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■オープニング本文 ●妹 陰穀、深夜。 とある屋敷の一室で、一人の若い女性が佇んでいる。 非常に小柄で痩身。容貌の造りは悪くないが、際立った特徴が無い為に非常に地味。 女性は、槍を一本携えていた。その穂先は血に染まっている。 彼女の視線の先には布団が一組。その中には中年の男女が揃って横たわっていた。眠っていたのだろう。布団ごと槍で貫かれたにも拘らず、驚いた表情を浮かべているのみ。 そして、彼女はそれを見ながら泣いていた。明らかに、彼らを殺害したのは彼女であるのに。そして、泣きながら再び槍を振り上げ、何度も何度も息絶えた二人の身体を貫いていく。 どれくらいそうしていたのか、気付けば背後に黒装束の男が一人。それに気付いた彼女は手を止め、震える声を絞り出す。 「ごめん‥‥なさい。貴方の弟は‥‥」 「‥‥知っています。当主が気にする必要は御座いません。奴は最後までシノビとして生きました」 当人達のみで通じている会話。 「それで、何故ご両親を?」 「‥‥姉さんのお金を使って、勝手に妙な事をしたから。どの道、殺されるなら私の手でと思って‥‥」 少し前に、この国で行われる賭け試合の妨害を目論んだ一団が居た。それを雇ったのは、背後の男の弟。弟はこの女性の命により動いていると思っていたようだが、どうもそこで死体になっている両親が彼女の名前を使って動かしていたらしい。主である女性に心酔していた彼を、どう動かしたのかは分らないが。 どの道殺される、というのはその計画が王に漏れている可能性を考えての事だが、男は知っている。証拠という証拠は徹底的に隠蔽、ないしは改竄され痕跡は残っていない事に。それを成したのは、泣いている女性の姉――当人からは口止めされているので、言う事は出来ない。 (蔓様に伺いを立てるべきか‥‥しかし、下手にあの方が動けば親戚一同、何をやらかすか‥‥) ここで彼が動かなかった事が、事態をややこしくしてしまったのは否めない。 ●姉 「‥‥何か、雪乃が何を考えているのか分らなくなってきました」 蔓の家に呼び出され、陰穀の事件絡みの事を話したいと言われ来た標を待っていたのは、そんな台詞だった。 「あっちで色々やっている内に分ったのですけどね。 私が企んだように偽装されていました。かと思えば、あの子の名前も出て来ますし‥‥」 「開拓者達の話では、貴方が相当に憎まれていると話していたようですが‥‥罪を着せようとしたのでは?」 「あの子は当主ですよ? そんな回りくどい事しないでも、シノビを放って私を直接暗殺すればいいだけの事でしょう」 つまらなそうな顔で、蔓は標に一通の手紙を放り投げてきた。 「‥‥おまけに、親戚からこんな連絡は来ますし」 「――ご両親が死んだ? てか、殺された? 殺したのって‥‥これ、誰です?」 「私が放ったシノビです。開拓者さん達が仕事を終えた後、後始末をさせる為に放ったのですけど‥‥何が何やら」 「妹さん‥‥雪乃さんでしたっけ、彼女が?」 そういえば、蔓が妹の名前を口にするのは今日が初めてだったっけ、と思う標。 「微妙なところですね。私もあの子も、はっきり言って両親が好きとは言いかねますが‥‥殺す程とも。それと、私の放った人間が殺したと明言しているのに、私に嫌疑を向けて来ないのも気に喰わない」 どうせ狙うのであれば、直接狙えば良いものを――蔓の表情には、不満がありありと見て取れた。 「ところで、葬式をやるから来いと書かれていますが‥‥?」 「行きますよ。親の弔いに出ない程、薄情者になった覚えもないですし」 標が言っているのはそういう事ではない。単身そんな場所に出て行って、蔓が危なくないのか、という事である。 「妹さんはご両親の死で塞ぎ込んで、面会謝竢?ヤとか書いていますし‥‥これ、危なくないのですか?」 