悪夢は昼に現れる
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/20 21:45



■オープニング本文

 噂や都市伝説と呼ばれる話は、色んな所にゴロゴロ転がっている。その内容は様々で、大抵は根拠の無いデタラメだったり、話が伝わる間に誇張されていたりするが。
 しかし、そういう話の中に『真実』が隠されているのも事実。興味本位で近付いたら、タダでは済まないかもしれない。
「ねぇ…本当に大丈夫かな? 噂通り、すっっっごく怪しい雰囲気だけど…」
 日当たりの少ない林道を歩く、1組の男女。歳は10代後半くらいだろう。女性は怯えながら、男性の腕に抱き付いている。
「心配すんな。何かあったら、俺が守ってやるからよ」
 彼女の頭を撫でながら、優しい笑みを向ける男性。その表情に、女性は嬉しそうに頷いた。
 彼等は、俗に言う『腐れ縁』というヤツである。小さい頃から村で一緒に育ち、肉親のように、友達のように、恋人のように、仲良くしていた。
 今日は村人達に頼まれ、奏生で買い出しをした帰りなのだが…近道をするため、2人は林道に進入。その場所に、良くない噂が流れているのを知りながら。
 『生き血を吸う化物が、理穴で人々を襲っている』。
 誰が最初に言ったのか、本当に目撃者が居るのか、全く分からない。積極的に近付く者は少なく、真相は闇の中である。
 だが…。
「…っ!」
 声にならない悲鳴。
 背骨に氷の柱を突っ込まれたような、強烈な寒気。突然襲ってきた強烈な感覚に、2人の動きが完全に止まった。
 次いで、影が一か所に集まって具現化していく。長身痩躯の体に、漆黒のタキシードとマント。蒼白な肌に、真っ赤な瞳。一見すると、絵画のような美しさを放つ青年の姿をしている。
 が、目の前の青年からは『命の息吹』を微塵も感じない。彼が不敵な笑みを浮かべると、口元から鋭い牙が覗いた。
 ゆっくりと、青年が歩み寄って来る。2人の全身から冷汗が噴き出し、涙が止まらない。理屈でなく、直感で理解したのだ。
 『コイツに襲われたら、絶対に助からない』という事に。
 青年は女性に手を伸ばし、優しく抱き締める。そのまま…首筋に喰らい付いた。命が、生気が、血液が、全てが吸われていく。女性の体が力無く崩れた瞬間、男性の意識は途切れた。
 もしかしたら、彼はそのまま眠っていた方が幸せだったかもしれない。目を覚ました時、男性は血の海の中に居た。体には傷1つないが、周囲に撒き散らされたのは間違いなく人の血。そして、女性の姿は見当たらない。
 突然現れた青年に、襲われた女性に、血の海…事実に気付いた男性の声が、周囲に響き渡った。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
赤い花のダイリン(ib5471
25歳・男・砲
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
香(ib9539
19歳・男・ジ
理心(ic0180
28歳・男・陰
結咲(ic0181
12歳・女・武
リズレット(ic0804
16歳・女・砲
ミヒャエル・ラウ(ic0806
38歳・男・シ


■リプレイ本文


 林道と呼ばれる場所は、世界各地に複数存在する。だが、『吸血鬼が出る』というトンデモない林道は、他に類を見ないだろう。
「男女、が、居て、女、の子、だけ、狙わ、れた……何か、理由、あるの、かな?」
 小首を傾げながら、疑問を口にする結咲(ic0181)。言葉とは裏腹に、彼女の表情は無表情に近いが。
