迫り来る赤い茸
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/27 22:44



■オープニング本文

 秋は食べ物が美味い。
 ――いや勿論、食べ物そのものは一年中美味いであろう。
 ただ、成熟する作物が多く、結果として収穫物が多い事。地域にもよるが、熱くもなく寒くもない気温から寒いと言える気温へ移行していくので、常温から高温のものまで様々な料理が楽しめるという側面もある。
 とある村があった。
 この村の特産品は茸類。食用薬用毒用など様々あるが、今回の件は食用の話である。この時期の茸というと、椎茸、占地、松茸辺りが主になるだろうか。
 そして、その村の茸が非常に美味いと聴き、何処かのお嬢様がお付きを連れて現れた。
 別にそれ自体は構わない。彼女達に限らず、そういう目当てで来る旅人も居るしそれ相手の宿屋や食堂などもある。自分で採りに行きたいというのであれば、山に長けた村人を案内人として付ける事もある。
 本来であれば常客になるかも知れないそのお嬢様の来訪を当初は喜んだ村人だったが、直ぐにそれは迷惑な対象へと様変わりした。
 このお嬢様、元来そういう性格なのか親の教育が悪かったのか、非常に我儘だった。やれ宿が狭いだ汚いだ村が田舎臭いだの言いたい放題。尤も、十代前半の子供と言える年齢の相手であったしお付きの老女が諌めれば基本収まったので、これ自体もそこまでは問題ではなかった。
 問題だったのは、山に出たアヤカシ――らしきもの。
 お嬢様の来訪後、保管してあった茸を使った料理を振舞おうとしたのだが――

「採れたてじゃないと嫌!!」

 ――などと抜かした。お付きの諌めも、この我儘には通じなかった。
 仕方ないので、最も山に長けた者を収穫に向かわせた。別に大した労力でもない。
 が、半日後、その者がほうほうの体で山から逃げ帰ってきた。彼曰く――

「火炎茸に襲われた」

 ――との事。意味不明である。
 詳しい話はこう。
 山に入った彼は、張り切ってお嬢様の為に茸を探していた。ここはやはり、松茸を探すべきだろうと考えていた。
 そして松茸を見付け収穫しようとしたところで、何やら脇の方の茂みでがさがさと音がする。
 獣だろうか? 猪や狼の類の可能性もある。
 だが、そこから出て来たのは予想の斜め上を行くモノ。
 彼が言っていた、火炎茸である。生えていたわけではない、文字通り歩いてきたのだ。
 因みに、火炎茸というのは文字通り真っ赤な茸である。色や形状からその名前が付いたのだが、この茸、毒茸である。それも異常なまでに毒性の強い。毒性の詳細な説明は避けるが、茸本体に触れただけで皮膚が爛れる事もある程だ。
 話を戻す。
 その状況を絵にでもして頭の中に浮かべてほしい。はっきり言って、変だ。
 だが、実際にその場に居合わせた彼からすれば恐ろしい光景。現れた火炎茸はどんどん数を増やし、最終的には二十本程になったそうだ。そして次の瞬間、一斉に彼の方に駆け出してきた。
 当然、彼は逃げた。そしてどうにか村に辿り着いたという事である。
 ――何と言うか、笑っていいのか怖がっていいのか、よく分らない話である。絵面が変すぎる。
 だが、そういった要素を抜きに考えれば危険極まりない相手である。それに、これでは今後、迂闊に山に入れないし村が襲われる可能性もある。
 村人が考え込む中、忘れられていた先のお嬢様が言い放つ。

