【負炎】全にして個
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/21 23:58



■オープニング本文

 蝗害というものがある。
 詳細は説明は省くが、一部の飛蝗類の大量発生による災害と考えてもらえば良い。
 通常のコレは、特に秋口における飛蝗類の印象から農作物のみへの被害が印象深いのだが、実際のコレは進路上にある草木類を軒並み食べ尽してしまう。その為に、通り過ぎた後の土地は不毛となり以後の食糧生産が非常に厳しいものになる。また、被害範囲によっては草木を食料とする生き物も移動ないし餓死する事となり、当然彼らを捕食する生き物も同じ選択を迫られる事にもなりかねない。
 飛蝗は一度に大量の卵を生みむので、蝗害が起きる時には数年連続するのが特徴になる。大量に産卵が行われるには草原や河原の砂地などが必要であり、更に群を維持する為の大量の食物が必要な為に、土地の狭い国で発生する事はまず無い。

 そして、北面。
 理穴における魔の森活発化の報の直前、突如として蝗害が発生した。
 領土に平野部が多く、川から齎される恵みによる豊かな穀倉地帯が存在――ここまでは蝗害が発生する条件を満たしている。
 だが、この国はとにかく狭い。そうなると飛蝗達は何処から来たのか。当初は西から流れてきたのでは、とも言われたのだが、西で蝗害が発生したという報告は無く、それだけ大量の飛蝗が流れてくれば何かしらの目撃証言が得られる筈であるが、それも無い。そもそも、実際に流れてきたとしてもその理由が分らない。
 何よりこの飛蝗の群れ、挙動が余りにおかしい。
 前挙したように発生からしておかしいのだが、途中の田畑や水田、草原、動物、挙句には村や人までも食い潰す。そして、ある程度の被害を与え終わると離散して飛び去ってしまう。そして、後日に全く別の場所で集合し同じような行動を起こす。一度だけ兵を出した事があったのだが、この時の離散ぶりは凄まじいものだった。
 ――どう見ても只の飛蝗群ではなく、何かしらの意図に拠って運用されているようにしか見えない。
 被害に遭った村で、奇跡的に子供一人が生き残っていた。彼に証言によれば、村の外で遊んでいた時に突如として巨大な飛蝗が一匹飛来――大きさは人間よりも一回り大きかったらしい。そして、ソレが空に向けて耳障りな咆哮を上げると、あらゆる方向から飛蝗が飛来――瞬く間にソレの周囲を覆い群が完成。そして、彼の住む村とその周囲を不毛の土地へと変えた。奇妙な事に、その大型飛蝗は群には混じらずに遅れて追随して行ったらしい。
 この報告を聴いた時点で、この現象が何かなのはほぼ確定――アヤカシだ。
 問題は、これをどうやって討伐するかである。
 司令塔になっているのはその大型飛蝗なのだろうが、多くの兵を出せば逃げられる可能性が高い。だが、兵の数を減らせば返り討ち――彼らは、何があろうが満足するまで前進を止めないのだ。
 こんなものが国内で発生している最中に他国へ少数とは言え兵を貸せば、自国の民の信頼を失いかねない。
 まだ被害は微々たるものだが今後は分らない――自国民、そして農作物は何より守らねばならないのだ。
 そうなれば、選択肢は一つ。
 少数でアヤカシに対抗できる戦力を投入する。
 すなわち、開拓者。

 即日の内に開拓者ギルドへ通達。
 集められた少数の開拓者達は、アヤカシの報を待つ事に。
 そして届けられた報。
 村に急行した開拓者達が見たのは、目前に迫る蝗の群の姿だった。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ


■リプレイ本文

●最後の砦
 武装して様々な資材を詰んだ大八車を引き摺って村に現れた開拓者達に、村人は何事かと目を丸くしていた。だが、彼らに示された空を仰いだ村人の表情は一変。飛蝗被害の噂はここまで届いているのだろう、悔恨の表情を浮かべつつ避難の準備を即座に開始した。
「申し訳有りませんが、若い方の手を幾つか貸して頂けないでしょうか? ただ逃げたのでは、村も田畑も食い潰されるだけで終わってしまいます」
 報を運んできた開拓者達の様子を見に現れた村長らしき老人を呼び止め、沢渡さやか(ia0078)は助力を願う。
 自分の半分も生きていないであろう清楚な女性に請われ、村長は考え込む。
 発生した蝗害への対処は元来逃げる事のみ。精魂込めた田畑が駄目になろうと、人さえ残ればやり直しは可能だから。
 だが、悔しい。
 自分の父祖の頃から仲間や家族と共に育んだ田畑が、突然発生した蝗達に潰される。自然発生したならば、まだ納得出来る。だが、開拓者達が語るにはアレはアヤカシであるという。そんなものが納得出来るか?
「急造ですが、虫網代わりに。家にそういうものがあれば持ってきて下さい。大きな布があればそれも。正面からやるのでなければ、充分に群への対処になります」
 青嵐(ia0508)が先に若い衆へと指示を出している。前髪で目が隠れ、指示は何故か彼と同じ外見の人形による腹話術――平時であれば距離を置かれる姿だが、状況がそれを覆す。村長と同じような憤りを抱えた若い衆が、自分の意思で既に指示と共に動き出している。
「何、話し込んでるアルか。外であいつらの気を逸らしているのが居るけど、どこまでもつか分らないヨ。逃がすのは逃がして、手伝うのはとっとと手伝うがイイネ」
 村を全力一周避難勧告して戻ってきた梢・飛鈴(ia0034)が、村長を見付け告げる。とにかく時間が無いのだ。普段は陽気な色が強い彼女の奇妙な口調も、緊迫した色に包まれている。
 見れば、群の動きが変則的になっている。別方向に向かったかと思えば、暫く経つと再び村の方へ――そんな動きを何度も続けている。飛鈴の言う『気を逸らす』というのがコレだろう。
「とにかく、あたしは頭を潰してくるアル。君らも急ぐネ!」
 再度の全力疾走。飛鈴は正面を避けるよう大きく迂回しつつ、群の方向へ向かう。
「面積が広い板材があれば、適当な位置に置いて下さい。粘着性の高いものがあれば先に板に塗布しておくように。やれる事をやったら残ると決めた方以外は逃げて下さい。なるべくなら、田畑の無い方へ」
 青嵐の指示は続いている。伝え聞いた飛蝗群の行動から推測するに人の捕食はおまけ――恐らく、田畑を潰す事が最優先だろう。なら、逆方向へ村人を逃がせば、少なくとも人為的被害は減らせる。
「布の四方に重い物を括り付けろ、投げ網のように使える筈だ。火は――流石に村内では止めた方がいいか。大きな板があるなら、田畑への進行方向に立て掛けておけ。多少なりとは足止めになる」
 同じように指示を出している樹邑 鴻(ia0483)。指示通りに動く若い衆を確認した彼は、さやかと青嵐に後を任せると告げると飛鈴の後を追って駆け出す。
 全員で群を殲滅してから大型アヤカシを倒すのが理想だったのだが、準備時間や群の挙動――そういった要素が絡んで、群を出来るだけ削りつつその間に大型アヤカシを倒す作戦へと移行していた。
「外で止めるのは無理でしたか――となれば、村が最後の砦に‥‥」
 進行方向を何度も揺らがせながらも、着実に村に迫る飛蝗群――その姿は、巨大な黒い雲のようになっている。さやかはそれを目に収め、村を戦場にする事を悔いる。
「‥‥お嬢さん。建物なぞ多少どうなっても構わない。家は皆で協力すれば直ぐに建てられる――だが、村人や田畑はそうはいかない――手も貸す。だから、どうかここでアレらを止めてくれ」
 黙っていた村長が決断を下す。
 ――そんな中で、いよいよ彼らの耳に暴風にも似た羽音の群が届いてきた。

