消えた弔いのヒトガタ
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/07 17:38



■オープニング本文

 夏。この季節、死者の弔いが様々な場所で行われる。
 死者を供養するのも様々なやり方があるが、その村では人形を川に流すといったやり方をしていた。これはある程度の差異こそあれ、探せば似たような事をやっている場所は幾らでもある。
 そんな村近くにある神社。そこの神主が人形を造り、この時期にそれらを亡くなった人に見立て川に流す。
 毎年そんな事をやっていれば下流域から何か言われそうなものだが、そこは人形そのものが水に弱いように出来ており、短期間で自然に還る為にさして問題は無い。
 余談ではあるが、この人形、用途の割に見目が良く一部の物好き達に妙に人気があったりする。実際、早々と目を付けた怪しげな女商人が専属で引き取っており、村の貴重な収入源になっていた。
 数年続いた取引でそれなりに知名度が上がったのか、今年になって別の商人が取引交渉で訪問してきた事があった。が、造れるのは神主一人で年間通して造ったところで総量はたかが知れている。村の行事、そして女商人に卸す分が限界だった神主は丁重にそれを断った。
 さて。
 その村にも子供は居る。行事が弔いだというのは教育を受けてはいるが、それをきちんと受け止める子供がどれだけ居るのかと言えば、やはり少数。寧ろ彼らの興味は、流された人形達のその後、に集中していた。
 そういう事で人形を流した後日、大人達には内緒で下流で流れていく人形を確認する、というのが子供達にとって毎年の恒例行事になっていたのだが。


「人形が全く流れて来ない?」
「ええ。今年の弔いの後、子供達がそれを下流で確認しようとしたらしいのですが‥‥一日中待っても一つも流れて来なかったそうで」
 開拓者ギルドの受付。神主姿の老人が苦い顔をしていた。
 実はこの人物、去年の同じ時期にギルドへ顔を出している。あの時は蔓さんの紹介だったか――と、応対した皆道標は思い出していた。
「あの人形、水中でどの程度で自然に還るものなんです?」
「そうですね‥‥数カ月と言ったところですか」
「流石に一日で無くなるような物でもなし、と。途中で引っ掛かっているとか、そういう事は?」
「子供達から話を訊き出した後に、村の大人達で川を探してみましたが‥‥」
 見付からなかったらしい。考えられる事は幾つか。
 子供達が嘘を吐き隠している可能性。
 第三者が盗んだ可能性。
 人形が勝手に動いた可能性。
 神主の様子を見るに、最後の一つを心配しているようだ。でなければ、開拓者ギルドになど来ないだろう。
「蔓さんから伺った話によりますと、去年にもあの人形を買われた方の所で動いたと」
 ――何の事はない。過去の事例を、既に人形の取引相手である蔓から訊いていたらしい。
「それを調べてほしいというのが依頼ですか‥‥。
 あの、確かに人形が動き出した事例はありますが、あの時は一体のみで扱いに問題があったという原因もはっきりしています。お話を伺う限り、同じ例に当て嵌めるのは危険かと」
 流した人形の数は知らないが、一つ二つではないだろう。恐らく二桁。それだけの人形が一斉にアヤカシ化するとも考え難い。それに、人形がアヤカシ化したならば、流した当人達が何かしらの害を被っている筈である。それがまだ無いのであれば、別の可能性も拾うべきだろう。
「しかし、それ以外に考えようがないのですが‥‥」
「失礼ですが、盗まれた可能性は? 蔓さんが商売として成立させている以上は、需要があるでしょう」
「一度水に浸かってしまうと、あれはもう駄目ですから‥‥態々、流したものを回収するとも思えませんが」
 神主としてはその線は否定したいらしい。それが額面通りの理由なのか、それとも盗む人間が居るかも知れない、という事を認めたくないのか、表情からは読み取れない。
(それを考えるのは、私や依頼を受けた人達か‥‥)
 それはさて置き、ふと標は一つ疑問に思った事を挙げたみた。
「あの、あまり関係ないのですが。あの人形、一度でも水に浸かると駄目と仰られましたが、蔓さんに卸しているのも同じなのですか?」
 幾ら見目が良い人形だろうが汚れる事は避けられない。水が駄目となれば、どのように綺麗にするのか?
「ああ‥‥流石に人様にお売りするものにそれはないだろうという事で。素材を変えて、きちんと洗えるものを別に造っていますが‥‥それが?」
「いえ、個人的な興味です。
 ‥‥お話は分りました。ご依頼の内容は、大雑把に言って人形が消えた原因の究明。及びその排除、で宜しいですね?」
「ええ。弔う為の人形がこんな事になってしまっては、亡くなられた方に申し訳が立ちませんので。宜しくお願致します」