「それはアヤカシかも知れないから、開拓者呼んだら? お金なら出すよ。採れたて茸食べに来たのに、そいつのせいで食べられないんだから!!」

 理由はともかく、申し出は有難い。
 そういった次第で、開拓者ギルドに茸退治という何とも不可解な依頼が舞い込んだのだ。


■参加者一覧
白眉(ia0453
27歳・女・巫
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
深凪 悠里(ia5376
19歳・男・シ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
介(ia6202
36歳・男・サ
方丈 慧那(ia7365
15歳・女・志
かえで(ia7493
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●茸狩りの経緯
 さて、移動する茸を想像しろと言われたら何を想像するだろう。
 人間の身体に無数の茸が貼り付いた不気味なモノを想像する人も居れば、童話のように可愛らしく擬人化された姿を想像する人も居ると思われる。
 で、今回の件はどちらかと言えば後者に近いわけだが――
「非常に楽しみです。歩を進める赤い茸の化生‥‥戻ったら、早速描き出しとう御座います」
 ――そういうモノは想像の域に留めておく内は楽しいが、実際に現れたとなればそうもいかない。まして明確な敵性である。だが、世の中色々な人間が居るわけで、特徴的な白い眉が名を作る彼女――白眉(ia0453)のように寧ろ見るのを楽しみにしているような人物も存在する。扇子で面を隠す彼女は、実に期待に満ちていた。
「芸術感性を刺激されるのも良いが、相手は火炎茸だ。強い弱い以前に、毒性が洒落にならない。興味があるからと言って、迂闊に触ったりはしないようにな。
 ――しかし、また山か」
 進む山道を確認しつつ、白眉に注意を促す男。言葉に知識が伺えるが、それもその筈で彼は開拓者であるが同時に医師でもある。その職業の関係上、彼――介(ia6202)の知識の中には、誤食する事の多い茸類の知識もあった。
 因みに、最後の呟きはここ最近山登りが多かったのが理由である。
 介の言葉を受け、一行の中でも最も小柄な少女――方丈 慧那(ia7365)が口を開く。
「二十も群れるような相手、ボクに任せておけば充分さ。しかし、火炎茸が毒茸だとは知っているが‥‥どの程度のものか、教えてくれ。怪我をするよりも毒の方が遥かに危険だ」
 性別や童顔とは反比例した物言いではあったが、慧那は正しい。請われた介は、そこまで詳しくはないが、と前置きしてから説明を始める。
「依頼書にもあったが、触れただけで肌が爛れる程。
 喰った場合にはまず消化器系がやられる。その後は主に神経系をやられたり全身の皮膚が糜爛を起こす。最後は消化器や呼吸器の不全でお陀仏になる事もあるな。因みに致死量だが‥‥そうだな。調理前の米一合五十分の一程度と考えておけ」
 要は猛毒の類であるという事。説明を受けた慧那は口にだけは入れられないな、と分析。
「まあ、見た目が毒々しいですから誤食する人は余り居ないと思いますけどね。紅薙刀茸というよく似た食用茸があるので、それは注意した方がいいですが」
 付け加えられる補足。穏やかな物言いと人畜無害を絵に描いた様な笑顔。農家の出である彼、菊池 志郎(ia5584)の言葉はどこか懐かしげ。故郷を思い出しているのだろう。貧しくはあったが、それでも故郷は故郷である。
「茸は紛らわしいものが多いからな‥‥俺も兄に注意された事がある」
 同じように何かを思い出していた様子の御凪 祥(ia5285)も同調する。余り感情が籠らない口調ではあるが、どこか懐かしむ色があった。ただ暗い色も同時に含んでいるのは、その兄が既に故人だから。
「ま、化け茸はともかく――あのお嬢の本命はきちんとした茸なんだろうから、どうせならそっちも狩って行かないか?」
 この依頼、村名義のものではあるが報酬の出所は滞在している何処かのお嬢様である。依頼主が其方であるなら、可能であれば叶えてやっても良いだろう。そう提案したのは、端正な容貌と細身の身体――一見女性と見間違うが、紛れも無い男性である深凪 悠里(ia5376)。
 当然ながら疑問の声も出るが、それは口にした設楽 万理(ia5443)自身が補足した。
「そうは言うけど‥‥間違えたら悲惨よ? お金出してくれる人の機嫌損ねても――あ、そういえば専門家が村に居るんだから、検分してもらえば良いのね」
 万理自身は山に入る事が多いので茸の知識もそれなりにあるが、流石にそれを専門とする程ではない。なら、専門とする人間に任せれば良いだけの事だ。
「どうせ茸狩りなんだから、どっちも狩っちゃえば良いんだよ。襲われた人も、茸狩りの最中に襲われたわけだし」
 此方も山中の経験が深いかえで(ia7493)。飄々とした物言いであるが、的確な意見である。探すにせよ此方からおびき寄せるにせよ、基本的には足を使わなければならない。なら、その最中に本当の茸狩りをする方が時間に無駄も無い。
 実を言えば、かえで自身は普通に策敵をした上で見付かりそうにないのであれば、茸狩りを願い出て意図的に孤立しアヤカシを誘い出すつもりもあった。何故、そういう発想になったのかと言えば、彼女が複数の人間と触れ合う事に慣れていない為なのだが、その辺りは胸の中に秘められている。
 どちらにせよ、仲間内からその発想が上がった以上は苦手でも付き合わなければならない。
 ――そういった次第で、二重の意味での茸狩りが始まった。

