【神乱】寒村に響く声
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/18 01:45



■オープニング本文

●誰も居なくなった村に響く声
 極寒の地、ジルベリア。
 今現在、ジルベリアには内乱の真っ只中。元々寒冷地であるが故に権力闘争としてではなく生存競争としての争いが絶えなかった地ではあるが、あくまでその段階に収まっておりそれ以上になる事は無かった。だが、それが破られた。
 以降、狙ったかのように――いや、中には実際狙ったモノもいるのだろう。アヤカシという名の災厄がジルベリア南部において活動を活発化させていた。

 そのジルベリア南部、地図にも載っていないような小さな村での出来事。
 報告してきたのは付近を通り掛かった十人強からなる商隊。
 その日、いきなり役所にその商隊が必死の形相で跳び込んできた。商隊と分ったのは当人達を落ち着かせ素性を聴き出した後の事で、当初は内乱のとばっちりを受けた村からの逃亡者なのかと思われていた。
 そんな彼らの話。
 件の村に到着した彼らは、一様に違和感を覚えた。居ないのだ、外に出ている者が誰一人。それどころか、村全体が死んだように静かなのである。廃村と言うわけではない。彼らも何度か訪れた事のある村だ。
 各家を覗くと、何やら慌てて出ていった形跡がある。家によっては戸が開け放したままの場所も。
 食糧が尽き命懸けで村を出たのかと思われたが、食糧庫には少ないもののまだ備蓄はあった。山賊等の略奪から逃げ出したにしては、先の食料も金品も手が付けられた形跡は無い。
 だが、誰も居ない――誰も居なくなった村。
 本来であればこんな村からは即刻離脱するのが正解だったが、間の悪い事に到着したのが日暮れ直前。当初の目的からして、この村に今晩泊めてもらいつつ食料品を売り捌く事だった。
 流石にこの季節、更には国内が不穏な状況で夜間強行軍は避けたい。誰も居なくなった村に一晩泊まるのと比べどちらが安全かを測り、出た結論は滞在。
 その村には宿が存在せず、各家を借りて個別に眠るのも危険が大きい。最終的に目に留まったのは村の寄り合い所。十人強寝泊まりするには充分な広さだ。
 交代制の見張りを立て夜明かし。異変が起こったのは夜明け直前。
 声がする。村人が戻ってきたのか――外の様子を伺おうとしたと同時に、荷を引いていた馬数頭の悲鳴。それが収まった後は静寂が訪れ見張り達が顔を見合わせた瞬間、外から無数の声が響き始めた。


「助けくれえ!」
                                          「痛い痛い痛いい!!!」
                「こっちに来るなあ!」
                           「どうかこの子だけは‥‥」
      「こんな所で死にたくない!」
                 「喰われるならお前が先に!」「いやお前だ!」
                                    「置いていかないでえ!!」
                      「喰われてたまるかぁ!」
「子供達を連れて逃げろ!」
                                            「何であたしが‥‥」


 ――何だこれは?
 声だけならまだ良い。中には只の絶叫、赤子の声や寝息の様なもの。先程響いたような馬の悲鳴を始めとする家畜の悲鳴まで混じっている。
 総数は分らないが、老若男女動物合わせ二桁は確実だ。
 響く言葉も異常だが、それを上回る異常はその言葉を一字一句間違えず延々と繰り返している辺り。更には、それだけの声が響いているにも拘らず他は先程の夜の静寂のままだという事。
 外には何が居る? 何が起こっている? 見張り役達、そして声に起こされた残り全員が戸や窓を抑えながら震え続ける中、やがてその声は何事も無かったかのように消えていた。

