異様にして異常
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/28 20:05



■オープニング本文

「きゃぁぁぁ!!」
 爽やかな朝を打ち砕く、絹を裂くような叫び。次いで、子供の泣き声や野太い絶叫が湧き上がっていった。
 追い打ちをかけるように、周囲に響く破壊音。家屋が、倉庫が、蓄養所が、無残に壊れていく。村人達に出来るのは…それを見守る事と、逃げる事しかなかった。
 混乱を引き起こしている元凶は、アヤカシ。1m程度の鬼達が、村中で好き勝手に暴れ回っていた。その数、約30。これだけの数が何の前触れもなく現れるのは、異様な事である。家屋を破壊する者、家畜を追い回している者、畑を潰す者…様々な動きをしているが、全員『村を荒らしている』事に変わりはない。
 しかも、アヤカシ達は村の周囲を取り囲むように出現していた。そのため住人達は逃げ道を失い、村の中央辺りに固まって避難している。
 唯一の救いは、アヤカシが村の破壊を優先している事だろう。多少の怪我人は居るものの、重傷や死亡者は1人も居ない。その代わり、村が破壊される姿を見続ける事になっているのは、皮肉な話だが。
 しかし…全ての家屋が破壊されたら、アヤカシ達はどうするだろうか?
 言うまでもなく、奴等は人類の天敵。人間を餌としか見ていない。このままでは、住人達はあと数時間で『喰われて』しまうだろう。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
大淀 悠志郎(ia8787
25歳・男・弓
呂宇子(ib9059
18歳・女・陰
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
神室 巳夜子(ib9980
16歳・女・志
帚木 黒初(ic0064
21歳・男・志
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
ユーディット・ベルク(ic0639
20歳・女・弓
唐木 五十鈴(ic0777
18歳・女・ジ


■リプレイ本文

●壊れていく日常
 轟音が村中に響き、土埃が舞い上がる。小鬼の姿をしたアヤカシのせいで、また家屋が1軒崩れ落ちた。奴等の動きに統一性は無く、知性が微塵も感じられない。
 アヤカシが破壊活動を続ける中、数匹が突然目標を変えた。向かう先は、家屋でも家畜小屋でも村の建造物でもなく…村人達。突然の事に、誰もが驚愕と恐怖の入り混じった表情を浮べた。
 恐怖する村人達を眺めながら、下品な笑い声を漏らすアヤカシ達。徐々に距離が縮まる中、白い突風がアヤカシの1体を吹き飛ばした。そのまま、小鬼の体が瘴気に還っていく。
 瘴気が空気に溶けていく中、緋乃宮 白月(ib9855)は両の拳を強く握った。
「村人さん達に手出しするなら、手加減しませんよ? ここは通しません…!」
 突風に見えたのは、高速移動した白月。彼の後を追い、数人の開拓者が村人達を守るように駆け寄る。
「ギルドの要請で、すっ飛んできたわ。もうちょっとの辛抱よ」
 励ましの言葉と共に、呂宇子(ib9059)は村人に笑顔を向けた。符を取り出しながら敵に向き直り、周囲に対する警戒を強める。
「大丈夫、貴方達には指一本触れさせないわ! 悲劇は繰り返させない…絶対に!」
 力強く宣言し、弓を握るユーディット・ベルク(ic0639)。言葉だけではなく、彼女の紫色の瞳にも強い意志が籠っている。
「鬼退治、私達に任せて頂けませんか? 皆さんの無念は、必ず晴らしてみせます」
 優しく語り掛けながら、神室 巳夜子(ib9980)は刀に手を伸ばした。村人を危険に晒さないよう、敵の動きや物音に注意を怠らない。
「村人達は保護出来たみたいですね。これで、遠慮無く掃討に専念出来ます」
 言いながら、三笠 三四郎(ia0163)は敵の中に一気に踏み込んで槍を突き出した。三叉の矛先がアヤカシの頭部を貫通し、瘴気となって弾け飛ぶ。それを振り払い、三四郎は槍を構え直した。
「さて…雑魚が大勢とも来れば、一遍に片付けたいですが、今回は地道に行きますかね」
