震える山
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/31 21:52



■オープニング本文

 天高く昇った太陽に、忙しそうに動き回る住人達。いつも通りの、何も変わらない日常。そこには平和があり、人々の生活がある。
 家畜に餌をやり、畑に水を撒く農民達。作業が進んでいく中、突然足元が揺れた。
 体に感じる、不快な振動。水面が波打ち、家具や食器がカタカタと鳴る。突然の地震に、誰もが周囲を見渡して安全な場所に移動した。
 時間にして、約30秒後。ようやく揺れが治まり、村人達は胸を撫で下ろした。家屋の倒壊等の被害は無いが、揺れが続くのは気分の良い事ではない。
「最近、地震が多いわね…嫌になっちゃう」
「確か、昨日もあったでしょ? 何だか、気味が悪い…」
 井戸端会議に花を咲かせる、熟年主婦達。揺れの大小はあるものの、今年に入って地震の数が多くなった。目立った被害は何も無いが、だからこそ『大きな地震が来るかもしれない』と不安になるのだろう。
「大変だぁぁぁぁ!!」
 大声を上げながら、村に駆け込んで来る男性が1人。不安な表情を浮べながら、住人達は男性の周囲に集まり始めた。
「ちょっとアンタ! 一体、何があったんだい!?」
「大変なんだよ! 山ん中の岩が…岩が動いたんだ!!」
 慌てた様子で、自分の見た事を話そうとする男性。相当混乱しているのか、その内容は支離滅裂で状況が分からない。彼を落ち着けながら話を聞いた結果、とんでもない事が分かった。
 男性が山を散策中、巨大な『人型の岩』を発見。それが動いて地面を殴った直後、地震が発生したらしい。自然界に、動く人型の岩など存在するワケが無い。間違い無く、アヤカシだろう。
 今は弱い地震だけで済んでいるが、いつ襲って来るか分からない。村人達が話し合った結果、ギルドに依頼する事になった。


■参加者一覧
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
クルーヴ・オークウッド(ib0860
15歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ガラード ソーズマン(ic0347
20歳・男・騎
ピュイサンス(ic0357
12歳・女・騎
夢路(ic0681
17歳・女・サ
錘(ic0801
16歳・女・サ


■リプレイ本文

●振動を生む源
 緑の若葉が生い茂る山中、整備された道を外れてヤブや茂みを歩く者が数人。単なる散策なら良いのだが、様子を見る限り、趣味を楽しんでいるようには見えない。
「山で振動を起こす巨人…『山の規則違反』だと思います。村人や動物達のためにも、必ず倒しましょう」
 周囲の様子を見渡しながら、静かに口を開く鈴木 透子(ia5664)。彼女達開拓者が山を歩き回っているのは、アヤカシを退治するためである。
「無論だ! 民や仲間の役に立てるのならば、私はいくらでも力を貸しましょうぞ!」
 熱い叫びと共に、ガラード ソーズマン(ic0347)は拳を握った。彼の言葉に嘘偽りは無いが、『ついでに名声も欲しい』と思っていたりする。
「ボクも全力で協力するのです! インファイトこそ、燃える漢闘女(ヲトメ)の生きる道っ!」
 同意しながら、ピュイサンス(ic0357)は巨大な握り飯にカブりついた。左腕全体が義肢になっているため、活動するのに相当なエネルギーを消費しているのだろう。周りを警戒しながらも、食事の手は止まらない。
「勇ましい騎士さん達だねぇ。気張り過ぎて、敵に倒されても知らねぇぞ?」
 不敵な笑みを浮かべながら、煙管をフカす百舌鳥(ia0429)。言葉は少々雑だが、万が一仲間が倒されそうになったら、彼は一瞬も迷わずに護るだろう。
 歩く事、数十分。樹木の数が徐々に減り、拓けた場所に出た。崖や坂の無い、平坦で広い空間。戦闘をするのに、好条件が揃っている。
「貰った地図によると、目撃情報があるのは、この辺りですね。一定の距離を保って、周囲を警戒しましょう」
 クルーヴ・オークウッド(ib0860)は現在位置と地図を見比べ、仲間達に声を掛けた。彼の持つ地図は、依頼元の村で書いて貰った物である。目撃者に道案内を頼む案もあったが、安全を考慮して開拓者達だけで行く事になったのだ。
「あ、大き目の岩には注意した方が良いかも。擬態して、不意討ちしてくるかもしれないし」
 目撃者の情報では、岩巨人は突然動いたらしい。リィムナ・ピサレット(ib5201)の言う通り、周囲に注意を向けた方が危険は少なくなるだろう。
「不意討ちされても……関係ない……私は斬るだけ……」
 独り呟き、夢路(ic0681)は兵装に手を伸ばした。彼女は、怪我をして血に濡れる事を気にしない。痛みを感じないワケではないが、アヤカシに対する憎悪が体を突き動かすようだ。
 開拓者達が周囲を見渡す中、突然地面が揺れる。次いで、木々を薙ぎ倒しながら近寄って来る巨大な影。岩の肉体を持つ怪異…岩巨人。
「…どうやら、これが撃破目標みたいですね。皆さん、一緒に頑張りましょう」
 斧を握りながら、仲間達に視線を送る錘(ic0801)。彼女同様、開拓者達は戦闘の準備を整えてアヤカシと対峙した。

