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■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 先日からロンリコ族を訪れて、未開の部族と交流を深める。 しかし、罪深き私の存在は彼らの目を誤魔化す事はできなかった。 神と崇められ、連日手厚い接待を受け続けている。 ああ、冒険者兼学者でありながら、神も兼任しなければならないのか。 やはり、美しき物を愛する者にはすべてが理解できるようだ。 「お前が神ならば、その証拠を示せ!」 ロンリコ族の戦士ポコモコが、教授に向かって叫ぶ。 顎髭、胸毛、脇毛、臑毛――体中の毛を生やし放題、体毛の見本市みたいな親父がブリーフ一丁で辛くあたっている。部族の者達は皆教授が神と崇められているのが気にくわないのか、こいつは教授に絡み続けている。 もしかして――。 「あれ? もしかして、嫉妬?」 にやけ顔で突っ込むブリーフ一丁の教授。 そのツッコミにポコモコは更に怒りを募らせる。 「ふざけるな!」 「これ、ポコモコ! 神に失礼ではないか。後程、神を神殿へご案内するのだ。怒らせるでない」 見かねた村長が割って入る。 しかし、ポコモコの怒りは収まらない。 「神殿!? ダメだ! 余所者は、平気で嘘を吐いて人を欺く。先日も村の大切な宝を商人達が騙して持ち去った。俺が商人達から奪い返したから良かったが、余所者は信用できん」 どうやらロンリコ族に接触して言葉巧みに宝を奪おうとした輩がいたようだ。 外部との接触が少ない部族にとって余所者の扱いに悩む事もあったろう。そのような矢先に村の宝を奪った奴がいるのであれば、怒りの対象になるだろう。 ポコモコも村の戦士として一目置かれている存在だ。ここで無視すれば今後の調査に支障を来す恐れもある。何とかして認められなければならない。 教授は仕方なく重い腰を上げる。 「なるほど。それで私に神としての証を示せという訳か。 して、どのように示せというのだ?」 「明日、村に被害を及ぼす黄色い悪魔が現れる。今まで部族の戦士が何人も挑んできたのだが、倒す事は叶わなかった。その悪魔を退治したら、神と信じよう」 村に被害を及ぼす黄色い悪魔。 おそらくアヤカシの仕業だろう。 このアヤカシを退治する事ができれば、ポコモコも教授を慕ってくれるかもしれない。「良かろう。我が力、存分に見せてやろう」 なーに、いざとなったらギルドに依頼を出せばいい。 教授はそんな風に思っていた。 ● ――翌日。 教授は一人、村はずれの密林にいた。 黄色い悪魔が現れるとされた場所で、敵の登場を待っていたのだ。 「ふむ。黄色い悪魔、と呼ばれるという事は黄色が目印という事だ。 黄色いアヤカシを発見して退治して村へ戻る。実に単純なルーチンワークだ。 問題はどのようにアヤカシを倒す……」 その時、教授の体が揺れた。 明らかに地震とは異なる。 ゆっくりと顔を上げる教授。 そこには、密林の樹木よりも巨大なヒヨコの姿があった。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
山中うずら(ic0385)
15歳・女・志
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 「教授かわんねーなー……しかも神様……神様って……ぷっ」 C・グライシンガー(iz0301)から事情を聞いたルオウ(ia2445)は噴き出さずには居られなかった。 フィールドワークに訪れたロリンコ族の村で神と間違われて敬われる教授。 調子に乗って神様気分を満喫していたが、村の戦士であるポコモコから本当の神であるか怪しまれてしまう超展開発生。ビビりまくって狼狽える教授。 「はぁー。まったく、ぶりーふも何ちょうしこいてんだか……。 おとなしく『いいえ私はふつうのにんげんです』って言えばそれですんだのにっ」 エルレーン(ib7455)に真実を付かれて教授は返す言葉もない。 ここで真実を話せば良かったものの、真実を言わないばかりにアヤカシ退治を言い渡される始末だ。 「そうは言うがな、エルレーン君。 彼らの信仰する神とやらが彼らに伝わる伝承の神であるならば、アヤカシ研究にとって貴重な情報かもしれん。