【急変】断たれた補給路
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/30 20:42



■オープニング本文

 理穴で異常が発生したのは、周知の事実だろう。炎羅とは違う大アヤカシの出現に、瘴気に蹂躙されていく大地。致命的な被害を受けた遠野村に、湧き出す『不浄の水』…。
 再び訪れた大アヤカシの脅威に対し、大規模な作戦が開始された。明日を生きるために、大切な物を護るために、平和と自由を求めて。
 近隣諸国も協力し、一致団結して脅威に立ち向かっていく。大アヤカシの前では軍も開拓者も関係無く、全員の想いは1つになっていた。
 だが…。
「右舷に直撃! 右翼が中破し、水平を保てません!」
「同じく、尾翼もやられました! このままでは、墜落します!」
 大規模な作戦をする裏では、補給が死活問題となる。それを知ってか知らずか、手下のアヤカシ達が物資輸送中の飛空船を襲っていた。本来なら、護衛の飛空船を連れて数隻で航行するのだが、今は緊急事態。護衛に割く余裕が無かったのだろう。
「…全員、衝撃にそなえろ! 荒っぽいが、緊急着陸に移る!」
 叫びながら、艦長が船の舵を握った。その言葉に、船員達は覚悟を決めて計器に向き直る。黒煙を吐き出しながら、飛空船は急速に高度を下げて降下していった。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 九竜・鋼介(ia2192) / 菊池 志郎(ia5584) / 大淀 悠志郎(ia8787) / 和奏(ia8807) / フェンリエッタ(ib0018) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / バロネーシュ・ロンコワ(ib6645) / 正木 雪茂(ib9495) / 至苑(ib9811) / 桃李 泉華(ic0104) / ツカサ(ic0466) / リック・オルコット(ic0594) / 黎威 雅白(ic0829) / 奏 みやつき(ic0952


■リプレイ本文


 物資補給船が消息を断ってから、数時間。開拓者達は、地上と空中に別れて捜索を行っていた。森は広いが、捜索対象が目立つ大型飛空船なのは、不幸中の幸いかもしれない。
「飛空船に乗っていた方達は無事でしょうか……」
 森の中で周囲を見渡しつつ、不安の言葉を漏らす菊池 志郎(ia5584)。乗員を含め、飛空船がどうなったかは誰にも分からない。心配になるのも当然だろう。
 地道な探索が続く中、黎威 雅白(ic0829)の研ぎ澄まされた聴覚が『何か』を捉える。相棒の炎龍、牙厳を駆り、その方向へ急いだ。
 同時刻、飛行系朋友に騎乗した和奏(ia8807)と奏 みやつき(ic0952)が、違う方向から接近。3人が空中で再会した時、その眼下には不時着した飛空船の姿があった。相当無茶をしたのか、木々が薙ぎ倒され、地面が抉られている。
 すぐさま、3人は仲間達の元へ急行。飛空船が発見された事を、全員に知らせた。それから数分後、16人の開拓者が不時着した地に集う。
「地形的な危険箇所は無いようですね。周囲にアヤカシの気配もありませんし、早々に物資を積み込んでしまいましょう」
 事前に地形情報を確認して来た无(ib1198)が、現状を確認。安全を確認し、仲間達にそれを伝えた。念のため、相棒の管狐、ナイと一緒に周辺の警護に回る。
 開拓者の大半は、船の貨物室へと移動を始めた。着陸の衝撃は相当大きかったのだろう、船体内部にヒビが走ったり、荷物が派手に散乱している。それは貨物室も同じで、荷物の一部が転がっていた。
「先ずは、物資の整理をしないとな…無事な物だけ運び出そう。可能なら、大きさも揃えるべきだな」
 壊れた小箱を拾い上げながら、仲間達に声を掛ける羅喉丸(ia0347)。駄目になった物を移動させても、時間と労力を無駄にするだけである。効率的に運搬するためにも、分別は必要だろう。
