許されざる生贄
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/10 22:09



■オープニング本文

 霊的信仰心の強い天儀に於いて、供物として生贄を捧げる事は珍しくない。多くの場合は大自然に宿る神に奉納するが、各地に祀られた神や先祖に対して行う事もある。その方法は多種多様で、生贄の命を奪うものもあれば、『近隣で飼育する』という珍しい風習も存在する。
 どの場合でも共通しているのは、生贄は『敬意の表れ』として捧げられるという点。それ以外の理由で、生贄を差し出す事は皆無に等しいのだが…。
「お願いです、私達の村をお助け下さい…!」
 切羽詰まった表情で、初老の男性が頭を下げる。彼が居るのは、ギルドの受け付け。どうやら、色々と複雑な事情がありそうだ。ギルド職員は依頼書作成の準備をしながら、男性の言葉に耳を傾けた。
「実は…我々の村は、アヤカシに生贄を強要されているのです」
 男性の話では、アヤカシが現れたのは数年前。最初は食糧の要求だったが、その内容は徐々にエスカレート。鶏や豚を欲しがり、羊や牛を求め、遂には…『若い娘を差し出せと』言ってきたらしい。
「今までは何とか要求に耐えてきましたが…人間を差し出すなど無理です。どうか、開拓者様のお力を貸して頂きたい…!」
 痛切な訴えは、嘘や演技の類ではないだろう。だが、疑問が1つ。彼を含め、村人達は何故アヤカシの要求に従っていたのか…という点である。もっと早くギルドに来ていれば、家畜や食料の消費は減らせただろう。
「それが……『口外したら村ごと全て潰す』と言われていたもので…ギルドに依頼する勇気が出なかったのです…」
 一般人にとって、アヤカシの存在は脅威でしかない。命の危険が少しでもあるなら、要求通りに生贄を差し出した方がマシだと考えるのも、当然の事である。彼等の事情を考えれば、ギルドへの依頼が遅れたのも仕方ない。
 村を守るため、勇気を振り絞った男性に応えるように、職員は紙に筆を走らせた。


■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
一之瀬 戦(ib8291
27歳・男・サ
啼沢 籠女(ib9684
16歳・女・魔
稲杜・空狐(ib9736
12歳・女・陰
ジョハル(ib9784
25歳・男・砂
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
結咲(ic0181
12歳・女・武
久郎丸(ic0368
23歳・男・武
白鷺丸(ic0870
20歳・男・志


■リプレイ本文


 人を襲い、苦しめ、命を奪う存在…アヤカシ。その暴挙を止めるため、10人の開拓者が武天南東部の小さな村を訪れていた。
 到着早々、賀 雨鈴(ia9967)と白鷺丸(ic0870)は二手に別れて村中を歩き回る。目的は、周辺の索敵。雨鈴の鳴弦が静かに響き、白鷺丸の意識が瞬間的に広がる。
 アヤカシや不審な気配を探す事、十数分。合流した2人は顔を見合わせ、軽く溜息を吐いた。
「周囲にアヤカシの気配が無いのは良いけど…新しい情報も無いのは、ちょっと残念ね」
 探索しながらも、行き会った村人に話を聞いていた雨鈴。アヤカシに関する情報を集めたかったのだが…村人から聞けたのは、ギルドの情報とほぼ同じだった。
「俺も詳しい情報が欲しかったんだが…仕方ない。近隣の安全を確認出来ただけでも、良しとしよう」
 同様に白鷺丸も索敵と情報収集をしていたが、結果は同じらしい。深呼吸して気持ちを切り替えると、村の外に向かって歩き始めた。彼とは逆に、雨鈴は村の中央に進んでいく。
 村の中では、アヤカシを倒すための準備が進んでいた。
 アヤカシが生贄として人間を要求しているため、開拓者数人が代役を担当。大きな籠に入り、それを受け渡し場所まで運ぶ。他の者は周囲に隠れて待機し、敵が現れたら全員で一気に叩く作戦である。
  開拓者の提案で、用意した籠は2つ。1つは生贄役が入る、大きな籠。もう1つは、食糧運搬用の小さな籠。その2つを台車に乗せながら、稲杜・空狐(ib9736)とジェラルド・李(ic0119)はサイズを確認している。
「この大きさでは無理、か……ふん。ここはお前に任せる。準備は怠るなよ?」
 仏頂面のまま、空狐に声を掛けるジェラルド。食糧用の籠か台車の隙間に隠れたかったのだが、スペース的に彼が隠れるのは無理そうである。
「クーコにお任せなのです。ぱっと行って、片付けるのですよー♪」
 にこやかに言葉を返し、空狐は元気良く拳を握った。準備を進める彼女の視界に、啼沢 籠女(ib9684)の姿が映る。
(いつの時代も…供物にされるのは力なき者。泉に沈められた彼女達も、そうだった…ねぇ、あの時…君たちは…泣いていただろう?)
