港に忍び寄る異形
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/01 21:47



■オープニング本文

 大アヤカシ『黄泉』が討伐された事は、天儀の人々にとって嬉しいニュースである。誰もが喜びに湧き、アヤカシとの争いに終止符が打たれる事を期待していた。
 無論、天儀以外の人々も、気持ちは同じだろう。アヤカシは、命あるものにとって天敵ともいえる存在…だからこそ、他の儀から天儀に向けて戦力や物資の支援が行われていた。
「この荷物も、次に発送する分ですよね?」
「おう! さっさと縛って、準備しとこうぜ?」
 泰国の港で、忙しく動き回る従業員達。天儀を支援するため、物資が山のように届いている。恐らく、ジルベリアやアル=カマルも似たような状態になっているだろう。
『ふ…フネ』
「ん? 何か言ったか?」
 呟くような小さな声に反応し、男性従業員が周囲を見渡す。彼の視線と言葉に、近くに居る者達は否定するように首を振った。
『フネ…どコダ?』
 さっきよりもハッキリと、不気味に響く声。今度は全員が聞こえたのか、港内の従業員達が視線を巡らせている。
 そして…気がついた。部屋の隅から、瘴気が吹き出している事に。
『船、どこだ? 物資……潰ス!』
 溢れる瘴気が固まり、大柄な鬼の姿となって具現化。それに続き、子鬼達が次々に湧いてくる。
 突然現れた異形を目の当たりにし、恐怖で硬直する従業員達。そんな彼らを尻目に、子鬼が港中を駆け回って荷物を破壊していく。
 それだけでは飽き足らず、子鬼達は停泊中の船に飛び乗って舟底を破壊。小舟から大型船まで、手当たり次第に沈めている。
 とは言え…自分達も一緒に沈んでいるトコロを見る限り、知能は低いようだが。
『物資…潰す。補給、無ければ…人間達、喰うのはカンタン…!』
 言葉と共に、大鬼が歪んだ笑みを浮かべる。奴の目的は、補給や物資を潰す事らしい。食料が無ければ、人々は肉体的にも精神的にも弱る…ある意味、一石二鳥の作戦かもしれない。
 脇目も振らず、周囲を破壊していくアヤカシ達。その隙に、従業員達は港を逃げ出した。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
華魄 熾火(ib7959
28歳・女・サ
ルイ (ic0081
23歳・男・志
麗空(ic0129
12歳・男・志
クロス=H=ミスルトゥ(ic0182
17歳・女・騎
焔翔(ic1236
14歳・男・砂


