夏の海は誰のモノ?
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/05 20:03



■オープニング本文

「水着コンテストの警備…ですか?」
 ギルドには、色んな依頼がくる。アヤカシ退治の相談が多いが、人々の生活に関わる内容も少なくない。今回の警備は、恐らく後者だろう。
「はい。私共が毎年主催しているのですが…その…最近は、物騒な事が多いので…」
 額の汗を拭いながら、初老の男性が苦笑いを浮かべる。夏は開放的な気分になるのか、ハジケ過ぎる者が多い。ノリ良く騒ぐのは悪い事ではないが、度を超したバカ騒ぎは問題だろう。
「皆様に海を楽しんで貰い、観光客に来て頂く……そう思っているのですが、趣旨を勘違いしている方々も居るのですよ…」
 そう言って、主催者の男性は一枚の紙を差し出した。そこに書かれているのは、『1012年コンテスト、被害報告一覧』。つまりは、去年開催した時の報告書である。
 出場者に対するイヤガラセ行為、少年の誘拐未遂、幼女へのナンパ行為、出店での食い逃げ、などなど…。これを見ただけで、頭が痛くなりそうだ。
「えっと…開催を中止するのは駄目なんですか?」
「それも考えましたが、コンテストを楽しみにしている方が予想以上に多いのですよ。問い合わせや、開催希望の投書も頂いていますし…」
 住民の期待に応えたいという気持ちは理解出来る。コンテストを開催し、皆に楽しんで貰うため、主催者は色々と悩んだ末に依頼に来たのだろう。薄くなった頭髪と、目の下のクマがそれを物語っている。
「分かりました。期待にお応え出来るか分かりませんが、依頼書は掲示させて頂きます」
 克騎の言葉に、主催者が深々と頭を下げる。暑い夏の、暑い戦いが、今年も始まろうとしていた。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
喪越(ia1670
33歳・男・陰
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
クローディア・ライト(ia7683
22歳・女・弓
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
白隼(ic0990
20歳・女・泰


■リプレイ本文


 暑い夏、人々は浜辺で更に熱く燃え上がってる。燦々と照り付ける太陽に、熱気を帯びた潮風。そして…。
「あの豊満なバスト、軽く90はあるじゃねぇか! しかも、子連れだと……!? こいつは、俺様の股間の魔装砲が」
『だ・ま・れ、駄目人間!!』
 砂浜に集まった、水着姿の美女。彼女達を眺め、喪越(ia1670)のテンションは限界ぶっちぎりでレッドゾーンに達していた。
 暴走ギミの喪越に、相棒の羽妖精、癒羅が全力でキックを叩き込む。その威力で首が『曲がってはいけない方向』に曲がっているが、見なかった事にしよう。
 今日、この浜辺では水着コンテストが開催される。彼等開拓者は会場の警備を依頼されたのだが…喪越を見ていると、少々不安になってくるのは杞憂だろうか?
