【もふ☆パラ】もふ毛
マスター名:言の羽
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/10 21:38



■オープニング本文

 三位湖の恵みによって支えられる豊かな国、石鏡。
 精霊力の潤うこの国では、神の使いとされるもふらさまの数も多い。実際に数えて他国と比較したというわけではないのだが、国家事業として牧場を各地に設け、もふらさまのお世話をしているくらいだ。実際に多かろうと不思議ではないだろう。石鏡は巫女の国であるから、国をあげてもふらさまを敬い慕うのも自然なことだ。巫女としての修行場も兼ねているのでなおのこと。数多くのもふらさまがもふもふと集い、巫女達のお世話を受けながら、時には土木作業や農作業を手伝ってくれる――そんな場所。
 国王の住まう安須神宮の隣にも牧場はある。規模以外の基本的なところは各地の牧場と大差ないが、ひとつだけ大きな違いがある。全長3mという最大級のもふらさま、通称「大もふ様」が、皆をあたたかい眼差しでのんびり見守っていることだ。普通サイズのもふらさまよりも一際もふもふな毛並みはまさしく素晴らしいの一言で、ひと撫でしただけでふぉーりんらぶしてしまう者も後を絶たない。その魅力は例え国王であっても抗いがたく――

「ちょっと!? 何なのよこのありさまはっ!」
 少女の剣幕に、しかし控える中年の志士は表情を変えることもない。
「ボサボサですな」
「なんでボサボサなのかって聞いてるのよあたしは!!」
 淡々とした返事に少女は一層猛った。ひとつに纏められた長い後ろ髪も大きく揺れる。
 少女の名は香香背。石鏡を治める双子王の片割れにして、自他共に認めるもふらさまフェチである。
 志士の名は楠木玄氏。香香背の片腕にして世話係、幼い子供なら一発で泣き出すほどの強面である。
 そんなふたりの前には石鏡の誇る大もふ様が鎮座。優雅にあくび中。しかし本来は素敵にもふもふなはずの毛並みが、見るからにゴワゴワと毛羽立っている。土汚れでせっかくの白い毛も茶色に染まってしまっている。
「巫女達が順に休みを取り、里帰りしているのです。そういう時期ですからな。労力が減少すれば、残る労力は必然的に優先度の高い物事に向けられます。この牧場に絶えずいらっしゃる大もふ様と、民の作業を手伝っていただくもふらさま‥‥どちらの優先度が高いかはおわかりでしょう」
「う‥‥」
 正論は時に鋭い刃となる。首元に刃を当てられた香香背はぐぅの音も出ない。
 このまま諦めなければならないのか、と彼女は自問する。ふわふわで、ふかふかで、もふもふで、おひさまのにおいのする毛の海に飛び込むことを、諦めなければならないのか?
 ――否。
 若干十三歳の少女の目が妖しく光った。
「洗えばいいのよ。あたしだって巫女なんだもの」
「しかし香香背様お一人では、大もふ様の大きなお体の前に小さすぎるのでは」
「わかってる。わかってるわそんなこと。だから当然、あたし一人じゃない」
 不適に笑う主に、けれど楠木はやはり表情を変えることはなく、ほんのわずかだけ肩をすくめたように見えた。
「開拓者の斡旋料のうち半分は、今後のお小遣いから天引きさせていただきますからな」
「なっ!? それはないでしょう、大もふ様のことなのに!!」
 香香背は必死で抗議したが聞き入れられることはなく、開拓者ギルドへ依頼することが決定した。今後数ヶ月のお小遣い減額処置とともに。

「もふーん」
 当の大もふ様は自分の毛並みの状態を、全く、これっぽっちも、気にしてはいなかったのだけど。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
明王院 千覚(ib0351
17歳・女・巫
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
御影 銀藍(ib3683
17歳・男・シ


