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■オープニング本文 物には魂が宿ると言われる。特に作成者が心血を注いだ物、所有者が愛着を持って扱った物、枚挙に暇が無い程にそういった話は存在する。 転じて、粗雑適当に扱われた物にも宿ると言われる。 総じてこういった話には作成者や所有者に対し、利益ないしは不利益を与えるという行程に進み、最終的には命を左右するに及ぶ時もある。勿論、話として語られる場合においては道徳的な観点を背景にするものが多く、幼子から老人までこういった話の一つや二つは耳にした事がある筈である。 ここでの問題は、実際にそういった現象が身に降り掛かった場合にどう対処するか。 利益を与えられているならば、特に反省の必要も無くそのまま生活していけば良いだけなのだが、不利益を被った場合には放置しているわけにもいかないだろう。 祓師に頼む、元凶となる物を遺棄する、自身の行いを改善する――個々人によって多少の差異はあるだろうが、代表的な対処法としてはこの三つ辺りが適当だろう。 「前置き長いです」 「あら、見事な添削有難う御座います」 受付さんに突っ返された依頼書を受け取りつつ、蔓は微笑む。その顔はどう見ても、そういった反応を予想していたものだった。 「しかもそれ、本題が何処にも書いてないじゃないですか!」 「だって、本題はこっちに書いてありますもの」 着物の袖からもう一枚の紙を取り出す蔓。それを受け取りつつ、再度この女の相手をする羽目になった自身の不幸を嘆く受付さんだった。仕事は仕事と割り切る他無いか。書面を読むより、彼女の話を聴いた方が早い気もする。 「‥‥で?」 「最近、こういう人形を扱っていまして」 蔓が出してきたのは、片手に乗るくらいの大きさの見事な造りの人形だった。造形だけではなく、着衣にも手が行き届いている。 「亡くなった方の供養に使う物ですよ。何でも、これを作られている村では亡くなられた方の弔いに、それを川に流すそうで」 「――何処の誰がそんなもの欲しがるんですか?」 「お金持ちというのは『他者が持っていない』というだけで、そういったものを欲しがる人も居るのですよ。見た目も悪くないですし――作成者の方には失礼な話ですが。それに、こういうのに関しては買い手を選ばせて頂いてますし」 ――それにしたところで貴方に問題は無いのか、と思うが口にはしない。 「まあ、そこは問題ではないのですよ。問題は、少し前にこれを買われた方がお亡くなりになられた事でして」 「‥‥その原因を調べろ、と?」 「いえ、原因ははっきりしてます。そのお金持ちさん、どうもお買い上げになられたそのお人形に食べられてしまったそうで――付喪人形でしたかしら?」 付喪人形――人形に宿ったアヤカシ。一般人が『アヤカシ』ではなく具体的にその呼称を出してくるのはどうなんだ、と思うが――蔓という女性自体が怪しさの塊なので、些細な違和感は無視する事にする。 「既にお得意様当人は亡くなられましたけど、奥様と小さな娘さんが一人――多分、この二人も狙われるでしょう」 「つまり、その護衛とアヤカシの撃破が依頼ですか」 「ええ――ただ、奥様の方が錯乱してしまいまして。自分の子供に『お前が人形を大事に扱わなかったからこうなったのよ!』などと言って、挙句に子供と同じ場所に居る事すら拒否するようになっているようなのです」 流石に受付さんも顔を顰める。 「――気持は分らなくもないのですが、親がそれで良いのですか?」 「さあ――私も親になった事が無いので何とも言えませんが。それにそもそも、人形を捨てたのは奥様の方らしいですけどね」 ――そう口にした一瞬のみ、蔓の微笑が冷笑に変わっていた。 その家の何処かに潜むソレは、次はどちらを食べようかと吟味していた。 このカラダをここに持ち込んだ男は既に喰った。 このカラダで遊んでいた子供か。 このカラダを不気味と蔑んで捨てた女か。 ド・チ・ラ・ニ・シ・ヨ・ウ・カ・ナ。 |
