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■オープニング本文 『生命の源』と表現される事のある場所、海。その範囲は広く、未だに解明されていない部分は多い。深度は様々で、深い場所には未知の生物が居るとか居ないとか。 深海に棲む魚達が浮上する事は少なく、漁師の網に掛かる事は滅多にない。だが…最近は、巨大なイカや不気味な魚が水揚げされている。しかも、相次いで。 「ま〜た巨大イカか。今月何回目だよ…ったく!」 不機嫌そうに言葉を漏らしながら、網に掛かったイカを外す漁師達。その体長は、軽く2mを超えている。 ちなみに。このイカはエグ味が強い上、アンモニア臭がキツい。どんな腕利きの料理人が調理しても、美味しく食べるのは不可能。物珍しいが、商品価値は無いに等しい。 「確か、理穴や武天でも水揚げされてましたよね? 相次ぐ烏賊の水揚げに、謎の深海魚…何かの前触れでなければ良いのですが」 言いながら、漁師の男性が眼鏡を直す。場所や時間帯はバラバラだが、巨大イカは天儀各地で確認されている。その回数は、今月だけで5回。今までは年に1回程度だったのに…である。 「おいおい、不吉な事言うなよ。本当に『何か』あったらどうするんだ?」 言葉と共に、苦笑いを浮かべる漁師。年明けから異常気象が続いたかと思えば、今度は深海魚の出現。異常が続き、不安になるのも無理はない。 が…当たって欲しくない予感ほど、何故か的中するモノである。朱藩沖で巨大なタコが目撃され、船が破壊されたのは、その翌朝だった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
ヘスティア・V・D(ib0161)
21歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
鍔樹(ib9058)
19歳・男・志
海原 うな(ic1102)
12歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● 春らしい温かい風が、海面を撫でていく。天気は快晴。日差しは柔らかく、散歩や昼寝をするには最適の陽気だろう。 だが…こんな平和な日常の裏にも、アヤカシの魔の手が伸びようとしている。人々を守るため、一隻の海上船が海を走っていた。その周囲で、飛行系の朋友が翼を広げている。 「巨大タコ…退治したら、きっとタコ焼きがいっぱい作れるから楽しみなのだぜ!」 轟龍の姫鶴で空を翔けつつ、期待に胸を躍らせているのは、叢雲 怜(ib5488)。相当気合が入っているのか、左右色違いの瞳に炎が燃えている。 盛り上がる怜を眺めながら、ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)は苦笑いを浮かべた。相棒の駿龍、ネメシスに指示を送り、怜との距離を詰めていく。 「怜…残念なお知らせだ。今回の蛸はアヤカシだから、倒したら瘴気に還る。タコ焼きは、おあずけだ…」 彼女の言葉に、怜の動きが完全に停止。その表情が徐々に曇り始め、ガックリと肩を落とした。 「タコ焼きくらいで落ち込むとは…汝もまだまだ子供じゃな」 不敵な笑みを浮かべながら、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が口を開く。大人びた話し方をしているが、彼女はまだ10歳。実は、怜と同い年だったりする。 「そんなにガッカリすんなよ。