『サクラ』全戦
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/23 20:53



■オープニング本文

 住む場所が違っても、桜の美しさは変わらない。天儀から伝わった桜花は、今年も泰国で満開に咲いていた。
 が…それを眺める住人達の表情は、暗く沈んでいる。
「やれやれ…もう桜の季節か。嫌な時期がきたモンだ」
「今年は被害が少ないと良いんだけどな。去年みたいな『事故』は勘弁して欲しいねぇ…」
 言葉と共に、苦笑いを浮かべる青年達。次の瞬間、乾いた春風が吹き荒れ、桜の花びらが宙に舞った。
「痛っ! あ〜…早速出やがったな、『裂羅(サクラ)』の奴が!」
 男性の手の甲に奔る、紅い線。薄っすらと残る傷は、まるで刃物で切られた跡のようだ。
 世界には様々なアヤカシが居るが、この街には裂羅と呼ばれるアヤカシが存在している。いつから居るのか、何故この街に居るのか、誰も知らない。
 分かっているのは『桜の季節にだけ出現する事』、『小さな切り傷をつけていく事』、『体長は小さく、数が多い事』くらいである。
「きゃっ!!」
 周囲に響く、女性の短い悲鳴。視線を向けた先で、衣服を切り裂かれた女性がしゃがんでいた。慌てて、彼氏らしき男性が自分の上着を着せる。
 これも、裂羅の被害の一種。ほぼ毎年、衣服を切られて『大変な姿』を晒す者が居る。ちなみに…去年は『泥酔したオッサンが全裸になる』という大事故が起きたが。
 被害そのものは小さく、命の危険に関わるような事は1度も起きていない。が…その数は年々増加し、人々の不安が募っている。住人達と町長が話し合った結果、ギルドへの依頼を決意した。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武
リズレット(ic0804
16歳・女・砲
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ
ヘイゼル(ic1547
17歳・女・武


■リプレイ本文


 温かい南風に合わせて、淡い桃色の花びらが舞い上がる。桜吹雪の中、6人の開拓者達は泰国の小さな町を歩いていた。
 散歩には絶好の天気だが、彼らの目的は『裂羅』と呼ばれるアヤカシの撃破。この町にしか現れない特殊な奴で、住人の衣服を切り裂いたり、小さな切り傷を負わせる厄介な存在である。
 戦闘に巻き込まれないよう、住人達は集会所に避難済み。その集会所を基点に、開拓者達は町を見回り中である。
「被害は少なくとも、不安にさせている以上は早急に退治しないとですねー」
 住人を安心させるため、相川・勝一(ia0675)が周囲の警戒を強める。穏やかな表情とは裏腹に、鋭く輝く赤い瞳。その視線は、12歳の少年とは思えない程に力強い。
 が……今の彼に最適の言葉は、『カワイイ』だろう。何しろ、小柄な少年が『トラの着ぐるみ姿』なのだから。実際、彼が集会所に行った時、避難した女性達から黄色い声が上がっていた。
「服を斬り裂くなんて、小さくても侮れない奴ですね。万が一、女性が被害に遭ったら大変です…」
 言いながら、仲間達を横目で見るサライ(ic1447)。今回のアヤカシと女性陣が戦ったら、衣服を切り裂かれてしまう可能性が高い。最悪の場合、あられもない姿を晒す事になるが…心のドコかで、それを期待していたりもする。
「サライ様…言葉と表情が一致していませんよ?」
 溜息混じりに指摘したのは、ヘイゼル(ic1547)。彼女の言う通り、サライは心配する言葉を口にしながらも、顔は若干緩んでいた。彼も12歳という多感な時期だし、逞しい想像力をフル活動させたのかもしれない。
 ヘイゼルにツッコまれ、恥ずかしそうに顔を隠すサライ。その様子を見たヘイゼルは、ほんの少しだけ笑みを浮かべて戦背嚢を背負い直した。中に入っている荷物は、着替え。衣服を切り裂かれた時に備えているのだ。
「今回のアヤカシ、誰が考えついたのでしょうねぇ? 鎌がなければ、小さくて可愛いパンダさんだと思うんですがぁ…」
 残念そうに、八甲田・獅緒(ib9764)が言葉を漏らす。目撃情報によれば、出現したアヤカシは『2足歩行する30cm程度のパンダ』。年頃のお嬢さんなら、誰でも『カワイイ』と思うかもしれない。
「そうか? ボクは、獅緒やリズの方が可愛いと思うけどな」
 言うが早いか、水鏡 絵梨乃(ia0191)は獅緒とリズレット(ic0804)を後ろから抱き締める。可愛い娘を見たらハグしたくなるのは、絵梨乃なりのスキンシップ。傍から見たら『少々怪しいお姉さん』かもしれないが…気にしたら負けである。
「え? いや、そんな事は…八甲田様はともかく、リゼなんかより水鏡様の方が……」
 頬を赤く染め、恥ずかしそうに俯くリズレット。嫌がる素振りは無く、絵梨乃から逃げる気も無いようだ。もっとも、それは獅緒も同じだが。
 談笑しながらも、全員アヤカシへの警戒は忘れない。分かれ道に差し掛かった所で、6人は別々の方向へ散開。手分けして、見回りを始めた。


 街道を歩いていたリズレットは、脚を止めて視線を上げた。視界に映るのは、満開の桜。舞い散る花びらを見ていると、脳裏に『大切な人』の顔が浮かんでくる。
(サクラは、リゼと恋人を結んでくれた大切な花…それを汚す存在は許しておけません…!)