■参加者一覧
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
碑 九郎(ia3287
30歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
千古(ia9622
18歳・女・巫
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ランファード(ib0579
19歳・男・騎
セゴビア(ib3205
19歳・女・騎


■リプレイ本文

●疑惑の中心
 供養として川に流した人形が、消える。常識的に考えて異常事態、非常識的に考えると緊急事態となる。
 雇われた開拓者達が出した予想は二つ。一つは人為、もう一つが怪異。
「取引の話を持ってこられた方、ですか?」
 可能性その一、人為。それを持ち出された神主は、表情を曇らせた。
「人形がどの程度の利益を出しているかは知らんけど、独占販売状態って事は妬む奴もおるんではないかと思うてな。他に取引持ち掛けた奴がおったら、教えてほしいんや」
 狭い神社に大男。その斉藤晃(ia3071)は、神主の表情を軽く流して問い掛ける。
「依頼した時に受付の人も言っていたと思うけど、普通に考えると人為の可能性の方が高いのよ。人の事を疑いたくないって感じだけど、疑ってかかるのは私達の仕事。罪悪感持たなくていいから、私達に情報を」
 晃の隣に座る賀 雨鈴(ia9967)が、明らかに渋っている様子の神主を説得する。因みに彼女、口が固いようなら能力の行使も辞さないつもりだったのだが、最後の手段を取る必要は無さそうである。
「‥‥他にと言われましても‥‥依頼を出した際に少しお話しましたが、今年にお一人訪れただけです」
「そいつ一人だけかいな。なら、調べるのも簡単やな。そいつは何処のどいつや?」
「何処の訊かれましても‥‥当人のお話によれば、各地を放浪されているそうで」
「行商人の類‥‥参ったわね。その人の名前は?」
 神主が告げた名前は、何処にでもありそうなものだった。そもそも行商という時点で、名前など意味を成さないだろう。
「あの‥‥その方、弔いに使われている物が流通している物とは違うのは御存じで?」
 ここまで考え込んでいたジークリンデ(ib0258)が顔を上げる。彼女の問いに、神主は怪訝そうな表情。
「いえ、私からは説明してませんし、御存じなかったかと‥‥それが何か?」 
 返答せず、再びジークリンデは考え込む。仮定――人形が水に弱いと知らなければ、取引を成立出来なかった商人はそれを入手しようとするのでは?
(筋は通りますね‥‥当たらない事を祈りたいものですが)
 往々にして、そうしたものは叶わないのが通例である。

 同刻、神社から少々離れた件の村で、白山羊を思わせる姿をした女性が色々と聴き回っていた。尚、『白山羊を思わせる姿をした女性』という表現をしたが、これはあくまで村人達から見たもの。正確には『身体構成要素の何割かが白山羊そのものの女性』となる。
 その彼女――セゴビア(ib3205)は、年相応とは言い難い元気さで農作業や家事をしている村人の中を駆け回った。その中で得た情報の幾つか。
 一つ。流された人形の数は二十二体。人形自体は片手で持てる程度の大きさだが、それにしたところでかなりの数だ。
 一つ。知らせてくれた子供達の様子が今にして思えば少し変だった事。大人達に共通する意見は、妙に楽しそう、との事。
 一つ。とある日に訪れた行商が、人形がないか確認して言った事。更に、弔いの日付を何度も確認していった事(後で神主に確認したところ、名前は違うが人相は共通)
 一つ。その行商、子供好きなのか村から去った後に川原で遊んでいた子供達に声を掛けている姿を発見されている。
「‥‥怪し過ぎるっ!!」
 セゴビアの素直な感想。恐らく、話を聴いた人間の八割は同じ感想を持つに違いない。