図体デカイと大味になりそーだから、喰うなら普通の大きさのタコを勧めるぜ、俺ァ」 周囲の気配を警戒しつつ、励ましの言葉を掛ける鍔樹(ib9058)。彼に同意するように、相棒の轟龍、アカネマルが深く頷いた。 「ねぇねぇ! 蛸を食べたいなら、後で私が獲ってこようか〜?」 「是非っ! うな、頑張って欲しいのだ!」 海上船から叫ぶ海原 うな(ic1102)に、怜が間髪入れず言葉を返す。その返事を聞き、うなは銛を片手に親指をグッと立てた。日頃から海で漁をしている彼女なら、銛でタコを突くのも難しくないだろう。 「怜君のためにも、さっさと倒さないとね。終わったら、みんなでタコ焼きを焼きましょう♪」 ユリア・ヴァル(ia9996)の提案に、参加者の大半が同意の声を上げる。無論、怜が誰よりも喜んでいるのは、言うまでもない。 戦闘後の楽しみが増え、気勢を上げる開拓者達。飛行系の朋友に乗っている者は速度を上げ、船を先行するように空を翔けていく。 盛り上がる仲間を尻目に、竜哉(ia8037)は船上から静かに海面を眺めている。 「巨大生物の多発か…最悪の場合、海中を調べる必要があるのかもしれないな」 依頼を達成しても、原因を特定して安全確保しない限り、漁師達の不安は消えない。敵を倒した後の事…人々の生活が、竜哉は気になっていた。 「巨大なヒュドラと比べれば遥かにマシですが…今度の相手はタコですか。触手が厄介ですね」 上級鷲獅鳥の黒煉に乗り、上空から海を見渡す朝比奈 空(ia0086)。敵の出現を警戒しているのか、眉間に若干シワが寄っている。 そんな彼女の頬を、水鏡 絵梨乃(ia0191)がツンツンとつついた。 「そんなに悩むな。うっちゃんのカワイイ顔が台無しだよ?」 空をアダ名で呼び、優しく微笑む絵梨乃。相棒の輝鷹、花月と同化しているため、背中から光の翼が生えている。彼女の不意打ちを喰らい、空は軽く笑みを浮かべた。 微笑み合う2人を邪魔するように、海面が盛り上がって水飛沫が舞い散る。水面下から2本の触手が伸び、開拓者達が反応するより早く絵梨乃とヘスティアに絡みついた。 ● 突然過ぎる襲撃。数秒前まで凪いでいた海が波立ち、海中から10mを超える巨大なタコが姿を現した。そのまま素早く2本の触手を戻し、絵梨乃とヘスティアを引き寄せる。 「克騎氏、急速旋回だ! 時間は俺とコウで稼ぐ!」 叫びながら、竜哉は相棒の迅鷹、光鷹と同化。甲板を蹴り、天高く舞い上がった。 「うおぉぉぉ! 大物、キターーー!! 『海のハンター』の血が騒ぐよっ!」 興奮気味に叫びながら、うなは相棒のミヅチ、ウニと共に甲板から飛び込む。その全身が淡い光に包まれると、まるで人魚のように海中を泳ぎ、タコに接近していく。 「な…何だ、この触手。ヌメヌメで、絡みついて…!」 苦笑いを浮かべながら、必死に抵抗する絵梨乃。ヘスティアとネメシスも、同様に身を捩っている。 が、動く度に触手がキツく絡みつく。豊か過ぎる胸が強調され、着衣が若干乱れ、色んな意味で大変な状況になっている。 「アエロ、周囲の警戒をお願い。捕まったら大変だからね…色んな意味で」 ユリアは相棒の上級迅鷹、アエロに警戒を指示。自身は周囲に結界を張って瘴気を探り、2度と不意打ちを喰らわないように注意を向けている。 「えっちゃん!? 今助けます…!」 「ママを離せ、このタコ〜っ!」 空と怜が動いたのは、ほぼ同時だった。空は周囲の精霊力を混合し、灰色の光球を生み出す。怜は魔槍砲の宝珠に練力を注ぎ、瞬時に圧縮して引金を引いた。 超高速の弾丸と共に、光の球が放たれる。銃撃が触手を抉り、光球が触れた箇所を灰化。