「『女性だけを狙う』…それが本命だとは、あまり思えませんね。もしかしたら、他に目的があるのかも…」
 三笠 三四郎(ia0163)は顎に手を添えながら林道を凝視し、思案を巡らせている。敵の行動目的がハッキリしていないため、慎重になっているのだろう。
「ほんなら、『男同士でも狙うのか』っちゅー事を検証してみよか……ちっとばかし、寒気するけどな」
 謎の方言と独特のイントネーションで、淡々と話す香(ib9539)。検証とは、彼が『男性と一緒に囮になる』事を意味している。同性と仲良しカップルを演じるのだから、寒気を覚えるのは当然かもしれない。
「アヤカシは、人の恐怖も美味しく喰らうのだろう? 1人を殺し1人を生かす事で、絶望の念を増幅させる。つまりは『健啖家であらせられる吸血鬼』…というワケだろう」
 顎髭を軽く弄りながら、ミヒャエル・ラウ(ic0806)は皮肉混じりの言葉を漏らす。彼の推測が当っているかは分からないが、その観察眼と発想力は高いようだ。
「そもそも、昼間に出現するって時点で、既にアウト…吸血鬼の『為り損ない』だね」
 大抵の吸血鬼は、日光に弱い事が多い。そういう意味では、闇野 ハヤテ(ib6970)が今回の敵を『吸血鬼モドキ』と称したのは、的を射ている。
「敵の行動目的、か。そんな事に興味は無いな。重要なのは、美しいアヤカシか否か…それだけだ」
 まだ見ぬ人型アヤカシに思いを馳せ、心躍らせる理心(ic0180)。それ以外の事は面倒なのか、少々不機嫌そうだ。
「要は、アレだ。どんな敵が何体出ようが、俺達で全部退治すりゃ済む。そうだろ?」
 ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)はニヤリと笑いながら、指を鳴らす。単純明快だが、被害を減らすには、それが一番確実である。
 彼女の提案に、開拓者達は軽く笑みを浮かべた。
「さて。話が纏まった処で、そろそろ行こうか。3通りの囮のうち、どこの班が当っても頑張ろうね」
 仲間達を見回しながら、声を掛けるケイウス=アルカーム(ib7387)。敵の狙いが分からないため、今回は班を3つに分ける事になった。奇しくも各班で囮を担当するのは、男同士、女同士、男女カップルの3通り。
「あの……三笠様、ヴォルフ様。若輩者ですが、今回はよろしくお願い致します…」
 同じ班を組む2人に向かって、リズレット(ic0804)が深々と頭を下げた。若干緊張しているのか、猫耳と尻尾が垂れ下がっているように見える。
 そんな彼女の手を、ヘスティアが優しく握った。軽く視線を合わせて頷き、林道へと脚を踏み入れる。三四郎は蓑笠を被り、2人から充分に距離を置いて後を追った。
 20分後、ハヤテ、ケイウス、香の3人が。さらに20分後、理心、結咲、ミヒャエルが林道に進んでいく。敷設された道は、約4km。一時間もあれば林道を抜けるが…果たして、アヤカシはどの班を狙うのだろう?


 林道を進む理心は、不機嫌な表情を浮べていた。アヤカシは現れないし、彼にとっては退屈な時間なのだろう。
「めんどくせぇな……あんまり近付くな、動き辛い」
 顔をしかめながら、隣を歩く結咲を押し退けようと力を込める。が、結咲はそれに負けないよう、しっかりと理心の手を握った。
「…やだ。理心、の、傍に、居る」
 普段はボンヤリしている事の多い結咲が、ハッキリと自己主張するのは珍しい。理心は舌打ちしながら、更に力を込めた。