●天罰を体現する者達
「あいつは、ボディが甘いよっ! ボディが、ガラ空きだよっ♪」
 真っ先に動いたのは、リィムナだった。歌声に精霊力を乗せ、敵に向ける。それが岩巨人の全身に作用し、防御能力を低下させた。
 更に、軽快な楽曲を奏でて仲間達を鼓舞し、ガラードとピュイサンス、錘の能力を強化していく。
「支援、感謝しますぞ! 騎士の誇りに懸けて…ガラード ソーズマン、参る!」
 裂帛の気合を込め、ガラードは金槌を手に突進。強度の低いであろう膝の関節を狙い、兵装を大きく薙いだ。硬い金属音が周囲に響き、衝撃が敵の全身を駆け抜けていく。
「ガラ兄様に続くのです! やや内角を抉るように…うぅぅりゃぁぁぁ!」
 間髪入れず、敵の懐に飛び込むピュイサンス。鉄の拳を強く握り、素早い動きから拳撃を叩き込んだ。その位置は、ガラードが攻撃した箇所とほぼ同じ。火花が散る中、巨人の膝に細かい亀裂が走った。
 敵の注意が脚に向いている隙に、錘が逆側から接近。小振りな斧を上段に構え、気を集中させて全力で振り下ろした。狙われていなかった脚を斧の刃が斬り裂き、瘴気が漏れ出す。
「…岩でも、斬れない事はありませんね。硬くて厄介ですが」
「物理的に硬いなら、僕はコレで勝負です」
 クルーヴは離れた位置で片手剣を抜き、肩に担ぐように振りかぶった。その刀身に、薄い桃色のオーラが集中していく。狙いを定め、剣を薙ぐように振り抜いた。刀身に集まっていたオーラが光弾と化し、薄い桃色の軌跡を描きながら飛来。実体の無い一撃が直撃し、衝撃が全身を打ち付けた。
 その隣で、透子が符を投げ放つ。青白い炎が一瞬奔り、符から巨大な蛇の式が召喚された。それが岩肌に喰い付き、穴を穿つ。
 立ち昇る瘴気を振り払うように、夢路は2本の脇差を揃えて叩き付けた。刀身が敵の膝を斬り裂き、飛び散った欠片が瘴気と化して消えていく。
 仲間達が次々に攻撃していく中、百舌鳥は不退転の覚悟を決めて気合を放出した。それが全身を駆け巡り、肉体を硬質化して防御を高める。
 突然、アヤカシは両の拳を打ち付けて腕を上げた。ゆっくりと周囲を見渡す姿は、攻撃対象を選んでいるようにも見える。攻撃に備え、開拓者達は様子を伺いながら身構えた。
「おい、あんたの相手はこっちだ! 俺に攻撃するのが怖いのか!?」
 百舌鳥の雄叫びが、大地を響かせる。その声に注意を引かれたのか、岩巨人は彼に向かって脚を一歩踏み出した。拳を握って体重を乗せ、全力で振り下ろす。
 迫り来る拳撃に対して、百舌鳥は素早く太刀を地面に突き刺した。刀身に腕を交差させ、防御を固める。巨大な拳が衝突し、衝撃が百舌鳥の全身を駆け抜けた。奥歯を噛み締めてそれに耐えるが、切先が地面から抜けて体勢が崩れる。追撃するように、アヤカシが2撃目を放った。
「百舌鳥さん、これを使って下さい」
 言うが早いか、透子は百舌鳥の正面に巨大な白い壁を召喚。それが防壁となって、百舌鳥を守っている。
 だが、岩巨人はそんな事を一切気にしない。拳撃が防壁を砕きながら、百舌鳥に伸びていく。破片が派手に飛び散る中、周囲に響く金属音。防壁で威力が弱まった攻撃を、百舌鳥は完全に受け止めていた。
 彼の無事を確認し、透子の顔に安堵の笑みが零れる。リィムナはニヤリと笑いながら、再び歌声を響かせた。敵の能力を下げつつ、今度はクルーヴ、夢路、百舌鳥の能力を強化する。
 その状態で、クルーヴは再び刀身にオーラを収束させた。剣を振って光弾を放つと、百舌鳥は地面を蹴って後方に退避。無防備なアヤカシにオーラの光弾が直撃し、穴を穿った。
 ほぼ同時に、夢路と錘が兵装を振り上げる。狙いは、左右の膝。全身の力を込めて、一気に振り下ろした。両脚を同時に狙われ、敵のバランスが崩れる。2人は軽く視線を合わせ、兵装を横に薙いだ。脚の内側から、外側に向けて斬り裂く一撃。両膝に亀裂が広がり、巨人の体が大きく揺らいだ。