 寄り合い所の窓から朝日が入り始め、漸く商隊員達は外に顔を出した。
 ――荷を引く為の馬達は、血痕と僅かな肉片を残し居なくなっていた。

●声真似の化生
 レーシーという名のアヤカシ。
 犠牲者の最後の言葉――断末魔を完璧に模写して繰り返し人を惑わすモノ。知能よりも能力的な問題なのか、言葉を一つしか模写出来ないらしい。つまり、犠牲者を得る毎に発する言葉は変わっていく。
 商隊の報告は軍まで届き、対応を迫られる形となった。
 これが一体であればさして問題も無いのだが、二桁確実となればそうもいかない。まして相手がアヤカシとなれば、多少の数を動かしても返り討ちにされる可能性もある。
 更に頭が痛いのは、ジルベリア南部で散見されるアヤカシ達の多くが示し合わせたようにコンラートの支配領へ逃亡してしまう事だ。これが何を意味しているのかはともかく、事ある毎に逃げられては軍の威信に関わる。何より、軍や地方警備隊を動かすのも無費用とはいかない。
 まだ他の被害は報告されていないが、相手が相手である。長々と放置するわけにはいかない。
 残る選択肢は一つ。アヤカシが逃げる事の無い少数にて、二桁を数える彼らを討伐出来る人材を当てる。
 ――開拓者の出番である。


■参加者一覧
紅鶸(ia0006
22歳・男・サ
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志


■リプレイ本文

●餌
 一度人が住まなくなった場所は急速に衰退する。
 ジルベリア南部のとある村。少ない住人、訪れる者も極少――それでも人の営みがあれば続いていく。
 だが、ここにはもう誰も住んでいない。詳しい経緯は明らかでないが、アヤカシによってその全てが消えた。
 そして、寒さと雪の中で痕跡すら何れ消えるであろうその村の中に一つの焚火。
 当然ながら村人ではなくアヤカシでもない。偶然立ち寄った旅人かと言われれば、そうでもない。
 開拓者である。
「しかし‥‥人が襲われた形跡が全く無いな。報告してきた商隊の話から察するに、村の外で喰われたのか」
 焚火を囲むのは二人の男女。内、女――紬 柳斎(ia1231)の方が気の毒さを滲ませ小声で呟く。
「‥‥だろうな。この間にも、何処かで誰かを襲っていなければ良いのだが」
 商隊の報告から今日まで、アヤカシがこの周辺に留まってくれる保証は無い。だが、移動されたにしても闇雲に探すわけにもいかず、まずはこの村に足を向けざるを得なかった。相槌を打つ少年、郁磨(ia9365)の同じく小声はそっけなくはあるがこれ以上の犠牲を疎う色があった。
 彼らの目的は、件のアヤカシを討伐する事。二人というのは開拓者の集団としては非常に少ないが、別にこれだけで来たわけではない。残り六人は村の建物の中で待機している。
「その辺りは奴ら次第、アヤカシ任せというのも芸が無いが仕方あるまい。しかし天儀に比べ、やはり寒さが段違いだな」
 話題を変え柳斎はギルドより支給された暖取り用の酒を口に含み、顔を顰める。ジルベリアの酒だが、はっきり言って不味い。別に此方の酒全般が不味いわけではなく、支給されたこれが味考慮外なだけの話。
「そこまで不味いのか、それ‥‥?」
 あまりの柳斎の表情に思わず尋ねる郁磨。返答は苦笑と共に来た。
「身体を暖める為のものだから端から期待していなかったが、ね」
 ‥‥長閑と言える程の後半の会話だが、二人とも警戒を解いたわけではない。相手にある程度の知能を有しているという情報がある以上、此方が目に見えて警戒していたのでは姿を見せない可能性もある。今の二人は囮――言い換えれば『撒餌』。相手を引っ張り出す以上、寧ろ無警戒を装う事が必要だった。

