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■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 冒険とカレーを愛するイケメン学者。愛多き男は罪深い物だが、片方を取る事など私にはできない。できるならば遺跡調査しながらカレーを食べたい。 カレーを溢した? 勿体ない! 舌で舐めてすくい取るのだ! 「準備は順調だな」 教授は研究室で悪戦苦闘していた。 別に何かを研究していた訳ではない。大量のスパイスを調合しながら、散乱する材料のチェックを繰り返していた。 先日の依頼で開催する事のできなかったカレーパーティを改めて開催するべく、準備を続けていたのだ。 「先日は開拓者諸君に済まない事をしたからな。 私のうっかりミスで延期になってしまった以上、うまいカレーを食べさせてやらねばなるまいな」 予定であれば教授は開拓者と共にカレーパーティを開催する予定であった。 しかし、教授が材料の準備不足であった事から中途半端なカレーが出来上がってしまった。それを許せなかった教授は一方的にカレーパーティを延期したという訳だ。 「不足していたクミンも入手できたからな。これで開拓者諸君も満足してくれる事だろう」 「……うわっ、なんですかい? この食材の山は」 友人のガトームソンは研究室へ足を踏み入れた途端に声を上げた。 普段は書籍で埋もれているのだが、今日は大量の食材に埋もれているのだから当然だろう。 「おお、来たか。カレーパーティの準備は順調に進んでいるぞ」 「そうですかい。村のみんなも楽しみにしていやしたから、当日は盛大なパーティになりそうですねぇ」 「なんだって? 村のみんな?」 教授は思わず顔を上げた。 「ええ。教授は付近の村人も呼んで盛大にパーティをするんでしょう?」 「何を言っておる。私は世話になった開拓者諸君に礼をする為にカレーパーティを開催するのだ。村人の話は知らんぞ?」 「本当ですかい? あっしは村中に触れ回っちまいやしたよ。 『変人の教授がみんなにカレーとかいう変わった食い物をご馳走してくれる』って」 二人の間に気まずい空気が流れ出す。 行き違いがあった事は間違いないようだが――。 「うーむ、村人が楽しみにしてくれるのであれば中止も可哀想だ。 何とかパーティを成功させなければなるまい。カレーだけでは間に合わん。村人へスパイスの素晴らしさを伝えるパーティの方向へ切り替えて皆を満足させるか。それとも、稲光のように輝くイケメンな私の社交界デビューを発表する祝賀パーティにするべきか。 いや、思い切って海賊の王に……」 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
暁火鳥(ib9338)
16歳・男・魔
シエン(ic1001)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「おー、人が集まって来てるぜ。こりゃ、予想よりも大きな祭りになりそうだな」 窓から外の様子を窺っていた暁火鳥(ib9338)が、興奮気味にそう口にした。 間抜けすぎる行き違いの末、近隣住民に自慢のカレーを振る舞うことになったC・グラインガー(iz0301)。 当初は開拓者だけの小さなカレーパーティーを開催する予定だった。だが、気付けば周辺の村を巻き込んだカレー例大祭へと発展。大慌てでパーティーの準備する教授は、もてなすはずの開拓者にまでヘルプ要請したのだ。 「あの……顔色が。何処か具合でも悪いのでしょうか……」 先程、教授の顔を目撃した柚乃(ia0638)が心配そうに呟いた。 初めて会った人間にこんな言い方は酷いと思うが、美白過ぎて気色悪い奴は見たことがない。 それに対して、エルレーン(ib7455)はため息をつきながら答える。 「ああ。あのぶりーふ……じゃなかった、教授はいつもあんな感じよ」 ついにエルレーンの中では『ぶりーふ』という呼び名が定着してしまったようだ。事ある毎にエルレーンの前でブリーフ一丁で登場するのだから、弁護の余地はない。 そもそも、こいつを弁護する気は最初からないのだが――。 「そうなんですか? 私はてっきり……」 「アヤカシと思った? まあ、あのがいけんだもん。