【AP】逆襲の黄泉
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/09 22:56



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文

 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 天儀歴1014年。人類とアヤカシの長きに渡る戦いは、最終局面を迎えていた。
 魔の森を消滅させるべく、打って出る開拓者達。迎え撃つのは、大アヤカシ『黄泉』を始めとするアヤカシの大群。一進一退の攻防は、世界的な大戦争と化してした。
 だからこそ……人々の反応が遅れたのかもしれない。遥か頭上から迫り来る脅威に…。
「本当なのかね、この観測結果は!!」
「残念ながら…間違いありません。小惑星が1つ、この儀に向かって接近中です」
 儀の外に広がる世界、宇宙。そこには巨大な質量の『星』が無数にあり、空間を漂っている。
 その中の1つが、突然進路を変えたのだ。こんな現象が自然に起きるとは、考えられない事だが。
「恐らく、黄泉が小惑星を引き寄せているのでしょう。軌道が変わる前後に、膨大な瘴気が確認されています」
「小惑星直径、約10km。衝突確率、98%。衝突被害、測定不能」
「これ以上の説明は要らないよネ? 1つだけ言えるのは『チョーヤバイ』ってコト」
 天文学者達が次々に口を開く。発せられる言葉は、全て絶望を加速させる内容。希望に繋がるような事は1つもない。
 報告を聞いていた初老の男性は、荒々しく机を叩いた。
「御託はいい……具体的な対策は? そのためにワシを呼んだのであろう?」
 男性の言葉に、研究室内が静まり返る。数秒の沈黙の後、研究員の1人がゆっくりと口を開いた。
「飛空船で宇宙(そら)に上がり、力技で破壊するのが一番確実です。開拓者と、朋友の力があれば可能でしょう」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文


 漆黒の空間を進む、巨大な岩塊。宇宙の規模に比べたら微々たるサイズだが、これが天儀を直撃したら壊滅は免れない。絶望の足音は、徐々に近付いていた。
 それを打ち砕くため、希望を乗せた船…超弩級飛空船『武雷』が天儀から急上昇。宇宙の闇を切り裂くように、光の軌跡が伸びていく。
「小惑星落としか…そんな事を許せば、天儀が人の住めない儀になってしまうな」
 船の会議室から小惑星を眺めながら、羅喉丸(ia0347)が拳を強く握る。どんな理由があっても、罪の無い人々が犠牲になるのを見過ごせない。彼は、そういう侠(おとこ)なのだ。
「流れ星は見る分にはいいけど、自分の所に落ちてくるのは縁起悪いもんね〜〜」
 溜息交じりに言葉を漏らす、叢雲・暁(ia5363)。流れ星なら願いを叶えてくれそうだが、今回の相手は小惑星。ロマンも希望も全く無い。
「この状況で隕石落としって、なかなかサプライズが過ぎるんじゃない?」
「嬉しいサプライズなら大歓迎なんだけどな。酒とか、芋羊羹とか」
 クスクスと笑いながら、葛切 カズラ(ia0725)と水鏡 絵梨乃(ia0191)が酒を酌み交わす。ヤケ酒とは違う、戦意高揚のための飲酒。依頼を達成したら、今度は祝杯をあげているかもしれない。
「ったく…ロクなモンじゃねえなあ! 黄泉って野郎は!」
 軽く舌打ちし、荒々しく壁を叩くルオウ(ia2445)。正義感の強い彼にとって、アヤカシの無差別殺人は許せる事ではない。規模が天儀全体に及んでいるなら、尚更である。
『開拓者諸君に告ぐ。本艦は作戦開始宙域に到達した。以降は、諸君らの判断で行動してくれたまえ!』
 何の前触れもなく、伝声管を通じて連絡が届く。その瞬間、周囲の緊張感が一気に高まった。小惑星を破壊しなければ、天儀に明日は無い。加えて宇宙での慣れない戦闘…開拓者達が感じる重圧は、並大抵ではないだろう。