 が、離れ過ぎてしまったら囮の意味が無くなってしまう。理心は後頭部を掻き、彼女の腕を乱暴に引いた。雑な扱いを受けているが、結咲は若干嬉しそうである。それだけ、彼に心を許しているのだろう。
 仲良く歩く2人の背後で、瘴気が静かに集まっていく。それが人の姿を成し、闇色を纏いながら具現化した。突如出現したアヤカシは、不敵な笑みを浮かべながら爪を振り上げる。
「感心できんな、若い男女に無粋な真似をするのは」
 言葉と共に、ミヒャエルはステッキで敵の姿勢を崩した。足音と気配を消して接近したため、アヤカシは彼の存在に気付かなかったのだろう。間髪入れず、頸椎を狙って剣を突き出した。
 不意討ち気味の一撃に対し、吸血鬼は体を捻って直撃を避ける。ミヒャエルの攻撃は敵の首筋を深々と斬り裂いたが、それを気にする様子は微塵も無い。
 ミヒャエルの声で敵の出現に気付いた結咲と理心は、素早く手を離して兵装を構える。そのまま、結咲は地面を蹴って突撃した。
 彼女に合わせて、理心がカマイタチのような式を呼び出す。それが投擲武器のように飛来し、吸血鬼の全身を斬り刻んだ。
 吹き出す瘴気を振り払うように、霊剣と短刀を下から振り上げる。精霊力を帯びた双刃が敵を捉え、胴を斬り裂いた。更に、強烈な衝撃波が生み出されて敵を直撃。長身が浮かび上がり、宙に舞った。
 弾き飛ばされながらも、吸血鬼はマントを翼のように広げて体勢を整える。両手に瘴気を集め、着地と同時に理心とミヒャエルを狙って腕を振った。放たれた瘴気は一瞬で燃え上がり、蝙蝠の形を成して飛んで行く。
 外套を翻しながら、理心は炎撃を紙一重で回避。が、炎が頬を若干焼き、頭髪が数本チリチリと燃えた。
 彼とは逆に、ミヒャエルは炎を避けようとしない。蝙蝠が肩に噛み付き、炎が全身を飲み込んだ。
 燃え上がるミヒャエルを眺めながら、吸血鬼は不敵な笑みを浮かべる。だが、それも束の間。彼の周囲に真空の刃が生まれ、炎を消し去って敵に降り注いだ。
「肉を切らせて骨を断つ…年甲斐も無く、少々張り切り過ぎてしまったな」
 敵が技を出した直後の隙を狙うため、ワザと攻撃を受けたミヒャエル。大胆過ぎる行動は、アヤカシの意表を完全に突いたようだ。
「理心を、狙った…絶対、に、許さない…!」
 怒りの言葉を口にし、兵装を掲げる結咲。彼女の怒りを表すように、精霊力が幻影の炎となって出現。実体の無い炎撃がアヤカシを包んで燃え上がった。
 全身を焼かれながらも、吸血鬼は地面を蹴って突撃。お返しとばかりに、ミヒャエルと結咲が攻撃した後の隙を狙って2人を通過。後方に居る理心に向かって、鋭い牙を剥いた。
 それが届くより早く、吸血鬼の背から黒い刀身が生える。
「…俺が、アイしてあげるさ…優しく、な。君には、死が似合いだな…暗くて、とても美しい…」
 恍惚とした表情を浮べながら、理心は赤潤の刃を更に深く突き刺す。刃でアヤカシを刺し貫き、近くで観察するタイミングを、彼はずっと狙っていたのだ。歓喜が全身を駆け抜け、笑みが止まらない。
 その状態で更に幽霊系の式を召喚し、敵の脳内に呪われた声を響かせる。見えない攻撃が吸血鬼の内部からダメージを与え、数秒で全身を瘴気に還した。


 結咲達が戦闘を始めた頃、第2班は木漏れ日の中を歩いていた。敵に狙われ易くするため、香は怯えた演技をしながらケイウスの腕を掴んでいる。
「大丈夫だよ、心配しないで! 何があっても俺が守るからさ!」
 香を励ますように、優しく声を掛けるケイウス。2人の様子は、一般人が襲われた状況に似ている。
 彼等の演技が功を奏したのか、目の前で瘴気が集まっていく。それが一瞬で硬質化し、アヤカシとして出現した。
