【初夢】『今年の顔』争奪戦
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/13 18:49



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

「ふふふ…とうとう、この年が来た! 今年こそ、俺が輝く時っ!!」
 興奮した様子で、鼻息荒く叫ぶ霊騎が1体。元気良く尻尾を振り回し、前脚で地面を叩いている。
 天儀暦1014年の干支は、馬。外見が馬に似ている霊騎にとっては、脚光を浴びる年と言っても過言ではない。野望に燃える雄の姿が、そこにあった。
『ちょっと待ったぁぁぁ!!』
 土煙と共に、怒りを込めた叫びが周囲に響く。次いで、大地を揺るがす地響き。その奥から現れたのは、霊騎を除く朋友達だった。
「これはこれは…干支にも選ばれなかった皆様が、何か御用ですか?」
「失礼な! 4年後はボクの年なんだぞっ!」
 嘲るような霊騎の一言に、忍犬が猛反論。確かに4年後は戌年だが…他の朋友達から冷たい視線が集まっているのは、言うまでもない。
「そんな事ぁどうでも良い! おい、霊騎! お前、今年の干支だからってチョーシに乗るなよ!?」
 全身の炎を燃え上がらせながら、鬼火玉が詰め寄る。どうやら、霊騎が午年を自慢げに語っているのが不満なようだ。
「干支なんテ、人間が勝手に決めタ順番ですカラ。そんなモノで能天気に喜ぶなンて、単純な方デスネ」
 鬼火玉とは対照的に、静かな口調のミズチ。言葉自体は厳しく、見るからに不機嫌そうである。
「そもそも、我は干支に不満がある。何故、我ら提灯南瓜が含まれておらんのだ!?」
 可愛らしい外見とは裏腹に、古風で固い言葉遣いの提灯南瓜。仮に『提灯南瓜年』というモノがあったら、色んな意味で大問題な気もするが。
「悪戯しか出来ないオコチャマが、何言ってんだか…畑に還って土に塗れてな!」
 鷲獅鳥の鋭い視線と言葉が突き刺さる。その隣では、迅鷹が鼻で笑いながら侮蔑の表情を浮かべている。
 2匹の冷たい態度に心が折れたのか、提灯南瓜は元気無く俯き、地面に『の』の字を書き始めた。
「えっと…ぼ、僕も…十二支には、納得…いかない、です……うぅ、ワガママ言ってゴメンナサイ……」
 蚊の鳴くような声に、弱気な発言。自分に自信が無いのか、駆鎧は深々と頭を下げた。
 そんな彼の背を、土偶ゴーレムが力強く叩く。
「駆鎧どんはナンも間違ごていもはん! おいどん達が入っちょらんのは、不公平じゃ!」
 訛りが強いが、その熱意は充分に伝わってくる。どこがどのように不公平なのかは、全く分からないが。
「まぁ、待ちたまえ。今年が午年なのは、紛れも無い事実。霊騎氏に文句を言っても仕方ないのではないか?」
 荒立つ朋友達を落ち着かせるように、冷静に話し掛ける自来也。外見と言葉遣いのギャプが激しいが、気にしないでおこう。
「でも、このまま霊騎にデカい顔されるのは悔しいアル! 理不尽アルヨ!」
 霊騎の自慢げな態度が気に入らないのか、猫又が地団駄を踏む。猫好きが見たら、悶絶して卒倒しそうな光景である。
「だったら〜ぁ、今年の干支を賭けて〜ぇ、勝負しようよっ♪ それなら〜ぁ、文句無いでしょ〜ぉ?」
 一瞬の静寂。
 羽妖精の一言で周囲が静まり返った直後、朋友達は『そのテがあったか!』と言わんばかりのイキオイで感嘆の声を上げた。
 ただ1匹、霊騎だけは不満の声を漏らしているが…それに耳を貸す者は居ない。
「ふむ…『勝者が今年の干支を名乗れる』という事でゴザルか? 拙者に異論な無いでゴザル」
 短い前脚を組みながら、納得したように頷く管狐。本人はクールに決めているつもりだが、脚がプルプルと振るえ、今にも離れそうになっている。
「からくり年………イイ、かも…!」
 どんな想像をしているのか、からくりは完全に『アッチの世界』に行っているようだ。頭の中では、アイドルになって歌っている真っ最中なのかもしれない。
「どんな勝負だろうが、俺の翼があれば楽勝だっゼ!」
 叫びながら、鉄の翼を広げる滑空艇。風が巻き起こり、機体が軽く舞い上がった。
「あらぁ? 翼だったら、アタシも持ってるってコト、忘れないでねん♪」
 言葉と共に、駿龍は滑空艇に擦り寄る。身の危険を感じたのか、滑空艇が急上昇。それを追って、駿龍も天に舞った。
 それを見た甲龍、炎龍、走龍が、大きな溜息を吐く。同じ龍族として、呆れているのかもしれない。