「往くぞ、小童ども! 相手が何であろうと、わし等の為すべき事は1つだ。違うか!?」
 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)の重低音が室内に響き渡る。からくりの身だが、彼は参加者の中で最年長。年齢が半分以下の仲間達を気遣い、発破をかけて気勢を上げようとしているのだ。
 テラドゥカスの言葉に、竜哉(ia8037)が軽く微笑む。
「そうだね…出来る事をせずに後悔するくらいなら、当たって砕けてみようか!」
 緊張や迷いが吹っ切れたのか、彼の瞳には一片の曇りもない。開拓者達は互いに顔を見合わせて頷くと、会議室を飛び出して格納庫へと駆け出した。そこにはカタパルトがあり、朋友達が待機している場所でもある。
「あたい達が力を合わせれば、小惑星の一つや二つ! ルゥミ・ケイユカイネン、白き死神いっくよー!」
 元気良く叫びながら、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が滑空艇改の白き死神に飛び乗る。動力機関が起動するのと同時に、カタパルトが作動。相棒の名の通り、白い光が宇宙空間に奔った。
 彼女に続き、次々に出陣する開拓者達。一気に数が減り、格納庫に残ったのはニクス(ib0444)とユリア・ヴァル(ia9996)だけになった。
「俺達も行こうか。愛してるよ、ユリア」
 言いながら、ニクスは愛する妻を抱き寄せて口付けを交わす。ほんの数秒の事だったが、それだけで2人の気持ちは通じ合ったようだ。
「私もよ、ニクス。続きは帰ってから…ね?」
 意味深な言葉を残し、ユリアは相棒の上級迅鷹、アエロと一緒に飛び出す。ニクスは人狼改のエスポワールに乗り込むと、手慣れた操作で素早く起動。カタパルトに乗り、武雷から飛び立った。


 迫り来る小惑星に向かって、宇宙空間を進む開拓者達。その先陣を切っているのは、絵梨乃である。
 彼女は鍛え上げた健脚で漂流物を蹴り、加速を繰り返して素早く移動していた。その速度は、仲間達の3倍の速さで移動しているように見える。
『カズラは僕が連れて行くから、任せてよっ!』
 やけに気合が入っているのは、カズラの相棒、上級人妖の初雪。瘴気で作った漆黒の翼を羽ばたかせ、カズラを引っ張っている。時折、カズラが手頃な岩を蹴って加速しているが。
 一定距離まで接近した絵梨乃は、相棒の輝鷹、花月と同化。背中から翼が生えた瞬間、全身が炎に包まれた。その状態で宙を翔け、炎の鳥と化して小惑星に突撃。衝突の瞬間、炎が一気に広がった。
 が…小惑星の直径は、少なくとも約10km。162cmの絵梨乃では、大きさが違い過ぎる。突撃した岩肌に、数メートルの円形の窪みが出来ているが、破壊するには程遠い。
「流石に、質量が違い過ぎるか。これで砕けてたら、相当気持ち良かっただろうなぁ…」
 残念そうに言葉を漏らし、同化を解除する絵梨乃。彼女の攻撃で異常事態に気付いたのか、小惑星に乗っていた黄泉の配下達が一斉に押し寄せてきた。
 斧を持った緑色の駆鎧、『叉駆』。人が操縦しているワケではなく、瘴気で操られているようだ。
「やれやれ…対多数用の兵装が欲しくなる数だな、こいつは」
 人狼改のNeueSchwerに乗り込んだまま、竜哉が弱音を零す。現れた叉駆は、数えるのが嫌になるくらい多い。この圧倒的な数を見たら、愚痴や弱音を吐きたくなるのも当然だろう。
「うっしゃあ! いくぜい、ヴァイス!」
 闘志を燃やすルオウの叫びに応え、輝鷹のヴァイス・シュベールトが同化して翼を生み出す。加速しながら炎を纏い、叉駆を吹き飛ばしながら直進。小惑星を射程に捉えると、両手で刀を握って全力で振り下ろした。
 練力と炎が混ざり合って渦を巻き、圧倒的な衝撃が宇宙を震わせる。強烈な斬撃が岩肌を裂き、深い溝を作った。
 行動直後のルオウを狙い、叉駆達が群がる。瘴気を噴出して加速すると、複数の斧が同時に振り下ろされた。
 それを遮るように、銀色の閃光が奔る。
「悉く粉砕してくれるわ! 機動拳士テラドゥカスの力、とくと見るがよい!」