 帚木 黒初(ic0064)の刀が、敵を両断して瘴気に還す。アヤカシと対峙しながらも、逃げ遅れた村人が居ないか、一応注意を向けている。
「ここまで数が多いと、索敵するまでもないな。村人に近い鬼から狩っていくか…」
 大淀 悠志郎(ia8787)は敵の位置を把握しようとしたが、視界には大量の小鬼。探すまでもなく、的は村中で暴れている。悠志郎は弓を構え、味方を援護するように矢を放った。
 鋭い弓撃が小鬼を貫通した直後、ジェラルド・李(ic0119)が素早く距離を詰めて長巻を大きく薙ぐ。
「…被害が広がる前に、とっとと退治するぞ。アヤカシ如きに村を破壊されるなど、御免だからな」
 兵装を軽く振ると、アヤカシが瘴気となって崩れ落ちた。視界の端でそれを確認しながら、次の敵に斬り掛かる。
「せ…先手必勝、です。自分達の家が壊されていくのを、見ているだけなのは、つ…辛いでしょうし」
 おどおどしながらも、唐木 五十鈴(ic0777)は5cm程の釘を投げ放った。不意討ち気味の投擲が、小鬼の側面に深々と突き刺さる。
「そうだな。これ以上の犠牲はたくさんだ…早めに終わらせるぞ」
 追撃するように、宮坂 玄人(ib9942)が急接近。緋色の剣閃が奔り、アヤカシを両断して瘴気に還した。
 村人達を守る4人に、敵を撃破する6人。アヤカシから村を取り戻すため、10人の戦いが始まった。

●殲滅と護衛
「唐木さんの言う通り、先手必勝で迅速にいきましょう。あ、私に近付き過ぎないよう、注意して下さいね?」
 サワヤカな笑顔を仲間達に向け、三四郎は槍を大きく振り回す。豪快な殴打が、自身の周囲に居た敵をまとめて薙ぎ倒した。まるで竜巻のような激しい攻撃だが、周囲の家屋を破壊しないよう注意を払っている。
 数匹のアヤカシが瘴気と化す中、悠志郎は矢を射ち放った。
「寄って来ない様なら、一方的に狩るだけだ…」
 言葉通り、彼の射撃は攻撃というより『獲物を狩る獣』のように荒々しい。猛獣の牙の如く、矢が小鬼を貫通。穿たれた孔から瘴気が吹き出し、全身が暗紫色の霧と化して一瞬で弾け散った。
(有効な打撃を与えるために…しっかり狙って、一手を大切に撃たないと)
 釘を構え、狙いを定める五十鈴。さっきの投擲は巧くいったが、次も成功するとは限らない。だが、少しでも早く事態を収束するには、ミスは許されない。精神的な重圧が緊張を呼び、手が小刻みに震え始めた。
 そんな彼女の肩を、玄人が力強く叩く。
「気負い過ぎるな。周りには、仲間が居る。アンタの援護、期待してるぜ?」
 ほんの少しだけ笑みを浮かべ、玄人は再び敵に向かって駆け出す。殺気の籠ったフェイントで敵の注意を引き、棍棒の殴打は小手を払うように捌いた。
 一瞬の隙を縫うように、五十鈴が釘を投げ放つ。鋭い先端が小鬼の体を貫通し、瘴気と化した。
 開拓者による殲滅が続く中、周囲を見渡すアヤカシが1体。それに気付いたジェラルドは、刀から小柄を抜いて投げ放った。それがアヤカシの足元に突き刺さり、瞬間的に動きが止まる。
「……怯えたな? その一瞬が、命取りだ……っ」
 一瞬だとしても、ジェラルドが隙を見逃すワケが無い。俊敏な動きで間合いを詰め、全力で斬り掛かった。切先がアヤカシを両断し、地面をも斬り裂く。
 攻撃班6人が大暴れしているお陰で、アヤカシの注意は村人から完全に外れている。その間に、ユーディットは自身の荷物袋を下ろした。
「道具はこの中に入ってるから、誰か怪我の治療をお願い!」
 村人の中には、擦り傷を負っている者が多い。重傷者は1人も居ないが、どんな怪我でもユーディットは気になるのだろう。彼女から道具を受け取ると、村人達は治療を始めた。
「皆さん、僕達から離れ過ぎないで下さいね?」
 村人に合わせて、白月も移動していく。それは彼だけでなく、他の3人も一緒だ。敵の不意討ちを喰らわないよう、周囲への警戒を怠らない。
「逃げ遅れた人は居ない? 知り合いとか、ご近所さんとか、周囲を確認してみて」
 呂宇子の言葉に、村人達が周囲を見渡す。アヤカシが暴れている以上、離れていたら危険極まりない。それに、倒壊した建物の下敷きになっている可能性もある。
