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■オープニング本文 神楽の都、某所―― 「だから、私は茄子は大嫌いだと何年言い続ければ分りますかーーーーっ!!」 「何じゃと、わしが作った茄子をまだ喰えぬと言うかーーーーっ!!」 ――突然ですが、嫁姑戦争の真っ只中よりお伝えします。 この時代、大概の場所では高齢者の方が立場が強い。ここの姑も同じく立場が強く、ついでに言えば壮健であり何よりも我が強かった。嫁という立場は、概ねそれに対して粛々と従うのだが―― 「あんなどす黒いモノ食べ物なものですかっ、生まれて死ぬまで口に入れた事も入れる気も無いです!!」 「な、何と??! もう一度言ってみろ、この馬鹿嫁がぁっ!!」 ――困った事にここの嫁、同じくらい壮健かつ我が強かったのだ。 誤解を招かない為に付け加えると、この二人。根本的に同じ手合いなので、普段であれば非常に折り合いが良い。むしろ、気が弱い手合いである夫であり息子は、似たようなのが二人揃ってるので日々胃が溶けそうになっている。 この家、神楽の都ではそこそこ大きな商家である。 商才はあるものの腕も気も我も弱い旦那、武家より嫁いできた腕も気も我も強い嫁、女手一つで息子を育てつつ商家を守ってきたこれまた腕も気も我も強い姑――これが一家の顔ぶれ。 事の起こりは数年前。心配していた嫁問題が片付き、母親が息子に主を譲り隠居になったのが始まり。 その歳まで仕事一辺倒だった姑。隠居したところで、これと言ってやる事が無かった。ぶっちゃけ暇だった。まあ、嫁との折り合いは非常に宜しく暇潰しの相手にはなってくれたのだが、彼女とて暇ではない。あまり年寄りの相手をさせるのも酷だろう。 なので、家の庭に小さな畑を作って色々育ててみる事にした。 色々な試行錯誤で、その内色々な作物が取れるようになった。最初の内は、嫁も家計の足しになると喜んでいたのだが。 ある年の秋。自身の好物であり渾身の出来だった秋茄子を嫁に手渡した時に、それは起こった。 ――嫁は、茄子が大嫌いだったのである。 そう言えば、毎食嫁が作ってはいるが茄子は一度たりとも出なかった気もする。ただ、些細な事だから気にした事も無かった。だが、ここで姑の抑えていた将来の性質が復活してしまったのだ。 ついでに、ここでは嫁姑の唯一の違いが浮き彫りになっている。 嫁は武家の出身。搾取し消費する側。 姑は商家の出身。剰余し生産する側。 人間的に同じであるが故、違いもまた明確。 そして、毎年姑は茄子を作り、嫁はそれを拒絶するという恒例行事が出来上がったのである。 「――で?」 「いや、そんなあっさり言われても‥‥」 開拓者ギルド。毎年恒例の行事に板挟みになり疲れ切った旦那は、そこに駆け込んでいた。 「兎に角、秋になるとあの始末。私としては、どちらかが妥協してくれれば良いと思っているのですが‥‥」 「要するに、茄子を作るのを諦めさせるか、茄子嫌いを改めさせるか‥‥そういう事で宜しいのですか?」 ギルドの受付さんは、何故か呑み込みが早い。旦那としても我ながら意味不明な依頼を持ち込んだつもりだったのだが、突っ込み一つ無く纏められていく。 「んー‥‥どちらかと言えば、茄子嫌いを改めさせた方が良いですかね」 「そう、ですか? 諦めさせる方が楽だと思うのですが」 「あのですね‥‥説得とか仲裁だったらもっと適任の人が居るでしょう。ここに来たって事は、それが駄目だったのでしょうし。それに、ここに所属している人が数人で乗り込んで説得しても、ヤ印の『説得』みたいで嫌じゃないですか」 ‥‥いや、最初の方はともかく最後の方はどうなのだ? 確かに集団で乗り込んできて説得や仲裁されるのは、誰だって嫌だろうが。 「‥‥それに、ただの嫁姑問題仲裁よりも好き嫌い克服の方が面白味がありますし‥‥料理とか」 「は? 今何と?」 「いえいえ、ただの失言ですから気にしないで下さいっ」 ただの失言って‥‥ 「兎に角、報酬は問題無いですし仕事内容も了解しました。人が集まるかは分りませんが、募集だけは掛けておきます。 人が集まれば後日ご連絡しますので、本日はお引き取り下さい」 受付さんは最後は丁寧に締め、とりあえず光明の見えた旦那は帰宅。 「‥‥やばい、奴の悪癖が伝染しましたか‥‥?」 旦那が居なくなった後、受付さんが頭を抱えてそんな事を呟いていたとかいないとか。 |
