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■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 ついに私の名前が国中に轟いてしまった。 精霊も罪深い生物を産み出したものだ。 美しい上に華麗、おまけに優雅な紳士。 社交界に呼ばれる日も遠くないのではないかな――。 いつもは教授の寝言から始まるのだが、今回だけは少々事情が異なっている。 先日、教授が(ラッキーな事に)調査した遺跡からオリジナルシップが発見された事件はジルベリア帝国のアカデミー界隈を賑わせていた。 「あの変人が!?」 「だって、あの『教授』だろ?」 「自分で埋めて掘った……いや、そんな頭が回る奴じゃないだろ」 「そんな事よりさっさと飲みに行こうぜ」 衝撃と警戒と爆笑を引き起こした教授。 その結果、ガトームソンがもたらす以上の調査依頼が教授の研究室に舞い込んできた。 「はぁ、一回の発掘でこの騒ぎですかい?」 ガトームソンは飛び込んでくる調査依頼をリストアップしていた。 今や教授のマネージャー的存在になってしまったのだが、本人も満更悪い気はしていない。 しかし、当の教授は些か不満げだ。 「うーむ、私の研究テーマはあくまでもアヤカシの生態系なのだが……。 今や単なる探検家扱いなのだ。見たまえ」 教授が指し示した書類は、ジルベリア帝国から直々の遺跡調査依頼だ。しかも行き先は天儀。 既にアカデミーが朝廷と共に調査に着手しているものの、敢えて教授にも調査依頼を打診してきたようだ。 「帝国からですかい? かーっ、結構な事じゃないですか。 『遺跡の一部が崩落、その隙間からアリ型のアヤカシが入り込み調査は難航している。ロストテクノロジーの存在も可能性あり』ってありますぜ」 「しかし、それはあくまでも遺跡調査依頼だ」 教授は、ふんっと鼻を鳴らした。 おそらくアカデミー側は教授へチャンスを与えてその言動に着目しようというのだろう。研究テーマそのものよりも実績を重んじる者が考えそうな事だ。 研究内容よりも積み上げた実績で立場向上を求める学者も少なくない。 アヤカシ研究に没頭したい教授にとっては、そうした学者と相容れるつもりはないようだ。 「ですが、教授。ここらで恩を売っておいて損はねえですよ。 何より前回も遺跡で調査した結果、アヤカシに関する研究は進んだのでしょう?」 ガトームソンのその一言で、教授は思い返していた。 帝国アカデミーが依頼を打診してきたという事は、先日の遺跡から発掘されたオリジナルシップから何らかの情報を発見した可能性がある。単純に人手不足である事も依頼理由の一つであろうが、これを機にアカデミーが入手している情報を引き出せるかもしれない――。 「ふむ。思わぬ発見がないとも限らん、という訳だな。 距離も前回ほど遠くもない。今回は行ってみるとしよう」 果たして、映像の人間達に絡む何かが発見されるのだろうか。 |
■参加者一覧
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
円螺(ib6843)
14歳・女・巫
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
星芒(ib9755)
17歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 「この方がジルベリアで最近有名な……め、面妖です」 C・グライシンガー(iz0301)の顔面を見つめた円螺(ib6843)は、数秒後に口から本音が漏れ出していた。 教授が引き当てたジャックポットは、ジルベリア帝国アカデミーにも名を轟かせていた。遺跡よりオリジナルシップを発掘しただけではなく、宝珠がアヤカシに関する映像を発見したのだ。教授を知る者は、誰もが我が耳を疑った。 「さいきんちょーしこいてる、って聞いたよ」 エルレーン(ib7455)は、教授の方を叩きながらた溜め息をつく。 この教授という人間は調子に乗るとロクな事がない。危険度は理解しているのに遺跡のトラップをすべて発動させかねない不器用ぶり。その都度、開拓者達が助けてやっているのだ。 「エルレーン君、私は調子に乗っておらんぞ。むしろ、現状を快く思っておらん」 「あら? 今や有名人の教授とは思えない発言だねェ」 モユラ(ib1999)は、以前の依頼で教授の事を知っていた。 