2人の攻撃で触手に穴が開き、拘束が緩んだ。 その隙に、絵梨乃とヘスティアは力を込めて触手2本を振り払う。弾かれた残骸が瘴気と化し、空気に溶けるように消えていった。再び触手に捕まらないよう、ネメシスと絵梨乃は天高く飛び上がる。 入れ違うように、竜哉がタコの頭上に到達。素早く魔槍砲を構えて狙いを定め、銃撃を放った。弾丸が触手を貫通し、傷口から瘴気が溢れ出す。 「こうも簡単に出てくるとは…デコイの必要は無かったな。食えぬ蛸に用はない、さっさと瘴気に還してくれようぞ」 言いながら、リンスガルトは握っていた荒縄を投げ捨てた。その先に繋がっているのは、船に見立てたデコイ…囮の模型。タコの注意を海上船から逸らせるため、彼女が用意した物である。 リンスガルトは滑空艇のSuを巡航モードから全力可動に切り替え、出力を上げた。触手の動きに気を張り巡らせながら一気に加速し、死角に移動。高速飛行から刀を横に薙ぎ、擦れ違い様に触手の1本を斬り裂いた。 「こりゃあまた大物だなァ、オイ。今まで沈めた船の礼だ、覚悟しやがれ!」 漁師をしていた鍔樹にとって、漁船を襲うのは許されない所業なのだろう。アヤカシに対する怒りが溢れ出す中、アカネマルは翼を広げて急降下。手負いの触手を射程内に収めた瞬間、鍔樹は兵装を素早く薙いだ。 鉄色の閃光が空を奔り、触手を切断。斬られたタコ脚は、海に落ちるより早く瘴気となって消え去った。 相次いで脚を失い、タコが怒りに任せて触手を振り回す。それをギリギリで避けながら、鍔樹とリンスガルトは高度を上げた。 上空に避難したヘスティアと絵梨乃は、着衣を直して空達と合流していた。 「ありがとう、助かったよ……怜、どうした? 顔が真っ赤だけど」 「ななな…何でもないよ! 赤くなってないのだぜ! 絵梨乃姉の目の錯覚だよ!」 口では否定しているが、真っ赤になっているのは自分でも分かっている。が、『絵梨乃とヘスティアが触手で縛られた姿を見たせいだ』とは、口が裂けても言えないだろう。 『イヤーハッハッハ! 我等の得物では、手も足も出ない感じですなぁ、姫様!』 海上船の甲板から響く、豪快な笑い声。皇 りょう(ia1673)の相棒、からくりの武蔵 小次郎である。手に持っているのは、一般的な長さの太刀。どう考えても、アヤカシまで攻撃が届くワケがない。 何で小次郎が嬉しそうにしているのか分からないが、りょうは溜息を吐きながら弓を手に取った。 「一緒にしないでください! こんな事もあろうかと、私は弓も持って来ているのです」 『流石は姫様ですな! いや、拙者とて本気になれば…この自慢の髭がニュニュニュッと伸びて、遠くの敵を串刺しに――申し訳ありません、嘘を申しました』 りょうの鋭い視線に耐えられなくなったのか、小次郎が素直に頭を下げる。呆れながらも軽く笑みを浮かべ、りょうは矢を番えた。 「自分から謝ったので許します。では、武蔵殿は船を襲う足の切断を担当して下さい」 彼女の指示に、小次郎が深く頷く。それを確認し、りょうは弓を構えた。狙いを定めて矢を引き、弦を離す。放たれた矢は一直線に飛び、手負いの触手に突き刺さった。 間髪入れず、2本目の矢を番えて射ち出す。それが同じ触手に命中した瞬間、うなが海中から姿を現した。 小柄な体を大きく伸ばし、銛を突き出す。三叉の矛先が触手に刺さると、うなは力任せに銛を捻った。この触手には、竜哉の銃撃や、りょうの弓撃の跡がある。その傷跡から大きく裂け、4本目のタコ脚が引き千切られた。 これで、残る触手は4本。 の、ハズだが…タコの触手は何故か2本しかない。