■リプレイ本文


 外壁が崩れる音と共に、粉塵が舞い上がる。港を我が物顔で暴れ回る、大勢の子鬼達…突如現れた異形が、物資や建築物を破壊していた。このままでは、港が廃墟と化すのは時間の問題だろう。
 更なる破壊のため、子鬼が棍棒を振り上げる。直後、金色の閃光が奔り、子鬼を両断。全身が瘴気と化す中、それを吹き飛ばすように小柄な影が降り立った。
「ボク、参上っ! 戦いに来てやったぜいぇーい!」
 ハイテンションに叫びながらポーズを決めたのは、クロス=H=ミスルトゥ(ic0182)。彼女の後を追うように、開拓者達が次々に港へ駆け込む。
「おおきいのも、ちいさいのも…ぜ〜んぶ、『バーン!』するよ〜!」
 無邪気な笑顔を浮かべながら、麗空(ic0129)が銀色の三節棍を振り回す。それに合わせ、猿のような茶色い尾を振り、バランスを取っている。
「これ以上、港は壊させないぜ! 覚悟しやがれ!」
 叫ぶや否や、魔槍砲を突き刺す焔翔(ic1236)。14歳の少年でありながら、身長よりも遥かに大きな兵装を操る姿は『戦の民』と呼ばれる修羅に相応しい。
「小鬼ちゃん、可愛いな♪ でも荷物狙うとか超メイワクー!」
 喜びと怒りが入り混じった表情で、アムルタート(ib6632)は兵装を握り直した。黄金に輝く鞭が空を切り、子鬼達をシバき倒していく。
 自身が生み出した子鬼を倒され、港の奥から大鬼が姿を現す。眼前の光景に驚いたのか、大きく眼を見開いた。
『お…オ前達、何者!?』
 問い掛ける大鬼に、答えを返す者は誰も居ない。言葉の代わりに、華魄 熾火(ib7959)は大蛇のように長い矛を子鬼に突き刺した。
「そなたと同じ、『鬼』と呼ばれる事もある者じゃ。尤も、斯様にたどたどしい言葉遣いはせぬがのう…」
 不敵に笑い、兵装を引き抜く。と同時に子鬼の体が瘴気と化し、周囲に飛び散った。
『まさか…開拓者!? 俺のジャマ…させなイ!』
 状況を理解したのか、大鬼が怒りの声を上げて空気中の瘴気を吸収。間髪入れずそれを放出し、複数の子鬼を生み出した。その数は、最初に暴れていた子鬼の倍近い。
「自ら配下を生み出すアヤカシ、か。こう言った類の能力は、本体を倒してしまえば共に消滅するものが多い」
「ここは、短期決戦で元を断ちましょう。大鬼が生み出す子鬼に構ってばかりでは、イタチごっこだし」
 冷静に状況を分析しつつ、琥龍 蒼羅(ib0214)とフェンリエッタ(ib0018)が口を開く。物陰に隠れていた子鬼が彼らの背後から襲いかかるが、2人は咄嗟に反応して反転。美しい刀身と、巨大過ぎる野太刀が交差し、子鬼を斬り捨てた。
 開拓者達の実力を目の当たりにし、大鬼は子鬼達を自身の前方に集結。配下に護られるように、奥に姿を隠した。
「なら、先陣はボクに任せて貰おうか。突撃する…みんな続けーっ!」
 言うが早いか、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)は練力を放出しながら突進。加速するたびに練力の奔流が渦を巻き、流星のように子鬼を蹴散らしていく。
 彼女に続き、地面を蹴って駆け出す開拓者達。その両脇から、子鬼達が殺到した。フランヴェルの攻撃が強力でも、一度に全ての敵を倒す事は出来ない。子鬼達は仲間を犠牲にしてでも、開拓者を倒すつもりなのだろう。
 敵の狙いに気付いたのか、ルイ(ic0081)が脚を止めて刀を構えた。青い瞳が子鬼を捉え、刀身が空中に軌跡を描く。流れるような斬撃が敵を斬り裂き、瘴気に還した。
「大鬼の対応は、皆に任せようかと。俺は先に、子鬼を減らしておくかな、と」
 走っていく仲間達の背に声を掛け、ルイは再び刀を振る。彼に加勢するため、フェンリエッタ、クロス、焔翔も脚を止めて兵装を構えた。
「お願いします。でも、流れ弾には注意して下さいね?」
 三笠 三四郎(ia0163)は軽く振り返って言葉を返し、視線を前に戻す。子鬼達を盾に、奥に引っ込んでいる大鬼……騒動の根源を倒すため、三四郎は三叉の槍を強く握った。


「さて、と。被害が大きくなる前までに、何とかしたいとこかなと」
 子鬼を斬り散らしながら、ルイが独り呟く。既に港は相当壊れているが、これ以上の損壊は避けたい。ルイは、物資や建物を狙う子鬼を優先的に撃破している。
「同感。戦闘中に、船や一般人が近付かないと良いけど…」
 フェンリエッタの狙いも、ルイと同じだ。全体を眺めて敵と仲間の動きに注意し、確実に子鬼を斬り倒している。
 だが、この場所が港である以上、漁を終えた船や商品を受け取る商人が来てもおかしくない。一般人に危険が及ぶ事を、フェンリエッタは心配していた。
「それなら大丈夫だ! 俺の背中を見てくれ! 建物がブっ壊されてるし、どっからでも見えるだろ?」
 彼女の不安を吹き飛ばすように、焔翔の元気な声が響く。彼の背で揺れる、大きな1本の旗。そこには『アヤカシ出没中』と書かれていた。
 これは、焔翔が廃材を利用して作った物である。ゆっくり加工する時間が無かったため、かなり大きくなってしまったが…逆に目立って良いかもしれない。
 旗を見たフェンリエッタは、思わず笑みを浮かべた。ルイは表情を変えなかったが、落胆している様子もない。これで、周囲への警告は大丈夫だろう。あとは、鬼を排除するだけである。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。子鬼ちゃんが何匹いるんだかわかんないけど、薙ぎ払うのが今日のボクの仕事ってねぇ!」
 嬉々として槍を振るい、敵を殴り飛ばしていくクロス。戦いを楽しんでいるように見えるが、実はマントが『入港禁止』と書かれた旗になっていたりする。
 港を護り、大鬼と戦う仲間達を援護するため、子鬼と対峙する4人。敵自体の強さは大したことないが、数が圧倒的に多い。全ての子鬼を倒すには、まだ時間がかかりそうである。


