|
■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 ロリンコ族から神と崇め奉られてしまった罪深き学者兼冒険家。 彼らと数日接する中で、彼らはどういう訳かブリーフを聖なる物と考えているようだ。それで戦士ポコモコが似たような布を着用している事にも道理がいった。 では、彼らはそれだけで私と神と認識したのだろうか? 否、それだけでは理由として弱い。おそらくもっと別の何かがあるはずだ。 私はそれを追求しなければならない――学者として。 「神よ、こちらになります」 長老とポコモコに促され、教授はその後をゆっくりと歩いて行く。 既に貫禄だけなら神のような堂々とした風格。中身はいい年こいたおっさんなのだが、部族の者は神だと信じて疑わない。これもすべて冒険者達のおかげなのだが……。 「うむ。ところで、神殿は如何様な言い伝えがあるのかな?」 「はい。我が部族にとって神殿は『再出発の場所』とされております」 「再開? 始まりではなく?」 教授は、長老の言葉に引っかかりを覚えた。 以前神殿の奥には『母のゆりかご』と呼ばれる聖地があると聞いていた。 母のゆりかご、言ってみれば胎内と解釈する事ができる。 ならば、この土地は生命が生まれいずる場所と考えられる事ができよう。しかし、長老の話によれば神殿は『再出発の場所』とされている。 つまり、始まりの場所ではない。何かが『再び』始まる場所という意味になる。 「そのように伝わっております。既に長き年月によりその理由は失われておりますが、部族の者は神殿を大切に扱っております」 再出発の場所と呼ばれた理由は、既に失われているようだ。 何が再び始まる場所なのか。きっと神殿を調査すれば情報が入るかもしれない。 (……しかし、何故私を神と間違えたのだろうか。 再開の件といい、気になる事が多い……) 珍しく学者モードの教授。 神殿に近づくにつれてその興味は益々増していった。 「神よ。ここが神殿です」 目的地へと到着した一行。 長老は神殿の入り口を指差した。 神殿の入り口は溶岩の流出により出来た洞窟を利用して作られているようだ。密林の木々が洞窟の入り口を巧く隠してくれている。これでは部族の案内なしに発見する事は難しい。 感心する教授をよそに、長老は言葉を続けた。 「この神殿は至る所に神を崇めております。 入り口にはこのように神の像を祀っております」 長老に言われて視線を送った先には一体の像があった。 石で作られた像なのだが――ここに来て教授は自分が神と呼ばれた理由が明確になった。 (……似ている。なんて美しい美形な像なのだ) 恐るべき事に、神の像は教授の顔にそっくりだった。 |
■参加者一覧
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
迅脚(ic0399)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 「うわっ、ホントにキョージュとこの像そっくりだ〜! すっごい偶然! キャハハハ!」 神殿の入り口でアムルタート(ib6632)の笑い声が木霊する。 ロリンコ族に古くから聖なる地と崇められてきた神殿。神様と勘違いされたC・グライシンガー(iz0301)は開拓者達と共にこの地の探索に訪れた訳だが、入り口にてアムルタートの爆笑が巻き起こった。 「うむ。偶然とはいえ、実に美男子な像だ。 ロリンコ族は本当にセンスが良い部族だな」 爆笑されている理由をいまいち理解していない教授。 しかし、エルレーン(ib7455)の感想はもっとストレートだった。 「うわぁ……きもーい……」 「なんだと!?」 心の底から漏れ出したエルレーンの本音。 その小さな囁きを教授は聞き逃さなかった。 「だって、こんなきもーい像が中にいっぱいあるんでしょ? そんなのおばけやしきじゃないの!」 「きもくない! 弟子ならもっと私をいたわってはどうかね?」 (こんな像が中にもいっぱいあるの? 笑い殺されないかしら……) アムルタートは心の中で静かに呟いた。 ● いよいよ教授と共に神殿に足を踏み入れる開拓者達。 洞窟を利用して作られた神殿の通路は狭く、二人が横に並べばそれだけでいっぱいになってしまう。開拓者達は用意していた松明に火を灯し、警戒しながら神殿の奥へと歩き始める。 「再出発の場所、とな……。 