怪しい雪ダルマさん
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/23 19:16



■オープニング本文

 無事に年越しを向かえ、人々は新しい年の始まりに喜んでいた。
 相手の腕を引っこ抜くイキオイでカルタを取り合ったり、常人離れした動きで羽根突きをしたり、巨大な鍋で大量の雑煮を作ったり。
 少々浮かれ過ぎな気もするが、正月くらいは派手に騒いだ方が良い。瘴気やアヤカシに脅かされている今、溜まった不安やストレスを吐き出すのも必要な事だろう。
「あ〜〜!! おか〜さ〜ん! 雪ダルマさんが空飛んでるよぉ〜!!」
「はいはい。雪ダルマが空を飛ぶワケ………!?」
 娘の話を聞き流していた母親だったが、その言葉が途中で途切れた。頭上を通り過ぎる、大きな黒い影。そこには、『空飛ぶ雪ダルマさん』の姿があった。
 突然の来訪者に、盛り上がる子供達。その歓声に応えるように、雪ダルマは村の中央に舞い降りた。
 煌く白銀のボディに、枝の腕。赤いバケツをかぶり、首にはマフラー。微笑んだ表情がカワイらしく見える。
 『大きさが2mを超えている』という点を除けば、ではあるが。
 大人達が面喰う中、子供達が嬉しそうに駆け寄っていく。次の瞬間、雪ダルマの目が怪しく輝いた。
 無邪気に喜びながら、雪ダルマに触れる子供達。その手が、ベッタリと張り付いた。慌てて力を込めるが、貼り付いた手は微塵も剥がれない。
「な…なにコレ!?」
「おかぁさ〜〜〜ん!」
 子供達が泣き叫ぶ中、雪ダルマは雪を降らせた。ほぼ同時に、大人達が息子や娘を助けるために駆け出す。
 が…その手が届く事は無かった。
 舞い散る雪が強力な粘着力を生み、触れた物を接着。ある者は両足が地面に貼り付き、違う者は村人同士で接着されて転倒した。
 混乱と驚愕が、雪と共に広がっていく。せめてもの救いは、降雪の量が少ない事だろう。
「誰か! 誰でもいい、走れ! 助けを呼んで来てくれ!」
 村人の叫びに応えるように、数人の若者が走り出す。村人同士で伝言を繰り返し、村を脱出。正月気分は、意外なカタチで打ち切られた。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
エマ・シャルロワ(ic1133
26歳・女・巫