「も〜っ! じゃ〜ま〜! おおきいのが、いいの〜!」
 麗空は不満そうに頬を膨らませながら、襲ってくる子鬼を蹴散らす。大半はルイ達が引き付けているが、大鬼を守っている子鬼も少なくない。進路を塞いでいるワケではなく、脇から散発的に狙ってくるのが厄介である。
「悪い奴、はっけ〜ん!! ひゃっほう♪ どけどけぇ〜い!!」
 そんな事は全く気にせず、子鬼をシバきながら一直線に進むアムルタート。彼女だけでなく、6人全員が最短コースを疾走している。
 大鬼の注意を引くため、熾火は狼のような遠吠えを上げた。
「そなたと私、まずは根比べ…じゃな。来い!」
 挑発するような言葉と共に、不敵な笑みを向ける。それが気に障ったのか、大鬼は怒りの形相で口を大きく開けた。
『開拓者ドモ…これデも、喰らエ!』
 叫びと共に、口内に瘴気が集まって一瞬で炎と化す。それが撃ち出されると、周囲の瘴気を吸収して膨張。1mくらいの炎弾と化し、開拓者達に迫る。
 フランヴェルは仲間を守るため、盾を握って先頭に飛び出した。両腕で盾を固定し、両足を踏ん張って身構える。炎弾が接触した瞬間、火の粉と瘴気が舞い散り、熱気が周囲を駆け抜けた。
 大鬼が攻撃した直後の隙を狙い、三四郎と蒼羅がフランヴェルの背後から飛び出す。そのまま一気に間合いを詰め、大鬼に接近。三四郎は圧倒的な剣気を放ちながら、槍を突き出した。
 ほぼ同時に、蒼羅は兵装を走らせる。2人が狙ったのは、大鬼の脚。三四郎の刺突が敵の膝を貫通し、蒼羅の斬撃が太腿を深々と斬り裂いた。
 2人の連携で、大鬼の右脚から大量の瘴気が噴き出す。人間だったら、間違いなく大怪我。相手はアヤカシだが、この脚では機動力は激減だろう。
「失礼。隙だらけだったので、膝を砕かせてもらいました」
 そう語る三四郎からは、敵意も殺意も感じられない。どこか掴めない雰囲気があるが、無気力というワケではなく、感情を一切表に出していないだけなのだろう。
「悪いが、迅速にケリをつける。鬼の相手は慣れているのでな」
 静かに言い放ち、兵装を振り上げる蒼羅。彼だけでなく、6人全員が大鬼に追撃しようとしている。
 開拓者達の攻撃よりも一瞬早く、大鬼は棍棒を振り回した。丸太のように太い腕から繰り出される殴打が、衝撃を伴って迫る。反射的に、6人は大鬼の攻撃範囲から飛び退いた。
 が、反応が遅れたのか、アムルタートに棍棒が直撃した。
「キャー♪ な〜んちゃって、当たらないよ♪」
 それは、不思議な感覚だった。攻撃は直撃したように見えたが、次の瞬間アムルタートは敵の射程圏外に居た。まるで、狐に化かされたような光景である。
 それでも攻撃を止めない大鬼に向かって、フランヴェルが突撃。盾と刀を交差させ、攻撃を受け止めた。
「どうやら、今回はボクが一番頑丈の様だ。この刀と盾で、仲間を守ってみせるよ!」
 叫びながら棍棒を弾き飛ばし、素早く刀を薙ぐ。切っ先が敵の胸板に傷を描き、瘴気が噴き出した。
 複数の傷を負っても、大鬼の闘志が衰える様子は微塵もない。6人は敵を包囲するように移動し、兵装を構え直した。