 突然の事に、驚愕の表情を浮べるケイウスと香。これが演技なのだから、2人共大した役者である。
 その事に微塵も気付いていない吸血鬼は、嬉しそうに笑みを浮かべた。静かに歩み寄りながら、ゆっくりと腕を振り上げる。五指を大きく広げ、爪を一気に振り下ろした。
 ほぼ同時に、香は軽くステップを踏みながら、紙一重で攻撃を避ける。流れるような動きから鋼線を振り、敵の胴に傷を刻み込んだ。
「すまへんのぉ。生憎、自分は恐怖する程弱ないし、絶望する程想っとる奴は『もう』居らんねん」
 言葉を語る香は、いつもの無表情に戻っている。演技の時間は終わり…という事なのだろう。今度は、アヤカシが驚愕の表情を浮べる番だ。
 追撃するように、ハヤテは後方の茂みから飛び出して銃を撃ち放つ。死角からの射撃が敵に直撃し、傷口から瘴気が吹き出した。
「香くん、ケイウスさん、囮役お疲れ様。名演技だったよ」
 クスクスと笑いながら、言葉を掛けるハヤテ。茶化しているのか褒めているのか、かなり微妙なトコロである。
 戦闘に備え、ケイウスは竪琴を掻き鳴らした。ビロードのような美しい音色が精霊に干渉し、周囲の開拓者全員に加護を授ける。
 驚愕していた吸血鬼だったが、その顔が怒りの形相に変わっていく。奴等にとって、人間は餌でしかない。その餌が抵抗するなど、屈辱以外の何物でもない。真紅の瞳に怒りの炎を燃やしながら、爪を突き出した。
 冷静さを失った攻撃は、香にとって絶好の的でしかない。舞うような軽やかな動きで攻撃を避け、鋼線で敵の体を斬り裂いた。
「ここに潜んでいる理由は何だ? お前の目的は何だ!?」
 ケイウスは気になっていた疑問を、思い切ってアヤカシにぶつける。当然、敵である吸血鬼が、それに応えるワケが無い。残念そうに溜息を吐きながら、ケイウスは周囲の空間に重低音を叩き付けた。
 衝撃が敵の全身を駆け抜ける中、ハヤテは連続で銃撃を放つ。真っ直ぐな弾道が命中の直前で急角度に曲がり、アヤカシの体に穴を穿った。
 連続攻撃を受けて自身の不利を悟ったのか、吸血鬼は周囲を見渡す。その様子は、まるで逃げ道を探しているようだ。
 敵の異変に気付いたケイウスと香は、軽く視線を合わせて頷く。直後、ケイウスは再び重低音を浴びせ、敵の脚を止めた。
 香は鋼線を振りながら距離を詰め、吸血鬼の隣を駆け抜ける。ダメージは与えていないが、彼の狙いは別にあった。木と木の間、林道を横断するように張り巡らせた鋼線が、敵に絡み付いて動きを封じている。
 ゆっくりと、ハヤテは吸血鬼に向かって歩を進めた。巨大な銃を両手で構え、敵の眉間に銃口を突き付ける。
「闇雲に強くなりたかった『あの頃』とは違う…護るものがあるから、どんな敵だろうと倒す。お戯れはここまで…さぁ眠れ」
 引金と共に、乾いた銃声が周囲に響いた。冷たい言葉と冷たい弾丸が眉間を貫通し、命を砕く。全身が徐々に瘴気と化し、崩壊が始まった。
「なんや、おまん。顔だけやのぅて、死に際も醜いのぉ」
 鋼線で動きを封じられ、恐怖と怒りで顔を歪めたアヤカシ。この姿を見たら、誰でも『醜い』と思うだろう。そのまま、吸血鬼は空気に溶けるように消滅した。


 三四郎、ヘスティア、リズレットの3人は、林道の出口付近まで到達していた。1時間近く歩いたが、アヤカシが出る気配は未だに無い。諦めかけていた時、周囲の瘴気が急激に濃度を増した。
 濃厚な瘴気が一点に集まり、数秒で実体を持つ。突然出現したアヤカシに開拓者達が驚く暇も無く、吸血鬼は爪を振り下ろした。