「そこで仕事の話になるのですけどね。流石に私も危険とは認識しているので、出来れば護衛が借りたいのですけど」 「それくらいは自覚していますか‥‥陰穀に行って、貴方のご両親の葬儀に同行する人を集めれば宜しいのですね?」 「ええ。通夜から出ますから、一日は泊まりになります。流石に実家に泊まるわけにもいかないので、近くで宿を取ります。旅費等、必要経費は全て此方で出しますのでご心配無く」 ――警戒しているのかしていないのか、相変わらずよく分らない女性である。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
佐久間 紅穏(ia1006)
19歳・男・砲
八嶋 双伍(ia2195)
23歳・男・陰
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
鶯実(ia6377)
17歳・男・シ
かえで(ia7493)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●望む関係 元旦。年明け当日、一年最初の日。本来であれば目出度い日であるのだが、今回はそうもいかない。何せ、葬儀に訪れているわけだから。開拓者達にとっては仕事として同行しているだけなのでそれほど気分が重いわけでもないが、実際に身内が亡くなった依頼主は―― 「‥‥全く。出した年賀状回収と喪中連絡でえらい目に合いました」 ――どうも、雇われた側よりもどうでも良い模様。 普通なら眉を顰める所だが、状況が違う。依頼主である蔓の両親が亡くなったのは事実らしいが、原因は他殺。犯人は蔓が放ったシノビ。今与えられている情報ではそうなっている。 だが、それ以前に蔓の妹が妙な行動を起こしている。その行動を分析するに、姉を嵌めようとしていると感じはするが、間接的すぎる上に中途半端。今回の葬儀も、それに連なるものではないかと感じるのは当然なのだが。 「それはともかく‥‥陰穀に入ってから延々と見張られているのを感じますが、通夜では何も仕掛けられませんでしたね」 蔓の愚痴から話を方向修正させるエプロン姿の秋桜(ia2482)。陰穀に入るという事はそういったものに晒される事にほぼ等しいのだが、今回に関しては違う。彼女に限らず一行の全員が感じていたそれは、明らかに一人の人間が此方を監視しているものだった。 もし、蔓の排除が考えられているならば、此方の武装解除が容易に出来る葬儀中にあると踏んでいたが通夜では何も無かった。勿論、蔓に集中する親族の疎ましげな視線は全開であったが。 「それから妹さんですが、屋敷内部を探せる範囲は探しましたが‥‥」 「‥‥見当たらず、ですね」 「まあ、簡単に接触出来るとは思っていませんでしたが」 菊池 志郎(ia5584)、八嶋 双伍(ia2195)、鶯実(ia6377)はそれぞれ首を振る。事前に聴いておいた屋敷の構図を頼りに蔓の妹である雪乃に接触しようとしたのだが、その痕跡すら掴めなかった。尤も、それは誰もが予想していた事。蔓に届いた親類の手紙には『両親の死で籠っている』といった事が書かれていたが、血縁である蔓への面会謝絶にまで言及している時点で、接触出来ないと思うのが自然。蔓が繋ぎの可能な駒を持っていれば話は変わったのだが、両親殺害犯人とされるシノビが唯一の駒だったらしくそれも叶わなかった。 「泊まっている場所もバレバレなのに、寝込みも襲ってこないし。この間の事と言い、何かスッキリしないなー」 これは叢雲・暁(ia5363)の正直な感想。彼女が言う『この間の事』というのは、以前に、蔓が国に納めているお金を流用して雪乃が企んだ(?)、賭け試合妨害計画阻止の事である。宿内で、あらゆる意味であらゆる場所で蔓に張り付いていた暁にしてみれば、不満も出るというもの。泊まっている宿は蔓が、皆が止める暇も無く親類一同にばらしていた。 