「もふぅ…何だか、大変な事になってるもふね…」
 周囲の状況を眺め、もふらは苦笑いを浮かべた。怠け者が多いもふらは、勝負事とは無縁である。今回は面倒に巻き込まれ、困っているようだ。
「若さ故に、血気盛んなのであろう。妾には、小童どもの戯れにしか見えぬがな」
 もふら同様、人妖も深い溜息を吐いている。かなり小柄な彼女が、自来也や龍を『小童』と呼んでいるのは激しく違和感があるが。
 急遽決まった、朋友達の勝負。話し合いの結果、各種族から代表1名を選出し、レースを行う事になった。
 果たして、今年の干支は何になるのか? 今、嵐を呼ぶレースが始まろうとしていた。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
ネネ(ib0892
15歳・女・陰
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ
スチール(ic0202
16歳・女・騎
海原 うな(ic1102
12歳・女・サ


■リプレイ本文


 風が吹き荒れ、雷が空を駆け巡る。天気は、嵐。これからの激戦を、天も感じているのかもしれない。
 稲妻が空に走る中、熱き魂を持つ者達が集まっていた。
『優勝して今年の干支になれば、一年間好きなものを食べ放題だな!』
「いえ、誰もそんなことは言ってませんから……」
 3本の尾をブンブンと振りながら、ヤル気を見せているのは、宝狐禅の雪待。致命的に何かを勘違いしている上、興奮し過ぎて言葉が耳に入っていないようだ。
 その証拠に、主の菊池 志郎(ia5584)が語り掛けても返事をせず、一人で盛り上がっている。諦めたように苦笑いを浮かべ、志郎は軽く溜息を吐いた。
 猛烈なヤル気を見せているのは、雪待だけではない。
『じんよーどしは、スシーくいほうだいにしてやろう。わたいにまかせろー!』
 そう言って、上級人妖の狐鈴は、梢・飛鈴(ia0034)と一緒に寿司を摘まんだ。これは、飛鈴が相棒のために準備した差し入れである。狐鈴が満面の笑みを浮かべて寿司を味わうと、2人はハイタッチを交わした。
『くっくっく…干支の話ですらイヂメられた、猫の逆襲が始まるのよ!』
 天儀に伝わる民話で、猫はネズミに騙されて干支に選ばれなかったらしい。猫又のうるるは、その恨みをここで晴らすつもりなのだろう。
「とりあえず……呪縛符を用意しておきましょうか」
 妙にハイテンションな相棒に、若干困り気味なネネ(ib0892)。うるるから『黒いオーラ』を感じながらも、気付かないフリをして呪符を取り出した。
『からくり年の栄光、絶対に手に入れてきますから! 玄人様、見ててくださいませ!!』
 小さな手を握りながら、からくりの桜花は闘志を燃やしている。緑色の瞳から、今にも炎が吹き出しそうだ。
 相棒とは対照的に、宮坂 玄人(ib9942)は冷静沈着。本心では『干支の争奪戦とか、どうでもいい』と思っているが、口が裂けても言えないだろう。
『何を言うちょるかあ、わしが一番ぞ! 天儀の十二支に、蛙年を刻んでやるわい!』
 他の朋友達を威嚇するように、松戸 暗(ic0068)の相棒、ジライヤの小野川が叫ぶ。そのまま地面を強く踏み締めると、周囲に地響きが広がった。蛙の姿をしているが、巨体から繰り出される一撃には注意が必要である。
 スタート前から朋友同士で火花を散らし、周囲の緊張感が高まっていく。が…全員がヤル気満々というワケではないようだ。
『ふんっ、何で俺がこんなものに参加しなきゃならねぇんだ…!』
 不機嫌そうに言葉を吐き、上級迅鷹の花月は足で小石を砕いた。レースに参加するのが不満なのか、今にも大暴れしそうな雰囲気である。
「まぁ、たまにはこういうのも悪くないだろ。勝ったら好きな物をご馳走してやるから」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)の一言に、花月の動きが一瞬止まった。ゆっくりと彼女に歩み寄り、小声で言葉を交わす。恐らく、ご馳走について交渉しているのだろう。
 絵梨乃が微笑みながら静かに頷くと、花月の態度が一転。獲物を狩る猛獣のような雰囲気を纏い、周囲に鋭い視線を向け始めた。
 その隣では、ミヅチのウニが海原 うな(ic1102)を遠目で見詰めている。
(ここは…うなとミヅチの為に、私が頑張らないといけません!)
