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■オープニング本文 ●とある街中にて ほっそりとした体型に不釣合いな程、大きい弓を担いだ女性が一人、天儀を歩いている。 体型と同じようにあけてるのかあけていないのかという細い眼でのんびりときょろきょろと周りを見ている。 姿から見ると、何処かの村から出稼ぎに来たような格好ではあるが、雰囲気は柔らかく、ほわほわしている。 彼女の名は弓菜(ゆみな)。 故郷では神の眼、神の手等と言われていた。 「はぁ‥‥世の中は広いですねぇ〜」 そんな事を本当に思っているのかどうかはさておいて、春のうららかな陽気を受けながらぽやぽやと歩く。 ぼや〜っと歩いているせいか、反対側から来た、こぢんまりした男とぶつかる。 気が付くと、腰にぶら下げていた財布がスリにあう。 流石に路銀を失うのはいただけない、ゆっくりと弓を構えると、薄目を開け、狙いをつける。 勿論街中、しかも道のど真ん中でだ。 逃げるスリの肩を狙い、弓を引き絞っていき‥‥そして、放つ。 放たれた矢は雑踏の中を一直線に飛んでいくと見事にスリの肩を貫く。 「ダメですよ、人の物をとっちゃー」 ぽやぽやしているが、その目つきは野生の獣以上に鋭い。 傷口を押さえているスリはその目つきに睨まれ、びくりと身体を震わすと慌てて逃げていく。 それと同時に、ぱっと彼女の周りから人が離れていく。街中で弓を振るう彼女に対して、まるでアヤカシのように恐ろしい物を見た目で。 「って‥‥ダメですね‥‥こんな事じゃ脚を洗えません」 彼女は昔から自身の能力で戦場を渡っていた。 捉えた獲物を眼力で殺せるような威圧感、そして確実に見失う事がない事から神の眼。 吸い込まれるように同じ位置に矢を当てられる腕前から神の手。 それらを使い時には故郷を守る為、国を守る為‥‥だからなのか、人として大きな何かが欠落している。 そんな彼女も誰にも恐れられず静かに平和に暮らしたいと思い町に出てきたが、彼女には小さい頃から弓術しかなかった。 遊び道具には弓、おしゃぶり代わりには矢を、だから全てに終わりを付ける為にここ、天儀にやってきた。 すっぱりと弓術師としての自分を捨てる為に。 ●ギルドにて 「キィ」と小さく扉が軋む音を響かせながらギルドの中に入ってくる女性が一人。 華奢な身体に不釣合いの大きな弓が引っかかっているのか、中々入ってこない。 「傾けたらどうだ?」 机に脚を乗せ何時もの様に気だるく受付の仕事をこなしている時に限って何か面白いことがやってくる。 弓を横にして、のんびりと入ってきた女性に声を掛ける。 「して、用件は何かな?」 脚を下ろし煙管を灰受けに一度置き尋ねる。 「ちょっと待ってくださいね〜」 ぽやぽやしながら弓を担ぎなおすと荷物を下ろし対面に座る。 真っ直ぐ此方を向いた瞬間に分かった、こいつは並の人間ではないと言う事を。 uえっと〜‥‥貴方ぐらいの人なら話しても大丈夫そうですね」 自分の生い立ちについて喋り、弓術師としてここで踏ん切りを付け様かと言うのを伝える。 「ふむ‥‥自分よりも優れた開拓者に引き継がせるという事か‥‥」 「私も年頃ですから、女性らしく過ごしたくて」 ぽっと頬を赤らめながらもじもじしている。 春だししょうがないか。 「ま、私は書くだけだがな」 依頼書の作成に取り掛かると一つ疑問が出てくる。 どういう用件で、書けばいいのかと。 「そうですねぇ、じゃあ私を倒してください」 ぱん、と手を叩くと同時に提案し、結果その通りとなる。 |
■参加者一覧
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
神鷹 弦一郎(ia5349)
24歳・男・弓
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
