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■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 智の女神から祝福を受けた完全無欠の学者兼冒険家。 さらに美の女神が検閲して至上の美まで兼ねてしまった罪深き生物。 ああ、何故神は私をこの世界に誕生させたのだろうか。 「教授、聞きやしたかい?」 いつものようにガトームソンが怪しい笑みを浮かべながら研究室に姿を現す。 こいつが現れる度に香ばしい事件が発生するのだが、当の教授はその事に一切気付かない。 「いや、何の話しかね?」 「実は最近新たに未開の部族が発見されたっつー話なんですよ。今まで独自の文化を育んできたらしく、一切外界と接触を持たなかったらしいんですけどね」 ガトームソンによれば、帝国の西の奥地へ迷い込んだキャラバンが偶然出会った少数部族らしい。当初は言葉を交わす事もできなかったらしいが、驚異的な勢いで語学を学んで日常会話程度ならば普通に行えるそうだ。 その情報に教授は目を輝かせる。 キラキラ光っているようだが、こいつが酷い目にあってブリーフ一枚になる未来が容易に想像できる。行かなければ部屋でぬくぬくと過ごせるのに。 「なにぃ!? もし、その部族が古くから続く部族であればアヤカシ誕生の謎を紐解く重要な手掛かりを掴めるかもしれんな。アヤカシを産むアヤカシ……否、もしその部族がアヤカシとアヤカシが合体したスーパーアヤカシを先祖に持つ者達なのでは? きっと奴らの主食はフライドチキンだっ!」 教授は相変わらず意味不明な言動を繰り返している。きっと格好良い部族と会話をしている姿を妄想しているのだろうが、現実はきっと甘くないぞ。下手すれば滝からヒモ無しバンジーや鼻フックで綱引きとかやらされるんじゃないか? 「それが部族の文化ならば仕方あるまい。ヒモ無しバンジーでも鼻フック綱引きでもやろうじゃないか」 「独り言ですかい?」 「ああ、いや。なんでもない。 して、その部族の具体的な場所は分かるかね?」 「ああ、ええと…………大体、この辺らしいですぜ」 ガトームソンは地図を広げると、ベラリエース大陸の西側を指し示す。 そこは魔の森に属してはいないまでも、幾つかの危険地帯を乗り越えなければならなかった。 「うっ、なかなか危険な場所のようだな」 「止めますかい?」 意地の悪い質問をぶつけるガトームソン。 しかし、教授はニヤリと微笑んだ。 「なんの。学者のフィールドワークに危険は付き物。 行かねばなるまい。私が学者である限り」 |
■参加者一覧
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
フレデリク・ロワゾー(ic1413)
23歳・男・騎
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)
48歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ――数日前。 「あんたが教授か! やっべー、すっげーカッコいい! 会えてマジ嬉しいぜ!」 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)のパートナーである羽妖精のビリティスが、C・グライシンガー(iz0301)の周りを飛び回って賞賛していた。 今からフィールドワークに出る直前の教授がカッコいいとビリティスが褒めちぎるが、端から見れば顔面蒼白のおっさんが褒め殺しに合っているようにしか見えない。それでも当の本人は久しぶりの賞賛に嬉しさを隠せない。 「ほう。ならば、今回の冒険譚を是非話して聞かせようではないか! 今回は未開の密林にいる部族達を訪ね、彼らの持つ言い伝えを調べるのが目的だ。 他文化と交流を持たなかった部族だ。おそらく古くからの言い伝えが彼らに伝わっているに違いない! 刮目して待つべし!」 ドギャーンっ! という効果音が似合いそうなぐらい断言する教授。 探検服に身を包み、颯爽と研究室を後にする訳だが……。 ● 「え。ブリーフ、また遅れているんだけどー?」 密林の途中で通過する砂漠で、エルレーン(ib7455)が苛つきを隠せないでいた。 