外道、討つべし。
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/12 20:17



■オープニング本文

 世の中には、弱者と強者が存在する。それを決めるのは武力だったり、社会的権力だったり、財力だったり、時と場所と場合よって変化する。
 自然界に於いては、弱者が強者の糧となるのは至極自然な事だが…それが人間社会で起きてはならない。
 だが…。
「へっへっへ…今日もボロ儲けだぜ」
「アヤカシ様様だな。笑いが止まんねぇぜ」
 下品な笑いを浮かべながら、かんざしや根付け、指輪や宝石を眺める男性達。これらの品は、彼が買った物ではない。空き家から、スってきたのだ。
 理穴の異変は、誰もが知っている事だろう。アヤカシの被害を恐れ、避難している者も少なくない。そういった無人の家を狙い、金品や食料を盗んでいるのだ。俗にいう『火事場泥棒』というヤツである。
「このまま戦が続けば、食糧も必要になる。保存出来るモンは、今のうちに買占めとけよ? 後で高く売れるからな」
 典型的な悪党のような、歪んだ笑み。理穴の異変は、近隣諸国に多少なりとも影響を与えている。悪知恵の働く者なら、そういった弱味に付け込むのは常套手段。金儲けのためなら、どんな事でもするだろう。
 とは言え、人の道に背く『外道』達には、裁きが下るのが世の定め。奴等の会話を聞いていた『小さな目撃者』は、ギルドへと駆け出した。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
ティア・ユスティース(ib0353
18歳・女・吟
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
黒羽 修羅(ib6561
18歳・男・シ
帚木 黒初(ic0064
21歳・男・志
紫ノ眼 恋(ic0281
20歳・女・サ
久郎丸(ic0368
23歳・男・武
文殊四郎 幻朔(ic0455
26歳・女・泰
千 庵(ic0714
22歳・男・武


■リプレイ本文


 鋭い三日月が黒い空を斬り裂く中、ガラの悪い男性2人組と共に、裏路地を歩く女性が1人。彼等の向かう先は、廃棄された倉庫。入口に居る見張り2人と言葉を交わした後、倉庫の奥へと消えていった。
 その数秒後。闇に紛れて、2つの影が疾走。見張り達が声を上げるより早く、組み伏せて意識を刈り取った。
「…見張りが少なくて助かりましたね。数が多かったら、突入前にバレていたかもしれません」
 言いながら、三笠 三四郎(ia0163)は気絶した見張りを縛り上げる。既に建物の周囲は確認済みだが、正面入り口以外に見張りは居ない。
「いやはや、こういう手合いは厄介ですね。文殊四郎さんは大丈夫でしょうか?」
 もう1人の見張りを縛りながら、苦笑いを浮かべる帚木 黒初(ic0064)。拘束した見張りを物陰に転がし、自身の仲間達に手招きで合図を送った。
 彼等は、倉庫内の賊を捕まえるために派遣された開拓者である。9人は音を立てないよう静かに移動し、入口や窓から内部を覗き見た。倉庫という事もあり、中は相当広く収納スペース以外の部屋は殆ど無い。
「女が用心棒、ねぇ…腕は立つみてぇだが」
 賊の1人が、さっきの女性に話し掛けている。彼女は、文殊四郎 幻朔(ic0455)。賊のアジトに、『用心棒』として潜入しようとしている開拓者だ。
「気になるなら、実際に試してみる? もし私が負けたら…私の事、好きにしていいわよ?」
 不敵に笑いながら、挑戦的な視線を向ける幻朔。彼女の言葉に、泥棒達の注目が集中した。緩んだ口元を見れば、彼等が何を考えているのか想像出来るが。
 幻朔の提案で、力試しの腕相撲が始まる。勝負しながら、彼女は横目で内部構造や賊の人数を盗み見た。
(文殊四郎殿は無事に潜入したようだな。なら、次は俺か…)
 黒羽 修羅(ib6561)は大き目の手帳を取り出し、零れる明かりの中で筆を走らせた。筆記に慣れているのか、その速度は言葉を発するのと同じくらい素早い。書き終えた手帳を、そっと仲間達に見せた。
