【只人】逢引計画書
マスター名:小風
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/13 21:08



■オープニング本文

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 朝起きたら、枕元に義理の妹が居た。
 ‥‥何か、同じような展開を少し前に経験した気がする。
 あの時は人災みたいな母親モドキだったが、今回は至って普通の女の子。気にする事も無いか、と起き出し布団を畳み着替えてから今日の朝食はどうしようと考え、未だ最初の位置に座ったままの義妹に問い掛ける。
「私の料理と外食、どっちが良い?」
「‥‥姉さんが父さんの影響を一番受けているのは良く分った」
 無表情かつ抑揚の無い声、だがどこかしみじみと呟く義妹――皆道心。別に驚かなかったわけでもないし疑問もある。ただ、同じ展開を二度やられて同じ反応を返すのも芸が無いと思ったので、全力で無視してみたわけだが。
 そんな感じで彼女――皆道標の朝は始まった。

「で、何しに来たの? 次の住んでいる所はここじゃないけど」
 標の質問に、心の顔が朱に染まる。分り易い反応である――これで愛想が良ければ尚良いのだけど、などと思う標。
「次には、手紙のやりとりで会う予定も出来てる」
「ふうん‥‥それで、朝っぱらから何で私の家に居るの?」
「父さんから指示があって‥‥この手紙をこういう風にして渡せって」
 その指示通りに朝から不法侵入をする奴が何処に居る。言う方も言う方だが、やる方もやる方である。
 心から、きっちり封をされた手紙が差し出される。それを受け取り、中を取り出して文面に目を走らせた標は眉を顰めた。

『心が次に会いに行くっていうから、逢引の計画立てて下さい。
 とは言っても、標に立ててくれとは言いません。そんな無謀な真似を私はしません。
 開拓者の方々に経験豊富な人も居るでしょう。そういう人を探してお願いする様に。
 次には連絡してありますので、彼に計画を叩き込んで心を満足させて帰すように。
 後、報酬に関しては後日送金しますので、とりあえず立て替えておいて下さい』

(け、喧嘩売ってるのかあの人‥‥)
 遠回しに『男女関係についてお前に期待はしない』と書かれている。否定はしないが、腹立たしい事には変わりない。
 ただまあ、心にせよ次にせよ、まともな逢引などした事はないだろう。孤児院に居る間、そんな暇は無い筈だ。標からすると、初めて同士で良いじゃないかと思わなくもないのだが、義父からするとそうでもないようだ。
(確かにこの二人の元々の関係だと、無計画だと逢引にならない気がするなあ‥‥)
 元々、喧嘩するほど仲が良い、という関係だった。次が起こした騒動と、その後彼が孤児院を離れた事で今まで以上に異性を意識するようにはなったのだろうが、元が元だけに不発で終わる可能性が高い。
 十四歳同士の逢引なら、そう難しい事もないだろう。邪魔者や対抗馬が居るわけでもなし。
 それは良いとして、標にはもう一つ疑問があった。
「心、次に会うのは何時?」
「四月に入ってからだけど‥‥」
「その間、どこで生活するの?」
「‥‥ここ?」
「何で家主に訊くの。おかしいでしょ」
「‥‥ここ長屋だから、借家だよね?」
「問題はそこじゃない」
 やっぱりこの子もずれている。溜息を吐いた標は、先の封書の中にもう一枚小さな紙が残っているのを見付けた。何でこんな小さな紙を、と不思議に思いつつ取り出し目を通し――即刻握り潰した挙句にまだ火が残っている釜戸に放り込んだ。

『追伸。
 流石に子供作る所まで計画しては駄目ですよ。
 泣かせるのも鳴かせるのも駄目です』


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
太刀花(ia6079
25歳・男・サ
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎


■リプレイ本文

●桜並木
 天儀の人々にとって最も春を実感させる花、桜。満開になったそれらが立ち並ぶ中、一組の男女が歩いている。
 皆道、という共通の名字を持つ次と心という少年少女。家族であるが兄妹ではなく、ならば夫婦というわけでもない。幼い頃から近しく暮らしていたという意味では幼馴染であろうが、そう言い切る事も出来ない不思議な関係。
 二人は今、逢引の真っ最中である――ジルベリア風に言えばデートか。その様子は、微笑ましくはあるが非常にぎこちない。当たり前だ、二人ともこんな経験は無いのだから。
「‥‥何と言うか、固いな。あの歳ならあれくらいで丁度良いのかも知れんが」
「そんなものですか? 手ぐらい繋いでも良さそうなものですが」
 次と心の後方、流れる花見客とは少々毛色の違う者達が居る。今日の逢引、それがより円滑に進むよう依頼を受けた開拓者達と追加一名である。
 先に口を開いたのは、その中でも最も偉丈夫であり最年長のハイネル(ia9965)。全身から重々しいものを発している男だが、答える声は平然――開拓者ギルドの制服を羽織ったままの、前二人の義姉にあたる標である。
「ある意味とばっちりとだというのに妙に楽しそうだな、皆道――まあ、それくらいの方が良いのかも知れんが」
「まあ、義姉としてもあの二人がちょっとは進展してくれれば面白いかな、と」
 『面白い』である。普通この場合使わない言葉であるが、どこか共犯者めいたこの状況だと寧ろ妥当だ。
「そういやさ、何で俺らに話が来たんだ? 受付の姉ちゃんが教えてやれば良いだけじゃねーの?」
 ルオウ(ia2445)の疑問も尤も。開拓者八人を雇う金額は平均的収入を持つ大人でも躊躇する。皆道家が孤児院である事は全員が承知しており、そこからその額を出すというのは幾ら気に掛けているとはいえ、疑問が出るのは当然だ。
 標の笑顔がひきつる。孤児院時代は孤児最年長者として義父の手伝いと年下の面倒、文武の習得に奮闘し、出た後は開拓者ギルドの受付だ。はっきり言えば『その方面に関しては義弟妹以下』なのである。
「あ、あははー‥‥えーと、桜綺麗ですよね! お弁当も持って来ましたし、二人が落ち着いたらボクらも落ち着かせてもらいましょう!」
 この依頼を受けるに際して聴いた話では、義父の手紙で似たようなことを指摘されていたらしい。我が身を鑑みて虚ろに笑う標に拙いと思ったか、伊崎 紫音(ia1138)が話題を変える。基本穏やかな彼だが、この辺りに『男』としての片鱗が感じられる。
「あのお二人さん、何時落ち着くか分らんけどなあ――お、漸く手ぇ繋ぎよったで。あかん、俺にやにやしてきたわ」
 話し込んでいる間に少々引き離されたが、十四歳の異性二人組というのは目立つ。そして、見付けた二人は手を繋いでいた。軽い調子でそれを報告した天津疾也(ia0019)の口元には、無意識に笑みが浮かんでいた。
「こ、困りましたっ。わたくしも同じく」
 秋桜(ia2482)は口元を隠しているが、目元が明らかに笑っている。因みに彼女、色恋沙汰については標と同等かそれ以下の水準である。但し、考えないようにしている標と違い、妄想にも似た憧れを抱く秋桜はそれに従い準備段階で色々と手と口を出していた。
「ところで、今日はこのまま張り付くのですか? あの二人とも気付いてはいないでしょうが‥‥」
 鈴木 透子(ia5664)の意見だが、別に彼女は放置しろと言っているわけではない。現に透子とてこっそり人魂を飛ばして様子を伺っている。ただ、此方が目視出来るという事はあちらも出来る。発見されれば気を使われるだろう。要はもう少し距離を置いた方が良いのでは? という事だ。
 そして同じく太刀花(ia6079)が後を続ける。
「そう、ですね――透子さんの意見に俺も賛成です。特に標さん、貴方が見付かるのは本気で拙い。気になるのは分りますが、お二人を信用しては?」
 太刀花の言葉にも理がある。立場上、受付さんとしてではなく依頼主としてここに居る標は僅かに悩むが――
「確かに皆さんはともかく、私は拙いですね‥‥‥‥ん? 要するに、私が帰れば済むような気が?」
「いえ、ここまで来て帰るというのもなんですし、俺達で一席設ければ良いでしょう」
「紫音さんもお弁当を用意しているそうですし。二人については、私が人魂で見ていますから大丈夫かと」
 妙な結論を出した標を、太刀花と透子で留める。
 何にせよ、今日一日は長そうである。