■リプレイ本文

「はじめましてですの♪」
 ドレスの裾を摘みながら、少しだけ膝を曲げる。それから顔を上げてにっこり笑うと、ケロリーナ(ib2037)の金髪縦ロールがふわっと揺れた。
「見習ってもよろしいのではないですかな、香香背様」
「‥‥うるさい」
 主が膨れっ面をするのにもめげずに、楠木は肩をすくめ、大仰にため息をつく。
「え、ええと、よろしくお願いします〜」
 すねている女性ほど面倒なものもそうそう例がないのだが、御影 銀藍(ib3683)はめげずに香香背へ話しかけた。引っ込み思案であるはずの彼がそのように行動できたのは、女性といいつつも齢十三と、香香背がまだ子供であったからかもしれない。
 しかし銀藍の行動は功を奏したようで、まだ多少は頬を膨らませているものの、「しょうがないわねえ♪」という目つきで香香背は集まってくれた面々に向き直った。
「よく来てくれたわ。大もふ様は体が大きいからちょっと大変でしょうけど、しっかり綺麗にしてあげてちょうだい。もちろんあたしも手伝うから、そのあたりは心配しなくていいわよ」
 偉そうだ。が、一同は特に気にしない。それよりも彼女の後方で、足で耳の裏をかいている大もふ様の姿に釘付けだった
「終わったらあなたたちが料理を出してくれるそうね。期待しているわ」
「美味しい料理を作って差し上げますね☆」
「楽しみにしていてください♪」
 材料や道具までそろえてきたという紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と柚乃(ia0638)は香香背に微笑みで返す。柚乃の傍らでは藤色もふらの八曜丸が、運んできた背中の荷物をどうにかこうにかして地に下ろしているところだった。

●まずは、毛を梳こう
「‥‥これだったら、凄いもふもふ感かも‥‥」
 大もふ様と間近で対面した柚乃は、自分の連れている八曜丸とは違うあまりの大きさに、驚きで目を見開いてしまった。いや、驚いたのは彼女だけではない。初見は皆、首の痛くなるほど見上げている。
「これは手分けをしないとダメだ」
 全員一致で初動が決定した。櫛で梳くことで、絡まりっていたものは解け、全体のバランスを見ながら整えられる。余分な毛や毛玉、枝毛は、はさみや剃刀で丁寧に切っていく。
「なんだかむずがゆいもふー」
「動かぬほうが懸命だ。体に傷がついてしまうやもしれぬ」
「そ、それはいやもふっ。動かないで我慢するもふ! ‥‥でもやっぱりかゆいもふー」
 大もふ様の保定を大蔵南洋(ia1246)が買って出たのは賢明な判断だった。大もふ様がもふらさまである以上、毛をどれだけいじられても基本的には気にしないのだが、まったく動かないわけではない。むしろマイペースに動く。体格相応に力持ちなので、例えば背中の毛をチェックしている明王院 千覚(ib0351)やケロリーナなど軽く振り落とされてしまうだろう。
「まったく、仕方がないな。どのあたりだ」
「おなかの右のあたりもふ」
「すまぬ、紗耶香殿、頼めるか」
 南洋の現在位置は大もふ様の真正面。訴えのあった付近で金色もふらのもふ龍と作業中だった紗耶香へ、身を乗り出して声をかけた。
「まかせてください☆ んー‥‥この辺でしょうか?」
「ああっ! そこ! そこもふ!! ‥‥もふーん♪」
「もふ龍も!! もふ龍もこしょこしょしてほしいもふーっ」
 軽快に腹部をかいてやる紗耶香に、恍惚とした表情を浮かべる大もふ様。もふ龍は焼きもちではなく羨ましいだけのようだ。紗耶香の体に前足を引っ掛けて自分の腹部を見せている。
「はいはい、順番順番」
「もふ〜♪」
 やはり気持ちよさそうな表情と声のもふ龍をじっと見ていたのは香香背だった。「いいなぁ‥‥」という呟きが、ケロリーナの耳に届いていた。