「万が一、取り残された民が居るなら教えて下さい。必ず、私達が救出してみせます」
 巳夜子達、護衛班の役目は村人を守る事。勿論、それは逃げ遅れた者達も含まれる。呂宇子と巳夜子は『最悪の展開』も覚悟していたが、どうやら杞憂に終わったようだ。行方不明者の名前を言う者は、誰も居ない。
 その様子に、胸を撫で下ろす護衛班。だが、敵の脅威は終わっていない。戦闘班の隙を突いたのか、近くで瘴気が具現化したのか、数匹の小鬼が村人に向かって突撃してきた。
 予想外の事に、小さな悲鳴が周囲に響く。ほぼ同時に、呂宇子は符を2枚投げ放った。
「遠慮はナシよ、頭からバクッとやっちゃいなさいな!」
 叫びと共に、オニオコゼの姿をした式が召喚される。20cm程度の大きさだが、それが小鬼に喰らい付いて瘴気を吸収。数秒もしないうちに、2匹のアヤカシは跡形も無く喰い尽くされた。
 呂宇子の真逆、背面側からもアヤカシ達が迫っている。白月とユーディットはその進路に割り込み、タイミングを合わせて蹴撃を放った。2人の水平蹴りで、アヤカシが派手に吹き飛ぶ。
「さぁ…お姉さんに倒されたいのは誰かしら? まさか、タダで済むとは思ってないわよね?」
 追撃するように、ユーディットの超高速弓撃が乱れ舞う。それに合わせて、呂宇子の式が敵に喰らい付き、アヤカシを消滅させていった。
「ユーディットさんの言う通りです。村人さん達に迷惑をかけた分、しっかりお返しします…!」
 更に、白月は踊るような動きで戦布を翻し、打撃を叩き込んでいく。棍棒の殴打が体を掠めて血が滲んでも、それを気にする様子は無い。
「貴方達を葬っても、大切なものを失った民の心が癒える訳ではないのです。それでも私は…貴方達に刀を向けずには居られません」
 巳夜子の顔に、怒りと悲しみが浮かぶ。それは一瞬で消え去り、敵との間合いを詰め、流れるような動きで斬撃を放った。斬り裂かれた小鬼が、瘴気となって弾け飛ぶ。
 護衛班が戦っているのと、ほぼ同時刻。攻撃班の6人も、激戦を繰り広げていた。
 振り下ろされた棍棒を、刀で受け止める黒初。動きが止まった隙を違う敵に狙われ、後方に跳び退いて回避した。
「前言撤回。『地道に』とは言いましたが、これだけ居るのなら…!」
 不敵な笑みを浮かべながら、兵装に練力と精霊力を収束させる。正面から迫り来る敵の殴打をギリギリで避け、刀を振り下ろした。直後、紅葉のような燐光が散り乱れ、練力が渦巻く風の刃を生み出す。それが一直線に奔り、複数の小鬼を斬り崩した。
 アヤカシが瘴気となって弾け飛ぶ中、轟音と共に土埃が舞い上がる。
「あ……す、既に壊されている建物なら、気にしなくても良かったりしますかね?」
 激しいイキオイで、苦笑いを浮かべる黒初。彼の生み出した風刃は、アヤカシだけでなく家屋も倒してしまったのだ。小鬼のせいで、既にボロボロになっていたが。
「く、黒初ちゃん…い、五十鈴は、『見なかった』事にしておきます」
 たまたま、それを目撃した五十鈴が苦笑いを浮かべる。他に目撃者が居ないのが、不幸中の幸いかもしれない。
 視線を合わせて乾いた笑いを零す2人に、死角からアヤカシが迫る。反射的に、五十鈴はステップを踏んで敵を引き寄せ、暗剣で流れるようなカウンターを叩き込んだ。
 徐々に敵の数が減る中、悠志郎に向かって小鬼が突撃していく。迎え撃つように弓を構え、鋭い射撃を放った。撃ち出された一矢が敵の眉間を射抜き、崩れ落ちる。
 だが、それは囮。すぐ後ろから、別の小鬼が距離を詰めていた。反撃しようにも、矢を番えている時間は無い。アヤカシは棍棒を強く握り、全力で振り下ろした。
 危険な状況にもかかわらず、悠志郎は口元に笑みを浮かべている。上体を反らして敵の攻撃を避けると、弓を投げ捨てた。袖に潜ませた七首を抜き放ち、体勢を整えながら大きく薙ぐ。両脚を斬り裂かれ、敵の体が膝から崩れ落ちた。
「何の備えも無く、敵の前に立つ訳が無いさ。『弓兵相手なら接近すれば問題無い』…とでも思ったか?」
 吐き捨てるように言い、七首を逆手に持って突き立てる。刀身がアヤカシに深々と刺さり、全身が瘴気に還っていった。