 気付いた時、彼女は拳を強く握っていた。決意を新たにし、再び歩き始めるリズレット。裂羅を探し出すため、銀色の視線を巡らせている。
 ほぼ同時刻。絵梨乃は、しゃがんで頬杖をつきながら、のんびりとアヤカシを眺めていた。
(へぇ〜〜〜…想像通り、可愛いアヤカシだな)
 視線の先に居るのは、体長30cmのパンダ。アヤカシとは思えない程の可愛さに、ついつい笑顔が零れている。彼女が戦闘を始めるのは、まだ先になりそうだ。
「二足歩行の小さいパンダがいっぱい…可愛いのかシュールなのか、何なのかわからないです」
 十数体の裂羅を目の当たりにし、思わず苦笑いを浮かべる勝一。あまりにも非現実的な光景に戸惑う気持ちも分かるが……『2足歩行の虎に言われたくない』というツッコミが聞こえてきそうである。
「それでは…効率に従い、始めます」
 静かに宣言し、ヘイゼルは素早くレイピアを奔らせた。一切迷わず、戸惑う事もなく、眼前の敵を斬り倒していく。両断されたパンダ達は、数秒で瘴気と化して空気に溶けていった。
 他の場所でも、開拓者とアヤカシの戦闘が始まっている。
「単独行動は不慣れですが…退くわけにはいきませんね…」
 多少弱気な発言をしつつ、リズレットは二挺の短銃を構えた。向かってくる裂羅に狙いを定め、素早く引金を引く。放たれた弾丸が敵を貫通し、一瞬で瘴気に還した。
 それでも、裂羅は次から次へ襲ってくる。リズレットは紙一重で攻撃を避けながら、素早く銃口を向けた。次の瞬間、彼女の表情が驚愕に変わり、動きが止まる。
 その隙に、アヤカシの鎌がリズレットの衣服を捉えた。黒いドレスのスカートが大きく切り裂かれ、透き通るような白い肌が露になる。腰の辺りから純白の紐ショーツが覗いているが…見なかった事にしよう。
 リズレットはスカートを押さえながら、後方に跳び退く。彼女が動けなくなったのは、射線上に桜の木があったからだ。あのまま短銃を撃っていたら、弾丸は敵を貫通して桜に命中していただろう。
「サクラを護るためなら、この程度の傷……あぅ〜、恥ずかしいのは我慢なのです…」
 恥ずかしさで頬を染めながらも、短銃を構え直すリズレット。桜は、彼女にとって大切な花。危険な目や、恥ずかしい思いをしても守りたいのだろう。
「見かけによらず、凶暴だな。少々、気を引き締めていくか…」
 裂羅を眺めていた絵梨乃が、衣服を切りさかれてゆっくりと立ち上がる。フラフラとした不規則な動きで攻撃を避け、カウンター気味に蹴撃を叩き込んだ。
 彼女が動く度に、白銀の長髪が揺れて裂羅が瘴気となっていく。蹴り飛ばした裂羅が民家に衝突しないよう、注意は忘れない。
 アヤカシの大半は開拓者の正面から襲い掛かっているが、物陰から狙っている奴も居る。その標的になっているのは、サライ。彼が道を曲がった瞬間、板塀の上から裂羅が落下して鎌を振り下ろした。
「それで奇襲のつもりですか? 甘いですよ!」