 皆とは若干違う決意。『ミヅチ』を連れている開拓者が少ない事を気にし、レースに優勝して種族を盛り立てようとしているのだ。もっと、うな自身はミヅチの少なさをあまり気にしていないが。
『午年に馬が勝たず、なんとするか。堂々と、今年は午年であると突きつけてやろう! いざ、尋常に…勝負っ!』
 圧倒的な威圧感を放っているのは、スチール(ic0202)の相棒、霊騎のブルーウォーク。午年を奪われそうになっている今、誰よりも気合が入っている。
 その叫びに応えるように、他の朋友達がスタート位置に着く。空気が張り詰め、鼓動が高鳴る。目指すは、山を越えた先にある村。
 スタートの合図をするため、開拓者がコースの横に並ぶ。ゆっくりと腕を上げて視線を合わせると、全員が同時に手を振り下ろした。


 決戦の火蓋が切って落とされた瞬間、全員の視界を閃光が塗り潰す。雷とは違う圧倒的な光に、全員の動きが瞬間的に止まった。
『ごめんなさ〜い。おっさきに失礼ー♪』
 その隙を突くように、うるるが先行して駆け出す。全員の裏をかく事に成功し、ご機嫌なようだ。
 数秒遅れながらも、彼女を追うように他の朋友達も走り出した。
『す…スタート直後から勝負は始まっているのですね。何だか、危険な予感がします…』
 不意討ちを喰らい、弱気な言葉を漏らすウニ。比較的温厚で優しい性格が、若干アダになっているのかもしれない。
『ですが、険しい試練を越えて行くのは良い修練になりそうです。ウニ様、共に頑張りましょう』
 そんなウニを励ますように、又鬼犬の桃が声を掛ける。桃にとって、レースの勝敗は二の次。自身の修練のためにも、正々堂々挑むつもりなのだ。
 桃の言葉に、ウニが少しだけ微笑む。互いに視線を合わせて軽く頷くと、移動速度を上げた。
『我、ブルーウォーク…清冽なる騎士の相棒にして、地を早く駆ける者なり!』
 気合を込めて大地を蹴り、一気に先頭に躍り出るブルーウォーク。その姿は、まるで白銀色の疾風。徐々に、後続との距離を離していく。
 全員が必死で追走する中、雪待は5cm程度の虫に姿を変え、ブルーウォークのタテガミにしがみついていた。
(ふふふ…『ごおる』が近づいたら、我は飛び降りて走ればいいのだ!)