 『先に行かせて貰う。お互い、最善を尽くそう』と、達筆な文字が躍っている。全員が静かに頷くと、修羅は夜の中に消えて行った。建物南側の裏口から潜入し、内部調査をするつもりなのだ。
「弱肉強食こそ節理。然し…弱き者を守る為に牙を使わぬ輩は、相応の罰を受けるべきだ」
 静かに呟きながら、内部の賊達に視線を向ける紫ノ眼 恋(ic0281)。隻眼の青い瞳には、怒りの炎が燃えているように見える。
「この世の全ての悪を正せるとは思ってないですが…外道を見過ごす事は出来ませんね」
 長谷部 円秀(ib4529)は決意を言葉にし、拳を強く握った。そこに在るのは、正義感ではなく自身の信念。我を通すためにも、彼はここに来る事を選んだ。
 開拓者達が見守る中、腕相撲が終わって幻朔は用心棒として迎えられた。その喜びを、歌で表現する。海に出て漁をする、漁師達の舟歌。大漁を喜ぶ30人の漁師に、自身の喜びを重ねて歌い上げる。
「あの男女(おとめ)…やるじゃねぇか。中に居る賊は、30人って事だな」
 ニヤリと不敵に笑い、千 庵(ic0714)はゆっくりと立ち上がった。幻朔の歌は、内部状況を伝えるモノ。隠し通路は無く、賊が30人居る事を示している。
「そろそろ突入時間でしょうか? 全員捕まえて、裁きを受けさせないとです」
 言いながら、相川・勝一(ia0675)は虎の面を装着。突入準備を整え、兵装を握り直した。
「反省を促す意味でも、ある程度お仕置きを受けて貰うとして…極力、怪我をさせずに無力化を図りたいですよね」
 ティア・ユスティース(ib0353)の、細くて白い指が竪琴の弦を弾く。小さな音が零れる中、開拓者達は北側の入り口と南側の裏口、2手に別れた。
(盗人は…許されん。許されん、が……いや、今は…捕らえるが、先…か)
 南側に移動した久郎丸(ic0368)の表情に、迷いの色が浮かんでいる。今回の事件、色々と思う処があるのだろう。迷いを振り払うように頭を軽く振り、久郎丸は周囲に注意を向けた。
 開拓者達の緊張が、一気に高まる。互いに顔を見合わせて頷くと、北側の扉がブチ破られた。


「全員、神妙に縛につくがいい! 抵抗したい者はしても構わんが…少し痛い目を見るぞ?」
 轟音と共に扉の破片が舞う中、声高らかに叫ぶ勝一。あまりにも突然の事に、賊達は驚愕して硬直している。
「世の中には、強者と弱者が居る。あなた達は…弱者だ…!」
 布で覆面をした三四郎は、嫌悪感を込めて言葉を吐き捨てた。木刀を肩に担ぎ、圧倒的な威圧感を放っている。
「てめぇら…産み落として育んで下さった人達に、感謝の念すら表せられねぇのかよ! つけ上がってんじゃねぇぞ賊共!」
 怒りに震える声で叫び、納刀したままで剣を突き付ける庵。必死に抑えていた殺気と怒りが、一気に爆発したのだろう。
「敵か!? 用心棒、早速出番だ! やっちまえ!」
 幻朔に向かって、賊の1人が指示を飛ばす。直後、男性の顔が驚愕の表情に変わった。
 素早く賊の腕を掴み、一瞬で組み伏せる。茶色の長髪がフワリと舞う中、空いた手で髪を掻き上げて柔らかく微笑んだ。
「うふふ♪ ごめんなさいね〜。ほら…『綺麗な薔薇には刺がある』って言うし♪ 少しは夢見れたんだから、良いわよね?」
 ウィンクを飛ばし、頸動脈を圧迫して締め落とす。騙された事に気付いた賊達は、怒りの表情を浮べながら幻朔に殺到した。
 ほぼ同時に、庵達が突撃。勝一は盾の殴打で意識を刈り取り、三四郎は木刀で脚を払って転倒させる。そのまま、荒縄で素早く縛り上げた。
 庵は防御を固め、カウンター気味に賊の攻撃を捌く。素早く当身を放ち、相手を気絶させた。
「他から奪い利を得ていたならば、奪われることもまた節理ッ! 喰われる前に、一太刀浴びせるプライドくれぇ見せてくれよなァアッ!」
 裏口の扉が突然開き、狼のような雄叫びと共に恋が強襲。木刀で賊達を薙ぎ倒し、逃げないように縄で捕縛した。勿論、全員手加減は忘れていない。
「あらあら、皆さんノリノリですね。まるで、お芝居の一幕みたいです」
 窓から中の様子を覗き見ながら、ティアはクスクスと笑った。5人の言動は若干芝居がかっているが、賊に対する怒りがストレートに現れているからだろう。
 開拓者と言えども、一瞬の隙は出来る。その隙を狙い、何人かの泥棒達がコッソリと移動。南北の入り口から、一気に屋外に脱出した。
