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■オープニング本文 「儂とした事が……何たる不覚っ!」 自身を責める言葉を口にしながら、安州の街を足早に歩く老紳士が1人。無骨で筋肉質な肉体は、とても50代後半とは思えない。紺色の裃が、今にも弾けて破けそうだ。 彼の名は、平雅源庵(ひらが げんあん)。理穴国家に籍を置き、兵器や防具の開発に従事している。厳つい風貌からは、全く想像出来ない役職だが。 理穴所属の彼が朱藩に居るのは、兵器開発のためである。今、源庵が手掛けているのは、破壊力を重視した新型の宝珠砲。威力が高い分、命中精度は従来品よりも低い。双方のバランスを調整し、火薬と鉄の加工技術を学ぶために安州まで来たのだが…それが仇となってしまった。 宝珠砲を完成させるため、職人達と共に工房に閉じこもった源庵。その間に、理穴で異変が発生したのだ。立場上、源庵は不測の事態が起きたら、その収拾に努める必要がある。だが、工房に閉じこもっていたため、外部からの情報は入らない。結果として、彼は行動を起こすのが遅れてしまったのだ。 唯一の救いは、宝珠砲が完成した事だろう。今は、一刻も早くコレを理穴に届けなければならない。 「すまんが、儂に力を貸してくれ! 頼む!」 安州のギルドに入るなり、源庵は深々と頭を下げた。突然の事に、混乱する職員達。それでも源庵を別室に移動させ、詳しく話を聞いた。 「つまり…宝珠砲を輸送するために、開拓者に護衛を頼みたい…という事ですね?」 克騎の言葉に、源庵は静かに頷く。飛空船は所持しているが、理穴は混乱の渦中。単身で乗り込むのは、危険極まりない。開拓者と朋友の協力があれば、安全性が高まるだろう。 「分かりました。平雅様のご依頼でしたら、当方でも協力を惜しみません」 「何じゃ、その話し方は。お主らしくもない」 源庵の言葉に、克騎は不安そうな表情を浮べた。言葉使いを間違った記憶は無い。無意識のうちに失言をしたのかと、必死で記憶を遡る。 「いつも通り、他の者を呼ぶように『まいぶらざ〜』で構わんぞ?」 そう言って、にこやかな笑みを浮かべる。克騎の緊張を解すため、源庵なりに気を遣ったのだろう。その表情に釣られるように、克騎も軽く笑った。 「了解です、マイブラザー・源庵。貴方が理穴に戻れるよう、お手伝いをさせて頂きます」 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
久郎丸(ic0368)
23歳・男・武
リズレット(ic0804)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●夜空の見回り隊 淡い満月が夜空を照らす中、闇夜を斬り裂くように宙を走る飛空船が一隻。向かう先は、理穴。異変が起きている地に向かうとは、ある意味酔狂な事である。 「今度は、私達が見張りをする番だな。皆、よろしく頼む」 甲板に出た仲間達に向かって、深々と頭を下げるからす(ia6525)。その懐に入れた小さな水容器から、相棒のミヅチ、魂流が顔を覗かせていた。 彼女達開拓者は、船の護衛任務を受けて同乗している。参加した者は、全部で10人。それを5人ずつの班に分け、交代で見回りにあたっていた。 「よろしくな! いざって時は俺が護ってやるから、心配いらねぇぜ!」 満面の笑みを浮かべながら、鷲尾天斗(ia0371)が言葉を返す。年下好きの彼としては、からすのような可愛らしい少女と一緒に行動出来るのが嬉しいのだろう。 