教授を護衛する為に冒険者を募ったものの、当の教授が砂漠の熱さでグロッキー。 あまりの熱さに探検服も脱ぎ捨て、ブリーフ一枚で砂漠を流離っていた。 数日前のカッコ良さは消え失せ、目の前にいるのは顔面蒼白の変態ゾンビである。 「……ま、待ちたまえ。しょ、諸君も、十分な水分補給を……」 「その言葉、既に20回程聞いてますわ。 小まめな水分の補給。頭部の熱が高すぎれば熱中症になる。 ご心配は感謝致しますが、それを教えていただいた教授の方が心配ですわ」 教授の言葉に雁久良霧依(ib9706)が答えた。 砂漠を歩き続ける一行だが、明らかに教授が水分を一番消費している。知識はあってもそれを使いこなすスキルがない。何処に居ても教授の駄目さ加減は健在である。 「今回依頼に参加した冒険者は教授を無事に集落へ送り届ける事が目的だ。 熱中症などで倒れられては、目的の達成に支障が出かねない。自分の体を注意してくれ」 アルクトゥルス(ib0016)はぶっきらぼうな言い方だが、教授の体を気遣った。 時折休憩する際も教授を日陰に入れる前に砂を剣で刺して十分な警戒を取っている。事前にキャラバンの者から砂漠にアヤカシが出現する事を聞いていたからだ。 「たしかぁ、サソリのアヤカシだっけ? 気を付けないとね。私も脚甲靴を履いてきちゃった」 エルレーンが装備してきた脚甲靴はアヤカシ対策であった。 もし、サソリのアヤカシが尻尾だけ出して足を攻撃する事も十分考えられる。 「あれ? ねぇ、ブリーフ。そのグリーブ熱くないの?」 グリーブはジルベリア式の鎧に合わせられて作られた、足を覆う金属製の靴。 つまり、砂漠の直射日光を浴びたグリーブの中は――。 「くっ。さすが私の弟子。そこに気付いたか。霧依君。さすがにこのグリーブを砂漠で履き続ければ、私は足だけめちゃダイエット。ニワトリの足を持つ天才教授が爆誕する事になる」 「ダメですわ。アヤカシに襲われる事を考えれば、ガ・マ・ン……ですわ」 グリーブを脱ぐ許可を求める教授だが、その教授を色気たっぷりに諭す霧依。 既にグリーブと足の境界線には赤い線が浮き出ており、足のピンチな箇所が一目瞭然だ。 「しかし、残念だ。わしの強さを見せつけたいのだが、当のアヤカシは出てこようとせん。 もしや、アヤカシの連中はわしを恐れて隠れているのではないか?」 教授の前を歩くテラドゥカスは、砂漠の中を高笑いで歩く。 からくりだからなのか、歩くスピードを比較しても教授と雲泥の差。正直、テラドゥカスが抱えて歩いた方が余程早い。 砂漠の熱に包まれているとはいえ、暢気な空気が流れている。 このまま何も起こらなければ良かったのだが――。 「本当に残念。このまま砂漠を抜けられれば良かったのだが……」 フレデリク・ロワゾー(ic1413)は、前方に向けてチャージランスを抜いた。 フレデリクが見据える先には、砂の中から飛び出した一本の触手。 「サソリの尻尾。情報通りだ」 アルクトゥルスもロングソード「クリスタルマスター」を構えた。 同時に周囲にも気を配る。集団で敵を襲ってくる可能性もある。前方の敵に意識しながら、教授へ攻撃が仕掛けられないようにしなければならない。 その考えはテラドゥカスも同様であった。 「教授。わしの後ろへ来い。からくりのわしならば奴らの針なぞ恐れる事はない!」 教授の盾となるべく教授との距離を詰めるテラドゥカス。 ここで教授の護衛を行えば、他の者はサソリに集中する事ができる。好き好んでブリーフ一丁の加齢臭プリンスを護衛したいと思った者は少ない。テラドゥカスの勇気ある行動に拍手喝采だ。 だが、当の教授は想像以上に使えなかった。 「あつっ! 走るとグリーブが擦れて……あっ!」 砂に足を取られて転倒する教授。 その先には黒鳥剣を握るエルレーンが――。 「きゃっ!」 教授の手がエルレーンの足を掠めた。 ほんの数センチ横に手が動いていれば、尻にメガヒット。教授の分際でラッキースケベが炸裂するところだった。 が。当のエルレーンは足を掠めただけでも気に入らないらしい。 「存在だけでもしつれいなぶりーふなのに……この変態エロぶりーふ!」 体を震わせながら教授の尻に蹴りを一撃加えるエルレーン。 ガリガリな教授の体は吹き飛ばされ、砂の上を転げ回る。 「ぎゃっ! アツアツの砂が素肌に! ヤバい、この熱さは、ヤバい!」 