●準備
 前日に遡る。
 逢引計画自体は、正直の所大したものではない。次と心の年齢や経験を考えると、変に凝るのも無理がある。放っておいてもその内くっつくと言われている二人だからして、必要なのは『後押し』だった。
 そうなると、この時期においてうってつけのものがある。
 桜の木だ。
 依頼を受けた開拓者達の半数以上がそれを出してきた。
 桜の木の元での花見、付随する料理――ベタとも言えるし定石とも言える。
 で、本来であればその料理は心が作るべきなのだが――
「こ、これは‥‥ちょっと」
「‥‥正直に酷いと言って」
 標の家の台所、口籠る秋桜と無表情ながらふてくされた物言いの心。
 純粋に下手である。味見はするので食べれるものにはなるのだが、包丁の使い方から盛り付けまで基本的な部分がまるで出来ていない。味にしたところで甘味にせよ辛味にせよ一種が突出してしまっている。
「標様の伝言通りですね‥‥」
 家主である標は開拓者ギルドに出勤中。その彼女が出勤前に残していった伝言は『食べられるものは作るでしょう。但し、食べたくないものを作るでしょう』だった。孤児院では標が居た当時は彼女自身、その後は義父である千尋が調理を担当していたので、手の込んだ料理を作るのはこれが初めてだという。
「あの、因みにその料理を次様は‥‥?」
「寧ろあいつくらいしか食べない」
 きっと口喧嘩しつつだろうなと思いつつ、尋ねた秋桜は頷く。
「直せるものなら直すけど」
「んー、このままでも良い様な。何だかんだ言って次様は食べているようですし」
 次にとってはこれが心の味だ。修正する必要はあるが、それは今する事ではないだろう。