 室内の開拓者達は、2手に別れて作業を開始した。1つは、荷物の中身を確認して分別する班。もう1つは、荷物を運び出す班である。山のような物資が、少しずつ貨物室から減っていく。
 一方その頃、貨物室に来ていない開拓者達も行動を起こしていた。
「兵士の皆さんは、こちらへ集まって下さい。怪我をされた方は、私達が回復しますので」
 バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)の言葉に、大勢の兵士達が飛空船から脱出。船員と共に、船尾周辺に集まった。不時着の影響か、怪我を負っている者は少なくない。重傷者こそ居ないが、治療は必要だろう。
 比較的大きな怪我をしている者に、バロネージュは白き精霊の力を向けた。仄かな白い光が兵士を包み、傷を癒していく。
 軽傷の者には、志郎の淡い光が降り注いでいる。それは広範囲に広がり、大勢を一気に癒した。
 フェンリエッタ(ib0018)は静かに歌いながら、精霊の力で兵士達を癒している。彼女の狙いは、傷の回復以外にもう1つあった。屈強な兵士達でも、飛空船の落下は精神的な負担を与えたに違いない。彼等の心を落ち着けるためにも、彼女は歌っているのだ。
 兵士達の間を走り回り、女性兵士を優先して回復しているのは、桃李 泉華(ic0104)。回復の光が、あっちこっちで乱れ舞っている。
「偉いこっちゃ、こないな惨事。怪我人は? どこ居とう? って、うわっ雅白やんっ♪」
 治療していた泉華の瞳に、荷物運び中の雅白の姿が映る。その瞬間、彼女は反射的にパタパタと駆け寄った。
「まっしろーっ♪ 何しよーん?」
 満面の笑みを浮かべながら、全力のハグ。泉華と雅白は同郷で、兄妹のように育った。雅白が里を出てからずっと会っていなかったため、久々に再会してテンションが上がったのだろう。
「お? 泉華じゃん。何って…依頼に決まってんだろ?」
 嬉しそうに微笑みながら、雅白は泉華の頭を優しく撫でる。彼の言葉で冷静になったのか、泉華は『って、そないな場合ちゃうやんっ!』と自分にツッコミを入れ、兵士の治療に戻って行った。
 走り去る背中を眺めながら、雅白は軽く笑い声を漏らす。昔と変わらない彼女の言動に、少しだけ気が緩んだのかもしれない。依頼を再開するため、彼も自分の仕事に戻った。
「現在位置は、この辺り。目的地までは、このルートを進む予定です。質問があれば、遠慮なく聞いて下さい」
 地図を手に、和奏は兵士達に現状を説明している。台車で移送するとはいえ、道中で何が起きるかは分からない。道順等を周知して、損は無いだろう。
 和奏の説明と志郎達の治療が終わる頃、船内に入った開拓者達が全員外に出て来た。
「無事な荷物は、これで最後ですね。ようやく、全部運び出せました」
 言いながら、至苑(ib9811)は運び出した荷物を重ねる。使えそうな物資は、運んで来た量の7割程度。少々減ってしまったが、救援物資としては充分に足りるだろう。
「やれやれ、兵士も荷物も相当な数だねぇ…どうやって分担しようか?」
 苦笑いを浮かべながら、周囲を見渡す不破 颯(ib0495)。兵士の数は50人近く居るし、荷物は山を成している。これを運ぶのは、開拓者でも一苦労である。
「全員で協力すれば、一回で運べそうですね…詳細な計画は、全員で練り上げましょう」
 荷車と台車、兵士と物資総量を比較し、バロネーシュは紙と筆を取り出した。作業効率や安全性を考慮し、全員で話し合って分担を決めようとしているのだろう。彼女の考えに同意するように、開拓者達が集まっていく。
 話し合いを始める前に、九竜・鋼介(ia2192)は兵士達に向き直った。
「すまんが、少々待っててくれ。先行して送ってやりたいが、全員一緒に行動した方が安全だからな」
 謝罪の言葉を口にし、軽く頭を下げる。依頼書には『兵士は先行して運ぶ』という文言があったが、戦力を分断してしまっては危険性が高まる。安全性を優先するのは、妥当な判断だろう。