『おうよ! あたしもやってやるぜ!』
 周囲に轟く、テラドゥカスの叫び。彼に続き、相棒の羽妖精、ビリティスも大声を上げた。
 テラドゥカスは流星錘を、ビリティスは斧を振り回し、叉駆を砕いていく。宇宙空間で大暴れする姿は、まるで破壊の竜巻。言葉通り、叉駆を問答無用で粉砕している。
 竜哉は叉駆を踏み台にして跳び、宙で反転して敵を蹴り落とす。叉駆同士が衝突し、体勢が乱れた所に止めの斬撃。天儀刀に似た兵装が装甲を貫き、叉駆は爆発して四散した。
「遅い! 指揮官型でも後期生産型でも重装甲型でも高機動型でも! 近付く奴は破壊しちゃうよ!」
 テラドゥカスに負けず劣らず暴れているのは、ルゥミ。弾丸に練力を込めて大筒を放ち、叉駆の腹部を一撃で破壊している。
 敵の攻撃は滑空艇の機動力で回避し、その間に弾を装填。準備が整ったら機体の進行方向を素早く変え、再び大筒を撃ち放った。
 もしかしたら、強行偵察型や陸戦型の叉駆が出現するかもしれないが…気のせいだと願いたい。
 敵の注意が仲間達に向いている隙を狙い、羅喉丸が一気に距離を詰める。相棒の皇龍、頑鉄に騎乗し、精霊力を纏って突進。頑鉄の頑丈さに物を言わせ、最短距離を突っ切っていく。
 その後ろを追うように、カズラと初雪が宙を翔ける。雑魚は眼中に無いのか、叉駆への攻撃は最小限。短銃で牽制する程度にし、移動を優先している。
 充分に近付いた所で、カズラは大型の九尾狐を召喚。その神々しい姿とは裏腹に、荒々しく獰猛な爪撃で小惑星の表面を削る。小さな亀裂が走ると、瘴気を送り込んで内部から破壊していく。
 羅喉丸は頑鉄の背から飛び降り、小惑星に着地。目を凝らして脆い部分を探し出し、そこに鉄棍の殴打を叩き込んだ。衝撃で岩肌が砕け、小さな欠片が宙に舞う。
「みんなばかりに、いい恰好させられませんよ!」
 カズラと羅喉丸が破壊に専念出来るよう、叉駆の相手をする暁。相棒の又鬼犬、ハスキー君と共に素早い動きで敵を翻弄し、忍刀と爪牙で斬り裂いていく。
「力技や物量作戦なんて、華が無いわ。勝利には『美しさ』と『確かな技術』と『ちょっとした遊び心』が必要なのよ?」
 言いながら、ユリアは叉駆を足場にして跳んだ。可能なら雑魚は無視したかったが、ここまで数が多いと素通りは出来ない。小惑星の破壊を邪魔されないよう、叉駆達に槍を突き刺した。
 ニクスは素早い機動で敵を翻弄しつつ、駆鎧銃にオーラを集中させて撃ち放つ。練導機関が唸りを上げ、青白いオーラが叉駆を貫通。そのまま小爆発を繰り返し、大破して四散した。
 既に多くの叉駆を撃破したが、残っていいる数はまだ多い。軽く溜息を吐きつつ、ニクスはシールドを掲げて防御を固めた。
「どうやら、機械人形共は遊んで欲しい様だな。相手をしてやろう」
 挑発的な言葉と共に、弾丸を装填。それを撃とうとした瞬間、絵梨乃が銃を制した。
「まて、ニクス。ここはボクが引き受けよう。皆は小惑星の方に急げ…!」
 言うが早いか、岩肌を蹴って叉駆の大群に突進。迎撃の斧を紙一重で回避し、カウンターの一撃を叩き込む。
 四方を囲まれた瞬間、絵梨乃の動きがフラフラとした不規則な挙動に変わった。酔っ払いのような動きで叉駆達を惑わし、隙あらば拳撃を叩き込んでいく。
「な…!? 1人じゃ無茶だ! 俺も一緒に」
「竜哉ちゃん、スト〜ップ! それ以上は『死亡フラグ』になりそうだから、言っちゃ駄目!」
 叫ぶ竜哉の言葉を、ルゥミが遮る。ここで『俺も一緒に戦うぜ』とか『後で必ず合流するから、先に行け』的な発言をしたら、大惨事は免れない。ここは、絵梨乃を信じて任せるのが最良だろう。
 小惑星を蹴り、一端後退する開拓者達。叉駆の大半が絵梨乃に群がって行くが、後退を邪魔するために突撃してくる敵も居る。
 咄嗟に、テラドゥカスは仲間達の前に出た。全身の気の流れを制御し、防御を固める。複数の斧が振り下ろされると、硬い金属音が周囲に響いた。
『さすがテラドゥカスだ、なんともないぜ!』
「耳元で怒鳴るな!」