かつて再出発したのか、それともこれから何かが再び始まるのか……興味深い事よの」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は、気になっていた疑問を呟いた。 この神殿はロリンコ族の者達にとって『再出発の場所』と呼ばれている。リンスガルトは、再出発を指し示す物が何かという事だ。 「うむ。君もその点が気になっていたか。 再出発という言葉は如何様にも解釈が可能だ。 君の疑問を解く鍵は、この神殿の奥にある『母のゆりかご』にあると私は考えている」 教授の説によれば、『母のゆりかご』とは胎内を差している。 胎内であれば赤子、つまり神殿に関わる何かがあると考えているようだ。 「なるほど。すべては『母のゆりかご』にあるというのじゃな。 調査は任せるぞ、教授」 今回の依頼は神殿内部の調査だが、調査に対する基礎能力は教授に備わっている。 見掛けはかなりアレだが、本業の方は真面目に違いない。 リンスガルトは一抹の不安を覚えながらも、教授を信用する事にした。 だが、迅脚(ic0399)はそうではなかった。 「えー。このおじさん、うさんくさい……」 「誰がおじさんだ! お兄さんの間違いだな。 私のテストだったらバツを付けているところだ、まったく」 きもいには強い反応を示さなかったくせに、おじさん呼ばわりには超反応する教授。 どうやら年齢が気になるお年頃らしい。 加齢臭がハンパないくせに……。 「テストとかめんどくさーい。 つーか、おじさんなのに何でお兄さんって呼ばないといけないの? なんで?」 「くっ、純真無垢なお子様に社会的な気遣いを求める方が誤りであったか」 いや、誤りなのはお前をお兄さんって呼ばないといけないルールの方だから。 「きょ、教授。よろしいですか。 ロリンコの皆さんにこの神殿について可能な限り話を伺ってきました」 歩きながら日依朶 美織(ib8043)は、ロリンコ族から得た調査結果を報告する。 トラップや伝承の類を聞く事ができたが、正直かなり怪しい。 神殿が聖地と定められて相当な時間が経過していた為、情報の成否が計れなかった為だ。それでも美織は手製の地図を製作して教授へと手渡した。 「素晴らしい。この地図によれば『母のゆりかご』まで一本道で行けるようだな」 「はい。ですが、トラップが仕掛けられている事を考えれば警戒して進まなければなりません」 美織の指摘通り、一本道という事は罠を回避して進まなければならない。 下手に作動させれば回避不能な場所もあり得るという事だ。 「教授、警戒してください」 「分かっている。こうした神殿は盗掘を防ぐ為にトラップが仕掛けられている。 そして、そうしたトラップの大半は先人達の智恵が活かされている。たとえば、ここの壁に入った亀裂。一見、ただのひび割れに見えるかもしれん。実はトラップの仕掛けだったりするから油断できんのだ。わっはっは」 高笑いしながら足を踏み出そうとする教授。 床を踏んだ瞬間、美織の超越聴覚が怪しい音をキャッチする。 「教授、それ罠です!」 「え?」 「危ないのじゃ!」 リンスガルトは教授の身体を後方へと引き寄せる。 同時に、天井から大量の石材が落下。立ちこめる砂埃が視界を奪い、松明の光を遮る。 砂埃が晴れる頃には、前方数十メートルに渡って天井の残骸が転がっている。 「ひゃ〜、天井崩落のトラップって奴だね。 それにしても、警戒しろって言われたばかりなのにあっさりトラップに引っかかるとはね〜」 「うむ。私とした事がとんだ失態をしてしまったようだ。美織君、リンスガルト君には感謝だな」 素直に感謝を述べる教授。 しかし、神殿の探索はまだ始まったばかりである。 ● 神殿の奥へと進む一行だが、ここである事に気付く。 それは――。 「ねぇ。もしかしてなんだけどさ。 教授って今の所、全部のトラップに引っかかってない?」 迅脚は、みんなが思っていた事を素直に口にした。 明らかにトラップがありそうな地点へ率先的に進み、どや顔でトラップ発動。 その度に開拓者から助けられているのである。 「違う! あれは……そう、わざとだ。 諸君らにトラップの注意を促す為に私が自らトラップにかかって回避方法を伝授していたのだ」 それなら自分で避ければ良いはずだけど、教授は全部普通に引っかかっていたよね。 開拓者がいなければ入り口から数メートルでトラップにかかって重傷を受けていたくせに……。 