【負炎】撲殺の女王
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/29 03:23



■オープニング本文

 ぐしゃり、と湿りながらも固い音を立てて砕かれる。崩れ落ちる最後の一人。
「‥‥さてと、戦えるのはこれで最後?」
 血濡れた金属棒を肩に掛け自分でも分っている事を態々言いつつ、ぐるりと見回す少女。
 その視線に晒された者の内、仲間は軒並み頷きを返し襲われた側は絶望の眼差しで少女を見る。
 少女とその仲間は、所謂強盗団だった。それも緑茂の里へ運ばれる物資のみを狙う。それ以前は姿形も無かった所を見ると、余所から流れてきたのか――
「さて、んじゃ半数はそこの哀れな人達を近場の街か村の近くに送ってって。
 残り半数は、戦利品運んであたしと帰宅。言っとくけど、その人達に手を出したり戦利品に手を付けたら駄目だよ」
 妙に明るく言いつつ、五十名近い仲間に指示を出す少女。指示された仲間達は軍人の如く居住まいを正し、襲われた側は奇妙な指示に呆然。
 これが、この集団の奇妙なところである。
 そもそも当初は、強盗すら働いていなかった。当時の人数は、現在の半数以下。今の彼女達と同じような集団が幾つかあったのだが、それを悉く潰していったのが当の彼女達だった。付近を通行する旅人や商隊は歓迎した。ひょっとしたら、周辺住民で結成された自警団なのかも、とも考えた。
 それが反転したのがひと月ほど前。
 人数を倍以上に増やした彼女ら、今度は自分達が潰してきた者達と同じ事を始めたのだ。その中には、彼女らに潰された集団に所属していた者が多数見受けられた。
 ただ、付近は以前よりも安全とも言えた。
 何せ彼女ら、前挙のものしか襲わない。しかも護衛が多すぎたり開拓者達を護衛に付けている場合は、姿すら現さない。個人は全く襲わず、襲われた商隊も護衛を殺害して物資は奪うが、他には決して手を出さない。逆に、安全な場所まで護衛してくれる程だ。
 また、物資の扱いも奇妙である。
 一部を周辺の村々にばら撒いたり、捨て値で余所の国に売り捌いたり――義賊気取りなのかもしれないが、それにしてもやり方が奇妙すぎる。

 ――軍や役人も放置していたわけではない。だが、相手の人数が人数であるし国情勢の関係上、此方は多くの人数を割けない。そして、相手の頭である少女が、ただの強盗ではないように思えたのだ。
 半月ほどの周辺調査の後、彼女らの潜伏場所が判明した。
 山中に集落を築き、普通に生活していたのだ。自分達で作ったのか乗っ取ったのか、或いは元々彼女達の集落なのか――それは不明である。
 しかし、四基の見張り櫓や各所に設置された篝火、集落内を監視するような中央の大きすぎる建物。住民の視線は鋭く、ただの集落ではない事が遠目にも分った。

「何やってるんだろうね、あたしは――」
 集落の中央、最も大きな建物の中で一人、巫衣の少女は溜息を吐いた。
 彼女は、この国の民ではない。もっと南の山中にあった隠れ里の者だ。その場所は、自身の手で既に壊滅させた。それが原因で逃亡生活者となり、挙句こんな場所で強盗団の頭を勤めている。
 ――逃げている最中に、知りもしない誰かに唆されたのだ。そもそも姿すら記憶が曖昧だ。今やっている事を唆してきた、という事はアヤカシなのかも知れない。ただ、どうでも良い。
「犯罪者一族の最後の生き残りは、やっぱり同じ道に行きましたよー‥‥と」
 村人や従妹を殺し、今も多くの人間を殺し続けている金属棒を弄びつつ、少女はそんな事を呟いていた。


 ――後日、開拓者ギルドに彼女ら強盗団の討伐依頼が通達された。 


■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
月城 紗夜(ia0740
18歳・女・陰
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
紅蜘蛛(ia5332
22歳・女・シ
夜魅(ia5378
16歳・女・シ
隠神(ia5645
19歳・男・シ