 この混戦状態なら、気付かれる可能性は低い。このまま体力を温存すれば、ゴール周辺で抜く事も可能だろう。
 とは言え…高速移動中のブルーウォークは、強い風圧に晒されている。虫の身で荒れ狂う暴風に耐えるのは、簡単ではない。ほんの少し力が抜けた瞬間、雪待は風に煽られて大きく吹き飛んだ。
 雪待の小さな悲鳴が遠ざかる中、狐鈴は周囲を見渡す。その視線が小野川で止まると、瞳が怪しく輝いた。
『おい。わたいをのせたら、あとでスシーをやるぞ?』
 速度的不利を補うため、狐鈴が考えた作戦は、他朋友との取引。小柄な体を活かし、騎乗系朋友を次々に乗り換えて進むつもりなのだ。
『寿司ぃ? ほんな安い餌で、わしと取引できると思っておるのか! 甘いぞ小娘ぇ!』
 その作戦をブチ壊すような、小野川の雄叫び。次いで両足に力を込めて地面を蹴り、天高く飛び上がった。跳躍力の高い蛙なら、走るよりも跳んだ方が早いだろう。着地と同時に、巨体が大地を揺らした。
 様々な策謀が入り混じる中、朋友達は山道から岩場に到達。険しいデコボコ道に、全員の移動速度が若干下がった。
 花月や狐鈴のように空中を移動している者も居るが、岩肌に当たった風が吹き荒れ、進路を妨げている。
「桜花、足場には気を付けろよ。罠は見破れないが、無いよりはマシだろ?」
 コース横から、玄人が桜花に声を掛ける。相棒をサポートするため、彼女は併走しながら朋友達の動きを監視していた。妨害の素振りが見えたら、すぐに伝えるつもりである。
 玄人の応援に、桜花は嬉しそうに微笑んで手を振った。その拍子に石につまづき、転びそうになったが。
『桃ね〜ちゃ〜ん、が〜んばって〜♪』
「いつも頑張ってる桃だから、きっと大丈夫よ♪」
 御陰 桜(ib0271)は忍犬の雪夜を抱っこしながら、桃に声援を送っている。主と弟分に応援され、桃は岩肌を蹴って跳躍。高所の岩場を利用し、立体的な動きで進み始めた。
 風や足音に紛れて、遠くから聞こえてくる水の音。恐らく、川に近付いているのだろう。風が弱まり、周囲の岩も徐々に少なくなっている。
 誰もが速度を上げようとした瞬間、進路上に人の姿が見えてきた。応援に来た玄人や桜とは違う、野良着を着た女性。ホウキを片手に、道の掃除をしているようだ。
『こんな場所に掃除婦? 何か…怪しいわねぇ』
 街道ならいざ知らず、人通りの少ない山道をワザワザ清掃するだろうか? うるるの言う通り、怪しい雰囲気が漂っている。
 朋友達の接近に気付いた掃除婦は、突然ホウキを振り上げた。
「ここで会ったが100年目ぇ! 覚悟するのじゃ!」
 悪い予感ほど、良く当たるモノである。掃除婦に見えたのは、松戸 暗(ic0068)の変装。朋友達を妨害するため、先回りしていたのだ。
 結んだ草で足を止める罠、木々の間に縄を結んで飛行を邪魔する罠、そしてホウキ片手に戦闘態勢の暗。妨害準備はバッチリである。
 だが…流石に相手が悪かった。1人の開拓者と、9体の朋友。戦ったらどちらが勝つか、火を見るより明らかだろう。無情な悲鳴が、山道に木霊した。


 暗の妨害を突破した朋友達は、その勢いで山道を激走。岩場を抜け、川に差し掛かっていた。
 川幅は、約30m。流れは穏やかだが、水深は1mくらいありそうだ。近くに橋は無く、川を渡るには水に入るしかない。川幅の狭い場所や橋を探していたら、余計に時間がかかるだろう。
『この川、チャンスですね! ミヅチの本気をお見せしましょう!』
 元気良く川に飛び込んだのは、ウニ。水の精霊なら、川を泳ぐのはお手の物である。
 後を追うように、小野川とブルーウォーク、桜花も飛び込んだ。うるるは素早くブルーウォークに飛び乗り、一緒に移動している。
 浮遊している狐鈴と雪待、飛行出来る花月はそのまま空中を移動。桃は足の裏に練力を集め、水の上を走っていく。
