童語りと屍の集落
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/07 17:10



■オープニング本文

 ちずにものってないとってもちいさなしゅうらくがありました。


 その日、開拓者ギルドに一人の中年男性が走り込んできた。
 比較的立派な体格、容姿は美醜以前に人相という時点であまり宜しくなく、開拓者から見れば失笑したくなる貧相な武装である短剣――それら外見に関わる全てが、泥だらけになっておりまた多人数に多方向から引っ張られたように細かい傷だらけ。
 何より、着用品に点々とする血痕。
 開拓者ギルドのまだ浅い歴史で考えれば、恐らくはアヤカシの類に襲われた一般人と見るべきであろうが‥‥失礼ながら彼の人相と短剣、及び血痕が合わさり判断を鈍らせた。


 つつましやかに20人くらいのかぞくだけでくらしているしゅうらくでした。


 とある日を境に、彼が暮らしていた集落の者達が屍人として動き出した、と中年男性は語る。
 当日、彼自身は山に狩りをする為に出払っていた為に難を逃れたとの事であるが、当然ながら何も知らずに集落に戻った彼は元家族である屍人の群れに襲われ、獲物の解体に使う短剣を振り回してかろうじて逃げ延び、現状に至る。


 おじいちゃんもおばあちゃんもおとうさんもおかあさんもおにいちゃんもおねえちゃんもおじさんもおばさんも、それからぼくもみんなでできることをしました。


 中年男性が開拓者ギルドに駆け込んだのは、当然ながらアヤカシ退治――かと思われたのだが、彼の答えは少々ずれていた。
「倒すのは別に構わないんだが、まずは助けなくちゃいけない奴が居るんだ」
 彼が集落から逃げる際、一人だけ難を逃れた者を見たらしい。集落では一番若い、10歳前後の少年が食糧庫である地下室に逃げ込んだのを見たのだと。


 でも、みんなしんじゃいました。ちがいっぱいでてました。ぼくはあぶないとおもってあわててかくれました。しばらくするといっぱいのひとがうごきまわるおととだれかのひめいがしました。


「俺じゃアヤカシなんかの相手はできない。開拓者ならそれが出来るんだろ? だから、あいつらの相手は任す。だけど、あの子だけは俺が保護してやりたい」
 必死の形相で語る男性。一日にして家族が崩壊し、しかも死後も冒涜され、子供を見捨てて逃げざるを得なかった彼としては、当然の願いだろう。
 男性は微々たる額を提示し、受付で土下座した。
「これだけしか出せないが‥‥頼む! 俺にあの子を助けさせてくれ! 食糧庫にはもう数日分の食糧くらいしか残ってないんだ!」


 くらいです。せまいです。たべものもなくなってきました。
 みんなしんだのをみたからだれもきてくれないかもしれません。
 おかあさんが「これはみんなのおかね。あなたがいきのこったらこれをだいじにつかってがんばっていきて」といっておもいふくろをわたしてくれたけど、なかにはおかねがいっぱいはいってるだけでたべるものじゃないや‥‥
 みみをすますとあるきまわってるおとがきこえるから、まだでちゃだめだ‥‥そういえば、どうしてあのひとはここをあけないんだろ?


「報酬ははっきり言って雀の涙ですけど、子供を助ける事には意味があるでしょう。それに、動きたての屍人であれば――不謹慎ですが、腕試しにはちょうどよいでしょうね。
 ただ、20体近いとなれば正面からまともにぶつかるのは危険です。まともな頭脳を持っているとも思えませんので、その辺りを利用して下さい。
 それから、依頼主の方にも気を配って下さいね」
 そう、依頼説明は締め括られた。