●そして、洗う
 場所は三位湖のほとり、香香背のふくらはぎまで水が来るくらいの所に移動していた。最初はもふらさま一体にこんな人数がいるのかと思った者もいるかもしれないが、毛を整えるだけですでにかなりの時間を要しており、これから洗いと乾燥が待っていることを考えればさもあらん。
「そこでもふ龍は言ったもふ。『干草の寝床で寝るといい夢が見られるもふよ』って」
「同感もふ。巫女の皆が毎日取り替えてくれるから、いつも気持ちよさの中で寝てるもふよ」
 もふ龍と大もふ様がお話している。大もふ様は、毛の量としてはかなりすっきりしたものの、梳いただけでは落とせない汚れがまだまだ残っている。まだまだ頑張らなきゃ、と一同はやる気を見せていた。
「あれ? 紗耶香さんはどちらでしょう、麦茶を入れたのですが‥‥」
 そんな折、先ほどまで冷やしていたという麦茶を人数分持ってきた千覚は、紗耶香の姿が見えないことに気がついた。
「どこに行ったのかしら」
「香香背様、先ほどあちらのほうに向かう姿を見た者が」
 麦茶をいただきながら香香背も首を傾げれば、楠木がそっと耳打ちする。示された方角を見やれば、ちょうど紗耶香が走ってくるところで、元気に手まで振っている。
 一体何をしていたのかと口を開くより早く、誰もがそれを理解した。紗耶香は薄布一枚という画期的な姿になっていたのだ。
「これ、水着って言うんですよ。泳ぐための服ですから、どれだけ濡れても心配いりません」
「かえるさんみたいになれますか?」
 ケロリーナがかえるの人形を抱きかかえたまま尋ねると、泳げるかどうかはその人の修練次第、ということ。かえるになるまでの道はまだまだ遠く険しいようだ。かえるの人形は木陰から大もふ様の洗濯を見守ることになった。
 さて、紗耶香以外の者達は主にたすきをかけて作業に取り掛かる。とにかく濡らさなければならないのだが、梳いた時のように背に乗っては濡れてしまうため、紗耶香の水着が意外と役に立ったことになる。
 水を吸ってどんどん重くなる毛は千覚、ケロリーナ、香香背には一番の強敵で、順に南洋が手助けに行かなければならなかった。
 銀藍は踏ん張りを利かせて足を一本ずつ持ち上げ、その裏に生えている毛も丁寧に塗らす。先のほうをこする時には、先ほど爪も切りそろえておいて正解だったと、ひとりうなづいた。
 塗らした後は香油を用いての洗髪(?)である。指どおりの良くなった毛の隅々にまで染み込ませるようにして、じっくりと洗う。すると、やはり大もふ様が飽きてきた。
「おなかがすいたもふーーー。お昼寝したいもふーーー」
「こら! 大人しくしてなさい!」
 じたばたし始めたので押さえるのだが、なかなか言うことを聞かない。香香背が怒っても馬に念仏‥‥いや、もふらに念仏だ。
 そこへ柚乃が大もふ様の顔の前へ回り込み、そっと鼻先を撫でた。
「大もふ様がキレイになったら、皆で美味しい物を食べる予定なの。屋外での食事は楽しいよ?」
 だからもう少しだけ我慢してね。柚乃が優しくそう言い聞かせると、「じゃあ早く終わらせようもふ!」と急に協力的になった。現金だが、おかげですすぎまで順調に進んだ。ケロリーナが鼻歌を歌いだしたので、皆にも伝染したほどだ。
 髪を洗い始める際に濡らした時よりも、すすぎを終えた時のほうがしっとりつやつやしているものである。ぺしゃんこになるので、普段とはがらりと印象が変わることがある。大もふ様もそんな感じだった。毛がもふもふなだけに、それはとても顕著に表れていた。
「‥‥ちょっと残念?」
 銀藍がつい漏らした感想に皆が笑っても、大もふ様は怒ることもなく一緒に笑っていた。

