【FD】結婚式をしませんか?
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/09 22:06



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文

「貴方は、健康な時も病める時も、この人を愛し、敬い、慰め、この人を助け、その命の限り固く節操を守ることを誓いますか?」
 荘厳な演奏に合わせ、神父が誓いの言葉を読み上げる。その言葉に答えるように、新郎が静かに頷いた。
 ジルベリア文化の浸透もあり、昨今では紋付や白無垢ではなく、ドレスで式を挙げる者が増えている。純白のウェディングドレスに、教会の神々しい雰囲気。乙女なら、一度は夢見る光景だろう。
「では…誓いの口付けを」
 参列者が見守る中、新郎新婦がゆっくりと向き合う。新郎がヴェールに手を伸ばした瞬間、『それ』は起こった。
 新郎新婦の足元から、大量の瘴気が噴出。と同時に、黄色い薔薇の花びらが周囲に舞い散った。居合わせた人々が驚くヒマもなく、瘴気と花びらが新郎新婦を飲み込む。
『リア充…許さナイ…!』
 教会内に響く、背筋が凍るような不気味な声。瘴気が人の形に集まり、数秒で具現化した。青白い肌に、そこから突き出す無数の蔓。長い黒髪の女性に見えるが、明らかに人間ではない。
『男なンテ…女なんテ……愛なんて!!』
 叫びと共に、瘴気と花びらが小爆発。閃光が視界を塗り潰し、衝撃が室内を駆け巡った。
 咄嗟に、誰もが体勢を低くして身を守る。閃光と爆風が収まった時、蔓の女性は姿を消していた。
 そして…新郎新婦の姿も。


■参加者一覧
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
皇 那由多(ia9742
23歳・男・陰
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ワイズ・ナルター(ib0991
30歳・女・魔
ローゼリア(ib5674
15歳・女・砲
華魄 熾火(ib7959
28歳・女・サ
永久(ib9783
32歳・男・武
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
リズレット(ic0804
16歳・女・砲


■リプレイ本文

●萌え萌えで百合百合
 ステンドグラスが陽光を鮮やかに染める中、教会の祭壇に立つ女性…ワイズ・ナルター(ib0991)。漆黒のウェディングドレスに身を包んだ姿は、上品ながらも華やか。雪のように白い肌と相まって、一層美しく映えている。
 そんな彼女に、参列者達の視線が集まっている。周囲には音楽隊も控え、準備は万端。アヤカシを誘き出すための『疑似結婚式』だが、期待と緊張が高まっていく。
 教会の鐘が鳴り響き、入口の扉が開かれた。そこに立っていたのは、神父役の男性と、純白のウェディングドレスを纏った篠崎早矢(ic0072)。盛大な拍手が贈られる中、2人がバージンロードを静かに歩いてくる。
「篠崎氏…とても綺麗ですね〜。持って帰りたいぐらいに…いえ、持って帰ります!」
「ええー、ちょっとワイズさん褒めすぎですよ! やだもう! ちょっともう!」
 祭壇の前で、キャッキャウフフを始めるナルターと早矢。満面の笑みを浮かべ、楽しそうな2人を見ていると、『今日も天儀は平和なんだなぁ』と思えてくる。
「彼氏の草薙に申し訳ないけど…女同士だからノーカンだよね? だよね!?」
 彼氏の名を口にしながらも、早矢の笑顔は止まらない。殴りたいくらいにニヤニヤしている早矢に向かって、ナルターが人差し指を伸ばした。その細い指先が早矢の唇に触れた瞬間、ナルターが不敵に微笑む。
「細かい事は気にせずに。さあ…式が始まりますよ、純白の花嫁さん?」
 その一言で、周囲の甘い雰囲気が一気に加速。参列者から歓声や冷やかしの声が上がり、早矢は恥ずかしそうに微笑んでいる。
 会場が盛り上がった処で、音楽隊が演奏を開始。荘厳な讃美歌に合わせるように、神父が誓いの言葉を読み始めた。
 ほぼ同時に、花嫁2人の背後で瘴気が濃度を増す。アヤカシの気配に気付いたのか、早矢は華麗にターンしながら、ドレスに隠したボウガンを取り出した。
「私のために死ねええええ!」
 天地を揺るがすような叫びと共に、超至近距離から無数の矢を放つ。それが具現化したアヤカシを吹き飛ばし、ラブラブで甘い空気を完膚なきまでに消し去った。
 間髪入れず、ナルターはドレスのリボンを解く。止められていた飾りや布地が外れ、スカートの左側にスリットが露出。左脚に括り付けた短剣を素早く外し、切先をアヤカシに向けた。
「どういう理由があるかは知りませんが、花嫁衣装を台無しにする者には容赦はしません!」
 彼女の怒りを表すように、兵装から稲妻が発生。それが一閃して空を奔り、アヤカシを射抜いた。
 2人の攻撃で、アヤカシの体に無数の穴が穿たれ、ボロボロと崩れていく。数秒もしないうちに、敵は瘴気と化して空気に溶けていった。
 アヤカシの消滅を確認し、周囲から拍手と歓声が湧き起る。それに手を振って答えながら、ナルターは早矢の耳元でそっと呟いた。
「今度一緒に、絵師様に絵を描いてもらいましょうね〜」