「…ふむ、周囲の警戒を『軽快』にこなそう…ってねぇ」 周囲を見渡しながら、駄洒落を口にする九竜・鋼介(ia2192)。言葉とは裏腹に、彼の表情は真剣そのもの。ふざけている様子は微塵も無い。 『相も変わらず、人間という種族は興味深いものだな。のう、ウルグ?』 鋼介を眺めながら、くつくつと笑っているのは、管狐の導。特殊な状態で召喚されているため、体長は手の平サイズになっているが、口は達者である。 「…俺に同意を求めないでくれ。それと、今は見張りに集中しろ」 ウルグ・シュバルツ(ib5700)は溜息混じりに、相棒に言葉を返した。仏頂面で口調は少々厳しいが、不機嫌というワケではない。鋼介と同じで、依頼に対してマジメなのだろう。 「礼聞…長旅に、なるが…そ、空に出れば、お前が、頼りだ。たのむ、ぞ」 相棒の駿龍、礼聞号に語り掛けながら、久郎丸(ic0368)はその背を優しく撫でる。口下手なのか言葉に詰まっているが、その想いに偽りは無い。 主人の言葉に、礼聞は低く鳴いて頭を下げる。そのまま久郎丸が背に飛び乗ると、礼聞は大きく翼を広げた。 鋼介も、相棒の甲龍、鋼の背に飛び乗る。天斗はからすの頭を優しく撫でてから、轟龍の火之迦具土に騎乗した。その表情は数秒前までとは違い、獲物を狩る獣のように鋭い。 久郎丸、鋼介、天斗は甲板から飛び立つと、3方向に別れて飛空船と併走。周囲を警戒しながら、アヤカシの襲撃に備えた。からすとウルグは、甲板上の警護担当である。 緊迫した空気が流れる中、見回りを続ける開拓者達。ふと、からすが懐中時計「ド・マリニー」に視線を落とした瞬間、針が大きく振れた。次いで、月夜に舞う不穏な影が多数、色んな方向から飛行船に接近して来る。 アヤカシの出現に気付き、天斗、鋼介、からす、ウルグは呼子笛を鳴らした。久郎丸は牧畜用の笛を取り出し、大きく吹き鳴らす。満月の夜空に、笛の音色が重なって響いた。 ●強襲 外の5人が見回りを始めた頃、残りのメンバーは船内で待機していた。と言っても、基本的には休憩時間。誰もが自由に過ごしている。 「あ、絶橘さんお久しぶりです。凄いですね、今回はちゃんと働いてる……!」 船内を歩き回り、操舵室に来た菊池 志郎(ia5584)は、驚きを隠せずにいた。以前一緒に仕事をした時、『ピンクのメイド服を着せようとした』克騎が、真面目に仕事をしているのだから、無理も無いだろう。 当の克騎は、猛烈にショックを受けているようだが。 『喰えない物など、何の興味も無いな。志郎、食い物か酒のある場所に案内してくれ』 志郎の肩で、相棒の管狐、雪待が退屈そうに声を漏らす。彼の興味は、人間の食べ物と酒に集中している。神秘的な外見に似合わず、大食なようだ。 苦笑いを浮かべつつ、志郎と克騎は顔を見合わせる。志郎は軽く頭を下げ、操舵室を後にした。 ほぼ同時刻。格納庫には、数人の人影があった。 「スッゲー!! 正に『秘密兵器』って感じだな! ワクワクしてくるぜ!」 目をキラキラと輝かせ、歓喜の声を上げる天河 ふしぎ(ia1037)。その視線は、巨大な宝珠砲に向けられていた。恐らく、全長は4mを超えているだろう。 ふしぎを始め、数人の開拓者は宝珠砲に興味があったらしく、源庵に見学を申し出た。源庵はそれを2つ返事で快諾し、見学の真っ最中である。 「コイツが新型の宝珠砲か、面白そうだな。で…もう実戦で試し撃ちはしたのかい?」 煙管を咥えたまま、ニヤリと不敵に笑う黎乃壬弥(ia3249)。宝珠砲に対して、色々と興味が尽きないようだ。ちなみに、煙管は咥えているだけで火は点いていない。 