■リプレイ本文

●もぬけの空
 質はともかくとして、明らかに数が勝っている上に統制も取れているであろう相手に対してどう対処するか。
 一般的にはやはり、何かしらの策を用いる事になるだろう。
 奇異でありかつ周到な行動を行う強盗団。
 八人という開拓者の数に対し、彼らの数は五十人。
 今回の依頼は、そうした背景を持つもの。
 深夜というには遅く、早朝というには早い。そんな時間。
 もう少しで陽が昇り始める時間帯に彼らは動き出した。

 依頼の討伐対象になっている強盗団が暮らす集落。人の背ほどの柵に覆われたそこの出入口は南北に二つ。
 そこに現れた影は、表情を動かさないまま違和感を口にする。
「‥‥解せぬ。一体、何時気付かれた?」
 影――忍装束の男。隠神(ia5645)という名の彼は、疑問を行動に直結させず音一つ無く柵を跳び越えた。続き、素早く投げ放たれる縄。後に続く仲間の為のものだ。そして、幾ら無防備とは言え入口から堂々と入る気など無い。
 もう一方の入口でも同じ展開、そして同じ疑問を抱く影。
「出入口に見張りが居ないのはともかく、やはり櫓にも居ない。まさか――」
 伝え聴いた警戒網とは違う状況に、危機感を抱く細身で氷の様な印象の少女――夜魅(ia5378)。
 そもそも、外から監視している時点で違和感はあった。
「――此方も同じか。夜魅殿、よもやこれはやられたか?」
「分りませんが‥‥確かに人の気配が全く無い。私達のような者でない限り、ここまで完全に気配を断つのは無理ではないかと」
「――どういう寸法か分らないけど、もぬけの空になってるわよ。ここ。後続も付いてこないし、やられたかしら」
 合流した二つの黒い影に近付く深紅の影。どこか無機的な雰囲気である隠神や夜魅とは違い、肉感的なシノビ――紅蜘蛛(ia5332)。明らかに裏を掛かれた状況なのだが、彼女は楽しげである。
「予想以上にやるじゃない、ここのお頭さん。依頼書で見る限りでも中々良い感じだし。
 まだこの辺りに居るかも知れないから、皆と手分けして探さないと」
 雑魚はどうでも良いが、頭である少女だけは確保しなければならない。完全に出鼻をくじかれた格好だが、挽回はまだ出来る。五十人の大所帯である、逃げたとしても痕跡は充分に追える筈だ。
 三人が示し合わせたように頷いた瞬間、集落外の四方八方から火矢が降り注いだ。
「――何と?!」
「逃げるどころか‥‥逆に嵌められたという事ですか?」
「は――やってくれるじゃないのよ」
 ――既に、集落内の建物が炎上を開始していた。早すぎる――既に着火の細工がされていたのだろう。

「志体持ちに人間が勝つ為にはまず、先の先を取れ――ってね。
 ――残りの連中には、もう接触したのかな?」
 集落の外、火矢を放った十五名の部下を振り返り巫衣の少女――差実は笑う。それに対し、姿勢を正す部下。
 彼女が来て以来、彼らの生活は一変した。恐らくは良くなったのだろうが――
「集落内の三人が出てくるようなら足止めして。とにかく接近だけはさせない事。障害物を間に必ず置く事。逃げる時は一斉に、全員別方向に逃げて。逃げ延びたら、とにかく近隣の村に保護を求めて。密告までしてくれるんだから、匿うくらいはしてくれるでしょ」
 差実達が襲撃に気付いた理由はそこに尽きる。近隣の村から密告があっただけの話だ。
「さて、山火事になるかどうかは運次第――きばってね、開拓者さん達。山火事は怖いよー。
 ‥‥それにしても巫女、か」
 従妹、自身の服装――何にせよ、自分の人生には巫女が絡むものだと苦笑いする差実だった。