鞘(ia9215)
19歳・女・弓
セリス・ウォーレン(ib0339)
14歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●神の目 勝負の方法などを確認する為にギルドに集まる開拓者達。 勿論今回の真剣勝負を依頼した弓菜、審判役の夢も揃っての話し合いだ。 「しかし、こうも集まるものなんだな」 夢が煙管を吹かし、弓菜に話しかける。 その弓菜はと言うと自身の装備を確認しながら鼻歌を奏でながら話を聞いている。 しかし、その雰囲気はどことなく近寄りがたいものである。 「パッと見の雰囲気とよく見たときの雰囲気が全然一致しない‥‥」 鞘(ia9215)がぽつりとそんな事を呟く。 上方修正ばかり掛かる通り名を聞いていたが、まさにその通りではないかと確信し、息を呑む。今までに出会ってきた弓術師とは別格であり、確かな腕を持っているというのをひしひしと感じる。 「すごい腕前を持っているのに引退とは、何だかもったいないですけど」 鞘の隣で一緒に弓菜を眺めていたアーニャ・ベルマン(ia5465)がぽつりと呟く。 同じ弓術師として優秀な人物が消えていくのは複雑な気持ちではあるが、本人がそう言っているのだから、どうしようもないと割り切る。そしてその傍ら皆の足元を見て、足音がどんなものかも調べていく。 「あまりじろじろ見てると、いけないな」 アーニャがじーっと見つめているところに神鷹 弦一郎(ia5349)が口をだす。 と、いいつつも弓菜を見て一思い、自分も弓を引くしか能がないためか弓菜の言ってる事が分からなくもない‥‥後はせめて偉大な先達が安心して弓を置けるよう、精一杯腕を披露するとしよう。と心に思うのだった。 その反対側では鬼灯 仄(ia1257)が煙管を吹かしながら光景を眺める。今回の仕事も大変そうだ、と言いながらゆっくり煙管をもう一度吸い込む。 そして弓菜の所に頬をすりすりとしながら問いかけているのが一人。ひとしきりに弓菜に話している 「『不射之射』という言葉ご存知でしょうか?射なければ射ぬけぬようではまだ半人前。師の教えでその極意掴めれば弓を持っていてもいなくても同じ事、そういう意味では御姉様も道 半分というところでは?」 セリス・ウォーレン(ib0339)がそういいながら、弓菜の顔を覗く。 ぽやぽやとしたあたりさわりの無い、中性的な顔がセリスの眼前にやってくる。が、その瞳の奥は何か冷めたような黒い何かがうごめいているような気がするのを感じる。それを受けたのかゾクゾクと身を震わせ、頬を赤くする。 「と、もう一人がいないようだが‥‥?」 夢が開拓者達の数を数えていると、首を傾げる。 確かに六人集めたはずなのだが、と考えていると、鞘がそういえばといいながら夢に話しかける。 「確か雲母(ia6295)さんは先に行くって言っていましたよ」 指を顎に当てながら「んーと」といいながら思い出したように言う。 どうやら顔が割れるのが嫌だったのか先に森林へと行っていた様だ。 「んじゃ、さっさとやるとするかね」 「‥‥皆さんより本気ということですねぇ」 ●戦い始まり 早速といわんばかりに開拓者、弓菜ともども森林の中へと入り、開始の合図を待つ。その傍ら夢が特性の焙烙球を片手にしぼんやりとする。相変わらずの空でいい天気だなぁ、といいながら焙烙玉を放り上げ爆裂。あたりに轟音が響き渡り、戦いが始まるのであった。 ●鬼灯とアーニャ 隠れている所へ、爆音が響き渡ると行動を開始する二人。 自ら囮になるといった鬼灯を前に、アーニャが辺りを見回して警戒する。 今回の戦いでは周りが全員敵である。そのためかかなりピリピリとした雰囲気が伝わる。 茂みの中で見つからないように新緑色の布を被ったまま、きょろきょろと弓菜の大きな弓や、足音に気をつけている。 