 彼女の過去の記憶が、怒りの炎となって静かに燃え上がる。それを全て心に隠し、表には微塵も出していない。
 だが…空狐は籠女の様子に違和感を覚え、彼女の手をそっと握った。
「いきましょう…なのですよ、籠様」
 それ以上の事は言わず、優しく微笑む。空狐に釣られるように、籠女も少しだけ笑みを浮かべた。
「小さなお嬢さんにお願いするのは、少し気が引けますけれども…皆さん、気を付けて下さいね?」
 六条 雪巳(ia0179)は生贄役の仲間達に向かって、心配そうに声を掛ける。今回の作戦で籠に入るのは、全員女性で年齢も若い。雪巳が心配するのも、当然だろう。
「大丈、夫…ボクは、要らない子、だから…何か、あったら…ウレイと、カゴメは、守る、よ」
 一切表情を変えず、結咲(ic0181)が言葉を返す。予想外の返答に、困惑する雪巳。結咲は軽く頭を下げ、生贄用の籠に歩み寄る。近くに居たジェラルドに霊剣を預け、籠に潜り込んだ。
 彼女に続いて雨鈴と籠女も入ると、蓋が閉められた。もう1つの籠に空狐が入ると、雪巳とジェラルドで供物用の食糧を詰め込み、彼女の姿を隠す。
「さて…そろそろ行こうか。悪いけど、誰か運搬のお手伝いを頼むよ。なるべく、足が速い人がいいね」
 腰の曲がった老人が、周囲に声を掛ける。一見すると誰だか分からなかったが、その正体はジョハル(ib9784)。浴衣を羽織って手拭を被り、長い金色の頭髪は1つに結んで衣服の中に隠している。この姿を見たら、開拓者だと疑う者は居ないだろう。
 道案内を兼ねて、村人の青年が名乗りを上げる。彼とジョハルで台車を引き、ゆっくりと進み始めた。
 それ以外の開拓者達は、受け渡し場所に先回りするため、森に向かって駆け出す。


 仲間達に先行し、森に潜む人影が2つ。白鷺丸と、一之瀬 戦(ib8291)だ。森の中にアヤカシ以外の危険が無い事を確認し、木陰に身を隠している。
「そういや…此の前は悪かったな。まさか会うと思ってなかったから、ビビって何も言えなかったわ」
 意味ありげに笑いながら、声を掛ける戦。突然の言葉に、白鷺丸の瞬きが一時的に早まる。
「あぁ、そういえば……いや、俺は気にしていないが…」
 そう答えながらも、白鷺丸には1つの疑問が生まれていた。
 彼等は特に親しいワケでもなく、知り合ってから間もない。祭りで偶然遭遇し、少し言葉を交わした程度の仲である。
 なのに…目の前に居る男は、互いの名を名乗る前に自分の名前を呼んだ。
 間違いなく『ハクロ』と。
 何故、名前を知っていたのか…何故、戦は自分に興味を示すのか…。
 思考を巡らせる白鷺丸を尻目に、戦は不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ…怪しいモンじゃねぇって事だけは知っといて。詳しい話は仕事の後で、だな」
 そう言って、白鷺丸の頭に手を伸ばす。細い指先が彼の頭を撫でた瞬間、白鷺丸は素早く身を引いた。
「貴殿を良くは分からないが…敵ではないと思ってはいる。が……子供扱いはするな」
 眉を寄せて不快感を露にし、鋭い視線を向ける。が、戦はそれを一切気にせず、クスリと笑って見せた。