●新婚さんの結婚式
 ほぼ同時刻。武天西部の教会では、猫宮 京香(ib0927)と真亡・雫(ia0432)がバージンロードを歩いていた。
 彼等は去年の年末に入籍したが、式は挙げていない。今回の依頼を機に、本当に結婚式を挙げるつもりなのだ。
「ええと〜…あまりこういうのは着慣れないのですが、変じゃないでしょうか〜? それに…少し大胆な気も〜」
 参列者や音楽隊の注目を浴び、京香は恥ずかしそうに頬を赤く染めている。確かに…背中と胸元が大きく開いた純白のドレスは、大胆かもしれない。
 が…同時に女性的な魅力を引き出しているのも事実。雫は彼女の手を優しく握り、微笑んで見せた。
「良く似合ってるよ。さぁ…始めようか。僕達の、結婚式を」
 平静を装っているが、雫も内心ではドキドキしている。京香の姿を見ているだけで心臓が高鳴り、灰銀色のタキシードの奥で早鐘を打っていた。
 だが、手から伝わる互いの体温が緊張を和らげる。祭壇に着いた2人が脚を止めると、神父が一礼。一般的な誓約の言葉を読み上げ、雫に同意の言葉を求めた。
「この先もずっと、京香を愛する事と幸せにする事を…誓います」
 間髪入れずに返された言葉には、一片の迷いも無い。神父は満足そうに頷くと、京香にも『誓いの同意』を問い掛けた。
「はい。私は雫と幸せを分かち合い、苦労を共に乗り越え、永遠に愛する事を誓います」
 雫同様、彼女も即答。ベール越しでも分かるくらい頬が赤く染まっているが、それがまた可愛らしい。
「では……誓いの口付けを」
 結婚式のクライマックスに、周囲の期待も高まる。雫は京香と向き合い、彼女のベールをたくし上げた。
「改めて…僕の妻になって下さい」
 言うが早いか、返事を待たずに口付けを交わす。京香は言葉を返す代わりに、雫の背に手を回した。
 と同時に、周囲から歓声と拍手が湧き上がる。深いキスを終えた雫は、素早く京香を抱き上げて参列者達に向き直った。
「僕達の我儘に付き合って頂き、ありがとうございます。この式に協力して頂いた全ての方々に、感謝致します」
 深々と頭を下げ、雫達は入場した道を戻っていく。その進路上に瘴気が集まり、一瞬でアヤカシが具現化した。
 咄嗟に、雫は京香を頭上に放り投げる。それに合わせて、客席から弓矢と刀が投げ込まれた。
「人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られて、と言いたいですが…」
 空中で弓を受け取り、矢を番える京香。開拓者だからこそ出来る、一種の離れ業である。
「今は馬が居ないので、開拓者にやられてしまうといいのですよ〜!」
 叫びと共に素早く弓を引き、矢を放った。鋭い弓撃がアヤカシの頭部を貫通し、出鼻を挫く。
 その間に、雫は刀を受け取って敵の懐に潜り込んでいた。
「目の前の幸福を奪われた人達の想い、その身で償え…!」
 怒りを込めた斬撃がアヤカシを捉え、銀色の光が一閃。結婚式を荒らす異形は、2人の愛の前に消え去った。