彼らの勘違いから始まった交流ではあるが、私は彼らと関係を穏便に保ちながら研究を進めたいのだ」 誰が聞いても胡散臭い言い訳を繰り返す教授。 お前、絶対にロリンコ族から歓待されまくって研究の事を忘れてただろ……。 しかし、このアヤカシ退治が成功すれば村長らしきジジイが神殿へ連れて行ってくれると言っていた。村に伝わる伝承、神殿――何か重要な事が隠されている可能性は高い。 「貴方が神様……なんですか? よく分かりませんが、あまり前に出ないでくださいね? ついでに近くへ寄らないでいただきたいです。少々臭いますので……」 サライ(ic1447)は教授を前に後退りする。 ここ数日ロリンコ族と共にしていた為か、いつもより加齢臭がきつい。 ちょっと嗅覚に秀でたアヤカシがいれば、一撃で葬り去れるのでは無いかと思える程に臭い。 「そうか。それはすまない。 水浴びはしたのだが、ロリンコ族の者が何か話をせよと大騒ぎしてな。長時間の水浴びをする事ができなかったのだ。一段落したらゆっくり風呂につかりたいものだ」 教授は、暢気に高笑いしている。 今回の依頼は単なるアヤカシ退治ではない。 黄色い悪魔と呼ばれるアヤカシを倒すだけではなく、ロリンコ族の者達に腐臭漂うクリーチャーが黄色い悪魔を倒したと思わせなければならない。神と勘違いさせ続けるのは心苦しいが、最上段から奈落の底へ突き落とす瞬間を楽しみにする為にもここは我慢のしどころだろう。 「にゃーご、にゃごにゃご!」 一方、山中うずら(ic0385)は教授達から少し離れた場所で虫を追いかけ回していた。 密林が珍しかったのだろうか、うずらは興奮を抑えきれない様子だ。 「にゃーご!」 宙を漂う羽虫に鋭い眼光を投げかけつつ、右手は刀「丁々発止」の柄へと伸びる。 羽虫に気取られぬよう、静かに、ゆっくりと――。 「何をしている?」 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)は、うずらの着物を掴んで軽々と持ち上げる。 「うわっ!」 「虫? 虫と何をしていたんだ?」 「むー。虫を斬るところだったんだ。あの虫を一撃で倒すんだ」 どうやらうずらは我慢の限度を感じて虫を斬り捨てようとしたらしい。 今はテラドゥカスに掴まれた事でテンションが下がり、大人しくしている。どうやら黄色い悪魔を前にやる気満々といった様子だ。 うずらを地面へと降ろしたテラドゥカスは教授の方へと向き直る。 「教授。ポコモコとやらの懸念は尤もな事よ。こういった辺境の部族が余所者に騙されて父祖伝来の宝や土地を奪われた例は幾らでもあろう」 「うむ。実に嘆かわしい事だ。そういった盗掘家紛いの商人に学術的遺物がガラクタのように捨てられた話は良く聞く。彼らは資産的価値のある物以外は破壊してしまうらしく、そうして失われた宝は数知れぬ」 テラドゥカスの話に同意する教授。 何も知らない部族を騙して金品を巻き上げようとする不届き者は少なくない。それを買ってしまう貴族にも問題はあるが、やはり騙す者が悪人である事には間違いない。 「うーん……良くわかんないけど人をだますのは良くないね」 教授とテラドゥカスの言葉を頭の中で反芻したエルレーン。 一生懸命自分の意見をまとめようとするが、最終的に行き着いた答えがこれのようだ。 「そうだな。シンプルな答えだが、それを究極の答えと言えるだろう。 論文で提出してもらえば花丸をあげるところだ」 「本当に? やったー!」 何だか分からないが、エルレーンは褒められて嬉しそうだ。 「あー! ずるい! 私も花丸っ! くれ! 寄越せ!」 事態を理解していないがエルレーンがもらえた花丸を欲しくなったうずら。 力で奪い取ろうと教授の臑を何発も蹴りまくっている。 「い、痛っ! 蹴ってはいかん。蹴っても花丸はあげられ……痛っ!」 うずらは軽く小突いているつもりのようだが、虚弱体質の教授にとって臑への蹴りは骨身にしみる痛さだ。 黄色い悪魔と退治する前に早くも危機的状況だ。 「で。その黄色い悪魔とやらは何処なんだよ?」 笑いの山を乗り越えたルオウは、教授へ本題を切り出した。 教授は冒険者達と合流する前に黄色い悪魔と遭遇している。 その時は『一人で倒す事は物理的に不可能』という回答に到達。 台所にいる黒光りする虫のような動きで戦略的撤退。 黄色い悪魔から隠れるようにこの地で待っていたのだ。 「そこの山の奥だ。 ロリンコ族が黄色い悪魔と呼称した理由も見れば一目で分かるだろう。