■参加者一覧
シュラハトリア・M(ia0352
10歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
月城 紗夜(ia0740
18歳・女・陰
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
白姫 涙(ia1287
18歳・女・泰
玲瓏(ia2735
18歳・女・陰
海波 由良(ia3012
15歳・女・陰
紅虎(ia3387
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●些細な違和感
 満身創痍で開拓者ギルドに現れた男の依頼――決して実入りが良いとは言い難いそれではあったが、幸いな事に上げられた手は多かった。
 急を要する事態であるが故、簡単な準備を済ませた開拓者達は依頼主を伴ってすぐさま集落へと向かった。
 辿り着いた集落の有様は酷いものであった。元々裕福ではないのだろうが、今広がる光景は台風か軍隊が過ぎ去った後にも等しいものに変わり果てていた。
 広くも大きくも無い集落――依頼主の話通り、既にそこは死人が徘徊するだけの場所。家畜、農作物は漏れなく喰い尽され、飢餓の呻きをばら撒いている。
「‥‥囮になって下さった皆様、平気でしょうか‥‥」
「問題無いってばぁ。由良ちゃん心配しすぎ」
 その村を見渡せる高台――そこに実に好対照な二人。前者は体型容貌共に繊細な印象を持つ少女、後者は艶めいた容姿の少女――背丈や顔立ちから年齢を換算するに、幼女とか子供と言った方が良いのかも知れないが、雰囲気が明らかに逸脱していた。
 前者が海波 由良(ia3012)、後者がシュラハトリア・M(ia0352)。それぞれ、依頼を受けた開拓者達の内二人。
「お、おい‥‥本当にあの子、助けられるんだろうな?!」
 二人の後ろから切羽詰まった声。依頼主である中年男であるが、道中幾ら宥めても彼の焦りは変わらなかった。流石に自分一人では無理であると自覚はしているので、特攻する気は無くなったようだが。
「出来る限りの事は致します‥‥ですから、落ち着い――」
「だいじょぉぶ♪ シュラハ達がついてるんだからぁ、きっと上手くいくよぉ」
 静かだが決意の籠る声で男を落ち着かせようとした由良だったが、それを遮ってシュラハトリアが男の腕にしがみ付く。
 余談であるが、シュラハトリアの肢体は実年齢からして有り得ない豊満さである。その黒い服の下にある乳房を押し付けられた男の顔が、一瞬だが好色に染まったのを彼女は見逃さなかった。
 シュラハトリアは言動から来る無邪気さの半面、己の容姿が他者にどう影響するか計算しきっている。だから男の反応は不自然ではないのだが――
(ずうっと切羽詰まってた人の反応じゃないわよねぇ‥‥)
 感じた違和感はとりあえず心の隅へ。ついでにさっきから由良が頬を染めて此方を見ているが、それも黙殺。
 ――彼女らが子供の救出に向かうまで、まだ少しの猶予があった。

●嫌な予感
 屍人の殲滅は優先事項に非ず――だが、現実問題として集落に彼らが居る以上、全く相手をしないわけにもいかないのだ。
 故に、三段構え。
 二つの囮と最後の本命。
 残された少年の救出にはそう人手は要らない。むしろ、其方へ向かう危険を極力減らす為に人手を割いた。
 集落の概要は依頼主から確認し、現状は由良の式により把握している。
 まず動く第一手。
 三つの人影が一気に集落中央に躍り出――た瞬間、視界に入る屍人が一斉に彼らに向かってきた。
「反応早っ?! あたしまだ叫んでも無いのに?!」
 三人の中で最も先頭に立っていた小柄かつ細身の少女、紅虎(ia3387)は驚くが、アヤカシの習性を考えるとむしろ当然の反応だったりする。
 ある程度知性の働くアヤカシならともかく、まともに考える頭の無いアヤカシはほぼ全ての行動において食欲を優先する。更にその食欲の優先順位も人間は最上級に来る。まして、集落の様子からして相当に飢えている。屍人からすれば、格好の餌が来たと言う所か。
「反応が良いのであれば、尚更好都合よ。このまま、由良君達が動き易いように引っ張っちゃいましょう」
 此方は紅虎よりも少し年上の少女、玲瓏(ia2735)。落ち着いた容貌に思案の色を浮かべながら、動きの遅い屍人に合わせ徐々に後退していく。
「出来得るなら傷付けたくは無いのですが――そうもいかないのでしょうね。ここまで反応が良いと、他のお三方が伏せている辺りまで退いた方が宜しいのですか?」
 最後に口を開いたのは、三人の中では最年長。巫の衣に身を包んだ白野威 雪(ia0736)は、平時は穏やかな表情を引き締め確認する。
 ――屍人というのは、死体にアヤカシの元となる瘴気が入り込んで生まれるモノ。その時点でもはや別の生き物になってしまっているのは、開拓者の間では共通認識である。ここで彼女らが彼らを一切傷付けずに退いたとしても、別の誰かが恐らくは滅する。最悪の場合、彼ら同士で食い潰し合いかねない。
 だが、それでも親しい者が居る前で傷は付けたくないが――全員に共通する想いである。
「‥‥?」
 笛を咥えて後退しながら玲瓏が眉を顰めた。ここに来るまで引っ掛かっていたもの――屍人になったきっかけ。もっと言えば、そもそも彼らが何故死んだのか。
「刃物、だね」
 玲瓏の視線を追った紅虎がその答を口にする。それぞれ箇所こそ違え、一様に鋭利な物で切られたような傷を持っていた。
 重ねて言うが、屍人は死体からしか生まれない。だから彼らに致命傷の痕跡がある事そのものは問題無い。
 問題は『誰が彼らを殺したのか』という事。
 ――何か、とてつもなく嫌な予感がした。