 咄嗟に、ヘスティアはリズレットの腕を引いて自身の胸に抱き締める。直撃は避けたものの、爪が頭髪を掠めて、白銀と赤の髪が数本宙に舞った。
「お前、女の扱いを知らねぇな? そんな奴に、リズレットのエスコートは任せられねぇぜ」
 不敵な笑みを浮かべながら、皮肉を口にするヘスティア。彼女の挑発的な態度が気に障ったのか、アヤカシは指を揃えて爪を突き出した。
 ヘスティアは素早くリズレットを抱き上げ、後方に跳び退く。爪撃が空を切る中、リズレットは銃を構えた。着地と同時に、ヘスティアに抱かれたまま引金を引く。放たれた弾丸は吸血鬼の肩を貫き、瘴気が吹き出した。
「こちらに来てから初めての依頼ですが…思ったよりも緊張しないものですね。これなら、問題ありません」
 銃の手入れは完璧、精神状態も良好。これなら、アヤカシを倒すのに何の憂いも無いだろう。
「女子供を狙うとは、腕に自信が無いんでしょうかね? 私と戦う勇気があるなら、お相手しましょう…!」
 囮の2人とは距離を離していた三四郎が、蓑笠を脱ぎ捨てて駆け寄る。挑発にも似た雄叫びが周囲に響き、敵の注意が彼に向いた。視線が逸れた隙に、ヘスティアはリズレットを優しく下ろす。
「良いタイミングだぜ、三笠。ここは、挟み撃ちといくか」
 ヘスティアの提案に、三四郎は静かに頷いた。アヤカシを前後から挟むように移動し、兵装を握り直す。
 接近する三四郎を迎え撃つように、吸血鬼は鋭い爪を振り下ろした。空を切るように、敵の爪撃が迫る。
 三四郎は微塵も速度を落とさず、真正面から突撃。爪が頬を掠め、赤い線を描いた。それでも、利き脚で大きく踏み込みながら三叉の槍を全力で突き出す。矛先が吸血鬼の脇腹に命中し、抉るように削り取った。
 ほぼ同時に、ヘスティアが背後から鋼線を舞わせる。鋭利で細い鋼が入り乱れ、敵の背に格子状の傷を刻んだ。
 接敵している2人に当たらないよう、リズレットは敵の頭上に向けて銃撃を放つ。直進していた銃弾が、敵の直上で急角度にカーブ。上空から地面に向けて急降下し、アヤカシの体を垂直に貫いた。
 深手を負いながらも、吸血鬼は両腕を伸ばして三四郎の肩を掴む。そのまま自分へ抱き寄せ、大きく口を開いた。
 反射的に、三四郎は槍を手放してアヤカシの脚を払う。体勢が崩れた瞬間に全力で敵を掴み、誰も居ない方向へ投げ返した。
「失礼。男性に…しかもアヤカシに組み付かれるのは、予想以上に不快だったので」
 サワヤカに微笑みながら手を離し、三四郎は後方に跳び退く。吸血鬼が起き上がる中、ヘスティアは鋼線を敵に巻き付けた。絶妙な力加減で絡ませ、相手の動きを完全に封じ込める。
「人の形容を撃ち抜く事に抵抗はあれど、躊躇う事はしませんよ…リゼがここですべき事は、分かっているつもりですから…」
 静かに意志を固め、銃を構えるリズレット。正確な狙いから放たれた1撃は、吸血鬼の心臓を貫通。敵の体が一瞬だけ痙攣した直後、瘴気と化して弾け散った。


 数十分後、9人は林道の出口で再会した。互いの状況を報告し、情報を交換しあう。結局、吸血鬼は全ての班に現れた。その狙いが何なのかは不明だが、もう出現する事は無いだろう。
 討伐を終え、今回の事件を想い返す結咲。自分と同じ、蝙蝠の特性を持った者の存在を。
「……―――」
 小声で呟いた言葉は、誰の耳にも届かずに風に乗って消えていった。
「……おら、帰るぞ」
 物思いに耽る結咲の後頭部を、理心が乱暴に叩く。
 それは、いつも通りの行動、いつも通りの会話。結咲に帰る場所がある限り、彼女は吸血鬼のようにならないだろう。
 和やかな雰囲気の中、9人は帰路へと着いた。