■参加者一覧
香坂 御影(ia0737)
20歳・男・サ
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
琴月・志乃(ia3253)
29歳・男・サ
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
藤(ia5336)
15歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
介(ia6202)
36歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●茄子会議 秋茄子。 夏に枝を切り返し剪定する事によって、秋口に収穫出来る茄子の俗称。 一般的に美味とされているが、やはり広い世の中、嫌いな人間も居るものである。 今回は、その茄子嫌いに端を発した嫁姑戦争を収束させる為に来たのだが―― 「喰わず嫌いとは感心せんな、体質的に喰えんわけでもあるまいに」 ――依頼の中にあった嫁姑のやり取りから推測するに、嫁の奈美は好き嫌い以前の問題。姑である澄美の行動にも問題が無いとは言えないが、この場合は奈美の方を改善させるべきだろう。巫女であり医師でもある介(ia6202)の言葉は、間接的にそれを指摘していた。 「とは言え、どうやって? 食べろと言われても食べるような人でないですし‥‥」 夫であり息子、この件の嫁姑板挟みによる一番の被害者たる依頼主、昭夫。本当に商家の主なのかと突っ込みたくなるほど気弱な感じだが、会話の呑み込みは流石に速い。質問も的確だった。 「――そうか、君にはまだ子供は居ないのだったな。しかし、君も経験は無いか? 子供の好き嫌いを克服させるのに、当人に気付かれぬよう別の食材に混ぜて喰わせ、後々明かすというのは」 「ああ‥‥聴いた事くらいは。ただ、私は好き嫌いが無いものでして」 介の説明に、何故か申し訳無さそうに昭夫。 「何でも食せるのは良い事だ、卑下する事ではない。 で、今回はそういう方向性を取りたいのだが、幾つか頼みたい事があってな」 牛頭骨を模したものを被った大男が、昭夫に茄子克服の為の事前準備を願い出る。その彼――王禄丸(ia1236)の独特な出で立ちにも昭夫は頓着しなかった、この辺りも商人たる所以か。 ――突如八人からなる統一感の無い集団が家に現れ食事を作ったところで、茄子云々以前に怪しすぎる。そこで、昭夫自身と澄美、従業員等に口裏合わせが必要となる。 「俺達に依頼した事自体は隠す必要は無い、嫁さんが武家出では俺達の素性なぞ気付かれそうだしな。変えるのは依頼内容と上がり込む口実だ――今、食材の調達に出掛けている面子の一人の案だが」 王禄丸の説明はこう。依頼内容は昭夫の失せ物探しに変更、その達成の報告に開拓者達が家に上がる。そして、その後打ち上げ的なものと称して料理から食事に流れ込む、といった寸法だ。 「成程‥‥ただ、奈美はその流れの場合、客分に料理などさせられない、と言いかねないのですが」 「その辺りは俺達でも対処するが、君も少しは手伝ってくれ――何時までもその調子では、何れ胃が溶けるぞ?」 医師としての介の指摘にお腹へ手をやる昭夫。自覚はあるらしい。 「善処します‥‥」 「亭主関白といかないまでも、もう少し強い立場で目立っても良いと思いますよー」 「「「‥‥‥‥」」」 「‥‥あの、何か変な事でも言いました?」 