無責任な刃
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/24 19:31



■オープニング本文

「ボス、またです! 下っ端の奴等が、例の組に襲われやした!」
 急にドアが開かれ、いかにもチンピラ風な男が飛び込んで来た。『ボス』と呼ばれた男性は、怒りの形相で荒々しく机を叩く。
「あのオカマ野郎の組か! いつもいつも……邪魔しやがって!!」
 怒りに任せてグラスを床に叩き付けると、砕けたガラスと共に中身が飛び散る。
 天儀本島最大の国家、武天。大きく勢力を伸ばして発展している反面、闇の世界も深く、裏社会の規模も大きい。大小様々な犯罪組織が、闇の中で蠢いているのだ。
 その中でも、飛び抜けた規模の組織が2つ。
 1つは『ホワイトレオン』と呼ばれる男が率いている組織。銀髪のオールバックに、純白のスーツ。眼光が獅子のように鋭く、気性も獰猛で荒々しい。『ボス』と呼ばれた男性が、それである。
「おい、お前! ギルドで用心棒募集して来い!」
「ちょっ…ボス! 何考えてるんですか!?」
 疑問の声を上げたチンピラの胸倉を、ボスが乱暴に掴む。そのまま締め上げ、声を更に荒げた。
「馬鹿かてめぇは! 開拓者を雇って、あのオカマ野郎をツブすんだよ!」
「で…ですが…ギルドが、俺達に…協力するワケ、が…」
「協力させるんだよ! 慈善事業に偽装すりゃ、人も集まるだろ! あのオカマ野郎をブッ潰すんだ…『町の清掃活動』で依頼して来い!」
 言いながら、ボスはチンピラを放り投げる。チンピラは床を無様に転がると、這うように部屋を出て行った。
「この町は俺のモンだ……!」
 一人呟き、ボスは机上の酒瓶を煽る。
 翌日。
 ホワイトレオンが対立している『ビューティフルママン』が率いる組織も動きだした。
「報告は以上です、姐さん」
「ふぅん……あのボウヤ、なかなか面白い事をしてるわねぇ」
 真紅のドレスに身を包み、膝の上で黒猫を撫でる男性…通称、ビューティフルママン。真っ赤な唇が、不気味に歪む。
「ねぇ〜。私達も、用心棒雇ってみましょうか? 最悪、やられちゃってもウチの戦力は減らないワケだし」
「面白そうですね。では……『町の美化推進』で、依頼を出して来ましょう」
 真っ赤なスーツに眼鏡の男性が、一礼して部屋を出て行く。
 こうして、他に類を見ない、無責任且つ他力本願な組織抗争が幕を開けるのだった。


■参加者一覧
喪越(ia1670
33歳・男・陰
雲母(ia6295
20歳・女・陰
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰
長渡 昴(ib0310
18歳・女・砲
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
ルー(ib4431
19歳・女・志
エラト(ib5623
17歳・女・吟
雨下 鄭理(ib7258
16歳・男・シ


■リプレイ本文

●美しき母?
 依頼主と顔合わせするため、指定の場所に姿を現した開拓者達。その主が犯罪組織のトップで、指定場所が組織アジトなのは、極めて珍しいが。
「ようこそ、私の城へ。歓迎するわ、綺麗なお嬢さんにカワイイ坊や♪」
 開拓者達が通された部屋には、薔薇が敷き詰められていた。その中央で椅子に座っているビューティフルママンと、護衛するように並び立つ側近達。
 依頼を成功させるためには、依頼主の信用を得るのが必須条件である。言動には、細心の注意が必要だろう。
「おいおいアミーゴ、俺は歓迎されてないのかよ。泣いちゃうゼ!?」
 だが、そんな事は喪越(ia1670)には関係ない。身体全体で独特のリズムを刻みながら話す、いつもと変わらないスタイルだ。
 怪訝な表情を浮べる側近達。対照的に、ビューティフルママンは口元を隠しながら笑みを浮かべている。どうやら、心証は悪くなかったようだ。
「町の美化推進、良い言葉ですね。是非とも協力させて頂きます」
 すかさず、ルー(ib4431)がフォローを入れる。言葉と共に軽く会釈をし、真っ直ぐな視線をママンに向けた。
「失礼だが、貴公らは我々の戦力をアテにしているのでは? このテの依頼は、そう珍しくありませんから」
 雨下 鄭理(ib7258)の言葉に、ママンの眉がピクンと動く。側近達は、小声で耳打ちをしている。何とも、分かり易い反応である。
「どんな内容でも大丈夫です。必要なら、私のハリセンが火を噴きますよ!」
 言いながら、ハリセンをブンブンと振るマーリカ・メリ(ib3099)。武器がハリセンなのは問題かもしれないが、開拓者達のヤル気は伝わったのだろう。ママンは不敵な笑みを浮かべると、彼等を椅子に座るよう促した。
「察しが良くて助かるわぁ♪ で、依頼の事なんだけどぉ…」
 話し始めたのは、自分の事を完全に棚に上げ、ホワイトレオンを完全に悪人にした内容だった。その話術は巧みで、双方の組織を知らない一般市民が聞いたら、きっと騙されているだろう。
「なるほど……そのホワイトレオンとかいう男、相当な極悪人ですね」
「そういう事なら、ポコポコしちゃいましょう! 町が綺麗になるのは、良い事ですし♪」
 重々しく頷くルーに、ヤル気を見せるマーリカ。無論、2人共演技である。
「OKセニョリータ。1つ確認したいんだが…俺より、雨下みたいなイケメンの方が好みだよな?」
 そう言って、喪越は鄭理を指差した。そのケが無い彼にとっては、標的にされるのは絶対に避けたいのだろう。
 ママンは軽く微笑むと、鄭理に熱い視線を向けた。その視線に、鄭理は笑みを返す。
(社会の屑が……抗争相手も含めて、徹底的に潰してやる)
 笑顔の裏の心の声に、気付く者は誰も居なかった。