 主の頑丈さに感動するビリティスに、テラドゥカスが怒鳴り声を返す。そのうち、彼女はテラドゥカスの斬撃に合わせて『練力斬りだ!』などと叫びそうな気がする。
 攻撃を受けたテラドゥカスは、敵を蹴り飛ばして兵装を構えた。今の状況で彼が離れたら、叉駆達は必ず追ってくる。仲間達に小惑星の破壊を託し、テラドゥカスとビリティスは絵梨乃に加勢した。
『羽妖精の力を見せてやる! ビリティス・トマホォォォォゥゥク!』
 叫びながら、ビリティスが斧を振り回す。その声を背に受けながら、開拓者達は小惑星の側面へと移動を開始した。


 絵梨乃達が敵を引き付けているお陰で、他の場所は手薄になっている。叉駆から充分に離れた位置で、破壊担当の8組は小惑星の地表に着地した。
「さて、ここからが本番ね。大物を頂くとしましょうか♪」
 不敵な笑みを浮かべ、カズラは2匹の九尾狐を召喚。その首に隷従の拘束具を装着すると、さっきよりも獰猛さが増した。荒々しく岩肌を削り、大量の瘴気を流し込んで破壊していく。
 雷鳴のような轟音が周囲に響く中、NeueSchwertが白い蒸気に包まれ、氷のような水色のオーラを纏う。その状態で、竜哉は兵装を振り下ろした。衝撃で岩肌に亀裂が奔り、破片が飛び散る。
 兵装を構え、意識を集中する羅喉丸。気力と練力の流れを転換した瞬間、周囲に衝撃の波が奔った。
「森羅万象は五行よりなるが故に、我が絶招にて砕けぬ物なし!」
 肉体の限界を超えた力を引き出し、羅喉丸は鉄棍を振り下ろす。圧倒的な衝撃が小惑星の内部を駆け抜け、巨大な岩塊が剥がれ落ちた。
 それを砕くため、初雪、ルオウ、暁、ハスキー君、ユリアが急行。全員で協力し、岩塊を粉々に砕いた。
 限界以上の力を発揮した羅喉丸は、凄まじい負荷に耐え切れずに昏倒。脱力して宇宙に流された瞬間、頑鉄が彼の体を受け止めた。
 そこから少し離れた位置で、ニクスが精密射撃を繰り返している。正確な狙いから撃ち出される銃撃は、ほんの数ミリしかズレがない。何度目かの装填の後、放たれた弾丸が小惑星を貫通した。
 誰よりも派手な動きをしているのは、ルゥミ。小惑星を周回しながら直線状に砲火を撃ちこみ、亀裂を広げていく。
「そろそろ頃合いかな? 小惑星を分割していこうか!」
 仲間達に声を掛け、ルゥミは亀裂に飛び込んだ。内部から砲撃を浴びせ、亀裂を更に深くする。
 彼女に続くように、仲間達も亀裂に降下。全員で協力し、小惑星を砕いていく。
 頑丈な物ほど、内側からの衝撃に弱い。破壊作業が一気に進み、小惑星は分断寸前の状態になっていた。
 ユリアは亀裂から浮上し、地表に着地。槍を構えてオーラを纏うと、アエロが光の粒子となって兵装と同化した。竜巻のような風と光が入り乱れる中、ユリアは小惑星を蹴って急上昇。仲間達が亀裂から脱出したのを確認し、兵装を投げ放った。
 彼女の手を離れた槍は、彗星のように宙を奔る。一筋の光が小惑星の中に消え、数秒で貫通した。中心部を砕かれ、衝撃が小惑星全体を駆け抜ける。
「ここは『墜ちろ、赤い星!』とか言うべきかしら?」
 ユリアが不敵に笑った直後、亀裂が縦横に奔って小惑星が崩壊。大小様々な岩塊と化し、周囲に飛び散った。
 破片を追い、更に砕いていく開拓者達。全ての岩塊を破壊した時、叉駆も全滅していた。


 任務を達成し、朋友を含めた全員が武雷に帰還。その表情は、みんな晴々している。
「なかなか派手な花火だったけど…何とか終わったわね。みんな、お疲れ様」
 労いの言葉を掛けながら、祝杯の準備を進めるカズラ。未成年にはお茶を準備し、人数分の飲み物を注いでいく。
 全員が杯を手にした瞬間、艦内に非常警報が鳴り響いた。
『み、みんな! アレ見てよ!」』
 悲鳴に近い叫びを上げ、初雪が窓の外を指差す。その先の光景を見た瞬間、驚きが加速した。
「2個目の…小惑星!? まさか、黄泉が引き寄せたのか!?」
 さっきとは違う場所に、突然出現した小惑星。こんな常識外れの現象を起こせるのは、竜哉の言う通り黄泉くらいだろう。