「お前の気持ち…良く分かるぜ! 男なら…いや、漢(おとこ)なら! この機会を逃すテは無ぇ!」
 喪越の手を固く握り、熱く語りかける荒屋敷(ia3801)。視線を合わせた瞬間、2人の想いは伝わった。同じ志を持つ漢に、言葉は要らない。そこにあるのは、真夏の太陽のように熱い魂だけである。
 荒屋敷と喪越は深く頷き、視線を砂浜の美女達に向ける。そのまま、ゆっくりと歩き始めた。
「今回の依頼、何か特別な機会なのでしょうか? 私には全く分かりませんが…」
 2人の背を見送りながら、露羽(ia5413)は小首を傾げる。平たく言えば、喪越と荒屋敷の目的はナンパ。真面目な露羽には、予想もつかないだろう。
 頭上に『?』が浮かびそうな露羽の肩を、白隼(ic0990)がそっと叩いた。
「露羽さん…世の中には『知らない方が良い事』もあるのよ?」
 ほんの少しだけ苦笑いを浮かべながら、優しく言葉を掛ける白隼。不思議そうな表情を浮べながらも、露羽は静かに頷いた。そんな2人に、周囲の注目が集まっている。
 露羽は男性物の水着を着ているが、上着を羽織っているため、色白でしなやかな四肢しか見えない。しかも中性的で端正な顔立ちをしているため、女性と間違われそうである。
 対照的に、白隼はレースアップのモノキニ水着というセクシーな姿。薄衣を羽織っているが、健康的な小麦色の肌と、自己主張の激しい胸部は隠しきれない。銀糸のような長髪と純白の翼も相まって、日陰に居ても女神のような美しさを魅せている。
 これだけ目立っていたら、ナンパされるのも時間の問題かもしれない。
「『水着こんてすと』かぁ…ふふん、ばっかみたいなのぉ…」
 砂浜の特設会場を眺めながら、独り呟くエルレーン(ib7455)。否定的な言葉とは裏腹に、彼女が向けているのは『羨望のマナザシ』。羨ましそうに、じとーっと参加者達を凝視している。
『もふふ〜、本当は羨ましいくせに〜。特に胸とか』
 相棒のもふら、もふもふの、容赦のない一言。その一撃が彼女の胸に突き刺さり、精神的な痛みが全身を駆け抜けた。
「胸の事なんか気にするな。エルレーンは、今のままで充分に可愛いぞ」
 言いながら、水鏡 絵梨乃(ia0191)は背後からエルレーンに抱き付いた。背中に感じる、大きくて柔らかい感触。絵梨乃は黒のモノキニ水着を着ているため、余計にハッキリと感じる。
 背後から押し寄せる『圧倒的な敗北感』に、エルレーンは砂浜に膝を付いた。
「あの…絵梨乃様? 非常に言い難いのですが……フォローになっていない気が致しますわ」
 苦笑いを浮かべながら、クローディア・ライト(ia7683)が声を掛ける。彼女も水着を着ているが、それは『胸元の物足りなさが気になる乙女用』の特別な一品。何となく、エルレーンの気持ちが分かったのだろう。
 申し訳なさそうな表情で、絵梨乃は手を伸ばしてエルレーンを立たせる。そのまま、3人は周辺警備のために屋台の方向へ歩いて行った。


 今回の依頼で派遣された開拓者は、全部で10名。大半は周辺警備に当たっているが、コンテスト出場者の安全を確保するため、参加者として会場に入っている者も数人居る。
「うぅ…周囲の視線が痛いな。こういう目立ち方は、あまり得意ではないのだが…」
 更衣室で着替えを終え、恥ずかしそうに頬を染めているのは、エメラルド・シルフィユ(ia8476)。知人に貰ったという水着は、ピンク色のビキニ。布が少ないせいか、豊満な胸を完全に隠しきれていない。
「でも…エメラルドさんの私服って、露出高いですよね? 水着と変わらないかと!」
 からかうように笑う斑鳩(ia1002)だが、彼女も他人の事は言えなかったりする。布の量はエメラルドより若干多いが、真っ赤なビキニは艶やかな色香を演出。スタイルの良さも、甲乙付け難い。