■リプレイ本文


「パパ〜! ママ〜! 助けてぇ〜〜!!」
「待ってて! 今、助けに」
「行くな馬鹿! お前まで動けなくなるぞ!」
 正月早々、村中に響き渡る悲鳴と怒声。雪によって身動きを封じられた、大勢の村人達。そして、村の中央に鎮座した巨大な雪ダルマには、数人の子供が貼り付けられている。
 師走だろうと正月だろうと、アヤカシは待ってくれない。凍えるような寒さの中、村人達は『粘着性のある雪』によって、動けなくなっていた。
 幸か不幸か、アヤカシが手出しする素振りは微塵も無い。ただ身動きを封じている『だけ』なのだが…異形がすぐ近くに居るのに逃げられない上、助けに行く事も出来ない。その恐怖と悲しみは、計り知れないだろう。
 悲しみの涙が大地を濡らす中、純白の炎と光の矢が宙を走る。それが雪で接着された人々に命中すると、周囲から悲鳴が上がった。
 が、それは一瞬で止む。炎や矢で撃たれた人々に、火傷や怪我は微塵もない。それどころか、雪の接着から開放され、自由を取り戻している。
 次いで、周囲に梅の香りが広がり始めた。
「助けに来るのが遅れて、申し訳ありません! 無理に動かないで、落ち着いて待っていて下さい!」
 叫びながら、菊池 志郎(ia5584)が村の西側から走り込む。白く澄んだ気を纏った杖が雪に触れると、その瘴気が浄化されて粘着力が消滅。接触していた者の体温で溶け、水滴と化した。
 接着から開放され、感謝と喜びの声を上げる住人達。その中の数人が、他の村人や子供達を助けるために駆け出した。
 彼等の進路を塞ぐように、フェンリエッタ(ib0018)とリィムナ・ピサレット(ib5201)が前に飛び出す。
「アヤカシを斃せば元に戻るから、慌てないで…!」
「子供達は必ず助けます! だから、あたし達の指示に従って避難して下さい!」
 他人を助けたい気持ちは分かるが、今行くのは自殺行為に等しい。再び雪で足を止められ、救助対象が増えるだけである。二次災害を防ぐため、ここを通すワケにはいかない。
 人々の気持ちを嘲笑うかのように、雪ダルマから瘴気が発生。それが大気中の水蒸気と反応し、周囲に綿のような雪が舞い始めた。
 咄嗟に、天河 ふしぎ(ia1037)は外套を翻して雪を払い落とす。次いで和傘を広げ、雪の付着を防いだ。
「ここは僕に任せて…さぁ、今のうちに!」
 注意を促しつつ、ふしぎは外套と和傘で村人達を護衛。敵と雪、両方の動きに注意を向けている。
 リィムナは一般人が逃げ易いよう、持参した大量の傘を渡した。
「こっちだ、かかってこいっ! 騎士として、人々の嘆きを撃ち払ってみせよう!」
 更に、ラグナ・グラウシード(ib8459)は敵の注意を引くように大声で叫ぶ。その方向は、村の東側。村人が避難しやすいよう、仲間達とは逆方向から敵に接近したのだ。
 彼の叫び声に反応し、雪ダルマの首が180度回転する。微笑んでいる敵と目が合った瞬間、ラグナの表情がポワンと緩んだ。
「兎に角、村人を此処から退却させるのが先…攻撃は後回しだよな。歯がゆいが…」
 苦笑いを浮かべながら、鞍馬 雪斗(ia5470)は光の矢を連続で放つ。聖なる力が具現化した矢が地面に突き刺さり、雪の中の瘴気を消滅。村人達が逃げるための道が、一気に拓けた。
「スノーマンをアヤカシとして見る事になるとは、笑えない冗談だよ…」
 エマ・シャルロワ(ic1133)は軽く溜息を吐きつつ、倒れていた女性を抱き上げる。寒空の中で長時間足止めされたせいで、体が冷え切り顔色も悪い。医師のエマが、そんな症状の者を放置出来るワケがないだろう。
 彼女を先頭に、避難を始める村人達。残った住人を助けるため、開拓者達は兵装を握り直した。