●乾かして
「きゃっ!」
「水が飛んでくるーっ」
「まるで犬のようだ‥‥」
 大きな体を震わせて毛の水分を振り払うという大もふ様の行動で、皆がきゃーきゃー言う羽目に陥った。それを何とか止めて木陰まで誘導し、数名ともふらさま二頭を話し相手にのこし、残る全員で大量の手ぬぐい取りに走る。戻ってきた時には、視界が狭くなるような一抱えもの手ぬぐいを抱きかかえていた。
「はい、うちわよ。これを使ってちょうだい」
「けろりーなは白羽扇があるので大丈夫、これで大もふさまを扇いであげるですの☆」
 香香背がうちわを配ったが、ケロリーナは自前のものを用意していた。さっそく扇いでみると、大もふ様はうっとり。うっとりして動かないうちに手ぬぐいで残る水分をふき取っていく。毛を持ち上げたり、ぱらぱらと散らすようにしたりしながら毛の合間合間に風を送ると、触れる手に感じる湿り気は徐々に減少していった。
 だがそれもほんの一箇所。同様のことを全長3mの体に対して行わなければならないのだ。
「火遁と大うちわの併用で温風乾燥なんてどうかな?」
 つい尋ねてみた銀藍。しかし香香背からの答えは「ダメ」だった。
「確かに、まわりには燃えやすいものはほとんどないけれど‥‥乾かし終わるより先にあなたの練力が尽きてしまうんじゃないかしら?」
 火遁の炎は一瞬で消える。仮に銀藍の案を実行に移そうとすると、10分間は炎を出し続けていなければならないだろう。
 誰であろうと倒れるまでこき使うつもりはないわ、と香香背はまだ濡れていない手ぬぐいを持って大もふ様に駆け寄っていく。銀藍もうちわを握り締めて後を追った。

●もふもふのできあがり
 櫛で毛を撫でるたび、陽光を受けてきらりときらめく。白い毛は輝いても尚その輝きを自身の内に溜め込んで、さらに空気をはらんでいく。その様子を見ていた八曜丸は、せっせと自分の毛づくろいを開始した。対抗しているのかもしれない。
「もふ龍ちゃんはおとなしいので楽ですが‥‥大もふ様はさすがと言うか何と言うかでしたね」
 感嘆する紗耶香に同意しない者はいない。ブラッシングという最後の行程も終了すると、疲れきって、全員がその場に座り込んでいた。
 しかしそうするだけの価値はあったと言わざるを得ない。香香背が雄叫びを上げたほどのボサボサ感はいずこかへと去り、まさに神の使いらしく神々しさすらも漂わせかねないふわもこが、そこに降臨したのである。
 あの、と千覚はぷるぷる震えながら香香背に声をかけた。
「いいでしょうか‥‥?」
 香香背はどこで覚えたのか、ぐっと親指を突き立てて見せた。

 もふっ

「お日様の香り‥‥大もふ様‥‥とってもふわふわです」
「けろりーなも堪能するのです! えーいっ!」

 もふんっ
 もふもふんっ

 千覚が抱きついたのに続き、ケロリーナも飛びついた。一瞬、毛が浮き上がり、それからふぅーんわりと元の位置に戻っていく。やっぱりこうでなくっちゃ、と香香背も飛び込み、何日か遅れに大もふ様の超もふもふを実感する。
「御影銀藍、行きます!」

 もさふっ

 銀藍が狙ったのは胴体ではなく、尻尾。なかなかのツウである。
 幸せそうな笑みを浮かべて毛に埋もれる四人を見守る南洋も、自身はもふもふしないながら、やはり笑っていて。般若が笑うようにしか見えずとも、彼の心がおひさまのあたたかさを感じていることは間違いない。
「へたり込んでる場合じゃないですね、お料理を作ってこないと! メニューはもう考えてあるんですよ、そうめんとリンゴ酢の飲み物です☆」
「柚乃はお野菜とお肉を、皆で焼きながら食べようと思って」
 各々に運搬役のもふらさまを連れて、材料と道具を取りに行く。三位湖のほとりに良いにおいが広がり、すっきりとした飲み物で互いの労をねぎらえるまで、あともう少しだけかかりそうだ。それまで四人が睡魔に打ち勝っていられるかどうか――いや、満点の星空のもとでもふもふに包まれて眠りたいという柚乃の憧れを皆で叶えるため、南洋は四人が起きていられるよう声をかけ続けることにした。