「失礼。私の目が届く範囲内で、逃走などさせません」
 不測の事態に備えていた円秀が、素早く賊の通路を塞ぐ。問答無用で関節技を極め、相手の動きを封じた。
 円秀の死角から逃走しようとした者には、ティアが子守唄で眠りの底に導く。そのまま、2人は荒縄で賊を拘束。捕縛対象を逃がさないよう、周囲に注意を向けた。
 同時刻。南の裏口付近では、雷光のような槍が路面に突き刺さっていた。
「逃げ場…無し。縄に、つけ。償え」
 闇夜の中に浮かび上がる、カラスのような風貌をした巨体。久郎丸の言動と外見に驚いたのか、賊達は硬直している。
「私も久郎丸さんも、出来れば手荒な真似をしたくないのですが…大人しく、お縄についてくれませんか?」
 苦笑いを浮かべながらも、黒初は可能な限り穏便に語り掛けた。話し合いで平和的に解決するなら、彼等は賊や泥棒などしていないだろう。覚悟を決め、2人に飛び掛かった。
 次の瞬間、黒初は刀を高速で抜いて賊の眼前に突き付ける。久郎丸は気合を込め、大声で一喝を浴びせた。
 2人の行動で、賊達の動きが再び硬直。その隙に脚を払い、バランスを崩す。倒れた賊の腕を取って荒縄で縛り、両脚にも縄を掛けた。
 賊の中には、盗んだ金品を失敬しようとしている者すら居る。そんな欲深い男の頭上から、1枚の紙がヒラヒラと舞い降りた。床に落ちた紙面に書かれていたのは、たった一言。
 『天誅』。
 その文字に注意が向いている隙に、修羅は天井裏から静かに降下。背後から当身を放ち、賊を気絶させた。内部調査をしていた彼が戦闘に参加したという事は、構造の確認は完了したのだろう。
 コッソリと、匍匐前進で地面を這う賊が1人。木箱や荷物の物陰を利用し、周囲にバレないように南口から脱出した。そのまま、明かりの少ない方向に進んでいく。
「おっと、そこの貴方……跳ねてみてください。出してください」
 闇に紛れても、気配を探っていた黒初には通じない。襟首を掴まれ、無理矢理立たされた。観念したのか、賊は溜息を吐きながら懐の中身を差し出す。それは、彼等が盗んだ金品。混乱に乗じて、持ち逃げするつもりだったのだろう。
「悪く、思うな…」
 金品を回収し、小声で謝罪する久郎丸。黒初は念のために身体検査を施し、久郎丸は縄で賊の手足を縛って拘束した。
 次々に仲間が捕まっていく中、中央付近に居る恋に向かって、2人の賊が飛び掛かる。彼女は木刀を上段に構え、攻撃を同時に受け止めた。身動きが止まった隙に、恋の後ろを賊が走り抜けて行く。
「くっ、三笠殿ッ! 賊がそっち行ったぞォ!」
 吼えるように叫び、恋は正面の2人を弾き飛ばす。間髪入れず、木刀を鋭く振って胴を強打。泥棒を叩き伏せ、意識を奪った。
 三四郎は恋の声に反応し、背後を振り向く。自身の死角から接近して来る賊に、掌底の一撃を叩き込んだ。それで意識を失ったのか、賊の体から力が抜ける。
「ありがとうございます、紫ノ眼さん。ですが…手加減は忘れないで下さいね?」
 感謝しつつも、念のために注意を促す三四郎。狼のように荒々しく戦っている恋を見て、つい気になったのだろう。恋は笑顔を返し、再び木刀を構えた。
 全身を縛られ、拘束されている賊達。それでも諦めず、芋虫のように這って逃げようとしている者も居る。それに気付いた修羅は、苦無を投げ放った。黒塗りの鋼が賊の頬を掠め、床に突き刺さる。
 次いで、修羅は賊に手帳を見せた。『締め落とされたいか? 逃げる気なら、手加減しないぞ』と書かれた紙。修羅の顔を見れば、それが脅しでない事は容易に分かる。今度こそ、賊は抵抗を諦めた。
 まだ捕縛されていない賊は、ほんの一握り。10人にも満たないが、彼等には諦める様子が微塵も無い。
「ふむ、まだ抵抗する奴が居るか。ならば、選択の自由をやろう。盾で殴られるのと、鞭でシバかれるの…好きな方を選べ」
 小柄で可愛らしい外見とは裏腹に、厳しい選択を迫る勝一。数秒後、答えを聞く事なく、殴打と鞭撃が炸裂した。
 室内の6人は賊を一か所に集め、捕まえた人数を確認。南に居た黒初と久郎丸も合流し、罪人の移送準備を進めていく。
「随分と静かになってきましたね。脱走者も居ませんし…ティアさん、内部の状況確認をお願いしても良いでしょうか?