 同じ頃、心の料理と同等のものが別の場所で繰り広げられていた。
「あの、ひょっとして料理の経験って」
「まるきりじゃねえけど‥‥無いに等しいな」
 次が借りている長屋の一室。その台所で、次が紫音に料理の腕を披露していた。
 此方も食べれるものは作るのだが、心と同じく基本が出来ていない。紫音にせよ秋桜にせよ、千尋に何故料理を仕込まなかったのか問い詰めたいところだったが、問われたなら彼はこう答えただろう。
『教えてくれと言われれば教えた』
 あの人物、自分で踏み出さない人間には割と冷たいのだ。実際、標の文武は全て自発的に千尋に教授願ったものだ。
「絶対コレ、あいつに喰わせた日には喧嘩になるぜ」
「喧嘩しないようにするって発想は‥‥?」
「したくてしてるわけじゃねえって。それが日常だったからさ」
「とにかく‥‥折角二人きりで邪魔が入らないのですから、そういうのは無しでっ」
 言い含める紫音。今まで互いに意識しながら進展しなかったのは、孤児院が忙しいのもあったのだろうが根本はここだ。
「まあ、君の料理はともかく‥‥彼女の料理はきちんと感想を言ってあげて下さい」
「そりゃ何時も言ってるさ。それで喧嘩になるんだが?」
「別に俺も褒めろとは言いません。その辺りは言い方を工夫すればいいだけの事です」
 太刀花の意見に次は首を傾げているが、やり方としては正しい。心の料理があまり宜しくないのは標から聴いている。心が自覚している事も。ならば褒めても嫌味にしかならないだろうから、正直な感想を言えば良いのだ。
「そういえばお尋ねしたかったのですが」
 ここまで黙っていたもう一人、透子が口を開く。料理に関しては次よりマシとはいえ大差が無い彼女、ここまで黙って様子を見ていたのだが、一区切りついた所で気になっていた事を訊いてみる事にした。
「今のお仕事は? 標さんの知り合いに紹介されたとお聴きしましたが」
「ん? 石工の見習いだよ。指の事で最初は揉めたけど、その知り合いのお陰で雇ってくれた。今は力仕事ばっかりで、実際に石を加工するのは無理だけどな」
「成程‥‥ではもう一つ。と言うか此方が本題なのですが‥‥何故、いきなり孤児院を出ました?」
「‥‥あんな馬鹿やらかしてこれ以上あそこに世話になるってのもな。で、出たわけだがまあ‥‥小指の無い奴にそう仕事があるわけねぇ。結局、義姉さんに頼る事になったのは我ながら情けねえ限りだが」
「心さんの事は? まさか考えなかったとかは無いですよね」
「一人前になったら迎えに行くつもりだったんだが‥‥あいつの方から来るとは思って無かったな」
 次なりに色々考えてはいた様だ。心が待っていてくれる事を前提にしているのは多少気になるが、頭から疑うよりは遥かにマシだろう。透子は前日に心からも話を聴いているが、此方は難しくない。単に『会いたくなった』だけだそうだ。
 これならそう心配する事もないか――再び始まった料理現場を前に、透子は目を閉じた。

「経路等はこんなものか――時間はかなり余裕を見ているが、どうだ?」
「上出来や。もっと銭掛けられりゃ良いやけどねぇ」
「兄ちゃん、それはナシって何度も言っているだろー。金掛けりゃ良いってもんじゃないって」
「最初に酒とか言った奴に言われとうないわー」
「ありゃ冗談だってば!」
 ハイネルを中心に疾矢、ルオウが逢引経路の確認中。
「しかしまともに計画を立てていないとはな。養父の手紙が無ければどうなっていた事か」
 ハイネルが次に大まかな計画を訪ねた際、碌に何も考えていない事が判明した。多少は考えているだろうと踏んでいたハイネルは溜息一つ、手の空いている陽性二人組を引き連れて数日間吟味を重ねていた。
「後はまあ、変なのに絡まれなきゃ良いのやけどな。ほら、酔っ払いとか」
「可能性は無いとは言い切れんな、花見の席ではその手の輩が増えるものだ」
 余程酷ければ此方で手を回して排除する事になるだろうが、その可能性は低い。逢引自体昼間であるし。
「そういや、場所取りとかは?」
「最初は考えたが、止めておいた方が良いだろう。当日まで私達が干渉しては逢引の意味が無い」
「そやね。ま、あそこ幾らでも場所空いてたから当日でも大丈夫やと思うで」
 必要以上の介入は不要、特に当日は。自発を促さなければ何の意味も無い。それは恐らく、義父の千尋も意図しているのだろう。だからこそ、標の介入を禁じたのだ。

●花見の席
 当日に戻る。
 漸く若い二人は腰を落ち着けたようで、保護者達も離れた位置で腰を下ろす事になった。
 紫音の作った弁当や太刀花の準備した団子をつつきつつ、桜の下で一席。
「そういえば何故ギルドの格好なのです? 誘っておいて何ですが」
 太刀花が標に尋ねた疑問は、恐らくは全員に共通している。目立つという程ではないのだが、浮いているのは事実だ。
「午前中だけ休みを貰いまして。午後は出勤するので、部屋に戻るのも面倒なのでそのまま着てきちゃいました」
 几帳面なのか大雑把なのかよく分らない理由である。