 同刻。
 高台より屍人が次々に動き出したのを確認した救出組は、即座に行動を開始した。依頼主を左右で挟んで進んでいく二人。由良が純粋に護衛の観点から動いているの対して、シュラハトリアは監視の意味も秘めていた。

●死に返る
「――式」
 左の面に凄惨な傷跡を刻んだ少女が符を放ち命ずる。その少女、月城 紗夜(ia0740)の意思に従い鎌を持った獣が形成され、直後にそれは視界から消え失せた。消えたそれは刃を持った風となって、最前に居た屍人の足を切り裂いた。
 痛覚など存在しない彼らであるが、ここまでおびき寄せられた上に攻撃されてようやく相手が只の獲物ではない事を察知したのか、緩慢だった動きに警戒の色が混じる。
 瞬間、別方向から飛び込んできた薙刀の柄が数体纏めて足を薙ぎ払った。かろうじて避けた者も居るが、殆どが見事に地面へ叩き付けられる。先程切られた屍人もそれに含まれており、地面に叩き付けられた直後にどす黒いナニかが身体から四散し、活動を停止した。
(――まず一人)
 長刀を構え直した白姫 涙(ia1287)は、不快を押し殺しながら数える。
 死者を冒涜するアヤカシへ怒りも沸くが、まずもって浮かぶのは遺体と対面する少年の事。
「遺体が残った方が良いのか悪いのか――」
「ちっくしょうっ! 死んだ後まで食べ物にすんなあっ!!」
 まだ起き上がれない屍人に向けて、紅虎が神速で肉薄し拳を放つ。激昂が込められた拳に打ち抜かれ、また一体、死体に戻る。
「幸いと言っていいのか――弱いですね」
 呟いたのは最後尾で戦況を確認している、少女に見えるが実際には少年である玲璃(ia1114)。まだ治癒の力を行使する事しかできない彼は、敢て一歩退いた位置で状況の把握に努めていた。
 その玲璃から見て、この屍人達は明らかに弱い。恐らく実際に交戦している仲間も同様に感じているだろう。
(恐らく、時間を掛ければこの場で全て救ってやれる――ただ)
 とにかく数が多い。依頼主は20体近いと言っていたが、現状、2体減っても22体。此方も固まらず標的を分散させるようにしているが、広がり過ぎると咄嗟に対処しきれなくなるので、ある程度の纏まりは維持している。
「式!!」
 数の多さを同様に認識した玲瓏が符を放つ。屍人の正面に発現した式は纏わり付き拘束し、背後の屍人の動きも制限する。
「報告より数が多いのは問題――それに彼らを殺したのは‥‥。――っ」
 玲瓏は先程からの引っ掛かりを口にして、視界の端に食糧庫へ向かう3人組を捉えてからはっとした。

