|
■オープニング本文 「隔壁! さっさと閉めろ!」 「駄目です! 既に破壊されました!」 「何でもいい、奴の足止めをして下さい!」 白衣を着た研究者達が、慌てた様子で怒声を張り上げる。混乱が周囲を支配する中、1機の駆鎧が倉庫の壁を破壊して姿を現した。 錆び色に似た、赤い機体。その造形は四代目の正式アーマー『人狼』に似ているが…装甲の厚さが全く違う。まるで、運動性を投げ捨てたような堅牢な作りである。 どんな物でも、試作という段階が存在する。ここの研究施設では既存の駆鎧の強化案や、新型駆鎧の開発が進められていた。 この赤い機体は、試作駆鎧の1機…開発仮名は『孤狼』。圧倒的な火力と装甲を重視して設計されたが、操縦性の悪さと製造コストの高さが原因で、開発は凍結。試作途中で未完成だった機体は、倉庫の隅に投げ捨てられた。 その試作機が、何故か動いている。しかも、パイロットの居ない無人状態で。倉庫から抜け出し、出入り口に向かってゆっくりと進んでいる。 「ったく…だから俺は反対だったんだよ! こんな馬鹿げた機体の開発は!」 イラ立ちを隠せず、怒鳴る研究者。巨大な剣が障害物を破壊し、厚い装甲のせいで破壊する事も出来ない。この状況で『落ち着け』という方が無理だろう。 うろたえる研究者達を嘲笑うように、試作駆鎧が剣を構える。直後、周囲の大気が渦を巻き、大量の瘴気が刀身に集まり始めた。 「これは…まさかアヤカシ!?」 気付いた時には、もう遅い。瘴気に取り憑かれた駆鎧は、剣を振り回して建物を斬り崩した。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
シリーン=サマン(ib8529)
18歳・女・砂
来須(ib8912)
14歳・男・弓
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志
ウルイバッツァ(ic0233)
25歳・男・騎
九条・奔(ic0264)
10歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● その日、朱藩のギルドは異様な雰囲気に包まれていた。重苦しい空気に、強烈過ぎるプレッシャー…鈍感な人間でも、間違いなく異変に気付くだろう。そして、その中心に居るのは…。 「行く先の見当について…教えて頂けますか? 知っている事は、包み隠さず些細な事まで全て吐露して下さい」 淑やかな獣人、シリーン=サマン(ib8529)。穏やかな微笑みとは裏腹に、翡翠のような瞳は微塵も笑っていない。むしろ、『触るな危険』というオーラを放っている。 とは言え、彼女は理由もなく威圧感を放っているワケではない。シリーンの『有無を言わさぬ圧力』を受け、白衣を着た研究員達はコクコクと何度も頷いた。 彼らは、朱藩の駆鎧研究施設に勤めていた研究員である。開発を進めていた試作機『孤狼』が、アヤカシに取り憑かれて暴走。施設を破壊し、どこかえ消えた。 研究員達は倒壊に巻き込まれたが、全員無事に保護されギルドに移送。その後、試作機に関する情報収集に来たシリーンと『平和的に』対話中である。 「僕の聞きたい事は2つ。『孤狼』の通気孔の位置と、『孤狼』の搭乗ハッチの位置と解除方法…あと、『孤狼』の急所を教えてよ」 彼女に同行したウルイバッツァ(ic0233)の問い掛けに、丁寧に答える研究員達。『2つじゃなくて3つ質問してるじゃないか!』というツッコミを入れる者は、1人も居ない。 「で? 結局どんなモン作ったんだよ。