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■オープニング本文 私の名前は、クラーク・グライシンガー(iz0301)。 ジルベリア帝国アカデミーを賑わしている学者兼開拓者。 研究テーマはアヤカシ生態学だが、巷ではすっかり考古学者扱い。 アカデミーがどう評価しようが構わないのだが……。 「帝国アカデミーを代表して感謝致します」 アカデミーの学者が教授へ頭を下げた。 先日、ジルベリア帝国から直々の依頼を受けて天儀の遺跡探索を行った教授。 その甲斐もあってオリジナルアーマーを3体も発見する事ができた。この事実はジルベリア帝国アカデミーへ一報が入り、遺跡は大規模な調査が行われている。 今も遺跡の出入り口はアカデミーに所属する技術者や学者が何度も出入りを繰り返している。 「礼は不要。当然の義務だ」 「上の者からも今度教授と一緒に食事をさせていただきたいと申しておりました」 学者の言葉に教授は眉をひそめた。 アカデミーに所属する学者の中には、研究よりも実績を重んじる者がいる。 他者からの賞賛を追い求めて真実を軽んじる者は、最早学者ではない。教授と食事をしたいという者も、教授の研究よりオリジナルシップやオリジナルアーマーの発掘に成功した実績に興味があるのだろう。 「昼食はお断りする。私はアカデミー内の影響力に興味もなければ、協力する義務もない。その無駄な昼食会を催すのであれば、少しでもオリジナルアーマーの研究を進めるべきだ。 ……違うかね?」 教授はオリジナルアーマーを慈しむように見つめた。 今までアカデミー所属の学者から変人と揶揄されても研究を続けてきた。今更アカデミーの学者達に嫌われようと構わない。それよりも携わった研究を少しでも進めた方が良い。 教授の言った台詞は、嘘偽りの無い純粋な本音であった。 「あ、えーと……。 お、オリジナルアーマーは予定通り小型飛空船で運搬致します。 アカデミーの方では、既に稼働可否を含む詳細調査の準備を進めております」 学者は、まずいと感じたのか話題を変えた。 教授もその事に深く追求する気はない。 「そうか。準備する者達によろしく伝えてくれ。 オリジナルアーマーを通して私の研究テーマであるアヤカシの生態について何か分かるかもしれんからな」 オリジナルアーマーは通常のアーマーよりも大きく、7メートルに及ぶ。 さらに遺跡への道は悪く馬車へ運ぶ事は不可能。そこでオリジナルアーマーを運搬する為に小型飛空船を使ってアカデミーまで運搬する手筈となっていた。 「間もなく彼らともお別れか」 教授は、オリジナルアーマーを改めて見つめた。 アカデミーの方が設備も整っている上、研究に携わる学者も多い。オリジナルアーマーに込められた想いに耳を傾けるには最高の環境だ。 その研究に自分が携わる事ができないのは残念だが、アカデミーに所属する心ある学者達ならばきっと真実へ到達する事ができる。 教授は――自分自身にそう『言い聞かせる』。 「教授も同行されますか?」 「うむ。発見した者として最後まで責任を持たねばならん。 それに限られた時間ではあるが、私の手でオリジナルアーマーを調査したい。 ……それぐらいは構わんだろう?」 |
■参加者一覧
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
星芒(ib9755)
17歳・女・武
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
不散紅葉(ic1215)
14歳・女・志 |
■リプレイ本文 重力に逆らう感覚。 瞬間、我が身が体重を失う錯覚に襲われる。 ゆっくりと飛び立った飛空船は、開拓者達の乗せて浮かび上がる。 遺跡から発掘された三体のオリジナルアーマーと共に――。 「ああもうっ、私の龍さえいれば、らくしょーなのにぃっ!」 エルレーン(ib7455)の悲鳴にも似た叫びが木霊する。 今回開拓者達に依頼された任務はオリジナルアーマーを移送する飛空船の護衛だ。 このオリジナルアーマーは古代文明の技術力によって開発されたと思われる物であり、ジルベリア帝国アカデミーなどにより詳細の調査が行われる手筈となっている。その為にも、このオリジナルアーマーを無傷でアカデミーに届けなければならない。 「落ち着きたまえ、エルレーン君。 まだ必ず敵が襲ってくると決まった訳ではあるまい」 軽くため息をついたC・グライシンガー(iz0301)は、エルレーンを落ち着かせる為に声をかけた。 