 ――彼は集落の者と言った。中年にもなって、その正確な人数を把握してないのか? 錯乱状態だったのは確かだが、落ち着く時間はあった筈。思い返してみれば彼は一度も少年の『名前』を口にしていない。全て『あの子』。そして、全屍人に共通する刃物の跡――

「まさか――」
「玲瓏様っ!!」
 呆然とした隙を狙って、抜け出てきた屍人が躍り掛かる。喰らい付かれる直前に雪の声が耳を貫き、咄嗟に身を翻しつつ竹刀を叩き付けた。大した威力は産まないまでも、後退させる程度の効果はあったらしい。
 符と竹刀を構え直す――現状、此方からはもう人数は割けない。あちらの二人が依頼主の不自然さに気付いてくれれば良いが――
「心、ここに非ず――どうしたの?」
 沙夜が淡々とした声で玲瓏の異常を看破する。迷ったが、結局自分の感じた不信感を告げた。
「――成程。それだと疑問が少し解けた気がする」
 沙夜の疑問――要は最も弱い子供が屍に襲われ何故逃げられたか、という事。前提が違えば変わってくる。つまり、少年は屍ではないものから逃げたのかも知れないと。
「今はあの二人に任せましょう――きっとうまくやってくれます」
 会話を聴き付けた玲璃が、全員に聞こえる声で促す。そんな中、雪は改めて屍人を眼に収めた――生前の姿を残して冒涜される死者。それを成したモノへの怒りを忘れない為に。

 ――雪が舞い士気を高め、玲璃の風が癒しを運ぶ。放たれた式が屍人を捉え、或いは切り裂き魂を砕く。涙の薙刀が紅虎の拳が冒涜を打ち消していく。当初の半数、動かなくなった死体達――戦いは、もう間も無く終わる筈である。

●露見
 戦いを繰り広げている最中、シュラハトリアと由良は無事に依頼主と共に食糧庫へと到着。囮の活躍のお陰で、此方には何も向かってくる事は無かった。
 途中、何度も依頼主は先走ろうとした。その度にシュラハトリアがあの手この手で纏わり付き、甘い声で彼を止めていた。その依頼主の焦りがここにきて最高潮に達しているのが、由良にも分る。
(――どうして? ここまで来て焦るのです? 男の子が心配なのは分りますが‥‥)
 それにした所でおかしい。もはや、彼の感情が焦りとか錯乱ではなく純粋な苛立ちに変貌している事に気付いたから。
「さぁてとぉ――式」
 嫣然とした笑みのまま、シュラハトリアが食糧庫の入口近くに符を放つ。地面に吸い込まれ符は消えた。それを確認した彼女は、やおら「屍人さーん」などと叫ぶ。
 ――耳を澄ましていると、室内から何かが歩く音――直後、扉をぶち破って元は若い女性だったと見られる屍人が飛び出してきたが、一番手前に居たシュラハトリアに掴みかかろうとし、地面より湧き出た自縛霊に拘束された。意味不明の叫びと激しく動く手足。首の後ろに刺跡――
「ひょっとして‥‥お母さんでしょうか?」
「ないない。これアヤカシだよぉ、由良ちゃん。『元』母親っていうなら当たりかも知れないけどねー、と」
 食糧庫に飛び込もうとする依頼主の腕を抱え込むシュラハトリア。
「も、もう良いだろ! 離せ――」
「ねえ『おにぃちゃん』――先に行くの無しってずううううっと言ってるよねぇ? そ・れ・か・ら――短剣出して欲しいなぁ」
 瞬間、依頼主の顔色が激変する。
「お前――」
「短剣――――え、ちょっと待って下さい‥‥まさか」
「そ。なーんかおかしいなあ、って思ってたんだけどねぇ。『おにぃちゃん』、この集落の人じゃないでしょ?」
 戸惑いながらも、シュラハトリアの言葉が何を示しているのか気付く由良。
 嫣然とした笑みを更に広げるシュラハトリア。
 その二つを見比べ、依頼主は叫びながら短剣を抜くが――
「――お・馬・鹿・さん」
 軽々とシュラハトリアに突き飛ばされ地面に転がる男。狙ったのか男が不幸なのか――どちらにせよ、彼が転がった先は母親屍人の眼前。突き出された餌――男のふくらはぎに迷わず喰らい付いた。
 依頼主――だった男の絶叫が響き渡る中、シュラハトリアは食糧庫に一番乗りを果たす。
「助けに来たよぉ〜♪」