「いや、まだ組み上がったばかりなのでな。お主達の都合が良ければ、試射に立ち会って貰えると心強い」 そう言って、源庵は豪快に笑った。社交辞令に聞こえなくもないが、源庵の性格を考えると本気で言っているのだろう。 「お誘い、ありがとうございます…予定が合う時は…天河様と、ご一緒させて頂きますね…」 リズレット(ic0804)は微笑みながら、感謝の言葉を返す。視線をふしぎに向けると、彼は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。 和やかな時間は、激しい笛の音によって終わりを告げる。それは、緊急事態を知らせる合図。見回り班が笛を吹くのは、アヤカシを発見した時だけだろう。 壬弥、ふしぎ、リズレットは、弾かれるように格納庫を飛び出し、甲板に続く通路を駆ける。 「皆、今の音は聞こえたな!? 敵襲だ、出るぞ!」 叫びながら、皇 りょう(ia1673)が船室から姿を現した。仮眠をとっていたのか、彼女の腕には、もふらのぬいぐるみが抱かれている。 途中で志郎も合流したが、その事に触れる者は誰も居ない。5人は一気に通路を駆け抜け、甲板へと急いだ。 ●月明かりの喧騒 月夜に舞うは、人の胴に鳥の翼を生やした異形達。それが集団で、飛空船に迫る。 船の前方に居た天斗は、魔槍砲に練力を上乗せし、熱気を纏わせて撃ち出した。ほぼ同時に、火之迦具土は口を大きく広げて炎を吐き出した。 高熱の砲撃と炎の吐息が敵に伸び、集団を飲み込む。赤々と燃える炎が闇夜を照らす中、仕留め切れなかったアヤカシ達が突撃してきた。 「俺を抜けるとでも思ったかァ? バァカ、あめーンだよォ! 燃え尽き灰になり、空に水面に浮いて漂いやがれェ!」 天斗は黒い瞳に狂気を宿し、歪んだ笑みを浮かべる。迎撃するように、火之迦具土は全身に炎のような気を纏って体当たりを放った。 炎塊と化した特攻が、人面鳥を焼き尽くす。違う敵に向かって、天斗は剣を一閃。斬撃がアヤカシを両断し、灰となって空や水面に浮くより早く、瘴気と化して消滅した。 「魂流、サポートは任せる。さて…術師殺しと呼ばれた力、魅せてやろう」 『ミュー!』 からすの言葉に、魂流が短く鳴く。空気中の水分が集まって鈍い鉛のような色となり、アヤカシの脚に纏わり付いて動きを鈍らせた。 「ふ、船には…近寄ら、せん。え、援護する…礼聞、いく、ぞ」 甲板のからすに近付き、声を掛ける久郎丸。気迫を込めて敵に一喝を浴びせ、接近出来ないよう一瞬だけ動きを止めた。 短時間でも、からすにとっては充分である。複数の矢を同時に番え、周囲に射ち放った。間髪入れずに矢を番え、再び矢の雨を降らせる。 鋭い射撃が人面鳥達を射ち倒す中、討ち漏らした敵に向かって礼聞号が急加速。大きく翼を広げて強襲し、アヤカシを斬り裂いた。 ほぼ同時に、久郎丸は巨大な槍を薙ぐ。鋭利な矛先が人面鳥を両断し、2匹の敵が瘴気と化して空気に溶けていった。 ジルベリアの言葉で、クロウやレイブンはカラスを意味する。甲板を守った『烏達』は、警戒するように周囲を見渡した。 そんな彼女に向かって、死角から鳥女が波動を浴びせる。スキルを封じる特殊な効果を持った攻撃だが、術に対する抵抗能力の高いからすには通じない。彼女が言った『術師殺し』とは、こういう意味なのだろう。 自分の術が効かなかった事で、アヤカシは驚愕の表情を浮べた。その胴を、水の刃が貫く。傷口から瘴気が吹き出し、全身が霧のように消えていく中、船の内部に居た5人が甲板に姿を現した。 「遅れて申し訳ありません。俺達も加勢します…!」 