無理もないよね。おまけに変な体臭がするし……」 「誰の事を言っているのかね?」 柚乃に愚痴をこぼしていたエルレーンの背後から、教授が姿を現した。 「うわぁ! 出たっ!」 「出た、とは何だ。ここは私の研究室だ。出没するのは当然ではないかね? まるで私への文句を言っている時に私が現れたかのような反応だな」 どうやら教授はエルレーンの言葉を耳にしていなかったらしい。 「あら? いつの間にかお召し替えされたのですね」 柚乃は、教授の異変に気付いた。 さっきまで作業着姿だった教授が、ダブルのスーツを着こなしていた。おまけに体臭も消えて綺麗サッパリ。薔薇でも咥えればダンディーな紳士に見えなくもない。 「あれがイケメンのグライシンガー教授か。何処の部族出身なのかと思ったが、会えば普通に紳士じゃな」 シエン(ic1001)は落胆している。 アヤカシと人間の間に生命体が誕生したとすれば、教授のような顔になっても不思議じゃない自称イケメンにシエンは興味を抱いていた。一体、どこの地方にいる部族がこいつをイケメンと判断するのだろう。世界の広大さを感じさせてくれるのではないか……シエンは、そのように考えていたようだ。 「教授の格好はアバンギャルド過ぎて誰もついてこられないからな。ホスト役として恥ずかしくない格好にしねぇとな」 シエンの脇でナキ=シャラーラ(ib7034)が胸を張って見せた。 このパーティーは周辺の村からカレーという未知なる食べ物を求めてやってくる訳だが、パーティーの主催である教授をブリーフ一枚で待機させる訳にはいかない。実際、教授は付近の村から『変態教授』『Mr.ブリーフ』『機動戦士ブリーフ』『ホーホケキョ となりのブリーフくん』などと揶揄されている。 そこで、ナキが半ば強引に体を風呂に叩き込んで体を洗い、スーツを着せたという訳だ。うまくいけば、教授の評判は鰻登りだ。なんたって、これ以上下がらないから上がるしかない。 「デッキブラシで私の体を擦るとは……。おかげで体が傷だらけだ」 「仕方ねぇだろ、臭いがなかなか取れなかったんだから。 それよりズボンを気をつけろよ」 ナキは教授のズボンを指差した。 実は予想よりも教授の体はやせ細っており、ベルトを思いっきり締めてもずり下がってきてしまうのだ。 「うーん、やはり下がるズボンは脱いでブリーフ一枚になった方が合理的……」 ズボンを脱ぎ去ろうとする教授の手をエルレーンが掴んだ。 「そのズボン、下ろしたら……分かっているよね?」 明らかにいつもと雰囲気が異なるエルレーン。笑顔を浮かべながら、内より解き放たれるオーラは禍々しい。まさに天使のような悪魔の笑顔。馬鹿な教授でも容易に危険を察知できた。 教授への怒りなのか。 それとも、憎しみなのか。 いずれにしても、教授へ向けられた負の感情は底知れぬ恐ろしさを感じさせていた。 「おしり、蹴りころしちゃうから」 ● 「お水をどうぞ」 カレーの準備が出来るまでの間、集まってくれた人達へ柚乃は水を配って回っていた。 給仕役を立候補した柚乃は、氷霊結で冷やした水を提供。井戸水よりも冷たい水に、集まった人達の評判は上々だ。 「うーん、水がひんやりして美味しい!」 「この水だけでも十分だけど、カレーとやらはもっと美味しいのかな?」 人々の間で膨れ上がる期待。 それに対して柚乃には一抹の不安を抱き始めていた。 (予定だとそろそろ最初の料理が出るはずなのに……どうしたのでしょう) 開拓者の間でパーティーのスケジュールを確認しておいたのだが、予定時刻を過ぎてもカレーの準備が出来たという連絡はない。このままでは集まった人達が騒ぎ出す恐れもある。 カレーが出来るまでみんなに何か楽しんでもらえる物を――。 「誰か演奏できる奴いないか? 俺が剣舞を見せてやるよ」 事態を察したルオウ(ia2445)が、殲刀「秋水清光」を抜き放ち大声で叫ぶ。 料理が出来るまでの間、少しでも集まった人達を退屈にさせてはいけないと剣舞を準備していたようだ。 (これで少しでも時間が稼げれば……) その叫びに答えるように、村人の中から楽器で演奏できる者が現れた。 そして、奏でられる音楽に合わせてルオウの剣舞が始まった。素早い動きの中に力強さを感じさせる。 いつしか、周囲の視線を一手に独占していた。 (やはり、厨房は手間取っているのですね) 予定では、ルオウも料理を準備していたはず。しかし、ここで剣舞を行って時間を稼いでいるという事は、厨房で何かトラブルがあったに違いない。 事態を察した柚乃。 ルオウの剣舞を見つめてタイミングを計りながら、髪を高く結い上げ始めた。 ● 柚乃が民衆の前でヴィヌ・イシュタルを発動させた華麗なるダンスを披露している頃。 ルオウは足早に厨房へと戻る。 自分が用意する予定の料理を準備しなければならない事は当然だが、それ以上に気になる事があった。 「どうだ、カレーの方は?」 「食べれば分かる」 暁火鳥は小皿によそったカレーをルオウへ差し出した。 ルオウは促されるままにカレーを指に付けてそっと舐めてみる。 「うわっ! なんだこれ? 辛い……いや、苦いっ! 凄い苦いっ!」 「教授がスパイスに火を通すと言い出したんだが、予想通りスパイスを焦がしたんだ。その上、みんなが止めるのを無視して強引にカレーへ仕立てた結果がこれだ」 暁火鳥は、思い切りため息をついた。 カレーに対する知識は山ほどあっても、生来の不器用さは予想以上だった。スパイスを炒めて焦がす以外にも肘をぶつけてスパイスを床にぶちまけたりと大活躍。 既に教授がいた付近はスパイス塗れとなっていた。 「あっれー? 確か教授って前にかれーを作ってなかった?」 エルレーンの記憶では以前の依頼が終了した後、教授は開拓者達にカレーを振る舞ってくれた。 本人曰くスパイスが不足して納得のいくカレーではなかったらしいが、今回のように食べられない代物ではなかった。しかし、今回教授が作ったカレーは食品ではなく、可哀想な液体となっていた。 「あれはガトームソンに手伝ってもらったんだ。 彼には用意したスパイスを炒めてもらい、スパイスと具材を煮込んで仕上げをしてもらったからな」 つまり、教授はスパイスを準備しただけでカレーを作ったのは友人のガトームソンがやっていたらしい。教授は料理一つできない不器用ぶりを認めようとせず、今回の悲劇を引き起こしてしまった。 「ふむ。では、この失敗作はなかった事にするかのう」 「あう、私の力作が!?」 シエンは教授が作ったカレーにキュアウォーターを使った。 苦みだけの液体は、教授に汚される前の水へと戻っていった。がっくり項垂れる教授であったが、こればかりは誰も慰める事ができない。 「しょうがねぇな。外のみんなを待たせる訳にはいかねぇから、教授のカレー以外の料理を先に出しちまおうぜ。あたしの料理の方が早く出来上がるしな」 ナキが前向きな提案を行う。 開拓者が持ち込んだ料理を先に出しておき、その間に開拓者達が協力して教授のカレーを仕上げてしまおうという魂胆だ 「うっしゃあ! 小麦粉料理人と言われた俺の腕の見せどころだぜぃ!」 ナキの提案を受けてルオウも調理を開始する。 早速小麦粉へと手を伸ばして生地造りに着手するようだ。 「仕方ないのう。教授のカレーはわしが手伝おう。 レシピは知っておるのだろう?」 教授に呆れたのかシエンが協力を申し出た。 「しょうがないなぁ。私も助けてあげるよ。今日はまじめに働いているみたいだし」 シエンに呼応してエルレーンも助けてくれるようだ。 エルレーンは料理が得意ではないが、不器用な教授と比較すれば数倍も戦力になるはずだ。 「じゃあ、早速始めるか。 うっかり分量を間違えねぇようにスパイスの量を先に量っておこうぜ」 暁火鳥は現在残っているスパイスを調べながらカレーに使うスパイスの量を事前に調べておく事を提案した。 教授の悪夢を再び繰り返さない為に――。 ● カレーが完成する前に、民衆へ振る舞われたのはルオウとナキの料理だ。 「へいっ! らっしゃいらっしゃい! うんめえお好み焼きだぜー!」 「お好み焼き? ふーん、変わった料理があるんだな」 手を叩いて客を呼び込むルオウ。 それに応じるかのように人々はルオウの前へやってくる。 そのタイミングを見計らってお好み焼きにソースを塗ってみせる。 焼かれるソースが空中へ広がり、民衆の鼻腔を刺激する。 「うまそうだな。食べさせてくれ!」 「おう、ほらよ」 ルオウは手早くヘラでお好み焼きを切り分け、民衆に配り出す。 熱々の生地を口の中に放り込み、空腹を満たす民衆。 「おお、変わった味だが結構うまいな」 ソース自体を民衆が食す機会は少ないが、民衆からは変わった味のするソースとして認識されたようだ。