 斑鳩のツッコミに、エメラルドは一瞬言葉に詰まった。
「むぅ…いや、それはだな…み、水着と普段着は別枠なのだ!」
 理屈は分からないが、エメラルドが恥ずかしがり屋なのは充分に伝わってくる。顔を真っ赤にして照れる姿を見ながら、斑鳩はクスクスと笑った。
『斑鳩さん。不審人物は居ませんが…あの猫さん、ちょっと怪しい動きをしてませんか?』
 歓談する斑鳩に、相棒のからくり、わらびが声を掛ける。彼女が指差す先に居たのは、1匹の猫又。コンテストに参加する女性に向かって、『にゃ〜ん♪』と愛想を振り撒いている。
「あれは…確か、荒屋敷さんの猫又さんですよ。何か、怪しい事をしてるんですか?」
 小首を傾げながら、様子を眺める斑鳩。猫又の博嗣は、女性の腕に抱かれたり、膝に座って甘えている。人間と違ってナンパ出来ない分、水着美女とのスキンシップを楽しんでいるのだろう。
 わらびの言う通り怪しい動きをしているが、女性陣に嫌がる素振りは微塵もない。むしろ、楽しそうにしている。エメラルド達は顔を見合わせて小さく笑うと、会場を見回るために更衣室を後にした。


 ほぼ同時刻。博嗣の主も、朋友と似たような行動をとっていた。
「コンテストより、君の事が知りたいな。今の俺は…君にコイしてる!」
 歯の浮くようなセリフを言いながら、荒屋敷は美女に笑顔を向ける。自身が着ている水着の柄の鯉と、恋をかけているのだろう。それに気付いた女性は、楽しそうに微笑んだ。
 本来なら、会場でのナンパ行為は禁止されている。が、強引な事をせず、楽しくお話するだけなら何の問題もない。事実、砂浜の色んな場所で歓談に華が咲いていた。
「…なにさ、ベタベタイチャイチャしちゃって。そんなんだから、ヘンなのにからまれるんだよっ、べー!」
 周囲のカップルに視線を向けながら、嫉妬の炎を燃やすエルレーン。小さく舌を出してイジケる姿は可愛らしく、男性に縁が無いのが不思議なくらいである。
「いや! 止めて! 離して!」
 突如、砂浜に女性の叫びが響いた。それを聞き、エルレーンは声の方向に駆け出す。根は真面目なため、警備をサボる気は微塵も無いようだ。
 数秒後、人気の少ない岩陰周辺で、嫌がる女性と、強引に手を引く男性2人の姿が見えてきた。
「待て待てまてぇぇぇぇい!」
 エルレーンが声を掛けるよりも早く、岩の上から響いてくる声。全員の視線が集まる中、巨大な人影が岩から飛び降り、男性達の前に立ちはだかった。
「『ないす・ばでぃ』な別嬪さんを無理矢理連れて行くなんざ、ふてぇ野郎だな! お天道様が許しても…この俺は許さねぇぞ!」
 威勢良く叫び、ビシッと指を差す喪越。治安維持のため、悪漢の元に駆け付けたのは素晴らしいが…何かが微妙にズレているような気がしてならない。
 喪越の登場に、怯えた表情を浮べる悪漢達。女性を突き飛ばし、一目散に逃げ出した。
「けんかとか、悪いことする人は、『めっ!』なのっ! 大人しくしないと…私も暴れちゃうんだからっ!」
 その進路を塞ぐように、エルレーンが回り込む。ここで2人を逃がしたら、同様の事件が起きる可能性が高い。平和のため、悪漢達を捕まえた方が良いが…彼女の場合、八つ当たりが含まれている気がする。
 前後を挟まれても、悪漢達に諦める様子は無い。覚悟を決めたのか、喪越とエルレーンに飛び掛かった。
 が、一般人が開拓者に敵う道理は無い。手加減しつつも、勝負は一瞬で着いた。ボコボコになった悪漢達を眺めながら、ベーっと舌を出すエルレーン。喪越は襲われた女性を立たせ、熱心に声を掛けている。
 2人の行動を眺めながら、もふもふと癒羅は大きな溜息を吐いた。