●茸現る
 さて、本来の意味での茸狩りである。
 茸の生育は植物やその遺骸、ないしは動物の死骸や排泄物などで行われる。また、一般的に日陰や湿地に生える。
 そして食用茸と毒茸の判別であるが、これは経験と知識が必要なものであるが、それを持ってしても不確実であるのが現実。様々伝わる判別方法は、全て迷信以外の何者でもないので信じてはいけない。
 それはともかく、まずは最初に目撃された場所に向かったわけだが――
「‥‥森の中で使うものじゃないな‥‥」
 眉頭を抑えて慧那。『心眼』の連続使用が響いてきたのだ。
 『心眼』は使用者周囲の生命体を感知するものだが、それほど便利なものではない。何故かと言えば、『感知した生命体が何であるか』という判断が一切付かないからだ。森は生命の宝庫――至る所から反応が来てしまった。勿論、使い方を考えれば効果は絶大なのだが。
「シノビ二人で先行してくれているんだし、こっちは余力残しておいた方がいいわよ。
 ――でも、この季節の山っていいわね、気温も丁度良いし虫も少ない。アヤカシ退治じゃなければもっと良いのに」
 とは万理の弁。石清水と梅干で水塩分を補給しながらの彼女は、流石に山慣れしているようだ。
「まあ、そうだな。それに、金を出してくれるお上には悪いが、此方も命懸け。日数云々は我慢してもらって、安全に行くべきだな」
 介が山に入る前に見たお嬢様の様子では、多少日にちを跨いでも問題は無いだろう。何気に我儘お嬢、村に溶け込んでいた。
 それに続き、口と鼻まで襟巻を上げつつ白眉。
「そういえば毒茸の胞子というのは吸っても平気なものなのですか? 一応、対策は致しますけど」
「相手がアヤカシである以上、油断は出来んが――少なくとも、毒茸の胞子のみで死人が出たという話は聴かないな」
 白眉の疑問に、一行の中で最も長身である祥は、その背を生かして紅葉の美しい葉を物色しつつ答える。勿論、周囲の警戒は怠っていないが、件のお嬢に茸以外のお土産でも持って行ってやろうという彼なりの心遣いだった。
 その時、それまで黙っていた慧那が顔を顰める。
「――何だ、この妙に集まっている反応は――?」
 更に行使した『心眼』に引っ掛かった妙な反応――身を寄せ合うような複数のもの。しかも近い――
「はっ――いよいよお出ましですか? 先行しているお二人が引き当ててくれましたかね」
 何を考えていたのか、意識を違う方向に持って行っていた白眉の表情に期待が満ちるも、慧那は首を横に振り反応があった方向を示す。
「いや‥‥二人が行っている方向じゃない」
「つまりなんだ。囮が俺達になったという事か?」
「来てくれたのは良いけど‥‥中々上手くいかないものね」
 素早く周囲を確かめる介と、弓に矢を番えながら呟く万理。
「‥‥探す手間が省けたのは何より。極力一日で片付けたいしな」
「茸狩り‥‥何か違う気もするが‥‥まあ、これも狩りか。うん」
 槍を構え一歩前に出る祥、仕込み杖を腰溜に構える悠里。同時に、示された方向の茂みから真っ赤な形容しがたい何かが顔を出した。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――
 茂みから次々に飛び出してくるそれ。瞬く間に六人の目の前を覆い尽した赤い茸。何処から何処までが個体か識別がし辛いが、恐らく七体。
 ――わきゃわきゃ。
 何と言うか‥‥そう表現するしかない光景である。