●残されていたモノ、隠されているモノ
 川の幅は広いものの底は浅い。住んでいる生き物も小さなものばかり。生活水の確保と人形を流す以外の実用性は無さそうだった。
 その川に膝下辺りまで浸かりつつ探索する碑 九郎(ia3287)。陰陽師たる彼としてはアヤカシの存在を第一に考える――無論、全ての陰陽師がそうであるわけではないが、彼はそういう立場を取っている。この辺りがミソで、彼自身先入観でやっているわけではないという事だ。
「人形がアヤカシになったなら、村の連中がやられているだろうしなあ。かと言って、この辺りに居ねえってのも、性質から考えて解せないし」
 アヤカシ化した人形は、大概の場合捨てられたものだ。彼らは捨てた人間を真っ先に狙う。この場合それは流した村人に当たり、彼らに害が及んでいない以上その線は薄い。それは九郎としても分っている。
「どうです、其方は?」
「‥‥この季節には丁度良い冷たさだな」
 川原を捜索しているランファード(ib0579)から声が掛けられる。九郎の返答は答えになっていないが、要はこれといったものは見受けられないという事。
(だ、大丈夫ですかね‥‥?)
 考え込みつつ川を調べている九朗の様子を危惧しつつ、川原の地面や石、周辺の木々を丹念に調べていくランファード。二桁に登る数の人形を残らず回収したと仮定するなら、この川の広さでは網でも仕掛けない事には不可能だろう。その痕跡が残っていれば、と目を皿のようにし地道な作業に専念し続けていた。

「人形が毎年どんな感じで流れて来たって‥‥服とか髪が溶けてたり、表面が剥げ始めていたりってのもあったと思ったけど‥‥流れて来るのを見た後は、そのまま見送るぞ」
「成程‥‥神主様の言われた通りの様ですねぇ」
 子供達の答えを聴き、千古(ia9622)は穏やかに頷いている。神主の聴取より前、彼女は人形に興味を持ち素材や製法など事細かに尋ねていた。それによれば、素材は薄く漉き延ばした紙や土が中心で、何れは水や川底の土と一緒になってしまうという事。
 少年を始めとする子供達は息が上がっている、対して千古と彼女の横の鈴木 透子(ia5664)は平然――実はこれ、先程まで走っていた名残。聴取の為に件の子供達の元を訪れたのだが、透子の最初の行動が『駆けっこ勝負』だった。勿論理由はあり、そう年が離れていない彼らに舐められるわけにはいかないと先に地力の差を見せつけたのだ。因みに、千古の方はのんびりと眺めていただけである。
「何で色々聞かれるんだ? 俺らは人形を見に行っただけだよ」
「人形が無いと言ったのは貴方達‥‥要するに第一発見者。知ってます? そういうのって、実は疑われるのですよ?」
 半ばはったり、残りは事実。実際、大概の事件での第一発見者はそれなりに疑われる。脅すつもりは無いが、隠し事をされても困るので最初に釘を刺した。
「何だそれ?! 川に流したもんが無くなったって別に構わないだろ?!」
「‥‥確かに、流した物を誰かが拾ったところで罪でも何でもない。が、貴方達のご先祖様を弔う人形が、誰かの手で持ち去られたとしてどうです?」
「‥‥あんなもん只の人形だろ」
「それを神主さんや親御さんに言って御覧なさい。どうなるかは言うまでも無いと思いますが」
 反応が過剰すぎるように感じられた。彼らがこの件に関してどこまで何を知っているのか分らないが、問い詰めたところで口を割る事は無いだろう。なら、やり方を変えるだけだ。
「切り上げましょう」
「良いのですか? 大した事は聞いていないように思えますけど‥‥」
「何か知っていそうな様子ですが‥‥絡め手に変えます」
 首を傾げる千古を促し、まだ警戒している子供達から距離を取る透子。
「はあ‥‥それで、どうなさるのです?」
「盗み聴き、です」
 千古の問いに、透子は微かに笑うと素早く式を作り上げる。小動物の姿を取ったそれは、すぐさま子供達には見えないようにしつつ傍に近付いていった。
「‥‥成程」
「子供って言うほど素直じゃないですからね」
 千古に苦笑を向ける透子。子供達とそう大差の無い年齢の彼女であるが、その笑顔は子供時代を既に置き去った者のものだった。