(う、うさみたん…どうしよう? 雪だるまさん、かぁいいお…)
 表情には出していないが、ラグナは内心で激しい葛藤を繰り返している。カワイイ物が好きな彼は、雪ダルマに心を奪われそうになっていた。
 体を温めつつ気合を入れるため、ラグナは甘酒の栓を開けて一気に飲み干す。頬が赤く染まっているのは、甘酒の効果なのか、雪ダルマに心惹かれているのか、定かではないが。
 それは、ともかく。ラグナの役目は、村人の救助が終わるまで敵の注意を自分に向ける事。万が一に備え、大剣を構えて防御を固めた。
「動かれると面倒だ、ジッとしてて貰おうか…!」」
 念のため、雪人は精霊に干渉して地面から蔦を伸ばす。それが子供達を避けながら、雪ダルマの全身に絡み付いて拘束。動きを封じ、崩れないように固定した。
「すぐに雪ダルマから離してあげるから、じっとしていてくださいね?」
 微笑みながら、優しく語り掛ける志郎。子供達が静かに頷くと、手足が付着した部分の近くを狙って杖を打ち込んだ。
 浄化の力を纏った一撃が雪ダルマの体に突き刺さり、周囲の瘴気を消し去る。普通の雪に戻った部分が崩れ落ち、子供の手が剥がれた。
 その隣で、フェンリエッタは雪ダルマに刀を差し込む。刀身に精霊力を纏わせて捻り、敵の体を削り取って雪ごと子供の手を引き離した。
「寒くない? 大丈夫、すぐに終わらせて皆であったかい甘酒を飲みましょ」
 笑顔で声をかけながら、今度は逆の手を離す。子供の体が完全に自由になると、軽く背を押して避難を促した。
「罪無き人々を苦しめるアヤカシを、僕は絶対に許さないんだからなっ! くらえっ!」
 子供達が離れた事で、雪ダルマの体に攻撃するための空間が空く。そこを狙い、ふしぎは霊剣を振り上げて式を召喚。鋭い衝撃波が空を奔り、アヤカシの体を深々と斬り裂いた。
「身動き出来なくして、じわじわと恐怖を啜るつもりだろうけど、そうはいかないよっ!」
 不敵な笑みを浮かべ、リィムナは地面に手を付く。そのまま呪文を唱えると、周囲の瘴気が彼女に収束。無論、雪からも瘴気を奪い取り、地面や村人同士で張り付いている者達を一気に解放した。
 次々に村人が救出されるのを目の当たりにしながら、アヤカシが黙っているワケがない。ニコヤカな表情のまま、全身の瘴気が高まっていく。
 敵の狙いに気付いたラグナは、距離を詰めて地面を蹴り、虚空に跳躍。子供が貼り付いていない頭部を狙い、剣を突き出した。切先が雪ダルマの頬を斬り裂き、瘴気と共に雪が舞い散る。
 ラグナの攻撃でアヤカシの注意が逸れた隙に、志郎は救助した子供を抱き上げて疾走。それを追い、救助された村人達も走り出した。護衛のため、フェンリエッタが最後尾を務める。
 数秒もしないうちに、彼女達はアヤカシの降雪範囲から脱出。充分に距離を置き、志郎は子供達を下ろした。
「ここで、皆で待っていてくださいね。大丈夫、お父さんやお母さんもすぐに助けますよ」
 励ましの言葉を掛け、志郎は踵を返して来た道を戻って行く。フェンリエッタと擦れ違う瞬間、2人は視線を合わせて『無言の言葉』を交わした。
 志郎に代わり、住人達を避難させるフェンリエッタ。アヤカシが残っている以上、単独行動させるのは好ましくない。全員で一箇所に集まるため、村の集会所を目指した。
 一足先に避難した住人達も、集会所に集まっていた。体調を崩している者も居るため、エマが元気な者に指示を飛ばしている。
「衣服を着替えさせて、暖かな湯を飲ませるんだ。あぁ、可能なら柚子湯にして貰えるとありがたい」
 寒空の下、長時間同じ体勢を強いられたのは、相当な負担に違いない。ある者は衣服や布団を借りるために近隣の家に走り、違う者はヤカンや鍋を総動員してお湯を沸かしている。
 まだ雪が付着している者は、エマが純白の炎を生み出して瘴気を浄化。村人を傷付ける事なく介抱していく。
「エマさん、この人達もお願いします」
 着替えが集まり、湯が沸いてきた頃、フェンリエッタと共に避難住人の第二陣が到着。元気な者にはお茶を渡し、顔色が悪い者は次々と布団に寝かせた。
「ふむ…湯たんぽを脇の下に挟ませて、安静に休ませてくれ」
 患者を診察し、指示を出すエマ。それに従い、フェンリエッタは室内を忙しそうに走り回っている。
 衰弱している者は多いが、重度の凍傷や命に関わる症状の者は居ない。アヤカシは仲間達に任せ、2人は治療に全力を注いだ。


 ほぼ同時刻。村の中央付近では、住人の避難が終わろうとしていた。最後の1人を雪の粘着から解放し、駆けていく背中を静かに見送る。
 その数十秒後、ふしぎ、雪人、リィムナ、ラグナの4人は、アヤカシの周囲に集結した。
「ここからは、殲滅の時間! あんたから貰った瘴気、利息つけて返すよ! 姿無き怨霊よ、黄泉比良坂より来たれ!」
 口火を切るように、リィムナは『死者の国』に居ると伝えられている高位式神を召喚。姿も声も無い式を純粋な呪いの力に再構築し、敵に目掛けて撃ち出した。
 圧倒的な呪力が全身を駆け巡り、雪ダルマの体を内側から破壊していく。
「村人達の哀しみは、私達が拭ってみせるッ! さあ、私の大剣で…一気に終わらせよう…ッ!」
 吼えるような言葉とは裏腹に、ラグナは敵と視線を合わせようとしない。カワイイ雪ダルマを破壊する事を、心のどこかで拒んでいるのだろう。
「村人さん達は返して貰う…この霊剣の一太刀にて、消えされぇぇぇ!」
 対照的に、ふしぎには一切の迷いがない。和傘を投げ捨てて地面を蹴り、敵の頭部よりも高く跳躍。霊剣に白い気を纏わせ、全力で振り下ろした。
 純白の剣閃が、雷光のように天を駆ける。それに合わせて、ラグナは深紅のフランベルジュを大きく横に薙いだ。
 白と赤、2色の斬撃が重なって十字を描く。それが頭部のバケツを真っ二つにし、雪人の生み出した蔦を叩き斬り、十字の傷を深々と刻み込んだ。
 タイミング良く戻って来た志郎が、追撃するように敵の懐に潜り込む。杖に精霊力を込め、全力で振り回した。金色の杖撃が雪ダルマの両腕を叩き折り、破片が周囲に飛び散る。
「塵は塵に、灰は灰に…その御霊在るべき場所に還さん…願わくば道先に救いあらん事を…裁定を下せ(judgement)」
 寒空の中に響く、静かな詠唱。様々な精霊の力が混ざり合い、雪人の頭上に灰色の光珠が生み出された。
 直後、獰猛な灰色が雪ダルマを飲み込む。そのまま一瞬で全身が灰化し、瘴気ごと消滅。残った瘴気が空気に溶け、黒い雫が純白の雪を汚した。