「いや――すまん、居たのだな君」 「見事な隠行だ、流石はシノビ」 「え? この人も開拓者?!」 さり気無く最後の昭夫が一番酷い。ここは開拓者ギルドの待ち受け、他の開拓者やギルド職員がちらほら。そんな中で、口を開くまで存在を隠し通す術とは―― 「あの‥‥隠行をしていたつもりは無いのですけど‥‥」 ――だそうである。 菊池 志郎(ia5584)、王禄丸の台詞通りシノビである。シノビとは基本目立たないように活動するものだが、あくまで活動が目立たないのであって決して存在まで目立たないわけではない――あくまで、彼自身の特性である。何処にでも居そうな特徴無い容貌や背格好、職業的には素晴らしい特性なのだが、日常生活においては偶に困る事がある。 「‥‥ギルドの職員か他の依頼主の方かと‥‥」 やはり昭夫が酷い。てか、目の前に座ってる相手にそれはどうなのよ。 依頼仲間からも突っ込まれるのは珍しいが、今回の依頼は危険の全く無いもの。故に、日常的な目立たなさが発揮されてしまったのだろう。そうに違いない。そうだと言って。 「‥‥いい加減泣いていいですか?」 ●茄子買 一方のお買い物班。 料理による矯正を行う以上、食材は不可欠である。件の商家にも食材あるだろうが、流石にそれを使って自分達が打ち上げの名目なのは頂けないし、量が足りるとも思えない。勿論、経費は昭夫持ち。 必須である茄子は商家の方で用意してもらえる。後は―― 「挽肉、鷹の爪、唐辛子、大蒜、生姜――後調味料色々、と」 挽肉を除けば何れも目や鼻に訴えかける食材を揃えているのは、斎 朧(ia3446)。特に鷹の爪、唐辛子の量が尋常ではない。常とは違い妙に楽しそうな彼女の笑顔に、突っ込みは控えられていたが―― 「それでは茄子本来の味が無くなってしまうのでは?」 ――茄子以外の食材を山と抱えた痩身の女性からの突っ込み。皇 りょう(ia1673)という名の彼女に対し、朧は首を傾げて一言。 「これでも随分と抑え気味にしたんですけれど」 自覚はしていたらしいが、それでも常人の域を遥かに超える辛味の量。 「まあ、聴く限りじゃ喰わず嫌いらしいし、味を辛味で隠すってのはありやないの? それよりも、りょう。その食材の山は何やねん、いい加減俺の手も満杯やで」 とは、荷物持ちと化している琴月・志乃(ia3253)の弁。この場に居る五人の内三人が女性で、やはり男性の仕事は荷物持ちであったが、それも限度がある。 「これでも随分と抑え気味にしたのだが」 朧とほぼ同じ台詞のりょう。細い身体からは想像出来ない量を食べる彼女としては、これでもかなり抑えた方らしい。 その様子を見て、志乃同様に荷物持ちと化したもう一人、香坂 御影(ia0737)が穏やかに取り成す。 「まあ、僕も持つから‥‥そういえば、藤は? 市場に入るまでは一緒に居た筈だが」 「ん? ありゃ、どこ行ったねん、フジフジは」 御影に言われ、偶然露見した行方不明人物の渾名を使ってみる志乃。効果は覿面、市場の人込みから叫びと共に小柄な人影が跳び出してきた。 「フジフジ言うなーーーーーっ!!」 非常に元気、但し何故か涙目。 藤(ia5336)――本名は藤井藤、渾名はそこから来ているのだが、本名が紛らわしい上に渾名が好きではない彼女は、そう言われれば当然怒る。 「その様子ですとお買い物は終わられたようですが‥‥一体何をお探しに?」 態々別行動を取らずとも、大概の食材は揃う筈である。そこを敢て別行動したという事は特殊なものを探しに行っていたのだろうと朧は考え、藤の戦利品を覗き込みつつ尋ねる。豚肉、海老、椎茸、筍――至って普通だが、一つだけ妙なものがあった。小麦粉を練り伸ばして作った皮である。 「うむ、こいつで食材を包んで揚げるのだ。皮も手作りしたいところだったが、流石に今回は時間が無い。なので出来上がり品を売ってる店を探していたのだが‥‥」 箱入り娘の過去を持つ藤、物言いや態度はともかく家庭的な方面には強い。