●静寂の刻
 大半の開拓者が華やかな結婚式をする中、北東部の教会は静まり返っていた。参列者も音楽隊も、神父すら居ない。そこに在るのは、修羅の男女のみである。
(やはり……窮屈だね。それに、恋仲のフリ、か…)
 燕尾服に身を包んだ永久(ib9783)は、困ったような苦笑いを浮かべた。視線の先に居るのは、純白の羽衣を纏った華魄 熾火(ib7959)。これから恋仲を演じるワケだが、仕事とは言え複雑な心境なのだろう。
 永久の視線に気付いたのか、熾火は妖艶な笑みを浮かべながら彼に寄り添う。死別した婚約者の顔が浮かんだが、軽く頭を振って過去の記憶を振り払い、そっと手を握った。
「さても美しき隻眼の君よ。その瞳に、私だけを写してくれまいか? どうか……この嫉妬深い女郎蜘蛛から逃げぬでくれまいか」
 潤んだ漆黒の瞳が永久を見上げる。彼女の視線を正面から見返し、永久は熾火の頭を一撫でして穏やかに微笑んだ。
「護るよ。君を護る事を……誓おう」
「私は護られるだけの女に非ず。隣に立ち、歩んで欲しいのだが…?」
 言葉と共に向けられた、何かを期待する視線。恐らく、熾火は『誓いの口付け』を待っているのだろう。
「いや、まぁ…これで、勘弁してくれ」
 永久は意を決し、熾火の額にそっと口付ける。予想外の行動に、熾火はを丸くして狼狽えながら視線を逸らした。
 直後。2人の『静かな愛情表現』に反応したのか、アヤカシが出現。ドス黒いオーラと共に、黄色い薔薇の花びらを生み出した。
「憎いか…その目が濁るほどに…」
 呟くように言葉を漏らした直後、熾火はイスの陰に隠していた長矛を取り出す。同様に、永久も『身の丈よりも大きな偃月刀』を構えた。
 闘志を見せる修羅達に向かって、花びらが殺到する。それを気にする事なく、2人は床を蹴って敵との間合いを詰めた。背後で花びらが爆発し、爆風が耳に響く。
「そこまで憎む事があったか…!」
 怒りを露にしながら、永久は兵装に精霊力を纏わせ、渾身の刺突を繰り出した。直撃と共に、強烈な衝撃波がアヤカシを弾き飛ばす。
 熾火は加速して大きく踏み込み、長矛を全力で突き出した。鋭い一撃がアヤカシに命中し、抉るように貫通。傷口から瘴気が漏れ出し、数秒で全身が砕け散った。
 アヤカシの消滅を確認し、肩の力を抜く熾火。永久は上着を脱ぎ、首元を緩めた。
「あー…『こういう言葉』は、あんまり慣れていないんだが……とても、よく似合っていた。綺麗だったよ」
 照れ臭そうに視線を逸らしつつ、永久が呟く。その様子を見ながら、熾火は軽く微笑んだ。
「ほう…そなたに言われるは世辞でも嬉しいな」
 嬉しそうな熾火に釣られ、優しく微笑む永久。そのまま彼女の前髪を撫で、人差し指で額をそっと押した。
「次は本当の結婚式で、かな?」
 永久の言葉に、熾火は視線を羽衣に下ろす。その表情が、一瞬だけ寂しそうに曇った。
「楽しかった…この衣装、もう着る事もあるまいがな…」

●薔薇と芍薬と風船蔓
「どうかしら? 似合います?」
 着替えを終えたローゼリア(ib5674)が、にっこり笑いながら一回転。薄いピンク色のプリンセスラインドレスが、ヒラヒラと舞っている。
「わぁ…ローザさん綺麗です」
 それを見て、素直な感想を述べる皇 那由多(ia9742)。彼の明るい笑顔と言葉が、嬉しいながらも恥ずかしい。
「約束通り、ブーケは僕が用意しました」
 言いながら、那由多は芍薬で作った花束を取り出した。濃いピンク色の花を、白いリボンで束ねたブーケ。同様のブートニアが、白いタキシードの胸元に飾られている。
「最初はね、真赤な薔薇が似合う人だと思ったんです。でも…ローザさんには棘なんてない、似合わない。普通の可愛い女の子です♪」
 那由多の口からブーケの説明が語られた瞬間、ローゼリアの動きが止まった。
(この人は…どうしてこうも私の心に踏み込んでくるのか…)
 彼女がローザ…薔薇という意味の愛称を使うのは、自身に棘のある事を確認する為でもある。それを看破されたような気がして、嬉しさと恥ずかしさで頬が熱くなった。
 動揺しながらもブーケを受け取り、ローゼリアは礼を述べる。彼女の新たな一面を目撃し、那由多は嬉しそうに微笑んだ。
「それと…これを受け取って頂けますか?」
 ローゼリアの手を優しく取り、木製の櫛を手渡す。白い小さな花と蔓(かずら)が装飾された櫛は、本来『出陣の無事』を祈って渡す物である。
「え? これって、どういう意味…?」
「ふふふ…なんでしょうね?」
 問い掛けるローゼリアに、満面の笑みを返す那由多。そのまま、2人は教会の控室から礼拝堂に移動した。
 数分後。ギルドが手配した参列者と音楽隊が見守る中、結婚式が始まったが…入場の途中でアヤカシが出現。バージンロードのド真ん中で対峙する事になった。
「まったく不粋ですわね…」
 理由の分からない憤りを覚えながら、ローゼリアは瞬時に銃を抜いて発射。着弾と同時に、那由多は2つの式を召喚した。
 1つは、眼球部分を攻撃する鴉。もう1つは、瘴気を喰らう式。その2つがアヤカシに喰らい付き、隙を生み出す。
 次の瞬間、ローゼリアはアヤカシの至近距離まで移動していた。敵の眉間に短銃を突き付け、何の躊躇いもなく引金を引く。放たれた弾丸がアヤカシを貫通すると、全身が瘴気と化して弾けた。
 普段なら短銃は頼もしい武器だが…今は何故か、その重みが悲しく感じられる。悲痛な表情で、ローゼリアは那由多に顔を向けた。
「これでも…先ほどの言葉を言ってもらえますか?」
 アヤカシと戦った自分を、『普通の可愛い女の子』と言ってくれるワケがない。そう思いながらも、心のどこかでは若干の期待を持っている。
 那由多はローゼリアに歩み寄り、耳元で言葉を呟いた。それは彼女以外に聞こえなかったが、式の前に渡した蔓の花言葉は『永遠にあなたと共に』。彼が伝えた想いは、恐らく…。