悲鳴を上げて転げ回るが、ブリーフ一丁にグリーブを装着していた教授の体は裸同然。素肌に砂が触れまくれ、勝手に危機的状態へと陥っていた。 「教授!」 慌てて霧依が教授のレ・リカルで回復を試みる。 戦闘がないところで勝手に負傷する教授は、お荷物以外の何物でも無かった。 「教授殿を頼む! こちらは任せておけ……はっ!」 フレデリクは構えたチャージランスを本体と思しき場所へと突き刺した。 ――ガチンっ! (堅い。届かないか) 経験上、この堅さが手に伝わった時は相手にダメージが与えられていない。おそらく表面の殻は比較的硬いのだろう。 「ならば、砂から引き摺り出してくれようぞ」 周囲に他のサソリがいない事を確認したテラドゥカスは前に出る。 サソリがいた箇所に手を入れ、サソリの体を砂の外へと持ち上げる。 サソリも尻尾で応戦するが、テラドゥカスの装甲を破る事ができない。 「うりゃあ!」 テラドゥカスのかけ声と共にサソリの体が宙を舞った。 砂から現れたサソリは想像よりも大きくない。仕留める場所を間違えなければ一撃で倒せるはずだ。 「良くやった……消えろ!」 宙を舞うサソリの腹部に向かってアルクトゥルスのクリスタルマスターが突き刺さる。 地面へと落下したサソリは手足を痙攣させながらひっくり返っている。サソリが反撃する気配はまったくなかった。 「このサソリは倒せたが、近くに群れがいるかもしれない。急いだ方が良い」 フレデリクは周囲を警戒しながら前進を提案。 目的はアヤカシ退治ではなく、お荷物の教授を集落へ連れて行く事。 余力を残して集落へ向かわなければならない。 集落で何が待っているのか分からないのだから。 ● 「よーも、まー……。ある所にはあるモンなんだな」 集落付近と言われていた付近を進む一行。 付近は完全に密林地帯となっており、針葉樹の森を見慣れていたアルクトゥルスにとって見慣れない光景が続いていた。溶岩の地熱が影響してこのような密林が出来上がったと聞いてはいたが、目の当たりにすれば衝撃的な光景だ。 「諸君。足下は木々の根が張り巡らされている。平地を歩くよりも体力を使うので十分な注意が必要だ」 「言われなくても分かっているわ。ぶりーふを見ていればね」 呆れ口調のエルレーン。 無理もなかった。周囲に注意を促している教授が何度も根に足を取られて転倒。その度に霧依が面倒を見る為に遅々として進むことができていないからだ。 「集落が近いのであれば無闇に歩き回るのは危険かもしれん。教授の動きに合わせるぐらいがちょうど良いのではないか?」 フレデリクは仲間に警戒を促した。 それはアヤカシの襲撃よりも、集落の部族に対してのものだ。最近交流を始めた部族ではあるが、彼らの文化については情報を持ち合わせていない。もし、彼らが聖地と崇める場所に足を踏み入れて怒らせでもすれば教授は研究を行う事ができない。むしろ、部族の者にこちらを発見してもらう方が良いのかもしれない。 「そう! フレデリク君の言う通りだ! 私は皆にそれを気付いて貰いたかったのだ」 フレデリクのフォローに対して調子に乗る教授。 まるで自分から転んだかのような口ぶりだが、冒険者達にはそれが嘘だとすぐに分かった。何故、すぐにバレる嘘を吐くのか。それは自分自身だけは騙し通せていると信じているからだ。教授は馬鹿の名前を欲しいままにしている。 「!? 今、上から物音がしなかったかしら?」 霧依の前に落ちる一枚の葉。 風はまったく感じなかった。 耳を澄ませば枝のしなる音や、葉が擦れ合う事が聞こえる。 それも一つじゃない。 「どうやら、来たようだな。それも団体で――愚かな!」 テラドゥカスは八極門を発動。 周囲に気を配りながら、微細な変化を感じ取ろうとする。 流れ始める風。その風に混じって姿を現す一匹の獣。 「そこじゃあ!」 爪で襲い掛かろうとするムササビに対してテラドゥカスのカウンターがヒット。 吹き飛ばされて後方の樹木に激突。ムササビはそのまま動かなくなった。 「始まったみたいですわ。教授、こちらへ」 勝手に負傷されないように教授を大木横で座らせる霧依。 動き回られるよりもここでじっとしていて貰った方が良い。 その間にもムササビの群れが冒険者達を襲撃する。 「いくら私がぁ、かわいい女の子でも、……け、剣士だってことはわかってもらえるよねっ!」 ムササビの動きを読み、その軌道に合わせて黒鳥剣を振り抜くエルレーン。 