ただ、非常に世間知らず。慣れない市場の人込みの中、気付いたら仲間の位置が分らなくなり途方に暮れていた。要するに迷子。そんな中、先の渾名を耳にして飛び出してきたというわけである。 「ああ、見た事あるな。ものによっては生皮のもあった、ちょっと珍しい類の料理だと思うが‥‥料理が好きなのか?」 「その、料理は……花嫁修業で……わ、悪いか!!?」 りょうの指摘に語り過ぎたのを悟る藤であったが、既に遅い。とりあえず、逆切れ気味に場を収めてみた。 「ま、それはええとしてだ‥‥買うもん買うたら、三人と合流して夕方頃に依頼主の家行くで」 時間帯的には夜が確実。朝は常識外だし、昼では食事の場に奈美が居るとは限らない。 「しかし‥‥畑からの恵みを喰わずに嫌うというのも、僕には正直悲しいな」 御影の呟き。植物全般は彼にとっては大切なもの、まして人の手により育てられたものであれば別格である。 「そう言うな。食わずとも嫌いになるやもしれない要因は幾らでもある」 「聴く限りですと、この色が駄目みたいですけどね――ところで調味料に使うには、お酒の量が多すぎません、これ?」 髪を弄りつつ藤。そして、食材の確認をしていた朧。目を逸らす志乃。 「‥‥いや、何や。打ち上げ名目やし、なあ?」 「僕に振るな。確かに酒に合う茄子料理もあるが」 まあ、全員酒の呑める年齢だし問題は無いだろう。呑めない人間に強要しなければ、飲酒も場への良い味付けである。 ●茄子変化 日暮れ前、準備を終えた彼らは合流し件の商家へと向かった。 訪れた開拓者達に対し、根回しが済んでいた澄子は普通に迎えてくれたが、奈美は不審感全開。 根回しの中に失せ物探しが含まれていたわけだが、この家は母親一代で叩き上げたもの。歴史も何も無いので貴重品など無い。仕方無く提出されたのは、よりにもよって昭夫の財布――勿論貴重品だが、財布を探すのに八人もの開拓者を動員する人間が居るかと言われれば、居ない。 そういうわけで奈美の不信は募ったわけだが、昭夫が財布から取り出した物を見て全て収まってしまった。 小さな紙だが、見た奈美は顔真っ赤。武家出たる雰囲気は何処へやら、家の奥へと消えてしまった。 「何なんですの、それ?」 朧の問いに昭夫は笑い―― 「結婚前の恋文ですよ。何を思ったのか、僕の家に矢文をしてきたんです、彼女」 ――との事。普段はとことん立場の弱い昭夫だが、それだけでもないらしい。 矢文で恋文を送る奈美に関しては誰も突っ込まなかった。 そうして始まった茄子料理作り。 顔真っ赤の奈美は昭夫が抑えててくれるらしく、鬼の居ぬ間の何とやら。準備が進められていく。 「昭夫にしてもあんたらにしても、暇だねぇ」 庭の茄子畑での澄子は、共に収穫を手伝う御影と志乃にそんな感想を漏らした。 「立派な仕事だ。息子も嫁姑が毎年秋にいがみ合うのは嫌だろう」 「‥‥わしも嫁も同類、放っときゃわしが死ぬまでこのままだろうね」 「ならば尚更だ。気が合うのであれば、そこさえ直せば問題は消える」 「茄子、取れたらこっちに寄こしてや。中心食材が無いと進まへんで」 で、調理現場。 「‥‥何故、包丁を両手で構えている。しかも何故腰や膝を落とす?」 「‥‥茄子はきちんと切れているぞ?」 「皆の包丁使いを見て、自分が何かおかしいとは思わんのか‥‥」 りょうの包丁を振るう姿が、刀を振るうのと変わらなかったり。突っ込む藤は一気に疲れた模様。 「皮はしっかり剥いて下さいね。色が苦手らしいですから」 「はあ。ところでその辛味の類は?」 「これが無いと、今日私が作る料理は完成しないのですよ」 「材料だけ見ていると、何か凄いですね‥‥」 皮剥きを手伝う志郎は、朧が準備している唐辛子や鷹の爪を見て冷や汗をかいている。手付きを見る限りでは非常に慣れているようなので問題は無さそうなのだが、一抹の不安が残る光景である。 