囮となった鬼灯は後ろのアーニャを気にしつつ前に出て行く、茂みを抜けてちょっとだけひらけた場所にでる。 「異常、なし・・・か」 そうぽつりと呟いた矢先、アーニャが何かに気が付き手話で鬼灯に知らせる。が、遅かった。数本の矢が周囲から飛んでくると、避ける間もなく鬼灯が撃沈する。木々の隙間を縫うように飛んできた矢をしっかりと見据えたが、じっとりと汗が浮かび上がり、軽く息も荒くなり始める。 (皆、本気でやってますね) 矢が飛んできた一つの方向へ目を向け、息を吐き出す。 あの状況で同時に飛んできた矢、その中でも格段に速かった一撃をしっかりと見れていた。 (あっちからが一番着弾が速かった!) 茂みから半身を出して決めた方向へ、瞬速の矢を放つ。 ヒュンっと心地よい音と共に、真っ直ぐに飛んでいく矢、それと同時に飛んでくる矢。 放った矢は正確に飛んでいき、放たれた矢じゃ正確に此方に向かって来る。 (身を捻って、避け‥‥れない!) 迫り来る矢を見て、体を捻ろうとするが軌道から既に直撃するのは明白だった。 辛うじて体を捻り、多少なりと負傷を免れようとするが肩に重い一撃を貰い、声を上げてしまう。確実に命を狙う程の威力。手加減など無しの一撃 「くっ‥‥」 からん、と次の矢を備えるも腕が痺れて旨く握れない。 これ以上の攻撃は出来ないと悟るとその場にうずくまってしまうのだった。 ●鞘と神鷹 焙烙玉の爆裂音を聞いてから数分。 神鷹と鞘は単独行動をしていたがある程度お互いの気配を感じ取り、ほぼ一緒に探索をしていた。先程ガサガサと物音がしたため、咄嗟に即射を放ったがどうなったかは確認していない。あまりも動けないからだ。 それは鞘も同じ事、事前に神鷹の気配を感じていなければ同じように攻撃をしただろう。それほどこの森林が危ないというのを認識させられる。此方も音の方に矢を放ったがどうなったのかは調べられない。このもどかしさに焦り始めたのか、徐々にだが動きか荒くなる。見つからない為に光を反射しないように施した弓や装備をぎゅっと握り締め隠れ場所を探すが、はっきり言えば戦術的には失敗だった。相手が動き回っているというのに、その場に動かず狙撃をしようとしているのはどちらかといえば鴨だ。‥‥取りあえずとして隠れ場所を定め埋伏りをする。 「後は少しずつ詰め寄って‥‥かな?」 そんな事をいいながらキョロキョロと辺りを見回す。丁度隠れた場所から二つの気配を感じ取る。 一人は神鷹、もう一人はおぞましいほどの気配を放つ何かだ。鞘はごくりと息を飲み込むとゆっくりと弓を構える。 神鷹も気配を感じ取り、弓を構える。 先程からガサガサと動いていた鞘の気配は感じ取っているので、間違いは無い。 かなりの殺気を身に受けながら気配の方へとじりじりと近づいていく。 距離にして十数メートルと言った所だろうか、極力消した音が聞こえるたところでとまる。双方が静かになり、一呼吸。 一羽の鳥が飛び立ったと同時に放たれる矢。 吸い込まれるように気配の方へ鞘、神鷹の矢が飛んでいくのと同時に、双方へと向けて正確無比な矢が飛んでくる。 「くっ、まずい‥‥」 鞘が咄嗟に弓を前に構え、神鷹が即射で迎撃をする。 迎撃のできた神鷹はなんとか被害を受けなかったが、反面動かないで狙撃をした鞘は致命傷、とはいかないがかなりのダメージを受ける。 しかし、それだけで終わってたまるかと言うように空鏑を放ち、耳を潰そうと狙う。 特殊な音を発しながら飛んでいくが、森林でかつそこまで大きな音の出ないのを考えると効果があったのかは分からない。 そして鞘は当てられた部分を摩りながら、後退していくのであった。 ●セリスと雲母 ちらりと相手の顔だけをみた雲母は先に森林に陣取っていた。 狩人として、此方の気配や容姿を悟られるわけには行かない。 だから先に陣取り本気で相手をする、それが最大の礼儀である、と。 