以前の教授は依頼遂行の邪魔……否、お荷物でしかなかった。それが一回のラッキーでこの騒ぎなのだから驚くのも仕方ない。 「私はアヤカシの生態学が研究テーマなのだ。遺跡調査はその為に過ぎない。しかし、アカデミーは遺跡の発掘物にのみ興味を示しておる。これは由々しき問題だぞ」 教授は頬を膨らませて愚痴を撒き散らす。 研究テーマよりも分かり易い実績を安易に求める学者が多すぎる。地道なる事実の積み重ねが真実に到達する唯一の道だと信じる教授にとっては好ましくない存在だろう。 やや不機嫌になる教授。 そこへ星芒(ib9755)がアヤカシについての疑問を投げかけた。 「人の居ない辺鄙な遺跡。でも大量のアヤカシが湧いた。何故?」 「ふむ、興味深い質問だ。 そもそもアリ型のアヤカシという時点でアヤカシが遺跡を目的地として湧いたかは断定できん。 アリは社会性のある昆虫で家族単位のコロニーを形成する。蟻道を作る際に偶然遺跡を掘り当てた可能性も捨てきれん」 あくまでもアヤカシがアリの特性を受け継いでいればの話だ、と断りを入れる教授。 不器用で一人では何もできない教授だが、溜め込んだ知識が炸裂する時だけは一人前に見えるから不思議だ。 「アリが攻撃を仕掛けてくる場合は、餌を捕食する時と巣へ侵入する者を発見した時だ」 「早速現れたようです」 「なぬ?」 篠崎早矢(ic0072)に促されて視線を送れば、そこには犬程度の大きさとなったアリが一匹。 教授を睨み付けるように威嚇しているように見える。アリを目撃した教授は冷静さを保ちながら開拓者へ的確なアドヴァイスを−−できるはずもなかった。 「でたー!」 「ぶりーふ! へんなとこをさわるな!」 アヤカシの登場にビビった教授は、派手に地面を転げ回りながらエルレーンの背後へと隠れた。 「思ったよりも大きくないアヤカシですから、早々に退治しましょう」 サライ(ic1447)は、手にしていたクナイをアリに向かって投げようとする。 しかし、ここで教授が一声。 「ま、待ちたまえ!」 「え?」 投擲モーションを止めるサライ。 次の瞬間、アリは背を丸めて尻から謎の液体を飛ばしてきた。サライは軽やかな体躯でその液体を回避するが、クナイを投げていれば液体を浴びていたかもしれない。 「おのれ!」 早矢の強弓「十人張」から放たれた矢がアリの眉間を捉えて突き刺さる。 アリは地面へと崩れて動かなくなった。 「このアリが出した液体は?」 星芒が問いを口にする。 それに対して教授はあっさりと答えた。 「蟻酸だ。 ヤマアリの仲間には蟻酸入りの毒液を浴びせて餌を巣へ持ち帰る習性がある。以前ジャングルでアリの大群に襲われた事を教訓にアリの事を調べたのだが、こんなところで役立つとは……」 ● 教授達による遺跡の探索が開始された。 アリの奇襲を警戒した為か、一堂が『A』と呼ばれた部屋の調査を開始する事となった。 幸いにも部屋にはアリが数匹徘徊しているのみ。早矢が先程同様弓でアリを仕留めてくれたおかげで早々に部屋の調査を始める事ができた。 「調査の事は私には分かりません。皆さんへお任せします」 アリを仕留めた早矢は増援のアリを警戒して部屋の入り口を見張っている。 確かに唯一の出入り口にアリが大群を為して襲撃をかければ脱出は困難となる。早矢の判断は間違っていない。 「特にトラップもないようです」 サライが忍眼でトラップの有無を確認してみたが、トラップを発見する事ができなかった。 「でも、特に怪しい物はなさそう」 「そうですね。灯りで照らしてみても石ばかりです」 モユラと円螺が部屋を見渡してみる。 円螺の手に握られた松明が照らし出したのは、積み上がった石ばかりだ。 「おそらく遺跡を建設する際に石材置き場として使われていたのだろうな」 教授は石の上に積み重なった砂埃を羽のブラシで払いながら呟いた。 外から運び込まれた石材を一度この部屋へ移し、ここから遺跡建設へ使ったと教授は考えているようだ。 「なら、この部屋には重要な物はないって訳?」 「そうとも限らん。過去の賢人達は様々な遺物を思わぬ場所に残していくものだ」 モユラの問いに教授は答えた。 普段は阿呆全開なのだが、学者領分になった途端に頼もしくなる。 「エルレーン君は何をしているのかね?」 「んー? あのオリジナルシップがあった遺跡にもこれと似たようなもようがあったので書き付けているんだ。