 水に入っていない者達は移動速度が変わらないが、水中移動組は明らかに遅れている。その距離が徐々に離れ、差が広がり始めた。
 水中組が焦りを募らせる中、先行組は対岸に到着。その時を待っていたかのように、頭上から黒い影が降ってきた。
 敵意の接近に気付き、先行組がその場を離れる。黒い影の正体は、狼の群れだった。恐らく、川のこちら側を縄張りにしているのだろう。
『皆様の縄張りに入ってしまった事、申し訳なく思います。ですが、私達に敵意は…』
『おらおら〜! わたいのじゃまするなら、けちらしてやるぞー!』
 説得しようとした桃の言葉を遮り、狐鈴の飛び蹴りが炸裂。強烈な一撃が狼に命中し、意識を刈り取った。
 それが合図になったように、狼達が一気に襲い掛かる。正確な数は分からないが、少なくとも20匹は居るだろう。
 数に臆する事なく、狐鈴は次々に蹴撃を放っていく。雪待は威力を若干弱め、電光で狼を射抜いた。
『これも、まだ見ぬ料理と酒のため……ぜいぜい』
 疲労は溜まっているが、目的達成のために止まるワケにはいかない。自身を奮い立たせ、電光を奔らせた。
『普通なら売られた喧嘩は買うが…今回は状況が状況だ』
 軽く舌打ちしつつ、花月は狼の周囲を飛び回る。そのまま狐鈴や雪待の居る方向へ誘導し、相手を任せた。
 桃は素早い動きで狼を翻弄し、脱出の機会を伺っている。ウニは水柱を生み出し、水圧で狼の平衡感覚を崩した。
 更に、併走していた志郎が眠りの呪文を唱え、狼を眠らせていく。後続が岸に到着するまでの間に、敵は全て地に伏していた。
 勝負は振り出しに戻り、再び全員が走り出す。水中移動や狼との戦闘で疲れているのか、移動速度はさっきよりも遅い。
 だからこそ、ウニは狐鈴の負傷に目が留まった。爪や牙で切られたのか、腕や足に切傷が複数。
 ウニはオールのような足を動かし、少量の水を生み出した。光沢を放つ液体が狐鈴に降り掛かり、傷を癒していく。
『ぬ、むぅ…おい! 礼は言わんぞ!』
『お気になさらずに。私の主でも、きっと同じ事をしたと思いますし』
 照れる狐鈴に、ウニが笑みを返す。それを見ていた飛鈴とうなも、同じように微笑んでいた。


 レースは、いよいよ終盤。あとは山道を下り、ゴールの街まで走るだけである。自然と気合が高まり、移動速度も上がっていく。
 白熱するレースに興奮したのか、スチールは借りた馬で走りながら声援を送った。コースに侵入し、朋友達の進路に重なっているが、全く気付いていない。
『あれは…スチール様? もしかして、あの方も私達の妨害に来たのでしょうか?』
 進路上に現れたスチールに、不審な目を向ける桜花。コース脇で応援している者は多いが、進路上に現れた開拓者は、今まで1人しかいない。声援は聞こえているが…素直に信じられずにいた。
『そうやろうな。暗もござったんだし。ほんなら…』
 微塵も迷わず、小野川は兵装を構える。それは、他の朋友達も同じようだ。軽く視線を合わせ、深く頷く。
『先手必勝ぉ!』
 ブルーウォーク以外の8体の声が重なり、スチールに攻撃が集中。まるで激しい嵐が直撃したように、彼女はボロボロになって馬から崩れ落ちた。
「な…何で私、いま大勢の動物どもにボコボコにされたんだ!?」
 問い掛けても、答える者は誰も居ない。スチール自身、妨害に来たと勘違いされているとは、予想も出来ないだろう。
 何事も無かったかの如く、道中を急ぐ朋友達。その視界に、ゴールの街が見え始めた。
「ゴールまでもう少しだから、気を抜かず頑張れよー」
 近付いて来る相棒に、絵梨乃が声援を送る。花月は一瞬だけ彼女に視線を向けると、翼を大きく広げた。まるで『言われなくても分かっている』と言わんばかりの勢いで、飛行速度を上げていく。
『とうとう、この時がきたわね…みんな、妨害してあげるわ!』