『一気に複数に攻撃できる』って?」 来須(ib8912)が気になっているのは、研究員がギルドに伝えた情報である。『複数の対象を同時に攻撃する』とは聞いているが、それがどんな物かは一切不明なのだ。 研究員達は記憶を探り、小さな事まで情報を提供していく。特殊な武装はなく、剣が巨大だから複数攻撃可能だという事。『孤狼』の搭乗ハッチに関する情報。耐久力を重視した結果、重量が増えて脚部に負荷がかかっている、等々。 「ま、アヤカシが憑りついた時点で別物になってる可能性もあるか…情報、ありがと」 ぶっきらぼうに礼を述べ、来須は研究員達に背を向けた。一見すると無愛想な印象を受けるが、心の奥では試作機に対して若干のロマンを抱いていたりする。 シリーンとウルイバッツァも必要な事を聞き出せたのか、感謝の言葉と共に一礼。情報収集を終えた3人は、ギルドの裏口から外に出た。そこには、彼らの朋友が待機している。 来須は名も無き滑空艇い飛び乗り、巡航モードで機動。シリーンは相棒の走龍、アイヤーシュに騎乗し、後ろにウルイバッツァを乗せた。 「振り落とされぬよう、ご注意を。アイヤーシュ、頼むわね?」 ウルイバッツァに注意を促し、相棒に優しく声を掛ける。アイヤーシュが短い鳴き声を上げると、先行している仲間達と合流するために移動を始めた。 ● 「きゃーーー!」 絹を裂くような、女性の悲鳴。朱藩南西部では、混乱が少しずつ広がっていた。人々の恐怖を煽っているのは、1機の駆鎧…孤狼。ただゆっくりと歩いているだけなのだが…その全身から瘴気が立ち上っている。 幸い人通りの多い場所を進んでいないが、行商人や飛脚、一般人の往来は少なくない。孤狼の姿に恐怖を感じたのか、誰もが逃げ回っている。 人波に押され、1人の少年が転倒。泣きながら立ち上がろうとした瞬間、黒衣の青年が手を伸ばした。少年を支えて立ち上がらせ、衣服の汚れを払い落とす。 「ここは危ない、急いで逃げろ。歩けるか?」 怪我が無い事を確認し、ニクス(ib0444)が少年に語り掛ける。サングラスで表情は分からないが、その雰囲気は優しく穏やか。少年が涙を拭きながら頷くと、ニクスは口元に笑みを浮かべながら頭を撫でた。 そのまま、少年は駆鎧の進行方向とは逆の方に走っていく。彼の背を見送り、ニクスは視線を孤狼に向けた。同じように、孤狼を眺めている者が数人。 「試作機っていうのは強奪されるサダメだよね〜。特に2号機は!」 丸い眼鏡の奥で、九条・奔(ic0264)の金色の瞳がキラリと光る。10歳の少女ながら、世の中の『お約束』が分かっているようだ。 「暴走した駆鎧…確か、前にもこんな事があったような、無かったような……?」 孤狼を眺めながら、小首を傾げるレビィ・JS(ib2821)。彼女は以前、アヤカシに魅入られた駆鎧を止めた事がある。俗に言う『天然娘』なレビィは、その事を忘れているのかもしれない。 彼女の言動に、相棒の又鬼犬、ヒダマリが軽く溜息を吐いた。 ニクスもレビィも、ただ孤狼を眺めているワケではない。孤狼がもう少し先に進めば、人気の無い草原に行き着く。そこで敵を討つため、今は様子見をしているのだ。 すぐ戦闘に移れるよう、からす(ia6525)は懐から紫の宝珠を取り出す。練力を込めると、そこから金色赤眼の管狐、招雷鈴が出現。素早くからすの肩に乗り、視線を孤狼に移した。 『此度はアレを破壊すれバ良いのカ? またエラいデカブツダナ』 少女のような、少年のような、中性的な声。若干発音がおかしいが、気にしたら負けである。 「ヒトの型をした物は特にアヤカシが憑依しやすくてね、供養・手入れしないからこうなる。