「あの皮こそ茄子の真髄だと思うのだがな――と、其処の野菜を取ってもらえるかね」 「人間苦手なものはあるものだ――ところで、野菜だけだとどれだか分らんぞ」 「ああ、そういえばそうだ‥‥待て、君は誰だ?」 「‥‥王禄丸だ。しかし、突っ込みが遅くはないか?」 素顔を晒した王禄丸に対し、わざとか素なのか分らないが遅い突っ込みを入れる介。因みに素顔については各自の想像で補うように。 「けったいな子達だね‥‥料理で克服か。奈美もまだ子供って事かね」 確かに子供相手に使われる克服法だが、澄子も一言多い。 「そういう事言うから喧嘩になるんやで。つーか、ひょっとしてわざとかいな?」 「言いたい事言えんよりか、幾分マシだよ」 ――確かにそれも一理あるのだが、物事には加減というものがある。何より、今回の件は昭夫が一番被害を被っている事が問題なのだ。 「それに、さっき見たろ? 昭夫も立ち回り方は心得てるよ」 「なら、俺達に依頼などしない。一人息子の願いだが」 「だからお芝居に突き合ってやったろ? それに、上手いもの喰わせてくれるっていうなら、拒否する理由は無いね」 何とも複雑な御仁である。御影と志乃は顔を見合わせ溜息を吐いた。 「こら待て、水と醤油を交互に入れ続けるな! これは鍋物ではないぞ?!」 「いや‥‥味が濃い様な薄い様な‥‥」 「どっちなんですか一体‥‥って、何か目と鼻が痛い?!」 「もっと手間暇掛けたかったのですが――あら、それはお味噌汁?」 「うむ。皮は使っていないが、これなら茄子本来の味を楽しめるだろう。ところで、その不思議な料理は何だ?」 「グラタンだ。濃いめの味付けだから、茄子嫌いでも充分いけるだろう」 ――てんやわんやの調理場であるが、とりあえず一通り終わったようである。 ●茄子地獄 未だ顔に赤みを残す奈美を連れ昭夫が戻った時には、配膳は全て終了していた。 茄子が分らないようにした料理は問題無く食された。問題は茄子が丸見えのものである。 「‥‥どういう事ですか?」 怒ってはいないが、顔真っ赤。 酒を煽る王禄丸や志乃はひとまず静観。朧は赤いナニかを処理中で、志郎はそれにより昏倒中。他の面子が口を開こうとした瞬間。 「奈美。武家出の者が出された料理を口にしないという無作法を働くつもりじゃないだろうね」 澄子の挑発、悔しそうな表情の奈美。 「作った者にとって箸を付けてもらえないのはどういう事か、家事をする君なら分るだろう」 「茄子の色が苦手というのは分らなくもない――私も昔、似たような理由で嫌いになりかけたしな」 諭す介と茄子に近い色の髪を弄りながらの藤。 「それに、今まで口にしたものの中にも殆ど茄子は入っている。先程まで食べていたな?」 「好きな人に自分が作った料理を食べてもらえるのは良い‥‥私もいつかっ」 御影の指摘と、別方向に飛んでいったりょう。 どう反応して良いのか分らなくなった奈美は、茄子を口へ。果たして感想は―― 「‥‥食べれなくは、ないですね」 ――との事。上手くいったようだ――と、思ったのだが。 「ですが‥‥これはあくまで皆さんの料理。私は皆さんに負けたのです――お母様に負けたわけではありませんっ!!」 「こ、この馬鹿嫁がぁ!! そこまで言うなら、わしの茄子料理を喰らうが良い!! そこで正座していろ!!」 ――何だ、この面倒臭い嫁姑?! 一同、同じ感想。 逆に今度は開拓者達が茄子嫌いになりそうな、茄子無間地獄の始まり――美味ではあるのだが。 ――解放されたのは既に日付が変わる頃、何時の間にやら昭夫は姿を消していた。成程、母親の評価はあながち間違っていなかったようである。 後日。 「ちょ‥‥何ですか、その鍋?!」 「お裾分けですわ」 「要りません! 何か、目と鼻が痛いです!」 「勿体無いから、折角持ってきましたのに‥‥」 「笑顔で言わないで!」 「あら、似たような事をしそうな人を良くご存じでは? 何やら感染したとか」 「あーあー、聴こえなーい!!」 ――開拓者ギルドの受付に真っ赤なナニかが襲来したとか。 |