『お互い…主には苦労するわね。同情するわ…』
『吾輩も、同じ事を考えていたもふ。辛くても、負けたら駄目もふよ?』
 励まし合いながら、苦笑いを浮かべる朋友達。再び大きな溜息を吐き、主の元に急いだ。


 ナンパが禁止されているとは言え、それを無視する輩は多い。喪越達とは別の場所で、3人組の男性が強引に女性を口説いていた。
「そこの殿方。今日はナンパ禁止ですわよ? 折角のお祭りなのですから、大人しく楽しみましょう?」
 穏やかな口調で、クローディアが注意を促す。突然現れた褐色肌の水着美女に、男性達は下卑た笑みを浮かべて彼女を取り囲んだ。
「へぇ…なら、アンタが代わりに遊んでくれよ」
 ニヤニヤしながら、理不尽な交換条件を突き付ける。クローディアが言葉を返すより早く、白隼が間に割って入った。
「ごめんなさい。私達、仕事中なのよ。また機会があれば誘ってね?」
 やんわりと断り、クローディアの手を引いて歩き出す。が、そんな正論で男性達が納得するワケが無い。彼女達の歩調に合わせ、3人も後を追うように歩きだした。
「少しくらいイイじゃねぇか。固いコト言うなよ」
「そうそう。俺達と、夏の海を楽しもうぜ?」
 周囲の目を気にする事なく、堂々と声を掛ける男性達。笑いながら手を伸ばし、クローディアと白隼の肩を掴んだ。
 次の瞬間、2人は手を振り払うように素早く回転。間髪入れず、鋭い蹴りを放った。2人の美脚が、空気を斬り裂くように迫る。
 無論、それを当てる気は最初から無い。寸前で脚が止まり、風圧で男性の髪が大きく揺れた。
「これ以上オイタをするなら…私も白隼様も手加減しませんよ?」
 言いながら、ニッコリと笑みを浮かべるクローディア。時として、女性の笑顔は怒った顔よりも恐ろしい。放心したように、男性2人が崩れ落ちた。
 残った1人は、舌打ちしながら駆け出す。仲間を置いて、自分だけ逃げるつもりなのだろう。
 が、その方向が悪かった。
 彼が向かったのは、コンテストの特設会場方面。そこには、クローディアの相棒、駿龍のフロマージュが鎮座している。番犬よろしく、周囲を警備しているのだろう。
 一連の流れを見ていたフロマージュは、駆けてくる男性を睨みながら咆哮を上げる。駿龍と馴染のない一般人が、その圧倒的迫力に耐えられるワケが無い。ビクンと身を震わせた直後、男性は砂浜に崩れ落ちた。同時に、周囲から歓声が上がる。
「公衆の面前で気絶するなんて、情けない…ヴェーナ、力を貸して!」
 溜息混じりに言葉を漏らし、白隼は胸の谷間から笛を取り出して吹き鳴らす。その音色に反応し、上空を旋回していた相棒の駿龍、ヴェーナが降下してきた。
 青い空に広がる艶やかな黒翼に、陽光を浴びて輝く純白の鎧。翼と肌の色は、白隼と真逆になっている。
 ヴェーナが着地すると、白隼は鞍から縄を外した。クローディアと協力して気絶している3人を拘束し、縄の端を相棒に結ぶ。作業が終わると、ヴェーナは男性達を引きずりながら、大会本部に向かって歩き始めた。


 太陽が最も高く昇る頃、目玉企画の水着コンテストが始まった。多少の騒ぎはあったものの、無事に開催された喜びが周囲に広がり、期待が盛り上がっていく。
 出場者がステージに現れると、熱気は更に高まった。イケメンや美少女、熟女や筋骨隆々の男性、女装男子やオネェまで、千差万別である。
 拍手と歓声、時々悲鳴が入り混じる中、脚を止めてコンテストを眺める露羽。その表情は、ほんの少しだけ憧れを含んでいるように見える。それに気付いたのか、忍犬の黒霧丸が彼の脚に擦り寄ってきた。
「ふふ、少し興味はあったんですけどね。私達は、警備の方に専念しましょうか」