さしずめ『亡霊駆鎧』というところか…」 相棒に状況を説明しながらも、からすは周囲の警戒を怠らない。一般人が巻き込まれないよう、孤狼の進路上や近辺に視線を向けている。 「なるほど…試作機だからって放置しておくと、アヤカシに憑かれるんですね〜」 からすの言葉に納得したのか、サーシャ(ia9980)が大きく頷く。糸目で柔らかい笑みを浮かべているが、笑顔の裏では本能と理性が激しい戦いを繰り広げていたりする。 彼女は200cmを超える長身のため、小さくて可愛いモノに弱い。そして、この場には133cmの奔と、123cmのからすが居る。可能なら今すぐハグしたいが、サーシャはそれを理性で抑えた。 「なら…亡霊退治といくか。狼煙代わりに一発撃たせて貰うぞ」 言いながら、竜哉(ia8037)は巨大な魔槍砲を構えた。先制の一撃を放てば、孤狼の動きを止めてる事が出来る。その隙に、アーマーを同行させた開拓者が搭乗。早期対応して、短期決戦を目指す作戦である。 仲間達を見渡し、反対意見が無い事を確認する竜哉。魔槍砲に練力を籠めて狙いを定め、引金を引いた。 ● 轟音と共に銃弾が空を切る。背後からの狙撃に気付いたのか、孤狼は振り返りながら盾を構えた。巨大な盾が弾丸を受け止め、金属音と共に火花が飛び散る。 孤狼の動きが止まった隙に、竜哉、サーシャ、ニクス、奔はアーマーケースの宝珠を解除。出現した駆鎧に乗り込み、起動準備を進めていく。 銃撃を防いだ孤狼は、改めて開拓者達の姿を確認。彼らを『敵』として認識したのか、目の部分が不気味に光る。大剣を握り直し、開拓者達に向かってゆっくりと踏み出した。 ほぼ同時に、孤狼の頭上から矢の雨が降る。殺気の籠った弓撃に合わせ、雷撃が宙に軌跡を描いた。その2つが、敵を直撃。孤狼が視線を上げて天を仰ぐと、真紅の龍が旋回していた。 「前にも暴走したアーマーを止めた事があったが、あの時よりも厄介だ。義助、気を付けろ」 宮坂 玄人(ib9942)の言葉に、相棒の空龍、義助が力強く鳴く。さっきの弓撃と雷撃は、彼女達の攻撃である。先制したのは良いが、想像以上の頑丈さに警戒を強めた。 追撃するように、からすが身の丈の倍近い大弓を構える。彼女が視線で合図すると、招雷鈴の全身が光となって弓と同化。煌く光に包まれた兵装から、鋭い一矢が放たれた。 彼女の狙いは、足。弓撃が空を切り裂き、膝関節部に突き刺さる。 「ヒダマリ、何かあったらすぐに呼んでね!」 『お姉ちゃんこそ、何事もないようにね、本当に。他の人撃ったりしたら駄目だよ?』 「あ、うん。気をつけます、はい……」 苦笑いを浮かべながらも、練力を活性化させて集中力を研ぎ澄ませるレビィ。ヒダマリに言われた通り誤射に注意しつつ、孤狼の脚を狙って矢を放った。赤い閃光と化した矢が、脚部装甲の隙間に突き刺さる。 「あれが試作機か…その性能、どれほどのものか確かめさせてもらう!」 「人狼」改のエスポワールから響く、ニクスの咆哮。彼のアーマーは、ジルベリア語で『希望』を意味している。起動を終えたニクスは、盾を構えて敵の真正面から突撃。白金に輝くアーマーが、孤狼との距離を詰めていく。 接近してくるニクスに向かって、孤狼は薙ぎ払うような斬撃を放った。剣と盾が空中で衝突し、火花が派手に飛び散る。 攻撃後の硬直を狙うように、真紅の「人狼」改が孤狼に急接近。装甲の隙間を狙うように、巨大な刀を突き出した。 切っ先が駆鎧に突き刺さり、少量の瘴気が吹き出す。ダメージはあったものの、深手ではなかったらしい。