 彼が白鷺丸の名前を知っていた事には、複雑な事情がある。
 その真相は…いつか、戦の口から語られるかもしれない。


 台車が村を出発してから、数分後。護衛担当の開拓者達は、受け渡し場所の祭壇周辺で待機していた。
 森の中にあるため、隠れる場所は多い。祭壇まで10m程度の距離があるが、目印として篝火が燃えているため、視界は十分である。
「来た、ようだな。皆…準備は、良い、だろうか?」
 台車の物音に気付いたのか、久郎丸(ic0368)が仲間達に声を掛ける。数秒もしないうちに、森の奥からジョハル達が姿を現した。
(冷たい、寂しい、苦しい、怖い。馬鹿な時間だった…あの者達も、そして何も出来ない僕自身も…)
 暗い籠の中、籠女が考えているのは、遠い過去の事。水を欲し、水神の怒りを鎮めるため…同族を生贄として差し出した記憶。何も出来なかった当時の自分に、怒りが込み上げる。
 不意に、籠が揺れて台車の動きが止まった。その衝撃で、籠女は正気に戻って身構える。
「籠女さん、結咲さん。悪いけど、少しだけ場所を空けて?」
 籠の中、小声で声を掛ける雨鈴。2人が身を寄せて空間を空けると、雨鈴は弓の弦を鳴らした。
 弓を引くにはギリギリの広さだったが、弦音が周囲に広がっていく。雨鈴は精神を研ぎ澄ませ、共振音に耳を傾けた。
 その音が、アヤカシの接近を教えている。
 大地を揺らしながら、木々の奥から巨大な鬼が姿を現した。筋肉質な体躯に、金色の頭髪。太く鋭い角が2本生え、真紅の瞳が台車を睨んでいる。
『生贄は…準備したか?』
 直接頭に響くような、不気味な声。同行した青年は怯えながら、大きな籠を指差した。
 満足そうに、アヤカシは歪んだ笑みを浮かべる。そのまま腕を伸ばし、籠の蓋を開けた。
「今だよ!」
 籠女の叫びと共に、吹雪がアヤカシを飲み込む。それを合図に、周囲に隠れていた開拓者達がアヤカシに向かって駆け出した。
 間髪入れず、雨鈴は素早く矢を番えて射ち放つ。それが鬼の肩に突き刺さり、瘴気が吹き出した。
「残念だったわね。私達を相手にしたのが運の尽き…覚悟しなさい!」
 力強く叫び、籠と台車から飛び下りる雨鈴。ほぼ同時に、籠女、空狐、結咲も地面に降り立った。
「走って。早く!」
 ジョハルは同行した青年に向かって叫び、避難を促す。彼が全力疾走したのを確認し、ジョハルは浴衣を脱ぎ捨てた。青年を護るため、背中を追って走る。
 ようやく騙された事に気付いたのか、アヤカシは怒りの形相で拳を振り下ろした。標的になったのは、一番近くに居た結咲。
 迫り来る拳撃に対して、結咲は30cmにも満たない小型の山刀を構えた。攻撃を凝視し、兵装を盾代わりにして力の方向を変える。結果、拳撃は結咲を逸れ、地面を叩いた。
「攻撃の、受け流し、かた、…ジェラルドが、教えて、くれ、た」
「上出来だ。受け取れ…!」
 疾風のように距離を詰めたジェラルドが、預かっていた霊剣を投げ渡す。結咲はそれを受け取り、素早く横に薙いだ。それに合わせ、ジェラルドは逆方向から大太刀を薙ぐ。
 2人の斬撃がハサミのように重なり、鬼の腕を両側から挟んで両断。大量の瘴気が吹き出す中、斬り落とされた腕も瘴気と化して空気に溶けていく。