 兵士や乗員が見守る中、開拓者達の話し合いが始まる。が、内容的には難しい事は無い。各員の希望や台車と荷車の数、兵士と物資総量を比較し、数分で分担が決まった。
 兵士を台車に乗せて移送するのは、フェンリエッタ、バロネーシュ、泉華、みやつき、正木 雪茂(ib9495)の5人。无、雅白、ツカサ(ic0466)、リック・オルコット(ic0594)の4人は、兵士の物資の護衛担当である。
 物資を運ぶのは、残った7人。量的に大荷物になりそうだが、朋友の協力があれば移動可能だろう。早速、16人は運搬準備に取りかかった。
 雪茂達は兵士に状況を説明し、台車への乗車を進める。落下防止の柵と椅子を取り付けただけの簡素な造りではあるが、10人程度を運ぶなら充分だろう。走龍と霊騎達は台車を縄で繋ぎ、駿龍達は低空飛行で引手部分を直接爪で握った。
 荷車への積み込みも、同時進行中である。各朋友の牽引能力を考慮し、荷物を分担。積み込みが完了したら荒縄で固定し、荷車から落下しないように注意する。颯は荷物全体に布を被せてから縄を回し、シッカリと固定した。
「鷲獅鳥さん、大変というかご不満でしょうけど…緊急時ですので協力してください」
 和奏は申し訳なさそうな表情を浮べながら、相棒の上級鷲獅鳥、漣李に物資の入った籠を差し出す。相棒の性格や能力を考慮し、和奏は荷物の牽引を諦め、手持ちする事を選んだのだ。
 漣李は短く鳴き、白い翼を広げて舞い上がる。低空から脚を伸ばし、器用に籠を掴んだ。
「兵も物資も、待ってる人達がいるわ。一刻も早く届けましょう…!」
 周囲を見渡して準備が終わった事を確認し、フェンリエッタが声を上げる。無論、彼女の意見に反論する者は1人も居ない。ついに、大量の荷物と兵士の大移動が始まった。
「荷物運びに人員移送か……まるで、飛脚になった気分だな」
 移動する様子を眺めながら、雪茂は軽く笑みを浮かべた。『輸送する仕事』という意味では、飛脚に似ているかもしれない。これだけの規模だと、民族の移動と言った方がシックリくるが。
「『雪崩』の皆と一緒の依頼……頑張って成功させないと」
 リックが所属する小隊、偵察騎兵隊「雪崩」。その全員が、今回の依頼に参加している。心強い反面、少々緊張しているのかもしれない。
 彼同様、緊張している者がもう1人。
「初めての依頼、無事に終わりますように…」
 呟きながら、軽く祈りを捧げるみやつき。彼の願いは、果たして天に届くのだろうか?


「それにしても、飛空船が墜落するとは災難でしたね。今のうちに休憩して、英気を養って下さい」
 兵士達の緊張や不安を取り除くため、積極的に声を掛ける无。彼の意図を悟ったのか、ナイは兵士達の間を飛び回った。恐らく、動物を使った癒し効果を狙っているのだろう。
 移動を続けている開拓者達だったが、その速度は一定。荷物を落さないよう注意しつつ、兵士達の負担にならないペースを保っている。このまま進めば、あと4時間程度で目的地に到着するだろう。
「この反応…みなさん、注意して下さい。敵らしき物音が接近しています…!」
 志郎の叫びに、周囲の緊張が高まる。聴力を強化した彼の耳が、異常な物音を捉えたようだ。戦闘に備えつつも、移動速度は落とさない。
 それから数秒もしないうちに、開拓者達の頭上で大量の鳥が旋回を始めた。無論、タダの鳥ではない。外見は鷹や鷲などの猛禽類に似ているが、頭部から角が生えている。
「おー、いっぱい居るねえ。焼き鳥にしたら美味しそうな気がしないでもないけど…美味しくないんだろうなあ」
 ツカサは上空に視線を向けながら、冗談混じりの言葉を口にした。アヤカシを食べた者は居ないため味は不明だが、調理中に瘴気と化して消えそうである。
「こんな場所で敵襲か。さて、どうするね? お姫(ひい)隊長…」
 大淀 悠志郎(ia8787)は不敵な笑みを浮かべながら、雪茂に声を掛けた。自身が所属する小隊…その隊長の意見を聞きたいのだろう。