参戦が遅れた事を謝罪しながら、周囲を見渡して状況を確認する志郎。さっきの水刃は、彼が放った一撃である。 「気にするな。お前達の力、アテにさせて貰う」 無表情のまま励ましの言葉を口にし、ウルグは集中力を高めていく。長い銃身を持つ兵装を構え、連続で撃ち放った。銃弾が敵を貫通し、一瞬で瘴気に還した。 「期待には応えてみせるさ。行こうか、定國!」 短く言い放ち、壬弥は相棒の鋼龍、定國に飛び乗る。定國が翼を広げて飛び上がると、装着した大紋旗が派手に広がった。 「天河ふしぎ、星海流騎兵、出る! 邪魔は、させないんだからなっ!」 ゴーグルを装着し、ふしぎは滑空艇改の星海竜騎兵と共に甲板から飛び立つ。自身の小隊のマークを配した大紋旗が、バサッと夜空に踊った。 「役者は揃ったな。一気に畳み掛けるぞ!」 鋼介の叫びに呼応するように、竜の描かれた軍旗が広がる。戦場に旗が入り乱れる中、3人は兵装を構えた。 鋼介と壬弥の刃が燃え上がり、炎に包まれる。ふしぎは刀剣にオーラを集め、敵に向かって斬撃を放った。軍旗と共に、3人の剣閃が戦場を奔る。相棒の高機動から繰り出される攻撃が、アヤカシを次々に斬断。周囲に、瘴気が舞い散った。 『喰えぬ鳥など、何の価値も無いな。アヤカシなら、尚更だ』 厳しい言葉を言い放ち、雪待は敵を睨み付ける。直後、そのアヤカシに向かって電光が一直線に奔り、全身を焼いた。 同様に、導も電光を放つ。雷撃が炎を呼び、一瞬でアヤカシを飲み込んだ。燃え上がる炎が、敵を焦がして瘴気に還していく。 「貴女とお仕事をするのは初めて、ですね……今回は、いえ…これからも…よろしくね…?」 リズレットは相棒の駿龍、スヴェイルに優しく声を掛け、頭をそっと撫でる。これから行動を共にする相棒と挨拶を交わすと、互いに視線を合わせて静かに頷いた。 スヴェイルは甲板から飛び立ち、敵を撹乱するように飛び回る。アヤカシの注意が逸れている隙に、リズレットは射撃を集中させた。銃弾の雨が、男性型の人面鳥に殺到して全身を貫通。ほんの数秒で瘴気と化し、弾け散った。 漆黒の夜空を斬り裂くように、蒼い光が駆け抜ける。りょうと、相棒の空龍、蒼月だ。高速の飛翔から狙いを定め、りょうが鋭く兵装を薙ぐ。切先が敵を斬り裂き、瘴気が周囲に舞った。 徐々に数が減っていく中、アヤカシ達は一斉に行動を起こす。開拓者達を取り囲むように移動し、呪声と呪封の多重攻撃。逃げる場所も隙も与えず、攻撃を浴びせた。 咄嗟に、ふしぎ、壬弥、久郎丸は精霊力を纏い、自身の抵抗力を強化して敵の術に耐える。呪われた声が脳裏に響く中、天斗は兵装を構えた。 「そんな子守歌聞かせて、ドーしようって言うんだよォ、阿呆がァ!」 高笑いしながら、高熱の砲撃を放つ。多少のダメージは負ったが、術封じを無効化する事には成功。火之迦具土の炎と共に、人面鳥を焼き尽くした。 実際、開拓者の大半は術を無効化している。運悪く封印されてしまったのは、鋼介とリズレットだけのようだ。 「こ…この程度の、負傷、カスリ傷、みたいな…モノだ」 天斗の討ち漏らした敵に向かって、礼聞と久郎丸が突撃。巨大な槍と鋭い牙が敵を貫き、瘴気が吹き出す。それを振り払うように槍を薙ぐと、穂先がアヤカシを深々と斬り裂いて瘴気に還した。 「皆さん、負傷には気を付けて下さいね? 微力ながら、俺が回復しますから」 敵の呪声は、多少なりとも開拓者達にダメージを与えている。仲間達を回復させるため、志郎は術を発動させた。彼を中心に、淡い光が広がっていく。回復の効果を含んだ輝きが、範囲内の仲間達を癒した。 抵抗力を強化したふしぎは、男の人面鳥に向かって突撃。