「通夜で出された食事も皆を見る限り無害そうだし、ホント何考えているのやら」 言っているかえで(ia7493)当人は、一切出された食事に手を付けていない。毒殺の可能性を考えての事だが、それをするような連中であったなら当の昔に暗殺者の一人でも送り込んで来るだろうと、漠然と思ったりもする。 「妹さんが姿を見せない理由は分りませんが、彼女よりも親戚の方達を警戒した方が良いのでは。妹さんは蔓さんと正反対のお人柄とお聴きしていますし、手綱を取れそうにない貴方を妹さんと手を組むのを嫌ったのではないかと俺は考えますが。 ‥‥とはいえ、直接狙わない理由は分りませんが」 志郎の推論。雪乃の関与を否定するなら、これが一番納得いく説明ではある。ただ、最後の付け加えだけが未だに謎だが。 「あの、失礼ながらお伺いしたいのですが‥‥蔓様は、雪乃様とはどういう関係でありたいと思っていらっしゃるのでしょう?」 いきなり変わった話の矛先。発言したのは白野威 雪(ia0736)。彼女の質問に、蔓は僅かに考えて反問してきた。 「私の希望を聴いて何になりますか?」 「何か行き違いがある様に感じられますし‥‥血を分けたお二人がすれ違うのは、悲しい事。何かお手伝いが出来ればと‥‥」 「‥‥むしろ、あの子が私を殺したがっている方が良いのですけどね。状況を考えると、志郎さんの推測が近い気もしますが」 流石に雪は眉を顰める。その普段の彼女にはあまり見られない表情に、蔓は苦笑いで返す。 「失礼、言葉が足りなかったようですね。雪乃が私と正反対の人間というのは彼が言いましたが、それだけならまだしもあの子は相当私に劣等感を持っていたようです。私もあまり人の事は気にしない質なので、気付いたのは国を出る直前でしたが。 全部内に溜め込むような子でしたから、寧ろ劣等感と反抗心剥き出しになってくれた方が私は良い傾向かなと」 一同、理解不能。妹が牙を剥く事を歓迎する感性が意味不明すぎる。一同の顔を見渡し、蔓は微笑一つ。 「――反抗期の一つや二つ、あって当然でしょう?」 ●半端な敵意 そして、葬式。 一般的な弔いと言えば親類以外にも友人知人が多く集まるものだが、面子を見回した蔓曰く『親類ばかり』らしい。これは通夜でもそうだったのだが。その総計は30名程だが、子供の姿が一切無い。不気味な事この上無い有様だ。 「‥‥よくもまあ、これだけ嫌われましたわね‥‥」 秋桜が蔓に耳打ち。親戚一同の蔓に注がれる視線は不快の一言。困った事に、これが彼らの団結力ともなっているらしい。 「んー、嫌われるのは簡単ですからね。まあ、シノビの家になる際に両親含め一切の縁を断つと提案したのが原因なのでしょうけれど」 「‥‥あのなあ、それ初耳だぞ。そういう事は先に言ってくれ――つか、何でそんな提案をした?」 佐久間 紅穏(ia1006)は渋い顔。 「親切心ですよ。いくら陰穀の民とは言え、実際にシノビの家と連なったら危険の度合いは跳ね上がります。それを考えての事だったのですが‥‥どうも、彼らには真逆の意味で解釈されてしまったようですね」 「そんなにシノビの家っておいしいのかしらねえ。あ、戻ってきた」 同じくシノビではあるが、元々家族を持たず一人だったかえでは要領を得ない顔。そこに不満顔で戻ってくる暁。 「誰もなーんにも、話してくれない。蔓さん嫌われ過ぎー」 式の合間、参列する者達に色々聞き込みを行った暁であったが、結果は本人が語る通り。蔓の連れという事だけで誰もまともに目も合わせてくれない。酷いのになると、近寄るのすら嫌がられる。 「敵意はあれども‥‥ですかね。これだけ嫌われていてこうなのは逆に不思議ですね」 暁の正直な感想を聴きつつ、志郎は何とも言えない表情を見せる。彼を含め、シノビ連中は総じて同じような顔をしていた。正直に言えば、中途半端で気持ち悪いと言った顔。 「雪乃様はどこに行かれたのでしょうか‥‥?」 