現れた『未知』
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/26 20:09



■オープニング本文

 暑かった夏も終わり、秋の気配が顔を覗かせている。長雨と強風の影響か、今年は涼しくなるのが早いようだ。このまま、駆け足気味に冬が来たら大変だが。
 秋の雰囲気が深まってきた今、各国では収穫祭の準備で慌ただしくなっている。武天では野生動物の肉、朱藩では新鮮な魚介類や海の乾物、泰国では肉や野菜を問わず山の乾物と、地域毎に様々。
 そして、理穴では果物や野菜等、農産物が扱われる予定なのだが…。
「なぁ……『アレ』って、何だ?」
「俺が知るかよ。こっちが聞きてぇくらいだ…」
 自分達の畑を眺めながら、困惑した表情を浮べる2人の男性。彼等の視線の先にあるのは、茶色いフサフサの球体。2mはありそうな巨大なモノが、畑の中で鎮座していた。しかも近くの作物が喰い荒らされ、里芋や蓮根、牛蒡や春菊の残骸が散らばっている。
 奇怪な状況の中、畑の球体がモゾモゾと動く。猛烈にゆっくりとした速度だが、コマのように回転しているようだ。数秒後、2人は更なる驚愕を目にする事になる。
『く………熊ぁ!?』
 拍子抜けしたような、驚いているような、微妙な叫び。彼等が球体だと思っていたモノは、丸々とした熊だった。球のような体に、短い手足。プックリした頭部は、愛らしさすら感じる。
 この熊が突然変異なのか、新種の生物なのか、詳しい事は全く分からない。が、短い前脚で蓮根を握り、口にはサツマイモを咥えている。作物を喰い散らかしたのは、間違いなくこの熊だろう。
「あ〜! うちのサツマイモ!」
「僕が丹精込めて育てた蓮根ちゃんを…許せないっ!」
 ようやく状況を理解し、男性は怒りの形相を浮かべる。農具を強く握って身構えたが…相手は熊。しかも、見た事も聞いた事もない異形の。遠目には可愛らしく見えるが、実力は全く分からない。
 男達は顔を見合わせ、ゆっくりと頷く。2人は一目散に村へ帰り、住人達と話し合ってギルドに駆け込んだ。


■参加者一覧
和奏(ia8807
17歳・男・志
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
篠月 藍香(ib6304
14歳・女・志
鏡珠 鈴芭(ib8135
12歳・女・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
ウルリケ(ic0599
19歳・女・ジ
朔楽 桜雅(ic1161
18歳・男・泰


■リプレイ本文


 秋晴れの下、肌寒い空気が大地を撫でていく。秋の気配が深まった野道を、大荷物を持って歩く者達が10人。目指す先にあるのは、名も無い小さな村。開拓者達が村に到着すると、住人達が歓声と共に出迎えた。
「待っているがいい! この私は人々の盾! 悪辣なケダモノなど、一刀両断だ!」
 村人達に応えるように、ラグナ・グラウシード(ib8459)が剣を振り上げる。その力強い姿に、周囲から更に歓声が上がった。
「私達の腕を信頼し、任せて貰えるのは幸いです。必ず期待に応えてみせますので、ご安心下さい」
 礼儀正しい言葉と共に、深々と頭を下げる杉野 九寿重(ib3226)。彼女の言動と優しく微笑む姿は、村人達に安心感を与えているようだ。
「ケモノが出たのは、畑だけですか? 山の裾野や未使用の土地等、他の場所は大丈夫でしょうか?」
 ウルリケ(ic0599)は最高の笑顔を見せながら、住人に声を掛ける。こんな表情を向けられたら、誰でも質問に答えてしまうに違いない。
「個人的な提案なのですが…今回の熊さんを剥製にして、村で展示するのはどうでしょう?」
 Kyrie(ib5916)の言葉に、小首を傾げる村人達。自身の意見を説明するように、Kyrieは微笑みながら口を開いた。
「見物小屋を作れば、好事家や観光客が訪れます。人気が出れば、熊さんを題材にした絵草子や人形をも売れると思いますし」
 情報では、村に現れたのは『球のように丸い熊』。そんな珍妙且つ可愛らしい熊は、どこを探しても存在しないだろう。
 珍しい物には、人が集まる。Kyrieの意図を理解し、住人達から賛成の声が上がった。同意を得られた事を確認し、Kyrieは剥製職人の手配を村人に指示する。
 住人への対応は4人に任せ、残った6人は村を南に移動した。そこは熊のケモノが現れた場所であり、被害を受けた畑がある。森や山も近いため、熊が現れるとしたらココしかない。
「あ、この果物美味そーっ! ……うん、こんだけ美味けりゃ熊もイチコロだな!」
 朔楽 桜雅(ic1161)は荷物の籠から果物を取り出し、迷わずに喰らい付く。味を確かめるように飲み込み、満足そうに微笑んで見せた。
「桜雅…それはケモノの餌だぞ? 食べ過ぎたら……分かっているな?」
 その隣で、琥龍 蒼羅(ib0214)は少しだけ溜息の混じった言葉を漏らす。彼等が運んでいるのは、ケモノを誘き出すためにギルドが用意した餌。無くなってしまったら、作戦が台無しである。
 蒼羅に注意され、桜雅は苦笑いを浮かべながら後頭部を掻いた。
 畑に着くと、篠月 藍香(ib6304)は目を閉じて意識を集中させる。感覚を周囲に広げるように張り巡らせ、気配を探っていく。
「範囲内に居るケモノの数は…15匹みたいです。距離は相当離れていますが、森に居るのは間違いありません」
「この反応が熊さんなのか、他の生き物やアヤカシさんなのか分かりませんから、目安程度ですけどね」
 補足するように、和奏(ia8807)が言葉を付け加える。スキルの性質上、気配を詳しく判別する事は不可能。感知した気配が何なのか、現れるまでは分からないのだ。
「目安だとしても、無いよりはマシだな。桜雅が食糧を喰い尽くす前に、餌と罠を設置するとしよう」
 不敵な笑みを浮かべながら、縄を取り出す篠崎早矢(ic0072)。簡易的な罠だとしても、ケモノの動きを止める事は充分可能だろう。
「今日の夕飯は熊肉で決まり♪ 狐の下剋上よっ、モフモフ熊さん覚悟してなさい!!」
 フサフサした狐の尻尾を振りながら、鏡珠 鈴芭(ib8135)が森に向かって『ビシッ』と指を差す。彼女の中では、既にケモノを夕飯にする事が決定しているようだ。
 6人は軽く顔を見合わせると、協力して餌と罠の準備を進めていく。村に居た4人も合流すると、ウルリケの情報と、蒼羅と桜雅の意見を元に餌を二ヵ所に設置。全員で茂みに隠れ、ケモノの出現を待った。