「それより迅脚君。あまり先を急いではならん。 一本道であるという事は足の踏み場はある程度予測されやすい。こういうところだからこそ――」 教授がそう言い掛けた瞬間、迅脚の足場の崩れ落ちた。 突如軽くなる床。重力へ引かれて暗闇の穴へと引き込まれそうになる。 「迅脚君!」 迅脚を気遣う教授。 だが、迅脚の方は冷静であった。 「ほい!」 運足を発動した迅脚は、落下する瞬間に壁を蹴って穴の向こう側へと着地する。 迅脚もトラップを発動させるタイプだが、自らの身体を使ってトラップを回避する術も持っている。そこが無能な教授と大きな違いだ。 「これぐらい問題ないよ〜」 「こら。みんなを心配させちゃダメですわ。ぶりーふはいつものことだからどうでもいいけど。万が一の事があったら、みんなが大変なんだよ?」 迅脚を窘めるエルレーン。 「あうう。ご、ごめんなさーい……」 軽く気圧されて明らかに意気消沈する迅脚。 先程までの元気が消え失せて火の消えたランタンのようだ。 「大丈夫よ」 ナディエで落とし穴を飛び越えたアムルタートが優しく声をかける。 「怪我が無くて何よりだね。これでも食べて元気出しなよ」 アルムタートは節分豆をそっと手渡した。 練力回復もできる上、美味で知られる節分豆。 これからも神殿の探索は続く。トラップは注意しなければいけないが、こんなところで落ち込んでいる暇は無い。 「……ありがとう」 仲間達が渡る為に縄を結んでいるアムルタートの背後に向かって、迅脚は感謝の言葉をかけた。 ● 教授が発動させた大岩が転がるトラップを無事に回避した一行。 美織の作成した地図によれば間もなく『母のゆりかご』へと到着するはずだ。 「意外にあっさりと到着したようじゃな」 リンスガルトの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。 トラップの数は比較的多い上、教授というトラップ発動マスターがいる為に面倒と感じる場面もあった。しかし、他の開拓者と協力する事で無事ここまで到達する事ができた。 「あとはこの広間を抜ければ『母のゆりかご』へ到達します」 一行が足を踏み入れた場所は石壁で囲まれた大きな広間。今まで洞窟の狭い道を進んでいた一行にとって、久しぶりの広い空間となる。 そして、その広間に並べられたのは――。 「キャハハハ! ま、またこの像!」 再びアムルタートを爆笑地獄へと誘ったのは入り口にあった像。 それも様々なマッスルポーズで筋肉を誇示している。顔面は教授のまま。おまけに松明の炎に照らされて異様さも当社比30%アップだ。 「うわあ……きもーい……」 「なんだと!? ……って、このやりとりは既にやっておる! この広間をさっさと抜けて『母のゆりかご』へ行くのだ」 一人歩き始める教授。 「あ、ぶりーふ!」 「なにかね?」 「……いや、何でもない。カミサマなら、ここで逃げ出したりしないよね?」 「無論だ。神でなく、一考古学者としてこのような場所で逃げる訳にはいかん」 颯爽と歩く教授。 しかし、その後方で開拓者達は違和感を感じ取っていた。 「ここで来る。目的地に近いという事は門番が居てもおかしくないからのう」 リンスガルトは殲刀「秋水清光」を鞘から抜いた。 そして、リンスガルトの勘を後押しするかのように美織の超越聴覚が異音を聞き取っていた。 「はい。明らかに異質な音が像から聞こえてきます」 「という事は、罠は噂通りにキモい像の攻撃ってところだねー」 鞭「ゴールドバインド」を構えるアムルタート。 不自然に現れた広間。 設置された像。 怪しさ満載のシチュエーション。 気付かないのは阿呆の教授だけだ。 「ぶりーふ!」 「今度は何かね?」 数メートル離れた教授に向かってエルレーンが叫んだ。 「そろそろ動くと思うから言うけど……その像、たぶん攻撃してくるから!」 「なにぃ!? そういう大事な事は早く言わないと……」 教授の言葉を掻き消すかのように起動する二体の像。 像は近くにいた教授に向かって歩き出す。 「アチョオー!」 教授へ近寄る像へ迅脚は、旋蹴落の一撃を叩き込んだ。 顔面を蹴られた像は数歩後退る。 「教授、一旦下がるよ」 「うむ、そうしよう」 迅脚の誘導に促されて撤退する教授。 代わりに前へ進むのはリンスガルトとエルレーン。 前衛を買って出た二人は、それぞれの像に分かれて対峙する。 