■参加者一覧
桔梗(ia0439)
18歳・男・巫
ダイフク・チャン(ia0634)
16歳・女・サ
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ
橘 琉架(ia2058)
25歳・女・志
翔真(ia3997)
16歳・男・志
大羽 天光(ia4250)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●藤色の花 依頼を受け、付喪人形に狙われている母娘の元へ向かった開拓者達を迎えたのは若い母親だった。蔓から連絡はされているらしく、訪れた者達の素情を疑うようなことは無かったが、終始落ち着かない表情であった。 元はそれなりに見れた容貌であったのだろうが、目の前に居る藤という名の母親の顔色は蒼を通り越して白、やつれた頬、紅すら引かず髪の整えもおざなりであり、相当に追い詰められているのが感じられた。 「‥‥蔓から話は聴いています。今すぐあの人形を処分しなさい」 弁明のしよう無い上から目線。勿論、精神的に余裕が無いのもあるのだろうが―― 「待て待て、慌てなさんな。俺らも早く倒せるに越したこた無いんだが。 アヤカシになった人形ってのは掌に乗るくらいだろう? そんなもん、このでかい屋敷の中に隠れられたんじゃ手が出せないって。焦る気持ちは分らんでもないが、身の安全はこっちで保障するから――」 「貴方達はアレを処分する為に来たのでしょうっ!」 屋敷に入った時点でアヤカシの存在は確認している。床下や天井裏などを絶えず動き回っている様子で、依頼で蔓が告げたようにあちらが焦れて出てくるのを待つのが得策と言えた。それを軽妙な物言いで伝えようとした鬼灯 仄(ia1257)の台詞を遮って、藤は神経質に叫ぶ。 「あー、そう騒ぎなさんな。人形は最初に旦那を狙ったのと売主の姉ちゃんを狙ってないのを見るに、あんたら家族全部を纏めて標的として見ている可能性が高い。要は、あんたか娘さんかどっちが狙われるか分らんのだけどよ――意味分るか?」 仄同様の物言いで、宥めながら問い掛ける時任 一真(ia1316)。年齢や容姿の点で反比例しているものの、共通する彼らの飄々とした物言いは、実は冷静さを失った相手には余り相性が良くない。尤も、冷静な物言いが良いかと言うとまた別の問題であり、それを理解している仲間達は特に口を挟まなかった。 「‥‥どういう意味よ」 「おいおい、ちっとは考えてくれや。母娘ばらばらじゃ、当然一人に割く護衛は減るってこったよ――ま、とりあえず俺は娘さんと顔合わせしてくるぜ」 言いたい事だけ告げると、一真はさっさと立ち上がって部屋を出ようとする。それに続いて、細身ではあるが比較的長身の女性――橘 琉架(ia2058)が艶然とした笑みのままで立ち上がる。 「私も参りましょうか――むさくるしい中年だけに小さなお子様をお任せしたくはないですし‥‥ね?」 「うわ、そこまで言うかあんた‥‥」 「あー、ちょっと待って! 僕も行くから! 折角色々持ってきたし」 慌てて二人の後に続く元気な声。青年と言っていい容姿からは少々ずれた調子だが、別段当人は困ってないので気にもしない。暗いよりは明るい方が良いに決まってるし、締める所は締める――それが彼、大羽 天光(ia4250)の信条。 余りにも共通性の無い三人組が応接間の向こうに消えた後、巫衣を纏った小柄な少年が年齢的なものか中性的な容貌に影を落としながら、静かに藤に語り掛ける。 「失礼かもしれないけど‥‥人形を捨てたのは貴方だと聴いた。