●三重の包囲網
 三十五名で行われる闇の中の包囲網。
 ここまでで見た限り、一重十名で三重。残り五人が外側で指示を出している幹部だろう。
 最も内側が五人を囲み、牽制。押しては退き、退いては押すという基本を忠実にこなしている。これを全方位からやられるのだから始末が悪い。
 そしてその後ろから投石や、油の詰まった袋などが時折投げられる。更には最も外側からの火矢も合わさって、これの対処が最優先の為に大きく出る事が出来ない。
 彼らにとっては慣れた場所であり、開拓者にとっては不慣れな場所。そして山と木々という大立ち回りの難しい地形が、更に状況を膠着させていた。
 そしてもう一つ。
「あははっ、いいねえ! まさか只人相手にこんな良い気分になれるとはね――でも、まだ足りないかなあ?!」
 高揚感で笑う霧崎 灯華(ia1054)。服のお陰でそれほど目立たないが、その下はまだ治り切っていない傷でぼろぼろである。だが、その痛みすらも正の方向に振り向ける。
 だが、当人がどうあれ怪我人である事に変わりは無い。それも重傷者。必然的に灯華は庇われる立場になっているが、当人もそんな事は百も承知。そこで折れるような心など持っていない。
「それにしてもこの連携――下手な軍隊より余程優れているんじゃないのかな?!」
 シノビ三人が先行した為、この場の前衛は二人しかいない。その内一人、アルティア・L・ナイン(ia1273)。彼の剣技は早さに重きを置くが、この状況ではそれが生かしきれない。突出し過ぎた一人を漸く斬り、思わず叫ぶ。
「どれほど統制が取れていたところで強盗には違いありません。それほどの才がありながら義に反した道に進む愚かさ‥‥」
 ――ここには居ないらしい少女に対し不快を露わにする、着物にエプロンスカートという使用人の様な姿の秋桜(ia2482)。明らかにこの場にそぐわない姿だが、れっきとした開拓者。彼女もまた、漸く一人を黙らせたところ。これで内側の包囲は後八人。
「‥‥一つ、聴く、わ。何故、私達を、事前に察知しながら、逃げなかった、の?」
 あくまで淡々と、火矢を払いのけながら面に傷を刻んだ少女が問う。彼女――月城 紗夜(ia0740)は答があるとは思っていなかったが、意外な事に後方の幹部から答が返ってきた。
「頭には逆らえねえしな‥‥」
 短い言葉だったが、それで充分。それには敬う色と畏怖の色が半々。
「‥‥成程」
 紗夜はそれだけで何となくは理解出来た。彼女とその家族を襲ったアヤカシに対する当初の感情に近いだろう。要は絶対的な力に対する屈服感――それがアヤカシであるか、そして人の形をした化物かは無関係。
「でも、立ち向かう、意思を持たなければ――」
 ――そして挙句には他者を害する方向に向かうのであれば、それはアヤカシやその化物以下だ。
「火が――」
 癒し手として灯華の補助をしていた沢渡さやか(ia0078)が、短い問答の中で集落に火が上がっているのを目に留め絶句する。
 確かに彼女らの作戦の中でも火を使う可能性はあったが、それは最悪の場合である。シノビ三人も異常には既に気付いているだろうから、この火災は別の手により起こされたものであるという事。なら誰が起こしたのかといえば――
「‥‥貴方達‥‥まさか」
「頭と残りの連中だろうよ。
 その辺の村で注意に周ってた巫女さんってのは、あんただろ? ま、俺らからすりゃ山ん中で火を付けるのもどうかと思うが、背に腹は代えられねえしな」
 再度の絶句、さやか。唯一、彼女は山中の集落に火を掛けるのに難色を示した。だからこそ、最悪の場合を想定して近隣の村々に注意を促して周ったのだ。考え方と行動はむしろ正しい。
 だが、それが彼らに漏れているという事は――
「密告だよ。そう真っ直ぐなのは悪くねえけどな」
 唇を噛むさやか。状況は分った――でも、やった事が間違っているとは思わない。山中で火災を起こす事の恐ろしさを感じ、伝え裏切られたのならそれでも良い。巻き込まれた仲間には幾ら謝っても足りないだろうが、なら落とし前は自分で付ける。
「と、なれば多少無理しないと拙いよね。火消ししなきゃいけないし」
 足を止め、アルティア。剣の構えが変わる。
「そうですね‥‥わたくし達にも落ち度があったとはいえ、その尻馬に乗るような輩には代償を払って頂かないと」
 同じく秋桜。手甲を打ち合わせ、そして一呼吸。
「因果応報‥‥行為は行為に還る‥‥加減は、しない」
 一度目を閉じ、符を抜き出す紗夜。
「怪我人だからって、これ以上舐められても困るのよねぇ――踊ろうか?」
 同じく符を抜き出し笑う、灯華。
 最後に無言で頷くさやか。これで全員の腹は決まった。
 ――そして、一斉に弾けた。