開拓者達がそれに気付いた時、海上船後方の海から触手が飛び出した。突然現れた2本の触手が船に迫るが、慌てる開拓者は居ない。 「熱烈なのは嫌いじゃないけれど…蛸足は遠慮したいわね。痕がつくと旦那様がヤキモチ焼くし」 妖艶な笑みを浮かべながら、ユリアが槍を振り回す。銀色の光が空中に軌跡を描き、触手を弾き飛ばした。 それに合わせ、アエロが翼の羽ばたきと共に苦無を2本投げ放つ。薄ラベンダー色の翼から流星のような輝きが奔り、触手に突き刺さって瘴気が噴き出した。 「船を襲うたぁ、言語道断だこんにゃろう! タコのアヤカシ、きっちり退治するぜ!」 怒りの叫びを上げながら、鍔樹とアカネマルが海上船に急接近。速度を落とす事なく触手に突撃し、槍を全力で突き出した。強烈な一撃が触手を抉り飛ばし、破片が周囲に飛び散る。 もう1本の触手を切断するため、小次郎が甲板を疾走。過負荷を無視した速度から跳躍し、空中で双刀を抜き放った。人間以上の判断力と機動で兵装を振り、触手を断ち斬る。 が……飛行能力の無い小次郎は、切断した触手と共に落下。水飛沫が舞い上がり、周囲に飛び散った。 「船を先に狙うのなら、まずは触手を狙いましょうか。行きますよ、黒煉」 空の指示に応えるように、黒煉が小さく鳴いて翼を広げた。風を掴んで宙を翔けると、烏羽色の羽根が数枚舞い散った。 「ボクも行くよ。さっき『大変な事』をしてくれたお返し、まだしてないからな」 彼女達に続き、絵梨乃とヘスティアも触手に向かって突撃していく。3人の接近に反応するように、タコは触手をウネウネと動かした。 直後。触手に鉛色の水が纏わり付き、動きを鈍らせる。ウニが周囲の精霊に干渉し、重い水を生み出したのだ。 相棒の援護に合わせて、うなが海中から浮き上がる。その位置は、触手の真下。銛を強く握り、全身のバネを駆使して真上に突き上げた。 「ヌルヌルで生臭い触手の礼だ、喰らえ!」 一瞬も間を置かず、ヘスティアが上から急降下。うなが攻撃した真裏を狙い、斬撃を振り下ろした。更に、ネメシスの爪撃も加わる。 3つの攻撃が1点で交わり、触手が千切れ飛んだ。それが空中で弧を描きながら、瘴気となって消えていく。 最後の触手を左右から挟むように、両側から距離を詰める空と絵梨乃。タコの点穴を狙い、絵梨乃が拳を打ち出した。逆側の黒煉は、翼に真空を纏って触手を切り裂く。 最後に空が灰色の光球を叩き込むと、触手は灰化して四散。そのまま風に吹かれて消えていった。 「触手を失った、今がチャンスだ! リンスガルトを起点に、一気に攻め込もう!」 「よかろう。大蛸如き、我が打ち砕いてくれる!」 上空から指示を飛ばす竜哉に、リンスガルトが言葉を返す。彼女がSuを操縦して加速すると、それを追って竜哉と光鷹も宙を疾走。更に、その後ろから怜も翔けている。 至近距離まで接近したリンスガルトは、Suを若干斜めに傾けて突撃。肩口を叩き付けるのと同時に、敵の内部に練力を送り込んだ。 衝撃が駆け巡る中、リンスガルトは急速離脱。それを確認し、竜哉と怜は魔槍砲を撃ち放った。弾丸が連続で突き刺さり、タコに穴を穿つ。3人が連携する姿は、龍が天を舞うように力強い。 連撃を締めるように、りょうが矢を射る。空を切るような弓撃が敵の右目に突き刺さり、眼球を潰した。 文字通り『手も足も出せない状態』になったアヤカシ。本能的に危機を察したのか、海面下に潜っていく。 「こんだけ暴れて逃げるなんざぁ、お天道様が許しても俺が許さねぇよ!」 鍔樹の咆哮と共に、タコの体が海面付近まで浮き上がる。敵の動きに反応し、アカネマルは水面ギリギリを滑空。