●『偽り』と『本物』
 教会の控室で、リズレット(ic0804)は純白のウェディングドレスを着たまま、何度も自分の姿を確認していた。
(ふしぎ様の期待に、応えられれば良いのですけど…)
 アヤカシを誘き出すための結婚式だが、新郎役は大切な彼氏。緊張でアタフタするリズレットの耳に、ドアをノックする音が響いた。
「リズ、準備は……」
 言いながらドアを開けたのは、純白のタキシードを着た天河 ふしぎ(ia1037)。彼がリズレットの姿を見た瞬間、動きが完全に止まった。
「あ、あの…ふしぎ様…?」
 突然硬直したふしぎに、リズレットが不安そうに声を掛ける。その一言に反応し、ふしぎは視線を逸らしながら頬を掻いた。
「あっ、いや…リズが、あんまりにも素敵だったから…凄く綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます…っ! ふ、ふしぎ様も、凄く素敵です…っ」
 互いの姿を褒め合い、顔を真っ赤にしている2人。甘い雰囲気が周囲を支配する中、ふしぎは軽く咳払いして彼女の手を取った。
「行こう、リズ…僕達の未来を、少しだけ先取りに」
 微笑むふしぎに、リズレットが笑顔を返す。2人は控室を出ると、礼拝堂へと移動。それを待っていたかのように、結婚式が始まった。
 音楽隊の演奏に、参列者の拍手。荘厳で華やかな空気と共に、神父が誓いの言葉を読み上げていく。
 神父が『誓いの同意』を求めると、ふしぎは一呼吸置いて口を開いた。
「はい、誓います」
 端的で力強い返事に、神父が静かに頷く。同じ質問をリズレットにすると、彼女は驚いた様子で体をビクンと震わせた。
「ち……誓いますっ!」
 声が上ずっているが、『ふしぎに見惚れて神父の言葉が聞こえなかった』などと、口が裂けても言えない。
 誓いが終わり、2人は指輪を交換。唇が一瞬触れる程度の口付けを交わすと、周囲の歓声と拍手が一層強まった。
 そのまま、何事もなく式は終了。幸か不幸か…この教会にアヤカシは出なかった。2人は礼拝堂を後にし、控室に戻って来た。
「リズ、お疲れ様。その…花嫁姿、とても素敵だった。だから僕…もう一度、リズの花嫁姿を見たくて…だから……」
 そう語るふしぎの声は、緊張で震えている。一度深呼吸して気を落ち着かせると、リズレットの銀眼を正面から見据えた。
「今度は、『ちゃんとした意味で』リズのご両親に、挨拶に行かせて貰えないかな?」
 数秒の沈黙。予想外の提案に、リズレットの思考は完全に停止していた。
 天儀に於いて、男性が女性の両親に『正式な挨拶』をするのは、特別な意味を持っている。
「そ、それはその、えっと…つまり…っ」
 『結婚の挨拶』。リズレットが問い掛けるような視線を向けると、ふしぎは深々と頷いた。
「ふしぎ様…っ! はいっ、はいっ……勿論、です…っ!」
 大粒の涙を流しながらも、リズレットは愛する男性に抱き付く。ふしぎは最愛の女性を抱き止め、そっと頭を撫でた。
 『偽の結婚式』が本当になった瞬間…今日という日を、2人は忘れないだろう。