●女王の呪縛
「我らの相手取るには数が足りんよ」
 隠神の両の手より放たれる手裏剣。これは所詮布石。強盗にしてはマシな動きでそれを避けるが――
「‥‥残念でした」
 ――手裏剣に追随した夜魅がその眼前に音も無く出る。目を剥いた強盗二人、あっさりと刀の露に消えた。
 それでも、必死に距離を取ろうとする彼ら。だが、彼らには差実も幹部も居ない。指揮者が居ない強盗など、開拓者の敵ではない。
「あら、私の相手はしてくれないのかしら?」
 背後を取る紅蜘蛛。媚惑の声と共に走った小刀は、一人の首筋を切り裂いて息の根を止める。
 明らかに勝敗はこの時点で見えている。だが、それでも衰えぬこの気迫は何だ? 捕まって処刑されるなら、ここで死んだ方がマシという事か?
「実に解せぬ。だが、死を望むのであれば与えよう。どの道、結末は同じだ」
 再び放たれる隠神の手裏剣。今度は布石ではなく、狙ったもの。それは、言葉通り一人の眉間を直撃し、死を与えた。
「アヤカシに唆された、とか言い訳すれば少しは酌量されるかも知れないのに。ほんっと、馬鹿ねえ」
 軽やかに小刀を振るいつつ、艶然とした笑みに僅かな憐憫を乗せる紅蜘蛛。だが、刃に憐憫は無く、今度は二人が崩れ落ちる。
 ――それはもはや、戦いではなくなっていた。

 不幸中の幸いなのか、大降りの雨が降り始めていた。この調子なら、集落の火災も山に広がらずに済みそうだ。
「‥‥何で、こんな死に顔なのです?」
 倒れ伏した強盗達の顔を確認し、夜魅は呟く。
 彼女は本質的には人を殺す事に向いているわけではない。公私を分けられるだけの話。その夜魅からして、彼らの死に顔は不思議でならない。
 ――全員、どこか解放されたような穏やかなものだったからだ。

 最初はほぼ互角と言って良かった。だが、最初だけ。開拓者が全力で攻め手に周るとなれば、均衡は簡単に崩れる。
 アルティアの刀が、秋桜の拳が包囲を打ち崩していく。
 灯華と紗夜が放つ式が外周を牽制し、出来る限り飛び道具の使用を阻む。
 開拓者にとっては幸運、強盗にとっては不幸な事に、大雨襲来。これで火矢による炎上は気にしなくて良くなった。
 そして、4人の中央でさやかが舞いによる力や癒しを運ぶ。目立つ動きから、彼女は一番標的になり易い。現に、矢の幾つかが刺さっているが、さやかは頓着しない。
 ――それでも強盗達は抵抗を止めない。こうなると後に待つのはただの潰し合い。だが、潰し合いと言うのは互いの力が拮抗している場合のみに成立する言葉。
 同じく、これも既に戦いと呼べるものではなかった。