 約半刻、囮は入れ替わる。
 実際の所、囮を徹底するのであれば交代は好ましくない。とは言え、寒冷地で同じ人間が延々と外で待ち続けるというのは無理がある。アヤカシを倒す以前に此方が行動不能になっては本末転倒なので、こういう形となった。
 今度も同じく男女一組であるが、先の二人と比べると奇妙度が跳ね上がっている。
 防寒具で固めているのは共通しているが、男の方が能面で顔を覆っており女の方は白い着ぐるみ姿。この二人で焚火を挟んで座っているのだから、その光景は何とも言い難い。
「おおおお化けなんて正体不明だから怖いのであってアヤカシだと解ってれば怖くなんかないんだから」
 白い着ぐるみの趙 彩虹(ia8292)は小声で呟いている。開拓者にも苦手なものの一つや二つあるものだが、彼女の場合それが幽霊。但し、彼女が言う『幽霊』というのは普遍的な意味でのものだが。
「‥‥そのお化けは、今の所見当たらずですね」
 能面の宿奈 芳純(ia9695)の方は当たり前だが表情が分らない。ただ、口調も落ち着いているので苦手ではない様子。彼が呟いた『見当たらず』というのは、実際の視界ではなく放った式の視覚情報によるもの。
(早く出てほしい様な出てほしくない様な‥‥)
 彩虹の心理は複雑である。その対面で芳純が僅かに身じろぎした。
「‥‥声?」
「えーと‥‥出ました?」
 月並みだが、こういったものは嫌がる人間が居る程に出現率が上がるものである。芳純の式が、風音の中に混じる声を拾ってきた。これは――
「成程。実際に耳に入ると不気味なものですね」
 ――芳純の式だけでなく、彩虹の耳にも入るようになってきた『声』。何処からなど意味は無い。
 下を除くあらゆる方向から、それは響いてきたのだから。

●嵌め比べ
「助けくれえ!」
                                          「痛い痛い痛いい!!!」
                「こっちに来るなあ!」
                           「どうかこの子だけは‥‥」
      「こんな所で死にたくない!」
                 「喰われるならお前が先に!」「いやお前だ!」
                                    「置いていかないでえ!!」
                      「喰われてたまるかぁ!」
「子供達を連れて逃げろ!」
                                            「何であたしが‥‥」

 報告にあったものと違わぬ声の数々。人を始めとする様々な生き物の『声』。冷え切った風と共に近付いてきたそれは、ある意味では安堵すべき事かも知れない。言葉が変わっていないという事は、新たな犠牲者が出ていないという事だから。
 しかしこの断末魔。成程、事情を知らずにこれを聴けば誰だって惑わされる。寧ろ、淡々と対処出来る方がどうかしているだろう。事情を知ってさえ、まだ生きているものが居るのではないかと期待してしまうほどだ。
 木々の間から。家々の合間から。空の向こうから。
 あらゆる方向から迫って来る声とその主。
 ぱっと見は人間と大差は無いが、宙を舞い無表情に虚ろに同じ音を発し続けるその姿。
「‥‥うわあ」
 彩虹は渋面。恐怖云々を通り越して気持ち悪い。目視出来るその数は十八。
「発見から此方に来るまでが早すぎますね‥‥最初から張られていた?」
 式で発見次第逐次報告し連携を強化するつもりだったが、よもや声を聴いた直後にあちらから出て来るとは。芳純は符を抜き出しつつ、ここは餌場だったかと考える。
 既に二人は完全に囲まれている。前面に至っては数歩踏み込めば接触出来る距離だ。
 夜闇の中、焚火と掲げられた松明の炎が開拓者とアヤカシを照らす。二人は臨戦態勢だが、レーシー達はゆらゆらと漂いつつ同じ言葉を繰り返すのみ。此方を認識してはいるのだろうが、今までの得物とは違った様子に警戒感を抱いているのか――
「悪趣味極まりない‥‥」
 ――声が一斉に停止し、二人を囲む包囲の一角が崩れる。炎を這わせた刀を振り下ろした態勢の高遠・竣嶽(ia0295)が吐き捨てる。彼女の言葉が何を示すのかは言うまでもない。即座に向き直ったレーシーの一人が、竣嶽を見て何かを放とうとしたが。
「獲物の声真似て新たな獲物得るっちゅうのは人間もやるけど――実際、此方が狩られる側になるとどんだけ不快かようわかるわ」
 竣嶽の背後から一本の射線――矢が飛来しアヤカシを貫く。放ったジルベール(ia9952)はぼやきつつ次の矢を番えた。集団戦では使い難い飛び道具だが、相手が飛行しているとなれば逆に使い易い。
「――食べる為に生きているモノと生きる為に食べる者の狩りの質は違うとは思いますけどね」
 続き、鋭く閃く斬撃。抑えてはいるが、此方も怒りが滲む声。ジルベール達とは真逆の方向から現れた紅鶸(ia0006)は、切り崩した一角に頓着せずに距離を取り構え直す。ここまでくれば相手も嵌められた事を理解する。即座に数体が纏まって彼に殺到するが、先程と同じく飛来した矢が一体を後退させる。更に咆哮一閃――抗えぬ強制力がアヤカシの連携を崩し、跳び込んだ少年が刀を払い追い払う。
 締めは郁磨、咆哮は柳斎、そして矢は沢渡さやか(ia0078)。
 この状況、開拓者アヤカシ双方とも相手を嵌めようとしたわけだが、最終的には開拓者の方に軍配が上がった。アヤカシの迅速さは見事ではあったが、周囲の建物に潜んでいた者達も漫然と見ていたわけではない。決定的に違ったのは、さやかの結界。
「いきなり結界内に無数の反応があって驚きましたけどね‥‥」
 結界の広さは大したものではない。その内部に多数の反応がいきなり入ってくれば驚きもする。弓を収め足元に捨てた松明を拾い上げたさやかの顔には苦笑があった。
 消えゆく定めの村に、その元凶とそれを滅する者が揃った。両者共、逃げるつもりも逃がすつもりも無い――結果、戦端が開かれた。