雪乃が親類に殺されているという事は無いだろうが、家に姿が無いというのは不安材料である。姉妹の間を改善させたいと思う雪にとって、頭の痛い辺りだ。明確に敵性なのかも確定しないのでは、その糸口も掴めない。 その雪の傍ら、基本的に自分から口を開く事の無い鶯実は頭の中で状況を整理していた。 (直接的でない干渉、所在不明の妹、言及されている犯人とその主への無追及‥‥参りましたね、これは) 不明確な状況もそうだが、寧ろ明るいとは言えない表情の雪が気になる鶯実。 ――そんな中でも、式は淡々と続く。 一方、集団からやや離れた場所で参列者を伺う双伍。家から得る利権一つでここまで他者を嫌えるものかと、ある意味感心してしまう。その中で一つ気付いた事もある。 (‥‥殺意は、無い?) 陰陽師である彼の感性がどこまで正しいのか分らないが、親類の蔓の向ける視線に排斥は込められていても殺意が感じられない。よくよく考えてみると、そういった感情に敏感な仲間のシノビ達もそれほど緊張していない――正しいのか? 確かに、ここに至るまで蔓が直接命の危険に晒された事は無い。どういう事か。 ●すり替わった主 それが現れた時、てっきり一同蔓に嵌められたのかと思った。だが、蔓の表情は今までに無く苦い。明らかに想定外の事態らしい。 黒尽くめのシノビ。顔は分らないが、体型から成人男性である事は分る。 式が行われている部屋の天井を破っていきなり現れたそれは、槍を振りかざすと参列する親戚を薙ぎ払った。 撒き散らされる鮮血、我に返った親戚一同の悲鳴や怒号。 「え‥‥と、アレって」 男の姿が記憶にあるのは二人。暁、蔓。前者は依頼で、後者は去年末近くまで自身の駒として使っていた。確認を求める暁を無視して、蔓は近場に居た親戚の襟首を掴み、恫喝。 「‥‥私達の武器を持って来なさい。彼を止めます」 「あ、あれはお前の駒だろう?! 武器など無くても止められるではないか?!」 「勝手に動いているのを駒と呼ぶなら、ね――良いから、とっとと行け」 危惧されていた式中の襲撃――形はまるで違うが、現実になった。だが、シノビの槍はあくまで親戚一同のみに向けられている。その様子からも、想定していた親戚達の駒ではない。蔓は止めると言っているが、開拓者達はコレを止めて良いものか戸惑う。 僅かな時間、累々の死体、既に外へ逃げ出した生き残り――残った九人を無視し、シノビはすぐさま外へ跳び出そうとするが、その正面に彼の主が立ちはだかった。 「――シノビが主の命以外で動く事の意味を分っていますか?」 「無論。尤も、今の我にとっての主は貴方でないが」 その言葉から連想される相手は只一人―― 「雪乃‥‥様?」 「そう思ってもらって構わぬ」 呟いた雪に、いやに正直な返答。そこに志郎が口を挟む 「雪乃さんが主で彼らを敵にするという事は、蔓さんと組んでも問題無いように思えますが?」 「‥‥普通に考えれば、な――蔓様、その連中を連れ神楽に戻られよ。そして、開拓者となり氏族の縛りから外れよ」 「結構仕えてもらいましたから、私の性格は分っているでしょうに‥‥一つお聴きしますが、両親を殺したのは本当に貴方? それとも雪乃?」 犯人と言われていたのは目の前の男。だが、動機がまるで見当たらない。逆に雪乃であれば動機は幾らでも思い付く。その、誰もが持っていた疑念を蔓が口にした。 返答は――槍の柄。 「答える義務は無い。邪魔立てするなら、多少なりとも痛い目を見てもらう」 一閃。動き易いとは言い難い喪服で跳びのく蔓。音も無く肉薄するシノビと蔓の間に、同じく喪服が割り込んだ。空気を裂いて振るわれた拳が、両者の間を裂く。 「泰拳士か‥‥」 「主君の鞍替え‥‥感心しませんわね」 己の主義に抵触したか、秋桜は不快感露わ。その視界を噴出した水柱が覆う。声を押し殺し更に身を放すシノビ。横目で捉えたのは、水遁を放った直後の暁とかえでの姿。