 敵が驚愕する暇を与えず、久郎丸は分銅の付いた縄を投げ放った。それが鬼の残った腕に巻き付き、蛇のように絡み付く。
「力比べ…だ。動いて、みろ」
 仁王のような姿勢で、両脚を力強く踏み締める久郎丸。不動の構えが精霊力で強化され、鬼が縄を引いても微動だにしない。
「くろ、行って喰らい尽くしなさい」
 普段の明るい様子とは違い、敵に対して冷酷非情な一面を見せる空狐。狐のお面で表情を隠しながら、巨大な黒い蛇の式を召喚して命令を下した。それに従い、黒蛇は鬼の首に喰らい付く。
「微力ですが、お手伝いさせて貰います」
 雪巳は扇を広げると、力強く舞い踊った。周囲の精霊に働きかけ、味方を応援するように加護を与える。それが戦と白鷺丸に作用し、攻撃能力を高めた。
「今日は気分良いし、暴れさせてもらうぜ?」
 ニッコリ笑いながら、戦は地面を強く蹴って踏み込む。敵の隙を窺い、巨大な槍を突き出した。穂先が敵の脇腹を抉り、瘴気が溢れ出す。
 次いで、白鷺丸は十文字槍に精霊力を纏わせた。青白い光が兵装全体を包むと、槍を大きく薙ぐ。切先が青い軌跡を描き、鬼の胸を斬り裂いた。
 手傷を負い、腕を封じられ、アヤカシの頭髪が怒りで逆立つ。直後、その髪が瘴気を纏い、一気に撃ち出された。
 弾丸のような攻撃が、前衛の開拓者達に迫る。仲間を護るため、白鷺丸、戦、結咲は前に出て両腕を広げた。
 ほぼ同時に、空狐が彼等の正面に白い壁を生み出す。それが防壁となり、アヤカシの攻撃を防いだ。
 が、想像以上の威力に、白壁は一瞬で砕け散る。咄嗟に、戦と白鷺丸は女子供を護るために身を挺した。頭髪が肌を掠め、体に突き刺さり、鮮血が舞う。
 軽く舌打ちしつつ、雨鈴は矢を番えて素早く射ち放った。高速の弓撃が敵の眉間に突き刺さり、攻撃が止む。
 間髪入れず、追撃の銃弾が眉間を貫通。傷口から派手に瘴気が吹き出した。
「捕まえなくちゃいけない子羊は一匹だけじゃないよ、鬼さん?」
 そう言って、ジョハルは不敵に微笑む。彼が攻撃に参加したという事は、村人は敵の射程外まで送ったのだろう。
「鬼ごときが…調子にのるんじゃないわ」
「こんな事して、神にでもなったつもり? 思い上がるのもいい加減にして欲しいね…!」
 籠女を狙われた事が、空狐を狙われた事が、2人の逆鱗に触れた。怒りの感情を隠す事無く、籠女は吹雪を生み出す。それは彼女の感情を表すように、激しく吹き荒れた。
 吹雪がアヤカシを飲み込むと、2匹の黒蛇が入り乱れる。空狐の召喚した式が鬼の両脚に喰い付き、噛み砕いた。
「どうやら…身を挺して護るような馬鹿が多いようだな。さっさと片付けるか」
 皮肉を口にし、ジェラルドは敵の懐に潜り込む。太刀を最上段に構え、刀身に気を集中させた。次の瞬間、剣閃が奔ってアヤカシを深々と斬り裂く。
「ジェラルドさん、素直じゃありませんね。あ、これが『ツンデレ』ですか」
 優しく微笑みながら、癒しの精霊力を収束させる雪巳。箱入りで育ったためか、彼の感覚は若干ズレているようだ。