●村外の奮闘
 時間は僅かに遡る。
「‥‥御影、もう良い。あの様子だと、此方まで来るとは思えぬ」
 村から離れた草の薄い場所に立つ侍の男女二人。
 輝夜(ia1150)が、呼吸を整えている香坂 御影(ia0737)を止める。
「僕の咆哮自体は効いている筈‥‥何故、奴らは直ぐに進路を戻す?」
 傍らにある巨大な焚火――咆哮で呼び寄せた群をこれに飛び込ませるつもりだったのだが。
「――恐らく、統率しているモノが直ぐに修正しているのだろう。ただ指揮しているのならばそんな真似は出来ぬだろうが、感覚的に繋がっているのやも知れん。間近の我らに目もくれない辺りも臭い」
 飛んで火に入る夏の虫とはいかなかったと思いつつ、状況を整理しつつ対応を吟味する輝夜。応変は彼女の座右。
「連絡がもっと早ければ、奴らの進路に焚火を連ねる事も出来たんだがな――」
 咆哮の連続使用で乱れた呼吸が漸く整った御影が口を開く。淡々とした彼の言葉だが、微かに悔恨が感じられる。
 依頼を受け待機していた彼らに連絡が届き現地に到着した時には、既に村の間近に飛蝗群が迫る頃だった。一刻の猶予も無い状況で、村への退避勧告等の対処を仲間に任せて、二人は此方に周ってきたのだが――
「まあ‥‥村民の退避、群を迎え撃つ準備――それを成す時間は、充分我らのコレで稼げたであろう」
 その場で作戦を組み変えたにしては成果は悪くない。後は仲間の奮闘に任せよう。何故なら――
「統率者のお出まし‥‥か。村人が必死に育てた田畑を潰していくアヤカシ――許しがたいな」
 庭師に憧れる御影にとっては、庭の植物も田畑の植物も同じ。その元凶を上空に収め、静かに刀を抜いた。
「ふむ、我らを分断するつもりか? それはそれで好都合。コレを潰せば、少なくとも統率するモノは居なくなる――ゆるりと勝負、とはいかんぞ?」
 輝夜が長槍を一振りと同時。二人の正面に、体格に見合わぬ軽やかさで巨大な飛蝗が跳び下りてきた。

 飛蝗群の横合いから湿り気を帯びた大きな布が被せられる。投げ網のように放たれたそれは、群の一部に大きな空白を作る。
「精霊の恵み――小さく温かき種よ!」
 布を放った朝比奈 空(ia0086)の詠唱が終わると同時に、地面に落ちた布の上に火種が浮き上がる。火は染み込ませた油に一気に引火――布の下敷きになった飛蝗達を道連れにして燃え上がる。
 幾度も繰り返した一連の行動だが――
(ここまでしてもまだ残りますか‥‥)
 紫色の瞳を細め、冷静に目の前を通り過ぎていく群を観察する。兎に角、村に到達される前に出来得る限り群の数を減らす――繰り返した行動の結果は、四桁近い。だが、全体で見れば二割削ったといったところか。
「焚火の方行くかと思えば直ぐに戻るし‥‥何なのかしら、コレ」
 空と共に群と並走する葛切 カズラ(ia0725)も複雑な表情。その想定外の動きのせいで、連携がばらばらになっているのが気に食わない。
 作戦を変更し、数度の火炎獣で群を焼き払い続けたカズラの戦果を合わせ、合計四割の殲滅。
「何かしらの意図の元に運用されていると報告されていますし、余程統率力が高いのか――」
 若しくは、群体に見えて実は個体に近いのか。
「成程ねえ‥‥全にして個、軍にして将‥‥物量の脅威、ね。頭潰した方がいいかしらねー」
 このまま並走して殲滅を続ければもう少し削れるだろうが、村に到達するまでの此方の疲労も馬鹿にはならない。頭潰しは少数にて多数に当たる場合において最善手であるが――
 その時、二人の視界の端に異常な大きさの飛蝗が降下するのが見えた。遠目にも分る、大きな焚火の袂。
「あれは‥‥」
「んー‥‥空さん。私はこのままこいつらを減らしていくから、二人組に手を貸して上げて頂戴な。まだ、火の獣は出せるし」
「‥‥承りました。カズラさんもお気を付けて」
 即座に離脱する空。それを見送った後、カズラは未だ進群を続ける黒い塊を見上げる。
「さぁて――もう少し気張らせて貰おうかしら!」
 両の手一閃、広げられる符――カズラの艶然とした笑みは未だ消えていなかった。