2機の人狼を振り払うため、孤狼は一度剣を引いて全力で薙ぎ払った。 咄嗟に、ニクス達は後方に飛び退く。刀身が空を裂き、切っ先が掠っただけでアーマーの装甲に傷が描かれた。 「膂力もある、耐久も高い。だが…『それだけ』だ。正規採用されなかったのも、当然だな」 真紅のアーマー、NeueSchwertの奥で、竜哉が1人呟く。依頼の話を聞いた時から抱いていた、1つの予測…それが、孤狼との戦闘で確信に変わったようだ。 金と白で彩られた「人狼」改、アリストクラートに搭乗したサーシャは、ニクスと竜哉の戦闘を見て豪剣を構える。 「まずは、機動力と攻撃力を削ぎましょうか。教科書通りですが」 「さんせ〜! やっぱ、みんなで囲んで袋叩きだよね♪」 「火竜」のKV・R−01 SHに乗ったまま、元気な声を上げる奔。口調は楽しそうだが、発言自体は物騒極まりない。 サーシャはアリストクラートからオーラを噴射し、瞬間的に加速して孤狼の右側に移動。大検を持つ腕を狙い、兵装を振り下ろした。 深青色の刀身が腕部を直撃して火花が飛び散るが、刃が数cm喰い込んだ程度。やはり、孤狼の装甲は相当厚いようだ。 波状攻撃をするように、奔は左側から接近して至近距離から小型砲を発射。放たれた弾丸が、盾や腕に深々と減り込んだ。 アーマー4機に周囲を囲まれ、からす、レビィ、玄人の援護射撃も喰らっている孤狼。戦力や布陣を見る限り開拓者達が圧倒的に有利だが…人間の常識が通じないのが、アヤカシである。 開拓者達の攻撃は確実に当たっているが、重装甲の前では焼け石に水。致命傷になるようなダメージは、まだ与えていない。 逆に、孤狼の攻撃は大振りで避け易いが、破壊的な威力を秘めている。それは、前衛で戦っている4人が一番良く分かっているだろう。このまま戦いが長引くと、体力や練力の関係で開拓者達が不利かもしれない。 突如、孤狼は剣を頭上に掲げた。その刀身に、周囲の瘴気が集まっていく。何が起きるか分からないが、危険な事だけは間違いない。 孤狼の周囲に居た7人が動くより早く、1機の滑空艇が孤狼の視界を横切った。と同時に、柔軟な挙動から矢が放たれ、敵の肘に命中。その反動で、収束していた瘴気が舞い散った。 滑空艇から弓撃を仕掛けたのは、ギルドに行っていた来須。彼の後を追うように、アイヤーシュが土埃を上げながら駆けてくる。 「ありがとう、シリーン。さぁ、いくぞスメヤッツァ…!」 乗せて貰った礼を述べ、ウルイバッツァは走龍の背から飛び降りる。そのままアーマーケースの宝珠を解除し、「人狼」のスメヤッツァを召喚。着地と同時に乗り込み、起動準備を始めた。 「義助、あの場所まで行けるか?」 情報収集班の合流に気付き、相棒に語り掛ける玄人。彼女の指示に従い、義助は翼を広げて急降下し、地面に降り立った。 「皆、情報収集お疲れ様だったな。で、収穫はあったのかね?」 「はい。皆様、聞いて下さい!」 からすの言葉に、シリーンが元気良く答える。彼女の話を聞くため、開拓者達は一箇所に集まっていく。 とは言え、孤狼を放置する事は出来ない。竜哉、ニクス、レビィは敵の脚止めをするため、その場に留まった。 3人が孤狼の相手をしている間に、集めた情報を共有していく。武装の事、複数対象攻撃の事、搭乗ハッチの事や、装甲の脆い箇所について。 「ふむ…特殊な装備が無いなら、手の内は読めましたね。本格的に潰させて頂きます…!」 全ての情報を聞いたサーシャは、アリストクラートの全身にオーラを纏わせた。白い蒸気が立ち上る中、アーマーの瞳が緑色の光を放つ。その状態で地面を蹴り、敵に向かって一気に突撃。