下から突き上げるような鍔樹の槍撃が、タコを持ち上げたのだ。 浮上したタコの体を、うなが駆け上がる。 「一瞬の早さが勝負! 一気に……ゴオォォォだァァ!!」 銛を最上段に構え、眉間目掛けて一気に振り下ろす。漁師が魚を突くような素早い一撃が、タコの皮膚を貫いて突き刺さる。と同時に、瘴気が噴き出した。 その瘴気を切り裂くように、青い閃光が敵の眉間に突き刺さる。練力と精霊力を全身に纏わせた絵梨乃が、超高速の蹴撃を放ったのだ。 逃亡の邪魔をされ、タコが暴れながら墨を吐き出す。鍔樹達3人は急いで後退して回避したが、敵の姿が黒い霧の奥に隠れてしまった。 「墨…目潰しか? されど、我が眼は2つにあらず!」 りょうは矢を番え、目を閉じて意識を研ぎ澄ませる。暗い世界でも感じる、大きな気配…そこを狙って、彼女は矢を放った。数秒後、霧の奥から瘴気が噴き出す。 「ふむ…ならば、こうしましょう」 少しだけ思案を巡らせていた空は、タコの頭上で錫杖を振り上げた。その先端に、光の粒子が一瞬で収束。轟音と共に雷光が奔り、墨の奥のタコを貫いた。 「小賢しい…この程度で我の目を誤魔化せると思うな!」 リンスガルトは一気に高度を上げ、空中で反転。滑空艇の出力を最大にし、急降下していく。風圧で墨の一部が吹き飛び、タコの体が覗く。そこを狙い、彼女は刀を突き刺した。 魔槍砲に限界まで練力を充填した怜は、兵装を構えて狙いを定める。練力を更に圧縮して撃ち出すと、弾丸が衝撃を伴って飛来。超高速の衝撃波が墨を全て吹き飛ばし、銃撃がタコを撃ち抜いた。 「そこか! いくぞ、コウ!」 姿を現したタコに向かって、竜哉が上空から急接近。魔槍砲を構えると、背中の翼が粒子となって兵装と融合していく。光を纏った魔槍砲に練力を上乗せし、引金を引いた。 風のような光を纏った銃撃が、タコを撃ち抜き穴を穿つ。竜哉が海面に激突する直前、光鷹は兵装との融合を解除し、主と同化。再び光の翼となり、天高く舞い上がった。 「たつにーが作ってくれた隙、絶対無駄にさせない! ユリア、最後よろ!」 竜哉の上昇に合わせ、ヘスティアがネメシスから飛び降りる。落下しながら巨大な金鎚を振り上げ、着弾地点目掛けて投げ放った。手を離れた瞬間に光が奔り、雷のような軌跡を描く。 次いで、ヘスティアは刀を逆手で抜き、落下加速度と体重を上乗せして振り下ろした。強烈な連撃がタコを捉え、深々と切り裂く。そのまま敵の胴を蹴って後ろに跳ぶと、ネメシスが彼女をキャッチして飛び去った。 ヘスティアに最後を託されたユリアは、両の拳に練力を集める。拳と、練力と、心…その3つが1つになり、黄金の光を放っていく。 その隣で、アエロが光となって槍と同化。竜巻のような光と風を纏った兵装をユリアが握ると、黄金の輝きがそれに加わった。 「この一撃は、あらゆる物を穿つ…逃げ場はないわよ?」 静かに言い放ち、ユリアは槍を投げ放つ。金色の閃光を中心に大気が渦を巻き、疾風の如く直進。それが一瞬でタコに到達し、眉間を貫通して巨大な穴を穿った。 槍は空中で弧を描き、ユリアの手元に帰還。彼女が柄で甲板を叩いた瞬間、タコの体が瘴気と化して飛び散った。 ● 『何とか無事に済みましたな。万が一、姫様がヌルヌルの蛸足で嬲られでもしたら……オツな光景だったやもゲフンゲフン』 ようやく船に上がってきた小次郎だったが、うっかり口を滑らせる。気付いた時には、もう遅い。怒りのオーラを纏ったりょうが、無言で刀を抜いていた。 周囲に響く、小次郎の断末魔。それを掻き消すような雄叫びが、海上から聞こえてきた。 「おっしゃぁぁ! とったどぉぉぉ!!」 