不名誉な霊祀
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/24 21:21



■オープニング本文

 天儀には、祖先の霊を祀り、崇拝する風習が多い。死者の供養や法要だけでなく、日常生活や行事として根付いている事さえある。
 8月のお盆は、その代表的な例だろう。地域によって日付や内容に若干の誤差があるが、大雑把に言えば『祖先の霊が帰って来る日』である。
 無論、霊が本当に存在するか分からないし、帰ってきているのか確かめる方法は無い。
 だが…もしも故人が姿を現したら、人々は喜ぶだろうか?
「お…お父さ、きゃっ!」
 状況にもよるが、答えは『否』である。若い女性の、短い悲鳴。その視線の先にあるのは…動き回る人体の骨。頭部に瘴気が集まって具現化し、人の顔を形作っている。
「し…師匠! そのお姿は、一体!?」
 その数は、1体や2体ではない。村の墓地から、次々に骸骨が這い出ている。全身に瘴気を纏い、生前の顔を無理矢理復元されて。
 混乱する人々を尻目に、骸骨達の手に瘴気の刃が具現化していく。何の躊躇いもなく、無機質な表情を変える事なく、それを振り回す骸骨達。鮮血が飛び散り、悲鳴が入り乱れ、村は一瞬で混乱の渦に飲み込まれた。
 傷付いて逃げ惑う住人達を、物陰から眺める者が1人。黒衣から覗く手や顔は、屍のような土気色をしていた。


■参加者一覧
月・芙舞(ib6885
32歳・女・巫
堂本 重左(ib9824
28歳・男・サ
鬼嗚姫(ib9920
18歳・女・サ
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
結咲(ic0181
12歳・女・武
加賀 硯(ic0205
29歳・女・陰
樋口 舞奈(ic0246
16歳・女・泰
紅 竜姫(ic0261
27歳・女・泰
朝倉 涼(ic0288
17歳・男・吟
神無院 槐(ic1054
23歳・男・武


■リプレイ本文


 街道を、野道を、一気に掛け抜けていく開拓者達。彼等の向かう先にあるのは、小さな村。普段なら見向きされる事も無いが、今は違う。
「死者を冒涜するにも、程があるわね。これ以上…死者を辱める事も、子孫達を傷付ける事も、させちゃいけないわ」
 走りながら、怒りの言葉を口にする月・芙舞(ib6885)。端正な顔には怒りの色が浮かんでいるが…同じくらい、深い悲しみを抱いている。
「人に興味は無い…が、死した者は皆平等だ。『死者への愚弄が許せん』という点には、同意する…」
 表情を変える事なく、神無院 槐(ic1054)は淡々と言葉を口にする。アヤカシに対する怒りは同じらしく、緋色の瞳に強い意志が宿っている。
 疾走する事、十数分。ようやく、前方に村が見え始めた。遠目でもハッキリと分かる、尋常ではない雰囲気。目の前の凄惨な光景に、開拓者達の脚が村の入り口で止まった。
 瘴気の刃を手に、自意識もなく暴れ回る骸骨達。墓地の遺骨が全て操られているのだろう、その数は相当多い。しかも…瘴気で操られているだけでなく、頭部だけが生前の姿をしている。
「いくらお盆だからって…こんなのはないよ! こんな悪質なアヤカシは、舞奈達がやっつけないと!」
 樋口 舞奈(ic0246)の叫びが、周囲に広がっていく。こんな光景を目の当たりにしたら、叫ぶのを我慢出来るワケがない。彼女の小さな手が強く握られ、小刻みに震えている。
「この時期に、このような手段を取るアヤカシが出るなんて…遺族の痛みを思えば到底許せませんね…!」
 悲痛な表情を浮べながらも、加賀 硯(ic0205)の口調は力強い。アヤカシの愚行で胸を痛めるのと同時に、『絶対に殲滅する』という覚悟が固まったようだ。
 誰もが気勢を上げる中、興味なさそうに溜息を吐く者が1人。
(盆なんて、下らないなぁ…『あいつ』が俺を殺しに来ないんだから、死者が蘇るなんて、有り得ない…)
 言葉には出さず、朝倉 涼(ic0288)は空を見上げた。自身のせいで命を落とした親友と、それが原因で心を病ませた双子の姉を想いながら。
 開拓者達の存在に気付いたのか、数体の骸骨が刃を振りかざして駆け寄って来る。迎え撃つように、ジェラルド・李(ic0119)は地面を蹴って突進。一気に間合いを詰めて斬撃を放ち、敵を斬り伏せた。
 倒れた骸骨達から瘴気が抜け、元の遺骨に戻っていく。ジェラルドは『柄の違う風呂敷』を取り出し、骨に被せた。これを目印に遺骨を区別し、顔を思い出すキッカケにするのだろう。
「時間が惜しい…とっとと骸骨を土に還して、事件を終わらせるぞ。お前達、準備は良いな?」
 彼の言葉に、全員が静かに頷いた。事前の打ち合わせで、3つの班に分かれて行動する事は決まっている。
 全員が分かれる直前、紅 竜姫(ic0261)はジェラルドに声を掛けた。
「あ、ジェリー。無理して怪我しないでね?」
「だから…ジェリーと呼ぶなっ!」
 クスクスと笑う竜姫とは対照的に、怒りを露にするジェラルド。彼は本気で嫌がっているが、竜姫に名前を訂正する気は微塵も無いようだ。もしかしたら、子犬のようにジャレて楽しんでいるのかもしれない。
 2人の会話に、開拓者達の顔から微笑みが零れる。良い具合に緊張が解れた処で、9人は3つの班に分かれて駆け出した。