 悠志郎の問い掛けに、雪茂はニヤリと笑った。霊騎のいかづちに騎乗したまま、兵装を弓に持ち替える。
 彼女の『無言の意思表示』に合わせ、悠志郎も弓に手を伸ばした。移動は相棒の霊騎、泡影に任せ、素早く弓を構える。
 頭上を飛び回るアヤカシを先制するように、2人は地上から矢を放った。複数の弓撃が一気に迫り、2体の怪鳥を貫通。ほんの数秒で、全体が瘴気と化して弾け飛んだ。
 追撃するように、无が符を投げ放つ。召喚された式がアヤカシを瘴気ごと喰らい、完全に消滅させた。
「頑鉄、荷車の死守を頼む。出来るな?」
 羅喉丸の言葉に、相棒の鋼龍、頑鉄は翼を大きく広げた。その全身に精霊力の鎧を纏い、自身と周囲の荷車を守るように覆う。
 防御は頑鉄に任せ、羅喉丸は矢を連続で放った。1本目は敵を掠めたが、2射目が胴を貫通。穿たれた穴から瘴気が吹き出し、全身が霧のように弾け散った。
「今止まったら、恰好の的だ。可能な限り、走り抜けようか」
 颯の言葉に反応し、相棒の走龍、銀星が地面を蹴って移動速度を上げる。高速移動しながら颯は複数の矢を同時に番え、天に向かって射ち放った。狙いも射ち方もデタラメな弓撃が、アヤカシの集団に殺到して突き刺さる。
 漂う瘴気を吹き飛ばすように、真空の刃が連続で奔った。それが2体のアヤカシを両断し、分断された体が落下しながら消えていく。
 真空の刃を放ったのは、志郎の相棒、鷲獅鳥の虹色と、漣李。鷲獅鳥同士の連携が、敵を打ち破ったのだ。
 遠距離主体の攻撃で、アヤカシの数は次々に減っていく。が、このまま一方的に攻められて、終わるワケがない。注意が上空に向いている隙に、アヤカシの集団が後方から接近して来た。
「後方からも敵か…鋼、お前は先行してくれ。こいつ等を片付けたら、すぐに後を追う」
 言うが早いか、鋼介は相棒の甲龍、鋼に荷物を任せて背から飛び降りる。着地と同時に獣のような雄叫びを上げ、アヤカシ集団の注意を引いた。
 突撃して来る怪鳥に対し、鋼介は決意と気合を込めて肉体を硬質化。更に盾を構えて防御を固め、迎撃するように刀を振るった。
 鋼介に加勢するため、ツカサが名も無き霊騎の手綱を操る。リックも相棒の霊騎、グロームと共に、後方に駆け出した。騎乗しながら銃を構え、引金を引く。2人の銃撃が敵を貫き、瘴気に還していった。
 3人が殿を務める中、上空を旋回していたアヤカシの動きに変化が起きる。様子を見ていた敵が、一斉に急降下。開拓者達の進路を塞ぐように、正面から突撃してきた。
 反射的に、バロネーシュは走龍のバロネスの手綱を引いて速度を上げる。先頭に躍り出て魔導書を開くと、ページから激しい吹雪が発生。強烈な冷気が敵を飲み込み、凍結させていく。
 フェンリエッタは手綱を握りながらも、携行した弓を兵士に手渡した。それを使い、兵士と開拓者達は弓撃を放つ。大量の矢が怪鳥に殺到し、大半を瘴気に還した。
 仲間を失っても、アヤカシ達の動きは止まらない。手傷を負いながらも、開拓者や兵士に向かって突撃して来た。
 羅喉丸や志郎、フェンリエッタ、至苑が近接攻撃で撃墜していくが、敵の方が数が多い。攻撃の隙を縫うように抜け、爪や角を振り回した。アヤカシの一斉攻撃が、開拓者や兵士達の肌に赤い線を描いていく。
 軽く舌打ちしつつ、泉華は敵周囲の空間を歪ませた。反発作用から発生する衝撃波が、怪鳥の羽をヘシ折って地面に叩き落とす。相棒の駿龍、灯夏がそれを踏み潰し、瘴気が宙に舞った。
 それを突き破り、1匹の怪鳥が泉華に突撃してくる。気付いた時には、もう遅い。アヤカシの角が、眼前まで迫っていた。
 次の瞬間、黒い風が怪鳥を斬り裂く。致命傷を負った敵が瘴気と化して吹き飛ぶ中、雅白は灯夏が引く台車に跳び乗った。風の正体は、高速移動した彼である。護衛担当の雅白は、周囲を走り回ってアヤカシを迎撃していたのだ。
「怪我人は任せるわ。そん代わし、俺がちゃんと護ってやるよ。手ぇ出させる訳にはいかねぇだろ?」