その上で尋ねるけど、そのせいで旦那さんが殺されたとは思ってないのかな?」 「死人を弔う気味の悪い人形を捨てて何が問題だと言うの?! 問題があるなら、売ったあの女か買ったあの人か、遊んでたあの子でしょう?! 私は何も悪くないっ!!」 ――世間一般の常識から照らし合わせれば、そういった人形を適当に遺棄するのも充分問題があるだろう。勿論、売った蔓や買った旦那にも問題はあろうが、ここでの問題は彼女の責任放棄と逃避である。まして、我が子に責任転嫁など論外だ。 尤も、ここで必要なのは藤を糾弾する事で無いのは、口火を切った桔梗(ia0439)も分っていた。だからこそ、首を左右に振りつつ続ける。 「誰も悪くない――人形がアヤカシになったのは、偶々そこに人形があったから、というだけの話――」 ただ、よくよく聴いてみると桔梗の言葉は間接的に『人形を遺棄した事が原因』だと言及してしまっている。更に言えば、付喪人形というアヤカシは『大概の場合において、大事にされなかった物品に瘴気が乗り移ったアヤカシの総称』であり『かつての持ち主を優先して襲うモノ』なのは、開拓者の中ではよく知られた話だ。 要は、逆効果。 「私を責める為に来たのではないでしょう?! 蔓に何を言われたか知らないけど、私はあの子と一緒に居たりしないわよ!」 「アンタさ――自分が何、口走ってるか分ってんの? そこまで我を忘れる程好きだった旦那さんとの子が、この子じゃないのさ‥‥!」 我慢の限界に来たのか、今までずうっと不機嫌そうに黙っていた少女が弾ける。容姿や服装から一見してそうは見えないが、これでも巫女である。その彼女――鴇ノ宮 風葉(ia0799)だったが、次の藤の台詞で黙らされてしまった。 「――私はね、この家に『買ってもらった』だけよ? 子供を産み育てるのを条件に、裕福な生活の為にね?」 一転、恐ろしい程に落ち着いてしまう藤。風葉としても、確かに彼女の言動は錯乱しているにしてもいきすぎと感じたが――そういう裏があったかと一面では納得。ただ、彼女が裕福な家庭に生まれその上で我儘放題に生きている関係上、理解は出来ない。そもそもする気は無い。 「だったら果たしなよ、その条件をさ。 裕福な生活は手に入れた――売り買いの話は正直、アタシには分らない。でもね、だったらそれはそれで胸張ったら? アンタは身を売ってまでここまで来たんでしょうが? ここまでやってきたんだったら最後まで女の意地見せなよ」 「――あのな、あんたも辛いだろうよ。俺らの知らなかった今の話も含めてな。 たけど、もう一人居るだろ? そういう思いをしてるのが――頼むから、娘さんの傍に居てやってくれ」 風葉の台詞に、不器用な物言いだが懸命に翔真(ia3997)が続ける。彼自身、孤児であったから藤の境遇は多少理解出来る。だが同様に、少年である彼には幼少に辛い経験をした子供がどんな思いを抱くのかも分っていた。 一瞬、完全に静寂に包まれたような室内。口を開かねば話は進まないと誰もが思った瞬間、余りにも場違いな言葉――らしきものが響き渡った。 「‥‥うにむに‥‥うるさいにゃ、眠れないにゃっ」 ――いや、お前今の今まで全力で寝てただろ。そう、室内全員の共通した視線を向けられても、座布団の上で丸くなっていた猫――もとい、少女は頓着しない。ダイフク・チャン(ia0634)というかなり珍しいと言うか奇妙と言うか――とにかくそういう名前でふわふわとした可愛らしい容姿の彼女は、陽射しには余り強くない互いに色の違う瞳を細めつつ、ん〜〜と伸びをして起き上がった。 「? お話終わった?」 一同の気の抜けた顔を見回す猫侍。それで、完全に冷静さを取り戻してしまった藤は、苦笑いと溜息を同時に出すという器用な事をしつつ、冷めた声。 「好きにして――私は寝るのと家事以外は基本的にここに居るから。