ムササビの体を引き裂き、地面へと落下させる。 どうやらムササビの防御力は低く、攻撃を当てる事ができれば倒すのは容易いようだ。 「気を抜くな。敵数は少ないが、油断をすれば負傷するぞ」 ムササビの突撃に対してアルクトゥルスは、シールドノックで対抗。 衝撃がそのまま体へ伝わったムササビは地面へと落下。目を回して気を失っている。アルクトゥルスは動けないムササビへ容赦なく剣を突き立てていく。 「この敵の襲撃で、部族の者が気付いてくれるかもしれない。周囲にも気を配るんだ」 カウンターでスマッシュを放つフレデリク。ムササビの軌道は単調で読み切れば倒すのは難しくない。それよりもここの騒ぎを聞きつけて部族の者が現れる事を期待していた。 そして、その期待は見事に的中する。 ――ガサガサ……。 今度は地面に低く生える木々が音を立てて鳴り響く。 冒険者達は一斉に音の方向へ視線を向ける。 木々の間から顔を出したのは毛むくじゃらの親父。上半身裸で茶色系の褌を着用している。手には狩猟用の槍を握っている。 「な、なんだお前達……」 「貴様、この付近の者か?」 「なんだ!? 四角い奴が喋ってるぞ!」 テラドゥカスを見て驚く男。おそらくからくりを知らない――部族の者と見て間違いない。早速フレデリクが男へ叫ぶ。 「私達は君達と会うためにやってきた。できればこのムササビを何とかしたい」 「そういう事か。ならこっちへ来い!」 男は冒険者達の道先案内人となって進む方向を教えてくれた。 ムササビは木々が茂っている箇所では素早いが、水で滑りやすい木には飛び移れないらしい。そこで男は近くの滝まで冒険者達を誘導。ムササビの追っ手を振り切るところに成功した。 「これでもう大丈夫だ」 「いやー、良かった。諸君には感謝しきれんぞ」 感謝の言葉を述べる教授。 結局、こいつは何もしていないのだが――ここで衝撃的な展開を迎える。 「あああ!!!」 突然叫び出す部族の男。 見れば跪いて教授の前に平服している。 「神だ! 神が降臨された!」 神。部族の男は教授をそう呼んだ。 ● その後。 部族の者から集落へ丁重に連れて来られた。 事前に冒険者達が部族の機嫌を取る目的で土産を多数用意してくれた為、冒険者達も部族の者から温かい歓迎を受けた。テラドゥカスが用意した大型ネズミのドクロを繋げて作った首飾りですら嬉しそうに受け取っていたのだから、その歓迎ぶりは異常とも言えた。 その原因はすべて――。 「いやー、こんな事になるとは……」 教授は祭壇らしき高い場所に椅子が用意されて座っている。 椅子のサイズから見ても偉い人専用である事は誰の目にも明らかであった。 「さっき、教授の事を『神』って言ってたわね。それが関係しているんじゃない?」 霧依が状況から判断した答えを導き出した。 だが、傍らに立つフレデリクは沈黙を守った。 まだ答えを出すには情報が足りなすぎる。未開部族と邂逅の最中なのだ。下手に部族を刺激せずに流れに身を任せて情報を集める事を優先する為だ。 「あ、なんか派手なおじいちゃんがきたよ」 エルレーンが小声で呟いた。 見れば派手な羽根飾りを付けた老人が教授の前に膝をついている。 「神よ。言い伝え通り、よくぞいらした」 「言い伝え?」 「はい。我がロリンコ族に伝わる言い伝えです。 『ロリンコ危機の刻、白き神が降り立つ。 白き神はすべてを見通す聖なる神。 民は白き神の前で真実に触れるであろう』 村ではこのように伝承が伝えられております」 どうやら教授は未開の部族――ロリンコ族に白き神と間違えられたようだ。 おかげで先のキャラバンに部族の名前を明かしていなかったが、部族の名前を知る事ができた。 「神よ。どうか、大地の怒りを……」 「待てい!」 唸るような怒鳴る声。 そこにはこれまた髭面で胸毛もMAX。男性ホルモンの塊みたいな親父がブリーフ一丁で立っていた。 「む。ぴちぴちのブリーフを履く君は誰かな?」 「俺は部族一の戦士ポコモコ! この白き布は部族一の戦士のみが履く事を許されている。それよりも貴様が本当に神なのか?」 ポコモコは教授を疑った。 君の予感は大当たりです。目の前にいるのは神ではなく、ただの変態親父です。 「貴様が本当に神であるならば、その証拠を示せ!」 ポコモコが怒気に満ちた無理難題を突き付ける。 どうやら、教授の苦難は始まったばかりのようだ。 |