敵の爪撃をギリギリで避けながら、擦れ違い様に剣を鋭く振った。 「くらえ必殺、空賊騎士剣! リズ、今だっ!」 「お任せ下さい……!」 空賊の剣技なのか、騎士の剣技なのかツッコミたくなるが、今はそんな事を言ってる場合ではない。 ふしぎの意図を理解したリズレットは、兵装を黒白の二挺短銃に持ち替える。素早く狙いを定め、引金を引いた。黒白の羽根の幻影が舞う中、放たれた銃弾が敵を撃ち貫く。2人の連携が敵を打ち破り、霧のように静かに消えていった。 残ったアヤカシに向かって、からすが矢の雨を降らせる。それに合わせて、鋼介が短銃を撃ち放った。弓撃と銃撃、2種類の射撃がアヤカシに殺到し、貫通していく。 が、鋼介の銃撃は直撃が少ない。むしろ、ギリギリで掠める程度にしか当たっていないようだ。 「…やっぱり当たらんか…銃の扱いは不得手だってのは『重々』承知の上だが…銃だけに」 「九竜殿。余裕を見せるのは良いが、少々笑えんぞ?」 溜息混じりに、からすが苦笑いを浮かべる。彼をフォローするように、魂流が敵の顎を狙って水柱を生み出した。強烈な水圧が、アッパー気味にアヤカシを強打。水と共に瘴気が舞い散り、空気に溶けて消えていった。 鋼介は申し訳なさそうに頭を下げ、兵装を両手剣に持ち替える。汚名返上するように、練力を刀身に集中させて一気に放った。 「おらどうした、もっとかかってこいや鳥野郎共!」 吼えるような、壬弥の叫び。船の下側で、彼と定國は派手に暴れていた。鋭い炎刃が敵を斬り裂き、全重量を込めた体当たりがアヤカシに直撃。派手に吹き飛びながら、全身が瘴気と化して消滅した。 大暴れしている分、敵から見れば『目立つ的』である。爪撃や呪声で、ダメージが徐々に蓄積していく。 「一人で頑張り過ぎだ…加勢するぞ、壬弥…!」 静かだが、力強い言葉。ウルグは甲板に片膝を付いて体勢を安定させ、船外下側に向けて連続で銃撃を放った。直進していた弾丸が、練力によって急カーブ。それが敵を背後から撃ち抜き、止めを刺す。力無く落下する骸が、徐々に瘴気となって大気に消えていった。 一方的な戦況でも、アヤカシは諦めようとしない。闇に紛れて静かに舞い上がり、甲板の開拓者達の死角から急降下を放った。鋭い爪が、急速に迫る。 それが届くより早く、甲板からの雷光がアヤカシを貫いた。 『誰も警戒していないとでも思うたか? 我の目は、飾りではないのだよ』 不敵に笑いながら、導は2撃目の電撃を放つ。それが敵の頭部を焼き散らし、数秒後には全身が霧のように散り消えた。 ●遅れて到着 東の空から太陽が昇り、世界を明るく照らす。大量のアヤカシを退けた開拓者達は、順調に航路を進んでいた。途中で何度かアヤカシが現れたが、どれも小規模で苦戦とは無縁。朝日を伴いながら、源庵の飛空船は理穴に到着した。 早速、現地の兵士達が手伝い、宝珠砲を下ろしていく。試射の日程も、実戦発射の予定もまだ未定だが、少なくとも理穴の戦況は若干有利に変わるだろう。 「この平雅源庵、貴殿らの協力に心から感謝する。護衛してくれた開拓者が貴殿達で、本当に良かった」 精一杯の感謝を込め、深々と頭を垂れる源庵。重鎮に頭を下げられたら、誰でも戸惑ってしまうだろう。 開拓者達は軽く顔を見合わせると、源庵に向かって優しく微笑んだ。笑顔の苦手なウルグと久郎丸は、顔を背けて軽く苦笑いを浮かべているが。 依頼は無事に終わり、周囲に喜びと笑顔が溢れている。源庵のような男と開拓者達が居れば、喜びと笑顔はもっと広がるだろう。今は次に備えて休息を取り、達成感を噛み締めても良いかもしれない。 |