黄色に染め上げられた体躯は密林の巨木よりも大きく、歩く度に地響きを感じられる」 「地響き? 今しているようなものか?」 テラドゥカスの言葉で教授は我に返る。 確かに地面が揺れているように感じられる。 最初は自分が疲れていて意識が朦朧としているからだと思っていたが、これは違う。明らかに地面が揺れている。 「そうだ。ちょうどこのような揺れだ」 教授の答え――それは黄色い悪魔の存在を示唆している。 「探す手間は省けましたね。あれだけ大きければ隠れる事は困難です」 サライは軽く笑みを浮かべた。 視線の先には密林の樹木を越えた体を持つ巨大なヒヨコ。 愛くるしい顔だけ見れば心を癒されもするだろうが、あの巨大さは凶器そのもの。巨大な嘴で突かれようものならば……。 サライはさらに言葉を続ける。 「でも……アヤカシとはいえ可愛いですね……倒さなければならないのが残念です」 一方、うずらはヒヨコを発見して再びテンションが上がる。 「鳥! 鳥だニャ! あいつ! あいつ斬ってもいいの!?」 今度は羽虫とは違って全力を出してもいい。臭い匂いを放つ可哀想な人を神様にするように言われていた気もするが、そんなのは後回しだ。今は思う存分あの鳥を叩き切れればいい。 「じゃあ、ぶりーふはちゃんとてはず通りにたいきだからね!」 エルレーンは教授を指差しながら厳命する。 勝手に前へ出られて余計な仕事を増やされては堪らない。 教授には事前にきつく言って聞かせてある。ロリンコ族に教授を神と信じさせる為には、こいつの邪魔だけは何としても回避したい。 「うむ。諸君の働きでロリンコ族の神殿を調査できるかもしれんのだ。頼んだぞ」 ● 「ほーら。鬼さん、こちら!」 ルオウはヒヨコに向かって咆哮を発動。 ヒヨコの注意をルオウへと惹きつけていた。 本当はヒヨコが必要以上に動く事で密林が破壊される事が気がかりだった。だが、戦闘時間を短くして被害を最小限に抑える為にルオウは敢えて囮となった。 「ピヨッ!」 ヒヨコは爆音を立てながら巨大な嘴を地面へと突き刺した。 嘴はルオウが走り去っていた場所へ激突。そこにあった岩を破壊して大きな穴を作り出した。 「へー。デカい嘴だけあって攻撃力はそこそこあるみたいだな」 感心してみせるルオウだが、嘴が当たる気配は欠片もなかった。 テラドゥカスの提案でヒヨコを密林の中へと誘い込んだのだ。巨大過ぎる体が祟ってヒヨコから冒険者を見つけようとしても密林の木々が邪魔で発見する事ができない。小さな冒険者の存在は察知する事ができず、先程から苛つきながら嘴を振り下ろし続けている。「狙いは成功のようだな。では――テラドゥカス軍団、アターック!」 ヒヨコがルオウの存在に注意を向けている隙に足下へ近づいたテラドゥカス。 丸太よりも太い足に向けて拳を何発も叩き込む。 (堅いか) 手に伝わる感触。 からくりである自らの体にも近い感触が拳を通して伝わってくる。 この拳ではダメージを与えられていないのか? 「あはははは! 居合! 居合! 居合居合居合!」 もう片方の足をうずらが強襲。 丁々発止の刃がヒヨコの足に向かって何発も叩き込まれる。同じ箇所を何度も斬りつけられた為、ヒヨコの足に傷がつき始める。 「同じ箇所を叩けばダメージは通じる! ならば、迷う事はないっ!」 テラドゥカスは執拗に同じ場所を殴り続ける。 ここで足のバランスを崩せばヒヨコは転倒するかもしれない。だが、当のヒヨコも教授のように馬鹿ではない。足にそれだけ痛みが走れば冒険者の存在にも気付く。 「むう!?」 「にゃにゃ!?」 突如、テラドゥカスとうずらの前から丸太が消えた。 一瞬、焦る二人。 「逃げろ、二人とも! ヒヨコの奴がジャンプしやがったぞ!」 隼人を使って二人の元まで戻ってきたルオウの声が響き渡る。 ヒヨコは足下の敵を一掃するべく、大きくジャンプを敢行。 自らの尻を武器として足下の敵を押しつぶそうというのだ。 「足下の準備も怠ってはおらぬ、か。……ゆくぞ」 「にゃ!」 うずらの襟を掴んだテラドゥカスは急いでその場を走り去る。 あの巨体が歩くだけであれだけ地響きがしたのだ。 あの巨大な体が上空から落ちてくると考えれば、地面の揺れは――。 ――ドンッ! 今までにない巨大な揺れ。 木々が倒れ、岩を弾き飛ばし、周囲に砂埃が舞い上がる。 視界が晴れるにつれ、ヒヨコの体躯が地面にめり込んでいる光景が見えてくる。 