●二重の解
「‥‥土産だ」
 日暮れ直前。調査中世話になる社に戻ってきた九朗の表情は、不機嫌一色。元々彼の表情はそんな傾向にあるが、今に限っては常以上。その彼が土産と称して置いたのは、土塗れになった人形。これ以外は既に神主に返却してある。
「これは、自分が戻った後に?」
「ああ、もう少し下流の川原に埋められていた。隠したにしちゃ、妙に穴が浅かったのが気に喰わねえが‥‥で、そっちは?」
 ランファードに尋ねられ、九朗の不機嫌具合は深まる。
「神主様に色々お聴きしましたが、やはり先に訪れた商人の方が怪しいかと。ただ‥‥」
「行商人らしいから、既に何処に行ったか分らないのがねぇ‥‥手が無いわけでもないけど」
 答えたジークリンデの言葉に雨鈴が続け、それにセゴビアの耳が反応した。
「人形が祟るってアレ? 明日からやってみる?」
 セゴビアが言うのは、『人形が不届き者に対し祟る』という噂を流す、という事。雨鈴は、首を傾げる。彼女も次善の策として考えていたそれだが、効果が現れるまで月単位で掛る可能性がある。流石にそこまで彼女らが待つわけにもいかない。
「売っているところを探して捕まえれば良いと思うたが、ブツがここにあるか」
 これでアヤカシの線は確実に消えたのは良いが、状況的には宜しくない。晃の口調に深刻な響きは無いが、それが手詰まり感を強調していた。
「‥‥」
 複雑な表情で、人形を手に取る千古。土塗れ、水による損傷が目立つが見目の良さはまだ失われていない。人形を気に入って作り方や素材まで聴き出した彼女からすれば、そんな表情になるのも致し方無い。
 何とも言えない雰囲気になってきたところで、それを破るように透子が戻ってきた。
「すいません、遅くなりました‥‥って」
「お帰りなさい。子供達からの盗み聴きはどうでした?」
 多少面喰った様子の透子に、事情を知っている千古が人形を持ったまま尋ねる。対する答えは――
「‥‥えーと。神主さんを呼んでもらえます? 彼の判断を仰ぎたいですし。
 何にせよ、あたし達はここを動かない方が良いと思います」
 ――全員、首を捻ったのは言うまでも無い。