 ガラードの流れるような斬撃が、更に敵のバランスを崩す。それでも倒れないアヤカシに対し、体を捻りながら地面を蹴って跳躍した。
「我が渾身の一撃…とくと味わうが良い! ヌオォォォォォォォッ!!」
 獣のように吠え、体勢を戻しながら全力で金槌を薙ぐ。鋭く力強い殴打が敵の頭部を捉え、粉々に打ち砕いた。
 普通の生物なら頭部を失ったら絶命するが、相手はアヤカシ。瘴気を撒き散らしながらも、倒れる様子は微塵も無い。それどころか、両手を組んで地面に向けて振り下ろした。
 咄嗟に、透子は白壁を生み出して殴打の妨害を図る。壁はそれなりの強度があるが、アヤカシはそれを豆腐のように粉砕。拳が地面を強打し、振動が発生した。
 衝撃が奔る直前、ピュイサンスは大量のオーラを集中して戦闘能力を上昇させる。向かって来る衝撃に対し、彼女も地面をブッ叩いて振動を起こした。その一撃で、アヤカシの衝撃波が若干弱まる。
 それでも、人工的な地震が脚から全身に上り、百舌鳥、ガラード、ピュイサンス、夢路、錘の動きが一瞬止まった。無防備な開拓者に、巨人の拳撃が迫る。狙われたのは、夢路。直撃を受けて衝撃が全身を襲い、額が切れて血が流れ出す。
「いくらでも……殴ればいいわ……最後に消えるのは……アヤカシなのだから……」
 ダメージを負いながらも、夢路の表情は微塵も変わらない。その代わり、燃えるような怒りを表すように、両手の兵装を強く握り締めた。
「その振動…山の神様はお怒りです。これは、天罰ですよ」
 静かに言い放ち、透子は両手の呪術兵装を構える。山の規則違反をしたアヤカシに、密かに怒りを抱いていたのだろう。大蛇の式を生み出すと、それが敵を左右から挟み込むように飛来し、両肩に喰らい付いた。
「遊びは終わりだよっ! 喰らえ、鏖殺の交響曲…ジェノサイド・シンフォニー!」
 リィムナが奏でる最終楽章…それは、荒ぶる神霊を鎮めるための曲。外傷を一切与えず、魂を無に還すといわれる楽曲。演奏に込められた力が内部からアヤカシを破壊し、体勢が崩れて片膝を付いた。
「今がチャンスです。皆さん、一気に決めましょう…!」
 ダメージが蓄積され、崩れ落ちた今が絶好の機会。クルーヴは剣を手に地面を蹴って走り、一気に間合いを詰めた。
「…援護します。終わりにしましょう」
 彼の動きに合わせ、錘が斧を構える。互いに呼吸を合わせ、渾身の力を込めて兵装を叩き付けた。2人の斬撃が交差し、アヤカシの胸部を深々と斬り裂く。
 瘴気が噴き出す中、ガラードは遠心力を利用して金槌を大きく振った。渾身の殴打が右脇腹に炸裂し、亀裂が奔る。大きく踏み込んで手首を返し、今度は逆脇に打撃を叩き込んだ。
 怒涛の連続攻撃を受けながらも、アヤカシは右腕を振り上げる。どうやら、戦う事をまだ諦めていないようだ。岩の拳が握られるのと同時に、青緑色の剣閃が腕を斬り落とした。
「今回は防御に徹するつもりだったんだがな…さっきのお返しだけしとくぜ?」
 不敵な笑みを浮かべ、百舌鳥は青緑色の刀身を鞘に納める。入れ替わるように、今度は夢路が脇差を奔らせた。二刀が入り乱れ、斬撃が巨人の左腕を斬り落とす。
「ねぇ……楽しい……? 人を殺すの……楽しい……? あなたを斬るのは……とっても退屈……」
 斬って斬って斬り続けた、夢路の純粋な疑問。無論、アヤカシから答えは返ってこない。それでも、彼女は聞かずにはいられなかったのだろう。
 オーラを全身に纏ったピュイサンスは、左手を顔の高さで構えた。鋼鉄の左腕に、緑色に輝くオーラが集まっていく。
「ボクのこの手が光って唸る! お前を砕けと輝き吼える! ひぃぃっさーつ! しゃぁぁいにんぐぅぅ…すまぁぁっしゅ!」
 その一撃は、正に『鉄拳制裁』。輝く拳が敵の胴に突き刺さり、亀裂が全身に広がっていく。そこから緑色の光と共に瘴気が溢れ出し、数秒もしないうちにアヤカシは砕け散った。欠片は一瞬で瘴気と化し、空気に溶けるように消え去る。