この状況下でエルレーンが叫んでいる理由。 それは、愛用の武器が剣である為に空から襲撃してくる相手が苦手だという事。龍に乗って出撃できればそれらの敵を一閃する自信があるのだろう。 「そうなんだけどさ。 でも、ぶりーふ。万が一って事もあると思うよ」 「確かにその通りだが、龍に乗って出撃すればオリジナルアーマーを調査する事も難しくなってしまうぞ?」 実は今回の依頼にはもう一つ狙いがあった。 輸送中、発掘者である教授の手により調査を行う手筈となっている。 飛空船内では必要な設備が存在しない事から詳細な調査は難しい。それでも教授は発掘者として、オリジナルアーマー三体の調査をアカデミーへ希望。本当に簡単で短い時間となってしまうが――オリジナルアーマーの事前調査準備が始まっていた。 「アカデミーに入ってしまえば、私はオリジナルアーマーの調査に携われなくなってしまうからな。今のうちに調査を行っておきたいのだ」 「なら、早く珍しいアーマーを観に行こうよ!」 不散紅葉(ic1215)は逸る気持ちを抑えきれない様子だ。 紅葉でなくてもオリジナルアーマーを見る機会は少ない。古代文明に少しでも興味を持つ者であれば、今回の調査に興味を持つのは自然だろう。 「うむ、調査の時間は限られている。早速オリジナルアーマーの調査へ取りかかろう」 教授は、エルレーンと紅葉と共にオリジナルアーマーの待つ格納庫へと向かった。 ● 「あ。教授〜、こないだぶりっ」 格納庫へ教授が姿を現したのを見かけた星芒(ib9755)が、早速挨拶で出迎える。 その手には手帳と筆記用具、そして粘土が準備されていた。 手帳にはオリジナルアーマーに描かれた紋様が書き写されている。 ジルベリアのアーマーに比べて他国のテイストを感じされる特徴的な外観だ。 「ふむ。早速オリジナルアーマーの紋様に着目したのだな」 「そそ。この紋様が重要なのは間違いないからね」 星芒が重要と判断したには相応の理由がある。 このオリジナルアーマーが発見された遺跡に残された紋様が、オリジナルシップが発見された遺跡と類似性――否、同一と思われる紋様が確認されている為だ。 つまり、オリジナルシップが発見された遺跡と今回発掘された遺跡は同一の種族、もしくは人間が携わっていると考えるのが自然だ。 「そのもんよーは中にはないの?」 エルレーンは素朴な疑問を口にする。 その問いを待っていたかのように、星芒が微笑みを浮かべて答える。 「ないよ。紋様はオリジナルアーマーの外にのみ描かれているね」 「この紋様は何らかのメッセージ性を持つ物と見て間違いないな。もし、呪術的な意味合いが強いので在ればオリジナルアーマーの中に書かれているべきだ」 星芒の調査結果を受けて教授も意見を述べる。 アカデミーの研究員によれば以前確認されたアーマーには天儀の地名が描かれていたという。そう考えれば古代の賢人はこの紋様がオリジナルアーマーの製造者や管理者にまつわる情報として刻まれたと考えてもおかしくはないようだ。 「見掛けは三体ともほぼ一緒。発掘場所は特に関係ないみたいだね」 「残念ながらこの飛空船では詳細な機能テストは行う事ができん。各機体の特性を掴む事は難しいな」 星芒の呟きに、教授はそう答えた。 「ふふ。巨大オリジナルアーマーは女のロマン、だな」 篠崎早矢(ic0072)は居並ぶオリジナルアーマーを満足げに見つめていた。 お目にかかる事も稀なオリジナルアーマーが三体。 その調査に関われるという事もあり、早矢はロマンを全身で感じ取っていた。 「ロマンか。分からぬでもないな」 「教授。私は馬を愛していますが、人だけではアヤカシに勝てない。 強い乗用朋友が我々人間の要になると思います。アーマーや龍の有効性が極端に証明されれば騎馬の時代が終わるかもしれません。ですが、こういった強いオリジナルアーマーは対アヤカシ戦において希望を感じざるを得ません!」 早矢は、オリジナルアーマーに抱く希望を力説した。 早矢の家は馬と弓を誉れとする家であるが、アヤカシとの戦いを通して人の力のみでアヤカシに対抗する事は難しいと考えていた。技術だけでその差を埋める事は難しい。 しかし、こうした新しい機体が戦場へ投入されれば、対アヤカシ戦の状況は一変する。馬と弓の戦い方が過去の物となれば、早矢自身の生き方も否定されるかもしれない。そうだとしても、早矢はオリジナルアーマーに希望を見出さざるを得なかった。 