●弔い
 母親屍人は由良の式によって返された。ある意味、この人は最後まで息子を護ったのでは、と死体に戻す直前に思う。勿論、彼女の希望的観測ではあるが。
 足に喰らい付かれた男はもはや抵抗する気力も無くなったようで、その場で二人に捕縛。その後、救出した少年に男の顔を確認してもらい、間違えなく彼が集落をほぼ全滅に追い込んだ盗賊である事が確認。顔を見られた事、集落の金銭の大多数が少年に預けられていた事――冷静に考えれば、少年が死ぬまで放置してから依頼を出せばよかった筈なのだが、そこはやはり錯乱していたのは事実なのだろう。
 男の足に最低限の治療を施し、後ほど役人に突き出す為に食糧庫へと放りこんだ8人は、少年の家族を集め、用意していた岩清水を全て使って、せめてもの清めとした。
 幸いにして、少年は健康状態も良好で治療も必要無い状態だった。精神的には分らないが、玲瓏から貰った蜜柑果汁を美味しそうに飲んでいる姿から、多分これから頑張っていけるだろうと予想された。

「‥‥では、玲璃様。宜しいですか?」
「はい、大丈夫です」
 地域にもよるが、珍しいとも言える火葬で遺体を葬った後、雪と玲璃――共に巫女である二人による弔い。他の六人と少年は一歩退いた位置で座り、安らかに眠れるよう祈る――約一名、内心ではアヤカシに憑かれた彼らに憧憬に似た思いを持っている者が居るのだが、流石に彼女も表には出さなかった。
 巫の舞が続けられている。それを、どこか遠い目で見ていた少年がぽつり。
「まだ、よくわからないけど――ぼく、いつかはここであたらしいかぞくとくらしたい」
 喪われた者の代わりなど無い――だが、新たに継ぐ事は出来る。残された者が代々そういったモノを繋いでいく。それが家族ではないかと、少年の幼い瞳は語っていた。
「好きにすると、いい――その道は、辛いだろうが、正しい」
 己を省みて、少年の頭に手を置く紗夜。多分、何時かは自分もこの少年と同じ想いを抱くのかも知れない。
「貴方は重なった不幸を越えて生き残った。なら、もっともっと前に進める」
 涙は目を細める。目の前で廃村同然の集落――この子が一人の男として戻ってきた時、ここには貧しくも穏やかな家族の暮らしが戻るのを、死者へとは別に祈った。
「とりあえずさ、生きていれば楽しい事はたくさんあるし、ギルドにきてあたしら頼ってもいいんだし――あー、色々考えてたら何かあのオヤジ殴りたくなってきたっ」
「貴方が本気で殴ったら、あの人間違いなく死ぬでしょ」
 本気か冗談か元気に叫ぶ紅虎に、同様の突っ込みの玲瓏。そのやり取りに、舞っている二人以外に笑いの輪が広がる。
(皆さん、貴方達の護った子は笑ってますよ――)
 空を見上げ、由良は心の中で呟いた。届かなくて良い、大事なのはここで少年が笑っている事。
 ――弔いは、それから一時間程続いて恙無く終了した。

 結局、少年は一人前になるまで都で奉公する事にしたらしい。
 余談だが、盗賊を突き出した礼金か、後日ギルドを通じて8人に僅かではあるが追加報酬があった。