 一方、先行してアヤカシを誘い出す役割を負ったシノビ二人組だが。
 ――わきゃわきゃわきゃわきゃわきゃ――
「いや、何て言うか多すぎじゃないですかぁ?!」
「多いだけならともかく、何かとっても気持ち悪いっ?!」
 とりあえず逃げた。志郎とかえで、絶賛逃走中。一応、後ろを離れて歩く六人の方へ誘き寄せる形になってはいるので問題無いのだが、奇妙な形をした真っ赤な茸が十三体、全力疾走で此方を追ってくるのである。挙句に毒茸。
 想像してみよう、普通逃げる。
 ここに至るまで志郎と距離を置いていたかえでであったが、この状況ではそんな余裕も無い。良いか悪いかはともかく、仲良く全力疾走。
「と、ところで俺、物凄く嫌な予感がするんですけどっ!」
「なな、何がっ?!」
 依頼書に記述されていたアヤカシの数は二十。二人を追う数は十三。引き算で、残り七は何処に行ったのか。
 勿論、彼らが常に団体行動を取っているとも限らないので、数が合わない事自体は問題ではない。だが、たかが一人の人間に対して彼らは二十という数で対応した。それを鑑みれば――
「「「「「「「「あ」」」」」」」」
 開拓者、アヤカシ共々合流完了。
 位置関係としては

 茸7・開6・開2・茸13

 こんな感じ?
 ――何とも言えない静寂の中、赤い茸がわきゃわきゃと間合いを詰めてきていた。

●茸舞う
「ち――意図的かどうかは知らんが、挟み討ちしてきたか――!」
 舌打ち一つ、意識を戻した祥の槍が茸の群を薙ぐ。見た目に似合わぬ素早さで避けようとする茸だったが、密集していたのが災いして一体逃げ遅れ、穂先に裂かれ消えていく。逃げた先には、杖より抜き放たれた白刃が迫る。
「流石に茸だけあって脆いね」
 悠里に斬られた茸がまた一体、消えていく。これははっきり言って弱い。動きは敏捷だが、強度が無さ過ぎる。
「足はどうなっているのでしょうねぇ‥‥」
 歩いたり走ったりする以上は足がある。その形状に興味を持った白眉が身を乗り出すと――
 わきゃ。
 一体、あろう事か跳躍。白眉の顔目掛けて跳んできた。
 流石に触れただけで危険な毒茸相手に顔を触れさす気は無い。白眉は素早く扇子で顔を覆い、体当たりを凌ぐ。予想外に重い衝撃と共に弾かれる茸――
「見えましたわ! 予想外に逞しい足です!!」
「喜ぶな! 化け茸の足なぞどうでもいい!!」
 あれが直撃していたら、と思わず身構えた介は全力で突っ込む。
「ま、数だけ集めても無駄だって事だね」
 位置を入れ替え、かえで達と並んだ慧那。細かい動きと手数で、数の多い側を牽制。見る限り、特殊な能力は何も持っていない最下級のアヤカシだ。ならば身体に触れさせないようにすれば完封も可能だろう。その彼の動きに翻弄された茸に、狙い澄ました志郎の手裏剣が突き刺さっていく。
「軍手じゃ少し投げにくいですね――っと?!」
 飛び道具を警戒したのか、一体が慧那の脇を通り抜けて志郎へ跳躍する茸。だが、到達する前に矢が突き刺さりそれは消えていった。
「幾ら弱いとは言え、アヤカシはアヤカシ――気を付けてよ」
「いや、助かりました。毒で顔に妙な特徴付けられたくないですからね」
 次の矢を弓に番えながら言うかえでに、変わらぬ笑顔で返す志郎。日常では少々問題もある容姿だが、それでも彼がここまで生きてきた武器の一つである。そして、容姿云々以前に人の輪に違和感無く溶け込める姿は、かえでにとっては最も欲しいものなのかも知れない。
「お肌に爛れが残るなんて最悪だもの――ね!」
 志郎と観点は違うが、意見は同じく万理。語尾に力を込めて矢を放つ。力により加速された動きで更にもう一射。それは前衛の死角に入っていた茸を直撃。また一体、消滅。
(ふむ‥‥この様子なら俺の出番は無さそうだな)
 胸を撫で下ろす介。癒し手としては出番が無い方が良いに決まっている。気は抜けないが、慧那の言う通り数だけ揃えても限度と言うものがある。時間さえ掛ければ、問題無く殲滅出来るだろう。
「あら‥‥? あちらはちょっと内股気味‥‥性別があるのですかね?」
 ――約一名、舞による補助を行いつつも茸観察を止めない人物も居るが、それだけ余裕があるという事だろう。
 ‥‥多分。