●白い虎の巣
 一方、ホワイトレオン側の開拓者達も、同様に依頼主と面会していた。ママンとは違い、ごく普通の室内。機能重視で、殺風景な部屋である。
「お初にお目に掛かります。エラトと申します。『町の清掃活動』の依頼で参りました」
 礼儀正しく言葉を口にし、深々と頭を下げるエラト(ib5623)。その言動は『優雅』の一言に尽きる。
 が、レオンは興味無さそうにイスに座わると、開拓者にも座るように促した。彼女達の後ろやレオンの隣に、側近らしき人物が並んでいる。
「挨拶や名前はどうでも良い。お前等……この依頼の意味、分かって来たんだろうな?」
 鋭い視線が一直線に射抜く。恐らく、単刀直入に話を進める気なのだろう。その視線に臆する事無く、鬼灯 恵那(ia6686)は口を開いた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。『ゴミ』を斬りまくれば良いんですよね♪」
 笑顔でサラリと恐ろしい発言をする恵那。人を斬り慣れた、彼女ならではの表現かもしれない。
「女ばかりで頼り無いかもしれませんが、『世界の裏側』は色々見てきましたから。期待に添えると思いますよ?」
 長渡 昴(ib0310)の言葉に嘘は無い。アヤカシと戦っている彼女達は、ある意味犯罪者組織よりも世界の裏側を知っているだろう。
「必要とあらば、私達の腕をお見せしますが…如何致しますか?」
 エラトの発言に、側近達が軽く身構える。が、レオンが軽く手を上げると、彼等は大人しく後ろに下がった。恐らく、彼女達に敵意が無い事が通じたのだろう。
「ふん…大した自信だな。とりあえず、信用してやっても良い。で、報酬の件だが…」
「金は要りません。その代わり、清掃後の『商売』に一枚噛ませてくれませんか?」
 その発言に、側近達から驚きの声が上がった。彼等が出した偽の依頼は、成功報酬が破格の額になっている。それを放棄してまで締結を提案したのが、予想の範疇を超えていたのだろう。
「私もです。ゴミを斬れれば、お金とか何も要りませんし」
 さっきよりも、更に大きな驚愕の声。驚きの余り、側近達は完全に浮き足立っている。
 対照的に、レオンは声を上げて笑い始めた。
「面白いな、お前ら。開拓者なんざ辞めて、俺の部下にならないか? 俺の女にしてやっても良いぞ」
 高圧的な態度に不快感を覚えながらも、依頼の話を進めていく3人。どうやら、潜入作戦は成功のようだ。
 こうして、7人の開拓者は次のステージに進む事になった。

