉を静かに否定し、ナジュムは棒手裏剣を投擲。招待客達を威嚇するように、足元周辺の床に刺さった。
 その隙を狙うように、ジェーンは背後から鞘の殴打を叩き込む。その一撃で意識を刈り取り、荒縄で縛り上げて床に転がした。
「皆、見るのは好きだけどヤられるのは嫌いなんだねー。根性なしばっかりだったのだ」
 不機嫌そうに頬を膨らませながら、愚痴を零す那美。彼女の隣には、気絶した者が山積みになっている。これだけ戦っても、満足出来なかったらしい。
 狼煙が上がって数分もしないうちに、室内の招待客達は全員床に転がっていた。
「あの…みんなより偉い人とか、強い人って、みんなのことを護ってあげなくちゃ!」
 サエはありったけの勇気を振り絞り、ギル達に向かって叫ぶ。気弱な彼女が自分の考えをハッキリと口にするのは、珍しい事かもしれない。
「私なんてダメダメだけど、みんな幸せになれたらなって誰かを幸せにできたらなって、思うもんっ!あ……あの、偉そうなこと言ってすみません!」
 一生懸命言葉を選び、想いを伝えようとするサエ。それがギル達に届いたかは分からないが…少なくとも、仲間達の胸には響いているだろう。
 そして…開拓者達のお陰で、使用人達は奴隷のような扱いから解放された。彼らの歓喜の笑顔は、金では買えないものだろう。