 戦況は、開拓者達が有利に進んでいる。相手がアヤカシとは言え、能力的には雑魚。一般人には脅威でも、開拓者にとっては相手にならない。
「ふん…家や樹木のような『動かない物』しか破壊出来ないのか? なら、大人しく消え失せろ…!」
 苛立ちを隠さず、ジェラルドは兵装を上段に構えた。気を集中させて全力で振り下ろし、アヤカシを縦に両断。瘴気が舞い散る中、手首を返して刀を薙ぎ、違う敵を斬り裂いた。言葉通り、アヤカシが瘴気となって消えていく。
「残りも少なくなってきましたね。一気にカタを付けさせて貰います」
 敵の攻撃を受け止めながら、三四郎は全身から凄まじい殺気を放った。ほんの一瞬だったが、周囲の敵を威圧するには充分過ぎる。怯んでいる隙に、槍を振り回した。矛先が敵を斬り裂き、次々に倒して瘴気に戻っていく。
 ようやく自分達の不利を理解したのか、村の外に向かってアヤカシが駆け出した。恐らく、このまま逃走するつもりなのだろう。
 しかし、この10人が敵を逃がすワケが無い。小鬼の動きに気付いた玄人は、その進路に立ち塞がる。鋭い剣閃が宙を奔り、アヤカシを深々と斬り裂いた。
「逃げられるとでも思ったか? 俺の心眼と緋色暁は、お前等アヤカシを斬り裂く…絶対に、な」
 言いながら、刀を鞘に納める。直後、敵の体が瘴気と化し、空気に溶けていった。

●復興の始まり
「今ので、アヤカシは最後? 目に見える範囲には、1匹も居ないみたいだけど…」
 符を構えたまま、周囲を見回す呂宇子。敵の姿は見えないが、どこかに潜んでいる可能性は否定出来ない。
「多分…大丈夫だと思うが。大淀殿、そっちに反応はあるか?」
 玄人は意識を集中させて気配を探っているが、遮蔽物の陰には何も居ない。より確実に敵を探すため、悠志郎に声を掛けた。
 無言で頷き、悠志郎は弓を構えて弦を掻き鳴らす。荒れ果てた村に、共振音が広がっていった。
「いや…少なくとも、周囲に鬼の反応は無い。終わったと考えて良いだろうな…」
 悠志郎の耳に、異音は届いていない。それは、アヤカシが居ない事を意味している。悠志郎の言葉に、村人達から歓喜の声が湧き上がった。
「あ…あの! 五十鈴は、まだ終わってないと…思います。村の復興、とか…」
 五十鈴は若干怯えながらも、自分の意見を伝える。戦闘は終わったが、村は荒れたまま。依頼に復興は含まれていないが、このまま帰還するのは気が引けるのだろう。
「そうですね…時間が許す限り、僕達で復旧のお手伝いをしませんか?」
 同意しながら、仲間達に視線を向ける白月。この場に、反対意見を出す開拓者は1人も居ない。全員が静かに頷いた。
 村人達と協力し、倒壊した家屋の残骸を運び出し、家を建て直し、畑を整備し直し、逃げた家畜を探していく。辛く大変な作業だが、お互いに励まし合って頑張っている。
「気休めかもしれませんが、生きていれば大体の事は何とかなります。私達も村の復興を手伝いますから、元気を出していきましょう」
 なげやりな性格の黒初だが、今回ばかりは作業に積極的だ。もしかしたら、戦闘中に建物を巻き込んだ事を気に病んでいるのかもしれない。
「……力や知識がない奴は来るな。特にガキ共は、な。怪我しても知らんぞ」
 建築を手伝いながら、注意を促すジェラルド。口調は厳しいが、内心では村人を心配しているようだ。率先して力仕事に参加しているのが、その証拠だろう。
「もう……故郷が潰される情景なんて、視たくない…」
「身体の傷は時が経てば治ります。ですが、心の傷はそうではありません…」
 ユーディットと巳夜子は、村人達の精神的ケアを担当している。アヤカシに襲われ、家を失ったショックは相当大きい。彼女達の気遣いが、彼等の心を癒しているのは間違いない。
(それにしても…雑魚とは言え、これだけ大量のアヤカシが発生するのは不自然ですね。何かの前触れでなければ良いのですが…)
 空を見上げ、物思いに耽る三四郎。今回の小鬼は前座で、『何か』が起きようとしている…そんな不安が、心の中で渦を巻いていた。
 後日、開拓者達に報酬が支払われたが、巳夜子はそれを拒否。村の再建に役立てるよう、寄付したのだ。
 それを知った村人達から、彼女にお礼の花束が贈られた。