盾を構えたまま、体当たりを放った。 前衛に戻ったサーシャは、聞いた情報を大声で竜哉とニクスに通達。脚部の負荷が大きい事を知った3人は、狙いを膝に絞った。 「固いヤツって厄介なんだけどな…」 空中から援護射撃をしながら、苦笑いを浮かべる来須。攻撃は命中しているが、目立ったダメージを与えられないのは『厄介』の一言に尽きるだろう。 「だったら、搭乗ハッチを開けて内部から壊そう。誰か、援護を頼めるかな?」 スメヤッツァの起動完了したウルイバッツァが、出力を上げてオーラを纏った。ハッチの開放作業を行うため、準備体操として手を軽く動かしている。 「そういう事なら、僕にお任せ! ばぁぁぁぁぁぁーーるかんっ!」 言うが早いか、奔は緑色に輝く礫を構えて全力で投げ放った。それが空中に緑の軌跡を描き、孤狼に減り込んでいく。無論、前衛に当てたり、後衛の邪魔をしないように注意している。 「苦労かけるけれど、準備はいいわね?」 言葉と共にシリーンが相棒の首筋を撫でると、アイヤーシュは大地を踏み締めて一気に加速。超高速で敵の懐に潜り込むと、シリーンは魔槍砲で刺突を繰り出した。敵の反撃を喰らわないよう、そのまま射程外まで離脱していく。 2人の援護を受け、ウルイバッツァは巧みなアーマー操作で一気に敵の死角に回り込む。機体の反応速度を高めた機動は、設定された性能以上の力を発揮している。 代償としてウルイバッツァにも負担がかかっているが…それを無視して、彼は孤狼の至近距離まで接近。精密な操作でアーマーを動かし、手動でハッチをこじ開けた。 操縦席にアヤカシの姿は無く、瘴気が渦巻くばかり。どうやら、アヤカシは完全に駆鎧と同化しているようだ。 それを認識するより速く、ウルイバッツァはアーマーのマスケット銃でハッチの接合部をゼロ距離射撃。ハッチを閉められないように破壊し、外れた胸部装甲は遠くに投げ捨てた。 『お姉ちゃん! レビィお姉ちゃん、こっち!』 孤狼に集中していたレビィの耳に、相棒の呼び声が響く。その方向に視線を向けると、ヒダマリの傍に1人の少女が倒れていた。 少女を保護するため、レビィは兵装を手放して駆け出す。それに気付いたニクスは、盾を構えて防御を固め、レビィと少女を守るように立ち塞がった。 「護る事こそが騎士の勤め。今のうちに、避難を頼む」 「了解、ありがとう! もう大丈夫だから、私にしっかり捕まっててね?」 仲間が守ってくれているなら心強い。レビィはニクスに感謝を伝え、少女を抱き上げた。逃げ遅れてずっと隠れていたのか、怪我は無いが怯えてガタガタと震えている。 レビィは少女を優しく抱き締め、戦闘範囲外に向かって疾走。それを追い、ヒダマリも駆け出した。 胸部装甲を失った影響か、孤狼の周囲で瘴気が渦を作っている。その流れを確認するため、からすは懐から特殊な懐中時計を取り出した。瘴気計測用の針が振れ、強い瘴気の反応を指し示す。その方向は…。 「この瘴気の反応…シャオ、一緒にいくぞ」 『よかろう。報酬は一番イイ酒を頼ムゾ』 からすは相棒との同化を解除し、弓を構えた。狙いは、孤狼の背面部。普通の駆鎧なら、動力や宝珠を搭載している部分である。そこに瘴気が流れているという事は、駆鎧の動力を利用している可能性が高い。 精神力を研ぎ澄ませ、からすは矢を番えて射ち放つ。薄緑色の気を纏った弓撃は、盾や装甲に干渉される事なく物質を通過。そのまま、彼女が狙った背面部に命中した。 次いで、招雷鈴の赤眼が電光を生み出す。それが閃光の如く一直線に伸び、からすと同じ位置を射抜いた。 更に、孤狼の背後に回りこんだシリーンが魔槍砲に練力を上乗せする。