 餌を置いてから数十分。何も起こらずに時間だけが過ぎていたが、突然森の草木がガサガサと音を立てた。瞬間的に反応し、10人の視線が殺到する。数秒後、森の奥から複数のケモノが姿を現した。
「ふ、ふあああっ!? な、何だ、あの『かぁいい』のはっ…! ううっ…だ、だが…放っておけば人々が危ない!」
 熊の姿を見るなり、オロオロと取り乱すラグナ。短い脚でヨチヨチ歩く姿に、心を奪われてしまったようだ。
「熊にしては、珍妙な姿だな…あれが敵なら、やるべき事は一つ、だ」
 ラグナとは対照的に、蒼羅は沈着冷静。心乱される事なく、ゆっくりと兵装に手を伸ばした。彼の黒い両眼が見詰める中、ケモノ達が左右二ヵ所の餌に喰らい付く。その数、8匹。
「ってか、飯食う時は作ってくれた人に『いただきます』って言うのが礼儀だろがっ!!」
 拳を握り、怒りの声を上げる桜雅。彼の場合、果物や肉をウマそうに食べているケモノに八つ当たりしているだけかもしれないが。
「ケモノに礼儀を説いても無意味だ。問答無用で、撃たせて貰おう」
 言いながら、早矢は矢を番える。自身の倍近い大きさの弓を握り直し、鋭い視線をケモノに向けた。
「皆さん、くれぐれも熊さんへの外傷は最小限にして下さいね?」
 苦笑いを浮かべながら、全員を見渡すKyrie。剥製にするなら、外傷は少ない方が良い。難しい注文だが、それだけ仲間達を信頼しているのだろう。
「確約は出来ませんが…『善処します』とだけ申し上げておきます」
 九寿重の青い両眼が、熊達を射抜く。状況次第では、外傷を無視して撃破を優先する気のようだ。
「では、油断大敵で参りましょうか。援護射撃はお願いしますね?」
 念のために注意を促し、後衛の仲間に声を掛けるウルリケ。全員が兵装を構えると、蒼羅、九寿重、藍香、ラグナ、ウルリケ、桜雅の6人が茂みから飛び出した。ケモノとの距離は、約20m。開拓者の脚なら、そう遠くはない。
 予想外の襲撃に驚く熊達。慌てて逃げようとするが、早矢の仕掛けた落とし穴や縄に引っ掛かり、脚を取られる。
 間髪入れず、逃走を防止するために鈴芭は手裏剣を、早矢は矢を放った。手裏剣が熊の足元に刺さって動きを牽制し、弓撃が熊の脚を射抜く。
「熊さんの急所は、お鼻…撃退するなら、そこを狙うのが良いですよ」
 言葉と共に、和奏は刀に練力を送り込んだ。仲間達の動きに注意しながら、虚空を斬るように振り下ろす。同時に兵装の練力が解放され、無数の風刃が乱れ舞って熊に降り注いだ。
 和奏は鼻を狙ったが、そこ以外の箇所にも傷が刻まれていく。多数の刃が手負いの熊に殺到し、鮮血が赤い渦を巻く中、巨体が地面に転がった。
 Kyrieは呪術武器を手にし、意識を集中する。何もない空間に姿形の無い式を召喚すると、練力を送り込んでそれを再構成。怨霊系式神を純粋な呪いの力に変え、撃ち放った。
 音も気配も無い一撃が、熊を直撃。圧倒的な呪力が全身を駆け巡り、派手に吐血した直後、ケモノは天を仰いでそのまま動かなくなった。
 仲間を相次いで倒され、ケモノ達に恐怖と混乱が広がっていく。駆け寄って来る6人を迎え撃つように、熊達は爪を振り回した。
 が……手足が短いため、射程も短い。愛らしい動きに気を取られなければ、回避も可能。ある者は素早い体捌きで爪を避け、ある者は舞うような動きで身を翻した。
「増援が居るか分からんが、手早く片付けさせて貰うぞ…!」