 相棒の頭を撫でながら、優しく語り掛ける露羽。彼がゆっくりと歩き出すと、黒霧丸は嬉しそうに尾を振りながら追い駆けてきた。
 立ち去る2人の背後で、歓声が上がる。例年以上に、今年のコンテストは盛り上がっていた。参加した一般人に美男美女が多い事も理由の1つだが、開拓者の参加も大きな要因だろう。ちなみに、絵梨乃は審査員として席に座り、水着女子をジックリと堪能中である。
 歓声と手拍子が降り注ぐ中、姿を現したのはエメラルド。剣を携え、相棒の霊騎、ナイアスに跨っている。まるで『ユニコーンと女騎士』のような凛々しさと美しさに、感嘆の声が漏れる。ナイアスが歩く度に揺れる胸には、野太い歓声が飛んでいるが。
 彼女と入れ替わるように、斑鳩がステージに上がった。神楽のような優雅な動きで舞い踊ると、アンクレットの鈴が涼やかな音を響かせ、羽衣のように羽織った長いマフラーが翻る。その姿は、まるで海に舞い降りた天女のように神秘的で美しい。
 参加者のレベルが高過ぎるせいか、コンテスト中は事件が起きる気配が全く無い。見学に来た一般人も、屋台の店員も、カップルやナンパ目当ての者も、誰もが特設ステージに注目していた。
 そして…トリを飾る最後の参加者は、アーシャ・エルダー(ib0054)。彼女が登場した瞬間、笑いと動揺が瞬く間に広がった。
 ステージの中央に立っているのは、屈強で巨大なアーマー…ゴリアテ。特注の真っ白な褌には、筆で大きく『漢』と書いてある。駆鎧で参加するとは、誰も想像しなかっただろう。
 そのまま、ゴリアテは力強さを誇示するようにポーズを決めていく。一風変わった趣向に戸惑っていた一般人達だったが、いつしか笑い声で溢れていた。
 一通りのポーズを終えると、ゴリアテは片膝を付く。直後、駆鎧の装甲が開いてアーシャが姿を現した。青い長髪をなびかせながら、颯爽と飛び降りる。良い意味で予想を裏切られ、観客達は沸きあがった。
 が、彼女の仕掛けはまだ終わっていない。マントを翻しながら鎧を脱ぐと、スポーツビキニ姿に早変わり。二段構えの仕掛けに、一際大きな歓声が響き渡った。
「アーシャも斑鳩もノリノリだな…まぁ、コンテストが盛り上がるのは良い事だが」
 控室から様子を覗いていたエメラルドが、独り呟く。2人に負けず劣らず、エメラルドも相当ノリノリに見えたが…今は気にしないでおこう。
 アーシャの出番が終わり、出場した参加者全員がステージ上に集まる。これから審査員の得点を集計し、今年の優勝者が決まるのだ。
 このタイミングを狙い、観客席から一般人数名が飛び出した。勢揃いした美男美女を見て理性が崩壊したのか、正気を失って瞳が混濁している。彼等の狙いは分からないが、参加者が危険に晒されているのは充分過ぎる程に伝わってくる。
 舌打ちしつつ、絵梨乃は指を鳴らしながら審査員席から飛び出した。同時に激しい風が上空から吹き込み、不審者達の脚を止める。強風の中、絵梨乃の相棒、上級迅鷹の花月が急降下し、彼女と同化。光の翼と化し、絵梨乃の体が天に舞った。
 彼女の動きに合わせ、荒屋敷、クローディア、白隼の3人も飛び込んで不審者達を取り押さえる。喪越とエルレーンも加わったが、2人は問答無用で犯人を殴り、意識を刈り取った。当然、手加減は忘れていない。
 斑鳩とわらび、エメラルド、ナイアスは、参加者を守るように立ち塞がって万が一に備える。ほんの数秒で、不審者達は全員地に伏した。大迫力の大捕物に、一般人達は大興奮。称賛の言葉と共に、拍手が降り注いだ。
「ボクの至福の時間を潰すとは…覚悟はできてるんだろうな?」
 全身から怒りのオーラを放ちながら、絵梨乃はゆっくりと不審者に歩み寄る。押さえ付けられても暴れる男性を無造作に掴み、波打ち際に移動。砂浜に強烈な蹴撃を放って大きな穴を穿つと、男性の首だけ出して体を埋めた。