●茸の夜
 それから暫く後、わきゃわきゃと群れていた火炎茸達は挟み討ちも空しく全て消滅させられた。意外な素早さと全身が毒というと合わせ技は危険であったが、巨大化したわけでも硬化したわけでなく、特殊な力を行使するわけでもない。身体を作るにしてももう少しマシな対象が無かったのかと八人は思ったが、非生物の姿すら取る事もあるアヤカシにそういう理屈は意味が無いだろう。
 そして、念の為に他の個体が居ないかを探しつつ本来の茸狩り再開。
 結果から言えば、アヤカシ討伐よりも此方の方が根気と体力を必要とした事を付け加えておく事にしよう。
「‥‥まあ、素人さんにしちゃあ上出来かなあ」
 とは、アヤカシの目撃者である茸の専門家。収穫した茸の内、実に六割が毒茸の類であったのが上出来であるというのが恐ろしい所。
「茸! 早く茸料理!!」
 アヤカシ討伐完了を村人と共に喜んでいたお嬢だが、本来の目的を思い出し騒ぎ始める。お付きの老女の諌めも、流石にこれは通用しないようだった。
 八人で集めたとなれば、四割とは言えどかなりの量になる。帰還したのが陽の沈んだ頃と言う事もあり、開拓者達も一晩の宿と共にご相伴に預かる事となった。
 意外だったのが、お嬢が料理が出来た事である。態度はともかく、それに見合う程度の技術は持っていたらしい。それも、開拓者達へのお礼と言うのだから驚きだ。
「これがそのお化け茸ですよ〜」
「おおおおおおお〜」
 村で借りた筆と紙に異様なまでに緻密に描かれた茸と、紅葉片手にそれを見て興奮するお嬢とか。
「‥‥あれは足が生えているだけで只の茸と変わらんのではないのか?」
「ま、喜んでるんだから良いじゃないのか? あれ、そっちの茸は何だ?」
「榎。野生ものだと味違うわね〜。好きなのよこれ」
「だからせっせと集めていたのか‥‥‥‥そういえば、榎は便秘の特効薬にもなったな」
 密かな突っ込みとか、好物とか、さり気無く失敬な知識とか。
「うん。完璧な勝利の後の食事は美味いな」
 何やら満足そうに、一人食事を続けたり。
(‥‥何か居づらいけど、居なくなるのは変だしなあ‥‥)
「季節物はやっぱり良いですねー。あ、おひつはこっちで良いですよ。
 あれ? 茶碗が空ですがお代わり要ります?」
 身の置き場が無かったり、対照的に村人ばりに場に馴染んで給仕までやっているのとか。
 そんなこんなで、秋の風物詩と共に夜は更けていった。