これを描いた人達は、何を言いたかったんだろうなって思って」 エルレーンの手には一枚の紙。 そこには石に刻まれた模様が描かれている。 「ほう。それは良い心がけだ。 想いを感じ取ろうとする姿勢は、遺跡調査で常に持つべきだ」 「……うーん。やっぱり、この文字ってこの間と同じじゃない?」 エルレーンに促され、紙に視線を落とす教授。 初めは緊張感のない顔つきであったが、突然教授の顔つきが変わる。 「む! むむむ!」 「どうされました?」 教授の豹変に円螺が首を傾げる。 明らかに教授が興奮を覚えながら石と紙を見比べている。 「このエルレーン君が発見した石の紋様は、ロリンコ族の遺跡で見た物もと同じだ。私もこの紋様には見覚えがある」 「つまり、この遺跡とオリジナルシップがあった遺跡は関係があるって事?」 「そう考えて差し支えないだろう」 その答えにモユラは胸に熱い物が灯った。 大発見となったオリジナルシップのあった遺跡。 それと同じ紋様がこの遺跡にもあった。 そう考えれば、この遺跡からも何か重要な物が発掘されるかもしれない。 「よくやったぞ、エルレーン君。さすが私の弟子だ」 「だから、弟子じゃないってば」 否定するエルレーンだったが、褒められるのは悪い気がしない。 たとえ、阿呆な教授から褒められていても。 一方、星芒はため息をついていた。 「ふぅ」 「どうしたのかね?」 気を落ちする星芒に、教授は声をかける。 「実はこの部屋でアヤカシが侵入していると思ったんだけど、違ったみたい」 星芒は積まれた石が崩れて壁を壊し、そこからアリが入り込んだと考えていた。 その場所を探す為に松明で炎の揺らめきを観察したが、特に炎に動きはない。 つまり、この部屋にアリの侵入口はないという事だ。 「残念。崩落口の代わりに変な像を見つけただけだよ」 「像?」 聞き返す教授。 それを受けて星芒は松明を片手に指で指し示した。 「ほら、あそこ。石材の陰。変な像が横になっているでしょ? 両手両足があるから人間型なのは間違いないんだけど、変な模様が体に描かれているんだよね〜」 星芒が指摘した場所には、像らしき物が横たわっている。 炎の中で照らされる像。暖かい光に照らし出される模様。 その模様を目撃した瞬間、再び教授が動きだした。 「これは!」 「え?」 星芒は何が起こったのか理解できなかった。 教授は足下の石に躓きながら、像の元へ辿り着く。 そして、齧り付くように観察をしている。 しばらくした後、教授は星芒へ振り返って満面の笑みを浮かべる。 「素晴らしい発見だ、星芒君。 我々は大変な物を発見したのかもしれんぞ」 ● 「この部屋にも同じ像があったわよ」 「おおっ! なんと、二体目か!」 『B』の部屋ではモユラが、星芒が見つけた像と同じ物を発見していた。 鼻息を荒げて大興奮の教授。 急いでモユラが発見した像の元へと駆け寄ってくる。 「これはアカデミーの連中も慌てるぞ」 「その像、そんなに凄いの?」 教授とは対照的に、モユラは状況を理解できない。 「ねぇ、ぶりーふ。その像って何なの?」 「あたしも知りたい」 エルレーンも星芒も教授の元へと集まってきた。 開拓者の面々もこれが何なのか気になって調査に身が入らない様子だ。 「うむ。以前、ロリンコ族の遺跡ではオリジナルシップが発見されている。あれはロストテクノロジーで作られた古代の遺物だが、実はこれもロストテクノロジーで作られている」 「ロストテクノロジーで像を造った? よく分からないな」 円螺は、松明で再び像を照らし出す。 「像という表現は正確ではないな。これは人が纏う物だ」 「そうか。それは具足か!」 入り口を警戒していた早矢が声を張り上げる。 調査には興味はなかったが、重要な物が発見されたと分かって気になっていたようだ。 「左様。正式にはオリジナルアーマーと呼ばれるものだ。 かつて撃破されたオリジナルアーマーの中には、体表に天儀の物と思われる文字が刻まれていたそうだ。アカデミーの学者や技術者は天儀にもオリジナルアーマーが埋まっていると考えて調査していたらしいが……ここで発見されるとは思わなかった」 教授は、オリジナルアーマーにそっと触れる。 「教授。アーマーというからには使い道は……」 サライは、ある推論を口にしようとする。 かつて撃破されたという事実から戦闘に利用されていた事は察しがつく。 教授はあくまでも推論とした上で、こう答える。 