したり顔のヒヨコ。これで冒険者達を倒したかのように確信でもしていたのだろうか。 だが、それは少々早すぎる判断だ。 「着地視点を予想する事は容易。つまり、着地した瞬間は隙だらけです」 誰よりも早く動き出したのはサライだった。 ヒヨコがルオウに注意を向けている隙にサライは樹木を飛び移りながらチャンスを窺っていた。そして、ヒッププレスによってヒヨコの頭が低くなる瞬間を見逃さなかった。 「ごめんなさいっ!」 「おおっ!? わしを踏み台にした!」 サライはうずらを連れて回避に成功したテラドゥカスの頭を踏み台にして大きくジャンプ。 一気にヒヨコの頭へと飛び移った。 「本当、倒さなければならないのが……残念です」 サライはヒヨコの脳天目掛けて忍刀「牙影」を素早く数回振り下ろす。 ヒヨコの足とは違って体の部分は柔らかい。忍刀「牙影」がヒヨコの体表を容赦なく切り裂き、鮮血を溢れさせる。ヒヨコの体からすれば小さな傷かもしれないが、ヒヨコにとって経験の無い痛みにショックを隠せない。 慌てて立ち上がるヒヨコ。その頭の中では冒険者の存在をすっかり失念させている。 「ぱにっくになっているようね。 ふふん、ぴよぴよちゃんなら……これはどうっ!?」 エルレーンはヒヨコの足下に張った縄を引っ張った。 ピンっと張られた縄はヒヨコの足を引っかけてバランスを崩させる事に成功。 先程のヒッププレスとは異なる衝撃を産み出しながら、ヒヨコは無様に転倒した。 普段ならば縄を引き千切るだけの力を持っているはずだったが、パニックに陥っているヒヨコだからこそ成功したと言えるだろう。 「今だっ! 総攻撃!」 エルレーンはヒヨコの土手っ腹に隠逸華の一撃を叩き込む。 今までにない激しい一撃がヒヨコへと加えられる。 そして、ヒヨコの頭部には殲刀「秋水清光」を構えるルオウの姿があった。 「あんまり森に被害を出したくないんだよな。……そろそろ終わりにしようぜ」 ルオウは、タイ捨剣を発動する。 ● 同時刻。 ヒヨコが二度目の転倒をしていた頃、教授はポコモコらロリンコ族の者と一緒にいた。 「どうした? 何故お前は黄色い悪魔と戦わない?」 「うむ。今、私の眷属が黄色い悪魔の動きを抑えている。 準備が整い、黄色い悪魔を私が葬り去ろう」 格好良く弁明する教授だが、この一言はエルレーンと打ち合わせておいた内容だ。 (いい? 合図したらこれで『かみのまだんだー』とか言いながらこうげきしなよ。 そしたらメンモクって奴がたつんだよ。できなかったら、尻を蹴るだけじゃすまないから) 合図を送れば、教授が遠くから渡していた銃の引き金を引く。 同時に冒険者達がヒヨコを倒せば、ポコモコ達は教授が倒したと思い込むはずだ。 (うむ。準備できたようだな。さすがは私の弟子。手際が良い) 教授は懐から銃を取り出すとヒヨコに向かってサイトを合わせる。 「カミノマダンダー」 エルレーンに言われた一言を理解していない教授は、呪文のような言葉を唱えながら引き金を引いた。 周囲に響き渡る銃声。 そして、ヒヨコの頭から巨大な血飛沫が溢れ出す。 「おおっ!!」 ポコモコらロリンコ族から響めきが生まれる。 どうやら、うまく神と信じ込ませる事に成功したようだ。 ● こうして神である教授と神の使徒とされた冒険者達は、改めてロリンコ族へ招待された。 「長老。 黄色い悪魔は倒した。これで信じてもらえるかな?」 「はい、部族の誰も疑う者はおりません」 既にポコモコも深く反省をしているらしく、先程から土下座して頭を上げようとしない。 「なるほど。ところで、前に聞いていた神殿の話なのだが……」 「部族に伝わる古き神殿です。そこの奥には、我が部族にとっての聖地――『母のゆりかご』がございます」 「母のゆりかごとな? 実に興味深い」 母のゆりかごと呼ばれる場所の存在を知って興味を示す教授。 学者としての虫が疼き出したようだ。 「では、後程神殿へ案内させましょう。ですが、神殿内は罠が発動してしまっており、中へ進むのは困難です」 長老の話では神殿の中はトラップが発動しており、奥へ進むにはトラップを回避して進むしかないようだ。だが、学術的興味が優先されている教授にとってその程度は困難のうちに入らない。 止せばいいのに、教授はドヤ顔のままはっきりと断言した。 「問題ない。私には眷属達がおる。すべて彼らが罠を止めてくれよう」 |