 で、案件である二人だが。
 固まっていた。
 箸が一組だけ。心の方に一組、次の方に至ってはそもそも無い。包んだ際には入れたのだが、秋桜の指示により出掛けのどさくさ紛れに抜かれたのだ。
 どうするか考える。いち早く次が『その辺の花見客に借りよう』という結論を出したのだが、実行に移そうと腰を上げた瞬間に襟首を掴まれ強制的に座らされた。当然、それをしたのは心なのだが、彼女に次が何かを言う前に無言で箸に掴まれた料理が突き出された。
(えーと‥‥え? ちょっと待て、これって喰えって事か?!)
 次、混乱。当たり前だ。心も何か言えば良いものを、顔真っ赤にしつつ無表情でそんな行動を取るものだから唐突に映る。だが、この状況において余計な事を言ったり食べなかったりする男に贈られる言葉は『最低』か『ヘタレ』だ。そこまで次も頭が悪いわけではなく、大人しく出されたものを口に入れた。
「‥‥どう?」
「‥‥変わらねえな、お前の飯」
 色気の無い互いの言葉。だが、これでも少しは前進したのだろう。
 尚、心の弁当の中には一枚の紙が入っていた。
『食べさせ合ってネ。がんばっ』
 語尾に星型の印まで付随された伝言。内容はともかく書き方が神経逆撫でを狙っているとしか思えない。秋桜が入れたものだが、即心の手により握り潰された。

●笑顔
 日暮れ時。
 一日の二人の様子は遠慮がちであるものの、上等の部類であった。
 花見の席から甘味処や都の名所などを周り、職場にも顔を出した。気性の荒い職人達に散々冷やかされていたが、変に遠慮されるよりは二人とも居心地が良かったようだ。
 次は饒舌だが心はその真逆。傍目から見て少々妙にも見えるが、当人達はそんな事は気にしない。全ての工程を終え、次の部屋の前に戻った時もその様は変わらない。
「‥‥じゃ、仕事頑張って」
 これがもう少し進んだ関係なら部屋に泊まるところだが、そこまで至っていないのでここで終わりだ。区切りとなる心の台詞は何とも簡素である。
「‥‥もう少し待っててくれよ。迎えに行くからさ」
 対して、次の台詞はほぼ直球だった。だが、それ以上続けられないのが未熟故か。
 ――それで、逢引は終わりとなった。

「なー、これって上手くいったのか? 俺、よくわからねーんだけど」
「元々大きな前進を望んだものではあるまい。別れ際にあれだけ言えれば上等だろう」
「ちと勿体無いけど、あれくらいで丁度良いんや。今度はもう少し前進するやろ」
「‥‥幼馴染と言うのは中々難しいものですね。心さんも言ってましたが」
「近すぎますからね。ましてあの二人は元々家族だったわけで」
「そこから恋人に変わる‥‥ん〜、良いですねぇ」
「し、しっかり! 目が違う所に旅立ってますっ」
 一部、本日二人を見守っていた方々がそれぞれ色々言っているが、概ね上手くいったと言えるだろう。

 標が夜に部屋に戻ると、既に心が戻っていた。今日の顛末報告は既にギルドで受けている。明りも灯さない部屋の真ん中で無表情の少女が呆然としているのだから不気味に見える。思わず標は、何処か友人の家にでも逃げようかと思ったほどだ。
「あんたね‥‥明りくらい付けなさいってば」
 勿論、実行はしない。聴く限り問題無く終わったのにこの様子は何事かと明りを付けた標は、照らされた義妹の顔を見て何とも言えない顔になった。
「あー‥‥あんた、そういう顔も出来たわけね」
 満面とは言えないまでも、紛れもない笑顔。この状況で見ると不気味なのは変わらなかったが、ほぼ無表情で通していた義妹の笑顔に、標は苦笑いで返した。