「人がアヤカシと戦う為……そう考えるべきだろう。 オリジナルシップを発見した際に映し出された映像は、アヤカシを操る何者かが人を襲うものであった。 私は何処かから逃れてきた人間が輸送船としてオリジナルシップを作ったと考えている。ならば、このアーマーは人がアヤカシに対する為に作られた兵器と考えるのが妥当だ。 過去の賢人達も、その智恵を絞って最後までアヤカシと戦おうとしていたのだ」 ● オリジナルアーマーを発掘した開拓者達であったが、更なる遺跡の調査にはある壁を乗り越えなければならなかった。 「おいでなすったね。悪いけど、邪魔しないでもらおーか!」 『C』の部屋へ駆け込んだモユラは、眼前に現れたアリの一団にダンシングダガーで切り込んだ。 どうやらアリが侵入した部屋は大広間のあった『C』の部屋のようだ。 見れば一体の像が壁に倒れ込んで大穴を開けていた。 「喝ーーーっ!」 モユラに向かって走り寄ろうとするアリに対して星芒が一喝。 アリはその足を止めてモユラへ接近できない。 「諸君、アリは蟻酸を使うはずだ。背を丸めたアリを先に仕留めるんだ」 「分かってます!」 早矢は手早く矢筒から矢を取り出すと、離れた場所で背中を丸めるアリ目掛けて矢を射続ける。先程までの部屋と違ってアリの数は増えている。この部屋をアリが根城としているようだ。 「サライ君、今です! 前へ!」 「了解です!」 早矢が弓を放ったタイミングを狙ってサライが前に出る。 手近に居たアリを蹴飛ばしながら、モユラの近くへ走り寄る。 図体の割にアリはケリ一発で簡単に昏倒するようだ。蟻酸さえ気を付ければ大した敵ではない。 「アリは……焼却です」 にっこりと微笑みながら、円螺は浄炎でアリを燃やす。 激しく燃えるアリ。炎で簡単に燃え上がる事から弱点のようなのだが……。 「あれ? 何か変な匂いがする?」 「む! 円螺君、その場を離れるんだ!」 教授に促されて数歩後退する円螺。 アリも炎を恐れてそれ以上は近づいてこない。 「あ、匂いがしないよ」 「炎は弱点のようだが、蟻酸は蒸気になっても人体に有害だ。 炎を使うならば場所に気を付けた方が良いだろう」 教授の言う通り蟻酸は蒸気になって吸い込めば体に悪影響を及ぼすとされている。 幸い炎を使った場所は入り口から少し離れた場所だった事、アリの侵入口から流れる風で別方向へ蒸気が逃げた事から大事には至らなかった。 「……てか、しょーじき、ぶりーふが行ったらそこへ瘴気が集まりそーな気がするッ!」 アリのウンチクを語って調子に乗っている教授の尻に向かってエルレーンが強烈なケリを放つ。 「うわっ、何を……ひぇぇ!」 派手に転倒する教授。 転がった先にはアリの団体。餌と考えて一斉に教授へ殺到する。 そんなもの食べたらお腹壊しますよ、アリさん。 「そーれっ!」 エルレーンは黒鳥剣を振るって瞬風波を発動。 作られる衝撃波でアリを一気に退治していく。 「え、エルレーン君! 私に当たらないようにしてくれたまえよ!」 「だいじょうぶ、だいじょうぶ! 何とかなるよ!」 衝撃波と衝撃波の間で、教授は縮こまるしかなかった。 アリの一団を蹴散らす開拓者達。 明らかに付近のアリが目減りしている。 「普通のアリと同じなら、女王アリのアヤカシも居るのかな?」 「そうだな。だが、その心配は無用のようだ」 星芒の言葉に対して教授は答える。 周囲を見れば、アリ達は侵入口に向かって移動を開始している。おそらくアリ達が遺跡から撤退し始めたのだろう。 「今回の目的は遺跡の調査だ。アヤカシを撃退できれば問題は無い。入り口を固めた上でアカデミーに事情を説明するとしよう」 撤退するアリの一団を見つめながら、教授は胸を撫で下ろしていた。 ● その後、開拓者達は『D』の部屋でオリジナルアーマーを発見。 計3機のオリジナルアーマーを発見する成果となった。 「今までこれ程大規模に発見されるとはなかったかもしれん。 アーマーの稼働についてはアカデミーへ持ち帰って調べてみなければ分からんが、これは古代を調べる上で貴重な遺物となるだろう」 教授は、開拓者の活躍を労った。 アリを見事に撃退してオリジナルアーマーを見つけられたからこそ、調査する機会を得る事ができた。それは古代を生きた人々が遺物に込めた想いを読み解く作業でもある。 ――そして。 教授は、発見したオリジナルアーマーへ優しさに満ちた視線を送る。 「願わくは……これを作った者達の想いを遂げさせてやらねばな」 |