 アヤカシを撃破後、戦っていた5人は集会所で仲間達と合流。住人達に敵の消滅を伝えると、歓喜の声と感謝の言葉が室内に響き渡った。
 村人が喜ぶ中、雪人は苦笑いを浮かべながら包帯で応急処置を施している。
(やれやれ。こんな事なら、回復スキルの1つでも覚えておくべきだったな…)
 彼は巫女に就いているが、回復技能を取得していない。巫女らしくない自分に、負い目を感じているのだろう。
「ようやく、全て終わりましたね。皆さん…良かったら、今から新年のお祝いの仕切り直しをしませんか?」
 住人の避難と介抱、アヤカシの撃破も終わり、これで依頼は完了した。が、このままギルドに帰還したら、村人の心を癒す事は出来ない。少なくとも、志郎はそう思っているのだろう。
 彼の提案に、全員から賛成の声が上がる。早速、村全体で正月祝いの準備が始まった。
 各世帯から食材を持ち寄り、おせちや雑煮を調理。料理を待っている間、大人は座敷で酒盛りを。子供達は元気に遊んでいた。
 和やかで陽気な雰囲気だと、ハメを外したくなるのが人間の性。大人達にバレないよう、イタズラ好きな少年2人が酒瓶に手を伸ばし、コッソリ外に持ち出した。
 そのまま急いで物陰に移動し、お猪口に酒を注ぐ。ニヤリと笑って乾杯すると、2人は杯を口元に運んだ。
 次の瞬間、頭上から伸びてきた腕がお猪口と酒瓶を取り上げる。
「未成年の飲酒はお勧め出来んな。一時の楽しみで苦痛を背負いたい、という趣向の持ち主なら話は別だがね?」
 その正体は、エマ。不敵な笑みを浮かべながら、子供達を見おろしている。
 少年相手には、彼女の言葉は難しいかもしれない。が、表情と雰囲気で全てを悟ったのだろう。少年達は泣いて謝りながら、一目散に逃げ出した。
 2人が逃げた先では、他の子供達が『普通の雪』で遊んでいる。ラグナは無言で雪を集め、大きめの雪ダルマを作製。大柄な男性が黙々と雪を転がしている姿は、若干不気味ではあるが。
「本当は、子供達を傷つけたりはしないさ…雪だるまさんは、な」
 ラグナが作った雪ダルマは、ニコニコと笑っていた。恐らく、雪ダルマに対して悪い印象を持って欲しくないのだろう。
「そうそう。あんなのに負けない、本物の雪だるまを作りましょう? ね、みんな?」
 フェンリエッタも同じ考えなのか、微笑みながら優しく話し掛ける。彼女に誘われ、顔も見合わせる子共達。誰からともなく、雪玉を作って転がし始めた。アヤカシのせいでヒドイ目に遭ったが、雪ダルマ自体を嫌いになったワケではないようだ。
 が…地味な作業に飽きる子供も居るワケで。雪ダルマを作っていた子供の半分くらいは、雪合戦を始めていた。
「わわわわ! そんなに一度に雪玉投げて来ちゃ駄目なんだぞっ!」
 それに巻き込まれたのは、ふしぎ。本当は怖い想いをした子供達を元気付けようと思っていたのだが、その必要は無いかもしれない。ふしぎも無邪気な笑みを浮かべ、雪玉を投げ合った。
 数分もしないうちに、雪で衣服はズブ濡れ。どれだけ激しい雪合戦をしたらこうなるのか、全く想像出来ない。
「うぅ〜…体、冷えちゃったなぁ。誰か、一緒にお風呂入ろらない?」
 小さな体を震わせながら、同年代の女子を誘うリィムナ。数人の男子や成人男性も立候補したが、ラグナの手で熱湯風呂に放り込まれた。
 リィムナと少女達は、楽しそうに風呂の準備を進めている。楽しそうな声に、阿鼻叫喚の悲鳴。酒盛りの陽気な歌声に、料理を食べた舌鼓が入り混じり、平和な時間はユックリと過ぎていった。