あの子――紫は遊び回ってるし今日の朝まで私が当たり散らしてたから中々家に戻らない。優先して傍に居て上げて」 何か色々棚上げになった気がしなくもないが、藤が冷静になったのなら問題は無いだろう。仄以外の全員が娘である紫を確認する為に外に出て行った――ところで、仄はニヤリと口元を上げた。 「紫――ねえ」 「‥‥何か言いたげね、貴方」 「いや、別に。藤の花の色って何色だったかな、とか思っただけさ」 一方、同じくらいの頃。 天光、琉架、一真の三人は屋敷の庭で一人遊ぶ少女に、彼女の名前の由来を教わっていた。はっきり言えば、仄が仄めかした通り。 とりあえず、縁側に腰を落ち着ける事にした三人だが―― 「‥‥うまく説得してくれると思うか、あいつら?」 「さて、どうかしらね――説得に向いてなさそうな人ばっかりなのが問題かしら」 一真の問いに、物憂げに答える琉架。実際の所、説得に向いてない人の筆頭は彼女当人だったりする。言動が直接的すぎる上に、優美な容姿に反比例した粗雑さが問題。まして、本人に悪意が無いのが致命傷。 「お母様、大丈夫かな‥‥」 天光に貰った果汁とお手玉を弄びつつ、沈んだ表情で紫。6歳という年齢にしてはかなりしっかりとした物言いであるが、その利発さが母親の異常を明確に捉えてしまっているのは不幸だろう。 「大丈夫だって! 親父さんが居なくなったの紫は辛いだろ? お母さんだって同じだ。今はちょっと疲れてるだけだよ」 人から見れば楽天家、己を鑑みても恐らく同じ――それでも天光は言い切った。紫の様子を見る限り、藤は事件が起こる前までは紛れも無く『母親』だったのが分る。なら、アヤカシさえ倒せれば、時間が解決してくれる筈だ。 「ま、んな顔ばっかしてるとモテないぜー。ここは一丁、花札でも――」 「――子供相手に貴方ねえ‥‥。 ――モテない怪しいおじさんは置いておいて、此方へいらっしゃいな。あやとり教えて上げる」 一真がモテないのは事実である。琉架の指摘に一部の隙も無い。ただ、端から異性に過度な希望を抱かせないのと、容姿と反比例した中身で異性に絶望に抱かせるのはどちらが良いのか、などと思う一真。 まあ――今は紫と遊んでやるのが最優先であろう。 ●止めは食卓 夜。 依頼の性質上、昼間よりも此方の方が拙い。人形と戦う以上余力は残しておかなければならないので、『心眼』は連発していない。ただ、数度の行使で屋敷の狭い部分を往復し続けているのは確認した。今の所、母娘どちらを狙うかは不明である。 おずおずと屋敷に戻った紫に対し、藤は笑顔を見せるような事は無かった。ただ『開拓者の皆さんと座ってなさい。晩御飯にするから』とだけ告げた。その時の紫の満面の笑顔を見るに、どうも藤の冷めた態度は素のようである。 意外と言っては失礼だが、藤の作る食事の質は標準以上。人間、どうしても他に注意が向きにくくなる時間が存在する。睡眠、性交、そして食事。その場所は警護する場所に含まれていなかったのも一つ。そして、ソレは来た。 最初は何が起きたのか分らなかった。紫の背後で突如床板が弾け飛び、小さく汚れた何かが跳び出してきた。 「――って、床の方かよ!!」 天井からの襲撃を予想していた仄は舌打ちする。 全員が集まっている時にわざわざ現れるとも考え難かったので、多少の気の緩みがあっても仕方ない。 「――ずんばらりんにゃっ!!」 と、気の抜ける声と鋭い斬撃。同時にその主の頭の上から似たような声を上げて跳び出す黒猫。ダイフクのそれを宙に飛んで避けたソレは、天井付近で漸く停止する。 ソレは人形だった。形状は蔓に見せられたのと同じだが、泥と埃に塗れ、所々掛けたその姿は間違いなく不気味。 「部屋作りの手間が無くなったのは良いけど――アンタ、ご飯時くらい遠慮しなよ! 精現『力歪』!!」 