●大・決・戦
 雲一つ無い、晴天の空。抜けるような青空の下、ゴツいお兄さんや、物騒な物を持ったチンピラが、続々と町外れの倉庫に入って行く。
 北側に陣取るホワイトレオンに、南側を陣取るビューティフルママン。その周囲を側近が囲い、下っ端達が前を固めて敵対組織を罵り合う。
 その先頭の位置に、双方が雇った開拓者が並んでいる。
「おい、オカマ野郎! 今日こそケリ付けてやるからな! 覚悟しろ!」
 罵詈雑言の中、レオンの声が響く。ママンは手下達を黙らせると、大きく息を吸った。
「坊やじゃ無理よ! 帰って、ママに泣き付いてなさい!」
 再び、罵詈雑言の罵り合いが始まる。
 が、それも束の間。開拓者達が武器を抜き放つと、周囲は水を打ったように静まり返った。そのまま、ゆっくりと歩を進める。歩く速度は徐々に早まり、終には走りだした。7人の距離が、徐々に近付く。
 7人が接触する直前、喪越は巨大な龍の式を2体召還した。それが天を仰いで咆哮を上げると、双方の構成員から驚愕の声が上がる。
「花火と喧嘩は天儀の華! 派手にイこうぜ、アミーゴ!」
 その言葉が合図になったかの如く、7人は互いを素通りして相手陣営に突撃した。
 ルーは驚異的に加速し、驚愕する構成員をすり抜ける。一気にホワイトレオンとの距離を詰め、足払いで体勢を崩した。転倒したレオンの腕を踏んで動きを封じ、天上に向かって銃を発砲する。
「動くな! ホワイトレオンは抑えた……双方、大人しく投降しないなら、手荒な手段を取らせて貰う!」
 凛とした声が周囲に響く。構成員達は、ようやく騙されていた事に気付いたようだ。動揺と驚愕が瞬く間に広がって行く。
「っ! ナメんな、ガキ共が! おい、まずはコイツ等をブッ潰せ! 早くしろ!」
「坊やと同じ意見ってのは気に入らないけど……先ずはガキ共をブッ潰せぇ!」
 地に伏しながら吼えるレオンに、野太い声で叫びを上げるビューティフルママン。トップの指示に従い、構成員は開拓者達に一斉に襲い掛かった。
「あははっ♪ 中々活きのいい塵が揃ってるね。掃除のし甲斐があるなぁ…」
 嬉々とした表情で、長刀を振るう恵那。手加減しながら、回転切りで構成員をまとめて斬り払う。
「良い度胸です。その無謀さに免じて……タップリ後悔して貰いましょう」
 不敵な笑みを浮かべると、昴は短銃と長脇差を両手に構えた。放たれた弾丸が構成員の足を撃ち抜き、峰打ちの刀撃が意識を奪う。
「相手がアヤカシではないので、必要無いかもしれませんが……」
 殺伐とした戦場にエラトの歌声が響き、開拓者達の心に騎士の折れない魂が宿る。隙だらけの彼女に構成員が襲い掛かるが、まどろみを誘うゆったりとした曲で夢の中に落ちて行った。
「……抵抗するなら…無傷で済むと思うなよ?」
 鄭理は瞬間的に加速してホワイトレオン陣営の奥まで突撃し、後方から敵を攻める。両手の釵で攻撃を受け止め、弾き、武器ごと相手を突き飛ばした。構成員同士が激突し、周囲に混乱が広がっていく。
 行動不能になった構成員が増えていく中、倉庫内に同心達が雪崩込んだ。
「同心さん達、ナイスタイミング! 後はお願いしますね!」
 ハリセンで敵をシバきながら、マーリカが声を上げる。更に、聖なる矢が構成員を撃ち抜いて軽い痺れを与えた。何とも、高性能なハリセンである。
 ルーはレオンに当身を打ち、意識をトばした。そのまま同心に向かって投げ飛ばすと、彼等はレオンを受け止めて縄で身柄を拘束した。
 その光景を目の当たりにし、ホワイトレオンの陣営に動揺が広がる。一部の者は戦意を失い、出口に向かって逃げ出した。
「ソコは通行止めだぜ? 大人しく、俺のアミーゴ達にやられっちまいナ!」
 入口を塞ぐように、黒い壁が出現する。喪越の結界呪符である。逃げ場を失って動揺する構成員達を、マーリカがポコポコと叩き、エラトが眠りの歌で行動不能にしていく。同心達がそれを縛り上げると、人の垣根と化した。
「貴方達も、大人しく眠った方が身のためですよ。理由は…分かりますね?」
 エラトが静かに降伏を進める。その後ろでは……。
「弱いのに数だけは多いんだねぇ。これ全部好きに斬れたらきっと楽しいんだけど…」
 まるで雑草でも刈るように長刀を薙ぐ恵那。手加減しているとは言え、打ち身や気絶で次々に倒れていく。
 ようやくエラトの言葉の意味を理解したのか、構成員は両手を上げて降伏を受け入れた。
「粗方、下っ端は片付いたか……そろそろ、幹部の相手をせねば、な」
「ホワイトレオンはルーさんが捕まえたけど、側近とかも居ますしね。一気に成敗です!」
 鄭理とマーリカが、ほぼ同時に駆け出す。マーリカは地面から魔法の蔦を伸ばし、敵の動きを封じていく。鄭理は武器を忍者刀に持ち替えると、一気に斬り掛かった。その刃が届く直前、刀を裏返して峰で打ち込み、意識を刈り取った。
「意地も仁義も無い者は、勝利出来る道理も無いな」
 ルーの呟きと共に、ホワイトレオンの構成員が全て行動不能に陥る。残すは、ビューティフルママンの陣営のみ。
 喪越が槍で構成員を小突く中、昴は地面を蹴って一気に距離を詰める。立ちはだかる側近の足を撃ち抜いて無力化すると、脇差の柄をママンの腹部に叩き込んだ。
「自分のケツくらい自分で拭いて欲しいモンですがねぇ、ガキの喧嘩じゃあるまいし」
 皮肉を込めた昴の言葉は、意識を失ったママンに届く事無く消えていった。