「余計な事を…! どうする? この距離だと、ボクらも無事では済まないが…」
 珍しく苦笑いを浮かべながら、仲間達に問い掛ける絵梨乃。2個目の小惑星はさっきよりも小振りだが、武雷は既に大気圏突入の準備を進めている。今出撃したら、小惑星を破壊しても帰還は厳しいだろう。
 加えて、今度の小惑星は赤い光を放っている。恐らく、寿命間近で爆発する寸前なのだろう。あれを破壊したら、爆発の衝撃から逃れる術はない。
「やってくれる……が、いいだろう。分の悪い賭けは嫌いではない!」
 苦笑しながらも、ニクスはエスポワールに乗ってカタパルトから射出。その肩には、ユリアが乗っている。
 2人の後を追い、意識を取り戻した羅喉丸が頑鉄に乗って宙を翔ける。竜哉はNeueSchwertに搭乗し、甲板に出ていた。
 彼らが何をしようとしているのか、聞かなくても分かる。命を賭して、小惑星を破壊するつもりなのだ。
 羅喉丸は精神を統一し、再び練力と気力の流れを転換。更に、練力と拳と心を1つに合わせ、全身に黄金の光を纏った。
「青龍、白虎、朱雀、玄武、麒麟! 五行を司りし神よ、我に力を……五神天驚絶破繚嵐拳!」
 裂帛の気合と共に、点穴を狙って拳撃を放つ。練力と気力が入り乱れ、黄金の衝撃波が小惑星を駆け抜けた。
「こんな石コロの1つや2つ! 俺とエスポワールで押し返してみせる!」
 カタパルトの加速に加え、金色のオーラを纏って出力を上げるニクス。巧みな操縦技術で駆鎧を動かし、限界以上の機動を発揮している。
 その状態で盾にオーラを収束させ、一気に突撃。圧倒的な威力に、小惑星の動きが徐々に止まっていく。
 が…羅喉丸もニクスも、限界以上の力を引き出しているため肉体への負担が激しい。この状況は、長くは持たないだろう。
「俺のワガママに付き合せて悪いな…これで最後にしようぜ、NeueSchwert!」
 叫びながら、竜哉はNeueSchwertの胸部装甲を引き剥がす。露出した錬導機関と武雷の出力ラインを接続し、相棒魔槍砲のリミッターを解除。高出力のエネルギーを制御し、練力を使って圧縮していく。
「若いな、若造共……貴様らの勇姿、しかと見届けてやろう!」
 気付いた時、テラドゥカスは大声を上げていた。恐らく、3人の活躍が彼の心を打ったのだろう。それは、その場に居る全員が同じである。
 仲間達に見守られながら、竜哉は魔槍砲の引金を引いた。光の洪水が視界を多い、膨大なエネルギーの奔流が小惑星を粉砕。その衝撃で大爆発を起こし、衝撃と破片が周囲に広がった。
「細かく砕いて、地上で見ている人たちに『願いの流星』を降らせましょう♪」
 飛び散る岩塊を砕くため、ユリアは扇を掲げて呪文を詠唱。頭上に炎の弾を生み出し、前方に投げ放った。
 隕石と見紛う程の火炎弾が、爆発の衝撃を若干和らげる。それが岩塊と接触した瞬間に炸裂し、周囲の破片を粉々に砕いていく。
 小惑星が完全に消滅した直後、武雷が大気圏に突入。天儀に向かって降下を始めた。艦内では開拓者達が仲間の名前を呼んでいるが…残念ながら、その声は届いていない。
 爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされるニクスとユリア。その衝撃で、エスポワールが少しずつ壊れていく。ニクスは駆鎧の前部装甲を開けて両腕を引き抜き、ユリアを抱き締めた。
「愛してるよ、ユリア…」
「愛してるわ、旦那様…」
 呟き合った言葉は、2人にしか聞こえない。互いに視線を合わせて微笑むと、2人の唇が触れ合った。
 全ての力を使い果たした羅喉丸は、天儀に向かって落下していた。
「あれが天儀か、綺麗だな…すまないな、頑鉄。お前はどこに堕ちたい?」
 自身と運命を共にした相棒に、優しく声を掛ける。当然、答えは返ってこない。代わりに、頑鉄は翼で羅喉丸を優しく包んだ。
 こうして…小惑星は破壊され、武雷は天儀に帰還。未曾有の危機は去ったが、そこに『彼ら』の姿は無い。
 だが、開拓者達は信じている。あの4人が生きている事を。そして、必ずこの地に戻ってくると。