 戦況は、一進一退。開拓者達は互いの死角を補い合うように連携し、大鬼は力技で叩き潰そうとしている。
 ほんの少しの隙を狙い、三四郎は地面を蹴って死角から接近。全身の力を込めて回転し、槍を大きく振り回した。斬撃と殴打に遠心力が加わり、大鬼の脚の肉を削ぎ落として瘴気が噴き出す。
「立体機動…とまではいきませんが、私でもこの程度の事は出来ます」
 三四郎の狙いは、大鬼の逃亡防止と退路の封鎖。脚に集中して攻撃していたのは、そのためである。追撃するように、喉を狙って三叉の槍を突き出す。
 それに合わせて、開拓者達の後方から『金色の風』が吹き、大鬼の胴に突き刺さった。
「どうだ、俺のとっておきは! 穴だらけにしてやるぜ!」
 風の正体は、全力疾走した焔翔。魔槍砲の砲撃と共に小型短銃を発射し、言葉通り風穴を空けた。銃撃の風圧で、金色の長髪が派手に揺れる。
「子鬼は全て始末したからな、と。残るは、お前だけだ…と」
 ルイの言葉通り、周囲に溢れていた子鬼は1匹も残っていない。彼は仲間達の後方で弓を構え、援護するように矢を放った。鋭い一撃が宙を奔り、大鬼の脚を射抜く。
「全員揃ったか。この好機を逃す手は無いな…!」
 静かに言い放ち、蒼羅は兵装を構えた。直後、大鬼の片腕が切断され、空中で弧を描く。
 蒼羅が放ったのは、超高速の斬撃。目にもとまらぬ正確無比な刃が、一瞬で大鬼の腕を斬り落としたのだ。『鬼斬る魔刀』の異名は、伊達ではないらしい。
 満身創意になりながらも、大鬼は周囲の瘴気を吸収していく。これは、さっきも見た動き。恐らく、子鬼を生み出そうとしているのだろう。
「させるか! ボクとミステルテインの力、見せてやるぜぃ!」
 叫びながら、クロスは大鬼に向かって突貫。敵の懐に滑り込み、木製の槍を全力で振り回した。強烈な一撃が巨体を揺らし、配下の生成を防ぐ。
 行動を邪魔されながらも、大鬼は不敵に笑っていた。
「クロス、避けろ! 炎がくる!」
 敵の狙いに気付き、蒼羅が大声で叫ぶ。ほぼ同時に、大鬼の放った炎弾がクロスを飲み込んだ。燃え盛る炎が、一瞬で全身を駆け巡る。
「常冬より来たれ、白銀の息吹で凍て尽くせ…!」
 周囲に響く、フェンリエッタの凛とした声。彼女の声に呼応し、白銀の龍が現れた。冷気を纏った式が、凍てつくような低温の息を吐き出す。それがクロスの炎を消し去り、大鬼を凍らせて動きを鈍らせた。
「フェンリエッタ君、ありがとー。 ちょっと焦ったけどな!」
 微笑みながら手を振り、礼を述べるクロス。一見するとフェンリエッタの行動は無茶だったかもしれないが、仲間を素早く助け、周囲の延焼を防ぐには、最適の方法だろう。結果として、クロスも軽症で済んでいる。
 加えて、フェンリエッタの援護は大鬼に致命的な隙を作った。畳み掛けるなら、今しかない。攻撃に移ろうとした熾火と麗空の視線が、瞬間的に重なった。
「そなた、脚力に自信はあるか? 飛んでは、みぬか?」
「ん〜? あ、わかった! 『せーの!』ってするよ〜!」
 麗空が小柄で機敏な事に着目した熾火が、槍を地面に刺して連携を持ち掛ける。彼女の考えを理解した麗空は、顔を輝かせながら大きく頷いて跳躍。熾火の槍を足場にして更に跳び、天高く舞った。
 ほぼ同時に、アムルタートも地面を蹴る。その足元が仄かに輝いた直後、まるで鳥のように高々と跳躍した。
 大鬼の頭上まで跳び上がった2人は、落下しながら兵装を構える。麗空は三節棍を握り、頭部を狙って素早く振り下ろした。渾身の力を込めた殴打が直撃し、角が砕けて瘴気と化す。
「あっはっは〜! やーい、間抜け面ー♪」
 コロコロと笑いながら、アムルタートは無骨な短銃の銃口を向け、超至近距離から撃ち放った。弾丸が眉間を貫通し、穴が穿たれて瘴気が流出。それでも絶命しないのは、流石はアヤカシ…といったトコロか。
 一瞬も間を置かず、熾火は槍を引き抜いて突進。大きく踏み込むのと同時に兵装に練力を込め、全力で突き出した。衝撃を伴った一撃が、大鬼の脇腹を抉り取る。
 止めを刺すように、フランヴェルは刀で斬り上げながら斜めに跳躍。空中で体を翻し、全身の練力を放出した。更に、体重と重力加速を上乗せして刀を振り下ろす。
「奥義! 流星斬・雷霆重力落とし!」
 絶叫が大気を震わせ、溢れ出す練力が巨大な刀のような幻影を生成。空中に光の軌道を描きながら、大鬼を縦一文字に両断した。圧倒的な威力に、地面に軽く亀裂が走る。
 フランヴェルが刀を振って鞘に納めると、大鬼の体が瘴気と化して四散。そのまま、海風に吹かれて消えていった。
 静まり返った港を、10人の開拓者達が隅々まで見渡す。敷地内を暴れ回っていたアヤカシは、もう居ない。彼らは、港を守り抜いたのだ。
 とは言え、アヤカシが大暴れしたせいで船や建物は滅茶苦茶になっている。開拓者達は全員で協力し、使えそうな資材や荷物を分別。可能な限り現場を片付け、その場を後にした。
 もしかしたら…港の復旧を手伝うため、開拓者が再び訪れる日がくるかもしれない。