 ジェラルドの怒りの視線を受けながら、雪巳は花束を投げるかのように、集めた精霊力を放った。治癒の力が白鷺丸と戦に降り注ぎ、負傷を癒していく。
「ったく…自分の欲しいモンくれぇ、自分で努力して手に入れてみせろってぇの!」
 走りながら、戦は大きく踏み込んで槍を全力で突き放った。裂帛の気合を伴った一撃が、鬼の腰部を貫通して穴を穿つ。
 瘴気が吹き出すより早く、白鷺丸が流れるような動きで敵の背後から斬り掛かった。漆黒の穂先が黒い閃光のように奔り、鬼を深々と斬り裂く。
「ボクは、要らない、子。だけど、きみは、敵、だから、…もっと、要らない。だから…倒さ、ないと」
「我が身、僧なれど…悪鬼羅刹、討ち…屠る。南無三…!」
 静かだが、強い意志の籠った言葉。久郎丸は兵装を槍に持ち替えると、結咲と共に武器を掲げた。目を閉じると精霊力が炎となって活性化し、幻影を生み出す。
 2つの炎が天に昇り、一気に急降下。流星のように降り注ぎ、敵を包んで激しく燃え上がった。実体の無い炎が鬼を焦がし、瘴気も燃やしていく。炎が消えた時、アヤカシの姿も消滅していた。


 アヤカシを倒した開拓者達は、周囲を見回した。残党を警戒しているのだが…敵の姿は無い。
「今回の危機は去ったけれど、森の方まで探索してみようか。そう何度もアヤカシに来られちゃ、村の人達も迷惑だろうからね」
 脱ぎ捨てた浴衣を回収しながら、索敵を提案するジョハル。敵が居ない事が確認されていない以上、森の中は安全とは言い切れない。
「他にもアヤカシが居るかもしれないからな…『腹いせに村をやられた』、では寝覚めも悪い」
 同意しながら、白鷺丸は森の奥に視線を向けた。その黒い瞳には、アヤカシに対する怒りが燃えている。
「それに、私達が帰ってから村が襲われたら気分が悪いもの。不安の種は潰さないと」
 弓を握る雨鈴の手に、力が籠る。村人達の気持ちを考えたら、ここで帰るワケにはいかない。
「もし、敵が居た、ならば…それを、討つ。全ての根を、絶たねば…解決、すまい」
 アヤカシが『脅し』という手を覚えたなら、面倒な事になる。久郎丸の言う通り、全ての敵を倒すべきだろう。
「ですが、あまり深入りしないよう注意した方が良いでしょうね。万が一、返り討ちに遭っては大変です」
 皆の意見を聞いていた雪巳が、注意を促す。索敵に反対する気は無いが、人々を守るために命を失っては、元も子もない。
「なら…2人1組、なら、少しは…安全。何か、あったら…すぐ、知らせ、る…どう?」
 結咲の提案に、誰もが静かに頷く。開拓者達は2人1組に別れ、別々の方向に歩きだした。
「おい…」
 前を歩く結咲に、ジェラルドが声を掛ける。彼女が振り向くと、ゆっくりと口を開いた。
「自分を『不要な存在』だと思うのは勝手だが…お前を守ろうとする奴も居る。それを忘れるな」
 仲間を護るためだとしても、命を粗末にして良いワケが無い。『もっと自分を大切にしろ』という意味で、彼は言葉を発したのだろう。
 予想外の一言に、きょとんとした 表情でジェラルドを見詰める結咲。言葉で答える代わりに、彼の裾をそっと握った。
 数時間後、開拓者達は村に戻った。『森にもアヤカシは居ない』という、最高のプレゼントと共に。