●2大組織の最後
「……構成員は、もう居ないか? どこかに隠れていないか…隅々まで探した方が、良いかもしれんな」
 鄭理の言葉に、全員が倉庫内に散らばる。ほとんどの者が捕縛されているが、残党が居る可能性も否定は出来ない。
「かくれんぼか、セニョール。そこに居るのはバレバレだぜ!?」 
 『ビシッ』とポーズを決めながら符を投げる喪越。それが巨大な龍と化すと、物陰から構成員が飛び出した。そのまま、出口に向かって逃げて行く。
 ほぼ同時に、ルーは驚異的加速で距離を詰める。構成員の足を払うと、腕を捩じ上げた。
「トップを助ける事もせず逃げるなんて…嘆かわしい」
 溜息混じりに呟くルー。直後、捕縛された構成員の中から、縄を解いた者が駆け出した。
 だが、その進路には恵那が立っている。彼女が長刀を振ると、構成員は吹き飛んで派手に床を転がった。
「今度逃げたら、手加減しないよ? 手荒に『塵掃除』しちゃうからね♪」
 満面の笑みで、長刀を床に突き刺す恵那。その言葉が脅しで無い事は、彼女の目が雄弁に物語っている。
「お二人共、流石です。お陰で、取りこぼす事無く済みましたね」
 逃げた構成員を縛りながら、エラトが賞賛の言葉を贈る。その隣で、昴は大きな溜息を吐いた。
「やれやれ。これなら、まだガキの喧嘩の方がマシでしたね。大の大人が、みっともない」
 地に伏した構成員を見ながら、呆れたような表情で首を振る昴。喪越は大怪我をしている構成員に近寄り、小さな式を召喚した。それが体の一部となり、傷を癒していく。『悪人だから怪我させても構わない』という考え方は、彼の意に反するようだ。
「悪い事すんのは『チョメ』だゼ? これに懲りたら、真っ当な人生を選ぶんだな。俺みたいに、な!」
 そう言って、眩しい笑みを浮かべる。言っている事は至極正論なのだが、最後の一言が全てを台無しにしている気がしてならない。
「喪越さん、必要なら私のハリセンが火を噴きますよ♪」
 笑顔でハリセンを振るマーリカ。ツッコミを入れたくて、ウズウズしているのだろう。
 歓談する7人の耳に、叫び声が響く。捕縛された構成員が、目を覚まして暴れているようだ。
「まだ抵抗する方が居るのですね。ちょっと、眠らせて来ます」
 軽く笑みを浮かべ、暴れている構成員に歩み寄るエラト。数秒後、構成員は再び眠りに落ちて大人しくなった。
「数が多いですけど、よろしくお願いしますね、同心さん」
 捕縛された者を連行する同心に、マーリカが声を掛ける。彼女の優しい言葉に、同心達は笑顔を返した。
「世間の厳しさというモノを、キッチリ味わって下さいね。牢獄の中で、な」
 未だに気を失っているレオンとママンに、昴は厳しい言葉をぶるける。恐らく、これから後悔と反省の日々が始まるのだろう。
「これで、組織は2つ潰れるね。一般市民が安心して暮らせるようになると良いけど」
 ルーは連行される構成員を見ながら、薄っすらと笑みを浮かべる。大きな組織が2つ同時に潰れたとなると、裏社会に混乱が起きるのは確実である。どう変わるかは分からないが、良い変化がある事を願いたい。
「ん〜…大暴れ出来たけど、何か…スッキリしないなぁ」
 不満気味に小首を傾げる恵那。手加減して人を斬ったのが不満だったのだろう。ぷ〜っと頬を膨らませている。
(殺さずに済んだ…『今回は』誰も……)
 自身の手を見ながら、物思いにふける鄭理。強く拳を握って決意を新たにすると、7人は揃って倉庫を後にした。