 村の西側に響く、小さな悲鳴。そこで、少年と少女が2体の骸骨に追い詰められていた。無慈悲な刃が、何の躊躇いもなく振り下ろされる。
 ほぼ同時に、10cm程度の鳥が飛んできて骸骨達の視界を一瞬塞いだ。次いで、2つの人影が骸骨との間合いを詰め、鋭い斬撃を放つ。それが敵を両断すると、元の遺骨に戻って崩れ落ちた。
 助かった事が理解出来ないのか、泣き続ける子供達。そんな2人に、開拓者達が歩み寄った。
「ここは、危ない、から、早く、逃げ、て。ボク、が、退路、作る、から」
 子供達に話し掛けながら、結咲(ic0181)は2人の頭を優しく撫でる。更に硯が子供達の背を撫でると、ようやく泣き止んで落ち着いた。
 が、子供達に追い打ちを掛けるように、周囲から骸骨達が集まって来る。
「安らかな眠りから覚めてしまったのね…可哀想…。戻して、あげないと…」
 淡々と語りながら、鬼嗚姫(ib9920)は大鎌を握り直した。そのまま地面を蹴り、敵の中に突撃。まるで雑草でも刈るように、灰色の鎌で骸骨の首を刎ねていく。
「争いは好きではありませんが…お相手致しましょう。遺族の皆様の、心と命を救うために…」
 静かに言い放ち、硯は呪本を開いた。そこから黒い塊の式が生まれ、骸骨に向かって飛んでいく。式が骸骨の瘴気を喰らい尽くし、タダの骨に戻した。
「可哀想に…可哀想ね…静かで暖かな場所で、眠っていたのに…起こされてしまうなんて…」
 同情するような言葉を口にしながらも、鬼嗚姫は恍惚とした表情で微笑みながら鎌を振り回している。手傷を負っても、それを一切気にする様子は無い。
 子供達が激戦に巻き込まれないよう、結咲は2人を連れて骸骨から離れていく。その進路上に、別の骸骨が出現。不意討ち気味に、斬撃を放った。
 咄嗟に、結咲は自身を盾にして子供達を守る。鮮血が舞う中、結咲が兵装を掲げると、幻影の炎を纏った精霊が現れた。それが骸骨を飲み込み、葬送の炎が瘴気を焼き尽くす。
 出血した結咲を、子供達が心配そうに見詰める。その視線に気付き、結咲は少しだけ微笑んでみせた。
「気に、しない、で…コレが、ボクの、仕事、だから。みんな、護る、よ」
 そう言って、再び頭を撫でる。彼女の言葉に、子供達は大きく頷いた。
 鬼嗚姫の大鎌が空を切り、敵の両脚を砕く。体勢を崩して倒れながらも、骸骨は立ち上がるために状態を起こした。
「起きてきては、駄目よ…? 此処は、暗くて…寒くて…とても、苦しい場所…」
 静かに言葉を呟き、鬼嗚姫は兵装の刃を骸骨の頭部に突き刺す。瘴気が立ち昇る中、骸骨は静かな眠りについた。
 敵の全滅を確認し、硯は鬼嗚姫と結咲に癒しの式を飛ばす。それが2人の負傷を癒す中、硯は子供達に駆け寄った。
「大丈夫でしたか? 村の入り口側なら、ここよりは安全です。もう暫く、避難していて下さい」
 微笑みながら、優しく声を掛ける。彼女の指示に従い、子供達は村の入り口に向かって駆け出した。それを見送り、3人は捜索を再開するために走り出す。