 そう言って、泉華の頭をポンポンと叩く。泉華は力強く頷き、癒しの光を周囲に開放した。淡い輝きが広がり、兵士達や仲間の負傷を癒していく。
 未だに上空を旋回している集団に向かって、牙厳が突撃。空中で敵を踏み付け、叩き落とした。
 落下地点には、ナイが先回りしている。大気中の水分を操り、自身の周囲に高水圧の雨を降らせた。全身に無数の穴が穿たれ、瘴気と化していく。
 そこに、殿を務めていた3人が合流。鋼介はリックに礼を言ってグロームの背から飛び降り、鋼の背に乗り移った。
 雪崩小隊の所属員が再び揃い、雪茂の元に集まる。4人は視線を合わせて意志を疎通し、静かに頷いた。
「弓騎兵の本領発揮といこうか。後は頼むよ?」
 残った敵を殲滅するため、悠志郎は泡影と荷車を繋ぐ縄を斬り落とす。間髪入れず、雪茂は荷車の縄を掴み、行方不明になるのを防いだ。そのまま、悠志郎、ツカサ、リックの3人が、相棒と共に駆け出す。
 悠志郎は戦況を分析し、安全な位置に移動しながら矢を射ち放った。一か所に留まらず、戦場を駆け巡りながら射撃を繰り返す。
 霊騎の背で銃を構え、狙いを定めるツカサ。息の合った動きは、正に人馬一体。流れるような動きで、次々に怪鳥を撃ち抜いていく。
 敵の瘴気が周囲に舞う中、それに隠れて1匹のアヤカシが急接近。雪茂に向かって、爪を振り下ろそうとしている。
「正木の姉さまの所には行かせないよ……鉛玉の雨を、喰らえ」
 それに気付いたリックは、体を捻って銃口の向きを変えた。兵装に練力を集中させて弾丸を装填し、即座に撃ち放つ。言葉通り、弾丸が雨のように殺到し、アヤカシを貫通した。
 不意討ちに近い攻撃を受けた雪茂は、突然の事に『はぴょっ!?』という奇声のような悲鳴を漏らす。それでも即座に状況を理解し、手綱を離して脇差に持ち替えた。
「ひ…久しぶりの依頼だが、腕は鈍っていないつもりだ!」
 声が若干裏返っているが、気にしないでおこう。銀色の剣閃が奔り、アヤカシを斬り裂く。雪茂の頭上で、怪鳥が瘴気と化して弾け散った。
 状況は、圧倒的に開拓者達が有利に進んでいる。残り数匹の怪鳥に向かって、ツカサは銃撃を放った。衝撃を伴った銃弾が宙を奔り、アヤカシを撃ち砕く。が、仕留めそこなった怪鳥が方向を変え、飛び去った。
「あ、みやつき! そっちに敵行ったから気をつけて!」
 ツカサの声が周囲に響く。アヤカシの進む方向には、みやつきが居た。開拓者として経験の浅い彼が相手なら、突破して逃げれると思っているのだろう。
 軽く溜息を吐きながら、みやつきは銃を構える。彼の相棒、駿龍の七八は翼を広げ、台車の兵士達を守るように覆った。突撃してくる敵に狙いを定め、引金を引く。放たれた弾丸は、真っ直ぐにアヤカシを貫通。開拓者達が隣を通過すると、瘴気に還って消えていった。
「はぁ…こっちに来なきゃ、撃たないのに」
 気怠そうに言葉を漏らしながら、みやつきは銃を下ろす。プクプクした頬を、一筋の汗が流れ落ちた。
「じきに、物資も到着するわ。それまで頑張って…でも無理は禁物よ?」
 台車の兵士達を励ますように、フェンリエッタが声を掛ける。彼女の優しい言葉とウィンクに、兵士達の士気が一気に燃え上がった。
 周囲の敵を全て撃退し、輸送を続ける開拓者達。道中、アヤカシ達の襲撃が何度かあったが、どれも少数だった。最初の集団のように苦戦する敵は存在せず、ようやく目的地の灯りが見えてきた。
「ようやく到着しましたね。あとは、荷物を下ろせば完了です。皆さん、あと少しだけ頑張りましょうね」
 微笑みながら、至苑は全員に声を掛ける。警護をしている者に話を通し、開拓者達は指定された場所に移動。そこで積荷と兵士を下ろし、荷車と台車を返した。移送した兵士達の初仕事は、補給物資の整理になりそうである。
 16組の開拓者と朋友の活躍で、荷物は無事に届いた。これだけの量があれば、暫くは補給無しでも戦えるだろう。不穏な空気は、まだ理穴全体に漂っていた。