その状態で引金を引き、強烈な砲撃を発射。着弾が炸裂した瞬間、孤狼の両腕から力が抜けた。 その隙を、奔が見逃すワケがない。 「伊達や酔狂で『こんなの』を装備してるワケじゃないんだからねっ!」 叫びながら間合いを詰め、頭部に装着した角型の兵装を突き刺す。そのまま頭を大きく振り、孤狼の装甲を内側から引き裂いた。 「淑女ならば、一撃必殺に懸けるもの…全力でいきます!」 サーシャの声に呼応するように、練導機関が唸る。兵装に青白いオーラを収束させ、閃光の如く突撃。渾身の力を籠めた一撃が孤狼の肩口を貫通し、右腕を斬り落とした。 瘴気が周囲に舞い散る中、玄人は符を構えて相棒に視線を送る。彼女の『無言の言葉』を受け取った義助は、口を大きく広げて雷撃を放った。それに合わせるように、玄人が符を投げる。 彼女達の攻撃を防御するように、孤狼は残った左腕で盾を構えた。が、実体の無い雷撃は、盾を通じて全身を駆け巡る。 練力を籠めた符は、盾をすり抜けて孤狼に命中。装甲内の瘴気と反応し、衝撃が一気に押し寄せた。 「確か、陰陽師の基礎の技だそうだが…『盾を貫通する』って冷静に考えたら恐ろしいな」 目の前で起きた事を冷静に分析しつつ、苦笑いを浮かべる玄人。便利な技だが、使い方を間違えたら危険かもしれない。 「独りで強くても、勝負の行方は別なんだよねぇ…」 不敵な言葉を口にしながら、ウルイバッツァはマスケット銃をガラ空きの装甲内部に突っ込む。その状態で銃撃を放つと、弾丸が跳ね回って内側から駆鎧を破壊していく。 「いかに頑丈だろうとも、これなら!」 裂帛の気合と共に、エスポワールの練導機関が唸りを上げる。ニクスは盾を構え、全身にオーラを纏った。地面を蹴って一気に間合いを詰め、孤狼の脚部関節を狙って兵装を叩き付ける。渾身の一撃が右膝を捉え、右脚を粉々に砕いた。 「1つ教えてやる。人狼には、『人の戦闘技術であれば再現できる拡張力』…つまりは柔軟性がある」 竜哉の言葉を実証するように、NeueSchwertは彼の動きを再現して相棒魔槍砲を孤狼に突き立てる。直後、アーマーから大量のオーラが噴出。その全てを推進力に変え、NeueSchwertは孤狼を押しながら無人の方向へ疾走していく。 「お前のように、ただ力が強い、ただ頑丈というだけでは…」 駆鎧と共に駆けながら、竜哉は魔槍砲の引金に相棒の指を伸ばした。 「弱いのさ」 言葉と共に、弾丸を発射。オーラを纏った銃撃は孤狼を貫通し、装甲に大きな穴を穿つ。そこから亀裂が全身に広がり、ほんの数秒で鉄の破片に姿を変えた。 ● 「さて…駆鎧はボコったし、戻るか。コイツの最後も教えてやらないと…な」 鉄の塊となった孤狼に視線を向けながら、来須は残骸にそっと手を触れる。特に理由は無いが…何となく、試作駆鎧に触れておきたかったのだ。 来須に促されるように、開拓者達はギルドに帰還。依頼主と研究員達に状況を報告した。 その数時間後。からす、来須、玄人の3人は、孤狼と戦闘した場所に戻ってきていた。駆鎧の残骸を集め、ギルドに持ち帰るために。 「これで全部か? 元々は『相棒』として作られた物…このまま朽ち果てるのは、忍びないからな」 集めた残骸を眺めながら、悲しそうな表情を浮かべる玄人。アヤカシに乗っ取られたとは言え、駆鎧を破壊した事を気に病んでいるのだろう。 「せめて、黙祷くらいは捧げよう。後は…クズ鉄なり再利用するなり、好きにしたらいい」 からすの提案で、3人は目を閉じて静かに祈る。願わくば、今度は開拓者の相棒として生まれ変わるように…。 |