ソースの選別に苦心したルオウの甲斐はあったようだ。 「こっちのドネルケバブも凄い美味しいぞ」 駆け寄ってきた民衆が手にしているのは、ナキ特製のドネルケバブだ。 民衆の前で大きな串に刺した肉を回しながら焼く。焼き上がった後はナイフで手早く肉を削ぎ落とし、季節の野菜と一緒にパンと挟んで配っているようだ。ソースはマイルドなヨーグルトソースと辛いチリソースが選べる客層を選ばないようにしている。 「うまいからって食べ過ぎるなよ! これからカレーもあるんだからな」 民衆にドネルケバブを手渡しながら、ナキは叫んだ。 空腹で不満を口にし始めていた民衆も居たようだが、ルオウとナキが先行で料理を出したおかげで不満も解消。さらにナキはカレーの後のデザートとしてロクムとバクラヴァも準備を開始。 最後まで民衆にパーティを楽しんでもらおうと仕込み万端で望んでいたようだ。 「パーティはまだまだこれからだぜ!」 ● 「皆さん、カレーが完成致しました」 柚乃の声が広場へと響き渡る。 開拓者の絶大な協力を得て作成した、自称『教授のカレー』が完成したのだ。 柚乃が手にしているカレーの入った器には、ルオウのお好み焼きに負けないスパイスの香りが漂い、民衆の胃袋を活性化させる。 具材はチキン、澄ましバター(ギィ)とハチミツの入ったカレーは辛いだけのカレーとは違って複雑な香りを放っている。 「これがカレーってぇのか?」 「嗅いだことの無い香りだけど……なんか良い感じだな」 「姉ちゃん、早くくれよ!」 柚乃に殺到する民衆。 それに対して柚乃は一つ一つ冷静に対処していく。 「焦らなくても大丈夫です。カレーはまだまだありますから」 「こちらでもカレーを出すぞ。少々辛口のカレーを希望の奴は並ぶが良い」 シエンもカレーを持ってきた。こちらは柚乃よりも辛いカレーのようだ。 エルレーンとナキの提案で辛さを変えたカレーを複数提供する事にしたが、概ね好評のようだ。 「こっちのは甘口のカレーだ。子供や老人はこっちの方がお薦めだぜ」 暁火鳥もカレーを配り始めた。 香辛料の刺激に慣れていない子供や老人用に甘口のカレーを準備していたようだ。 民衆はそれぞれ新たな食感と刺激を楽しみながら、カレーを次々と平らげていく。 念願のカレーの登場した事で噂は付近の村へと伝播。噂を聞きつけた更に客を呼び込む展開となっていく――。 ● 「ふーん、これがかれーか。辛いだけじゃないんだなぁ」 民衆にレモン水やサラダを配り終え、こっそりカレーを食べてみるエルレーン。 先日食べた失敗作は辛いばかりだったが、今回のカレーは甘味や苦味など複雑な味が絡み合っている。まさか作るところから手伝わされるとは思わなかったが、とても良い経験になったようだ。 「お−、カレーはうまいかね?」 厨房から出てきた教授がエルレーンの姿を見付けて駆け寄ってくる。 民衆が美味しく自分が作ったカレーを美味しく食べてくれる事が感慨深いらしく、軽く涙ぐんでいる。お前はスパイスを用意しただけで、作ったのは開拓者のみんなだけどな。 「あ、教授。走ったらあぶないよ」 「走っているとスーツのズボンが下がって……あっ!」 次の瞬間、腰から滑り落るズボン。 民衆の前に晒されるブリーフ。しかも、エルレーンの程近い位置で落下したため、エルレーンの視線はブリーフが独占だ。 「おお? 上半身はスーツで決まっているのに下半身はブリーフ一枚。このギャップ、もしかして新たな新境地ではないか?」 ブリーフ全開となった事でまたおかしな妄想を抱き始める教授。 既に周囲の民衆は教授の痴態に気付いたらしく、指を差して笑っている。開拓者達も教授の好感度アップに貢献してくれていたのだが、馬鹿の行動一つでネタキャラに逆戻りである。この一件で、教授は子供達から『フレッシュぶりキュア』と呼ばれる事になる。 しかし、それだけでは終わらない。 「……言ったよね、ぶりーふ。 脱いだらおしりを蹴りころすって」 ユラリと立ち上がるエルレーン。 流れるように体を動かすエルレーンからは、殺気のような気配を放っている。 その殺気が向けられる先は、眼前のブリーフ以外にない。 「ま、待て! これは不可抗力だ。事故だ。私に責任は……」 「問答無用っ!」 次の瞬間、エルレーンの蹴りが教授の尻へ豪快に突き刺さっていた。 |