「狩人とは中々・・・久しぶりの相手だ」 姿勢を秘低し、狙撃主として完全な動きをし、相手を待ち続ける。 そこに焙烙玉の爆裂音が響くと同時に動き出す。 少し歩いたところで、気配を感じ、一撃ぶっぱなす。だが確認はせずにすぐに移動をし次の獲物を探す。 そうしているとセリスと弓菜が対峙している所に遭遇する。 戦場では弱者からやられる。つまり自分の事。 どうにか別の方法で弓菜へ接近を試みた結果が今の状況だ。 死んだ振りをしていたが、あっさりと看破された、というだけなのだが。 「先程の言葉を覚えていますか?」 返事がもらえなかった「不射之射」 弓を置いて、弓菜のほうへと歩いていく。 「私を気迫のみで倒してみてください、私がそこまで行って平手打ちをしたら勝ちです」 場を自分の流れにし、弓菜のほうへと歩いていく。 「それは面白そうな事ねぇ」 先程とは違い、光の無い目と低い声でセリスを待つ。 セリスはその目と声に内心恐怖しながらも近づいていく。 弓菜は全く動かずに、何を考えているのか分からない感じではあるが、ほぼ目の前までやってくると、平手打ちをすべく手を振りあげ‥‥。 「甘いな、無駄な程に」 そういうと、セリスを盾にするように後ろに隠れる。 それと同時に盾にされてしまった、セリスの背中に一本の矢が突き刺さる。 「いい子だなぁ‥‥私の役に立つとは」 ぐったりとしたセリスを転がし、茂みの中へと消えていく弓菜。 確実な手ごたえがあったのか、矢を放った人物が現れる。 「チッ‥‥此方の気配を感じていたか‥‥」 がさがさと茂みから雲母があらわれ、セリスをぎらついた目で見つめる。 「向こうか‥‥後、何発かな」 すぐさま後を追うように雲母も茂みへと消えていく。 ●止めの一撃 弓菜は期待していた。 こいつらなら私が倒せるという事を。 焙烙玉の爆裂音が響き渡り、行動を開始する。 ‥‥まずは丁度狙い撃ちにされていた志士を一人落とした。 そしてその後ろにいるもう一人へ再度狙いをつけて矢を放つ。 しかし次の瞬間に此方に向かって瞬速の矢が肩を掠めていく。 やられた間際の一撃だろうか、気持ちの篭ったいい矢だ。と感じる。 「‥‥私は倒される、これこそ私が思っていた最後‥‥」 素早く転戦をし、次なる獲物へと向かっていく。 ‥‥私並の命中力を持ったのと場所を固定したのが一人‥‥。 茂みのせいで正確な場所は見られなかったが二連射をし、攻撃をする。 一人は確実に、もう一人は迎撃をしたようだ。 次の場所へ移ろうと動こうとした時に、頬を鏑矢が掠めていく。 大した音ではなかったが。聴覚が麻痺するには十分であった。 さらに移動し、残りの三人を仕留めるべく策敵を続ける。 ‥‥そして死んだ振りをした一人の少女を見つけた。 あっさりと立ち上がり、私に向かって何かを言ってきた。 甘い奴の考え方、戦場を知らない奴の考え方‥‥反吐が出る。 (甘ちゃんばかりだこと) そんな事を思っていると一つのぎらついた気配を感じる。 私と同じいくつもの戦場を抜け、本気で狙ってきている。 咄嗟にセリスを盾にし、その矢を防ぎ後退する。 ‥‥何分たっただろうか、二つの気配が私を襲う。 一つは先程のぎらついた気配、もう一つは変哲の無い気配。 どちらからも鋭い目線を貰い、萎縮した。 やられる、この私が? 望んでいたのに悔しい現実、だが‥‥望んでいた事。 そう思っていると‥‥迫り来る二本の矢が私の肩を貫く。 そうして、私の意識はそこで飛んでしまった。 ●全て終わり 結局、みなの説得虚しく弓菜は引退をした。 理由はいろいろとあったが、疲れた、といって装備を売ったお金を渡す。 それでも憑き物が取れたような顔であるのは間違いなかった。 「これで、私は戦いの螺旋から外れられます‥‥」 ゆっくりと空を仰いでいた弓菜は、今までに見せたことのない明るい顔で開拓者に礼を言うのであった。 |