「確かに遠い将来にはそのような事があるかもしれん。しかし、我々は時間という制約を受けているのだ」 「時間……」 教授の言葉を早矢は繰り返した。 オリジナルアーマーの登場は戦争を一変させる反面、技術的経緯を数段飛び越える事になる。これは本来経るべき課程を飛ばす事を意味し、操縦する者が持つべきメンタル面や技術面を置き去りにする。これを取り戻そうとすれば、大切な時間を消費する他ない。 さらに最近では大アヤカシの活動が活発化。人とアヤカシの戦いは激化が必定なのだが、オリジナルアーマーが実用化されるまで間に合うのかは懐疑的だ。 「もしかすると我々に残された時間は少ないかもしれんな。残念ながら……」 「ふーん。これがオリジナルアーマーかぁ」 教授と早矢がやり取りする間、紅葉はオリジナルアーマーを物珍しそうに見つめていた。 周囲をぐるぐると周りながら、7メートルに及ぶ機体を見上げる。普段見かけることのないオリジナルアーマーの存在に圧倒される事は無理もない。 「これって操縦できないのかな?」 「可能かもしれんが、それは機体の調査がある程度進まなければ駄目だ。乗って動かした途端に爆発という展開は願い下げだろう?」 紅葉の問いに、教授は残念そうに答えた。 操縦する為には各パーツの破損状態を確認。さらに操縦者の安全性を確保した上で行われなければならない。必然的に相応の時間を要する事になる。 「そういえば、じるべりあのアーマーとは何が違うの?」 「ほほう。さすが、私の弟子。基本に立ち返る良い質問だ」 「弟子じゃないってば」 エルレーンの反論を爽やかに聞き流しながら、教授は言葉を続ける。 「先に発見したオリジナルシップ同様、このオリジナルアーマーもロストテクノロジーで作られている」 「教授、古代にて失われた技術を現代に蘇らせる事も研究の一つという訳ですね?」 教授の言葉に対してすかさず星芒が質問をぶつける。 「左様。詳細なデータを見なければ断言はできんが、出力や装甲は既存のアーマーよりも数段上と考えて良いだろう。そして、この技術を解き明かさなければ同じアーマーを作る事は無理だな」 さらに『今もその技術を研究する者が多い』と付け加える教授。 こうした学問は事実の積み重ねと実証が大切だ。ロストテクノロジーの製品を手に入れたからと言って技術革新が巻き起こる訳ではない。 「ふーん。 ……じゃあ、このアーマーの武器も『ろすとてくのろじー』ってやつで作られているの?」 エルレーンのその言葉に反応したのは、教授ではなく早矢であった。 「そうです。しかし、一緒に発見されませんでした。ならば、稼働実験に既存の武器の使用もテストすべきです。 人型という事を考慮すれば、青銅製のカルヴァリン砲や石弾大砲のような主砲があったのでは……いや、そのためには練力変換動力部分を調査しなければ」 早矢の脳裏に、湯水の如く浮かぶアイディア。 多岐に渡る運用場面に対して最適なオリジナルアーマーの改修案。それらは未来を感じさせるには十分なものであった。 「あっはっは!」 早矢の案に星芒が反応する。 「笑うというのは少々失礼ではありませんか?」 「ああ、ゴメンゴメン。 もし、オリジナルアーマーが量産されたら今の案は検討してもらえるかもしれないね。 そうでしょ、教授?」 「うむ。今は早矢君の馬とアーマーはそれ程変わらないかもしれん。しかし、いつの日か早矢君のイメージを反映したオリジナルアーマーが……」 教授が言葉の続きを言い掛けた瞬間、整備員からの声が遠くから聞こえる。 数人の整備員が教授達の議論を遮る。 この場に居た者達は、何が起こったのか早々に察した付いた。 「……やれやれ、アヤカシは研究の邪魔をしてくれるようだな」 ● 「あーもー! ふきとんぢゃえよっ!」 エルレーンの瞬風波が空に向かって放たれる。 向かう先は大きなカラス。 ワシのように巨大化したカラスは、エルレーンを一睨みした後で大きく弧を描いた。 「む。避けられたようじゃな」 「ちょっと、ぶりーふ! うるさいっ!」 イライラが隠せないエルレーン。 カラスの大群であれば瞬風波で吹き飛ばせそうだが、一匹のカラスが襲撃しているだけなので的中させるには少々難しいようだ。 「ボクの手裏剣もなかなか当たらないよ」 紅葉の手裏剣も同じ状態だ。 もっとも、二人の攻撃があるからこそ、カラスは飛空船に接近する事もできないようだ。 「カラスは社会性を持つ動物で頭が良い事で知られている。