『念のために、コンテストに参加して正解でした。このまま逮捕します!』
「みなさん、そのまま押さえてて下さい! 今、縛り上げます!」
 わらびと斑鳩は荒縄を取り出し、不審者を次々に縛り上げていく。が、諦めの悪い者は、どこにでも居るワケで。両腕をグルグルに縛られながらも、熟女と若造のカップルが隙を突いて逃げ出した。
 反射的に、エメラルドは精霊の力を借りて剣に雷電を纏わせる。それを素早く連続で振ると、雷が刃となって放たれた。電光が空を奔り、逃げたカップルに命中。崩れ落ちる体を、露羽が優しく受け止めた。
「今のは『神様からのお仕置き』ですよ。そうですよね、エメラルドさん?」
 アーシャは不敵な笑みを浮かべながら、エメラルドに声を掛ける。若干戸惑いながらもエメラルドが頷くと、観客席から再び歓声が上がった。最後の締めが一般人の暴走では、少々後味が悪い。今年の水着コンテストは、『神様からのお仕置き』で幕を閉じた。


「えへっ、屋台警備立候補したのは正解でした。役得ですね〜」
 満足そうに微笑みながら、屋台の蕎麦を頬張るアーシャ。彼女の隣には、空の丼が山積みになっていた。細い体のドコにこれだけの量が入るのか、不思議になってくる。
「食べ過ぎて『ココ』に影響が出ても知らないぞ?」
 絵梨乃は意地悪な笑みを浮かべながら、アーシャの腹部をプニプニと突っつく。その瞬間、アーシャの動きがピタッと止まった。
 体型や体重に関わる事は、女性にとって死活問題と言っても過言ではない。アーシャは手にした丼を一旦置き、迷いながらも再び持ち上げる。置いたり持ち上げたりを何度も繰り返した末、彼女は箸を握り直して丼の中身を平らげた。
 隣の屋台では、トウモロコシを販売している。焦げた醤油の匂いは、暴力的な程に香ばしい。この匂いを嗅いだら、食欲を我慢出来る者は居ないだろう。
 事実、空腹に耐えられず、トウモロコシを盗んで逃げる男性が2人出現。店主の制止を振り切り、別々の方向に逃げていく。
 運が良いのか悪いのか、トウモロコシを食べていた荒屋敷が、博嗣に視線で合図を送った。それに気付いた博嗣は、盗人を鋭く睨む。瞳が淡い輝きを放つと、男性の周囲に鋭い風が出現して足を止めた。
 そこまでは良かったのだが…風の刃が渦を巻き、水着を斬り裂く。布が落ちそうになるのを両手で押さえると、隙だらけになった男性を一般人が取り押さえた。
「おいー! 更に治安を乱すなー!」
 博嗣に向かって、荒屋敷が怒りの声を向ける。盗人を捕まえられたのは良いが、一歩間違えば『大惨事』になっていた。治安と風紀が乱れるのは、好ましい事ではない。
 もう1人の盗人は、露羽が追い駆けていた。黒霧丸と連携し、前後から挟み撃ちにする。左右に逃げようとしても、露羽と黒霧丸の素早さには敵わないだろう。
「ダメですよ? ちゃんと代金は払いましょうね」
 優しく微笑みながら、穏やかに話し掛ける露羽。出来るだけ穏便に済ませたいのだが、相手に反省の色が全く見えない。彼は物腰が柔らかく大人しいため、盗人にナメられているのかもしれない。
 露羽が溜息を吐いて実力行使に移ろうとした瞬間、横から拳を鳴らすゴキゴキという音が聞こえてきた。
「嫌だと言うのなら…ジルベリアの誇り高き帝国騎士、アーシャ・エルダーがお相手しましょう」
 コンテストの時とは違い、ドスの利いた声に真剣な表情。それを見た盗人の顔色が一瞬で蒼ざめ、降伏するように両手を上げた。
 馬鹿をやった一般人が大勢捕まったが、人的被害も物的被害もゼロに等しい。数件の苦情は届いたものの、開拓者達のお陰でコンテストは成功。今年の被害報告書は、ほんの数行で済むだろう。