 敵の爪撃に合わせ、蒼羅は懐に潜り込む。爪が頬を掠めて赤い線を描いたが、擦れ違い様に太刀を素早く抜いて腕を斬り落とす。
 そこから踵を返し、驚異的な速度で刃を奔らせた。神速の斬撃は反応する暇も与えず、出血すらしない。熊が地に伏すと、首が落ちて血が流れ出した。
 軽やかなステップを踏み、熊の攻撃を避けるウルリケ。爪撃が大振りになった隙を狙い、懐に飛び込んで柏手を打った。驚いて動きが止まった瞬間に、拳撃と頭突きを叩き込んで体勢を崩す。
「相手を倒せるかどうか、力量を見極めるべきでしたね…」
 ドスの利いた、低い声。その声も、虚を突く泥臭い格闘術も、普段の明るい様子からは想像も出来ない。手にした銃剣が敵の胸部に突き刺さると、熊の全身から力が抜けていった。
「目録【卯生】、行きます」
 九寿重の声に呼応するように、緋色の刀に精霊力が集まっていく。桜色の燐光に包まれた太刀を強く握り、渾身の力を込めて振り下ろした。強烈な斬撃が、ケモノを縦に斬り裂く。
 更に、九寿重は手首を返して横薙ぎを放った。朱色の剣閃が桜色の光を伴い、敵の胴に十字の傷を刻み込む。燐光が風に揺らぐ枝垂桜のように舞い、敵の命と共に消えていった。
「く…ゆ、ゆるしてくれよ、くまたん! 畑に悪さしたら『メッ』だお…」
 泣きそうな表情を浮べながらも、ラグナは両手で剣を握り、一切の手加減をせずに振り下ろした。強烈な一撃が熊の毛皮を易々と斬り裂き、敵の体を両断。そのまま、地面に崩れ落ちた。
 ラグナの隣を、藍香が通り過ぎる。一気に間合いを詰め、流れるような動きから斬撃を繰り出す。回避困難な軌道の一撃が熊を捉え、胴を深々と斬り裂いた。
 敵の体が大きくよろめいたが、短い脚を踏ん張って衝撃に耐える。反撃するように、熊は腕を振りかぶった。
 ほぼ同時に、ケモノの足元に手裏剣が連続で突き刺さる。鈴芭の投擲が敵を牽制し、一瞬の隙を生み出した。
 藍香は更に大きく踏み込み、渾身の力を込めて刀を振り上げる。さっきの斬撃と交差させるように剣閃が奔り、『×』字の傷が描かれた。それが止めとなり、熊の体が力無く崩れ落ちる。
「ありがとう、鈴芭。まさか、援護してくれるとは思わなかったけどね」
 後方を振り向き、鈴芭に礼を述べる藍香。その表情と口調は柔らかく、少々冗談が混じっているようだ。
「藍ちゃん、ヒドーイ。 これでもちゃーんと考えて動いてるんだからっ!」
 言葉とは裏腹に、鈴芭は微笑んでいる。仲の良い友達だからこそ、言える事もある。恐らく、彼女達も相当仲が良いのだろう。
 これで、残るケモノは1体。最後の熊に向かって、早矢は高速の矢を放った。弓撃が大気を斬り裂きながら飛び、熊の右目に突き刺さる。
「一発で終わらせっから、安心しろよっ!! お前の分も美味いモン食ってやる…約束、だ」
 ケモノが悲鳴を上げる中、桜雅は拳を握って特攻。両の足で地面を強く踏み締め、気合を込めて拳を突き出した。力強い一撃で、熊の胴が波打つ。衝撃が全身を伝播し、敵の体が地響きと共に倒れた。
「今のが最後か? 伏兵や増援が居ないと良いが…」
 餌に誘き出された8匹は撃破したが、ケモノを全て倒したという確証は無い。和奏は軽く深呼吸しながら、目を閉じた。研ぎ澄まされた感覚が一瞬で周囲に広がり、全ての気配を感じ取る。
「射程内に反応は無いみたいですね。念の為に、周囲を見回ってみますか?」
 野生動物なら戦闘の音を聞き付けて逃げた可能性が高いが、ケモノまで逃げていたら厄介である。和奏の提案に、誰もが静かに頷いた。