 大地を踏みしめ、鋭い拳撃を放つ竜姫。それが骸骨の腕と胸骨を砕き、瘴気を吹き出しながら全身が崩れ落ちた。
 違う骸骨が2体、槐に向かって刃を振り下ろす。槐は巧みに薙刀を操り、2つの斬撃を同時に受け止めた。
「暫し、そこに伏して居ろ。早々に元凶を潰し、再度供養してやろう…」
 素早く攻撃を弾いて手首を返し、穂先の刃で敵の膝を砕く。脚を潰されたら移動は出来ない。遺骨の破損を最小限に抑えるため、槐は敵に止めを刺さず、武器を破壊した。
「賛成。さっさとブッ飛ばして、こんな悪夢終わらせましょ?」
 言いながら、竜姫は正面の敵をブッ飛ばす。骸骨が崩れ落ちる中、離れた位置から敵が駆け寄って来る。竜姫は素早く泰拳の型を構え、虚空を殴った。衝撃が空中を伝播し、骸骨に直撃。それが内側から敵を破壊し、瘴気を撒き散らしながら遺骨に還った。
「此の喜劇を生み出した、元凶…会ってみたい…」
 仲間達が激戦を繰り広げる最中、涼は薄っすらと笑みを浮かべて独り呟く。彼の目的は、今回の事件の元凶を探し出す事。そのために、意識を耳に集中して感覚を研ぎ澄ませた。
 槐が6体目の敵を行動不能にするのと同時に、涼の耳が異音を捉える。その正体を確かめるため、彼は音の方向に歩き始めた。
「あっ、ちょっと朝倉! フラフラ行ったら危な…何か、見つけたのかしら?」
 涼に声を掛けようとした竜姫だったが、一般人やアヤカシを発見したなら、止める理由が無い。彼を護衛するため、竜姫は足早に駆け出した。それを追うように、槐も駆け出す。
 数分もしないうちに、3人の正面から逃げ遅れた住民達が駆け寄って来た。正確には『逃げている』と言った方が正しい。住民達の後ろには、10体近い骸骨が群れを成しているのだから。
「煩い…邪魔すんな」
 アヤカシの捜索を邪魔され、涼は怒りを込めて言葉を吐き捨てる。脚を止めて華麗なステップを踏むと、アンクレットの鈴の華やかな音が響いた。更に、自身の消え入りそうな声を重ね、重低音を生み出す。それを敵の集団に叩き付けると、衝撃が全身を駆け抜けた。
 骸骨の動きが止まった隙に、住民達が走る速度を上げる。それを見て、槐は軽く鼻で笑った。
「人間を護るなど気が進まんが…これも、此度の仕事だからな」
 愚痴のような言葉を漏らし、地面を蹴る。ほぼ同時に、竜姫も敵に向かって突撃。2人が骸骨を蹴散らすと、涼はアヤカシの物音を追うように歩き始めた。


 どんなに村が騒がしくなっても、光が差せば影が出来る。村の北側にある、一軒の家屋。その影に向かって、芙舞は苦無を投げ放った。
 投擲物を払い落とすように、黒い影が蠢く。正確には、影と同じ色をした人型のアヤカシ。周囲の風景と同化して身を隠し、高みの見物を気取っていたのだろう。
「見付けたわ。あんたが…この騒ぎを起こした元凶ね?」
 ようやく姿を現したアヤカシに向かって、芙舞が叫ぶ。骸骨達を操っている以上、瘴気の流れは必ず生まれる。それを探知し、彼女は仲間をこの場に誘導したのだ。
「覚悟は良い? 容赦なく、全力でブン殴るよっ!」
 言いながら、舞奈はアヤカシに向かって『ビシッ』と指を差す。ジェラルドが巨大な刀を抜き放つと、2人はタイミングを合わせてアヤカシに突撃した。
 アヤカシは迎撃するように、素早く瘴気の刃を生み出す。それを両手に持ち、双刃を振り回した。
 が、その動きは単調で素人同然。舞奈は刃を紙一重で回避し、拳撃を叩き込んだ。
 追撃するように、ジェラルドは刃を弾き飛ばして大きく踏み込む。そのまま刀を鋭く振り、敵の胸を斬り裂いた。
 短い攻防で実力の差を感じたのか、アヤカシは開拓者達に背を向ける。瘴気を漏らし、無様な姿を晒しながら、駆け出した。
 村から逃げ出すつもりだろうが、考えが甘過ぎる。舞奈とジェラルドが視線を合わせた瞬間、2人の姿が消えた。
 次の瞬間、気の流れを制御して驚異的に加速した舞奈と、俊敏性を強化したジェラルドが、アヤカシの進路を塞ぐ。
「俺達から逃げられるとでも思ったか? おまえはここで、瘴気に還れ…!」
 言葉を吐き捨て、ジェラルドは刀を最上段に構える。刀身に気を集中させ、全力で振り下ろした。切先がアヤカシを捉え、肩ごと腕を斬り落とす。
「手加減も葬送の歌も、必要ないわね…炎に抱かれながら、罪の重さを噛み締めなさい!」
 叫びながら、芙舞は純白の翼を広げた。精霊の力に干渉し、敵の周囲に清浄な炎を生み出す。それが一瞬でアヤカシを飲み込み、激しく燃え上がった。
「月くんの言う通り! 舞奈達の攻撃は、村人を苦しめた天罰なんだからね!!」
 舞奈は力強く地面を蹴り、天高く舞う。落下しながら精神を研ぎ澄ませ、右手に気力を集中させた。落下の力を上乗せし、全力で拳を振り下ろす。天罰の名に相応しい圧倒的な衝撃が、アヤカシを打ち砕いて炎と瘴気が周囲に飛び散った。