 周囲に注意を張り巡らせていたサライは、苦無を振り上げて攻撃を受け止める。敵の体勢が整うより早く、鎌を弾き飛ばして反撃。漆黒の刀身が裂羅を両断すると、瘴気と化して弾け散った。
 敵を翻弄するように、サライは兵装を構えたまま走り回る。周囲のアヤカシ達を誘き出し、双刃を縦横無尽に奔らせた。
「少しは集めないと倒しにくいですね。こっちにくるのですよー!」
 勝一は大きく息を吸い、大音量の雄叫びを上げる。その声に釣られ、周囲から裂羅達が集まり始めた。引き寄せられた敵を狙い、勝一が槍を振り回す。白銀の穂先がアヤカシの鎌を砕き、一気に薙ぎ倒した。
 多くの敵を相手にするには、一箇所に集めて一網打尽にするのが効率が良い。しかし……敵が増えると、それだけ衣服を切り裂かれる可能性が増えるワケで。
「ふぇ!? しまっ、僕は男ですから! 切り裂くのはナシでー!?」
 悲鳴に近い叫び声を上げた時には、もう遅い。虎の着ぐるみが切り裂かれ、数箇所から肌が露出していた。
 しかも、着ぐるみの下は『褌一丁』という、男気溢れる格好。これ以上の露出を防ぐため、勝一は激しいイキオイで兵装を振り回した。
 彼とは対照的に、ヘイゼルは裂かれる事を気にする素振りが無い。それでも、裂羅の数の多さと、自身の衣服がボロボロになっていく事にイライラが溜まっていた。
「少々、鬱陶しいですね…!」
 不快感を露にしながら、ヘイゼルは兵装をレイピアから魔刃に持ち代える。身の丈ほどもある刀剣が空を奔り、裂羅ごと斬り裂いていく。
 大きく踏み込んで手首を返し、追撃に次ぐ追撃。巨大な刀身が風の如く入り乱れ、舞うような動きでアラカシを斬り散らす。数分もしないうちに、ヘイゼルの周囲に居たアヤカシは全て消滅していた。
「やれやれ、想像以上に手間取ったな。みんながボクと同じ状態になってるなら…眺めに行くか」
 戦闘で浴衣がボロボロになったが、絵梨乃は不敵な笑みを浮かべている。衣服を切り裂かれてしまったが、仲間達も同じ状態になっている可能性が高い。
 しかも、今回参加した女性陣は、絵梨乃好みの可愛い子揃いである。淡い期待を胸に、彼女は仲間と合流するために駆け出した。
 違う場所では、サライが敵の間を走り抜けている。接近と離脱を繰り返し、間合いを調節しながらの攻撃。敵の斬撃を避けながら、確実に裂羅を撃破していく。
 そんなサライの不意を突くように、死角から2匹のアヤカシが接近。一気に距離を詰めて地面を蹴り、跳び上がって鎌を振り上げた。
 サライの反応が一瞬遅れ、ローライズのショートパンツが切り裂かれる。しかも、両側を同時に。デザイン上、布の量が極端に少ないため、ローライズがハラリと落ちる。
「うわあああああ! 褌締めてくるの忘れたぁ!」
 慌てて前を押さえ、うずくまるサライ。ローライズが衣服としての機能を失った今、彼の下半身を隠す物は何もない。周囲には敵が残っているし、色んな意味でピンチである。
(どどど、どうしようっ!? 代えの服は無いし……あ、そうだっ!)