「怪我をしてた方が丁度良かった‥‥って感じかな。あいたた‥‥」
 流石に限界か、殲滅終了後に膝を付く灯華。その彼女に慌てて駆け寄るさやか。
「間違えた力の使い方の結果はこんなもの‥‥頭は逃げたのですか?」
 只一人、重傷を負いつつも意識が残っている幹部に拳を突き付け、尋ねる秋桜。それに答え、口を歪ませる幹部。
「‥‥ああ。もうとっくにどっか行ってるだろうよ」
「君らがその頭を恐れ敬っているのは見て分る。だけど、もう居ないのなら何故ここまで抵抗したんだい?」
 同じく刀を突き付け、アルティア。この依頼は解せない事ばかり。幹部の答えもまた、同じようなものだった。
「あんたらにはわかんねえよ‥‥確かにあの人は怖いさ。でもな、俺らの様な人間にゃまるで女王様みたいでもあったんだ。
 だから、あの人が逃げる時間は稼ぐ。皆で決めたんだ」
 どこかすっきりした表情で幹部は言うと、隠し持っていた小刀を取り出した。囲む者が反応する間も無いまま、その切っ先は幹部の喉を抉っていた。
「あ、ばよ‥‥死体の前で笑いやがれ、ク、ソが‥‥」
「‥‥どんな、言葉を並べても‥‥行った、行為は、消えない。見合った、罰を死後に、受けるのね」
 事切れた幹部に贈られた言葉は、紗夜の達観したものだった。

●人という名の化物
 頭である差実には逃げられたが、強盗団は壊滅した。依頼の達成としては問題無い。だが――
 まだ降り続く雨の中、焼け跡が残る集落の中をさやかは歩く。火が残っていないか――そして何より、自身の行動の結果を見る為に。
「‥‥貴公の、考えた事そのものは、間違っていない。そう、沈むのものでも、ないと思うわ」
 掛けられる声。振り向いた先には、紗夜の姿。
「‥‥でも、行動には問題がありました」
「行動にも、問題は、無い。状況が悪かった、としか私には、言えない」
 他の仲間は、集落周辺で炎上が無いか確認しているのだろう。紗夜だけが戻ってきたのか。
「‥‥成程ねえ、巫女ってだけで中身はあの子とまるで違うわけか」
 突如掛けられる聴き覚えの無い声――いや、紗夜は何処かで聴いた覚えがあった。
「‥‥差実‥‥だった、かしら?」
 ここより南にあった、隠れ里。そこの住民を皆殺しにして消えた女王が、紗夜とさやかから離れた木の枝の上で笑っていた。
「顔に特徴あると覚えやすいね、あんたの事は覚えてるよ。
 ‥‥で、そこで止まってね。それ以上進むと逃げるよ?」
 踏み出しかけた二人を見切り、差実は告げる。その距離は、明らかに力の行使の限界距離を把握してのものだった。
「貴方が‥‥頭なのですか?」
 依頼書の時点で頭が少女とは分っていたが、実際に目の前にすると違和感は拭えない。さやかの確認も当然だろう。唯一、差実の持っている金属棒だけがただの少女で無い事を告げていた。
「それで――逃げたと思えば、何の、用?」
「ん? 今回はどんな連中が来たのか見に来ただけだよ。
 ――んじゃま、機会があればまた会おうね。中途半端な超人さん達」
 紗夜の問い掛けに、屈託の無い笑いで応える差実。その笑みのまま、彼女は雨の中山中に消えていった。
「沙夜さん――あの子は‥‥?」
「詳しくは、知らない。でも、志体持ちを嫌悪している事だけは分る」
 でなければ、『中途半端な超人』などという言い方はしないだろう。ただ――
「只人の身で――人である事を、やめた者に、言われたくは、無い、わね」
 沙夜の評価を聴きつつ、さやかは差実の笑みや瞳を思い出す。
 ――確かにあれは、人でありながら人である事をやめた者のものだった。