●因果応報
 囲まれた状況でここまで静観していた彩虹が最初に弾ける。あらゆる方向が敵である以上、只管それを切り崩していく以外の選択肢は彼女に無い。一角に一直線に向かった彼女は身を跳ね上げ、全身の巻き上げと共に足を振り回す。惚れ惚れする様な旋風脚――
「こ、攻撃が当たるならお化けだって怖くないっ!」
 ――そういう叫びをしながらでなければ更に決まったのだろうが、そこはそれ。苦手だろうが何だろうが、立ち向かうべきは立ち向かうのである。
 幽霊系統のアヤカシは痛覚を持たない上に様々面倒な能力を持つが、同等別種のアヤカシに比べ極端に脆い事が多い。レーシーもその例に漏れないようで、足に巻き込まれた一体が雲散霧消していった。着地した彩虹に向け、複数の無形の力が放たれた。
 惑わし、恐れ――心に侵食するものは振り払った。が、残る無形の刃は捌き切れずに身を裂く。深くはないが痛いものは痛い。更に追撃しようとするレーシー。だが、その前に同じく無形の霊撃が打ち抜き消滅させていた。
「これは中々に厳しい‥‥」
 霊撃を放った芳純は苦い声。状況的に囲まれているのはレーシーだが、彼ら二人が包囲されているのもまた事実。また、相手が上に陣取っている以上、仲間達の包囲もそこまで意味があるものとは言えない。
 先程の咆哮で寄ってきた相手に斬撃を向ける柳斎。仲間内でも随一の速さ鋭さ重さのそれが一刀の元に敵を塵に還すが、仲間の死を頓着しないアヤカシは無形の刃を立て続けに放つ。
「‥‥大した威力ではないが、うっとおしい!!」
 例え致命傷に程遠いとは言え、戦闘中に痛みを受ければ集中力が途切れる。細かい傷に柳斎は舌打ちした。うっとおしいのはそれだけではなく――柳斎と入れ替わる様に跳び込んだ紅鶸の斬撃は空を切る。舞うような動きで一斉に刃の届かない位置へ退避するアヤカシ――安全地帯が相手のみ存在するのは最悪だ。
「相手が逃げる気になる前にぎりぎりまで減らせれば良いですが‥‥」
 溜めた気を鎌鼬に変え、刃の届かない位置に居座った一体を打ち落とし、竣嶽も唸る。例えば、今の状況でレーシーが一斉に全方向に逃げ出した場合、非常に面倒な事になる。此方の手数は八――質は上でも離散されれば潰しきれるかは、かなり怪しい。
「このくそ寒い場所で胸糞悪い幽霊野郎追い回すってのは、御免やな!」
 矢を放つジルベールの声に、常の飄然さは無い。目の前のレーシー達が不愉快なせいだが。多少の距離ならものともしない彼の矢が、上に居る相手を優先的に狙っていく。
 同じく矢を番え直したさやかだが、少々迷う。弓は本職ではない以上、仲間の補助に専念するべきか。その時、距離を取っていた彼女の目に郁磨の背後に迫るレーシーが入った。
(やっぱり隠れていましたか――!)
 叫んでいる暇は無い。弓を捨て走る――レーシーが無形の刃を放つのとさやかが割って入るのがほぼ同時――結果、裂けたのはさやかの肩口。状況に気付いた郁磨が振り返り、背後に迫っていたアヤカシを切り払う。
「‥‥すまない。庇う気概で来たのだが、まさか庇われるとは‥‥」
 郁磨に謝罪にさやかは苦笑。これは彼女の行動原理そのものなので、謝られても困る。以前に誰かに忠告された気もするが、今更変えられるものでもない。
 ぎと、と。レーシーの虚ろな眼が見開かれる。宙を舞い円陣を組むような形となった彼ら、一斉に声を全方位に向かい放ってきた。
 一斉に放たれたそれに、開拓者達の表情が歪む。理屈ではない戸惑いや恐れが彼らに侵食するが、不愉快と怒りを力にしてそれを押し返す。