●静かな山と、笑顔の村
「あたし達の…勝ちだねっ♪」
 片腕を突き上げ、勝利宣言をするリィムナ。相当ご機嫌なのか、満面の笑みを浮かべている。
「そうですね。アヤカシのコアもありませんし、大勝利です」
 周囲を見渡し、クルーヴは同意の言葉を口にした。コアが残っていたら、アヤカシが再生する事もある。それを気に掛けていたのだが、今回は全てが消滅したようだ。
 戦闘が終了した事で、透子は符から癒しの力を持った式を召喚。小さな式だが、それが百舌鳥や夢路の体と同化し、ダメージを癒した。
「お2人共、大丈夫ですか? 負傷があれば、遠慮無く言って下さい」
「俺はもう大丈夫だ。手間掛けちまって、悪かったな」
 透子の質問に、苦笑いを返す百舌鳥。一度は仲間を守れたが、結果として負傷し、仲間の世話になってしまった。その事を気に病んでいるのだろう。
 もっとも、透子は回復を手間だと思っていないし、微塵も気にしていないが。
 夢路は静かに頭を下げ、感謝の気持ちを示した。
(また、逝けなかった……私に……生きる意味なんて無いのに……)
 その内心では、自身が生き残った事に納得出来ないようだ。『死の傍に居れば、亡くなった家族が迎えに来てくれる』…そんな想いが、彼女の胸にあるのだろう。
「…では、村に戻りましょうか。依頼の報告もありますし」
 斧を納めた錘が、仲間達に声を掛ける。依頼は達成したが、依頼主の村人達はその事を知らない。報告も兼ねて、皆を安心させたいのだろう。
 他の開拓者達も、同意するように静かに頷く。が、ピュイサンスは腹部を押さえながら、膝から崩れ落ちた。
「あ〜…ボク、充電切れそうです…皆様、後の事は…お願い……」
 コテンと地面に転がり、寝息と腹の虫が同時に鳴る。どうやら、空腹の限界を超えて眠ってしまったようだ。ピュイサンスの可愛らしい言動に、周囲から笑い声と笑みが零れる。彼女はガラードが抱き上げ、8人は山を下山。村へと報告に戻った。
 開拓者達を出迎えたのは、村人達の歓声と拍手だった。アヤカシを倒した事を伝えると、歓声が一際大きくなる。
「困った事があれば、またギルドにお願いして下され! 私も駆けつけましょうぞ、ワッハッハ!」
 豪快に笑いながら、村人達に声を掛けるガラード。これが彼の知名度アップに繋がるかは分からないが、積み重ねた経験は無駄にはならないだろう。