賢く学習能力も併せ持っているはずだが……一匹だけという事は彼らのテリトリーを通過したと見るべきだな」 「学習能力、か。 なら、初めての体験には無抵抗って訳だよね」 教授の言葉からヒントを見出した星芒。 カラスの位置を確認した上で、飛空船へ近づくタイミングを待つ。 そして、射程距離へ捉えた瞬間――星芒は一喝を発動させる。 「!」 一喝の効果でカラスはそれ以上の接近をする事ができない。 カラスは空中で動きを止める。 「攻撃するなら、今よ!」 「ここで決めて見せます」 早矢は五文銭を発動。 強弓「十人張」の弓を引き――放つ。 放たれた矢は、見事カラスの胴体へ突き刺さる。 「カーッ!」 突然の痛みに驚いたカラス。 体を翻して足下の森の方へと飛び去っていく。 「おお、カラスが驚いて撤退するようじゃ。諸君のおかげで飛空船も無事だな」 「ちぇー。かっこよくカラスをぶっ飛ばしたかったのにー」 「エルレーン君、今はオリジナルアーマーを無事運ぶ事が重要だ。敵を倒すだけではなく……」 「はいはい。ぶりーふはいっつも小言がうるさいんだから」 文句を言いながらもエルレーンはオリジナルアーマーがあった格納庫へ戻る。 目的地までもう少し――与えられた研究時間は少なくなっていた。 ● 「教授、簡単なチェックをしてみましたが稼働状態は悪くありません」 「こっちも大丈夫だよー」 早矢と星芒が教授へ呼びかけた。 残された僅かな時間で教授は開拓者と共に故障箇所及び各パーツの稼働状態を確認していた。現段階で可能なチェックを行っておけば、アカデミーの面々が次の研究段階へスムーズに移る事ができる為だ。 「うむ、ありがとう。 こちらの機体も故障は見当たらない……ん? 紅葉君、どうしたのかね?」 教授の視界に入ってきたのは、紅葉の姿。 オリジナルアーマーにそっと手を置き、目を瞑っている。 「ボクにとって、名前はとても大切なもの……。 だから、無いのはダメ」 「ほう、名前を付けようというのかね? アカデミーの連中がどう判断するかは分からんが、我々の間だけでも愛称を付けても良いかもしれんな」 教授は紅葉の申し出に賛成のようだ。 いつまでもオリジナルアーマーでは、愛着も湧かない。研究対象に何らかの呼称を付けるのは良くある事だ。 「……時の流れに雲の様に在り、今を彩るもの……。 だから『彩雲』かな」 「ふむ、『彩雲』か。 和風テイストな外装を感じさせる事を考えても和名の名前が良かろう。 諸君、オリジナルアーマーを彩雲と名付けよう」 紅葉の提案を受け、オリジナルアーマーは彩雲と呼ばれる事になった。 アカデミーへ到着するまでの僅かな時間かもしれないが、オリジナルアーマーに名前が付いた事が紅葉にとって喜ばしい事であった。 「ねぇ、ぶりーふ。彩雲ってじるべりあのアーマーよりずっと強いの?」 「今の稼働状況チェックから判断すれば、比較にならない能力を持っている事になる。 エルレーン君は何か気になる事があるのかね?」 エルレーンは教授の問いかけに対して、少々間を置いた後に口を開いた。 「そんなに強いのなら、これに乗っていた人たちは、どこに行ったの?」 エルレーンの言葉は、素朴ながら的を射た質問であった。 故障箇所も見当たらず、稼働できる彩雲を何故遺跡に放置していたのか。 その疑問に対して意見を述べたのは、教授では無く星芒であった。 「仮に彩雲を作った人達がアヤカシと戦っていたとしたら、自分の代で解決できない事を知っていたんじゃないかなぁ。それで未来の為に少しでも戦力を確保したと考えてもおかしくないよね?」 もし、彩雲を作った人達がアヤカシに勝利していたのであれば、既にアヤカシの勢力は極少となっているはずだ。そうなっていないという事は、彼らが完全勝利していない事を意味している。 彩雲にどのような想いを込めて遺跡に安置していたのか。 それはこれからの調査によって明らかになるかもしれない。 「開拓者である諸君に言っておきたい事がある」 腕を組んでいた教授は、ゆっくりと語り始めた。 「私のような学者は真実を追求する事が義務だ。 しかし、諸君ら開拓者はその真実を知った上で考えて欲しい。。 アヤカシと戦ってきた者達の声に耳を傾け、その想いを受け取り――何をすべきか」 彩雲に込められた想いを感じた教授の一言。 間もなく、飛空船はアカデミーへと到着する。 高度を下げる飛空船の中で、教授は開拓者への願いを口にする。 「諸君らが抱いた想いは、我々学者が語り継いでいく。 どうか……誰にも恥じる事のない堂々とした開拓者であってくれ」 |