 勝負所を感じ、うるるは小野川の瞳を覗き込んだ。怪しい輝きに幻術を乗せ、相手の精神に送り込む。数秒もしないうちに、小野川の瞳が混濁。正気を失い、滅茶苦茶に暴れ始めた。
 次いで、うるるは標的をブルーウォークに定める。幻惑の光が精神を侵し、正気を奪った。
 ゴール周辺で暴れ回る、小野川とブルーウォーク。その激しさに引っ掻き回され、周囲は『えらいこっちゃ』な大騒ぎになっている。
 ここまでは、うるるの計算通り。あとは混乱に乗じてゴールするだけだが…2体が暴れ過ぎて、とても通れそうにない。
『いきますわよ…強靭! 無敵!! 最強!!! ですわ!!!!』
 気合を込めて叫び、桜花は一気に加速。怪我やダメージを恐れず、ゴールに向って突撃していく。
「何か違うぞ…って、聞こえてないか」
 玄人の声に反応する事なく、桜花が爆走。空中を翔る花月を追うが、目的地はもう目と鼻の先。開拓者達が見詰める中、花月は一着でゴールを決めた。


 長い戦いは、ようやく終わりを迎えた。主人と共に、街へ入っていく朋友達。悔しがっている者もいるが、レースや結果に文句を言う者は1人もいない。
 正気に戻った小野川は、暗と激しい口論を交わしている。小野川は正面から堂々と戦うのが好きなため、妨害に回った暗が許せないのだろう。
 ネネは逆に、妨害しなかった事をうるるに責められている。本当は援護するつもりだったが、レースに集中し過ぎて忘れてしまったのだ。ある意味、猛烈に彼女らしいが。
『主殿…醜態を晒してしまい、申し訳ない。我は、霊騎失格だ…!』
 自身の不甲斐無さに、怒りで声が震える。午年なのに馬が負け、主人の顔に泥を塗った…そう考えたブルーウォークは、自分を責めていた。
『ミヅチの不憫さに比べれば…レースの敗北くらい、何て事ありません!』
 フォローになっているのか微妙だが、ウニが励ましの声を掛ける。干支の座から下ろされた霊騎に、連れられている数の少ないミヅチ。どちらも、悲しい立場にあるのかもしれない。
 うなとスチールは相棒の頭に手を伸ばし、無言で優しく撫でた。言葉を交わさなくても、想いは伝わる。それを感じ、2組の開拓者と朋友は視線を合わせて微笑んだ。
 ブルーウォークと同様に、桜花も自分を責めているが…玄人相手にマシンガントークが炸裂中である。今日の敗因やレースの反省が、次から次に出てくる。彼女の話が終わる頃には、日が暮れているかもしれない。
『結果がどうであれ、本気で競い合えた事を嬉しく思います。良い勝負でした』
 勝敗を気にしていない桃は、他の朋友達に感謝を述べている。今日得た経験は、勝利以上に大きな意味を持つ。これからも、彼女は修行を続けて更なる高みを目指すのだろう。
『おい、絵梨乃。約束の芋羊羹3本、忘れるなよ?』
 花月の言う約束とは、スタート前に言ったご馳走の事だろう。勝利の報酬にしては少々安いが、芋羊羹は大好物。花月には、最高のご馳走である。
 絵梨乃は微笑みながら、親指で後方を指差した。そこにあるのは、和菓子の露天。無論、芋羊羹も並んでいる。花月が不敵な笑みを浮かべると、2人は露天に向かって歩いていった。
 その後姿を、刺すような視線で見詰める雪待。負けたのが相当悔しいのか、尻尾で地面を叩いている。
 相棒の様子に気付いた志郎は、背後から雪待を抱き上げた。
「お疲れ様です、雪待。何か温かい物、食べに行きましょう」
 志郎の提案に、そっぽを向く雪待。機嫌を損ねたのかと思ったが、尻尾が元気良くブンブンと動いている。志郎は優しく微笑み、自身の疲れを癒すためにも、飯屋の暖簾をくぐった。
 一足先に、飛鈴と狐鈴は残念会を始めている。無論、食べているのは寿司。喰い放題とはいかないが、レースを頑張ったご褒美なのだろう。
 天儀暦1014年。午年になるかと思われた年は、『迅鷹年』として新たに生まれ変わった。もしかしたら…来年も熱い戦いが繰り広げられるかもしれない。