 アヤカシ、人為の二択だったこの依頼だが、正解は後者。聴取から推測されたのは『行商犯人説』だったが、これはこれで間違っていない。只、協力者の存在があった。これが『子供達』である。セコビアの聴き取りで『子供達に接触する行商』という情報があったが、どうやらこの際に協力関係が出来たらしい。
 透子が子供達に言った『第一発見者は怪しい』がそのまま形になっており、流れて来た人形達を回収したのは子供達。それを近くで野営しつつ待っていた行商が引き取る――という形だったのだが、ここで問題が一つ。人形が一度でも水に浸かれば駄目な代物だった事。
 結果、行商とはその場で喧嘩別れとなり、子供達は二桁に及ぶ人形を抱え困る事になった。事実をそのまま告げれば、親や神主にどんな折檻を受けるか分ったものではない。理屈では間違っていると分っていても、それを基準に行動出来るならそれはもう子供ではない。だが、全て黙っている罪悪感も耐えがたい――そして、人形を見付からないように埋めた上で事実を一部隠蔽及び湾曲して大人達に伝えた、との事だ。
「何とまあ‥‥餓鬼が要らん知恵絞ったもんやな」
 式により、子供達の会話を盗み聴きし決定的な台詞を拾ったところで再接触し、事実を全て訊き出した透子の話が終わった直後、晃はそんな感想を漏らした。
「んー? でもさ、何でその子達は行商に協力したわけ? 幾らなんでも、いたずらで済むような事じゃないでしょ、それ」
 不思議そうな様子でセゴビア。その疑問に、透子は肩を竦めた。
「この村、特別何も無いでしょう? だから、生活もぱっとしない――行商にその辺りを突かれたそうで。『あの人形を自分にくれれば売ってお金にして上げる。流した物を拾ったって大丈夫。実際、神主さんも売っているのだしね。君達や親御さん達、皆がもっと良い生活が出来るんだよ』だ、そうです」
 先程とは違うが、またもや何とも言えない雰囲気になる。正直、信じる方もどうかともうが――子供達なりに考えての行動だけに、一概に切り捨てられないものがある。
 呼び出され、そこまで黙って話を聴いていた神主が立ち上がる。
「‥‥申し訳有りませんが、これから村に行ってきます。子供達にも言い分はあるのでしょうが、やはり親達に伝えそれなりの罰は受けてもらわないといけません」
 比較的温厚だった神主も神職なのか、明らかに怒気が滲んでいた。その辺りは、開拓者が口を出す事ではないので、止める必要も無い。足早に出ていく神主を見送り、不機嫌具合の解消しない九朗が口を開く。
「‥‥それで、動かない方が良いってのは何だ?」
「その行商、恐らくは蔓さん分の人形が狙ってここに来ます。子供達と喧嘩別れした時、そんな捨て台詞を残していったらしいですからね」

●弔い再び
 さて、透子の言葉が当たったのかと言えば――
「‥‥またお顔を拝見する事になるとは思いませんでしたね」
 ジークリンデの言葉使いは何時も通りだが、細められた双眸には冷たい光が宿っている。
 あの日から二日後の夜、社に侵入者があった。開拓者からすればまさに夏の虫状態であり、あっさりと捕縛。縛られ、全員の前で顔を晒した行商を見たジークリンデの台詞が先のものである。
 以前にジークリンデが受領した大蛇捕獲依頼。その依頼主がこの男だったのだが、その依頼では、男は開拓者達を偽っていた。発覚後、ギルドによりそれなりの処理をされた筈なのだが――しぶとく、同じ商売を続けていたらしい。
「何だかなあ‥‥私も信心なんかあまり無いけどさ、それでも手を出しちゃいけないものってあるでしょ」
 雨鈴は呆れ顔で告げる。
「‥‥詰まらねえオチだな」
 吐き捨てられた九朗の言葉は、果たして何処に向けられたものだったのか――それは、本人のみが知るところである。

 後日。
 行商の男は、呼び出され現れた役人によって連行されて行った。前回は罪に問えなかったが、今回は家宅侵入という立派な罪状がある。ギルドによってまともに商売が出来なくなっている上、今度は前科も着いた。今度こそ終わりだろう。
 そして、埋められていた人形達は再び川に流される事になった。弔いのやり直しというのも妙なものだが、それが正しい姿だろう。流すのは、神主や親達から散々絞られた子供達。これを機に、人形を流す意味を正しく理解してほしいものである。
「弔いの人形ね‥‥ついでに別のもんも流しちゃいないか?」
 儀式の様子を見ながら酒を煽っていた晃が、神主に尋ねる。答えは無かったが、当たっているのだろう。恐らくは、厄を流す意味も込められている。
「これは何とも‥‥不思議な光景ですね」
「ええ‥‥」
 ランファードとジークリンデは儀式の光景に目を細めている。実際、似た様式を知ってはいても、どこか独特のものがあった。
 篝火に照らされた川。その上を、今度こそ戻らぬよう、その原因の一端を担ってしまった子供達によって、人形が一体づつ流されて行った。