●攻防
 既に村にも群先陣が辿り着いていた。それなりに村外で減らされている筈だが、未だ異常な数。あくまで全体は同じ方向に進んでいるのだが、密度と範囲が広すぎる。蝗害という名の自然災害に数えられるのも頷ける光景だ。
「炎獣姫――真っ直ぐに焼き払え!」
 群の側面から放たれる青嵐の火の獣。灼熱のまま獣を象った式が一直線に群の只中に突き進み、黒雲に穴を開けていく。
(村そのものへの被害はお墨付きが出たとは言え、闇雲に火を付けて良いわけはないですしね‥‥)
 火の獣は、術の特性上引火の可能性を常に孕んでいる。的が大きいので適当に放っても充分な効果は得られるが、それで村の家屋を炎上させては自分達が来た意味を否定する事になる。
「決して真正面には立つな! 兎に角横合いから網や布を振り回せ! 巻き込まれそうなら即座に逃げろ!」
 村長が老体に似合わぬ軽快さで動き回りながら、若い衆へ檄を飛ばしている。約一年の苦労が一瞬で潰される憤りが、村人に力を与えていた。
 予測した進群方向に張られた板などを使った罠は、あまり効果を成していない。いや、勿論最初は効果があるのだが、只管進む群は罠そのものも食い潰す。建物も冗談のように虫食い状態になっており、建て直さなければ駄目だろう。
「完全には抑えきれない‥‥でも、ここで少しでも減らさなくては‥‥!」
 己を奮い立たせるさやか。その彼女の視界に、群の進群線に入り込んでしまった村長の姿が映る。今から声を掛けても間に合わない――
「危ない! 伏せて下さいっ!!」
 自身を盾にするまでだ。声を掛けつつ駆け寄り、村長を抱え込んで下に庇う。直後、さやかの背中に削られるような激痛――と言うよりも衝撃が連続で走った。一番危惧していた状況――群に完全に巻き込まれ、聴覚が飛蝗の羽音に支配される。
「く‥‥あ――こ、れくらい、で――!!」
 この状態だと自力で抜け出すのは厳しい。背中が削られていく感触にさやかが耐えつつどうにか動こうとしていると、背に熱を感じ直後に衝撃が消えた。
「直ぐにそこから離れなさいっ!!」
 掛けられた声の主を確認する前に、とにかく村長を抱えて転がり逃げる。羽音が遠ざかった辺りで顔を上げると、青嵐が近付いて来るところだった。一瞬感じた熱は、彼の火炎獣だろう。
「全く‥‥無茶をする」
「‥‥性分、ですから」
 多少呆れも混じった青嵐の言葉に、痛みに耐えつつ笑顔のさやか。
 ――未だ、進群は止まらない。