 ――いい加減、その口を閉じろ――

 何より許せないのはその一点。死者の真似事をするその口を閉じてやらねば気が済まなかった。

 ――幾度か繰り返された攻防。気付いた時には、レーシーの数は当初の三分の一にまで減っていた。確かに数は多く宙を自在に舞うのも面倒ではある。実際、開拓者達も細かな傷の幾つかは負っている。だが、結局の所は質がまるで違う。アヤカシもここに至って悟ったのだろう、示し合わせたように離散を開始し始めた。
「それは御免やて言うたやろう!!」
 勿論、黙認するつもりなど毛頭無い。当初から上を注視していたジルベールに、離散しようとした内一体が即座に射ち落とされ、地面に落ちる前に竣嶽に断たれ消えた。
「――逃がすかよ!」
 宣言、重ねて咆哮。紅鶸のそれに、離散しかけたアヤカシの動きが止まる。直後、芳純の霊撃、彩虹とさやかの放った矢が立て続けに撃ち込まれる。残ったレーシーは、紅鶸の咆哮――言うなれば『声』に引き寄せられ彼に迫る。
「‥‥因果か? 貴様らも似たような事をやっていたろうに」
 進路に割り込んだ柳斎が身を回し、その勢いのまま刀を巻き上げる。鋭く円を描く切っ先――吸い込まれるようにその回転に跳び込んだ残りのレーシー達は、地に落ちる前にどす黒い何か撒き散らしつつ消滅。
「‥‥え、と‥‥終わり、ですよね?」
 ぺたりと腰を落とす彩虹。余程、皆の想像以上にああいったものが苦手だったらしい。
 それが、戦いの終わりの合図だった。

●弔い
 レーシーが全滅後、開拓者達は村内部の調査を開始した。
 結界や心眼に反応は見られないが、まだアヤカシが隠れている可能性が無いとは言い切れない。念には念を入れて、である。
 その確認が終わり、今度は略式ではあるが弔いをしてやろうという事になった。
 遺体があれば情報源である商隊が既に見付けているだろうから、それに関しては絶望的だろう。状況から見て、異変に気付いた村人は一斉に外に逃げ外で追い付かれ喰われたというのが真相だろう。そういう意味でここでの弔いに意味があるのかと言われれば微妙だが、何もしないままというのは余りに不憫。
 比較的、この手の事に慣れているのはさやかと芳純。
 皆で集めた石や木材で簡単な墓を積み上げ、静かに祈りと魂鎮の舞を捧げる。
「お主らの言葉を盗んだ不届き者は滅した――」
「――あんたらの『声』、確かに取り返したで」
 冷え切った風の吹く中、柳斎とジルベールの声が響く。
 ‥‥簡単な墓も来年には雪に埋もれ無くなるだろう。何れは村そのものが消えて無くなるに違いない。
 それでも、この弔いに意味がある事を祈るのみだった。