「遅い! こちらじゃ」 瞬脚で像の周囲を攪乱するリンスガルト。 からくり起動の像だが性能は比較的低いらしい。この為、早く動く物体を再認識する為に時間がかかる。瞬脚で移動するリンスガルトを捉えるのは一苦労のようだ。 「遅いと言っておろう!」 隙を突いて秋水清光の一撃を脇腹へ叩き込む。 生物と異なり刀身を通して堅い感触が手に伝わる。 刃は岩に食い込むが、体液のような物が流れ出る様子も無い。 「……やりにくい相手じゃのう」 一方、エルレーンも像を相手に戦いにくさを感じていた。 「ぶりーふそっくりってだけで本当に……きもいんだから!」 黒鳥剣の一撃が像の胸部を捉える。 一撃が加える事ができたものの、像は構わずエルレーンに向かって歩み寄ってくる。 生物と異なり痛みを感じていない。 この為、身体が傷付いていても気にせず向かって来る。 像を完全に機能不全へ追い込まなければならないのだが……。 「だったら、同じ箇所を何度でも叩いたらいいんじゃない?」 アムルタートは中間距離からゴールドバインドで像を攻撃。 狙う箇所はエルレーンが叩いて傷つけた像の胸部。 ――バシッ! 乾いた音が広間へ鳴り響き、像の傷を大きく広げる。 「そっか。何度もこりずにたたけばいいんだね!」 鞭の衝撃でたじろいだ像。 傷を中心に崩れていく身体。そこへエルレーンの更なる一撃が加わる。 激しい金属音。 次の瞬間、像は地面に倒れ込んで動かなくなった。 時折駆動音が聞こえるが、身体を動かすだけの動力が得られないらしい。 「みんな、弱点はむねにあるみたいだよ!」 「承知致しました」 美織は、リンスガルトを援護するべく手裏剣「鶴」を放った。 反射的に手裏剣を撃ち払う像。 その瞬間、リンスガルトが先程傷つけた脇腹が露わになる。 「その顔で彷徨くでない! 鳥肌が立つのじゃ!」 リンスガルトは秋水清光を瞬風で間合いを詰め、一気に斬り上げる。 金属音が鳴り響き、像は俯せで地面へ倒れ込んだ。 ● 像を倒した一行は、ついに『母のゆりかご』へと辿り着いた。 そして、そこにあったのは――。 「おおおおっ! こ、これは!」 「オリジナルシップじゃな」 教授の驚嘆に加えてリンスガルトが部屋にあった物体の名称を口にした。 部屋にあったのは全長40メートル程の卵形物体。 昨今、発見されるオリジナルシップと呼ばれる物であり、学者達の間でも研究が進められている。 教授も興奮が隠せない。 「そのようだな。再出発の地と呼ばれる所以には、このオリジナルシップが絡んでいると見て間違いないだろう。 そうなれば、気になるのは再出発が指し示す物だな。このオリジナルシップで何処かへ飛び去る事を再出発と言ったのか。それともオリジナルシップで何処かから現れ、この地で再出発したのか……」 教授の疑問が解明できれば、このオリジナルシップがどのような理由でここにあるのかが判明するはずだ。 「ねぇ、ぶりーふ。ここの壁に何かあるよ?」 エルレーンの呼び声に反応して教授は忙しそうに移動する。 「どれだね? ……ふむ。この木々の上に存在する楕円の物は、オリジナルシップと考えるべきだな。そしてオリジナルシップに描かれた者達か」 壁画に描かれていたのはオリジナルシップ。 それもオリジナルシップの中に人が描かれている。 このオリジナルシップが稼働していた事だけは間違いないようだ。 「ほら、木の横にも人がかかれているよ。これってこの卵で何処かへいくのを見送っているんじゃない?」 「そうとも限らん。オリジナルシップで来た者を出迎えているようにも見えるのじゃ」 壁画をもって深まる謎。 しかし、ここで思わぬ事件が発生する。 「ひやぁ!」 部屋に木霊する迅脚の声。 「どうした?」 「迅脚さんが壁にあった宝珠に触れた途端……」 美織によれば、迅脚が壁にあった宝珠を見つけたらしい。 それに触った途端、宝珠が光り出して反対側の壁を照らし始める。 「なに、これ……?」 アムルタートは絶句した。 宝珠が照らした壁には、不思議な光景。 光の中でアヤカシらしき異形の者が人間を襲っている。さらにそのアヤカシの背後には別の人間達が映っている。その人間達の背には翼を持つ者も存在しており、明らかに異質だ。まるでアヤカシと一緒に人間を攻撃しているようにも見受けられる。 「こ、これは!?」 更なる衝撃を受ける教授。 次の瞬間、映像は途切れる。 振り返れば、映し出していた宝珠は砕け散っていた。 |