 見回りを続ける事、約2時間。不審な存在が居なかったため、10人は畑に戻って来た。農作物に被害が無い事を確認し、ケモノの死骸を戸板に乗せて麻布で覆い、荒縄で固定。それを引きながら、村に帰還した。
「お待たせしました。暴れていた熊達は、この通り退治完了です。もう心配無用ですよ」
 九寿重の言葉に、歓喜の声が湧き上がる。村人達が喜ぶ姿を見て、彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「うっうっ…私は酷い事をしてしまったお、うさみたん…」
 盛り上がる住人達を尻目に、ヌイグルミを抱き締めながらシクシクと涙を流すラグナ。ケモノを倒した事を、未だに気に病んでいるようだ。
「出来るだけ傷付けないように倒したつもりですが…これで大丈夫でしょうか?」
 ラグナを軽く押し退け、職人らしき人達に向かって質問を投げ掛ける和奏。それに応えるように、職人達は力強く頷いた。
「では…お願いします。使わない骨は埋葬したいので、処分は私にお任せ下さい」
 Kyrieは縄を手渡し、深々と頭を下げる。ケモノとは言え、失われた命を丁重に弔いたいのだろう。
「ねぇねぇ。剥製ってコトは、お肉の部分は捨てちゃうんだよね? だったら…食べれそーな部分は分けて欲しいなっ♪」
 職人の衣服を軽く引っ張りながら、期待の眼差しを向ける鈴芭。これを断ったら、彼女まで泣き出しそうな雰囲気である。
「何だよ、鈴芭も熊肉狙いか? 可愛いナリして、案外食い意地張ってんな〜」
 からかうように、桜雅が不敵な笑みを浮かべた。大食漢な彼なら、熊肉がいくらあっても足りないかもしれないが。
「むぅ…食い意地が張ってるんじゃないもん。私は、家庭の経済状況も考える『献身的なお狐さん』なんですよーだ!」
 鈴芭は頬をプ〜ッと膨らませ、怒りを露にする。どの辺りが『献身的』なのかは分からないが、気にしたら負けだろう。
「熊肉が目的で依頼に参加するとは…2人共、不謹慎だな。そんな心構えでは、アヤカシに足を掬われるぞ?」
 腕を組みながら、厳しい指摘をする早矢。少しは反省するかと思ったが、桜雅と鈴芭にそんな素振りは全くない。逆に、笑みを浮かべている。
「言いたい事は分かる。が…口元が緩んでいては、説得力も半減だな」
 蒼羅は一切表情を変えず、厳しいツッコミを入れた。反射的に早矢が口元に手を伸ばすと、唇の端が若干緩んで少量の唾液が零れている。熊肉と聞いて、彼女も小腹が空いたのかもしれない。
「あの熊達が何故里に出てきてしまったのか…気になりますね。生態などを調べてみましょうか。もしかしたら、何か対策を立てられるかもしれません」
 気になる事があるのか、ウルリケが周辺の調査を申し出る。開拓者が助けてくれるなら、断る理由は無い。早速、ウルリケと数人の村人が畑に向かった。
 空が茜色に染まる頃、工房に籠っていた職人達が、作業を終えて登場。熊肉と骨を、それぞれ欲しがっている者に手渡した。
 骨を受け取ったKyrieは、村の端に移動して穴を掘る。藍香も手伝い、2人で埋葬用の大穴を開けた。そこに、熊達の骨を入れていく。
「以前、道に烏の死骸が放置されていた時に、近くの烏達が住人を襲った事があるんです。『自分と同じ存在』が近くで死んでいたから、不安になってしまいますから…」
 悲痛な表情で、過去の出来事を語る藍香。それでも作業の手は止めず、骨に土を掛けてキチンと埋葬した。
「それって、ケモノも同じなんじゃないかなって思って……この村の人達が、同じように襲われたら嫌です。それに、このケモノも安らかに眠って欲しい…」
 言いながら、藍香は周囲を見渡す。平和が戻った村に、喜び合う住人達。この光景を守るため、最後の最後まで気は抜けない。
 そんな彼女の肩を優しく叩き、Kyrieは微笑んで見せた。楽譜を取り出し、葬送と鎮魂の歌を響かせる。悲しくも力強い歌声は、夕陽の空に消えていった。