 サライが指を鳴らすと、周囲に大量の木の葉が出現。それが敵を惑わせ、彼の姿を覆い隠した。
 その隙に、サライは荷物から羽根飾りを2枚取り出す。金具や留め金を利用し、切り裂かれたローライズを修復。『最悪の事態』だけは、何とか回避した。
「これで応急処置は良し。ここからは効率重視でいきます!」
 修復したとは言え、激しい動きには耐えられそうにない。木の葉が消え去ると、サライは最小限の動作で兵装を振り回した。
 仲間達が激戦を繰り広げる中、獅緒は天狗の如く軽やかに町を駆け回っている。今の所、彼女は敵と遭遇していない。このまま戦闘が起こらないかと思った直後、進路上に裂羅が出現した。
「アヤカシさん現れましたねぇ。攻撃が当たらなければ、どうという事はないのですよぉ!」
 叫びながら、兵装を構える獅緒。そのまま速度を上げ、速度を上げて敵に突撃した。
「わきゅぅ!?」
 次の瞬間、短い悲鳴と共に獅緒が派手に転ぶ。地面にあった大きな石を避けずに直進したため、つまづいてしまったのだ。さっきまで軽やかに走り回っていたとは思えない動きである。
「は、はぅぅぅ…天狗駆は今は効果ないのでしたよぉ…」
 鼻を撫でながら、ゆっくりと起き上がる獅緒。どうやら、スキルの効果を勘違いしていたらしい。もしかしたら…意外とドジッ娘なのかもしれない。
 可愛らしい光景ではあるが、今は戦闘の真っ最中。目の前にはアヤカシが居る上、手加減する様子は微塵も無い。ようやく立ち上がった獅緒に向かって、数匹の裂羅が殺到した。
「え、あ…きゃぁ!?」
 再び響く、短い悲鳴。アヤカシの鎌が彼女の衣服を派手に切り裂き、水着のように露出が多くなってしまった。しかも、可愛らしい『ぱんつ』が丸見えになっていたりする。
 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながらも、獅緒は兵装を強く握った。ここで羞恥心に負けたら、アヤカシにも敗北してしまうからだ。
「と、ともかくっ! アヤカシを倒しきることを優先するのですよぉ! は…恥ずかしいけどぉ」
 自分に言い聞かせるように叫び、仕込み杖から刃を抜き放つ。もう片方の手で仏刀を操り、双剣を振り回した。切っ先が裂羅を捉え、次々に瘴気に還していく。
「獅緒君! 大丈……は、はわわ!? 何も見てない、見てないですよーっ!!」
 救援に駆けつけた勝一だったが、獅緒の姿を見るなり真っ赤になって目を逸らした。当の獅緒から、三度目の悲鳴が上がったのは言うまでもない。
 勝一同様、絵梨乃も救援に向かうため走っていた。その脚が突然止まり、民家の物陰に視線を向けて凝視している。彼女が見詰めているのは……下着姿のヘイゼルだった。
「おっと、これは眼福…じゃない。こんな場所で何をしてるんだい?」
「見ての通り、着替えです。戦闘中は兎も角として、はしたない姿を晒していられませんから」
 言葉を返し、ヘイゼルは素早く服に袖を通す。着替えを終えたヘイゼルは、満足そうに微笑む絵梨乃と共に、アヤカシを探して歩き始めた。


 衣服を切り裂かれたり、半裸に近い姿を晒したりと紆余曲折があったが、開拓者達はアヤカシの撃破に成功。避難していた住人達を呼び戻し、広場で花見が始まっていた。
 裂羅の脅威から開放され、喜びで酒が進む。豪華な料理も並び、大宴会と化している。無論、開拓者達も一緒に。
 勝一と獅緒は着替えを済ませ、花見を楽しんでいる。勝一が虎のきぐるみを脱いでしまったため、住人女性から不満の声が零れているが。
 花を見上げていた獅緒は、何も無い所で脚を滑らせてバランスを崩す。彼女が転ぶより早く、絵梨乃が獅緒を受け止めた。
 そのまま獅緒を抱き上げ、腰を下ろして膝に乗せる。ちなみに、絵梨乃は着替えていないため、衣服がボロボロのままである。
 セクシー過ぎる格好に、色んな男性達の視線が集中。サライはローライズを縫いながら、横目でチラチラと盗み見ている。ちなみに、修繕中の衣服と裁縫道具は、住人から借りた物である。
「花は良いですね…襲ってくるわけでもなければ喚きもしません。散るのに文句一つも言いませんし、ね」
 桜を見上げるヘイゼルの口から、言葉が零れた。その発言には、若干のトゲがあるように聞こえる。もしかしたら…裂羅と戦った時の事を思い出しているのかもしれない。
「あの…ヘイゼル様? 差し出がましいかもしれませんが…何かあったのですか? リゼで良ければ、話をお聞きしますが…」
 言いながら、リズレットが心配そうに顔を覗き込む。ヘイゼルは丁寧に礼を言って申し出を断ると、リズレットにお茶を差し出した。
 桜の木の下で、たくさんの笑い声が重なる。住人達を苦しめていた裂羅は、もういない。来年からは、この町でも春を楽しむ事が出来るだろう。