 円秀の提案に、ティアは静かに頷く。彼が自分で確認に行かないのは、『持ち場を守る』という責任感の表れなのだろう。
 内部を確認したティアは、状況を円秀に通達。2人は捕縛した賊達を連れ、仲間達と合流した。
「皆様、お疲れ様です。お仕置きが終わったのなら、『最後の締め』をしても構いませんか?」
 ティアの言葉に、誰もが静かに頷く。数秒後、彼女は竪琴を構えて子守唄を奏でた。こうして眠らせてしまえば、移送も楽である。勝一と修羅が倉庫の隅にあった台車を運んで来ると、全員で協力して賊達を乗せた。
「そういえば、あんた。さっき、何て言ったのかしら?? 少し『話し合い』ましょ?」
 微笑みながら拳を握り、庵の肩を掴む幻朔。突入前に彼が言った言葉を聞き間違えたのか、『男女』と呼ばれたと思っているようだ。アレが聞こえたとなると、相当な地獄耳だが。
「おぅ、男女(おとめ)! さっきってのは、何の事だ? 俺ぁ知らねぇぞ?」
 そう言って、庵は不敵に笑った。この後、2人が拳を交えて『物理的な話し合い』をしたのは、言うまでもない。


「今回の事件に加担していた外道は、これで全員です。裁きを含め、後の事はお任せします」
 言いながら、円秀は賊達を役人に引き渡す。どうやら、彼は『自分の道』を貫き通す事が出来たようだ。
 修羅は役人の肩を叩き、手帳を見せた。書かれていたのは、『賊が盗んだ食糧や金品は、町外れの倉庫にある。出来るだけ早く、回収に行った方が良いと思うが?』という内容。早速、役人達は回収班を編成して奉行所から出発した。
「恋ちゃん、お疲れ〜。やっぱり強いのね〜♪」
 満面の笑みを浮かべ、幻朔は恋に抱き付く。そのまま素早く手を伸ばし、恋の尻尾を思う存分モフモフしている。
「お、狼は常に強くあるもの…や、尻尾は、あの、あまり強くなくてだな……やめーっ!」
 慕っている幻朔に褒められ、嬉しそうに笑う恋だったが…尻尾は彼女の弱点。残念な程に力が抜け、幻朔の腕に体を預けた。
 タイミングが良いのか悪いのか、牢に入れられた賊達が目を覚ます。状況を理解したのか、逆恨みの言葉を叫びだした。
「裁きを真摯に受け止め、更生して下さい。この機会を逃がし、あくどい行為を続けるなら…『次』は手加減しませんよ?」
 ティアは賊達に向かって、優しく微笑み掛ける。彼女の言葉がハッタリや強がりじゃない事は、身を持って体験済みだろう。
「欲があるのも人間ですから、無理からぬ事ではありますが…牢屋で反省してくれば、マシにもなるでしょう…多分」
 賊の行動を一部は理解しつつも、黒初は苦笑いを浮かべている。犯した罪の重さを考えれば、当然ではあるが。
「まぁ…金儲けは構いませんが、方法は考慮するべきです。本当の商人の方が、もっと合法的でエゲツナイ事もありますけど、ね…」
 溜息混じりに、言葉を漏らす三四郎。あまり語りたくないのか、口元を手で押さえて視線を外した。
「あなた達、こんな外道な行いはもう辞めるべきです。しっかりとお勤めを果たしたら、真面目に仕事をですね…」
 賊達が目覚めた事を知り、勝一は説教の言葉を次々に口にする。状況的に、かなり長くなりそうである。
 牢の前をウロウロしていた庵だったが、賊の中に怪我をしている者を発見。印を結んで精霊力を活性化し、その負傷を癒した。
「お前らだって、生きてるだろ? 生きる為に悪行を重ねたなら、汗水流して働きやがれ。それが…『正しい生き方』ってヤツだ!」
 武僧らしい、説法のような一言。庵の言葉が、賊達の心に響くと良いのだが…。
「す、少し…良いか? 叶うなら…極刑は、避け…盗人達に、役に服し、償う機会を…与えて欲しい。頼、む…!」
 そう言って、久郎丸は役人に深々と頭を下げた。戦が、人の心を貧しくする事もある。理穴の異変が今回の事件の引金になった…久郎丸は、そう考えているのだろう。
 若干甘い考えかもしれないが、天儀には『罪を憎んで人を憎まず』という言葉がある。それを実行出来る久郎丸は、懐の深い男なのだろう。