叫ぶうなの銛には、新鮮なタコが数匹串刺しになっている。その上、空いた手とウニの口にもタコ。随分とたくさん獲ったようだ。 「お疲れ様。よし、みんなでたこ焼きパーティーだ! 焼くぜっ!」 ヘスティアの号令で、全員が一斉に動き出す。船の調理場から食材や調理器具を移動させ、七輪に点火。平行してタコ焼きの生地を作り、うなが獲ったタコの下処理を進めていく。 全ての準備が整って生地を焼き始めると、香ばしい匂いが周囲に広がった。 「うっちゃ〜ん♪ ボクらも焼かないか? 折角、うなが獲ってきたんだし」 満面の笑みを浮かべた絵梨乃が、空の背後から抱き付く。スキンシップに慣れているのか、空は優しい微笑みを返した。 「構いませんが…人が見ている時に『それ』は自重して下さいね?」 言葉を返しながら、絵梨乃の両腕を軽く掴む。彼女の手が、空の胸に伸びようとしていたからだ。釘を刺され、乾いた笑いを零す絵梨乃。気を取り直し、2人はタコ焼きを焼き始めた。 「はい、スーちゃん。あーん♪」 「お、ユリアあんがとう〜。ほれ、お返し」 ユリアとヘスティアが、焼きあがったタコ焼きを食べさせ合う。出来立ての味は格別なのか、笑顔もタコ焼きも止まらない。 「んっと、えっと…俺も、あ〜ん♪」 2人の様子を見ていた怜が、エサを待つ雛鳥のように口を開ける。多分、食べさせて貰いたくて甘えているのだろう。 可愛らしい仕草に、ユリアとヘスティアの表情が綻ぶ。2人がタコ焼きを口に運と、怜は嬉しそうにそれを頬張った。 「私にも頂けますか? ちょっと『一仕事』したら腹が空いてしまったので」 色々とスッキリしたのか、爽やかな表情のりょう。甲板の隅で小次郎が痙攣しているように見えるが…ツッコんだら負けである。 「タコ焼きも良いけど、刺身で食べたり、軽く茹でても美味しいよ〜。試しにどうぞ」 言うが早いか、うなはタコの頭は固くならない程度に茹で、冷水で締めてブツ切りにした。足の部分は薄切りにし、皿に並べていく。 「そんな小さな刃物で、よく切れるのう。アヤカシを斬り刻むのは得意じゃが…包丁は使う気になれんな」 うなの手際に感心しつつ、タコ焼きを頬張るリンスガルト。彼女は家事が苦手らしいが…『包丁よりも、天儀刀の扱いに慣れている10歳』というのは、珍しいかもしれない。 「ほう…これは美味だ。うな殿、おかわりを頼む。あ、大盛りでな?」 刺身を口にしたりょうが、追加を希望。底無しの胃袋と食欲を満たすように、皿を次々に平らげていく。 りょうに全てを喰われる前に、鍔樹は少量の刺身とタコ焼きを皿に取った。それを持って、相棒に歩み寄る。 「お疲れさん! お前も喰うか?」 労いの言葉を掛け、そっと背を撫でる鍔樹。アカネマルは嬉しそうに鳴き、皿に口を付けた。 相棒達も含め、甲板上では楽しい時間が流れている。その中に、何故か竜哉の姿が無い。賑やかな場所を離れ、彼は操舵室を訪れていた。 「この海図には、今回の依頼で得た情報が書いてあります。今後の役に立つか分かりませんが…提出させて下さい」 戦闘前に気にしていた、巨大生物出現の原因。竜哉はそれを自分なりに調べ、纏めていたのだ。海流や、異常な海産物が獲れた海域、アヤカシと戦った位置まで書き込まれている。 「ありがとうございます。マイブラザー・竜哉の気持ち、無駄にはしません…!」 克騎は海図を受け取り、丁寧に畳んで懐に仕舞った。この資料を基に、目撃情報や発生時刻等を纏めれば、何か新しい発見があるかもしれない。 開拓者達の活動は、きっと平和に繋がる。彼らの笑顔や笑い声も、世界中に広がって人々の希望になるだろう。 |