 アヤカシを退治した事で、村中の骸骨は遺骨に戻った。が、これで全てが終わったワケではない。開拓者達は住人を全員呼び戻し、遺骨を一ヶ所に集めた。
 開拓者達の記憶と、骨に残る身体的特徴を元に、遺骨が住民達に返され ていく。9人の記憶力と、被害を最小限に抑えた戦いが功を奏したのか、身元不明の遺骨は1つも無い。
「これで全部、かな? 傷付けちゃった骸骨は多いけど…行方不明が出なくて良かったよ」
 全てを返却し、胸を撫で下ろす舞奈。開拓者と住民全員が協力し、それを再び墓に埋葬。崩れた墓石を建て直し、墓地はようやく綺麗に整った。
「待たせたな。今度こそ、どうか安らかに…御仏の腕で眠れるよう…」
 死者の眠る地を眺めながら、黙祷を捧げる槐。彼だけではない。開拓者の大半は、墓に向かって手を合わせている。
 芙舞は天儀酒の蓋を開け、墓地に振り撒いて周囲を清めた。カラになった酒瓶を地面に置き、鈴のついたブレスレットを両手に持つ。
「この白き羽に、人々の安寧の 祈りを込めて…辱められた祖先の霊に、永遠の安息を…」
 自身の翼を広げ、奉納の舞を踊る。楽と舞は彼女の趣味でもあり、その技量は相当高い。彼女の想いや願いは、きっと死者達に届くだろう。
「怪我、した、人、居る? ボクが…治す、から。遠慮、しない、で」
 ようやく事件が落ち着き、怪我人を探して歩き回る結咲。他人が怪我を負っているのを、見過ごせないのだろう。
 そんな彼女を止めるように、ジェラルドが目の前に立ち塞がった。
「他人の前に、先ずお前が治療を受けろ。倒れられても迷惑だ。おい、硯…!」
 仏頂面のまま、硯に声を掛ける。結咲は傷を負っているが、それを悟られないように隠していた。ジェラルドが僅かな異変に気付いたのは、彼女を常に気に掛け ていたからだろう。
 治療を頼まれた硯は、小さな式を呼び出す。それが結咲の袖や裾に潜り込むと、硯は周囲から見えないようにそっと服をめくった。
「かなり無茶をしましたね、結咲様。私達に怪我を隠して…頑張り過ぎですよ」
 悲痛な表情を浮べながら、硯は更に式を呼び出す。袖と裾の下には、大きな傷が隠されていた。簡単な応急手当はしてあるが、無理をしているのは明らかである。
 治療を受けながら、申し訳無さそうに肩を落とす結咲。その隣では、竜姫が複雑な表情を浮べていた。
「ロンちゃん…? どう、したの? お腹、でも、痛い?」
 心配そうに声を掛けながら、結咲が下から覗き込む。薄っすらと笑い、竜姫は彼女の頭を優しく撫でた。
「もしも…今回みたいなア ヤカシに、皆が無理に起こされて襲ってきたら。私は、戦えるかしら…」
 言いながら、仲間達を見渡す。今回の依頼は、自分達の知らない人間が相手だから迷わず戦えた。だが、もしも知っている者が敵に回ったら…そんな不安が、彼女の胸の中で渦を巻いていた。
(その相手が……兄様なら…姉様なら…きおは、斬らないといけない…何度も、何度でも…)
 竜姫の発言を聞いていた鬼嗚姫は、自身に状況を重ねる。会いたくない人…会ってはいけない人…それが、彼女の兄と姉なのだろう。
 村では死者の弔いが進んでいるが、涼はアヤカシが倒されるのと同時に村を離れていた。近くの森に脚を踏み入れ、静かな泉の傍に腰を下ろす。
(また…死ねなかった。死者を偲ぶ気は無いけど…歌わせ て貰うよ。俺の想いを乗せて、贖罪の歌を…)
 この日初めて、涼はハープに手を伸ばした。泡沫のように消えそうな想いを乗せ、弦を弾く。静かで寂しい贖罪の歌は、広い森の中に溶けていった。