そこに更に追い打ちを掛ける、雷光でカタチを成した手裏剣。 「‥‥何故こんな事になりました? 蔓さんに身を退かせたいのであれば、そこをきちんと話すべきでしょう!」 「ないな‥‥」 志郎の問いをシノビは断ち切る。その声は、何故か苦渋に満ちていた。 「何故話せない? 雪乃さんの命令ですか? 彼女は何処に行きました? 何故姉に身を退かせたい?」 立て続けに放たれた双伍の問いへの答は、壁へ跳躍し弾けるように肉薄した蹴りという形で返ってきた。障子を破り、廊下まで吹き飛ぶ双伍――威力は無いに等しいが、勢いだけはあった。そこに駆け寄り、癒しを与える雪。彼女はその瞳をシノビに合わせ、問う。 「お二人に仕えたなら、血を分けたお二人がすれ違うのが悲しい事だと分るでしょう!?」 「それは普通の考えだ、巫女。ここは陰穀でシノビの家――当て嵌める常識がそもそも違えている」 通じない、だが饒舌――違和感を感じた鶯実は手裏剣を形成しつつ、 「良く喋りますね――絆の鎖を断ち切る程無意味な事も無いと思いますが、君は一体どういう立ち位置なのです?」 「――臭い台詞だな、シノビ。我の立つ場所は、常にある主の傍ら――」 「鞍替えした奴の言って良い台詞じゃねえな!!」 読めない状況が語気を荒くする。吠えた紅穏を黙殺し、シノビは再び蔓に視線を向ける。 「して、返答は?」 「雪乃に伝えなさいな。人にものを頼む時は、自分で面と向かって頼めとね」 「‥‥妹君の願いが分らぬか」 「分ったから言ってるのですけどね――まあ、とりあえず今日は帰ります」 一同、依頼主の顔を凝視。笑顔が消えて不機嫌極まりない表情を隠そうともしない蔓、そのままシノビに背を向け、部屋を出ようとする。 「ちょっと、いいの?!」 「私に危害を加える気が無いのであれば、無駄に戦う必要も無いでしょう?」 「いや、僕らが言ってるのはそういう事じゃなくて‥‥」 止めるかえでと暁。返答がずれているのはわざとか。説明する気も無いようで、さっさと出て行ってしまう蔓――妙に気の抜けた空気の漂う中、シノビの重い声。 「去れ。これ以上、我の邪魔をするな」 ●離れていく妹 「あのまま引き下がって宜しかったのですか?」 雪の表情は暗い。当たり前だ。生きて帰ったとは言え、何も解決していないのだから。 「構いませんよ。あのままあそこで粘っても、彼を殺すだけですし――貴重な妹の駒ですし、潰すには忍びない」 「つまり、妹さんが何を考えているのか分ったと?」 志郎の確認に蔓は頷く。 「親類達を切り放しに掛ったのでしょう。お陰で、親類達が今回呼んだ理由が分らなくなりましたが」 「それは状況を見れば分りますわ。分らないのは、何故蔓様まで切り離す必要があるのか、という事です」 「何故って‥‥あの子にとって、一番邪魔なのは私だからでしょうに」 先を促す秋桜に対し、蔓は涼しい顔。但し、発言は穏便でない。 「‥‥どういう意味だ、そりゃ」 「親類達が群がるのは、シノビの家の利権に絡む部分もあるのでしょうけど‥‥多分、私が実家に納めているお金が一番でしょう。彼らとしては、私は家に居ては困るけど死なれても困る立場なのですよ」 「‥‥よく分らないんだけど?」 「対して、雪乃は賭け試合の件で堪忍袋の緒が切れたのでしょうね。親類を切り離すには、まず私から切り離さなければいけない――そういう事です」 尋ねる紅穏と暁の顔に苦笑を向け、蔓。筋が通っているようにも見えるが―― 「それなら、蔓さんと協力すれば手早いでしょう‥‥何か隠していませんか?」 静かに鶯実。未だ消えない蔓の苦笑。 「隠すというか‥‥ただ単に、あの子が私に頼らないと決めたからでしょう。劣等感を払拭するいい機会でしょうね」 ――それで良いのか? 一同の内心は同じだった。だが、蔓は妙に楽しそうな表情。 「まあ、親戚連中もまだどう出るか分りませんし‥‥妹もその内また動くでしょう。それまでは、のんびり待つとしますよ」 |