 統率者たる大型飛蝗――強いのだろうが、対峙する輝夜と御影からすれば問題は強さよりもその行動だった。
 飛蝗は身体構造上後退が出来ない。だが、前進する分には発達した後脚によって充分な距離を得る事が出来る。本来、蝗害を起こす飛蝗類は後脚が短くなるものなのだが、そこはアヤカシ。常識は通用しないらしい。そして、この前進自体が最も危険な攻撃になる。
「気に喰わんな――理には叶っているのだろうが」
 直線的な相手に対して輝夜の槍は効果的な武器なのだが、跳んでくる勢いが尋常ではない。合わせるのも一苦労だ。
「何より、僕らを本気で相手をするのが気が無い見え見え――か」
 幾度と無い跳躍に、御影も数か所負傷している。同じくらいの斬撃は加えているつもりだが、互いに決定打が無い。
 跳躍しては飛び上がり位置を調整する――アヤカシの動きはその繰り返しだ。此方を倒しにきているのであれば、もう少し色々やってくるだろう。要するに、予想通りこいつは戦力分散する為だけに此方に来たのだろう。そして、もう一つ。
「‥‥汝を倒せば群は止まるようだな。ならば、群を分散させ己は何処かへ引っ込んでいれば良いものを――そこが汝の限界か」
 冷静にアヤカシの能力を見切る輝夜。答えるは無いが、恐らくは正解。そういう事ならば――
「良いだろう。汝の跳躍と我の槍――どちらが上か決しようではないか」
「僕の剣も合わせて‥‥ね」
 回避を捨てた構えを取る二人。その様子にアヤカシから迷いが伺える――そして、彼も構えた。三対の瞳が合わさる。三つの足が限界まで溜めた力を解放した瞬間――
「仲間外れは頂けないな――気、旺じて衝と成す――ぶち撒けろッ!!」
「美味しい所は持ってくネ――大気、流れを集じて転撃と成れ!!」
 村からここまで大きく迂回しつつ、全力疾走で漸く至った鴻と飛鈴。疾走の勢いを殺さず均衡した状況に飛び込み、アヤカシの背後から放つは二対の気。飛鈴の技がアヤカシの態勢を大きく崩し、鴻の気弾が巨体を打ち抜く。
 傾いた天秤は戻らない――跳躍中に攻撃を受けた飛蝗の勢いは別方向に行ってしまっている。更に――
「精恵――歪みよ来たれ!!」
 追随するのは空の巫術。歪んだ空間に巻き込まれ、飛蝗の身体が反転――
「草一本すらアヤカシごときなぞにくれてやるつもりはない――分散戦力を取った汝の負けだ」
「田畑は村の人の物――お前のモノじゃない」
 手元まで武器を飛蝗の身体に貫通させ、噴出した体液を浴びつつ輝夜と御影。アヤカシは武器を抜くのを諦め離脱しようとするが、もう遅い。
「佃煮にも出来ない飛蝗なんか、とっとと居なくなるネ!」
「ま、そもそもアヤカシじゃ煮ても焼いても喰えんがな」
「消えなさい――自然の摂理に無いモノよ」
 飛鈴と鴻の拳が、空の刀が未だ諦めないアヤカシの背後を穿つ。
 ――どす黒い何かを撒き散らしつつアヤカシは消滅していった。

●晴れた黒雲
 既に術は放ち尽くした――後は己の体術のみ。そう思い決め、身構えたカズラの目の前で群が次々と塵屑のように消滅していく。
「‥‥あらま、やってくれたみたいじゃない」
 くすり、と口元を笑みの形に変える。同時に脱力――そのまま後ろに倒れ込んだ。
「ふーん‥‥こうして見ると、太陽の下ってのも悪くないんじゃない?」
 群が消えた向こうに見えたのは雲一つない晴天――どちらかと言えば夜の住人であるカズラだが、今はこの陽射しを味わおうと決めた。

 村全体を覆っていた群が続々と消えていく。まるで夜明けのように、雨雲が晴れるように。
 村人が一斉に膝を着く。晴れた先に見えたのは壊滅状態の村だが、それでも群を田畑に到達する事は防げた――傷だらけで疲労困憊の彼らだが、表情は晴れやかだ。
「護れた‥‥ようですね」
 限界まで術を行使して疲労の極致にありつつ、静かな笑顔で人形に語らせる青嵐。視線を転じれば、村の入口に五つの影――仲間だ。
「出来たんですね――私達‥‥」
 背の傷は未だ完全には塞いでいない。その痛みを忘れて今まで走りまわった反動か、堪え切れずよろめいたさやか。その時に村の外の景色が目に入り、穏やかに微笑む。
 ――晴れた黒雲の向こう、実りを迎えつつある田畑が見えた。