何に怒っているのかはともかく、奇跡を放つ風葉。人形周辺に歪みが発生するが、動かない筈の表情を歪めてあっさりと力を消し飛ばした。 「式――『縛るもの』!」 間髪入れずに天光が拘束の式を放つが、これも掻い潜られる。その直後の間を狙って桔梗が風葉と同じ奇跡を放つが、修練に勝る彼の放ったそれも雲散。それを確認した桔梗は、素早く母娘の盾となる。 このままでは近接武器は届かない。ならば―― 「これなら――式『切り裂くもの』!!」 再度の式。今度は消し飛ばしはできないだろうと踏んだ天光の行動は、半分当たり半分外れた。当たりはしたが、大した効果は出ていないように見える。作り物の顔に刻まれた嘲笑は消えない。 挑発するように天井付近を飛び回る人形。途中、何度か術が飛ぶもその小さなアヤカシは焦るようも見せない。 付喪人形――憑依するものにより強度は変わるが、大概は物理的な衝撃に弱い。だが、非物理に対しては恐ろしいまでの抵抗力を持つ。まして、掌に乗る程度の大きさ。それで飛び回られたのでは、物理的なものを当てるにも中々厳しいだろう。 現状、人形は仕掛けてくる様子は無い。下に降りれば不利なのが分っているのか、母娘しか見えていないのか―― 開拓者側も打つ手が無い。術は既に放つ限界まで来ている。ダイフク、一真、琉架、翔真に至っては、人形が母娘の方へ行くのを牽制するのが関の山。 他者の邸宅。流石に建物に被害が及ぶような攻撃は出来ないと考えたのが拙かった。勿論、屋外で飛行する相手と戦うなど論外なのだが―― 刹那、人形がいきなり手の届く位置まで降下。但し、意識の間を付いて母娘の間近に。母娘と人形の目が合い喜悦の色を―― 「我慢が足りねえなぁっ――木偶人形!!」 煙管を吹かしながら一歩退いた位置に居た仄が、瞬時に反応。木刀に精霊の力を纏わせ、一気に打ち込む――その一撃で上下に見事に泣き別れる人形。終わったかに見えた直後、その上半身だけが跳び上がった。 「っ?!! この二人だけはっ!!」 最後の砦となった桔梗が奇跡を放つが、それすらも消し飛ばす。土産とばかりに耳障りな叫びが人形から放たれ、桔梗の脳裏を揺らす。一瞬だが、視界がぶれる――だが、人形にとってはそれで充分。頭上を飛び越えたソレは―― 「――出会い方ともかく、アレ、私の旦那よね」 ――藤が先程まで全員で囲んでいた食卓を両手で持ち上げ、そのまま渾身で人形に叩きつけた。アヤカシにとって只の人間の攻撃など大したものではない。だがこの場合、物が物である。そのまま食卓毎床に落下――食卓の下から這い出す前に、ダイフク、一真、琉架、翔真の斬撃が同時に振り降ろされ、後にはぼろぼろになった人形の上半身だけが転がっていた。 ●買い戻し? 翌朝、蔓が見計らったように現れた。その場で買い取り交渉開始。酷い状態にも拘らず、蔓は2万文の値を付けた。念の為に言うと、一人一人ではない。藤は自分がそれに含まれるのは辞退した。曰く、元凶は自分だからと。 紫の手には、桔梗が作った少々不格好な縫い包みが新たにあった。見かねた仄が器用に装飾品などを付けてやったのだが、そのせいで不格好さが際立った気もする――喜んでいるようなので問題は無いだろう。 開拓者達の言葉を受けて、紫は満面、藤は苦笑いしていた。これから色々あるのだろうが、あの様子ならば乗り越えていけるだろう。 「かかさまを――大事にな」 「じゃーにゃー♪」 「てか、そんなもん売りもんにするなよなー」 「あら――正規の手段で仕入れた物ですし、その村にとっては貴重な収入源。そもそも事前の商品説明は行ってますから、後はお買い上げになられた方次第ですよ?」 「お金持ちの考える事って謎ですね」 「その由来を聴いてまで欲しがる神経が分んない、アタシ‥‥」 そんなのんびりした会話が、蔓の店に着くまで続けられた。 |